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「駄目や、間に合わへん!!」

聖王のゆりかごのポイント到達まで残り僅かの時になり、はやては焦り始めている
内部の様子が一向に見えて来ない事が不安になり、武装隊を突入させようとするが
ガジェットの猛攻にむしろ被害を無駄に増やす結果となってしまう。
現在、聖王のゆりかご内部には機動六課のスターズ分隊隊長高町なのは、副隊長ヴィータが単騎で突入している
しかし、どちらからも連絡が届かない、念話も不可能の様だ
その上捕らわれたヴィヴィオの事もある、事は一刻を争うというのに。

『はやて!こっちは終わった!すぐにそっちに向かう!状況の説明を!』
「フェイトちゃん!」

スカリエッティのアジトに突入していたフェイトから通信が入る、どうやら片が付いたようだ。
緊急時の為かコールサインを忘れているが、そんな事を気にしている暇など無い

「今現在なのはとヴィータが単騎でゆりかご内に突入、連絡は無し、恐らくは通信妨害の魔法か……」
『了解、私が行く』
「でも、もう時間が!」
『間に合うよね、バルディッシュ』
『Yes, sir』
「……了解、でも無茶はせぇへんでな」

通信を切り、近くを飛んでいたガジェットの小隊を軽く吹き飛ばす。
先程エリオとキャロから入った通信から考えると、フェイトは既にかなり危ない状態なのは分かっている
だが、それでも頼らざるを得なかった、今この場で動ける強力な人材が居なかったのである。
本当は自分が行きたかった、しかしそれは指揮官の身分であるはやてには無理な話だ
それに、はやて自身も自分の限界を知っての決断だった。


通信を切る
ゆりかごまで後少しだが、濃いAMFの中でライオットモードを使ってしまった事による魔力の消耗がかなり激しい
もって後数分だろう、そう自分で計算する

「ごめんね、バルディッシュ、こんなに無茶させちゃって」
『No problem』
「ありがとう。それじゃあ、もう一頑張り……いくよ、バルディッシュ!」
『All right.Sonic Move』

高速移動用魔法の展開、フェイトの十八番でもある飛翔魔法で一気に距離を詰める
確実に目の前に迫ってくるゆりかご、スピードと距離から、凡そ十数秒で接触するという位置と確認できた。

「こちらロングアーチ0、機体に開いている穴が目印や、そこから飛び込んで探して。
それと、任務はスターズ1、スターズ2、聖王の器……ヴィヴィオの確保が最優先、他の事は可能な限り控えるようにな
回収、撤退が完了次第、あたしが本体を落とす」

随分と豪快な作戦ではあるが、選ぶほどの策が無いのも事実だ

『ライトニング1、了解』


見れば、一つだけ大きな穴が開いている、恐らくなのはとヴィータが開けた穴だろう
そこに向かって一直線に飛び込むフェイト。
其の様子は、一筋の黄色い閃光が吸い込まれていく様にも見えた。

「ライトニング1、ゆりかごに……突入!?もう時間が!」
「構へん、フェイトちゃんなら大丈夫」
(お願いや……フェイト、あの三人を救ったって!)

親友と幼子の安全を祈る事しか出来ないもどかしさに悪態をつきたくなるが
背後に迫っていたガジェットを打ち倒して無理矢理押さえ込む

「残り12分……皆、持ちこたえてな!」
「「「おうっ!」」」




フェイトが突入してから数分が経過しているが、脱出者は確認出来ない
その間にも、時は無情にもリミットへと近付いていく

「残り7分です!」
「詠唱開始、皆は防御と通信をお願い!リイン!」
「はいですっ!」

先刻、シグナムと別れてはやてと合流したリインフォースと融合し、砲撃魔法の詠唱を始める
既に魔力も兵力も残り僅か、ここで決めなければ全てが水泡に帰してしまう
しかし、フェイトは未だに姿を現さない。

「残り4分!」

親友を犠牲にしても良いのだろうか、否、そんな事は断じて出来ない、ましてや命の恩人になど
親友の為に多くを犠牲にしても良いのだろうか、それも出来ない、八神はやての選んだ道にそんな人間は居てはならない

(フェイトちゃん……早くっ!)

