542 名前:奥さんと僕 [sage] 投稿日:2011/10/17(月) 00:03:57 ID:Ddutau.2 [1/4]
543 名前:奥さんと僕 [sage] 投稿日:2011/10/17(月) 00:05:25 ID:Ddutau.2 [2/4]
544 名前:奥さんと僕 [sage] 投稿日:2011/10/17(月) 00:06:29 ID:Ddutau.2 [3/4]

幼女が
幼女で
幼女です。

奥さんと僕 2



ちょこんと椅子に座る少女は愛らしかった。まるで玩具の人形のように彩られ、煌びやかさを持ち合わせている。
やはりというか、大層な衣装を着ている。ユーノはこれまでの話を再確認した上で身内に良い意味でも、
悪い意味でも嵌められた事を大まかに認識する。気付けば、というよりもいつの間にか後ろにいた筈の連れもいなくなっていた。
入口に突っ立ったままのユーノは、少女と目が合う。

気まずさと僅かな居心地の悪さを感じて逸らす。
そして中へ。彼もまた、やたらと重い衣装をずりずりと引きずりながら、手ごろな椅子に腰かけた。
一息つく。

「僕はユーノ・スクライア。名前を教えて頂けますか?」

丁寧に尋ねると、少女は臆病さを出すでもなく。
本当に小さな好奇心を垣間見せた。

「キャロ・ル・ルシエです」

「よろしく」

「あ、はい……」

握手の手を差し出すと、袖に隠れていた小さな手がそっと姿を見せ掌に触れる。
握ると、まだ小さく柔らかい手だった。1、2とシェイクハンドを交わすと離れる。
向けられる眼差しに、やはり臆病の色はない。
だが、僅かな戸惑いと好奇が折り混ざった妙な色合いを見せていた。

「キャロは」

一度言葉を止める。
溜める。

「はい」

「今日はどういう日か聞いてる?」

そう尋ねると疑問の色が僅かに浮上した。

「私の、結婚式と……」

確認するように答えてくれた。
ユーノも確信を得る。

「そっか」

相手の名前は尋ねるまでもなく自身だろう。スクライアの新郎が着る衣装を纏う以上99.9%そうだ。
実はW結婚式でユーノさんのお相手はレジアス中将です! なんてサプライズはいらない。欲しく無い。
色んな鬱憤を溜めた吐息を、キャロに気付かれないように一つ落とした。
若干、憂鬱だった。

「ユーノ、さん……?」

「ああ、いや。ごめんね」

眼鏡の下の眉間に指を伸ばして揉みほぐしていると、黙っていたからかキャロが首を傾げた。

「大丈夫」

安心させるように笑顔を作る。
笑顔は万国共通の優しいポーカーフェイス。
便利な嘘。

「(歳幾つなんだろうなぁ……)」

そんな事が脳裏をよぎった。
どういう事情があって、何故キャロが結婚をというよりも先にまずそれだった。
9つか10辺りだろうか。特殊な雑誌に掲載されていそうな年頃だ。俗にロリコンと呼ばれる連中が
喜びそうなキャロだが、ユーノにしてみればベースボールで敬遠をされたといってもいい。
ストライクゾーンには微塵にも入っていない。むしろボーグをもらい「君の父上がいけないのだよフフフ」と
嘲笑された上デッドボールをもらった気分だった。

歳の差。
約10。

如何ともし難かった。
だが、複雑そうな事情あれどこの唐突な結婚をとりやめにしようとも思わなかった。
確かにユーノにとって、今日は「話を聞くだけ」の予定でありいきなり結婚式なぞ想定外もいい所だが
スクライアの事情
ルシエの事情
様々なものが絡み合った現状を無理やり千切ろうとは思わない。
確かにキャロというまだ小さい子が奥さんというのは驚いたが、瑣末な話だ。
そう自分の中で割り切る事にした。
家族は家族だ。
呪文のように唱える。

「…………………」

キャロはユーノを見つめたまま何も言わなかった。
時間が過ぎると、二人はかなりサイズの大きく特殊な作りをしたゲル(テント)に移動する。
ユーノはユーノで、スクライアの関係者にサプライズで済まなかった、と笑って肩を叩かれる。
笑って全てを流した。
だが、それを他所にル・ルシエ側を見ていると妙な雰囲気が流れていた。
スクライアの人間達を見ればさほど不自然ではないが、ルシエの人間達はどうしても、へたくそな笑顔にしかみえなかった。
この結婚式がどういう成り立ちなのかなんとなく裏がありそうだ、とユーノは思ったが黙って笑顔で式を享受した。
ついでに一口だけ酒を飲み、建前の気分を良くして過ごした。

