950 名前:夜天の宴 [sage] 投稿日:2012/02/18(土) 00:02:47 ID:C4R7WGEQ [3/22]
951 名前:夜天の宴 [sage] 投稿日:2012/02/18(土) 00:03:27 ID:C4R7WGEQ [4/22]
952 名前:夜天の宴 [sage] 投稿日:2012/02/18(土) 00:03:58 ID:C4R7WGEQ [5/22]
953 名前:夜天の宴 [sage] 投稿日:2012/02/18(土) 00:04:42 ID:C4R7WGEQ [6/22]
954 名前:夜天の宴 [sage] 投稿日:2012/02/18(土) 00:05:20 ID:C4R7WGEQ [7/22]
955 名前:夜天の宴 [sage] 投稿日:2012/02/18(土) 00:05:57 ID:C4R7WGEQ [8/22]
956 名前:夜天の宴 [sage] 投稿日:2012/02/18(土) 00:06:35 ID:C4R7WGEQ [9/22]
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965 名前:夜天の宴 [sage] 投稿日:2012/02/18(土) 00:12:02 ID:C4R7WGEQ [18/22]
966 名前:夜天の宴 [sage] 投稿日:2012/02/18(土) 00:14:32 ID:C4R7WGEQ [19/22]
967 名前:夜天の宴 [sage] 投稿日:2012/02/18(土) 00:15:04 ID:C4R7WGEQ [20/22]

夜風にゆらめく銀色の長い髪と、夜天を見上げる紅い瞳。
月明かりに照らし出されるのは、強く―――それでいて儚い、たおやかな人影。

まだ皆が寝静まるほど夜は更けていないが、八神家の周辺には人通りはなく、彼女の思索を遮るものはない。
高く澄んだ夜空の下、手近な縁台に腰掛けて、リインフォースはさまざまに思いを巡らせる。

これまでのこと。
これからのこと。

物思いに沈むきっかけは、ごく些細なことだった。
影を作るほどの月明かりに魅かれて外に出た際、ふと夜風の中に、季節外れの『冬』の匂いを感じたのだ。

今は、冬が終わり春の足音が聞こえはじめる、季節の移り目。
けれど今夜は寒の戻りで、季節が逆戻りしたように氷点下近くまで冷え込んでいる。

無論、いかに冷たくとも、それは芽吹きの緑の匂いを乗せた春の風だ。
彼女がそこに冬を感じたのは、ただ一瞬の錯覚だろう。

それでも、一度感じた冬の匂いは、それに結びついた冬の記憶を呼び覚ましてゆく。

といっても―――今の彼女が馳せる冬の思い出は、ひとつしかない。
去年の聖夜から今に至るまでの、4ヶ月あまりの出来事の、すべて。

苦難の旅の末に奇跡と出会い、ほんの少しの時間だけ叶えられた、かけがえのない時間だ。

※※※※※※   ※※※※※   ※※※※※   ※※※※※   ※※※※※   ※※※※※   ※※※※※  ※

奇跡の舞い降りた聖夜から、もう少しで4ヶ月。
紫天の盟主が歪んだ枷から解き放たれて、半月あまり。

6人の大家族である八神家の生活は、目下のところ平穏だ。
闇の書事件の調書や、主が管理局入りするにあたっての準備には忙しいが、それも煩わしくなどない。
なにより、この4月にははやてが復学し、なのはやフェイトらと共に学校へ通うことになる。

しかし―――
と、リインフォースはそこで我に返り、視線を落として自らの手を眺める。

気がつけばかなり長時間、息が白くなるほど冷たい夜風に身を晒していた。
けれどその間、指先も体も、さほど冷感を伝えてはこなかった。

風邪をひかない―――つまり、温度変化で機能の低下を引き起こさないこととは、また別の問題である。
末梢の体表温度の変化が、情報として正しく中枢へと伝わっていない。
温度感覚をはじめとする触覚や痛覚などの感覚機能が、鈍ってきているのだ。

覚悟していたことではあるが、最近、その兆候が顕著に現れはじめている。
防衛プログラムを切り離す際、生き延びるために根幹部分も一緒に捨てざるを得なかった影響。

体の崩壊が、近いのだ。

ただ―――そこに、消滅への恐怖はない。
逆によく保ったものだと、リインフォースは静かな心境で我が身を振り返る。

騎士達と共に永き呪縛から解き放たれた、夢の始まりの夜。
その数日後に、闇の書の残滓から生まれたマテリアルたちと戦い、主との逆ユニゾンまで行った。
つい半月前には、闇の書に組み込まれていた紫天の盟主の解放まで行っている。

ゆえにリインフォース本人には、思い残すことは何もない。
雪と共に散るはずだった命が、桜と共に散るまでの猶予を得、平和な世で主や盟友らと語らうことができたのだから。
融合騎の業として、主より先に朽ちることへの不甲斐なさはあるが、それも後継機が共に空を駆けてくれるはずだ。

唯一、心苦しさがあるとすれば―――自分が消滅することで、優しすぎる主が心を痛めてしまうこと。
リインフォースにとっては納得の上での必然であっても、主にとっては親を残して子が逝く心境なのだ。

だから消滅の寸前までは、崩壊の兆候は隠しておきたいと思っている。
主が悲しむ時間は、短い方がいいのだから。

※※※※※※   ※※※※※   ※※※※※   ※※※※※   ※※※※※   ※※※※※   ※※※※※  ※

「―――リインフォース」

「!」

気が付けば再び物思いに沈んでいたリインフォースの背後から、不意に声がかけられる。
縁台に腰掛ける彼女の背後に、いつの間にか当のはやてが居たのだ。
思索の内容もあってリインフォースはひどく驚いたが―――動揺は表に出さず、ことさら余裕をもって振り返った。

「ああ、我が主。まだ起きておられたのですか」

「ん、ベッドに入ろうと思ったら庭にリインフォースが見えてなぁ。
 寒ぅないか気になったんで、降りて来たんよ」

そこには、電動車椅子に腰掛けたはやての姿があった。
言葉通りに眠る直前だったのだろう、寝間着に上着を羽織っただけの姿である。

「申し訳ありません、ご心配をおかけしました……少し、考え事をしておりまして。
 けれど主こそ、この寒空ではお体に障りますよ。部屋までお送りいたします」

いつも通りのゆったりとした口調だが、隠し事をしているという後ろめたさが、彼女をやや饒舌にさせる。
リインフォースは縁台から立ち上がるとはやての後ろに回り込み、車椅子のグリップに手をかけた。

「そうやね。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおか。頼むで、リインフォース」

「はい、我が主」

はやてはその胸の内を知ってか知らずか、相変わらずの朗らかな調子で、リインフォースの申し出を受け入れる。
リインフォースはそれ以上の追求がないことに胸をなでおろしながら、部屋へと向かい車椅子を押した。

※※※※※※   ※※※※※   ※※※※※   ※※※※※   ※※※※※   ※※※※※   ※※※※※  ※

はやてを部屋まで運び込んだリインフォースは、ベッドの手前で車椅子を止める。
次いではやてを横抱きにすると、ベッドへと移すために車椅子から軽々とその体を持ち上げた。

