[121]にっぷし<sage>2007/05/29(火) 18:20:16 ID:urBjnCzv
[122]にっぷし<sage>2007/05/29(火) 18:20:56 ID:urBjnCzv
[123]にっぷし<sage>2007/05/29(火) 18:23:11 ID:urBjnCzv
[124]にっぷし<sage>2007/05/29(火) 18:24:07 ID:urBjnCzv
[125]にっぷし<sage>2007/05/29(火) 18:25:07 ID:urBjnCzv


隊舎が寝静まった夜、フェイト・T・ハラオウンは瞼に光を感じて目を覚ました。
シーツの上に金髪を散らせたしどけない寝姿のまま、光の刺激に気をつけて瞼を開いていく。
微かに開いた瞳のぼやけた視界には、浅い階下のソファーに座る女性のシルエット。
ピンクのパジャマの上に白いカーディガンを羽織り、茶色の髪を下ろしたその女性は、
同じ機動六課に所属する同僚であり、10年来の親友でもある高町なのはのものだった。

まどろみに包まれたままのフェイトは、金色の長い睫毛を揺らして友人を見つめる。
展開した三つのパネルにキータッチする眼差しは真剣で、見とれてしまうほど美しかった。
優しい気持ちがゆっくりと胸に広がっていき、しだいに眠気が覚めていく。
しかし意識がはっきりしていくと、美しいラインを描く金色の眉は心配げに歪められていた。

(……なのは、また夜更かししてる……)

一等空尉であり戦技教導官でもあるなのはは、新人の教育に特に熱心だった。
個々の適正を把握し、各ポジションに求められる技術を教え、仮想的との戦闘を用意し――
いつ出動があるかわからない状況での訓練は、高い密度と精度を要求される。
部下の生命に直接関わる仕事だけに、元々のめり込むタイプのなのはは没頭していた。


魔法少女リリカルなのはStrikers
勝手に裏#08 願い、ふたりで




最近無理を重ねていることを見てとったフェイトは、今日は夜更かししないことを約束させた。
苦笑するなのはをベッドに押し込めて、眠りにつくまで手を握っていたのに――。
自分が先に眠ってしまったのか、相手が途中で目を覚ましたのか。
どちらにせよ、無理をさせまいとした努力が無駄に終わってしまったことは確かだった。
相手の無茶を叱る気持ちよりも自分の至らなさに気持ちが向かい、ちくりと胸を痛める。

(……でも、なのはらしい、かな……)

フェイトは一度深く息をつくと、一度名残惜しそうにベッドに頬擦りして身を起こす。
同居人を起こしてしまったことに気付くと、作業をしていたなのはの手がぴたりと止まった。

「あ――、ゴメン、フェイトちゃん……起こしちゃった?」

寝る前にキツく言われたこともあって、バツが悪そうに尋ねてくる。
座った姿勢のまま細い脚を軽快にベッドから下ろすと、フェイトは笑顔を返した。
「ううん。気にしないで。……なにか淹れるよ。コーヒーでいいかな」
ぐっと背を伸ばして立ち上がると、肩にかかっていた金髪がぱらりと流れる。
ライトグリーンのパジャマに包まれた、女性美に溢れたしなやかな体躯。
颯爽としたフェイトの立ち姿は、涼やかな風のようになのはに清涼な気分を抱かせた。

それが気分転換になったのか、なのはもリラックスした笑顔を浮かべる。
「ありがとう。ミルクと砂糖多めだと嬉しいな」
「うん。了解」
可愛らしいオーダーを受けて、金髪の執務官はキッチンへ向かった。


寝直す時のことを考えて、自分の分のコーヒーも苦くすることを避ける。
その結果、もうこれカフェオレだよね? という状態のコーヒーが二つのマグカップに注がれた。
柔らかみのある薫香が立ち昇り、心を和ませる。
フェイトがマグカップを二つ持って戻ると、なのはは作業を再開していた。
邪魔にならないように気をつけながらマグカップを置き、ソファーに腰を降ろす。
まとめに入っているのか、なのはは新人達の個別の訓練結果や練習メニューに目を通していた。
エリオ、キャロ、スバルのものを流して見て確認した後、ティアナの訓練映像が出る。


