帝国の竜神様34
1942年4月28日 サイパン近海 愛国丸船内
愛国丸の航海は何事も無く、異世界の時の航海と同じような平穏さで順調に進んでいた。
もっとも、その順調さがかえって怪しく思えるのも、英米の特派員(という事になっている)を連れているからで、
「どうしました?真田少佐?」
「降りますか?真田少佐?」
「いや、考え事をしていただけだ。
コール」
「では、私も」
「奇遇ですな。私も」
「……あんたら、容赦ないな……」
既に簀巻きにされた、遠藤の突込みを無視せざるを得ない俺はめでたく、都合20回目の敗北を迎える事となった。
「博之に遠藤、情けないのじゃ!」
スコーンをかじりながら、ぱたぱたと孔雀の扇子を仰いで撫子が俺達を叱るがどうにもならぬ。
ビクトリア期の最高級ドレスに身を包んで楽しそうにテーブルを眺める撫子の背後に控えるのは巫女姿の黒長耳族の女性二人。どうみても女貴族です。
どうでもいい事だが、撫子には常時四人の黒長耳族が張り付いており、あと二人は部屋の隅で雑務をしながらこっちを伺っているはずである。
護衛という見える脅威をアピールする為に、わざわざ袴に小太刀をぶらさげているあたり、趣味というか文化の勘違いというか。
「何とでも言ってくれ。撫子。
手がことごとく裏に出やがる」
「こういうのは、山本長官の相手だよ。撫子ちゃん。
へっくじゅ!!」
とりあえず、着替えをもってこいよ。遠藤。
って、遠藤つきのフィンダヴェアの姿が消えているから、取りに行っている所か。
もち金で飽き足らず、服まで取られるというのは俺達二人に博才が無い証拠だろう。
人間退屈には勝てず、気を許さないといいながらこの二人の特派員と話をして色々と友好的になりつつあったわけで。
こうして、暇つぶしのポーカーなんぞをする仲にまでいつの間にかなっていたりする。
なお、俺の服が無事なのは遠藤以上の財力を持つお嬢様メイドの綾子様のおかげだったりする。
おまけだが、この極上お嬢様メイドにも黒長耳族の女性が一人お付(護衛)としてついている。
「まったく、お兄様も情けないと思いませんか?
そんな事では、欧米列強諸国と世界で渡っていけませんわ」
最高級シルクで作られたブリルを揺らしながら、宝石のカフスボタンのついたロングスカートメイドに化けた綾子様がこの場でお金を貸していただけなかったら俺も遠藤の二の舞になっていたのだから。
なお、この二人の為に特注で作られた二人の特派員からの「贈り物」だそうな。
どうやってサイズを知ったのかと考えると恐るべし。欧米の諜報機関。
「代わるのじゃ。
今度はわらわが相手をしようぞ。
わらわは、この二人のようにはいかんぞ」
ポーカーを見てしたかったらしい撫子が腕まくりしながら、俺を押しのける。
「では、私も同席しましょうか。
撫子さんの足を引っ張らない程度にがんばりますゆえ」
ふがいなくやられた俺の敵討ちをしたいのだろう綾子も遠藤の座っていたテーブルに座ってダレスとフレミングをにらみつける。
ダレスとフレミングの後ろに一人ずつ、米国人と英国人のメイドが控えている。
彼ら特派員が個人的に身の回りの世話を頼む為という理由で乗っているが、彼女達もダレスやフレミングと同じ同業者なのはメイヴから知らさせている。
つまり、華やかかつ優雅なこの宴のひと時も、俺と撫子、綾子と遠藤を覗いたら皆諜報員だったという実におどろおどろしい宴だったりする訳で。
「いいですよ。
さすがに女性から奪うのは愛だけと欧米では決まっておりますゆえ、純粋にゲームを楽しむとしましょう」
フレミングの言葉に撫子が軽く食いつく。
「おや、身包み剥がしていう事を聞かせるかとおもうたが?」
場の空気が少し引きつるが、この二人は動じる様子も無い。
「はは。貴方を動かすのならばもっと大掛かりな仕掛けを用意しますよ。
ご安心を」
ダレスが場の空気を繋ぎとめたのに、第三者が容赦なくそれをぶち壊した。
「じゃあ、私も混ぜてもらってよろしいかしら?」
巫女服姿の黒長耳族のメイヴは、
「おう。メイヴも入るのじゃ」
まるで戦場で生死を賭けるかの殺気を持って、
「どうぞ。せっかくですから、女性三人で英米の殿方をやっつけましょうか」
にっこり天使のように微笑んで、
「歓迎しますよ」
「ようこそ。紳士淑女の社交場へ」
テーブルに着いた時に鈍い俺と遠藤はやっと悟った。
彼らはこれを望んでいたし、メイヴはそれを防ぐために現れたと。
フレミングが手馴れた手つきでトランプをシャッフルする。
「こういうのは、同僚に上手いのがいましてね。
とにかく、賭け事と女については手が速くて……」
愚痴りながら中央にカードを一枚置いて、メイヴ・撫子・綾子・ダレスの順に一枚ずつカードを渡してゆく。
「今から始めるゲーム、『ブラックジャック』の簡単な説明をします。
簡単に言えば、カードを足して21になれば勝ちのゲームです」
説明という事もあって、フレミングは手早く各自にカードを置いてゆく。
「まず、親と子という関係を理解してください。
今回は私が親で、残りは皆子供という事になります。
