[237] ブレイクライナーノーヴェ sage 2008/03/02(日) 10:56:36 ID:RdmAU+fi
[238] ブレイクライナーノーヴェ sage 2008/03/02(日) 10:59:24 ID:RdmAU+fi
[239] ブレイクライナーノーヴェ sage 2008/03/02(日) 11:02:31 ID:RdmAU+fi

 緑色の液体に満たされた円筒状のガラスケースの中で、ナンバーズの
五女、チンクが眠っている。彼女の体はところどころ傷だらけで、時々
痛がるように身を捩る。それを、ナンバーズ九女、ノーヴェが心配そう
な目で見つめていた。
 ノーヴェが最も敬愛する姉、チンクが戦闘機人タイプゼロによって倒
されたのだ。幸い、命は取り留めたものの、大きなダメージを負い、全
快までには相当の時間がかかるとの事だ。治療用のカプセルの中で回復
に努める姉の姿を眺めながら、ノーヴェはふつふつと怒りをたぎらせる。
だが、ノーヴェは悩んでいた。
 認めたくはないが、タイプゼロは強い。奴のIS「振動破砕」は戦闘
機人にとって天敵とも呼べる能力だ。接近しなければ使えないのが弱点
と言えなくもないが、接近せずに戦った姉でさえあの様なのだ。接近戦
にしか活路を見出せないあたしが戦うとなれば、まず勝ち目はない。
って言うか、おかしい。そもそもあたしのIS「ブレイクライナー」は
奴の能力の丸パクリだ。空中に道を造る事で可能とする限定的な空戦と、
接近戦での格闘技術があたしの能力。だが、奴はそれとは別にISを持っ
ていた。一体どういう事?
 研究室の片隅で、ノーヴェは1人首を傾げている。
「HAHAHA。お悩みのようだね、ノーヴェ」
 主人公補正という理不尽に頭を悩ませるノーヴェに、白衣を着た男が
語りかけた。ノーヴェが背後からの声に振り向いてみると、その男は彼
女らの親であるDr.スカリエッティその人であった。彼はいつもなが
らの気持ちの悪い笑みを浮かべている。
「そんな事もあろうかと、君に新装備を追加しておいたよ」
「ほんとか、ドクター!?」
「新装備」――ああ、なんと言う甘美な響きか!
 ノーヴェは期待に満ちた目でドクターを見つめる。ドクターは嫌らし
い笑みをノーヴェに返す。
「右の奥歯にスイッチがあるだろう。それを押してみたまえ」
 奥歯のスイッチ、という事はアレか。もしかしてアレなのか。期待し
ていいんだよな、ドクター。アレだったらマジで簡単にタイプゼロに勝
てんじゃね。っていうか、トーレ姉にも勝っちまうかも。
 年頃の娘の様にドキドキする胸の高鳴りを抑えながら、ノーヴェは舌
で奥歯のスイッチを探り当てる。確かに右の奥歯に今までにない固くて
冷たい感触がある。
「それでだね、奥歯のスイッチを押すと――」
 気の逸ったノーヴェは、ドクターの説明を聞き終える事無く奥歯をか
み締める。
「――目から醤油が出る」
「って何でだよ!」
 目からびゅーびゅー醤油を噴出しながら、健気にもノーヴェは突っ込
みを入れた。
「っていうか目ぇ痛てぇ!」
 あまりの痛みにその場を転がり、床を醤油まみれにするノーヴェ。ド
クターはそれを見ながら笑っている。
「HAHAHA。醤油を切らした時などに便利だろう」
「馬鹿かぁ! 飯食う度に目から醤油出す奴のどこが便利だ!」
 ようやく目から噴出す醤油が治まり、ノーヴェが立ち上がった頃には
周囲もノーヴェのスーツも醤油まみれだった。しかも、数分間の醤油責
めによって、あるいは怒りによって目が真っ赤に充血している。真っ黒
な彼女と対照的に、要領よく醤油の飛沫を回避したドクターの白衣は、
未だ純白も守ったままだった。それが、彼女の怒りのボルテージをまた
いくらか上げた。
 ドクターはこほん、と咳払いをして仕切り直す。
「どうやらお気に召さなかったようだね」
「当たり前だろ」
 鬼の形相で睨みつけるノーヴェに、ドクターは心なしか残念そうであ
る。が、一転して表情をまたいつもの嫌らしい笑みに戻した。
「そう言うと思って、もう一つ新装備を追加しておいたよ」
「今度はちゃんとしたやつなんだろうな。っていうか、そう言うと思っ
てたんなら初めから変な装備をつけんなよ」
 ノーヴェの突っ込みも気にせず、ドクターは続ける。
「君のガンナックルを見てみたまえ」
 ノーヴェは言われるがままに右腕に視線を落す。しかし、特に変わっ
た様子はない。
「いつもと変わってねえみてえだけど?」
「手首の裏側を見てみたまえ、少し変わっているはずだからね」
 くるりと手首を回す。そして、「それ」を見たノーヴェは目を見開く。
ガンナックルの裏側には赤いボタンがついている。しかし、気になるの
が、ボタンには白いドクロのマークがプリントされている事だ。果てし
なく嫌な予感がする。
「なあ、押さなきゃダメ?」
「タイプゼロに勝ちたいんだろう?」
 ぐ、と言葉に詰まるノーヴェ。それを言われると弱い。