「ひゃ……!?」

「いかがされましたか?」

直に触れたリインフォースの肌の冷たさに、抱き上げられたはやてが驚きと気遣いの混じった声をかける。
失策に気付いたのは、そのときだ。
鈍った感覚ゆえに自覚できていなかったが、並の人間なら健康を害するほどに体温が下がっていたのだった。

「……体、相当冷たいけど本当に平気なん? 無理したらあかんよ」

「お心遣い痛み入ります。
 しかし、このとおりシャマルの用意してくれた冬物も着ていますし、ご心配には及びません」

感覚の失調に気付かれかねない話題を、再びリインフォースは平静を装って流した。

今の服装は、シックなブラウスの上に厚手のセーター、そして色合いを揃えたロングスカート。
スカートの下にはタイツも穿いており、その言葉通りに服装自体は真冬でも問題はないものだ。

「そっか……」

その答えに、一応の納得はしたのか。
抱き上げられているはやては、リインフォースの首筋に片腕を回して、より密着した姿勢になる。
もう片方の手は、未だ氷のように冷たいリインフォースの手の甲に添えられた。
まるで、自分の体温でリインフォースを暖めようとするように。

リインフォースは、そんな年齢相応の子供じみた行動を愛しく思いながら、はやてを抱えてベッドまで移動する。

今のところは感覚機能が失われつつあるだけで、腕力や身体能力には衰えはない。
異常を悟られないように慎重に、壊れものを扱うように、抱きかかえた少女の体をベッドへと下ろしてゆく。

「なあ、リインフォース」

「はい?」

「どのくらい外におったかは知らへんけど……嘘は、ついたらあかんよ?」

「……!!」

耳元で囁かれる、予想だにしなかった一言。
先のやりとりでやや気分が弛緩したリインフォースには、完全に不意打ちだった。
胸の鼓動が一気に早まり、はやてを抱える腕も強張る。

そしてその一瞬の変化は―――このうえなく密着したはやてには、筒抜けだったはずだ。

「なんの、ことでしょうか」

「あははっ……うん、今のでようわかったわ。
 うちの子はみんな嘘は下手やな。ごまかし方も、よう似とる」

後ろめたさから反射的にとぼけてしまうリインフォースだが、内心の動揺が見透かされたのは明白だった。
ここに至り、直前にはやてが強く抱きついてきた理由が、このための布石だったのだと気付かされる。

「申し訳ありません」

「あやまらんでもええよ。
 闇の書のときのシグナムたちも……みんなが嘘をつくときは、いつも私のことを考えてくれてるときや」

頭を垂れての謝罪は、穏やかに遮られる。
嘘をついたリインフォースを咎めるでもなく、むしろ申し訳なさそうにはやては話し続けた。

「わたしのほうこそごめんな、だまし討ちみたいなことしてもうて。
 あのな……リインフォースが嘘ついてるんは、なんとなくやけど、最初からわかっとった。
 知らん振りして騙されとくんが、いちばんいいのかもしれへんけど……」

「……」

リインフォースが自分を想って嘘をついていることは、見抜いていた。
だからそのまま騙されていようとも思った。
けれど見過ごせず、そればかりかはやてを強引な誘導へと駆り立てた。

「わたしがさっき庭にいたリインフォースに声かけたんはな。
 見とったらなんや、そのまま夜空に溶けていってしまいそうで……ちょう、怖かったからなんよ」

「主……」

あらかたの事柄に整理がつき、あとは消滅までの日々を穏やかに過ごすだけとなったリインフォース。
そんな彼女が改めて隠すほどに、後ろめたい事など限られる。
その諦観した姿勢と併せて、隠し事は『消滅』の期日そのものではないのか、とはやては直感したのだった。

※※※※※※   ※※※※※   ※※※※※   ※※※※※   ※※※※※   ※※※※※   ※※※※※  ※

「なあ……消えてまうんか、リインフォース!?」

「……崩壊の兆候が、現れ始めました。
 今のところは感覚器官の失調のみで、それも完全に失われているわけでもありません。
 今日明日に消滅するような状況でもありませんが……夜天に還る刻は、それなりに近いかと」

嘘は見透かされた。
ならば主を悲しませることになろうと、向き合うしかない。
そう決意を固め、リインフォースは、はやての問いに正直に答えた。

「そっか……なんとか、ならへんのかな?
 記憶だけでも録っといて、後継機のほうに写すとか、できへんのかな……」

力なくベッドに横たわるはやての虚空へのつぶやきは、今までに何度も繰り返され、その度に否定された議論の蒸し返しだ。
リインフォース自身やシャマル、そしてアースラの技術陣も最初に考え、そして不可能と結論付けた選択肢。

もともとの『管制人格としてのリインフォース』は、夜天の書にのみ対応するワンオフの専用データ。
それが紫天の書の組み込みや闇の書への改変によってさらに複雑化し、外からでは手の入れようがないほど変質している。

逆に言えば、そういった変質やバグをも含めて、奇跡的なバランスの上に成り立っているのが今のリインフォースだ。
例えバグであれどこかに手を加えただけで、張り詰めた糸に切れ目を入れるように、存在そのものが瓦解しかねない。
ゆえに新たに作られる夜天の書への、人格データ移植の負荷にすら耐えられない可能性が高い。

一番の延命措置は、そのまま手を加えずに、ただ自壊する刻を待つこと。
そしてそんな理屈ははやて自身も、とうに理解している事柄である。
ただその心が―――やっと巡り会えた半身とも呼べる存在の消滅を、受け入れられないだけなのだ。

「リインフォースは平気なん?
 ひとりだけみんなと離れて……悲しくならへんの!?」

「人格や記憶は残らずとも、基礎データは後継機に余さず受け継がれます。
 役目であり存在意義そのものであった蒐集行使の力は、他ならぬ主の中に留まりました。
 そして私自身の事は……主をはじめとする御学友や、夜天に従う雲の騎士たちが、記憶に留めてくれますから」

はやてが横たわるベッドの脇に横座りで腰を下ろし、視線の高さを同じにして。
リインフォースははやてへと手を伸ばし、眠気でむずがる子供に言い聞かせるように、慈しみを込めて語る。

「……本来は、それすら叶わずにあの場で崩れ行くはずだった身。
 むしろ今は、望外の奇跡にて得られた余命なのです」

「そんな割り切りできへん! いやや、逝かんといて……っ」

はやての、抑えていた感情がついに弾けた。
身を起こしてベッドの脇に座るリインフォースの首へとしがみつき、大声でむせび泣き、涙を流す。

「主……」

泣く子をあやすことは、リインフォースにはできない。
できることがあるとすれば、泣き止むまでその体を抱きしめておくことだけだ。

ベッドの上から抱きついてきたはやてを受け止め、泣きやすいようにその胸を貸しながら、姿勢を変える。
床に腰を下ろしたままベッドに背を預け、膝の上に横抱きにはやてを抱えた。

