732 名前:チンクの夢、それは厚い靴底の下[sage] 投稿日:2008/09/21(日) 22:12:43 ID:BP99R2L2
733 名前:チンクの夢、それは厚い靴底の下[sage] 投稿日:2008/09/21(日) 22:15:44 ID:BP99R2L2
734 名前:チンクの夢、それは厚い靴底の下[sage] 投稿日:2008/09/21(日) 22:17:01 ID:BP99R2L2
735 名前:チンクの夢、それは厚い靴底の下[sage] 投稿日:2008/09/21(日) 22:18:23 ID:BP99R2L2

チンクの夢、それは厚い靴底の下

スカリエッティとナンバーズが日々を過ごす地下基地。広大な敷地面積を有するそこには施設内に様々な部屋がある。
ガジェットの自動生産ラインから戦闘訓練室や倉庫などなど、数え上げたらキリがない。
そして、その中にはナンバーズ一人ひとりに宛がわれた個室などもある。
11人(ドゥーエ除く)の部屋は個人の自由で丁度や内装を弄られており、それぞれに個性的な部屋になっている。
そこでは一人一人が自分の趣味や嗜好に合わせたライフスタイルを送っている……この5番めの姉もまたそうであるように。


「ふふ……ようやく来た……待ち侘びていたぞ……これで姉も……ムフフ♪」


チンクは薄暗い部屋で一人、今しがた郵便で届いた荷物を眺めていた。どうやら何か通販で買い物したらしい。
しかし彼女の表情は心からうれしそうにニンマリと笑っている、一体何がそんなに面白いのやら? とにかく彼女の心を満たすようなモノらしいのは確かだ。

これはと五番目の姉のオバカで可愛らしいとある騒動の記録である。





翌日の朝、スカリエッティの施設内をノーヴェ・ウェンディ・セインの三人が歩いていると後ろから声をかけられた。
振り向けばそこにはちっちゃな五番目の姉が立っていた……僅かな違和感と共に。


「ノーヴェおはよう!」
「ああ、おはようチンク……姉?」
「ん? どうした?」
「いや……チンク姉なんか……その背が……」
「ふふん♪ 分かるか? 実は少し大きくなったみたいでな」


チンクはその小さな胸をドンと叩き自慢げに笑う。
確かに彼女の背丈はいつもよりも僅かに高くなっていた、これが事実ならば驚くべき事である。
しかし妹三人が注目したのはチンクの背丈の事よりも彼女が履いている靴だった。

それはぶっちゃけて言うなら……それは思いっきり底が厚かった、そりゃもう摩天楼の如く。

これこそ、いわゆる一つのシークレットブーツである。
気付くなというのが無理な話だが、どうやらチンク本人は隠しているつもりらしい。
無論、妹三人はこの空気を察してなんとか調子を合わせた。


「そ、そうなんだ、凄いねチンク姉(ここで言ったらチンク姉が傷つくなぁ……なんとか合わせておこう)」
「す、凄いっすねぇ、流石チンク姉っす(うわぁ、これでばれてないと思ってるって……こいつぁ相当な天然っすねぇ)」
「チンク姉いつも牛乳飲んでたもんねぇ(チンク姉テラアホスwwww)」


三人はそれぞれ笑顔で姉の話に合わせて返事をする。
ノーヴェなどかなり引きつった顔になっていたが、チンクはよっぽど嬉しいのかまるで気付いていない。
完全に自分の嘘がばれていないと思い込んでいる。


「ふふ、そうかそうか♪ よし! では早速他のみんなにも教えてこよう!」

「ちょ! チンク姉!?」


ノーヴェが止めようとしたが、チンクは彼女の声など聞かず瞬く間に駆けていった。
よほどこの事を姉妹に自慢したいのだろう、バレバレだとも気付かずに。





「やあトーレ、クアットロおはよう」
「ああ、おは……よう(ちょ……なんだこの靴……底厚っ)」
「あらあらチンクちゃ〜ん、なんだか今日は見違えたわねぇ♪(ぶっ! なにこの子! ばれてないと思ってるし、マジバカ過ぎっしょwww)」
「ふふ……分かるか? 実は驚くべき事に身長が伸びたのだ」


自慢げに笑うチンクだが、トーレは哀れんだような複雑な表情を、クアットロはどす黒いものを隠して慈母のような笑みを浮かべる。
先ほどと同じく二人に自分の背が伸びたと告げるチンクだが、コレを見かねたトーレはとりあえず真実を告げようとした。


「なあチンク……お前その靴、ムグッ!」
「凄いわねぇ〜チンクちゃん、お姉ちゃん見直したわ〜♪」


突っ込みを入れようとしたトーレの口をクアットロは即座に塞いだ。
いきなり口を塞いだクアットロにトーレは訝しげな視線と共に念話を送る。


『おいクアットロ、何のつもりだ? ここは教えてやるべきだろ、姉として』
『あらあらトーレ姉さま〜、こんな面白そうな事に口を挟むなんてあんまりじゃないですか〜。ここは黙って見ていましょ♪』


こうして3番と4番の姉からも見事にシークレットブーツの秘密(まったく秘密になっていないが)はスルーされた。





「ああウーノ、ドクターおはよう!」
「ええチンク、おは……よう?(ちょ……これは……)」
「ああおはようチンク(む? この靴は……)」
「ふふ、実は私は最近身長が伸びたようなんですドクター」
「え? 何を言ってるんだいチンク、君の靴、ブベラッ!」