ダレスが子供なのは私達からのプレゼントと思ってください」
フレミングの説明に怪訝な顔をする撫子。
「ふむ。おぬしら一緒に戦わんのか?」
「一緒だと私達が勝ちますから。
ダレスをあなた方につけてあげます。
うまくダレスを使ってくださいね」
「信用できるのかしら?」
綾子の突っ込みに、ダレスが苦笑してみせる。
「信用してもらわないと、我々は皆フレミングに毟り取られますよ。
欧米には、『英国人とは博打をするな』と言われるほど彼らは博打好きですから」
ダレスの言葉に不思議そうな顔をする撫子と綾子。
見るからに温厚な英国紳士面をして、博打好きという現実がどうも繋がらないらしい。
「カードの数字は2から10までは、その数字のまま。
J・Q・Kの絵札は10として扱う。
そしてAは任意で1か11にできる……」
ん、何か綾子の様子がおかしい。
不意にメイヴの方を見たと思ったら慌てて視線をこっちに戻すし。
何かテレパスで話しているのかな?
綾子から後で聞いたが、撫子との初対面で、豪快に俺と撫子の営み(夜まで含んで)をテレパスで一気に見せられたとか。
……うん。あの時の話をする綾子はとても怖かった。
(博之様。駄目。目を合わせないで)
俺の方にも来たメイウのテレパスに視線を合わせようとして制止させられる。
(遊びの博打にテレパスまで使うのは卑怯じゃないか?)
(賭け事は人間の本性を暴きだしますわ。
今の段階で撫子様の情報をあの二人に渡したくはないでしょう?)
そういうものなのだろうかと疑念を抱きながらも、メイヴの指示に従う事にする。
(で、何をすればいい?)
(相手もその筋の人間ですから、下手な事をすれば勘ぐられます。
撫子様のそばにいて、常に撫子様の注意をゲームでは無く、博之様に向かわせてください)
(了解。遠藤は?)
(遠藤さまは素の方が相手に悟られませぬゆえ)
納得。
「え?服洗濯しているの?」
「昨日の夜が激しくでまだ乾いていないんですよ〜♪
かわりに毛布持ってきましたから二人で包まって……」
(おい。あの馬鹿っぷるはメイヴの指示か?)
(……お願いですから言わないでください。
後で説教です)
母は大変だ。色々と。
そんなテレパスが飛び交っているとは知らず、フレミングの説明は続く。
「では、ここから一番重要なルールを言います。
第一に、カードが親子含め二枚(最初の一枚は表向きに、二枚目からは裏返しで)配られた時点で掛け金を決めて21に近づけてゆくためにカードを一枚ずつ求める事ができます」
フレミングが自分の手札を晒して説明してゆく。
「Jに8だから私の今の数字は18。
私に勝つためには、18以上の数字を出さないといけません。
だから……」
フレミングは、ダレスの指に応じてカードを一枚投げる。
ダレスのカードは8・6で投げたカードはQ。
「8+6+10=24。オーバーで私は自動的に負けです」
ダレスのチップをフレミングが回収する。
「先に手を作るのは子供というのが、もっとも重大なルールです。
ちなみに、手を良くしようとしたらダレスのようにバースト(オーバー)するリスクもあるという事です。
もちろん、カードを受け取らないという手もあります」
フレミングの説明に綾子が今度は質問をかける。
「フレミングさん。
私の手の場合はどうするのですか?」
綾子の手はKとA。ブラックジャックだ。
「その手だと自動的に私が負けます。
ちなみにその手がブラックジャックと言って一番強いんですよ」
苦笑しながらフレミングが自分の手札にカードを一枚加える。
「で、ルールその二。
親は、子の手札を見てから自分の手札を作ります。
綾子さんのような手に勝つためにはさらに一枚加えないといけないので……」
18だったフレミングの手札に来たのは8だった。
「18+8=26でバーストです。
この時、親は残っていた子供全てに支払いの義務が発生します。
これが重大なルールその二です。
他にも細かなルールがありますが、そのあたりは今度モナコにでもいらした時に教えて差し上げますよ」
フレミングの説明に笑い仮面をつけたメイヴが軽やかかつ刃の含んだ声で確認する。
「つまり、こちらの手を見て親が勝負するか降りるかを決める訳ですね」
「そのとおりです。ミス・メイヴ。
もし、ダレスが14のままでも勝負をして、私が綾子嬢に勝つ為にバーストしていたら、ダレスも勝ってしまうというのがこの勝負の重要なポイントです。
では、二・三回練習した後でゲームを楽しみましょうか」
場を見ると、事態が分かっていない撫子が好奇心旺盛でカードを見つめ、なんとなく察したらしい綾子がハンカチで額の汗をぬぐっている。
あ、撫子についていた二人がさり気なく、ダレスとフレミング付のメイドを取り押さえる位置についてる。
で、ダレスとフレミング付のメイドも対処できるように少しダレスとフレミングから離れているし。
ロングスカートで妙にポケットが大きいなとは思っていたが、中に銃かナイフが入っているんだろうな。
これが、メイヴ達のいた裏の世界なのか。
とりあえず、撫子の隣に座る。
「撫子。俺の敵を取ってくれよな」
「分かっているのじゃ!
