帝国の竜神様48

1942年 5月16日 深夜 帝都東京 山王日枝神社

 大陸での戦争が終わった事もあり、街は夜でも明るくなっている。
 そんな帝都の賑わいの中、官庁街でもある永田町にひっそりと山王日枝神社が鎮座している。
 灯篭の灯りに照らされた社は闇と一体化しながらも存在感を示し、周りを囲む木々はまた鬱蒼としてその神性を高めていた。
 夜の参拝は基本的に禁止しているが、もし不届き者がこの社に侵入しようとしたら命を持ってその浅はかな考えを後悔する事になるだろう。
 日本人に化けた黒長耳族の巫女が四人一組で、常時境内に三組が警備しているこの社の社務所が黒長耳族大長のダーナの仮宿となっていたからである。
 社務所から正装で現れたダーナはいつも化けている日本女性姿ではなく、茶褐色の黒長耳族姿で境内の裏に回り、彼女の周りを一組の黒長耳族の巫女達が囲む。
 全員、ダーナの娘もしくはダーナ直系の娘たちで撫子を頂点とする眷属の中で彼女の最も信頼する最強かつ最後の手駒でもあった。 
 なお、メイヴもダーナ直系の娘でこの中にかつていたことがあったりする。
 境内の裏手に一組の巫女達に守られた二人の男が待っていた。
「お待たせしました。石原閣下に瀬島少佐」
 声をかけられた男達はかるく目礼をして巫女達の呪文の詠唱とその結果を黙って見つめていた。
「凄いものですな。魔法というものは……」
 瀬島少佐は彼女たちの作業に対してぽつりと口に出した。
 彼がダーナと石原を合わせた張本人だったりする。
 不自然に大地が歪み、そこを人が立って通れる傾斜の穴がぽっかりと開いていた。
 これと同じ光景が首相官邸地下でも潜入した黒長耳族の巫女達によって行われているはずである。
 なお、この穴は一定時間経つと自然に復旧する優れもので、そうまでして緊急かつ強引にそして隠密に今回の会談は行われなければならなかった。

