835 名前:ヴィータちゃん魔法少女症候群 [sage] 投稿日:2010/12/11(土) 20:10:35 ID:pL.2LlhU [2/4]
836 名前:ヴィータちゃん魔法少女症候群 [sage] 投稿日:2010/12/11(土) 20:11:22 ID:pL.2LlhU [3/4]

ヴィータちゃん魔法少女症候群


 これは今は昔、まだ機動六課も存在しないどころか、八神家の面々となのは達が出会うより前の話である。
 当時、ヴィータはある事が気がかりだった。
 それは自身の防護服、つまりは騎士甲冑についてだった。
 何故あんなにもフリフリでヒラヒラなのだろう?
 八神はやての元に訪れてより、ヴォルケンリッターの騎士甲冑とははやてが考案したものに変更されている。
 基本性能はかつてとそう大差ないが、色々と本を見て考えられたそれはデザイン面においてはやてなりの熟慮がある。
 例えばシャマルはいかにも落ち着いた雰囲気の彼女に合う、ゆったりとしたロングスカートや袖のデザインをしているし。
 シグナムは剣の騎士らしく足の動きを妨げない前の開いたスカートに篭手の存在などから、動きやすさが優先されているのが垣間見える。
 ザフィーラは屈強な体躯の男性らしく露出した肩から発達した三角筋が覗く男性的なものだ。
 ではヴィータはどうか。
 それがなんとも……少女的である。
 フリフリヒラヒラしたスカート、袖や腰回りにあるリボン、挙句の果てに帽子に縫い付けられたのろいうさぎである。
 まあのろいうさぎに関してはぬいぐるみが好きなので良しとしよう。
 だがこの全体的なデザインは何とかなるまいか。
 と、ヴィータは常々思っていた。
 機能的には何の問題もない、ないのだが……これはいさささか、可愛すぎる。
 考えてもみて欲しい、ヴィータは鉄槌の騎士なんてごっつい二つ名を有しているのだ。
 使うデバイスのグラーフアイゼンだってごつい、なんせでっかい鋼鉄のハンマーである。
 それがこんな、いかにも女の子っぽい服とは。


「やっぱり、似合わないよな」


 八神家の居間、ソファの上にごろりと横になっていたヴィータはそう呟いた。
 その声を他に聞いた者はいない。
 はやては買い物、シグナムは剣道、シャマルはザフィーラを散歩に連れて行っている。
 一人お留守番をしていたヴィータは、誰もいない居間で静かに思索を巡らしていた。
 内容は先だっての記述通り、自分の騎士甲冑についての不満である。
 アレはおかしい、鉄槌の騎士は何度もそう考えた。
 思うや否や、ふともう一度確かめたくなった。
 よっこいせ、とソファから身を起こし、ヴィータは首に下げていたペンダントを掴む。
 待機形態のグラーフアイゼンである。
 使い手の意思と共に鉄の伯爵の名を持つデバイスは起動、閃光と共に防護服を展開した。


「むう……」


 ふわりと舞う赤の衣に、ヴィータの頬が少し紅潮した。
 やはりこの服は……少し可愛すぎやしまいか。
 フリル付きのスカートにあちこちに配されたリボン、まるで少女趣味の塊である。
 それに子供っぽい。
 自身の幼児体型に若干のコンプレックスを持つヴィータとしては、不満を隠せない。
 この衣装を考案した時、はやてはかわいいとか似合うとか言って褒めてくれたが、しかし……。


「よし」


 と一声。
 ちっちゃな騎士はより客観視して確かめようと居間の壁に掛かっている大きな鏡の前に行く。
 てってこてってこ、小さな足が八神家のフローリングの上を移動。
 大人一人分の背丈はあろうかという姿見に、紅色の服を纏った愛くるしい女の子の姿が映る。


「ぅ……」


 自分の姿を改めて確認し、ヴィータのほっぺがりんごみたいに赤くなった。
 何だよこれ、あたしこんな服きてんのか。
 と、あまりにも女の子っぽすぎる服装に羞恥心が大いに刺激された。
 だが恥じらいと共にこみ上げる別の感情もあった。
 それは、形容するなら喜びだろうか。
 確かに少女としてはいささかがさつで攻撃的とも言える性格のヴィータであるが、しかし女の子である事に変わりはない。
 そして、女の子という生き物はその悉くが本質的に可愛いものを愛するものなのだ。
 個人差はあれど、その本質は絶対的である。
 無論ヴィータとて例外ではない。
 騎士としての矜持や羞恥心の殻の下に隠されていた乙女心が、今萌芽の時を迎えた。


「こ、こんな感じ、かな……」


 長いスカートの裾を軽くつまみ、くるっと回ってみる。
 回転の慣性に踊るスカートと長い赤毛の三つ編みは、正に可憐と呼ぶにふさわしい。
 鏡面が見せ付ける自身のその姿に、とうとうヴィータの顔が綻んだ。
  

「えへへ……可愛いな、この服」


 はちきれんばかりの眩い笑顔を浮かべ、フリルの裾をそっと撫でて満足げにするヴィータ。

 もはやそこに鉄槌の騎士と呼ばれた戦士はいない。
 いるのはただ、愛らしい服に可憐に喜ぶ女の子だった。


「なんだかお姫様みたいだな……って、あれ……?」


 だが、少女の笑みはそこで凍りついた。
 視界の隅に見覚えのある顔。
 紛う事なき自分の家族が、車椅子にのった女の子が、八神はやてがそこにいた。
 そしてはやての手にはある物が握られていた。
 映像を記録する為の家電製品、デジカメである。
 そしてはやての手にしたデジカメは、冷徹なまでに音を立てた。
 カシャッ、と。
 死刑宣告に等しき音色と共に、ヴィータの笑顔とスカートの裾をつまんだ女の子的ポーズは永遠に記録される事となった。


「ななな、なにやってんだよはやてぇー!!」

「え、あ、そのごめんな。あんまりヴィータがかわいかったもんやからつい」

「つい、じゃねーよ! て、っていうか一体どっから見てたんだよぉ!」

「こんな感じ、かな、ってあたりやろか。でも別に気にせんでええやん、かわいいし似合っとるよ?」

「は……は……」

「は?」

「はやてのばかぁ〜!」


 そうしてヴィータは涙目になって家を飛び出して行った。
 無論、服はそのままであった。

 彼女がしばらく、かわいいお洋服を着た女の子としてご近所の話題に上がった事は言うまでもあるまい。


終幕。


著者:ザ・シガー

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