博之の応援があれば百人力なのじゃ!!」
嬉しそうに言ってのける撫子に対して、殺気の篭った視線で綾子が俺を見つめる。
「へへえ。
お兄様はいつから、己の不始末を婦女子に助けてもらうまでに落ちぶれましたか」
うわ。綾子の声が凄く低い。
「大丈夫。
あいつはああいう奴だけど、妹の事は忘れた事がない義理堅いやつなのは俺が良く知っている」
ナイスフォロー。遠藤。だから毛布で丸まってないでさっさと服取ってこい。
カードのやり取りを把握したメイヴが声をかけた。
「いいですね?」
「任せるのじゃ!」
「はい」
撫子の肩に手をかけながら、全てを見逃さぬように、テーブルを注視する。
フレミングが芝居かかって恭しく一礼して開会を告げた。
「では、ゲームを始めましょう。
賭けるは乙女の心か?
太平洋の平安か?
全ては運命のカードの導きのままに」
ブラックジャックはそのルールの特性上、出たカードを覚えられるという方法である程度の勝敗が計算できてしまう。
だから、トランプは1ケースでは無く3ケースを使う。
「もう一枚……うわっ!21を超えてしまったのじゃっ!!」
「いえ。もうこれ以上カードはいりませんわ」
にぎやかな二人は置いといて、親のフレミングはディーラーというよりもバーテンダーのような雰囲気でチップをやりとりしていた。
テーブルの上にカードの他にサンドイッチとティーカップが置かれる。
「ちなみにこのサンドイッチというのも英国人のサンドイッチ伯爵が……」
フレミングのトリビアを聞きながら、ぱくぱくと食べるが美味い。
「フレミングとやら。
凄く聞きたい事があるのじゃが、スコーンといい、サンドイッチといい、こんなにおいしいのに本当に英国の食事はまずいのか?」
あ。撫子がどうでもいい所で地雷に触れた。
「こういう場合は英国に滞在していた事もある外国人でもあるミスターダレスに感想を求めるのが筋なのでしょうが……
ミスターダレス。何故、こっちを向かないのです?」
あ、ダレスだけじゃなくメイドもフレミングの方を向いてない。
英国の食事の感想がこの態度で分かるというのは何と言うか。
そんな場が固まる事もある大人の雰囲気でカードと戯れるメイヴとダレス。
勝ち負けを繰り返しながら、二人のチップはゆっくりと積みあがってゆく。
「しかし不思議ですわ。
てっきりそろそろ裏切るかと思ってましたのに」
ぽつりとメイヴが切り出す。
ダレスが親側と通じて、ハイカード狙いで自滅すると予想していたのに、しっかりとフレミングから毟り取っているのに少し驚いているのだ。
「仲の良い友人ほど金勘定については厳選としているものですよ。
私は、フレミングの同僚ともよくカードをするのですが、これが中々負け金を払わない困った奴でして。
『インドをくれてやるからそれで借金を帳消しにしてくれ』とふざけた事を言うのですよ」
笑いながらカードを見るダレスの言葉に、テレパスで覗いていた撫子が過敏に反応しようとした。
(博之さま!撫子様を喋らせないでくださいっ!!)
「おかし……んっ!」
強引に撫子に口付けしてそこから先を言わせなくする。
なお、綾子の殺意の視線はもう、なんというか。ごめん。
「いや、急に撫子の唇が食べたくなって……」
「……ぁ…続きをしていいのか?」
つーか気づけよ。馬鹿竜。この場を。
「夜あれだけやって、まだしたりませんか。お兄様は」
「いやいや。男というのはそういうものなのですよ。ミス綾子。
私の同僚がまた、24時間女と一緒にいないと生きていけないという愉快な奴で何度あいつをドーバー海峡に突き落とそうと思った事か……」
苦笑しながらカードを配るフレミングを尻目に、大急ぎでメイヴに視線を走らせ、撫子経由で俺と綾子もテレパスで繋いでもらう。
(綾子。こっちは見るな。今、テレパスで話をしているんだが……)
(先にメイヴさんから貰っていますから大丈夫です。
なんなんですか!あれはっ!!)
