751 名前:ウーノと料理 [] 投稿日:2010/01/18(月) 00:49:07 ID:IlA9038g


――ウーノと料理――


「…・・・おかしいわね、また失敗だわ」

ウーノは通算何十回目かになるつぶやきと共に料理を作る手を休めた。

主であるスカリエッティの生活スタイルは健康的なそれからは程遠い。
研究に没頭するあまりに寝食を忘れてしまうことは日常茶飯事であるし、
そもそもその寝て食べるという行為さえほとんど自分の机のまわりで済ませてしまうので不健康なことこの上ない。
ベッドではなくイスで眠り、食事はモニターを眺めながら携帯食料やサプリメントを口にする程度、といった具合である。

数週間前に起動されたばかりのウーノだったが、この問題にはすぐに気付き、
既に「もう少し健康的な生活をしてください」と何度も苦言を呈している。

だが肝心のスカリエッティ自身が、
「なにいざとなれば生体ポッドに入れば済むことじゃないか」と言って相手にしてくれない。
ならばせめて食事だけでもまともものを、と思い主が眠っている隙に料理に励んでいるのだが・・・・・・

「レシピ通りに作ってるはずなんだけど、何か物足りないのよね」
そうこぼしながら、自分で作った煮物を口に運ぶ。

ドクターに食べてもらうからには完璧なものを、
と考えるウーノはここ最近、スカリエッティが眠っていることが多い午前中に、
食堂で料理を作っては一人で食べるのが習慣になりつつある。

高級レストラン向けの調理ロボットのプログラムを幾つかアレンジして、
自分自身にインストールしてみたものの、どうしても満足のいく料理が作れない。

自分の味覚センサーから得られたデータは何の問題も無いと太鼓判を押すのだが、
ウーノはどうしても納得できない。
念のため自分の味覚センサーの検査も行ったが、何の問題も無かった。
そう何も問題は無いはずなのである。
それなのに何故かどうしても満足することができない。

プログラムに何か問題があったのか、それとも自分の手際に問題があるのか。
いっそ一流のシェフの料理するところを実際に見て研究しようか。
などなどいつものように、箸を動かしながらあれこれ頭を悩ませていると、
スカリエッティが不意に食堂に現れた。

「おはようございますドクター。この時間に食堂にいらっしゃるなんて珍しいですね?」

「あぁおはようウーノ。なに目覚めのコーヒーを飲もうと思ったのだが
研究室のコーヒーを切らしてしまってね。
何か飲み物はないかと思ってここまできたのだが……ウーノ、それはなんだい?」

「その……ドクターにきちんとした料理を食べて頂こうと思って…・・・
料理を練習しているんです」

「ほう。どれ一口味見させてもらうよ」

「あ! いけません! まだ練習中で味の方はっ……!」

あたふたと慌ててウーノはスカリエッティを止めようとするが、
スカリエッティは意に介さず無造作に一片煮物をつまんで口に運び、
そして珍しく目を丸くする。

「……っ!!」

「申し訳ありませんドクター、お口に合いませんでしたよね?」

「とんでもないよ、大したものだウーノ。
私は生まれてこのかたこんなに美味しいものを食べたのは初めてだ」

「へ?」

「私を疑うかい? これでも何度も付き合わされた会食のおかげで舌は肥えていると自負しているのだが」

大仰に返すスカリエッティに訳が分からないという顔をしたウーノ。

「味付け、歯ごたえ、火の通り加減、どれをとってもパーフェクトだ。
これがこれから毎日食べられると思うと非常に楽しみだ。期待しているよ、ウーノ」

「は、はい。ありがとうございます」

そう言ってスカリエッティは食堂のコーヒーポットを掴むと、
どこか納得のいかない顔をしたウーノを残して研究室へと戻っていった。

「ククク、いくらプログラム通りとはいえ、いやプログラム通りなのに、
クラナガンの一流レストランの料理よりも美味しいと感じるとはね。
実に興味深い。あながち俗説も捨てたものではないのかもしれないね。
最高のスパイスは作る側の想いなのかそれとも食べる側の思いなのか。
いやそれ以前にそもそも私やウーノに想いなど存在するのかどうか。
ククク、本当に興味深い問いだ」

廊下を歩きながらぶつぶつ呟くスカリエッティの頭の中は、
既に料理を離れて別のことで一杯だった。
ナンバーズの後期組が感情豊かになるよう調整されたのは、
この時の経験がきっかけかもしれないし、そうではないかもしれない。

ただ、ウーノが自分の料理の腕に自信を持てるようになったのは、
食堂が大切な妹達で賑やかになる、まだもう少し先のお話。


著者:101スレ751

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