 黒長耳族、いや帝国の将来を決める会談はスパイ蠢く帝都において完全防諜で当事者以外の誰も知らないという形で行われた。
 黒長耳族大長ダーナと石原莞爾退役中将と東条英機帝国総理大臣の三人だけで。
「で、貴方が何故彼を連れてきたのかその説明からしていただけますかな?
 銀幕御前」
 何重にも人払いの結界を張り巡らせた首相官邸執務室で現在帝国を率いる男は不機嫌そのもの顔でダーナに説明を求めた。
「我々はこの帝国に撫子様の眷属としてやってきて、帝国の役に立ちたい一身でこの身を差し出すと共に多くの方々の知己を得てきました。
 その中で、この帝国の行く末を案じて次の手を考えていた方を海軍以外から探すとなるとこの方しか残らなかった。
 それが理由です」
 わざとダーナは最大の黒長耳族保護者である海軍の名前を口に出した。
 それが東条の不機嫌をさらに進めるためであり、激昂した方がその後の話を冷静に聞かせる為にも都合がいいからである。
「単刀直入に申し上げます。
 東条首相。
 今回の異世界での一個連隊の壊滅で陸軍主流派は貴方に責任をかぶせようとしています。
 このままだと貴方は首相の椅子を追われます」
 ダーナの爆弾発言に東条の顔は歪むが、石原の顔には笑みが浮かぶ。それがまた東条のプライドをいたく傷つけた。
 対英米戦回避と大陸足抜けの結果、東条首相の政権基盤は急速に崩壊しつつあった。
 大陸足抜けの結果として膨れ上がった戦時債務返済による陸軍大削減と、足抜けという外交成果で「何の為に10年近い戦争を戦ってきたのか?」という国民の不満、更に激しく欧州で続いている戦火でドイツにつくのかイギリスにつくのかの外交的対立、
そして、帝国の舵を強引に非戦に持っていった撫子と黒長耳族達の権利問題と難題が山積する中で、東条内閣はそのどれをとっても決定するたびに味方であるはずの陸軍の力が弱まり、一部将校には「裏切り者」呼ばわりまでされていた。
 そんな中に起こった異世界での一個連隊の壊滅の報告。
 それは東条を引き摺り下ろすには格好の理由になるだろう。 
 東条もそれぐらいには分かっている。
「銀幕御前。貴方は質問に答えていない。
 その話とこの男がここにいる理由が私には理解できない」
「相変わらず頭が固いな。東条。
 俺が貴様を助けてやろうと言っているのだ」
「貴様が表舞台に帰る事を条件でか?
 ふざけるな。貴様の返り咲きを助ける……」
「海軍がたくらむ欧州大戦介入阻止。これでは不満か?」
 東条の罵声を止めたのが石原の冷徹な一言だった。
 既に、欧州大戦はロシアの大地で独ソが激しく死闘を繰り広げており、英が邪魔するかのように必死になってクレタに上陸していた。
 海軍は、欧州大戦より対米戦を意識していた事もあり、ハワイを焼いた竜に激怒したアメリカの艦隊大増産を恐れ、その存在意義を失いつつある。
 だからこそ、新たな存在意義を対英対独の欧州大戦に求めなければならなかったのだ。
 現在行われている独ソ戦がらみで、英国と「ソ連崩壊後のシベリア侵攻黙認」の密約を取り決めている。
 それが終わった後日本の選択肢は二つに、対英宣戦布告か対独宣戦布告にしぼられる。
 対英宣戦布告をすれば、独逸と手をとり香港・シンガーポールはおろか仏領インドシナ・蘭領東インドを制圧し、夢広がるならユーラシアを独逸と分ける事ができ、陸軍はこちらを押していた。
 対独宣戦布告となると、現在の英国向け護衛艦隊提供による資源と資金提供による英国の艦隊整備支援という恩恵を受け、第一次大戦と同じように海上護衛戦中心で陸軍の活躍の場所が無くなる事を意味する。
 それが分からないほどの頭では一国の首相などやっていられない。
「では、聞くが石原。
 その海軍の企む欧州大戦介入以外の帝国の方針を持ってこの場にやってきているんだろうな?」
 石原の答えは即答だった。
「当然。
 正確には、彼女が持っている案を陸軍広しといえども俺しか信じなかったという事だ。
 だが、この案が実行されれば、帝国は最も欲しかった時間が与えられるはずだ。
 後は彼女の口から聞いてみるといいだろう」
 そして、石原は核心部分をダーナに譲った。
「今から話すことは、我が主および我々がどうして作られたのか、そこから話さなければなりません……」
 ゆっくりと、でも決意をもって淡々とダーナの言葉が執務室の中に満ちていった。

