1990年代の日米経済関係 
◆日米「衝突」
90年代の日米関係は戦後「最悪」といわれる。米国では80年代後半のジャパン・バッシングが尾を引き、対日感情は悪化していた。
この理由は第一に、日米間の国際収支の不均衡が依然続いていたことである。米国の貿易赤字に占める日本の割合は、1980年代後半は40%前後を推移していたが、1991年に65%に拡大した。
第二に、冷戦の終結に伴う米国の政策転換がある。ソ連の軍事的脅威が消滅したことから、クリントン大統領は政策目標を軍事から経済に転換した。減税と規制緩和を主とするマクロ経済政策「クリントノミックス」の実施を行うとともに、日本の市場開放を掲げた。
クリントン政権は対日市場開放アプローチとして、多国間交渉、二国間協議、一方的制裁の3つを駆使した。
・多国間交渉 ：GATTウルグアイ・ラウンドでコメ市場の部分開放
・二国間協議 ：日米包括経済協議
・一方的制裁 ：包括通商法(スーパー301条)による日本製自動車に対する報復関税の脅し
1995年は、沖縄少女暴行事件によって日本の対米感情も悪化し、日米包括経済協議では自動車分野で激しく衝突した。
しかし1990年代後半になると日米の対立関係は解消に向かった。ITバブルによる投資の増加によって景気が回復したこと、米国の貿易赤字に占める日本の割合が20~30%まで縮小したことが原因と考えられる。
アメリカは多国間交渉、二国間交渉、一方的制裁を駆使し経済戦略を展開した結果、対日赤字削減、対日市場開放、対日経済競争の勝利という目標を達成した。円高・ドル安政策によって日本の自動車・半導体の対米輸出を減少させ、日本のコメ市場・建築市場を開放させた。米国の自動車産業は復活し、半導体産業は日本を追い抜いた。1998年には財政収支の黒字化に成功し、レーガン政権以来の「双子の赤字」を解消した。
(参考：川上高司『米国の対日政策』)
90年代の日米関係は戦後「最悪」といわれる。米国では80年代後半のジャパン・バッシングが尾を引き、対日感情は悪化していた。
この理由は第一に、日米間の国際収支の不均衡が依然続いていたことである。米国の貿易赤字に占める日本の割合は、1980年代後半は40%前後を推移していたが、1991年に65%に拡大した。
第二に、冷戦の終結に伴う米国の政策転換がある。ソ連の軍事的脅威が消滅したことから、クリントン大統領は政策目標を軍事から経済に転換した。減税と規制緩和を主とするマクロ経済政策「クリントノミックス」の実施を行うとともに、日本の市場開放を掲げた。
クリントン政権は対日市場開放アプローチとして、多国間交渉、二国間協議、一方的制裁の3つを駆使した。
・多国間交渉 ：GATTウルグアイ・ラウンドでコメ市場の部分開放
・二国間協議 ：日米包括経済協議
・一方的制裁 ：包括通商法(スーパー301条)による日本製自動車に対する報復関税の脅し
1995年は、沖縄少女暴行事件によって日本の対米感情も悪化し、日米包括経済協議では自動車分野で激しく衝突した。
しかし1990年代後半になると日米の対立関係は解消に向かった。ITバブルによる投資の増加によって景気が回復したこと、米国の貿易赤字に占める日本の割合が20~30%まで縮小したことが原因と考えられる。
アメリカは多国間交渉、二国間交渉、一方的制裁を駆使し経済戦略を展開した結果、対日赤字削減、対日市場開放、対日経済競争の勝利という目標を達成した。円高・ドル安政策によって日本の自動車・半導体の対米輸出を減少させ、日本のコメ市場・建築市場を開放させた。米国の自動車産業は復活し、半導体産業は日本を追い抜いた。1998年には財政収支の黒字化に成功し、レーガン政権以来の「双子の赤字」を解消した。
(参考：川上高司『米国の対日政策』)
日米間の新たな経済パートナーシップ
◆パートナーシップ共同声明