「残り3分……あれはっ!」

ゆりかごから飛び出してきた黄色い光、それは一直線にこちらに近付いてくる

『こちらライトニング1、ゆりかご内にてスターズ2、ヴィヴィオを保護、それと――』

閃光は目の前で停止し、三人が姿を現す
一人は満身創痍のフェイト、一人は意識を失っているヴィータ、そしてボロボロな姿のヴィヴィオ
それを見て安堵の表情を浮かべるはやて、だが次の瞬間には驚愕に顔を青ざめさせていた。

「――フェイトちゃん!なのはちゃんは!なのはちゃんはどないした!?」

ただ一人、姿を見せていない人物が居る事に気がついたからである

「――それと、スターズ1より伝言を承っております」

その言葉に気付くはやて、あの船にはあと一人……


『ナンバーズの残党を確認、逮捕・保護します、反抗の意思有りにつき、現在交戦中』

作戦を知りながらも、自身が単身だろうとも敵であっても、誰一人死なせたくはない
それは、誰もが予想もしていなかった彼女の優しさ、伝えるフェイトの顔を幾筋もの涙が零れ落ちる

『私は大丈夫だから、絶対に帰ってくるよ』

そこまで伝えて崩れ落ちるフェイト
そばに待機していた隊員がその体を支え、安全な場所へと退避する

「なのはちゃん……」
「残り2分!」

沈む感情に身を任せる暇も無い、ここは戦場である、涙を堪えた瞳でしっかりとゆりかごを見据え

「総員退避!内部の安全確認!これより砲撃を行う!」

はやての指揮により全ての武装隊が戦地から離れる、これで隊員への被害は無いはずだ

(なのはちゃん……あたしはなのはちゃんを信じる、だから、帰って来てね……!)


「響け終焉の笛……ラグナロク!」

白い魔力の砲撃が、視界を包み込んだ。







―――数日後
戦闘機人事件は、その事後処理も含めて全て片付けられていた。
聖王のゆりかごはヴィータが駆動炉を破壊し、はやての砲撃魔法により墜落した
瓦礫に埋まった内部から破壊された戦闘機人No.4、負傷したなのはを保護、
また、その瓦礫は丁寧に運ばれ、研究材料として使われる事となった。
事件の首謀者スカリエッティは緊急に裁判にかけられ、刑を言い渡された
その結果、今後の人生をAMFが多重に掛けられた一室で研究者として終える事となるだろう。
ナンバーズは保護・研究の下、スカリエッティの情報を取り除かれ
身体能力を制限した上での観察保護となっている
しかし、破損状況の酷いNo.4のみ、戦闘機人システムの解明の為分解、研究材料に回される予定だったが
その際、その他の戦闘機人11機が猛反発、これを受けて予定を変更
No.4はスカリエッティの下で修復作業に入らせた。
先の襲撃で破壊された建物の修繕も滞りなく進んでいる

こうして、機動六課最初の大仕事が終わった。


ただ一つの犠牲を残して


アースラ艦内、医務室

「様子はどう?」

落ち着かない様子で尋ねるフェイト、今はオフの為私服を纏っている
同じ部屋にはスバル、ティアナ、エリオ、キャロ、そしてザフィーラが居るが
誰一人として戦勝の喜色を表す事無く、数刻前と同じ表情で首を横に振る

「そう……」

言わなくても分かるのだろうが、改めて深く息を吐くフェイト
彼女の心配は他でもない、未だ目を覚まさない親友の為に有った

なのはがここに運び込まれた時は、見るに耐えない状態だった。
バリアジャケットはその機能を殆ど失っており、ただの衣服とも変わりないほどに壊れていて
レイジングハートも、恐らくブラスターモードを酷使したのだろう、その形状を維持しているのがやっとであるほど。
それでも、最も酷かったのはなのは自身の身体だった
無理も無い、魔力が空に等しい状態で大規模な崩落に巻き込まれてしまって、生きているのが不思議な程だ
しかし、シャマルのクラールヴィントを最大限に使用して尚、生死の境を彷徨い、奇跡が起こった今も昏睡状態が続いてる。

「身体の方は何とか持ち直していうから、近い内に意識は戻ると思うの」

これはシャマルの言葉である
クラールヴィントとて伊達じゃない、むしろ久しぶりの活躍にその能力を十二分に発揮していた
それも有ってか、なのはの生命活動は安定しており、意識が戻るのは時間の問題である。


「それではフェイトさん、私達は午後の訓練に戻ります」

ティアナの言葉に、フォワードの4人が退室する
今回の事件の功績により、休養と隊宿舎の修繕も兼ねて機動六課全員に長い休暇が与えられていた
だが、若い隊員達は

「身体を動かしておかないと落ち着かないんです」

と、毎日普段通りのトレーニングを続けている
部屋を出て行った4人もナンバーズとの戦いで疲弊しているはずなのだが、そんな様子は微塵も感じられない
過酷なトレーニングのおかげなのだろうが、何故か不思議と心配になってしまう
また、ザフィーラはなのはのボディガードの任務を自ら買って出ている。