最近特に力を入れて彼女を指導していることを知っていたフェイトは、話を切り出した。
「ティアナ、頑張ってるみたいだね」
「うん」
なのははマグカップに手を伸ばし、ソファーの背もたれに身体を預けた。
映像を見つめながら、両手で包むように持ったカップから少しだけコーヒーを飲む。
甘い味に嬉しそうに目を細めると、こくこくと飲んでから言葉を続ける。
「失敗した時は落ちこんでたけど、次の日には元気を取り戻してくれてて良かったよ」

ホテル・アグスタでの任務中にティアナが仲間を誤射してしまい、ヴィータに救われ、叱られた出来事。
普段ミスが少なくプライドが高いだけに肩を落とす姿には心配したが、杞憂に終わったようだった。
翌朝にはスバル共々元気を取り戻し、以来一生懸命訓練に打ち込んでいる。
センターガードの重要性を再認識させる訓練でも、着実に成果を上げて来ていた。

ティアナがミスを引きずる時間が少なくて済んだのは、他の新人達にもいい影響を与えている。
スバルはムードメーカーである反面、ティアナから影響を受けやすい性格をしているため、
連鎖反応を起こして全体の訓練効率が低下する心配もあった。
訓練する側としても、中央に位置するセンターガードの失調が続かずに済んだのは助かっていた。

「ティアナにはスバルだけじゃなく、エリオやキャロのサポートもして貰わなきゃだから」
「キャロの強化や竜召喚は、詠唱中が無防備になっちゃうから……」
「強化は相手が側にいないといけないから、必要なら戦況をリセットさせなきゃだしね」

バランスが取れたスターズ小隊と比較して、ライトニング小隊は少々尖った構成になっている。
強化したエリオは高い性能を発揮するが、彼が攻撃している間のキャロの防御に不安が残る。
支援に使用できる召喚も詠唱時間が発生するし、フリードの砲撃は威力はそこそこだが単発。
上位の召喚魔法は不安定なので戦術に組み入れることは出来ない。
キャロの防御力や詠唱時間や即時支援能力の薄さを補うには、中距離支援型の魔導士があと一人欲しい。
しかし隊員の追加が望めない現状では、ティアナに頑張ってもらうしかなかった。

「そういう意味だと、ウチの子が迷惑かけちゃってるよね……」
捜索主任のため訓練を見てやれていないことや、スターズ小隊の負担を思って声を落とす。
「でもエリオは瞬間的な速度ならスバルよりずっと早いし、キャロの強化魔法は汎用性が高い。
 上位の召喚魔法は成功さえすれば戦況を傾ける切り札になるかもだし、これくらいお互い様だよ」
なのはが明るく言うと、少し俯いていたフェイトも微笑みを返した。


お互いコーヒーを口に運び、会話に短い空白ができる。
夜の静寂は耳を刺すように深く、切り替わる画像の光が暗い部屋に鮮やかな光彩を放つ。
沈黙が少し続いた後、フェイトが口を開いた。
「そういえば、ティアナの訓練はだいぶ密度を上げてるみたいだけど、何か考えがあるの?」
「うん。ヴィータちゃんからの指摘も考えてね。ちょっと駆け足してるんだ」
ホテル・アグスタの件の後に出たヴィータからの指摘。
結果を勝ち取って自分の力を証明したい、そのための力が欲しいという異常なほどの欲求。