心の中を直接繋ぐからストレートな事この上ない。
(うむ。博之の唇はうまかったぞ。
というか、どうして喋ったらまずいのじゃ?メイヴ?)
差しさわりの無い会話でカードとチップをやり取りしながら、まったく別の領域で繋がって別の話をする女三人。
女はこういうどうでもいい時の場の繋ぎ方が本当に上手い。
(今、撫子様は『その話嘘じゃろう』と言おうとしていたのですよね?)
メイヴの言葉に表面上穏やかながらも驚愕する俺と綾子。
(うむ。ダレスはフレミングの同僚とカードすらしていないぞ。テレパスで探ったからのぉ)
つーか、撫子よ。お前テレパス誰彼構わずやっているのか?
(当然であろう。害意があった時には既に殺されたり捕まって使役を受けかねん世界でわらわは暮らしておるのだぞ。
もちろん、人の全ての意識なんぞ把握できぬし、わらわもそんな事いちいち覚えていないがの)
とりあえず、こういうゲームでのイカサマは禁止だ。
(その話はとりあえず置いとくとして、問題はそういう言葉をどうしてダレス氏が吐いたかという事です。
彼らはその筋――諜報畑――の人間です。
そんな彼らが、こんな舞台を作って、その上で出てきた発言です。
絶対に意味があるはずなんです)
唐突に俺と綾子が悟った。
その筋でずっと生きてきたメイヴが欲しかったのは、この言葉なのだと。
これは、諜報系の裏の外交交渉なのだと。
(ダレス氏のあの話、イギリス政府とアメリカ政府の事を指しているのでは?)
指摘したのは綾子だった。
父の仕事の手伝いで海外の情報はこの面子で一番多く持っている綾子は、ダレスの話からある点を指摘した。
(イギリスがアメリカに戦時国債を買ってもらって戦争をしているのは経済界では有名な話です。
その担保がインドという事なのでしょう)
綾子の言葉に今度は俺がここ最近のイギリス軍の軍事行動を踏まえて考える。
(なるほど。だからマダガスカルを押さえて、インド洋を完全に掌握したのか。
担保が安全に補完されているならば、アメリカも安心して金を貸せるからな)
上の空で表面上楽しくカードをしている面子で今度は、フレミングがぽつりと言葉を吐き出した。
「……また、同僚で一人たちの悪いのがいましてね。
これがまったく女に興味の無い奴……というか、多分自分以外何も視野に入っていない奴なんですがね。
『ナチも信用できないが、大西洋の向こうで金儲けに勤しんでる資本家も信用できない』って」
「ミスターフレミング。
その彼に今度一度資本主義についてじっくりと語り合いたいものなのだが?
あ。ブラックジャック。
このゲームではインドだけでは担保が足りなくなりますよ。
カナダでも差し出しますか?」
「インドシナあたりで勘弁してくれると助かるのですが」
(おかしいのじゃ!
今の会話に嘘がないのじゃ!!)
撫子のテレパスの悲鳴に顔を変えないように、動揺を隠すようにグラスの飲み物に口をつける。
仏領インドシナは帝国が進駐した後、対米戦回避の為撤退したが、本国が混乱しているフランスに統治ができるはずもなく、独立運動が盛んになっているはずだった。
それを、イギリスが戦時国債の担保としてアメリカに差し出す?
というより、どうして彼らはイギリスが勝つというか生存する前提で話をしているんだ?
「あら。チップが無くなってしまいました」
上の空で負け続けた綾子のチップがなくなっていた。
「お貸ししましょう。ミス綾子」
ダレスが断ろうとする綾子の言葉の前にチップが置かれる。
「担保がありませんわ。
体以外に」
ぎりぎりの皮肉を込めた綾子の言葉すら、ダレスには届いていない。
「女性から担保なんて頂きませんよ。
まぁ、強いて担保にもらえるならば……」
撫子は与えられた正逆双方の情報に混乱しており、綾子と俺はあまりの情報量についていけず、遠藤は毛布に包まって傍観者に徹してメイヴは与えられた情報を整理できていなかった。
「第一航空艦隊を。
今年中にハワイの竜を潰すには今ある空母では足りないんですよ」
ダレスの手札はAとKのブラックジャック。
(ダレスは元はスイス駐在員、大英帝国はシチリアやアイスランドのドラゴンとも交渉をしているのでするよ。ミス撫子。
あ、第一航空艦隊は我が国も狙っているのですが)
図ったように、テレパスで読まれる事を前提にフレミングは心の中で撫子に語りかけ、その声は撫子経由で俺達全員に伝わる中、彼は己の手札を晒す。
ダレスと同じAとKのブラックジャック。
はっきりと悟った。
英米はメイヴと同じもしくはメイヴ以上のスパイを持って、撫子に接触してきた事を。
俺は撫子経由でメイヴの苛立ちを感じながら、あまりに芝居がけられた上に手玉に取られたテーブルを眺めて苦笑しかできなかった。
帝国の竜神様34
愛国丸の航海は何事も無く、異世界の時の航海と同じような平穏さで順調に進んでいた。
もっとも、その順調さがかえって怪しく思えるのも、英米の特派員(という事になっている)を連れているからで、
「どうしました?真田少佐?」
「降りますか?真田少佐?」
「いや、考え事をしていただけだ。
コール」
「では、私も」
「奇遇ですな。私も」
「……あんたら、容赦ないな……」
既に簀巻きにされた、遠藤の突込みを無視せざるを得ない俺はめでたく、都合20回目の敗北を迎える事となった。
「博之に遠藤、情けないのじゃ!」