「う……ん」

その時、ベッドの上でなのはが呻く、意識が回復したらしい

「なのは!」

急いで駆け寄るフェイト、顔を覗き込むと、薄らと目を開けているのがはっきりと分かった

「フェイト……ちゃん」
「うん……なのは……なのは……!」

数日ぶりの声に涙し、なのはの身体に顔を埋めるフェイト、その頭をそっと撫で、なのはが柔らかく微笑む
しかし、なのはからは見えないフェイトの表情は、安堵のものだけではなかった。
なのはが身体を起こそうとして、その違和感に気付く

「……え?」

辛うじて一命を取りとめたなのはは、その時既に大きな代償を払っていた。


「魔力が……戻らない?」

その日の夜、一室に集められた機動六課メンバーに向けてシャマルから告げられた言葉に、事情を知らない者達が固まる
事情を知る者も、その現実に顔を塞ぐ

「なのはちゃんの身体がもう大丈夫なのはこの前言った通り、もう健康そのもの、
だけど、リンカーコアの破損が酷くて……本来なら少しずつ回復する筈なのに、その兆候が見られないの」

リンカーコアの破損、普通では考えられない事だった
通常通り、もしくは多少無理をしても時間と共に元通りになるのが一般の常識である
だが、なのはは以前から常人以上の無理を続けている上に、先の大戦での限界を超えた消耗により
魔力の源であるリンカーコアが破壊、及び機能停止にまで至ってしまっていた
幸いにも形状は留めている為、機能が戻れば普段通りに回復はすると付け加えられた。
事実を隊員に伝えた後、シャマルはなのはと特に親しい数名のみを集めて、改めて告げる

「今のなのはちゃんは精神的にかなり追い詰められてる、彼女の前では魔法の類の話はしないようにね、
それと、フェイトちゃんとはやてちゃんは出来る限りなのはちゃんのそばに居てちょうだい」

この場所に集められた者達――フェイトとはやて、シグナム、ザフィーラ、ティアナ、スバル、エリオ、キャロ
各々がその言葉を理解し、それぞれの活動に戻る
不動のエースオブエースにしてフェイトとはやての幼馴染、そしてティアナ達フォワード陣の無敵の指導教官は
何の力を持たないごく普通の少女として時を過ごして居た。


「なのはさん、調子はどうですか?」

翌朝、早朝訓練から戻って来たティアナとスバルは、なのはの居る病室を訪ねた。
既に目が覚めていたのか、身体を起こして窓から遠くを見ているなのはの姿を目の当たりにして
改めて事の重大さに、自分のではなくても失った物の大きさに胸が締め付けられる。

「おはよう、ティア、スバル」

二人に気付くと、笑顔で挨拶をするなのは
そして少し暗い表情をして、謝る

「ごめんね、私は皆の教官なのに、皆の事を見てあげられなくて」
「いえ、そんな事!」
「あたしも皆も大丈夫です!なのはさんこそしっかり休んでください!」
「ありがとう、二人とも……」

それきり会話が続かず、居辛そうに俯くティアナとスバル、先程の様に外を眺め続けるなのは
沈黙が部屋を支配する中、ただ少しずつ時間だけが動き続ける。

「それじゃあなのはさん、朝ごはんに行って来ますね」
「うん、行ってらっしゃい」

然程時を措かず退室する二人に、出迎えた時と同じ笑顔で見送るなのは
それでも二人が見えなくなってすぐに、窓の外を眺めていた


「スバル、どうする?」
「どうするって……何を?」
「何を、じゃないわよ!アンタは今のなのはさんを見て何とも思わないの!?」
「それは……何とかしてあげたいとは思うけど……」

食堂へ向かう途中、言い争い――というよりは、ティアナの一方的な説教が始められる
二人にとって、なのはは最高の教官であり、一番の先輩である
そして何より、なのはの想いを最も理解しているのは、他でもないこの二人であった。

「だって、リンカーコアの機能が停止したなんて事例は殆ど無いし、それが治った事なんて教科書にも無かったし……」
「教科書に無かったら出来ませーん、なんて言うつもり?」
「でも……」
「あぁもう!そんなに言うんなら勝手にしなさいよ!私は私で何とかするから!」
「待って、ティア!」

