7 名前:高く広い空へ 1/2 [sage] 投稿日:2010/04/24(土) 00:04:20 ID:IpQnHYT6 [2/4]
8 名前:高く広い空へ 2/2 [sage] 投稿日:2010/04/24(土) 00:05:01 ID:IpQnHYT6 [3/4]

ウィングロードはどこまでも高く上がる。
「凄い、凄い、高いです!」
「でしょう? もっと上まで行けますよ」

今、スバルは休暇をイクスヴェリアと過ごしている。誰もいない、何もない海の上を、二人は走るように飛んでいた。
イクスヴェリアが長い眠りから覚めた時、傍らには誰もいなかった。
けれど、あっという間に駆け付けてくれたスバルは、少女をそっと抱き締めてくれた。
雲が間近に迫ってきた。雨を降らす雲ではない、綿飴みたいにふわふわした雲だ。
近づいてみると濃い霧のようでイクスヴェリアはがっかりした。
トランポリンできるくらいの柔らかさと密度があると思ったからだ。
でも、これはこれで面白そうではある。
「スバル、あの中に入って下さい」
「雲の中に、ですか? 分かりました!」

さっと、ウィングロードの軌道が変わる。
おんぶして頭をスバルの肩に寄せているイクスヴェリアは、真白の雲へと突入していった。
「冷たいっ!?」
ここだけ霧が立ちこめているようだ。吹き付けるように、小さな水滴が沢山身体にひっつく。
天然のシャワーに、つい気持ちいい声が出る。
が、服の方はしっとりと濡れてしまった。後で本物のシャワーを浴びなければならない。
雲を通り抜けて反対側を見ると、小さな虹が輪っかになって浮かんでいた。
「綺麗です! スバル!」
イクスヴェリアの一言で旋回したスバルも、同じように歓声を上げた。
「輪っかになってますね、こんな虹はあたしも初めて見ました」
もっと高くとイクスヴェリアはねだったが、残念ながらお許しは出なかった。
あんまり高すぎると、今度は空気が薄くなってしまうらしい。
「私は今まで戦の話しか知りませんでしたが、もっと美しいものが沢山あるんですね」
今はもう、陸地が近くに見えてきた。スバルは笑いながら、今回も無許可の飛行だと零した。
見つかったらおしおきですねと笑ったスバルに、イクスヴェリアはぷんすかして返した。
「その時は、私もおしおきを受けます。一蓮托生、運命共同体です」
ウィングロードは一度止まり、スバルが振り向いた。
そして二人で吹き出して、それからまた空の散歩が始まった。
今度はゆっくりと、疾走感がない代りに、
時間の底で止まってしまった街並みを見下ろしながら歩いた。

「ってあれ、ティア?」
誰もいない公園の端でイクスヴェリア達を待っていたのは、呆れ顔のティアだった。
まるで、ウィングロードがどこに着くか知っているかのようだ。
「あんた無許可でしょ? 見つかったらどうするつもりだったのよ」
すかさず、イクスヴェリアは言ってのけた。
聞きようによっては誤解されない一言だった。
「大丈夫、責任は取ります」
これにはティアも苦笑するしかなかったらしく、なのはとユーノに続いて、
この二人までもバカップルになってしまったのかと首を振った。
「ところで、スバル」
「ん、なに?」
イクスヴェリアと仲良く手を繋いでいるスバルに、ティアは聞いた。
それはちょっと重要なことで、いつかどこかで約束したことだった。
「あたしもウィングロードに乗せてくれない? あたし達が初めて昇格試験を受けた時も乗せてくれたじゃない?」
「あぁ、別にいいよ? ただ──」
「ただ?」
スバルはもじもじし始めた。見たことのない反応だった。
気持ち悪がってティアが一歩後ずさると、スバルはぼそりといった。
「あたしの背中は、イクス専用だから……」

「ばっ馬鹿じゃないの!? 誰がアンタの背中に乗るもんですか! イクスでも誰でも勝手に乗せてればいいでしょ!!」
「いや、だからイクス以外は乗せないって」
「うるさい!!」
ティアが激怒した。
端から見たイクスヴェリアには当然の反応に見えたが、肝心のスバルは何故ティアが怒ったのか理解できていなかったようだ。
イクスヴェリアの手を握っていたのとは反対側の腕をむんずと掴むと、ティアは叫んだ。
「さ、早く離陸しなさい!」
「ってえぇ!? 今すぐ?」
「当たり前でしょ! 責任はあたしだって被るわ、早く出発しなさい!!」
さりげなく、指を絡めているのを見逃さなかったイクスヴェリアだった。
ついでに顔が真っ赤だったが突っ込みは入れないことにした。
淑女協定で一方がスバルとデートしている時はもう一方は邪魔しない決まりだ。
いつ決まったのかなんて野暮なことは聞いてはいけない。暗黙の了解である。
「いってらっしゃいませー」

でも、三人でデートすることはやぶさかではない。
ティアが空の旅から帰ってきたら喫茶店にでも入ろうかと、イクスヴェリアは考えを巡らせた。
二人でも楽しかったお茶会だから、きっと三人ではもっと楽しいだろう。
「ティアナ、スバル、早く帰ってきて下さいね」


著者:Foolish Form ◆UEcU7qAhfM

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