スコーンをかじりながら、ぱたぱたと孔雀の扇子を仰いで撫子が俺達を叱るがどうにもならぬ。
ビクトリア期の最高級ドレスに身を包んで楽しそうにテーブルを眺める撫子の背後に控えるのは巫女姿の黒長耳族の女性二人。どうみても女貴族です。
どうでもいい事だが、撫子には常時四人の黒長耳族が張り付いており、あと二人は部屋の隅で雑務をしながらこっちを伺っているはずである。
護衛という見える脅威をアピールする為に、わざわざ袴に小太刀をぶらさげているあたり、趣味というか文化の勘違いというか。
「何とでも言ってくれ。撫子。
手がことごとく裏に出やがる」
「こういうのは、山本長官の相手だよ。撫子ちゃん。
へっくじゅ!!」
とりあえず、着替えをもってこいよ。遠藤。
って、遠藤つきのフィンダヴェアの姿が消えているから、取りに行っている所か。
もち金で飽き足らず、服まで取られるというのは俺達二人に博才が無い証拠だろう。
人間退屈には勝てず、気を許さないといいながらこの二人の特派員と話をして色々と友好的になりつつあったわけで。
こうして、暇つぶしのポーカーなんぞをする仲にまでいつの間にかなっていたりする。
なお、俺の服が無事なのは遠藤以上の財力を持つお嬢様メイドの綾子様のおかげだったりする。
おまけだが、この極上お嬢様メイドにも黒長耳族の女性が一人お付(護衛)としてついている。
「まったく、お兄様も情けないと思いませんか?
そんな事では、欧米列強諸国と世界で渡っていけませんわ」
最高級シルクで作られたブリルを揺らしながら、宝石のカフスボタンのついたロングスカートメイドに化けた綾子様がこの場でお金を貸していただけなかったら俺も遠藤の二の舞になっていたのだから。
なお、この二人の為に特注で作られた二人の特派員からの「贈り物」だそうな。
どうやってサイズを知ったのかと考えると恐るべし。欧米の諜報機関。
「代わるのじゃ。
今度はわらわが相手をしようぞ。
わらわは、この二人のようにはいかんぞ」
ポーカーを見てしたかったらしい撫子が腕まくりしながら、俺を押しのける。
「では、私も同席しましょうか。
撫子さんの足を引っ張らない程度にがんばりますゆえ」
ふがいなくやられた俺の敵討ちをしたいのだろう綾子も遠藤の座っていたテーブルに座ってダレスとフレミングをにらみつける。
ダレスとフレミングの後ろに一人ずつ、米国人と英国人のメイドが控えている。
彼ら特派員が個人的に身の回りの世話を頼む為という理由で乗っているが、彼女達もダレスやフレミングと同じ同業者なのはメイヴから知らさせている。
つまり、華やかかつ優雅なこの宴のひと時も、俺と撫子、綾子と遠藤を覗いたら皆諜報員だったという実におどろおどろしい宴だったりする訳で。
「いいですよ。
さすがに女性から奪うのは愛だけと欧米では決まっておりますゆえ、純粋にゲームを楽しむとしましょう」
フレミングの言葉に撫子が軽く食いつく。
「おや、身包み剥がしていう事を聞かせるかとおもうたが?」
場の空気が少し引きつるが、この二人は動じる様子も無い。
「はは。貴方を動かすのならばもっと大掛かりな仕掛けを用意しますよ。
ご安心を」
ダレスが場の空気を繋ぎとめたのに、第三者が容赦なくそれをぶち壊した。
「じゃあ、私も混ぜてもらってよろしいかしら?」
巫女服姿の黒長耳族のメイヴは、
「おう。メイヴも入るのじゃ」
まるで戦場で生死を賭けるかの殺気を持って、
「どうぞ。せっかくですから、女性三人で英米の殿方をやっつけましょうか」
にっこり天使のように微笑んで、
「歓迎しますよ」
「ようこそ。紳士淑女の社交場へ」
テーブルに着いた時に鈍い俺と遠藤はやっと悟った。
彼らはこれを望んでいたし、メイヴはそれを防ぐために現れたと。
フレミングが手馴れた手つきでトランプをシャッフルする。
「こういうのは、同僚に上手いのがいましてね。
とにかく、賭け事と女については手が速くて……」
愚痴りながら中央にカードを一枚置いて、メイヴ・撫子・綾子・ダレスの順に一枚ずつカードを渡してゆく。
「今から始めるゲーム、『ブラックジャック』の簡単な説明をします。
簡単に言えば、カードを足して21になれば勝ちのゲームです」
説明という事もあって、フレミングは手早く各自にカードを置いてゆく。
「まず、親と子という関係を理解してください。
今回は私が親で、残りは皆子供という事になります。
ダレスが子供なのは私達からのプレゼントと思ってください」
フレミングの説明に怪訝な顔をする撫子。
「ふむ。おぬしら一緒に戦わんのか?」
「一緒だと私達が勝ちますから。
ダレスをあなた方につけてあげます。
うまくダレスを使ってくださいね」
「信用できるのかしら?」
綾子の突っ込みに、ダレスが苦笑してみせる。
「信用してもらわないと、我々は皆フレミングに毟り取られますよ。
欧米には、『英国人とは博打をするな』と言われるほど彼らは博打好きですから」
ダレスの言葉に不思議そうな顔をする撫子と綾子。
見るからに温厚な英国紳士面をして、博打好きという現実がどうも繋がらないらしい。
「カードの数字は2から10までは、その数字のまま。
J・Q・Kの絵札は10として扱う。
そしてAは任意で1か11にできる……」
ん、何か綾子の様子がおかしい。
不意にメイヴの方を見たと思ったら慌てて視線をこっちに戻すし。
何かテレパスで話しているのかな?