早足で歩き出すティアナの肩を掴み、歩みを止める

「あたしだって、なのはさんには良くなってほしいよ……もう一度、空を飛んでほしいよ!」

今朝病室に訪れている間、なのははずっと窓の外を眺めていた、空を見上げていた
なのはの空を飛ぶ事への想い、それはティアナやスバルには痛い程伝わっている

「それじゃあどうする?私達だけで何とか出切ると思う?」
「多分無理、私達だけじゃ足りないよ、それに、六課の皆でも」
「そうよね、六課の人達だけで終わらせられるなら、もう既に動いてる筈よ」

六課の隊員達も、なのはの事を見捨てるという事は考えられない
それでも行動に移していないのは、その可能性を追い求める程に絶望を突き付けられると感じているからである
だが、二人に諦めるという言葉は思い浮かなかったようだ

「リンカーコアを治した事例が無くても、それに近い魔法とかは有るかもしれないわね……」
「でも、あたし達にそんな凄い魔法使えるのかな?」
「やるしかないでしょ。でも、そんな魔法何処にも……ううん、まだ分からない」
「ティア?」

一人で考え出すティアナ、小さな声で何か呟いているがスバルには聞き取れなかった
そして、結論が出たようだ

「スバル、あたしの言う通りに動いて、お願い!」
「あ、うん!」

まだ可能性は有る、ならばそれを手繰り寄せるだけ
若い二人のストライカーは、憧れのエースオブエースの為に走り出す。


二日後、時空管理局本局・無限書庫
まだ外が薄暗い早朝、無限書庫の中に浮かぶ二つの影と、一つの高速で飛び回る影
慌しくも静かに調べ物を進めているのは、他でもない無限書庫司書長ユーノ・スクライアである
また、エリオとキャロもユーノの補佐として協力していた

「リンカーコアの生成……これじゃない、こっちも同じ、纏めてアウト」
「エリオ君、次は左37°先の一列お願い!」
「分かった、ストラーダ!」

ストラーダの加速機能を巧みに扱い、指定された場所の本を取り出すエリオ
本来なら無限書庫内では殺傷系デバイスの使用は禁止されているが、状況と時間により勝手に使用している
尚、当のストラーダは便利屋扱いされて不満の様子。
また、キャロは本を整理し、補助魔法でエリオの機動力、ユーノの読書魔法の同時強化を行っていた
その為負担は3人の中で最も大きく、時折休憩を挟んだりもしている。
ユーノの目の前を本が高速で横切り、後ろで高く積み上げられていく

「この列も外れ……ってもうこんな時間か、二人とも、もう休んだらどう?」

前日の夕方頃からの徹夜での作業である、疲れが溜まらない筈も無い

「いえ、まだ大丈夫です!」
「続けさせてください!」

明らかに元気の無い声で返事を返す二人を慌てて静止するユーノ

「駄目だよ、君達は休みなさい。それに、もうすぐ管理局の人達も来ちゃうしね」

流石に司書長の命令となれば、従わない事は出来ない
デバイスを待機状態に戻し帰っていくエリオとキャロ、別れ際に、おやすみなさいと挨拶をしてくれた。

子供達を帰らせて一息つくユーノ、体力は勝っていても元気じゃ敵わないな、と呟く
軽く休息を取ろうと自室に戻ってすぐに通信が飛び込んで来た

「おはよう、頑張ってるか、ユーノ」
「おや、誰かと思えば僕を頑張らせてる張本人様ではありませんか」

疲れていてもこれだけは忘れない、彼等の挨拶であるいきなりの喧嘩腰

「クロノの頼みなら何が何でも断ってやろうと思ったんだが、今回は別だ」
「結構、それだけで十分さ」

ユーノは引きつった笑顔で通信の相手、クロノへ敵意を剥き出しに答える。



本来なら、今頃ユーノは回収品の確認や分析に各地を駆けずり回っている頃である
そんな彼が今こうしてなのはの治療に尽力出来ているのは、他でもないクロノの指示が有ったからだ。
状況を説明されたユーノは、仕事を放り投げてでもなのはに会いに行くと言い、抑え付けるのに苦労した
なのはが大変なのに僕だけこんな事をしているわけにはいかない、と叫ぶように暴れていたが
司書長が権限を私用に利用するのを認められるほど管理局は空気を読めていない。
そこにクロノが割って入ってきて、直々にユーノへの命令を下したのだ
もっとも、そのクロノもリンディに、さらに遡ればティアナとスバルに丸め込まれた形だが
むしろ機会が有ればと待ち望んでいた事だったので、渡りに船である。