「クロスファイアのバリエーションを少し前倒しして教えてあげようと思って」
自分でも甘いと思ってるのだろう。なのはは、少しだけ照れるように言った。
ティアナの強さへの欲求が高まりすぎて、悪い方向へ暴発しないようにと考えた措置。
高威力射撃を教えて自信を付けさせ、結果を勝ち取ることで証明しようとする傾向を抑える――。
ただし、それには前提条件があった。
まず最初にセンターバックの役割や行動を徹底的に身体に叩き込むこと。
そうすることでセンターバックの仕事が主であって、高威力射撃は従であると認識させる。
それがティアナの願望を叶えつつも、なのはが教導官として譲れない前提条件だった。
ミスの後の再教育と、センターバックとしての基本形の成熟。訓練密度が上がるわけだった。

「どんなのを教えようとしているの?」
「チャージ時間が短い、威力は落ちるけど速射性の高いクロスファイアと、その収束砲撃の二種類かな」
秘密のプレゼントを打ち明けるようななのはの言葉に、フェイトが優しく微笑む。
「うん。凄く良いと思うよ。攻撃の幅も広がるし、きっと喜んでくれると思う」
「射撃型のティアナに砲撃を覚えさせるには、このバリエーションが最適だと思うんだ」
同じセンターガードとして熱が入るのか、瞳を輝かせてなのはが言う。
いきいきとしている友人を見つめるのは、フェイトの喜びとするところだった。

「今のティアナは威力にこだわりすぎてチャージ時間を取りすぎてるみたいだもんね」
「うん。今のクロスファイアは決め技のままで、これは小回りの効く中堅の技にすればいいと思う
 敵の数を減らせる攻撃が増えれば、前回みたいな無茶に駆られる局面自体も減るだろうしね」
残っていたコーヒーをぐっと飲み干し、空のマグカップを弄びながら呟く。
「ティアナも言うこと聞いて良く頑張ってくれてるからね。次の模擬戦の結果次第かな」
次のステップへ進むことへの喜びは、決意めいた表情を輝かせていた。


大きく息を吐き、夜更けの残業の終結を暗に告げる。
プライベートに戻った優しい笑顔で、なのははフェイトにお礼を言った。
「ごちそうさま、フェイトちゃん。美味しかったよ」
「はい。おそまつさまでした」
同じく柔らかな笑顔を返し、フェイトがカップを片付ける。
堰を切ったように疲労が押し寄せてきたなのはは、手を口に当てて大きなあくびをした。

水洗いを済ませたフェイトが戻ると、なのははソファーでうとうとと船を漕いでいる。
苦笑すると、フェイトはなのはの身体を抱きかかえた。
「なのは。ベッドに入らないとダメだよ」
デバイスなしの簡易魔法で優しく浮かせ、ベッドへと移動する。
首に腕を回されていたフェイトは、そのまま抱き合うようにしてベッドに倒れこんだ。
茶色の髪がベッドに広がり、金色の髪が滝のようにこぼれる。
「きゃっ……んん、なのは……?」
「んー、フェイトちゃーん……じゅうでーん……」
甘えるように胸に顔を埋めるなのはを、母が子にするように何度も優しく撫でつける。
やがてなのはが眠りに付くと、そっと身体を起こした。

すやすやと眠るなのはの隣に横たわり、寝顔を見つめる。
疲労が溜まっているはずなのに、寝顔はとても安らいだものだった。
夜を徹した作業が満足のいくものだったのか、眠る間際の抱擁のせいなのか。
少しでも自分が安らぎを与えられているのなら嬉しいと思いながら、額にキスをする。
「お疲れ様、なのは……おやすみ」
伝染するように眠気に見舞われると、フェイトもまた瞼を閉じた。
水底に誘引されるように眠りに落ちながら、隣で眠るかけがえのない友人に心の中で呟く。

大丈夫だよ、なのは。誰も傷つけさせない。きちんと育てて、そして守っていこう。
難しいかもしれないけれど、私たち二人なら、きっとそれができる――。

祈るような願いを優しく溶かすように、隊舎は静寂と眠りに包まれていく。
そう遠くない朝が訪れるまで、二人の隊長は休息に身を委ねた。

著者:にっぷし

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