綾子から後で聞いたが、撫子との初対面で、豪快に俺と撫子の営み(夜まで含んで)をテレパスで一気に見せられたとか。
……うん。あの時の話をする綾子はとても怖かった。
(博之様。駄目。目を合わせないで)
俺の方にも来たメイウのテレパスに視線を合わせようとして制止させられる。
(遊びの博打にテレパスまで使うのは卑怯じゃないか?)
(賭け事は人間の本性を暴きだしますわ。
今の段階で撫子様の情報をあの二人に渡したくはないでしょう?)
そういうものなのだろうかと疑念を抱きながらも、メイヴの指示に従う事にする。
(で、何をすればいい?)
(相手もその筋の人間ですから、下手な事をすれば勘ぐられます。
撫子様のそばにいて、常に撫子様の注意をゲームでは無く、博之様に向かわせてください)
(了解。遠藤は?)
(遠藤さまは素の方が相手に悟られませぬゆえ)
納得。
「え?服洗濯しているの?」
「昨日の夜が激しくでまだ乾いていないんですよ〜♪
かわりに毛布持ってきましたから二人で包まって……」
(おい。あの馬鹿っぷるはメイヴの指示か?)
(……お願いですから言わないでください。
後で説教です)
母は大変だ。色々と。
そんなテレパスが飛び交っているとは知らず、フレミングの説明は続く。
「では、ここから一番重要なルールを言います。
第一に、カードが親子含め二枚(最初の一枚は表向きに、二枚目からは裏返しで)配られた時点で掛け金を決めて21に近づけてゆくためにカードを一枚ずつ求める事ができます」
フレミングが自分の手札を晒して説明してゆく。
「Jに8だから私の今の数字は18。
私に勝つためには、18以上の数字を出さないといけません。
だから……」
フレミングは、ダレスの指に応じてカードを一枚投げる。
ダレスのカードは8・6で投げたカードはQ。
「8+6+10=24。オーバーで私は自動的に負けです」
ダレスのチップをフレミングが回収する。
「先に手を作るのは子供というのが、もっとも重大なルールです。
ちなみに、手を良くしようとしたらダレスのようにバースト(オーバー)するリスクもあるという事です。
もちろん、カードを受け取らないという手もあります」
フレミングの説明に綾子が今度は質問をかける。
「フレミングさん。
私の手の場合はどうするのですか?」
綾子の手はKとA。ブラックジャックだ。
「その手だと自動的に私が負けます。
ちなみにその手がブラックジャックと言って一番強いんですよ」
苦笑しながらフレミングが自分の手札にカードを一枚加える。
「で、ルールその二。
親は、子の手札を見てから自分の手札を作ります。
綾子さんのような手に勝つためにはさらに一枚加えないといけないので……」
18だったフレミングの手札に来たのは8だった。
「18+8=26でバーストです。
この時、親は残っていた子供全てに支払いの義務が発生します。
これが重大なルールその二です。
他にも細かなルールがありますが、そのあたりは今度モナコにでもいらした時に教えて差し上げますよ」
フレミングの説明に笑い仮面をつけたメイヴが軽やかかつ刃の含んだ声で確認する。
「つまり、こちらの手を見て親が勝負するか降りるかを決める訳ですね」
「そのとおりです。ミス・メイヴ。
もし、ダレスが14のままでも勝負をして、私が綾子嬢に勝つ為にバーストしていたら、ダレスも勝ってしまうというのがこの勝負の重要なポイントです。
では、二・三回練習した後でゲームを楽しみましょうか」
場を見ると、事態が分かっていない撫子が好奇心旺盛でカードを見つめ、なんとなく察したらしい綾子がハンカチで額の汗をぬぐっている。
あ、撫子についていた二人がさり気なく、ダレスとフレミング付のメイドを取り押さえる位置についてる。
で、ダレスとフレミング付のメイドも対処できるように少しダレスとフレミングから離れているし。
ロングスカートで妙にポケットが大きいなとは思っていたが、中に銃かナイフが入っているんだろうな。
これが、メイヴ達のいた裏の世界なのか。
とりあえず、撫子の隣に座る。
「撫子。俺の敵を取ってくれよな」
「分かっているのじゃ!