「ああ、気をつけてくれたまえよ。そのボタンを押すと――」
 ノーヴェは意を決してボタンを押した。
「――醤油が出る」
「だから、何で醤油!?」
 ガンナックルの発射口からはじょばじょば醤油が出ている。ノーヴェ
は夢が溢れる愛用の武器を、何だか切ない目で見つめている。
「それから、醤油を出す機能をつける為にエネルギー弾の発射機構はオ
ミットしたよ」
「馬鹿だろ、アンタ! あたしはこれからどうやって戦えばいいんだよ!?」
「無論醤油で」
 何を当たり前な事を、と言うすまし顔のドクターに、ノーヴェはまた
腹が立って地団駄踏んだ。
「これも気に入らないか。全く、我侭な子だね、ノーヴェ。これ以上、
一体どこをどう改造したら良いというのかね?」
「普通に改造すれば良いだろ! 大体何で醤油なんだよ。他にあるだろ?」
「HAHAHA。私が好きだからに決まっているだろう。調味料の王様
だよ、醤油は」
「アンタは馬鹿の王様だよ!」
「馬鹿とは失敬な。そのガンナックルには体積以上の醤油を搭載する為
にベクタートラップ・システムという新技術が――」
「――知るか、そんな事!」
 無限の欲望というものは人を馬鹿にしてしまうのだろうか。ノーヴェ
には目の前の人が本当にやる気があるのか疑わしい。この人がいなけれ
ば、あるいは万事うまくいくのではないかという気さえしている。って
いうか、何であたし達は管理局を襲ったりしてたんだっけ?
 ノーヴェはもう全てがどうでも良くなってきていた。
「もういい。タイプゼロはあたしが1人でどうにかする。アンタはもう
何もするな」
 ドクターに背を向け、1人この場を去ろうとするノーヴェ。その胸中
には唯一の飛び道具であるところのガンナックルを失った絶望感で占め
られている。もはや完全に接近戦で戦うしかなくなったのである。もし
タイプゼロとこのまま戦う事になれば、振動破砕の餌食だろう。だが、
ノーヴェの辞書に撤退の文字はない。たとえ負けるとわかっていても、
姉の無残な姿を目にしてしまうと逃げるなどという選択肢はなくなって
しまう。
 悲壮な決意に身を固めるノーヴェの背に、ドクターは最後のアドバイ
ス(?)を送る。
「1人で行く気かね? まあ、それもいいだろう。その前に一つ良い事
を教えてあげよう」
「黙れ。アンタの戯言はもう十分だ」
「そう言ってくれるな、ノーヴェ。実はもう一つ秘密兵器があるのだよ。
ジェットエッジの踝の所を見てみたまえ」
 ノーヴェが足元に視線を落すと、ジェットエッジの踝部分にはペット
ボトルのキャップの様な赤いつまみがついていた。またもや、つまみに
は白いドクロがプリントされている。何故この人は人を意味もなく不安
がらせるのだろうか。ノーヴェは怒りを通り越して呆れた。
 何だかんだで自棄になっていたのかもしれない。もうどうにでもなれ、
とノーヴェはつまみを回した。その瞬間、ジェットエッジの排気口から
醤油が噴出す。
「やっぱり醤油かよ!」
 ジェットエッジから噴出す醤油を見て、ドクターは実にご満悦だった。
「ああ、そうそう。醤油を噴出す機能をつける為に、ジェット機能と側
面タービンの回転機能をオミットしたよ」
「またかよ! なんて事すんだよ! これじゃ醤油が出るだけの靴じゃ
ねえか!」
 これではISなしの接近戦ですら勝ち目がない。もはやノーヴェは涙
目だった。
 そこで、ウェンディが部屋に入ってきた。
「あ、やっぱりここにいたっスか、ノーヴェ。っていうか、臭っ。何の
臭いっスか、これ?」
 ウェンディは部屋中にむわっと広がる醤油の臭いに顔をしかめた。次
いで、異様な姿のノーヴェに気づく。床もノーヴェも醤油まみれ、しか
も彼女は充血した目に涙をためている。そして、ドクターはいつになく
上機嫌。途中から来たウェンディには状況がさっぱり飲み込めなかった。
「どうしたっスか、ノーヴェ、その格好は?」
「うるさい。どうでもいいだろ、そんな事」
「そう邪険にしなさんなって。――っとぉ?」
 醤油まみれでツンケンしているノーヴェに歩み寄ろうとしたその時、
ウェンディは床にぶちまけられた醤油で足を滑らせた。バランスを崩し
た瞬間、反射的にノーヴェの頭を掴む。上から頭を押さえつけられたノ
ーヴェは奥歯をかみ締めてしまう。目から醤油を噴出し、床に転がるノ
ーヴェ。つっかえ棒を失って一緒に転び、頭を床に強か打ちつけて気絶
するウェンディ。転がるノーヴェの回し蹴りを食らって昏倒するドクター。
一瞬にして地獄絵図が出来上がった。
 眼下に広がる惨状を眺めながら、治療用カプセルの中にいるチンクは
呆れ顔でため息した。こいつらに任せて本当に大丈夫なんだろうか。て
いうか、こいつらすげえうるさい。
 その数日後、ノーヴェはやけくそになって醤油を武器に戦いを挑み、
ボコにされましたとさ。



著者:57スレ234

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