248 名前:野狗 ◆NOC.S1z/i2 [sage] 投稿日:2010/05/04(火) 00:59:05 ID:uvDzssv6 [2/6]
249 名前:野狗 ◆NOC.S1z/i2 [sage] 投稿日:2010/05/04(火) 01:00:06 ID:uvDzssv6 [3/6]
250 名前:野狗 ◆NOC.S1z/i2 [sage] 投稿日:2010/05/04(火) 01:01:03 ID:uvDzssv6 [4/6]
251 名前:野狗 ◆NOC.S1z/i2 [sage] 投稿日:2010/05/04(火) 01:02:03 ID:uvDzssv6 [5/6]

 管理局出入りのカフェで、三人はお茶を飲んでいた。

「それは、フェイトちゃんの勘違いだよ」

 なのはは間髪入れずそう答える。
 
「確かに、ユーノ君は良いお友達だけど。なんて言うのかな……うん、お友達だし、魔法の師匠だし。
たくさん、たくさんお世話になってるしね、地球でのこととか、ヴィヴィオのこととか」

 だけど、それを言うのなら、フェイトも同じ。
 エリオやキャロのことでは、たくさんお世話になっている。
 それに、ハラオウン家に養子に行ってからも、直接間接を問わずに色々とユーノは助けになっているのだ。
 なにしろ、本人たちこそ決して認めないだろうが、ユーノはクロノの親友である。
実際、クロノからもフェイトに関する相談は受けていたのだ。

「本当に? なのは」
「本当だよ。私がフェイトちゃん嘘つくと思う?」
「それは……思わないけれど」
「だったら、これで解決だよ」
「でも、本当に良いの?」
「良いも何も」

 なのはは呆れたように苦笑する。

「私は別に、ユーノ君に恋愛感情はないもの」
「でも」
「それとも、フェイトちゃんは、私がユーノ君を好きな方が良いの?」
「え」

 フェイトの顔色がやや変わる。

「そ、それは」
「フェイトちゃんから、ユーノ君取っちゃおうかな」
「だめだよっ! なのは」

 勢いある言葉を浴びせられたなのはは、一瞬きょとんとして、そして笑い出す。

「ほら、フェイトちゃん。最初からそうやって正直に言わないと」
「なのはの意地悪」
「フェイトちゃんが素直に言わないのが悪いんですぅ〜だ」
「もうっ」

 拗ねるように横を向いたフェイト。その機嫌を取るように、なのははニッコリ微笑む。

「ほら、フェイトちゃん。今日ユーノ君は非番だよ」
「え。どうして知ってるの?」
「ヴィヴィオの学校のことで相談があったんだ。だけど、私は急ぎの用じゃないから、今日はフェイトちゃんに譲ってあげる」
「なのは……」
「フェイトちゃんのことだから、まだユーノ君に気持ちを伝えてないんでしょ?」
「う、うん……」
「だから、行ってきて」
「本当に……」
「しつこい子は、嫌われるぞ?」
「うん。行ってくる」
「あ、それから、ユーノ君に、今日の約束、ヴィヴィオの話のこと、キャンセルだって伝えてくれるかな」
「私が?」
「話し掛けるきっかけだよ」

 人差し指を建てて、イタズラっぽくチッチッチッと振ってみせるなのは。

「ありがとう、なのは」
「にゃははは、行ってらっしゃい。頑張ってね、フェイトちゃん」

 駆けだしていく親友の後ろ姿を見つめるなのは。

「気分悪っ」

 第三者。今まで何も言わずにじっとコーヒーを飲んでいた一人がようやく声を上げた。

「ホンマ、気分悪いわ」
「ごめんね、はやてちゃん」
「自分が何をしたか、わかってるんやね、なのはちゃんは」
「わかってるよ」
「いいや、わかってへん。なのはちゃんはなんにもわかってへん」
「わかってるよ」
「いいや」
「わかってるよ!」
「わかってへん、言うてんねんっ!」
「わかってないのは、はやてちゃんだよ!」
「わかりとうもないわっ! 好きな人諦めて親友に差し出すモンの気持ちなんか!」