博之の応援があれば百人力なのじゃ!!」
嬉しそうに言ってのける撫子に対して、殺気の篭った視線で綾子が俺を見つめる。
「へへえ。
お兄様はいつから、己の不始末を婦女子に助けてもらうまでに落ちぶれましたか」
うわ。綾子の声が凄く低い。
「大丈夫。
あいつはああいう奴だけど、妹の事は忘れた事がない義理堅いやつなのは俺が良く知っている」
ナイスフォロー。遠藤。だから毛布で丸まってないでさっさと服取ってこい。
カードのやり取りを把握したメイヴが声をかけた。
「いいですね?」
「任せるのじゃ!」
「はい」
撫子の肩に手をかけながら、全てを見逃さぬように、テーブルを注視する。
フレミングが芝居かかって恭しく一礼して開会を告げた。
「では、ゲームを始めましょう。
賭けるは乙女の心か?
太平洋の平安か?
全ては運命のカードの導きのままに」
ブラックジャックはそのルールの特性上、出たカードを覚えられるという方法である程度の勝敗が計算できてしまう。
だから、トランプは1ケースでは無く3ケースを使う。
「もう一枚……うわっ!21を超えてしまったのじゃっ!!」
「いえ。もうこれ以上カードはいりませんわ」
にぎやかな二人は置いといて、親のフレミングはディーラーというよりもバーテンダーのような雰囲気でチップをやりとりしていた。
テーブルの上にカードの他にサンドイッチとティーカップが置かれる。
「ちなみにこのサンドイッチというのも英国人のサンドイッチ伯爵が……」
フレミングのトリビアを聞きながら、ぱくぱくと食べるが美味い。
「フレミングとやら。
凄く聞きたい事があるのじゃが、スコーンといい、サンドイッチといい、こんなにおいしいのに本当に英国の食事はまずいのか?」
あ。撫子がどうでもいい所で地雷に触れた。
「こういう場合は英国に滞在していた事もある外国人でもあるミスターダレスに感想を求めるのが筋なのでしょうが……
ミスターダレス。何故、こっちを向かないのです?」
あ、ダレスだけじゃなくメイドもフレミングの方を向いてない。
英国の食事の感想がこの態度で分かるというのは何と言うか。
そんな場が固まる事もある大人の雰囲気でカードと戯れるメイヴとダレス。
勝ち負けを繰り返しながら、二人のチップはゆっくりと積みあがってゆく。
「しかし不思議ですわ。
てっきりそろそろ裏切るかと思ってましたのに」
ぽつりとメイヴが切り出す。
ダレスが親側と通じて、ハイカード狙いで自滅すると予想していたのに、しっかりとフレミングから毟り取っているのに少し驚いているのだ。
「仲の良い友人ほど金勘定については厳選としているものですよ。
私は、フレミングの同僚ともよくカードをするのですが、これが中々負け金を払わない困った奴でして。
『インドをくれてやるからそれで借金を帳消しにしてくれ』とふざけた事を言うのですよ」
笑いながらカードを見るダレスの言葉に、テレパスで覗いていた撫子が過敏に反応しようとした。
(博之さま!撫子様を喋らせないでくださいっ!!)
「おかし……んっ!」
強引に撫子に口付けしてそこから先を言わせなくする。
なお、綾子の殺意の視線はもう、なんというか。ごめん。
「いや、急に撫子の唇が食べたくなって……」
「……ぁ…続きをしていいのか?」
つーか気づけよ。馬鹿竜。この場を。
「夜あれだけやって、まだしたりませんか。お兄様は」
「いやいや。男というのはそういうものなのですよ。ミス綾子。
私の同僚がまた、24時間女と一緒にいないと生きていけないという愉快な奴で何度あいつをドーバー海峡に突き落とそうと思った事か……」
苦笑しながらカードを配るフレミングを尻目に、大急ぎでメイヴに視線を走らせ、撫子経由で俺と綾子もテレパスで繋いでもらう。
(綾子。こっちは見るな。今、テレパスで話をしているんだが……)
(先にメイヴさんから貰っていますから大丈夫です。
なんなんですか!あれはっ!!)
心の中を直接繋ぐからストレートな事この上ない。
(うむ。博之の唇はうまかったぞ。
というか、どうして喋ったらまずいのじゃ?メイヴ?)
