435 名前:野狗 ◆gaqfQ/QUaU [sage] 投稿日:2008/06/02(月) 02:08:53 ID:b67LSR6z
436 名前:野狗 ◆gaqfQ/QUaU [sage] 投稿日:2008/06/02(月) 02:09:42 ID:b67LSR6z
437 名前:野狗 ◆gaqfQ/QUaU [sage] 投稿日:2008/06/02(月) 02:10:26 ID:b67LSR6z


「ジュニア、明日までにこの解析を頼めるかな?」

 隊長が示したのは両手で抱えられるくらいの箱。
 そこには見たこともないロストロギア。こんな物をいきなり見せられて解析しろと言われても……
 いや、やるしかない。
 隊長の性格はもうわかっている。いきなりこうやって言いつけてくるということは、他の手段は全て無駄ということなのだ。
 つまり、僕の能力だけが残る全て。そうなっては、断れるわけもない。

「わかりました。無限書庫の方には…」
「連絡が付いているが、向こうはいつものように提督からの緊急任務の真っ最中だからね」

 ハラオウン提督とスクライア司書長の仲は有名だ。提督からの直接命令で司書長が動いているのなら、僕らの入る隙間はない。
というより、僕らが邪魔できないほどの重要な任務と言うことだ。
 さて、これで無限のデータベースは活用できない。文字通り僕の徒手空拳で解決しなければならない。それは、無理じゃない。
疲れるけれど、無理じゃない。だから、僕はここにいる。
 ここ、遊撃課に。

「ジュニア、無理なら素直にそう言って」
「副隊長。それは聞き捨てなりませんよ。明日までと命令を受ければ、僕は明日までに全力を尽くします」
「無理は良くない」
「無茶はするかもしれませんけど、無理じゃありません」
「……素直じゃない。やっぱりそっくり」

 その辺にしておこう、と隊長が笑い、副隊長は頷いた。
 この槍騎士と召喚士は付き合っているに違いない、と僕は思っている。もっとも、そうなるともう一人の召喚士が黙ってないような気がするけれど。
  
「それじゃあ、僕はラボの方に籠もりますから。なにか追加事実がわかったらお願いします」
「ああ、これが発見された現場には今、イーブン分隊が行ってるから。何かあったら直接連絡してもらうよ」

 イーブン分隊は、スバルさんが指揮している、セインさん、オットーさん、ディエチさん、ディードさんの分隊だ。
 因みに、オッド分隊はチンクさんが指揮していて、ノーヴェさん、ウェンディさんの分隊だ。
 人数が偏っているようだけど、オッド分隊にはさらにウェンディさん率いるガジェット部隊が所属している。
 そして隊長が直接率いるライトニング分隊。この三つの分隊が遊撃課の基本戦力だ。
 元々は機動六課として設立されていたものを名称を変えて復活させたらしい。
 それはわかる。なにしろ、遊撃課の主要メンバーのほとんどが、かつての六課の敵だったのだ。名前がそのままではやりづらいだろう。
 もっとも、僕自身はどの部隊にも所属していない。僕は戦闘員ではないのだ。そのうえ、魔導師でも戦闘機人でもない。ただの技術者だ。
 ちょっとばかり有能なので、ここに居場所を提供されている。
 だから、隊長の期待には応えなきゃならない。



「ジュニア、そろそろ寝る時間ッスよ」
「うん。おやすみ、ウェンディさん」
「呼び捨てでいいッスよ。それより、ジュニアが寝る時間ッスよ。あたしはルーお嬢…アルビーノ副隊長と夜間シフトッスから」
「まだ解析が終わってないんだ。もう少ししてから寝るよ」
「昨日も、セインに同じこと言ってたッスね」
「そうだったかな?」
「隊長は、ジュニアの身体を壊してまで解析させるつもりなんて無いッスよ? あの人は、そういう人ッスから」
「うん。わかってる」
「誰も、ジュニアにそこまでやれなんて言わないッス」
「うん。言われたことはないよ」
「だから、ちゃんと寝るッス」
「これが終わったらね」

 次の瞬間、僕の身体が浮いていた。
 慌てて見下ろすと、セインさんが僕の身体を抱えている。いつの間にか、足元から現れていたのだろう。

「セイン、そのままベッドまで連れて行くッス」
「さあ、行きましょう、ジュニア」
「セインさん、何するんですか、離してくださいよ」
「嫌です。今夜はこのままジュニアと添い寝します」
「え、ええ!? 困る!」
「一人にしたらまた起きてくるでしょう?」

 確かにその通り。だけど、僕にはやらなきゃならないことがある。セインさんとウェンディさんの気持ちは嬉しいけれど。
 命令するしかないのかな。僕はナンバーズに命令なんてしたくないのに。

「隊長として命令する。ジュニア、休息を取れ」
「……隊長?」
「チンク姉?」

 隊長がチンクさんと一緒に、いつの間にかウェンディさんの後ろに立っている。

「こんなことだろうと思った。ウェンディ、セイン。ジュニアが素直にお前達の話を聞くと思ったか?」
「そ、それは」
「ジュニア。隊長の命令なら貴方は素直に聞くのだろう?」

 チンクさんは痛いところを突いてくる。そうだ、隊長には逆らえない。それが決まりだ。

「ウェンディ、セイン。気付かなかった僕も悪かった。ジュニアに無理をさせてしまったね」
「隊長、これくらいは当然ですよ。僕は…」
「やめろ」

 隊長は冷たく言った。

「君は君だ。その能力にかかわらず、君は君以外の何者でもない。生まれた理由が何であれ、君は君だ」
「でも…」
「君は知っているはずだ。僕の生まれを。君が自分の生まれに拘るなら、僕はどうなる? 僕はただの資産家の跡取りでいればいいのか?」
「それは……」

 理屈では隊長の言う通りだとわかっている。僕は僕なのだ。だけど僕は……


 そのロストロギアの解析で全てが始まったのだ。
 ロストロギアにしてロストロギアでないもの。それは、ロストロギアの複製品だった。
 危険きわまりないそれを複製し、隠匿し、使用していたもの。
 空と海、次元の垣根すら越えて捜査権を与えられた遊撃課の、長い事件の始まりだった。
 オッド分隊、イーブン分隊。エリオ・モンディアルとルーテシア・アルビーノの率いるライトニング分隊。
 部隊顧問でもあるキャロ・ル・ルシエと執務官ティアナ・ランスターの協力。
 そして、伝説の高町なのは、フェイト・テスタロッサ、八神はやてとヴォルケンリッター。
 僕は、敵の戦力を解析する。作戦を、武装を、目的を。
 僕は「無限の解析者(アンリミテッド・アナライザー)」
 
 戦士ではないけれど、僕は僕の方法で戦う。
 そして、父と母を取り戻す。
 僕の方法で世界を守り、僕の守った世界で、父と母を迎えるために。
 父と母にこの世界の価値を伝えるために。
 僕が守ったこの世界の価値を認めさせるために。

 僕の父の名は、ジェイル・スカリエッティ。
 僕の母の名は…………



著者:野狗 ◆gaqfQ/QUaU

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