ささやかな宴を適度に楽しみ、気付けば夕刻が過ぎ日が落ちると暗くなり始めていた。
簡素な式も終り、キャロはスクライアに連れて行くという話だった。
容易な話だ。

ユーノは戻る。
仕事場へ。
キャロを連れて。

「…………………」

「荷物、そこ置いちゃっていいよ」

「あ、はいっ」

暗い部屋に明かりをともすと、私物の少ない質素な部屋が見えた。
荷物も少ないキャロは、謙虚に手荷物を置くとある音に気付いて窓際に寄った。
外は暗く、何も見えないが音は一定間隔で聞こえた。

「波の音だ」

「海ですか?」

窓際のキャロの傍に、ユーノが立った。

「うん。明日になればちゃんと見えるよ。
海を見た事は?」

首が、横に振られる。

「そっか。じゃあ、明日が楽しみだ」

「はいっ」

「(……………………)」

キャロはどこか空元気に見えた。
ユーノはキャロに先にシャワーを浴びさせると、(使い方でひと悶着あったのは内緒)先に寝かせた。
その後、ユーノもしばらくしてからシャワーを浴びベッドに腰かけた。暗い部屋の中、キャロがもぞもぞと
動くのが解った。

「あの……」

闇に、囁き声が落ちる。
一つ。
ぽつりと。

「ん?」

応える。

「その、よ、夜伽は……」

震える声でキャロは尋ねた。
ユーノは首を横に振った。

「今日はいい。ゆっくりおやすみ」

「え……」

落胆こそないが、キャロの表情に驚きが見えた。
ユーノは笑顔を絶やさない。一度、立ち上がると近くの棚に赴き何かごそごそと漁ってから、
戻ってきた。ベッドサイドの小さなテーブルに、何かを置いた。ふわりと、キャロにも香りが届く。

「今日は疲れただろうから、ゆっくりおやすみ」

「は、はい……」

「おやすみ」

ベッドサイドに腰かけるとキャロの髪に手を置き、ゆっくりと撫でてやる。
そして、異国の子守唄を小さな声で歌いながら深い闇が二人を包む。

母なる大地の、海の、偽りの無い子守唄と共に。

「(……やれやれ)」

キャロが眠ったのを確認してから、ユーノは隣の部屋に腰を下ろした。
少し強めの酒に口づけて気つけ変わりにすると光学端末を立ち上げる。
ここで、お財布係チャックの顔が映った。

「やあユーノ、結婚おめでとう!」

「やあチャック。僕の結婚式に関わった人の名前を全員リストアップしてもらえるかな」

「お安い御用さ。大変だったみたいだね?」

「僕じゃなくて、僕の奥さんの方がね。頼むよチャック
本当に頼めるのが君しかいないんだ。それと、この話は内密にね」

「任せてよ、僕のジッパーは有能だよ?」

「うん。チャックだけが頼りかな」

「嬉しいねぇ〜」

口にチャックをできない男チャック。そんなピザデブの馬鹿さ加減に呆れ果て口許を隠しながら、ため息を落とし目を反らす。
適当に雑談をしながらチャックは、例にも漏れずベラベラと話始めた。

「ユーノの奥さんになった女の子、キャロチャンだっけ?
あの子はなんでも、ルシエの一族を追放になるちょっと前に、うちの誰かが追放するぐらいならうちで引き受けるって声かけて、
それでユーノが当て馬になったみたいだねぇ〜」

「それだけ?」

「今のところはね。ああ、それとキャロチャンはなんでも、すっごい巫女らしいんだけど
力が不安定だから、結界師として優秀なユーノに任せれば大丈夫〜って誰かが言ってたみたいだなぁ」

少し、眉根に皺が寄った。

「そうなんだ」

「うん。そうなんだよぉ」

「ありがとうチャック。また何かあったら教えて欲しい」

「任せてよユーノ。あ、それから今度キャロチャンに会わせてほし」

指先は光学端末のウィンドウを強制終了させていた。
ふん、とユーノは鼻先で笑っていた。

「(やれやれ)」

もっともっと、根深い事情があるとユーノは踏んでいたが、今はこの程度でいいと考えていた。
きっとチャックに事情を尋ねた事はチャック自身が周囲に漏らすだろう。それはそれで構わない。
ユーノもユーノでチャックとキャロを会わせる気はなかった。妻、というよりも保護者、という気持ちの方が強くなっていた。

「(まあ10年後には……)」

ちゃんと女性になっているだろう。その頃になれば、キャロを抱いても問題はない。
今、然したる性欲もなかった。それもそうだろう。妹ともとれる幼女に対して普通の人間は欲情しない。
席を立ち照明を落とすと、キャロのいる寝室へと向かった。

眼鏡を外し束ねていた髪解くとベッドにもぐりこむと、キャロが寝言か何かを言っているようだった。
もごもごと口が動いている。横になりながら何を言っているのか耳を澄ましていると体は固まってしまう。
ますます、少女に欲情するという気はなくなった。
手をキャロの背に回し、抱くようにして瞼を落とした。

ただ一言。
お母さんと言った少女の気持ちは、ユーノにはあまり解らなかった。
眠りに落ちる。


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著者:サンポール

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