差しさわりの無い会話でカードとチップをやり取りしながら、まったく別の領域で繋がって別の話をする女三人。
女はこういうどうでもいい時の場の繋ぎ方が本当に上手い。
(今、撫子様は『その話嘘じゃろう』と言おうとしていたのですよね?)
メイヴの言葉に表面上穏やかながらも驚愕する俺と綾子。
(うむ。ダレスはフレミングの同僚とカードすらしていないぞ。テレパスで探ったからのぉ)
つーか、撫子よ。お前テレパス誰彼構わずやっているのか?
(当然であろう。害意があった時には既に殺されたり捕まって使役を受けかねん世界でわらわは暮らしておるのだぞ。
もちろん、人の全ての意識なんぞ把握できぬし、わらわもそんな事いちいち覚えていないがの)
とりあえず、こういうゲームでのイカサマは禁止だ。
(その話はとりあえず置いとくとして、問題はそういう言葉をどうしてダレス氏が吐いたかという事です。
彼らはその筋――諜報畑――の人間です。
そんな彼らが、こんな舞台を作って、その上で出てきた発言です。
絶対に意味があるはずなんです)
唐突に俺と綾子が悟った。
その筋でずっと生きてきたメイヴが欲しかったのは、この言葉なのだと。
これは、諜報系の裏の外交交渉なのだと。
(ダレス氏のあの話、イギリス政府とアメリカ政府の事を指しているのでは?)
指摘したのは綾子だった。
父の仕事の手伝いで海外の情報はこの面子で一番多く持っている綾子は、ダレスの話からある点を指摘した。
(イギリスがアメリカに戦時国債を買ってもらって戦争をしているのは経済界では有名な話です。
その担保がインドという事なのでしょう)
綾子の言葉に今度は俺がここ最近のイギリス軍の軍事行動を踏まえて考える。
(なるほど。だからマダガスカルを押さえて、インド洋を完全に掌握したのか。
担保が安全に補完されているならば、アメリカも安心して金を貸せるからな)
上の空で表面上楽しくカードをしている面子で今度は、フレミングがぽつりと言葉を吐き出した。
「……また、同僚で一人たちの悪いのがいましてね。
これがまったく女に興味の無い奴……というか、多分自分以外何も視野に入っていない奴なんですがね。
『ナチも信用できないが、大西洋の向こうで金儲けに勤しんでる資本家も信用できない』って」
「ミスターフレミング。
その彼に今度一度資本主義についてじっくりと語り合いたいものなのだが?
あ。ブラックジャック。
このゲームではインドだけでは担保が足りなくなりますよ。
カナダでも差し出しますか?」
「インドシナあたりで勘弁してくれると助かるのですが」
(おかしいのじゃ!
今の会話に嘘がないのじゃ!!)
撫子のテレパスの悲鳴に顔を変えないように、動揺を隠すようにグラスの飲み物に口をつける。
仏領インドシナは帝国が進駐した後、対米戦回避の為撤退したが、本国が混乱しているフランスに統治ができるはずもなく、独立運動が盛んになっているはずだった。
それを、イギリスが戦時国債の担保としてアメリカに差し出す?
というより、どうして彼らはイギリスが勝つというか生存する前提で話をしているんだ?
「あら。チップが無くなってしまいました」
上の空で負け続けた綾子のチップがなくなっていた。
「お貸ししましょう。ミス綾子」
ダレスが断ろうとする綾子の言葉の前にチップが置かれる。
「担保がありませんわ。
体以外に」
ぎりぎりの皮肉を込めた綾子の言葉すら、ダレスには届いていない。
「女性から担保なんて頂きませんよ。
まぁ、強いて担保にもらえるならば……」
撫子は与えられた正逆双方の情報に混乱しており、綾子と俺はあまりの情報量についていけず、遠藤は毛布に包まって傍観者に徹してメイヴは与えられた情報を整理できていなかった。
「第一航空艦隊を。
今年中にハワイの竜を潰すには今ある空母では足りないんですよ」
ダレスの手札はAとKのブラックジャック。
(ダレスは元はスイス駐在員、大英帝国はシチリアやアイスランドのドラゴンとも交渉をしているのでするよ。ミス撫子。
あ、第一航空艦隊は我が国も狙っているのですが)
図ったように、テレパスで読まれる事を前提にフレミングは心の中で撫子に語りかけ、その声は撫子経由で俺達全員に伝わる中、彼は己の手札を晒す。
ダレスと同じAとKのブラックジャック。
はっきりと悟った。
英米はメイヴと同じもしくはメイヴ以上のスパイを持って、撫子に接触してきた事を。
俺は撫子経由でメイヴの苛立ちを感じながら、あまりに芝居がけられた上に手玉に取られたテーブルを眺めて苦笑しかできなかった。
帝国の竜神様34
2007年06月07日(木) 12:27:02 Modified by nadesikononakanohito