「リインフォース、う、ぅあぁぁぁぁっ……!!」

そして自分に向けられたその涙や慟哭さえも、身に余る至福であると言ったら―――主には軽蔑されるだろうか。

泣き叫ぶ少女を抱きしめて胸に込み上げるのは、別れの悲しみではない。
自らの業が叶えられた道具としての、浅ましい悦びだ。

傍らに居ることをこれほど望まれるのは、融合騎としてこの上ない誉れなのだから。

※※※※※※   ※※※※※   ※※※※※   ※※※※※   ※※※※※   ※※※※※   ※※※※※  ※

「……」

どのくらい泣いていただろうか。

珍しく年齢相応に、聞き分けない子供として泣いていたはやての気分も、やっと落ち着いたようだ。
泣き止んでからも随分とリインフォースの胸に顔をうずめていたが、やがてゆっくりと顔を上げる。

泣きはらした目と、ときおりしゃくりあげる涙声。

穏やかで自制心の強い少女が、自分のためにこれだけ泣いたのだと思うと、やはり倒錯的ともいえる愉悦が胸を満たす。
仕えるべき主として、そして庇護すべき雛鳥として―――最後の夜天の主は、たまらなく愛しい。

「……なあ、リインフォース」

「なんでしょうか」

「消えて、まうんやな」

ひどく拗ねた様子で、けれど聞き分けなければならないと自身に言い聞かせる口調で。
はやてはベッドの脇に腰を下ろすリインフォースの頬へと手を伸ばし、その存在を確かめるように、触れた。

「できることならば、主が老いて死ぬまで、傍らに居りたかったのですが」

「あははっ、おばあちゃんになって、リインフォースに世話されて、看取られて、か。
 えぇ未来や。わたしはおばあちゃんになっても、とびきり綺麗やで?」

冷たい頬に触れた手が首筋に下り、セーターの表面を撫でて、柔らかな胸肉に到達する。
リインフォースの膝の上で横抱きにされているため、その豊かな双丘は、ずっとはやての目の前にあった。

「そういえば、初めてリインフォースと夢ん中で会ったときも……ちょうど、こんなんやったな」

「……あの夢を、覚えておいででしたか。
 そうですね、こうして抱かせていただいて……初めて、主の騎士と認めていただきました」

「あんときは結局、リインフォースのおっぱいを堪能できへんかったしなぁ。
 本人がええって言ってたんやから、さっさと触らせてもらえばよかったわ」

初めての出会いを思い返し、そのときの心残りを埋め合わせるように。
はやての手はリインフォースの胸の下へとまわり、重みのある胸を持ち上げるように押し揉んだ。

シャマルやシグナムに対しても行われる、日常的な戯れだ。
足の動かないはやてと共に入浴する際には、直に裸の胸を揉まれることすらある。
事実、リインフォースは特に驚く素振りもなく、主の戯れに自らの胸を差し出している。

「……ぁっ」

しかし今夜だけは、リインフォースの反応が違った。
唇からこぼれた微かな―――けれど誤魔化しようのない、性的な欲情を乗せた艶声。

「―――!」

はやては思わず、自分を抱くリインフォースの顔を見上げた。
わずかに上気する頬と熱い吐息をもらすリインフォースは、そんな声を上げてしまった自分に戸惑う。

知らぬうちに劣情が募り―――どうしようもなく体が昂ぶっていた。
感覚器官の失調で気付いていなかったが、先ほどの少女の泣き顔に、このうえなく情欲を掻き立てられていたのだ。

そして、失調を自覚しても把握し切れなかった温度感覚と違い、『性感』自体は未だ失われず正常に機能していた。
結果、発情した体に、まったく無防備に最愛の主による愛撫を受け入れてしまったのだ。

「……」

ごくり、とはやての喉が鳴る。

感情の機微に聡く、そしてそういった方面も知識だけは豊富な少女だ。
リインフォースを欲情『させた』のが自分であることを。
つまり、自分が性的な対象として認識されたという事実を、即座に理解していた。

「主、こ、これは―――」

「……リインフォース」

嘘がばれたとき以上に取り乱し言い募ろうとするリインフォースを、同じく穏やかな口調ではやてが遮る。

リインフォースからそのような目で見られることは、不快ではなかった。
むしろ彼女が人間らしく取り乱す姿はひどく魅力的で―――もっと、見せて欲しいという幼い嗜虐心が鎌首をもたげる。

互いの泣き顔と困り顔が、互いに情欲を掻き立てあう。

片手で胸を柔らかく揉み上げながら、もう片方の手でリインフォースの顎をつまみ、こちらに顔を向けさせる。
胸からの刺激に欲情しつつも臣下の礼を取り繕おうとするその表情は、間近で見れば理性など保っていられない。

「はぅっ……あぁぁ」

「リインフォース。おっぱい―――見せてや」

蕩けるリインフォースにさらに顔を近付け、囁く。

再び向けられたその容貌は、先ほどの泣き顔とは異なる―――リインフォースの上に君臨する、夜天の絶対者としての威容。
そして、従わざるを得ない威厳の中に、少女らしいわがままさと悪戯心も入り混じる、たまらなく蠱惑的な顔。

「はい……」

気がつけば、臣下としての義務ではなく、この少女自身に魅入られたように。
はやてを抱きしめたままリインフォースは、上気し呆けた顔で服従の返事をしていた。

※※※※※※   ※※※※※   ※※※※※   ※※※※※   ※※※※※   ※※※※※   ※※※※※  ※

はやてをベッドの上へと移すと、リインフォースはその傍らでセーターを脱ぎ去り、ブラウスのボタンに手をかける。

普段は情緒に疎く羞恥とも無縁な彼女が、今は主の視線を意識するだけで気分は底なしに昂ぶり、胸がどきどきと高鳴る。
興奮のあまり指が震え、指先の感覚の鈍磨も加わって、ブラウスのボタンすら上手く外せない。

「あ……リインフォース。わたしにやらせて、な」

「え、これを……ですか?」

ベッドに腰掛け、ボタンを外すだけの動作に悪戦苦闘するリインフォースの胸元に、はやての手が伸びる。
壊れつつある彼女を、下半身不随のはやてが逆に介助するような、優しい手だ。

けれど今はその手が襟元にかかっただけで、息が詰まるほどに緊張し、熱い吐息が漏れた。
先ほどのはやての蠱惑的な視線と、それに惹かれて服従した自分のあさましい姿が、脳裏にちらつくのだ。