 ダーナの長い話に東条も石原も何も言わなかった。
 だが、既に聞いている石原と違い東条はダーナの話を聞くたびに額から汗が吹き出て何度も汗を拭きながらメモを取り、その手も途中で止まった。
「……以上です。
 東条首相。何かご質問は?」
 ダーナが口を閉じた時、当然のように東条が口を開いた。
「それは本当なのか?
 そして、それが本当にできるのか?」
 当然の質問ゆえに、ダーナも想定していた答えを返した。
「最初の問いについては、信じてもらわなければどうしようもありません。
 ですが、私達がここにいるのが何よりの証拠かと」
 微笑を浮べながらダーナが言葉を紡ぐ。
「最後の問いについては、手間はかかりますができます。
 我が主及び、我々黒長耳族は元々その為に作られたのですから」
 優しい笑みを浮べたままダーナは最後の札を切った。
 黒長耳族及び、撫子の秘中の秘を晒してまでダーナは訴えたのだ。
 私達を見捨てないでくれと。
 それが分からないほどの東条と石原では無かった。
「俺は貴様が嫌いだが、貴様のその律儀な所だけは評価しているつもりだ」
「石原『中将』。
 俺も貴様が嫌いだが、貴様のその法螺と行動力だけは俺には無い」
「東条『首相』。
 私は既に陸軍を引退した身だが?」
「お国の為に有能な者を再召集するのは陛下の臣として当然の事だろう?」
 陸軍の大陸派遣軍の解散に伴い、動員解除の他に高級士官のポストが足りなくなり、それも陸軍内部の不満の一つとなっていた。
 その代替案ととして竜州に屯田兵(内情は将官ポストと兵の維持)の派遣を陸軍は決定しており、イッソスでのマンティコアの戦闘で魔法生物に過剰警戒中の陸軍は一個連隊を更に増員させて竜州軍が創設されようとしていた。
 しかし、その一個連隊が壊滅。
 面子丸つぶれの陸軍としては更なる兵の追加を行わねばならなかった。
「しかし、連隊の壊滅は悪い事ばかりでもあるまい。
 送られたのは第一師団第三連隊と聞いたが?
 これで2.26に参加した連中の責任も取れて一石二鳥か。
 参謀本部の連中は異世界を帝国のゴミ捨て場にでもするつもりだったのだろう」
 石原の意地悪そうな笑みに対して東条はただ一言、
「仮にも陛下の赤子が犠牲になったのだ。
 それ以上は言うな」
 とだけ答えたが、それが壊滅したのは陸軍の汚点処理として都合が良かったという都合を演出したのは東条の下にいる陸軍参謀本部の連中であるのは間違いが無い。
「新設される竜州軍で適当なポストをくれてやる。
 帝国に不必要な輩を全てかき集めろ。
 竜州でまとめて屍になってもらう。俺も含めてだが。
 で、異世界の資源は帝国を賄うだけの量があるのか?」
 東条の懸念は資源が止められて危うく開戦を決断しようとした帝国の宰相としては当然の疑問といえよう。
「異世界丸ごと、星ひとつの資源を我々で独占しようというのだ。
 大概の物は手に入るだろう。
 現在確認が取れている資源は、食料に水に木材、金・銀・銅・水銀・鉛・宝石類に石炭に鉄。
 石油もあるだろうが向こうの世界では使われていないから探す所から始めないといけない。
 アルミの精錬技術まで向こうの文明は達していないみたいだからボーキサイトやタングステン、レアメタルも一から捜索だな。
 ゴムは東南アジア似の風土にプランテーションを作ればなんとかなる。
 まぁ、捜索に10年、採掘に10年かかるだろうが、足りない資源は欧米から買い付ければいい」
 一度話を切って石原は意地の悪い笑みを東条に浮べる。
「何しろ、この話の汚い所は我々は欧米列強と取引ができるのに、欧米列強は我々の指定した場所以外では取引ができない点だ。
 結界から移動手段までこのままいけば全て帝国の手に落ちるのだからな」
「お前の計画が成功した後も欧米列強が我々と取引をすると思うか?」
 東条の疑問に石原は確信をもって言い放った。
「するさ。
 この戦争、英・独・ソのどれが勝っても、ドラゴンのせいで中立をせざるを得ないアメリカと長期的にはいやでも争う事になる。
 その時に第三勢力として帝国がある程度の力を保持しているならば、取り込みなり仲介なり都合よく使えるからな」
 石原の断言にめずらしく東条が冗談を漏らす。
「まるで、世界全体で行う三国志じゃないか。
 さしあたって、我が国は蜀という所か」
「魏たるアメリカは強いぞ。
 まぁ、やる事は劉備よりその祖先の劉邦のやり口に近いな。
 蜀の地に引きこもって力をつけて天下の趨勢定まるまでおとなしくしていればいいんだからな」
 石原の笑っていた顔が引き締まり、真顔で東条に訴える。
「東条。俺は欧州から始まった世界大戦が最終的には旧世界の盟主たる欧州と新大陸の最終戦争に繋がると思っている。
 だが、どっちが勝っても待っているのは白人の更なる支配だ。
 帝国は、亜細亜はその最終戦争に搾取され続けるのさ。
 だが、この計画が成功すれば話は別だ」
 その確信に満ちた口調は軍人より政治家、いや宗教家にちかいなとふと東条は感じた。