スカリエッティがチンクの靴を指摘しようとした瞬間、ウーノの腕が眼に見えぬ程の速度で動き彼の顔面を捉えた。
手首を用いた当身技、世に虎拳と呼ばれる技である。
ベルカ無双コガン流中目録術許しのウーノの虎拳、無刀であろうと凶器となる拳が凄まじい破壊力でスカリエッティの口を塞いだ。


「すいませんドクター、手がすべりましたわ♪ でも、それは凄いわねチンク。おめでとう『ダメですドクター! そんな事言ったらチンクが泣いちゃうじゃないですか!』」
「あ……ああ、凄いなチンク『わ、分かったよ……だから痛いのはやめて』」


スカリエッティに向かって菩薩の笑みと阿修羅の気迫を浴びせたウーノは念話越しにしっかりと言い聞かせる。彼はそのあまりに凄まじい気迫に額に汗をたらして頷くしかなかった。
そしてこの反応にチンクはとうとう本格的に自分の靴の事がばれていないと判断してしまった。

これをなんとはなしに察したウーノはとりあえず緊急姉妹会議を開く事を決意する。


『これはいけないわね……みんなを集めないと……』





「という訳で、ナンバーズ緊急会議を始めます」
「あの、ウーノ姉……一体何が」
「よく聞いてくれたわねディエチ、実はチンクがその……大変底の厚い靴を履いてるんだけど……」


ウーノはディエチの質問に言葉を濁しながら説明しようとする。
そのまんま言ったらチンクに可哀想だと考える優しい姉心、正に長女の鏡であった。
しかしそこにナンバーズのクソメガネことクアットロが口を挟んだ。


「あらぁ、ウーノ姉様〜、普通にシークレット履いてるって言えば良いじゃありません?」
「ちょ! クアットロ! そんな事言ったらチンクが可哀想じゃない」
「だって事実ですしぃ〜」
「ダメよそんな事言ったら! お姉ちゃん怒るわよ!? みんなも良い!? チンクに会ってもそういう事言っちゃダメよ? 分かった?」


ウーノはクアットロにプンスカ怒って注意すると、他の姉妹一同に向き直りしっかりと念を押す。
怒ったお姉ちゃんに逆らう事などできぬ、ナンバーズは長女が絶対の封建社会であり、少数の優しいお姉ちゃんと多数の妹によって構成されるのだ。
妹達はウーノ言葉にただ大人しく頷いた。

だが運命は残酷にもこの優しさを裏切る事となる。





同時刻、施設内部のとある通路。


「おお、チンクか、久しいな」
「これは騎士ゼスト、ええお久しぶりです」


チンクに声をかけたのはスカリエッティと協力関係にある男、ゼスト・グランガイツと彼の同伴者であるルーテシアとアギトだった。
普段あまりスカリエッティと関わりたがらない彼がここに来ている事にチンクは僅かに疑問を感じて首をかしげる。


「今日はどうなさったのですか? ここに来るのは珍しいですね」
「ああ、実はデバイスの整備を頼みにな……ところでチンク……お前……」
「ふふ、気がつきましたか? 実は私最近身長が……」


チンクが自信満々に見栄を張ろうとした刹那、無常にも純真で幼い突っ込みが炸裂した。


「あれ? その靴凄く底が厚いね」


チュド〜ン!

ルーテシアの簡潔にして痛烈な言葉がチンクの心に爆弾投下。

だが事態はこれに終わらない。


「ゼストはこういう靴知ってる?」
「ん? ああ……これはシークレットブーツという」


チュド〜ン!!

すっかりゼストにもばれてた、見栄を張ろうとしたのが凄まじく恥ずかしい。
だがトドメにアギトからも一言爆弾投下。


「小さいやつが履いてタッパをごまかすんだぜルールー」


チュド〜ン!!!

チンクの心は完全にへし折れた。





「ウーノ……」
「へ!? あ、あらチンク……どうしたの?」


ウーノが姉妹を集めて緊急会議を行っている部屋にフラリと小さな影が現われた。会議で話題のちっちゃな姉ことチンクである。
彼女の存在に気付いたウーノは姉妹一同にさっと目配せして先ほど会議で説明した事を促した。


「じ、実はみんなにもチンクの背が伸びたって話してたのよ。ね? みんな?」
「はいウーノ姉さま」
「凄いねチンク姉」


ディードとディエチがウーノの鋭い眼光に脅されて早速言い含められた事を復唱する。
だが事実を知ったチンクにはあまりに見え透いた慰めだった。


「うるさい!」
「ど、どうしたのチンク?」
「もう知ってるんだ! 皆して私の嘘に気付いてたんだろう!!」


会議終了一分で露呈、あまりに儚い優しい嘘と慰めであった。


「え!? ちょ、なに? もしかして……」
「知ってるとも!」
「お、落ち着きなさいチンク……お姉ちゃんはチンクの事を思って」
「うるさいうるさ〜い! もう皆なんか嫌いだ〜!!」


チンクは涙で潤んだ瞳をグイと手で拭うとそのままウワ〜ンと泣きながら走り去っていった。
その後、部屋の隅で体育座りをしてのの字を書き続けていじけるチンクをみんなで必死(一部の除く)慰めたとかそうじゃないとか。

終幕。


著者:ザ・シガー

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