この手を受け入れることは―――そこから先の全てを受け入れ、引き返せなくなるということだから。

「……っ!」

はやての手で、襟元から胸元へとひとつずつボタンが外されていく。
お世辞にも上手いとはいえない、たどたどしい手つきで。

「あるじ……?」

「はは、ちょう待ってや……リインフォース。もう少しで、ぜんぶ外せるから、な……」

ここで初めて気付いたが、はやての息もひどく上ずっていた。
少女もまたリインフォースをあさましく求め、今の行為に歯止めが利かないほど昂ぶっているのだ。

ほどなくしてボタンは全て外され、背面のホックを外すのももどかしくブラジャーが押し上げられた。

「ああっ……!」

「―――!」

はやてが、言葉にならない、感嘆と興奮の入り混じった溜息をつく。
ついに、白く張りのある大振りの乳房が、ブラウスの合わせ目からまろび出たのだ。

※※※※※※   ※※※※※   ※※※※※   ※※※※※   ※※※※※   ※※※※※   ※※※※※  ※

はやての目の前で、誘うように妖しく揺れる双丘。

これ以上を望むべくもない、人としての情欲をそそる造詣。
それでありながら、まぎれもなく人ならぬ異形の美を秘めた、妖美な裸身。

肌はキメ細やかに白く、柔らかく―――本人が無自覚であろうと、同性の少女ですら抗えないほどの魅力で、人を誘う。

「……触るで、リインフォース」

「ふぁっ……ま、待って、あるじ……ああぅっ!」

すでに欲情のきわみにあるはやてには、目の前にあるたわわな乳房をじっくり観賞する余裕すらない。
不自由な下半身で巧みにベッドの上を這い、胸を晒したリインフォースに圧し掛かって、押し倒す。
同じく限界まで昂ぶっていたリインフォースは、最愛の主に胸を揉まれた瞬間、大きな嬌声を上げた。

感覚が失われつつある壊れかけの体にも、はやての手の暖かさは初めて出会った頃と変わらず、鮮明に感じられたのだ。
無論、たどたどしく、時に力加減を誤って乱暴に揉みしだかれる乳房からの、弾けるような快楽も。

「う、はぁあっ……あぁー!」

触れるだけで手が沈み込むほどに柔らかく、それでいて押し返されるほどに弾力のある、不思議な重量感。
掌に触れる感触もしっとりと心地よく、ずっと触っていても飽きることのない甘美な質感。

力の込め具合でさまざまに形を変える淫靡な胸肉と、それにつられるように身悶え、喘ぎ、声を上げるリインフォース。
大人の女性を組み敷き、恥も外聞もなく乱れさせる行為は、はやての中に眠っていた支配欲を否応なしに呼び覚ます。
その征服感から得られる愉悦は、生まれたときから『弱者』であった少女には耐性が無く、あまりにも刺激が過ぎるものだ。

リインフォースの劣情をそそる反応と、放たれる成熟した女性の色香に酔い痴れて、はやての目の色が変わる。
少女の中で目覚め始めていた嗜虐的な官能に、完全に火が点いた。

「リインフォース。胸揉まれるの、気持ち良ぇん?」

「ん、あ……そんな、こと……くぅ、痛……あ、ああっ!」

問いかけは優しく、いたわるように。
けれどその小さな手は、優しく振舞うだけでなく、ときおりリインフォースの弾力ある胸肉を荒々しくこねてつぶす。

リインフォースはそのつど、乱暴にこねられる乳房の痛みに身をそらせ叫び声すら上げるが―――はやては、止まらない。
通常の喘ぎ声よりも、力加減を誤って痛みを与えた際の叫声にこそ、より恍惚が含まれることに気付いたからだ。

リインフォースは―――表面上はどうであれ、こうして乱暴にされることを望んでいる。
むしろリインフォースが自らの被虐の欲求を満たすために媚態を晒し、はやての嗜虐心を煽り立てているかのように。
はやてのサディスティックな振る舞いは、リインフォースの無意識の欲望を汲み取った、暴走のごとき『奉仕』なのだ。

「わたしの手……気持ちよくないか? なぁ、教えてや―――『祝福の風』」

「は……はい、きもちイぃで……ひゃぁ、あ……んんっ、摘ま、ないで……」

喘ぐリインフォースに、はやては夜天の盟主としての顔で問いかける。

その一言で快楽に溺れていたリインフォースの表情が一変し、鋭利な臣下としての顔を覗かせるが―――
しかしその表情も、続くはやての愛撫で甘く溶けた。

「むねが、あっ、きもち……んん、は、あうぅぅっ!」

主からの詰問に答える臣下の忠節と、込み上げる羞恥心との狭間で、リインフォースは激しく揺れる。
羞恥を抑えて快楽を訴えようとすれば、はやては張り詰めた乳首を刺激し、舐め上げて、そのつど言葉を途切れさせた。

「ああっ……きもちいい、気持ちいいですっ!
 ですから、お願いですあるじ、もう、胸ばかりは……かんべんして、ください……」

「んー、そっか。リインフォースはいやらしい子やな。
 おっぱいだけやなくて、もっと別のほうをいじめてしいん?」

「え……? そ、それはそういう意味ではっ……!」

胸を揉みしだかれながら詰問に答えきったリインフォースの言葉尻を、少女はさらに捉えて追い詰める。

リインフォースは戸惑う言葉を発し、両腕で自らの胸を抱いてむき出しの乳房を隠した。
たがその表情も豊満な体も、幼い少女をさらに誘惑するように、媚を含んで蕩けている。

更なる快楽を望んでいるのは明白なのに、恥じらい、拒むその姿。
はやては我知らず―――リインフォースによって、内なる嗜虐の火に油を注がれ続ける。

「ほんなら、別のところをいじめたるで。
 リインフォースの……いちばん、はずかしいところや」

「そんな……!!」

リインフォースは羞恥の表情を浮かべ、胸を覆っていた手を股間へと下ろし、両手で押さえつけるようにそこを隠す。
両手が下がったことでむき出しになった乳房を再度嬲りながら、はやてはリインフォースに導かれるように言葉を次いだ。

「へぇ……なんにも言うてへんのやけど、そうか。リインフォースは、そこがいちばんはずかしいんやな?」

「これは、その……あぁんっ、はい……恥ずかしい、です……だから」

胸を嬲られ喘ぎながら、リインフォースは潤んだ瞳ではやてを見上げる。
そんな表情で上目遣いで見つめられる夜天の主が返すべき言葉は、ひとつだけだ。

「だから、見せてや。リインフォース」

「……はい、見て、ください。我が主」

はっきりとわかる欲情を浮かべながらも、消え入りそうな声でリインフォースは、主の言葉を反芻した。

※※※※※※   ※※※※※   ※※※※※   ※※※※※   ※※※※※   ※※※※※   ※※※※※  ※

「あは、もう濡れとる……綺麗やわぁ」

「い、言わないで……ああっ、くださ、い……!」

スカートをたくしあげ、タイツとパンティをかき分けて到達したリインフォースの淫裂は、すでに溢れるほどに潤っていた。
はやてはそこを探り当てた指を引き抜くと、濡れるその指を嗅ぎ、舐める。

リインフォースは少女の目の前で四つん這いになり、股間をすべて晒していた。
胸と同じく大振りな白い尻と、太ももの付け根に覗く愛液に彩られた淫裂。
腰の上にたくし上げられたロングスカートと、逆にずり下げられて太ももにかかるタイツとパンティが、更なる劣情を誘う。

「こんなになるもんなんやな……やらしいなぁリインフォースは」

「うぁ、ちが……ちがいます、あるじ、これはあるじだから、は、ああんっ」

リインフォースの弁明は、はやてが淫裂に手をかけて左右に割り開いたことで遮られる。
はやての顔が股間に寄せられ、唇から漏れる吐息があたった。
しばしの観察の後、舌が突き出されて―――刺激を待つ淫裂を直に、舐め上げた。