「それで、結果はどうだ?」
「あまり思わしくない、リンカーコアへ直接作用する魔法は事例がほとんど無いし」

一度切り、少し呼吸を整えてから

「……下手すると、死者蘇生の魔法と判断されるかもしれないよ」

死者蘇生、その名の通り死者の魂を蘇らせる事が出来るが、途轍もない危険と実験が付き纏う為
現在は違法行為とされている
稀代の研究者ジェイル・スカリエッティはこの研究にも手を出した為、研究所を追われた程だ。

「そうだな……ユーノ、他に何か思い当たる方法は思い付くか?」
「ん?考えてる中では修理と強化、分裂とかその辺りだけど」

それでも十分過ぎる程の高等技術であるが、無限書庫だけに可能性が無いとも言い切れない

「下手したら違法行為になると言っていたのはお前じゃないのか」

その上、いくつかはギリギリの行為だった。

「なのはの危機にそんな悠長な事言ってられないよ!」
「危機と言うか何と言うか……まあ構わない、相変わらずだな」
「何を今更」
「そうだな」

お互いに軽く噴出す、何とも緊張感の無い会話だった

「そろそろ出勤の時間か、それじゃあ最後に一つ言っておく」
「うん」
「何かするのではなく、たまには何かしてあげたらどうだ、案外良い案が見付かるかもしれないぞ」
「……は?」
「まあ、覚悟次第になるだろうけどな、では頑張れ、フェレットもどき」

そこまで言い切り、返事を待たずに通信を切るクロノ

「最後の最後でそれか……でも、言われたからにはやらなきゃ」

その言葉から何かに気付いたのか眠い目を叩き起こし、無限書庫へ向かうユーノ。

(待ってて、なのは)

微かに冷え始めた早朝から、魔法の発動音が広い無限書庫に響き渡る。


翌日、深夜のアースラ内医務室
淡く光るレイジングハートの反応に目を覚ますなのは

「レイジングハート、悪い人?」
「No.Master」

なのは自身に魔力は無くともレイジングハートには起動するだけの魔力が残されている、
また、シャーリーに頼めば補充も出来るので、レイジングハート自体は問題は無い。
つまり、夜も更けたこんな時間に来客だと告げているのは間違いではない。

「じゃあ、誰なんだろ……こんな時間に」

布団に顔まで埋め息を潜めている内に、ドアが開いた

「なのは、起きてるかな……?」
「ユーノ君!?」

慌てて起き上がると、ややくたびれた格好のユーノが目の前に映った

「ごめんね、こんな時間に来ちゃって」
「ううん、いいよ。けど、どうしたの?」
「やっと見つけたんだ、なのはを治す方法」
「えっ……?」

あのシャマルですら絶望的と言われた事が出来るのだろうか、なのはは疑問に思う。

「大丈夫、なんだけど……」
「?」

言葉尻が妙に弱くなるユーノ

「えっと、もしかして、確実な方法じゃないとか……?」
「いや、そういう事じゃないんだけど……」

暗くてよくは見えないものの、ユーノの顔が何処と無く険しくなっている気がする

「それじゃ、説明するけど……怒らないでね」
「大丈夫だよ、それで、どうすれば良いの?」

なのはがユーノに詰め寄ると、ユーノはしっかりとした口調で説明を始める

「それは……媒体を通して、他者の魔力を吸収し一時的な魔力として蓄える魔法」
「それって、闇の書の蒐集……?」
「うん、それに近い。それをなのはの魔力に代えて、一時的にだけでもリンカーコアを起動させる事が出来れば
後は手助けが無くても回復していくと思う」
「でも、そんな事したら相手の人は……」
「もちろん、危険な状態になるとは思う、
細かい調節は出来ないみたいだし、なのはの魔力資質と比べると、最悪どうなるかは予測がつかない」
「出来ないよ!そんなの!」



自らが助かる方法を否定する、ただ人を傷つけたくないが為に。
だが、ユーノはそんななのはを手で制して

「……僕がするよ」
「ユーノ君!」

なのはは、真剣な表情のユーノを見てその言葉が冗談によるものではないと確信する
しかし、そんな自殺行為をなのはが許す筈など無い

「お願い、僕にやらせて」
「どうして……?」

必死で無謀な行為を止めるなのはに、ユーノは落ち着いた声で語りかける。

「なのは、僕はこの十年間なのはに何もしてあげられなかったし、守ってあげられなかった。
こんな事だけで十年分なんて言わないけど、パートナーとして、なのはの助けになりたいんだ」
「ユーノ君……」