東京サミットの開催期間の1993年7月10日、宮澤首相とクリントン大統領は「日米間の新たな経済パートナーシップのための枠組みに関する共同声明」を発表し、「日米包括経済協議(Japan-US Framework Talks)」が設置された。
日米包括経済協議が構想されたのは1993年4月16日のワシントンでの日米首脳会談であった。宮澤首相とクリントン大統領は日米両国の構造問題と分野別問題に対処するため、日米構造協議に代わる新たな協議の枠組み(フレームワーク)を設置することで合意した。
会談後の記者会見で、クリントン大統領は「冷戦時代の日米パートナーシップは時代遅れだ」とし、「我々は長期のビジョン、就中、相互の尊敬と責任に基いた新たなパートナーシップを必要としている」と述べた。さらに拡大を続ける日本の貿易黒字への懸念を強調し、「米国企業が日本へより多く輸出し、米国の労働者が貿易の公平な恩恵を受けるためには、日本市場はより開かれたものでなければならない」と市場アクセスの開放を求めた。
一方、宮澤首相は「日米両国の経済的繁栄は、自由貿易の原則に基く協力の精神によるものでなければならず、これは管理貿易や一方的措置の脅しでは実現できない」と米国を牽制している。
「パートナーシップ共同声明」では日本側の義務として、経常黒字の縮小、米国からの輸入を含めた外国からのサービス輸入の増加、内需主導型の経済成長の促進、外国製品やサービスの市場アクセスの増大が挙げられた。一方、米国側の義務としては財政赤字の削減、国内貯蓄の奨励、国際競争力の強化に留まっている。協議は双方通行の対話という形式をとったが、実質的には米国が日本に市場開放と構造改革を迫るものであった。
表1 日米包括経済協議で扱う対象分野(筆者作成)
（参考：外務省「日米間の新たな経済パートナーシップのための枠組み(日米包括経済協議)」）
東京サミットの開催期間の1993年7月10日、宮澤首相とクリントン大統領は「日米間の新たな経済パートナーシップのための枠組みに関する共同声明」を発表し、「日米包括経済協議(Japan-US Framework Talks)」が設置された。
日米包括経済協議が構想されたのは1993年4月16日のワシントンでの日米首脳会談であった。宮澤首相とクリントン大統領は日米両国の構造問題と分野別問題に対処するため、日米構造協議に代わる新たな協議の枠組み(フレームワーク)を設置することで合意した。
会談後の記者会見で、クリントン大統領は「冷戦時代の日米パートナーシップは時代遅れだ」とし、「我々は長期のビジョン、就中、相互の尊敬と責任に基いた新たなパートナーシップを必要としている」と述べた。さらに拡大を続ける日本の貿易黒字への懸念を強調し、「米国企業が日本へより多く輸出し、米国の労働者が貿易の公平な恩恵を受けるためには、日本市場はより開かれたものでなければならない」と市場アクセスの開放を求めた。
一方、宮澤首相は「日米両国の経済的繁栄は、自由貿易の原則に基く協力の精神によるものでなければならず、これは管理貿易や一方的措置の脅しでは実現できない」と米国を牽制している。
「パートナーシップ共同声明」では日本側の義務として、経常黒字の縮小、米国からの輸入を含めた外国からのサービス輸入の増加、内需主導型の経済成長の促進、外国製品やサービスの市場アクセスの増大が挙げられた。一方、米国側の義務としては財政赤字の削減、国内貯蓄の奨励、国際競争力の強化に留まっている。協議は双方通行の対話という形式をとったが、実質的には米国が日本に市場開放と構造改革を迫るものであった。
表1 日米包括経済協議で扱う対象分野(筆者作成)
| 政府調達 | 特にコンピューター、スーパーコンピューター、衛星、医療技術及び電気通信において，競争力のある外国の製品及びサービスの 日本政府による調達を相当程度拡大する。 米国政府は米国企業に対し、日本政府によって作られた機会を活用することを勧奨する。 |