「はあっ―――うぅんっ!」

はじめはリインフォースの反応を見るようにゆっくりと、そして次第に遠慮無しに激しく、はやては舌を往復させる。
のみならず左右に割り開いた淫裂の奥にまで舌をこじ入れてぐりぐりとかき回し、ときおり陰核にも舌を這わせた。

「くうううぅぅっ、あぅ、はああんっ!」

つたなくも無遠慮に下半身をもてあそばれ、リインフォースは声の限りに嬌声をあげる。
逃れるどころかより愛撫を深く受け入れようと、はやての舌の動きにあわせて腰を振りはじめた。

四つんばいで自ら尻をくねらせ、それにつられて柔らかな乳房までが揺れる。

淫欲と恥じらいで震えるこの胸も尻も、今はすべて、自分1人のためだけにある。
もっと、乱れさせたい。もっと、悦ばせたい。
はやてを支配し続けるする暴力とも奉仕とも呼べる衝動は、さらに行為をエスカレートさせる。

「あひぃっ……イぃ、そこ……っ!」

はやては愛液でべたべたになった顔を淫裂から離すと、代わりにその細い指を膣内へと挿入する。
より太く深く膣内に到達するよう、中指と人差し指を2本まとめての、激しい抜き差しだ。

舌とは異なるいびつな硬さに淫裂をかき回され、リインフォースは背を波打たせ、正気を失って喘ぐ。

淫裂をかき回され、同じ手で強めに刺激される陰核も、痛みではなくそれに比する快楽しかもたらさないほどの発情ぶりだ。
このうえなく蕩けた顔で、すでに口すら閉じ合わせられず舌を出し涎を垂らすリインフォースの痴態に、嗜虐心が煽られる。
はやてはサディスティックな笑みすら浮かべ、幼児を叱るようにその脂の乗った大きな尻を叩いた。

「ちょう、上も下も涎が多すぎや……だらしないでっ!」

「はひッ―――!」

叩かれた尻と、そこから伝わる淫裂や陰核への衝撃が、今までにないほどリインフォースの喉から嬌声を搾り出させた。

「もう……そんなに大声出したらあかんて。シグナムたちが気付いてまうで?
 それとも、おしりとかおっぱいとか、みんなに見られたいん?」

「でも、あるじ……そんなに、おしおき、されたら……んあぁ、おさえ、られませ……んんっ!」

快楽を享受できるなら、家族同然の仲間たちに醜態を晒すことも是であると、言外にリインフォースは告白する。
今の彼女には普段の管制人格としての冷徹さはなく、理性の枷が飛んだ肉欲の獣だ。

支配したい。泣き顔が見たい。艶声が聞きたい。望むままの快楽を与え続けたい。抱きしめたい。ただその存在が愛おしい。

はやてもまた、リインフォースの誘いにより無自覚のうちに理性の枷が外されてしまっている。
未成熟な心が、湧き上がる清濁取り混ぜた欲望に翻弄される。
そんなはやてが衝動的に求めたもの。それは―――

「ふふっ……リインフォース。かわいい声もえぇけど、ちょう黙ってみぃや……」

四つん這いのリインフォースの背後に陣取るはやては、目の前にあるくびれた腰を抱くと、自分の方へその体を引き起こした。
肉欲のままに理性を失っているリインフォースも、だからこそはやての衝動を敏感に察し、身を起こして主へと向き直る。

はやてとリインフォースは、ベッドの上に向かい合って座り、抱き合った。

「リインフォース……」

「ああ、我が主……」

互いの意図を察した2人が、互いの首に腕を回して深く抱き合い―――唇を、寄せる。

「―――!!」

唇が触れ合う程度の、浅いキスだ。

それでも敬愛する主と初めてキスを交わした多幸感に、リインフォースの意識は一瞬で吹き飛び、絶頂を迎えた。
はやて自身もキスだけで眩暈がするほどの衝撃に襲われ、直接的な性的刺激を介さずに体をびくびくと痙攣させて目を剥く。

2人は抱き合い、唇を触れ合わせたまま、力無くベッドの上へと倒れこんだ。

※※※※※※   ※※※※※   ※※※※※   ※※※※※   ※※※※※   ※※※※※   ※※※※※  ※

「……はは、さすがに我に返るといろいろと恥ずかしいことしてもうたなぁ……。
 ちょう……お漏らしてもうたみたいやし……腰も、立たれへん……」

絶頂を迎えてベッドに仰向けに倒れこんだはやては、充足とした脱力感のなかで身の置き場の無い気恥ずかしさを覚えていた。
気がつけば穿いたままのショーツも相当に水気を帯び、絶頂の興奮による失禁か、性的興奮による愛液なのかすら分らない。

同性であり忠実な臣下であるリインフォースに欲情し、責め立て、その精神的興奮だけでエクスタシーを迎えてしまったのだ。
女性の胸を揉む程度の嗜好はあったが、ここまでのアブノーマルな性癖を自覚させられてしまった精神的打撃は大きい。

「うーん……これからさき、普通の恋愛とかできるんやろうか。
 すずかちゃんやフェイトちゃん相手にこんなふうに欲情したら、どないしよ……」

実際にはリインフォース自身が、少女すら抗えぬ色香で理性を酔わせて乱れさせたことが原因であり―――
そしてその被虐願望を汲んだはやてが、リインフォースの望みのまま献身的に『奉仕』した結果なのだが。

その当のリインフォースは、少女を押し倒す形でぐったりと脱力して、未だびくびくと絶頂の余韻を味わっている。
ただでさえ足の動かないはやては、圧し掛かっている豊満な肉体が邪魔で、自ら動けない状況なのだ。

できるならば、リインフォースが目覚める前に体の下から抜け出して、汚れた衣服と下着だけでも取り替えておきたい。
マスターとしての矜持と言うよりも少女としての自尊心が、気だるく力の入らない体を動かす。

「ふあ……? あるじ……?」

「あ、リインフォース。気がついたんや……て、へぇぇ!? ちょ、ちょう待ちや!?」

はやてが体の下で動き始めたことが気付けになったのか。
リインフォースもまた気だるげに目を開け、焦点の定まらない紅い瞳ではやてを見据える―――と。
その体をはやてから離すわけではなく、再び淫靡に身をくねらせてキスを迫ってきたのだ。

「ああ、我が主……もっと……もっとおねがい、します……もっと、お仕置きしてください……」

「むうっ……!? あへぇぁぁ……」

先ほどまでと異なることといえば、リインフォースがより積極的に唇を吸い、舐め、貪ってきたこと。
絶頂を迎えてクールダウンしたはやてと異なり、リインフォースの内の淫火はさらに燃え上がり快楽を求めているのだ。