「再鎖国を完成させた帝国に欧米列強は攻め込む事ができない。
 そして、好きな時に好きな場所を攻め込む力を帝国は手に入れる事ができる。
 その時点で我々の勝ちだが、力で押さえつけられて欧米列強を押さえられるほど帝国の国力は強大ではない。
 だから帝国は徳川幕府が行ったように王道を歩むのだ。
 国内を富ませ、亜細亜の民と手を取り、10年、いや20先の最終戦争に備え、彼ら白人社会と対峙するだけの力を手に入れ、最終戦争に勝ち白人支配から世界を開放するのだ」
 そこには、かつて満州事変を起こした天才参謀を髣髴させる熱気が満ちていた。
「石原。その最終戦争には俺もお前も居ないのは確実だぞ。
 大逆賊として腹を切っているだろうからな。
 お前の馬鹿げた計画が成功しているならばの話だが」
 軽く東条が石原の熱気に水をかける。自らの言葉通り成功すればほぼ大逆賊確定の博打である。
「東条、俺はその前に化け物相手の戦争で討ち死にしているかも知れんぞ。
 この国の膿と共に、竜州に屍を晒す可能性だって低くはない」
 石原は言下にこう言っているのだった。
 成功するにせよ、失敗するにせよ、この国の溜まった膿は吐き出してしまわないとならない。
 それを異世界という国際社会の介入など関係ない所で吐き出せるのならば、それだけでも帝国の益になるではないかと。
 陸海軍のやばい連中をまとめて異世界に送って心行くまで戦争ごっこに興じて屍となれば、それはそれでこの国が道を間違える事も少なくなるだろう。
 満州事変時みたいに現場が暴走しようともこっちの世界にいる帝国は欧米列強に対して外交的不利にはなりはしない。
 そして、苦々しい顔で黙って聞いていた東条もにこやかに笑った。
「それはそれで構わん。
 貴様の屍とその詰め腹はわしが切る。
 貴様も歴史に名を残す大悪人として100年後の歴史に名を残す事になるだろうよ」
 東条の笑っていた顔が元に戻る。
「近く、重臣達に次期首班指名の根回しを始める。
 引き摺り下ろされる前に辞意を示して、ある程度の影響力は保持しておくつもりだ。
 首相・陸相は降りるが、内相は辞めるつもりはない」
 内務省、現在の神祇院を管理する省は東条が自ら押さえる。
 これは、石原とダーナの提案推進の絶対条件でもあった。
 現状、東条の味方は対米戦回避と大陸足抜けを評価した陛下しかいない。
 だからこそ、自発的辞意による影響力保持の公算はかなり高く、次期内閣にも残れる可能性は高かった。
「海軍は戦争終結によるリベラル色を背景に宇垣さんか近衛君を押してくるだろうが、宇垣さんでは陸軍中枢が大臣を出さないし、近衛君はゾルゲ事件との関係で出来る訳がない」
 現在、ゾルゲに対する捜査は続けられていて、側近の尾崎や西園寺の逮捕の事もあり近衛に政権は任せられない。
 石原が東条の腹を読んで先に候補を呟く。
「小磯さんか寺内さんか。
 飾りの頭で院政を敷くつもりだな」
 小磯國昭予備役大将と寺内寿一大将ともに陸軍内での影響力は小さく、必然的に内閣は迷走せざるをえない。
 その時に、特高や神祇院という警察・諜報をバックに内閣に影響力を及ぼすつもりだった。
 東条が手帳にただ一言何かを書いて、その書いたページを破ってダーナに渡す。
 それは先に書くのを辞めたダーナの話で、ページの下に「内閣総理大臣東条英機」と自分のサインを入れていた。
「誓約書だ。この話を知っているのは?」
 その紙を懐にしまいながらダーナは口を開く。
「この三人と我が主撫子様とメイヴの五人のみです。
 撫子さまの性格から真田少佐にはお話しするかもしれませんが、自発的ではないでしょう。
 話された時にはメイヴを通じて注意をしておきます」
 その言葉に東条と石原は安堵する。
 こんな話が外に出たら政権転覆どころか現在行われている世界大戦すら影響を与えてしまう。
 石原も東条も笑みを浮べていた。
「たしかにこんな話は石原しか信じないだろうよ。
 だが、これで帝国は最も欲しかった時間が手に入る」
「10年、いや20年、もしかするならば50年。
 帝国が欧米列強に追いつくのにそれだけの時間がかかる。
 だが、第一次大戦から今回の欧州大戦までたったの24年だ。
 その間世界は狭く、人殺しの道具は格段に進歩した。
 この欧州の戦争が終わって次があるとするなら10年以内だろうよ。
 それは確実に今世紀の覇者を決める決勝戦となる。
 今の帝国にはその決勝はおろか、この戦争に参加する資格すらない」
 何かのスポーツのように気楽に帝国の未来を語る石原に東条が苦言を呈す。
「まるで六大学野球のように軽く言ってくれるな」
「戦争もスポーツも勝ってこそだ。
 せいぜい人が死ぬか死なないかの違いでしかないさ」
 石原のさも当然とした顔があまりに荒唐無稽で耐え切れずに東条が笑い出した。
「で、リーグ戦に出ずに決勝を戦うなんて詐欺手なんぞ編み出した訳だ」
 東条の笑い声に石原も自虐の笑みを浮べながら笑い返した。