| 競争政策 | 金融サービス，保険，競争政策，透明な手続き及び流通を含む分野において、競争力のある外国の製品及びサービスの 市場アクセスを妨げる効果を持つ法律、行政を改革する。 米国政府は，米国の国際競争力を一層強化するため，ビジネスの促進及びその他の措置を含む対日輸出促進努力を行う。 |
| その他の 主要セクター | 自動車産業を含むその他の主要なセクターにおいて、日本企業の日本国内外での外国製部品の調達の拡大に寄与するような 販売機会の拡大をもたらす。市場アクセスに影響する問題を除去し，日本における外国自動車及び自動車部品の輸入を奨励する。 米国政府は，自動車及び自動車部品の対日輸出を促進し，米国企業に対して日本における市場機会をより積極的に追求するよう 奨励する。 |
| 経済的調和 | 日本及び米国への外国からの対内直接投資に影響に与えている事項を扱う。更に、知的所有権、技術へのアクセス及び両国企業間の 長期的な購買者と供給者の関係等の事項も含む。 |
GATTウルグアイ・ラウンド交渉
クリントンは日本にコメの輸入自由化を要求。細川政権はGATTウルグアイラウンド農業交渉で自民党政権が死守してきたコメの国内市場の部分開放に合意した。これにより1995~2000年の6年間はコメ市場の関税化を行う代わりに、ミニマムアクセス（最低輸入量）を一定率引き上げることを条件とした。
日米包括経済協議 1993~96
パートナーシップを締結した宮澤首相は衆議院総選挙で敗北し、細川内閣が成立した。
1994年の協議を評価する日米首脳会談において、政府調達、保険市場、自動車などの優先分野におけるクリントンの数値目標要求を細川首相が拒否し、交渉が決裂した。クリントン大統領は1994年3月に「1988年包括通商法」スーパー301条を復活させ、日本の携帯電話メーカーを標的とした制裁を仄めかし、日本に対して強硬姿勢をとった。
羽田内閣は同年5月に保険、自動車、政府調達の各分野で交渉を再開させた。翌1995年には加盟国に一方的制裁の実施を禁止するWTOが成立することから、米国は「1988年包括通商法」を1994年7月に廃止した。村山政権は1994年10月までに政府調達、保険の分野で米国に妥協し、合意に至った。自動車分野については決着がつかず、戦後「最悪」ともいえる日米衝突に向かっていった。
◆自動車協議
日米が最も激しく衝突したのは、優先分野のひとつである自動車・同部品の分野であった。協議では、米国は日本政府に対して、日本の自動車メーカーに外国製の部品を購入する計画を発表させるよう求めた。これは事実上の数値目標を設定するものであり、管理貿易であった。日本政府は、日本の自動車メーカーの部品購入計画は民間企業の自主的な措置であることを述べ、政府の責任の対象外であって協議で扱う対象ではないと反論した。
日米間で激しい議論が交わされたが、米国政府は1994年10月、日本の補修用部品市場の規制について「1974年通商法」301条に基く調査を開始することを発表し、交渉が中断した。さらに1995年5月には通商法301条に基づく一方的な措置として、日本製高級車に対する100%の関税の賦課を予告し、さらにこれら高級車の関税額の決定を留保するに至り、日米間で緊張が高まった。
これを受けて日本はGATT違反であるとして、米国に対してGATT第22条1に基く協議を要請し、WTOの場において国際ルールに則って貿易紛争を解決する姿勢を明確にした。1995年6月にジュネーブにおけるWTO協議と並行して次官級及び閣僚級協議が行われ、6月28日に妥結に至った。これは米国の対日制裁の決定期日の直前であった。こうして自動車協議が決着し、同年7月に日米双方はDS手続を進行させない旨を表明した。
日本は包括協議の枠内での合意として、�ヽ姐饑充�動車の対日市場アクセス拡大、��外国製自動車部品の購入拡大、�Ｅ生＼鞍�の規制緩和等を盛り込んだ「日米自動車措置」を5年間の期限付きで実施した。自動車措置は、米国政府が米国企業に対日輸出を促すこと、日本政府が外国製自動車を受け入れることからなっており、日本にとって不利な内容であった。