「ぜ、ぜんぜん満足しとらん……っていうか、もっと、して欲しいんか……リインフォース?」

「はい……あるじ……だから、もっと……」

絶頂により、さらに濃くなった淫香を放つ女体。
それが恥も外聞も無く9歳の足の動かない少女に抱きつき、色事をねだる。

それほどに慕われ求められることは、この上ない幸福だ。
擦りつけられる肉の柔らかさと温かさは、冷静さを取り戻し倦怠に包まれた少女の情欲をも、再燃させる。

だが同時に、はやては戦慄する。
このままリインフォースと情事を続けるのは、むしろ望むところだ。
リインフォースが求める限り、体力の続く限り、奉仕し続けたい。

けれど―――リインフォースは間違いなく『今以上』の快楽を望んでいる。
はやてを求めるのは、他ならぬはやてによって火をつけられた官能の、より以上を期待してのことだ。

しかしはやては被虐を望む『雌』に対して、それを満足させ得る技術も知識も経験も、持ち合わせていないのだ。

もどかしい。

これほど求められながらも、リインフォースをより高みに導けないこの身が情けない。
もし逆にリインフォースがこの体の蹂躙を望むなら、喜んで差し出すことが出来るというのに。
望まれているは、少女の手による更なる蹂躙のみなのだ。

そして―――そんな淫靡さと焦燥とが煮詰まった部屋の、扉が開かれたのはそのときだった。

※※※※※※   ※※※※※   ※※※※※   ※※※※※   ※※※※※   ※※※※※   ※※※※※  ※

「え、しゃ……シャマル!?」

「あら、はやてちゃん。それにリインフォースまで。おふたりで、何をしていらっしゃるのですか?」

ノックもなしに扉を開けてはやての部屋に入ってきたのは、妙齢の金髪の女性。
リインフォースと同じくはやてに仕える騎士の1人、『風の癒し手』シャマルだった。

その問いかける口調とは裏腹に、まるでこの部屋の出来事をすべて把握しているような落ち着きぶりだ。
いや―――実際に事態を把握しきっての行動である可能性が高い。
普段は規律と忠節に則るこの女性が、ノックや呼びかけも無く主の部屋に入ることなどありえないのだから。

「ふあぁっ……あ? シャマル、か……?」

そしてはやての挙動でやっと新たな闖入者に気付いたリインフォースは、くすんだ瞳でシャマルを見上げた。
意識が現実を理解するまでに、さらに数秒。
そこではじめて我に返ったリインフォースは、はだけたスカートと胸元をバタバタと隠すと、身を起こしシャマルに向き直る。

「シャマル、何故お前がここに……!」

「じゃあ先に聞きますけど、貴女こそそんなにだらしない顔でお尻をフリフリしちゃって。
 はやてちゃんの部屋で2人きり、いったい何をしていたのかしらね〜?」

「……っ、それは……!」

すでにこの上なく手遅れな状況だが、それでも取り繕うとするリインフォースの言葉を、シャマルはあっさりと遮る。
そして思わせぶりに部屋を見回すと大げさに息を吸い込み、ベッドの上のリインフォースを小悪魔的な笑みで見据えた。

「んっ……いい匂い。貴女も、こんなふうに可愛く乱れることができたのね」

「あ、あのなシャマル。シャマルはなんで……ここに来たん?」

「ずいぶん楽しそうな声だったから、来てみたんですよ。
 はやてちゃんずるいですよ。こんなに愉しそうなこと―――私も、混ぜてくれなきゃ!」

発した言葉通り、愉しげに乱れた着衣の2人を眺めると、自らいそいそと服を脱ぎ始めるシャマル。
しかしはやては、呆けた頭の中でもシャマルの言動には裏があることを察した。

私生活において多少のそそっかしさはあるものの、シャマルの思慮深さとはやてへの忠義は疑いようがない。

周りへの注意を怠り情事に流されてしまったのははやての失態だが、逆にそれだけ同居している騎士達を信用している証だ。
たとえ情事に気付いたとしても、騎士達なら聞かなかったふりをしてくれるはずだったと、はやては確信している。

つまり―――あえてここに姿を現した今のシャマルの行動には、何らかの意図があるはずなのだ。

(……ごめんなさい。何もなければ、知らないふりをしていたんですけれど。
 ちょっとリインフォースが、はやてちゃんを困らせちゃっていたみたいなので、僭越ながら……)

(!!)

そしてそれに続くはやてにのみ向けられた思念通話は、思慮深く少し申し訳なさそうな、いつものシャマルのものだった。

やはり、見守られていたのだ。
理性を失ったリインフォースの貪欲さにはやてが飲まれかけた為、フォローに出てきたのだろう。

(……おおきにな、シャマル)

(いえ……それに少し、私も羽目をはずさせてもらいますから。
 はやてちゃんにもノリでいろいろ余計なこと教えちゃうかもですけど、そのあたりは覚悟しといてくださいね♪)

(あはは……ちょう、おてやわらかに、な……)

優しげに―――そして猛禽が小動物を狙い定める鋭利な眼で、シャマルはリインフォースを捉えた。

※※※※※※   ※※※※※   ※※※※※   ※※※※※   ※※※※※   ※※※※※   ※※※※※  ※

「うふふっ、リインフォースってばこんなに蕩けた顔しちゃって。
 知ってますか、はやてちゃん。こんな可愛い顔、ずっと一緒に居る私達にも見せたことがないんですよ?」

「え……そうなんか、シャマル?」

「闇の書の改悪のおかげですっと、この子が『体』を持てたのは完成から暴走して破壊されるまでの一時だけでしたから。
 その間にはエッチなことする余裕もないし……だから、こっちの経験なんてほとんどないんです」

「やめろ、シャマル……主の前ではっ……!!」

「あら、そのはやてちゃんにワガママをいっぱい言って困らせちゃった罰よ。
 経験が伴わない耳年増な2人だけでことを進めても、上手くいくわけないんだから。
 このシャマル先生が、大好きな夜天の主さまの前で……恥ずかしく乱れさせてあ・げ・る♪」

服を脱ぎ去り素肌を晒したシャマルは、ふるりと胸を揺らしながらベッドの上に座るリインフォースへと歩み寄る。
リインフォースはつい先ほどまでのはやてに対するような強引さは影を潜め、怯えるように近寄るシャマルを視線で威嚇した。

しかしリインフォースの言葉と態度が本心でないことは、すでにはやてにすら見透かされた事実だ。
どう口で抗おうと、彼女はベッドの上にぺたりと腰を下ろしたままで、歩み寄るシャマルを拒絶しない。
やはりリインフォースは―――どこまでも被虐を望んでいる。

「そうそう、ちゃんと待っていてくれるなんて……いい子ね」

「あぁ、シャマル……ゆるして……」

ついに目の前にまで来たシャマルはリインフォースのあごに手を添えて上向かせ、その唇に吸い付く。
はやてとリインフォースのついばむような口づけとは明らかに異なる、肉欲を貪るための濃厚なディープキスだ。

「―――ッ!!」

唇が触れると同時に侵入したシャマルの舌に、口内をぐるりと舐めまわされる。
ただそれだけのことで呼び起こされる官能のあまりの大きさに、リインフォースは目を剥いた。

はやてとの口づけは、それだけで絶頂に至るほど精神的に満ち足りたものだった。
しかし技術と経験に裏付けされたシャマルのキスは、はやてに与えられた幸福感を、ただただ圧倒的な快楽で押し流す。