 詰め寄るはやてに、なのはは一歩下がる。

「それがなのはちゃんの本当の気持ちなんか? 本当にユーノ君はただのお友達なんか!? 嘘や、嘘に決まってるやろ! 
フェイトちゃんかて、ホンマの所はわかってるわ!」
「……本当の気持ちだよ」
「ホンマに、ええんやな」
「何が?」
「言わせる気かい」
「はやてちゃんの言いたいことが、私にはわからないの」
「ユーノ君のこと、ホンマに諦めるんやな」
「諦めるも何も、私はユーノ君のことをそんな風に見たことはないよ」

 はやてが歯を食いしばるようにしてなのはを睨みつけていた。

「……わからずや」
「わかってないのは、はやてちゃんだよ」

 視線を逸らそうともせずに、なのはは言う。

「……なのはちゃんは大馬鹿や」
「うん」
「大馬鹿や」
「うん」

 はやてにもわかっていた。
 なのはもフェイトも、きっと同じくらいユーノが好きなのだと。いや、人を好きになる度合いに比べようなどない。
 二人とも、ユーノが好きなのだ。
 ただ、一つの違い。
 なのはとフェイトの違い。
 なのはには、ユーノがいる。
 フェイトには、ユーノしかいない。ユーノなら、フェイトのことを知っている。
クローンであろうと、プレシアの娘であろうと関係ないと言うだろう。
 もしかすると、クロノがいたのかも知れない。だけどクロノは義兄であり、さらにエイミィがいる。
 だから、なのはは言う。
 ユーノに対する恋愛感情はない、と。

 睨むはやて。その視線を甘んじて受け止めるなのは。
 やがて、視線を逸らしたのははやてだった。

「なのはちゃんは、アホや」
 
 弱々しく呟くと、はやてはその場を立ち去る。なのはは座り込み、フェイトを送ったときと同じようにその後ろ姿を見送っていた。
 ただ、その手は微かに震えている。
 十分ほどして、なのはも立ち上がった。
 三つにわけてあった伝票の内二つは既に持ち去られている。残った一つを手に取り、チップの小銭と料金分の紙幣を置いて出て行く。

 家に帰ると、ヴィヴィオがいた。
 挨拶を済ませ、夕食を作り、お風呂に一緒に入る。

「おやすみ、ヴィヴィオ」
「おやすみなさい、ママ」

 そういえば、今日はフェイトが来る日だったような気がする。
 ヴィヴィオは何も言わなかった。
 気にしていないのか。忘れているのか。それとも、何かに気付いているのか。

「ヴィヴィオ……?」
「なぁに、ママ」
「今日は、フェイトママの来る日だったっけ」
「……」
「ヴィヴィオ?」
「……フェイトさんは、来ないよ?」

 思わず、なのははヴィヴィオを抱きしめていた。

「ごめんね、ごめんね」
「どうしたの? ママ」
「ごめんね」

 なのはは泣いていた。
 諦めることができたはずだった。
 恨むことはないはずだった。
 自分にはヴィヴィオがいると思っていた。
 だけど、ヴィヴィオにもフェイトがいた。
 ヴィヴィオにもユーノがいた。
 自分は、二人をヴィヴィオから奪ってしまったのかも知れない。

「ごめんね」

 何で泣いているの?
 何処か冷静な自分が、泣いている自分に尋ねている。
 ああ。
 なのはは気付いた。

「ごめんね」

 私は、私に謝っているんだ。
 ごめんね、なのは。
 私は、貴方からユーノを奪ってしまった。
 ごめんね。

 許す。
 なんて、言えないよね。

 笑いが込み上げてくる。
 だけど、なのはは泣いていた。


著者:野狗 ◆NOC.S1z/i2

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