「ああ。
 『災害を装い、大日本帝国領土全て魔法結界によって異世界に転移させてこの世界から逃げ出す』なんて俺しか考え出せないだろうよ」
 と。

 会談が終わって社務所に戻ったダーナは自室に戻って畳に寝転がって天井を見上げた。
「勝った」
 ただ一言。言うつもりもなかったが、その一言に500年の悲願が詰まっていた。
 最初で最後の賭けに勝った。
 長年にわたる自分達への迫害からこの帝国にも反黒長耳族の一派がいるとは思っていた。
 それがどれだけの規模でどれだけの影響力を持つかはまだ分かっていないが、今年の予算編成での国内開発予算の全滅にダーナはその一派の影を感じたのだった。
 そして、会談前に横須賀からの報告でその一派に海軍の要人である米内元首相が入っている事にダーナは愕然とする。
 だからこそ前々から接触していた石原を通じ、秘中の秘まで明かして政治的に孤立しつつある東条首相に接近した。
 少なくとも東条首相はその残り少ない政権基盤と次期政権における影響力を大きく黒長耳族に依存せざるをえない。
 そして、復活する予定の石原を黒長耳族が支援して彼に陸軍をまとめさせる。
 海軍は既に最大の庇護者であるからバランスは取らないといけないが、帝国の発展の為に黒長耳族は全力で帝国を支援する。
 帝国の良き理解者として。
 人類史上に残る大逃亡の共犯者として。
 ダーナは懐の中の東条のメモを取り出す。
 これこそが、東条の帝国の信頼の証だ。
 たった一枚の紙切れだろうが、そこに詰まっていた信頼はダーナ達黒長耳族が500年間与えられなくて是非とも欲しかったものだった。 
 ダーナはメモを眺めていて、涙が出ている事に気づいた。
 それは、500年ぶりに安住の地を確約された涙でもあり、自分達をきちんと契約者として同列においてくれた人間への感謝の涙たった。


 同日深夜 太平洋 マリアナ沖 南方 潜水艦

 マリアナの竜が愛国丸で惰眠を貪っている頃。

 それは、矛盾した船だった。
 乗っているのはかつて独逸国籍を持ったユダヤ人達。
 着ているのは独逸海軍の軍服。
 この船の最後の寄港地はオーストラリア。
 会話も全てドイツ語だった。
「受信しました。作戦の実行命令です」
 艦長は艦内マイクを持って口を開いた。
「諸君。
 君達は私を含め、この航海で生きて帰る事は許されない。
 また、それを志願した事を私は誇りに思う。
 この作戦が成功し、戦争が我々の望む方向に終わった場合、我々は約束の地への帰還を果たす事ができるのだ!
 これより、我々は独逸海軍として、日本帝国の愛国丸を撃沈する」

 帝国の竜神様 48
2007年11月21日(水) 20:59:23 Modified by nadesikononakanohito




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