同時にシャマルは唇を吸い上げたまま体を淫靡にくねらせて、自分の胸をリインフォースの乳房に押し付ける。
互いの豊かな胸が圧迫されて揉み合い、キスとの相乗効果で体中が蕩けるような陶酔感を生み出した。

そしてはやては、2つの熟れた肢体がベッドの上で絡み合い唇を貪るさまを、魂を抜かれたように見つめていた。

「ふぁぁ……あっ!?」

息が止まるほどに長く続けられたディープキスも、やがて頃合いを見定めたシャマルの顔が退き、唇が離れる。
その唇を―――リインフォースは思わず、名残惜しげに舌を突き出し追いかけた。

「あら、はしたないわねリインフォース。そんなにキスが好かったかしら」

「ひゃ……ほぉ、そんな、こと……」

「本当に、そうかしら?」

密着して互いの体を擦りあう愛撫は続けたまま、シャマルは反論しかけるリインフォースの口元に指を伸ばす。
とろりと焦点を失いつつも何か言い返そうとするリインフォースの口内を、今度はシャマルの繊細な指が撫でた。

「ほら、おくち……気持ちいいでしょ、 正直に言ってごらんなさいな?」

「ふぇ、あぁぁ……!」

巧みな指使いでディープキスで貪りつくされた口内の余韻が掘り返され、再び腰を抜すほどの快楽が巡る。

この反応を見る限り―――リインフォースの身体は、シャマルの与える『餌』に完全に屈している。
ただ管制人格としての最後の矜持が、主であるはやて以外に身を委ねることを良しとしていない。
『身体は許しても心だけは』という建前で快楽を貪りつつ、シャマルに心までは委ねていない状況なのだ。

シャマルの助力がなければ、はやてだけではリインフォースを満足させられない。
ゆえにリインフォースには、肉体はもとより精神的にもシャマルによる快楽を受け入れてもらう必要がある。
はやての『協力』も仰ぎ―――徹底的に、リインフォースの抵抗感を溶かしてゆくしかない。

「ほら。こっちのおくちも、ただ抜き差ししたりこね回したりするだけじゃダメなの。
 ちゃんと、浅い所にも奥のほうにも、ものすごく感じられるところがあるんだから」

「あうぅっ、や、ダメだシャマル、そこ……いれちゃ……んんっ!!」

口内を愛撫する傍らで、シャマルはもう片方の手をリインフォースの下腹部に這わせ、淫裂に指を挿し込む。
膣内の急所を知り尽くした指が陰核をも擦り上げながら激しく抜き差しされ、リインフォースは一気に昂ぶった嬌声を放つ。

「ふあぁ……やめて、くれ、シャマル……あるじに、こんなとこ、みせたく……ああんっ!」

リインフォースが口先だけで抵抗の意を示すが、シャマルの愛撫を受けながらでは抗議の声も途切れ途切れだ。
一方、はやては目の前で繰り広げられる痴態と、これだけの体が『経験が無い』という事実に興味心身で引き込まれていく。

「まずは一度、はやてちゃん前でみっともなく……イっちゃいなさいな」

「ひっ! ……いぃぃ、だめ、いかされるっ、あるじ……いがいに……あ、あ、あ―――ッ!!」

口内と胸と股間とを柔らかな肉体を駆使して刺激され、経験の無い快楽に押し流されながら。
リインフォースはそれでも言葉では、はやて以外による絶頂を拒絶する。

「そう―――なら、仕方ないわね」

「あ゛あうっ……! え……!? あふっ……シャマル……?」

まさに絶頂を迎える寸前、リインフォースを蹂躙していたシャマルの手も、舌も、体も―――止まった。
絶頂を迎える期待と、はやて以外の手で絶頂を迎えさせられる背徳感に満ちていた意識が行き場を失い、戸惑う。
そして一瞬の戸惑いが過ぎれば、エクスタシーを迎えられなかった渇望がリインフォースを狂わせる。

「ああ、あ、なんで……シャマル!?」

「はしたないわね、リインフォース。はやてちゃん以外にイかされたくないって言うから、止めてあげたのに。
 ……この手は、なにかしら?」

「そ、それ、は……」

リインフォースの唾液と秘蜜で濡れるシャマルの両手が掴むのは、ほかならぬリインフォースの両手首。

絶頂寸前で愛撫を止められたリインフォースは、たぎる肉欲を自らの手で満たそうと即座に股間へと両手を伸ばした。
それを見越したシャマルが、今まさに股間をまさぐろうとしたリインフォースの手を抑えたのだ。

「ねぇ……なにを、しようとしたのかしら。ほら、このいやらしいおくちで言ってごらんなさいな」

「うあ、あ、あ……じぶんで、イこうと……して、ました。おねがいだから……もう、イかせて……シャマル……」

本来ならばより上位の立場にある自分が、統括するプログラムのひとつに過ぎないシャマルに、蔑まれた目で見下される。
恥も外聞もなく自慰で絶頂を迎えようとした行為ですら阻まれ、さらに自らの言葉での説明を強いられる。
哀れさと浅ましさを自覚させられたリインフォースは涙すら流し―――それでも絶頂させられることを懇願する。

従属の屈辱と歪んだ喜悦が、リインフォースの背筋を這い上がる。
それは同時に、シャマルが誘導したリインフォースの『抵抗感』が綻んだ瞬間でもあった。

「はい、よくできました♪
 じゃあ、素直になれたご褒美に……こっちも一緒に、気持ちよくしてイかせてあげましょうか。
 リインフォースのお望みどおり、はやてちゃんに、ね?」

「へっ!?」

リインフォースの懇願を受け入れたシャマルの目が、食い入るように2人の媚態を見ていたはやてに向けられる。
はやては我知らず胸と股間をまさぐっていた手を引っ込めると同時に―――シャマルによって示唆された場所を見詰めた。

向かい合い、キスを交わし胸を揉み合わせながら抱き合う、シャマルとリインフォース。
シャマルの両手がリインフォースの背中を這い下り、丸みを帯びた尻の肉にかかると、そこを割り開いたのだ。

「あ……」

「ぁふぅ、そこは……!? だめ、シャマル、そっちは……ああ、あるじ……見ないで、くださいっ!!」

むき出しにされたのは―――リインフォースの、尻穴。
先ほどからはやても幾度も目にしながら、他に魅力的な部位が多すぎて、愛でられず味わえなかった場所。

そこを愛でた際のリインフォースの痴態を想像するだけで、はやては胸が高鳴り、湧き上がる卑俗な興奮で眩暈すら覚える。

「あらあら。こんなこと言っちゃっけますけど……はやてちゃん、ご主人様としてどうかしら?」

目の前に晒されたリインフォースのアナルに、我を忘れたように魅入られるはやて。
熱に浮かされた忘我の表情で、見ようと、嗅ごうと、触れようと、動かない足を引きずって、ベッドの上を移動する。

