Charles T. Carlstrom and Andrea Pescatori
このEconomic Commentaryではデフレーションと景気後退、そしてゼロ名目金利に関連する懸念について解説し、そのような状況においてどのように金融政策が執行されるかを説明する。我々はデフレ期待を回避することが鍵であり、そして金融政策当局がデフレ回避のための明確なコミットメントを示すことが必要であることを論じる。また、そのようなコミットメントを理解せしめるための良い方法としての物価水準目標についても論じる。
経済に好・不況の波があるのは避け難いが、経済活動の変動を緩和させるために金融政策が活用でき、また、されるべきであるというのが経済学者や政策担当者の幅広い合意である。しかし、金融政策で使われる通常の方法がある状況においては無効となるような状況が起こりうる。例えば短期金利がゼロ、もしくはゼロ付近にあるとき、金融政策通常の方法が使えない。すなわち短期金利の調節が使えないのだ。そのような環境下で金利を引き下げようとするならば、別の方法を探らなければならない。2008年12月以来FFレートがゼロ付近にある今、アメリカ経済はまさにこのような状況にある。これらの条件の元、金融政策を執行するにあたって連邦準備局は新たな戦略及びツールの採用を余儀なくされている。
金利ゼロ近傍の環境は金融政策にとって問題となりうる別の点を何人かの経済学者は提言している。彼らは金利引き下げ能力の欠如が物価の下落とGDPの下落が相互促進するデフレスパイラルへと経済を押しやる財・サービスへの需要の突然の予期せぬ減少をもたらしうると言う。物価を引き下げる負の需要ショック(短期的にはデフレ圧力)がさらなるGDPの減少をもたらし、デフレプロセスを増幅させることを恐れているのである。この追加的なデフレ圧力がさらなるGDPの下落をもたらす。ポール・クルーグマン(経済学者、ニューヨークタイムズコラムニスト)はこの下方スパイラルを戻って来ることのない「ブラックホール」と名付けた。
*1
このEconomic Commentaryではデフレーションと景気後退、そしてゼロ名目金利に関連する懸念について解説し、このような状況において執行されるべきいくつかの金融政策について説明する。短期金利がゼロであるような状況で金融政策が有効となるためにはデフレ期待を避けることへの明確なコミットメントが必要であることを強調する。また、そのようなコミットメントを理解せしめるためには物価水準目標が良い手段となりうることも論じる。この処方箋は、ゼロ金利が負の需要ショックによるものであるという仮定から導かれているものの、物価の下落は供給ショック、とくに高い生産性向上(悪いことではない!)によっても起こることは強調しすぎることはないであろう。この場合ここで論じられるものとは異なる政策を必要とすることは明らかである。