なのはが落ち着いたのを見て安心したのか、軽く微笑むユーノ。

「大丈夫、死んだりはしないから」
「……っ!!」

胸が詰まり、ユーノに抱きつくなのは
身体を預けて子供の様に泣きじゃくるなのはの頭を撫でる

「それじゃあレイジングハート、お願い出来るかな?」
『All right』

身体を離し、レイジングハートを手に取ったユーノの呼び掛けに呼応し、杖の形状に変化させる
それに向かって小声で何かを話した後

「一回分だけ設定しておいたから、今後暴発する心配は無いよ」

レイジングハートをなのはに手渡し、もう片方の手を取る
微かに震えているなのはの手を強く握ると、少し遅れて力強く握り返してきた、なのはも準備が整ったようだ

「それじゃあ、ユーノ君……」
「うん、お願い」

『Deprives』


レイジングハートをユーノの肩に当て、魔法を起動させる
ユーノの身体を緑色の魔力光が包み、その光が少しずつレイジングハートを伝い、なのはの身体に移り渡っていく

「私、元通りになれるのかな……」
「大丈夫、必ずまた空を飛べるようになるよ」
「……ありがとう、ユーノ君」

優しく抱き合う二人、十年間という別離の時くらいでは二人の気持ちは変わらない
パートナーとして以上にお互いを思い遣り、信頼し続ける
今この場でその気持ちを確かめ合い、離れていた距離を埋めていくように体を寄せ合った。

「六課の皆に後でお礼をしておきなよ、皆なのはの為に無茶を通してくれたんだから」
「うん、分かった」
「……一応、クロノにもね」
「ふふっ」

やがて淡い光が輝きを失い、レイジングハートも魔法を止めた
同時に、糸が切れた様に倒れ込むユーノを、優しく受け止め、支えるなのは

『Magic reaction confirmation』(魔力反応確認)

待機状態に戻ったレイジングハートが、ユーノの魔力が無事である事を伝える、
気が抜けてこの数日間の疲労を思い出したのか、ユーノはそのまま眠ってしまっていた
なのはは無防備な寝顔を見せるユーノに微笑んで

「ありがとう、ユーノ君」

軽く頬に口付けを施す。
そして、同じ様に身体を寝かせ、眠りに落ちた。





ユーノがなのはの居る医務室を訪れた数日後
なのはがフェイトに念話で「おはよう」と挨拶をした事がきっかけで小さな騒ぎが起こった。
フェイトからの連絡を受けて慌てて駆けつけたシャマルの検査によって、なのはのリンカーコアが
機能を回復させている事が明らかになる
一度動き出してしまえば後はなのはの資質がそれを後押しし、急激な速度で魔力を回復、
五日後には以前と何ら遜色無いほどに治っていた。
何がきっかけでここまで回復したのか分かる者は居らず、当の本人は何もしていないと語っているが

「そっかー、ラブラブさんなんやなぁ、なのはちゃんにユーノ君」
「な、何で知ってるのー!?」
「そんなん、ザフィーラが一部始終報告してくれたで。
『ベッドの下で警戒していたらユーノが来たので、出るに出られなかった』てな」

はやての言葉に肝を冷やしたのはザフィーラの方である。


退院した後、フェイトやヴィータと共に六課の擬似訓練場に足を運び、魔法の調子を確認する
レイジングハートの調子も良く、攻撃系統に関して言えば全く問題無し、また、防護魔法は以前に輪をかけて
上達しており、隊長陣でもそう簡単には崩せないバリアを軽々と展開し続けられる程
恐らくユーノの魔力のお陰なのだろう、なのはが本来使用する事の出来ないものまで発動していた。

一通り出力の確認を済ませた後、空へと飛び立つ、
暫くぶりの風を切る感触に心を躍らせ、より高く、より遠くを見据える目には先日までの弱さは無い
溢れんばかりの魔力とその奥に小さく、しかしはっきりと感じられるユーノの力を確かめる、
大切な人として、あの時の感情を忘れない様に。









その頃ユーノ・スクライア

魔力の枯渇による連続した欠勤によりその立場を危うくさせていた
また、見舞いに来たはやてによる

「これなんてエ○ゲ?」

という痛烈な突っ込みによる精神的ダメージは相当なものがあったと思われる

「クビになったらなのはの所行こうかな……」

床に臥せりながら、そんな事を考えていた。

著者:28スレ641

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