そして―――なかば催眠術にかかったように荒い息をつき、シャマルに誘導されるままにリインフォースへと命じた。

「隠したら……あかんで、リインフォース。やらしくて……でも、かわいいお尻のあなや。
 もっと……よく見せて、くれへんか?」

「そん、な……おゆるし、を……く、あぁ……」

「だめよ、リインフォース。はやてちゃんも言ってるでしょ。『よく見せて』あげるのはあなたの役目なの……ほらぁ」

やはり、リインフォースが拒むのは、言葉の上だけだ。
倒錯的な欲求が満たされ、さらに主に望まれるならば、そこに拒む理由はない。
シャマルに促され、リインフォースは自らの手で尻を割り開き腰を突き出して、はやての目の前にアナルを晒した。

「あうっ……見ないで、嗅がないで……ください」

「んっふふ。そんなところを、嗅いでほしいの?
 リインフォースのこっちのおくちは、嘘つきですからねぇ」

「舐めるで……リインフォース」

リインフォースの足元まで這い寄ったはやての、小さな舌が―――滴をすくい上げるように突き出される。
求め、舐め取るのは当然、その可憐で淫靡な尻穴だ。

「ふぅっ―――あああぁぁぁっ!!」

再びディープキスで口を塞がれ、乳房を嬲られ淫裂を掻き乱されながら、敬愛する主にアナルを差し出して。
リインフォースは、求め続けた絶頂へと導かれた。

※※※※※※   ※※※※※   ※※※※※   ※※※※※   ※※※※※   ※※※※※   ※※※※※  ※※

※※※※※※   ※※※※※   ※※※※※   ※※※※※   ※※※※※   ※※※※※   ※※※※※  ※

狂乱の『宴』が終われば、後には現実が残るばかりだ。

あの後もシャマルとはやての2人がかりで何度も絶頂に導かれ、その宴ははやてが力尽きるまで行われたのだ。
主は今は、汚れた身を清め、シーツを取り替えたベッドで、ぐっすりと眠っている。
その後の始末をシャマルにまかせて、リインフォースは自分の部屋へと廊下を歩いていた。

もとより主と自分がしでかした事なのだから、シャマル1人に後始末を任せるのは気が引ける。
けれど、そのまま倒れかねないほど疲労を見透かされてしまえば引き下がるしかない。
正直、シャマルとはやての2人がかりで責められた体は泥のように気だるく、足元すらおぼつかないのだ。

「……」

情事の興奮がが鎮まってしまえば、残るのは朽ちる寸前の体。
あれほど高揚し、髪の毛一筋であっても鋭敏に感じたはずの肌も、今は鈍い触感を伝えるのみだ。

ふと、手の甲に薄く、血が滲んでいるのに気付いた。
真新しい引っかき傷。
情事の最中に、ついたものだろう。

戯れに傷口を舐めてみるが、案の定、痛みも、触れた舌の感覚も、ほとんど感じられない。

やがては―――最愛の主に触れても、何も感じられなくなるだろう。
その喪失感と比べれば、痛みすら愛おしい。

「……?」

そこで初めてリインフォースは、自身の心境の変化に気付いた。
つい数時間前、庭で1人思索にふけっていた際には、消滅など単なる通り道としか感じていなかったはずだ。
別れは必然であり名残など何も無いと、残される主の心境をこそ気遣っていたはずだ。

けれど今は、感覚の喪失を―――そしてその先にある主たちとの別れを、怖れているのではないか。

主たちと、肌を重ねて情が移ったのか。
それとも単純に、消滅すれば今夜知ってしまったあの快楽を味わえないことを、浅ましく悔やんでいるのか。
ならば残された日々、快楽に溺れて刹那的に過ごしてしまおうかという自虐的な考えさえ、浮かんでくる。

「―――リインフォース」

「!!」

思索の途中に不意に呼び止められるのも、今夜2度目だ。
しかしその声は主であるはやてのものではない。
野性味と包容力のある姿が思い浮かぶ、シャマルと同じ同胞―――『蒼き狼』。

「……ザフィーラか」

リインフォースの部屋へ続く廊下に、ザフィーラが佇んでいた。
普段この家では主を気遣い獣の姿で過ごしているが、今夜はもうひとつの姿である精悍な男性だ。

「手を貸そう」

寡黙な守護獣は、何も言わず、何も聞かず、歩くのにも難儀していたリインフォースに歩み寄ると、ごく自然に肩を支える。
すでに夜明けに近く、いかに夜目が効くとはいえ電灯も点けずに、そこに立っていたのだ。
彼が自分を待っていたことは、容易に想像できた。

「……おせっかいな風の癒し手が、伝えていたのか?」

「それとなく、わかるものだ」

ザフィーラは彼女の肩を取ると、ごく自然な動作で前に回りこみ、その背中に担いで待ち上げた。
当然、肩を貸すものとばかり思っていたリインフォースは、背負われたことで顔を赤くして、困惑の声を上げる。

「ザフィーラ、私は何もそこまで……」

「大事をとっておいたほうがいい。滅びのときが、近いのだろう?」

「なぜ……いや、私のシステムが読み取れたのか!?」

管制人格たるリインフォースには、守護騎士システムのステータスを把握する機能がある。
無論、下位システムの守護騎士の側が、より上位にあるリインフォースのコンディションを覗くことは不可能だ。
けれど崩壊が迫ったことでプロテクトに綻びが生じて、自身の状態が知られてしまったのではないかと考えたのだ。

「システムに依らずとも、言葉を待たずとも、立ち居振る舞いからその程度は分かる。
 悠久の戦乱に明け暮れた闇の時代でも、我らは、そのくらいの絆は育んできたはずだぞ」

「……!!」

まるで人間のように―――生きているかのように。
データを読み取ることでではなく、普段の生活の様子が異なることで、その異変の内容までをも察したと。
ザフィーラは、こともなげに言ったのだ。

「……ははっ」

「どうした?」

背負うザフィーラに、リインフォースの表情は見えない。
しかし、その声が泣き笑いであることはわかる。
ザフィーラの背中へと鼻を押し付け、大粒の涙を流しての、泣き笑いだ。

「お前が昔から優しかったことを、いまさら実感したまでだ。
 いやきっと、シャマルも、シグナムも、ヴィータも……みんな、気付いていたのだな」

「……」

「最高の仲間と、最高の主だ。いや、これが―――これこそが『家族』か。
 今、この時を過ごせるだけで至福だと思っていた……つもりだったのだが。
 どうやらそれは、私自身の誤解だったようだ」

まるで今夜の主のように大泣きし、鼻をすすり、それをザフィーラに晒すのが気恥ずかしくて上を向く。
それでも涙は止め処なくあふれ出し、堪えた分、より大粒となってぽろぽろとザフィーラの背中に落ちていった。

「……悔しい。
 こんなに幸せなのに、私だけが離れて逝かざるを得ないこの運命が、憎い。
 もっと……みんな、と……うぅ……一緒に、居た……かったよ、―――ザフィーラぁっ!」

ザフィーラの背で、リインフォースは少女のようにむせび泣く。
ザフィーラはただ、無言で彼女を背負い、歩いた。


著者:くしき

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