402 名前:機動六課の男達 バレンタイン編[sage] 投稿日:2009/02/15(日) 13:41:23 ID:0/MMbWd/
403 名前:機動六課の男達 バレンタイン編[sage] 投稿日:2009/02/15(日) 13:43:09 ID:0/MMbWd/
404 名前:機動六課の男達 バレンタイン編[sage] 投稿日:2009/02/15(日) 13:45:33 ID:0/MMbWd/
405 名前:機動六課の男達 バレンタイン編[sage] 投稿日:2009/02/15(日) 13:46:01 ID:0/MMbWd/

機動六課の男達 バレンタイン編


「さあて、全員揃ったな」


 機動六課隊舎屋上、その場に集った男達の一人ヴァイス・グランセニックが呟いた。
 彼の周りには他に三人の男性、エリオ・モンディアル、ザフィーラ、グリフィス・ロウランと機動六課男性陣が勢ぞろいしている。
 彼らは一様に表情に真剣極まるモノを宿し、まるで戦闘を前にした歴戦の勇士の如きオーラを纏っていた。
 エリオが額に汗を流しながらゴクリと唾を飲み込む、沈黙の中に響く音に全員の鼓動が高鳴った。
 誰が一番に切り出すか、彼らの脳髄にはその事だけが渦巻いている。
 そして、最初に口を開いたのはエリオだった。


「じゃ、じゃあまずは僕から……」

「おう、見せてみな」

「お手並み拝見といきましょうか」

「……」


 各々、言葉を返すと共にエリオに視線を送る。
 眼差しが集中するのは彼の手元、握り占めた紙袋だ。
 少年は恐る恐る、それこそ爆弾処理でもするような慎重さで紙袋の中身を取り出す。
 そして集った者達に曝け出した。


「これが僕の収穫です」


 出てきたのは三つのハート型、包装紙で包まれた色鮮やかな物体。
 甘く漂うカカオマスの香り、それは一言で説明するなればチョコであった。
 そうだ、今日は2/14、この世の乙女がチョコレートに想いを込めて叩きつける日である。


「ほう」

「ふふ、やるじゃないですか」

「……」


 値踏みするように言葉を漏らし、ギラリと目を輝かせる三人。
 エリオは額に汗を流しつつ、彼らに説明を始めた。


「一つはフェイトさん、一つはキャロ、最後の一つはルーから送られてきました」

「ふうむ……では採点するか」


 言うなり、ヴァイスはなにやら懐から取り出す。
 それは三枚のカードだった、しかも彼だけでなくグリフィスもザフィーラも同じようにカードを取り出している。
 三人は一様に思案顔を見せると、その中から一枚を選んで提示した。
 そこに出ていたのは○・△・×の三つの絵柄だった。


「な、なんで×が!?」


 少年は狼狽した、自分の見せた布陣は決して悪くない筈なのだ。
 それなのに△はともかく×あるとは、これ如何に?
 一人×を提示していたグリフィスはクイとメガネの位置を正すと、レンズに光を反射させながら説明を始めた。


「確かに手作りが一つあるのは大きいですよ。しかし残りの二つは市販品ですね」

「確かに、言われてみればそうだな」

「……うむ」


 グリフィスの言葉に、ヴァイスとザフィーラも視線をチョコに落す。
 その二つの市販品、それはフェイトとルーテシアのものだった。
 恐らくは作る暇やスキルがなかったのだろう、キャロの作った手作りとは包装紙から伺える様相もかなり違う。
 そしてグリフィスはさらに続けた。


「そもそもフェイトさんのは親チョコですからね。これでは減点は否めません」


 エリオは愕然とした。
 親チョコ、主に母親が息子にあげる類のお菓子。確かにこれでは得点は低いだろう。
 少年は大きな敗北感と共に膝を折った。
 四人の開いたトンチキな会合、名付けて“バレンタイン披露会”の初陣エリオはあえなく醜態をさらした。
 そして次なる披露はヘリパイロット兼狙撃手の出番となる。


「さて、じゃあ俺のを見てもらおうか!」


 自信満々、とばかりにヴァイスは手にしたコンビニ袋からチョコを取り出した。
 まあ、せっかく贈られたものをコンビニ袋に入れるなと言いたいところだが、それは今は置いておこう。
 彼の取り出したチョコは計四つ、しかも全てが手製の包装である。


「ラグナ、ティアナ、アルトそしてシグナム姐さんから貰ったヤツ。全部で四つだ」


 四つとも全て実に手が込んでいる。
 妹のラグナは当たり前として、ティアナやアルトさらには料理と縁の無さそうなシグナムまでも。
 これはかなりの高得点であろう。
 自然、自身に満ち溢れた表情がヴァイスの顔に浮かぶ。
 そして掲げられた点数は以下の通り、○・○・△。


「おいコラ! グリフィスてめえなんで△入れてんだよ!」

「ふっ……確かに全て手作りとは中々やります。しかしたった四つではね」

「な、なに!?」


 グリフィスは言うや否や、自分の持ったバッグを掲げた。
 中から現れたのは、それはもう大量のハートだった。
 それは目を疑うほど凄まじい数。
 恐らくは優に20は下るまい、それほどの数のチョコレートの小山である。


「八神部隊長、フェイトさん、なのはさん、スバルにギンガ、さらに更正施設のナンバーズ、その他諸々からもらったチョコ。無論全て手作りです」


 自信満々に、勝ち誇ったようにグリフィスは唇の端を吊り上げて笑った。
 メガネを正す手の仕草までもが、どこかムカツクくらいの余裕を孕んでいた。


「ちょ、おま……隊長達どころかスバルやギンガ……ナンバーズまでだと!?」

「フェ、フェイトさん……僕のは市販品なのに……」

「……」


 ヴァイス、エリオ、ザフィーラの三人は一様に驚愕やら悔しさを表情に浮かべた。
 この眼鏡男子、地味なイメージの癖にヤル事はヤってやがる。
 その手の早さと節操のなさ、思わず殺意が芽生えるほどだ。
 仕方なく、三人は一様に○を出す、いやむしろ出さざるをえなかった。


「まあ手付かずの野花を見るとついつい摘み取りたくなるんですよ」

「ああ、うん、グリフィス、ちょっと死んでくれ♪」

「ヴァイス陸曹、笑顔で恐い冗談言わないでください」

「冗談じゃなくマジだ」


 と、ヴァイスとグリフィスの漫才が続く中で青き狼がおもむろに手を掲げた。
 私の番だな、と呟くと共に彼は巨大な何かを取り出す。
 それはカカオマスの香りではなく、生臭い匂いを発していた。


「なんですかコレ……」

「見て分からんか、肉だ」

「あ、いや……それは分かるんっすけど……なんで生?」

「アルフが、“生肉で良いだろ”とな」

「あの、もしかして泣いてます?」

「泣いてない……これは魂の汗だ」

「いや、泣いてるでしょ!?」

「泣いてなど……いない」


 ザフィーラ超涙目だった。
 だってそうだろう、周りは美味しそうなチョコ貰ってんのに自分は生肉一つだもん。
 狼だって泣きます、むしろ号泣しますよこりゃ。

 ちなみに、その後、四人はその場でチョコ(と生肉)を試食しました。
 チョコのないザフィーラには他の三人が少しだけ分けてくれました。
 そのチョコはちょっと涙味でした。


終幕。


著者:ザ・シガー

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