日米自動車措置の2000年末の期限切れを控え、米国は措置の拡充・延長を主張し、日本は措置の終了を主張。日米の主張は平行線のまま失効を迎えた。
(参考：経済産業省「通商白書(平成8年版)」、東京大学東洋文化研究所「自動車交渉のこれまでの経緯」、外務省「日米自動車・同部品協議の最終決着及び全体像(pdf)」)
◆規制緩和・競争政策作業部会
日米包括経済協議「規制緩和及び競争力」のバスケットの下に「規制緩和・競争政策作業部会」が設置された。競争政策、流通、行政手続の透明性、規制緩和の問題が討議され、93年10月以来95年12月までに7回の作業部会を開催した。作業部会では米国から要望書(年次改革要望書)が初めて提出された。村山内閣は米国政府の要望を踏まえ、1091項目にわたる「規制緩和5カ年計画」を95年3月に策定し、95年4月にはこれを3カ年計画(規制緩和推進計画)として前倒し実施することを決定した。
1994年の協議を評価する日米首脳会談において、政府調達、保険市場、自動車などの優先分野におけるクリントンの数値目標要求を細川首相が拒否し、交渉が決裂した。クリントン大統領は1994年3月に「1988年包括通商法」スーパー301条を復活させ、日本の携帯電話メーカーを標的とした制裁を仄めかし、日本に対して強硬姿勢をとった。
羽田内閣は同年5月に保険、自動車、政府調達の各分野で交渉を再開させた。翌1995年には加盟国に一方的制裁の実施を禁止するWTOが成立することから、米国は「1988年包括通商法」を1994年7月に廃止した。村山政権は1994年10月までに政府調達、保険の分野で米国に妥協し、合意に至った。自動車分野については決着がつかず、戦後「最悪」ともいえる日米衝突に向かっていった。
◆自動車協議
日米が最も激しく衝突したのは、優先分野のひとつである自動車・同部品の分野であった。協議では、米国は日本政府に対して、日本の自動車メーカーに外国製の部品を購入する計画を発表させるよう求めた。これは事実上の数値目標を設定するものであり、管理貿易であった。日本政府は、日本の自動車メーカーの部品購入計画は民間企業の自主的な措置であることを述べ、政府の責任の対象外であって協議で扱う対象ではないと反論した。
日米間で激しい議論が交わされたが、米国政府は1994年10月、日本の補修用部品市場の規制について「1974年通商法」301条に基く調査を開始することを発表し、交渉が中断した。さらに1995年5月には通商法301条に基づく一方的な措置として、日本製高級車に対する100%の関税の賦課を予告し、さらにこれら高級車の関税額の決定を留保するに至り、日米間で緊張が高まった。
これを受けて日本はGATT違反であるとして、米国に対してGATT第22条1に基く協議を要請し、WTOの場において国際ルールに則って貿易紛争を解決する姿勢を明確にした。1995年6月にジュネーブにおけるWTO協議と並行して次官級及び閣僚級協議が行われ、6月28日に妥結に至った。これは米国の対日制裁の決定期日の直前であった。こうして自動車協議が決着し、同年7月に日米双方はDS手続を進行させない旨を表明した。
日本は包括協議の枠内での合意として、�ヽ姐饑充�動車の対日市場アクセス拡大、��外国製自動車部品の購入拡大、�Ｅ生＼鞍�の規制緩和等を盛り込んだ「日米自動車措置」を5年間の期限付きで実施した。自動車措置は、米国政府が米国企業に対日輸出を促すこと、日本政府が外国製自動車を受け入れることからなっており、日本にとって不利な内容であった。
日米自動車措置の2000年末の期限切れを控え、米国は措置の拡充・延長を主張し、日本は措置の終了を主張。日米の主張は平行線のまま失効を迎えた。
(参考：経済産業省「通商白書(平成8年版)」、東京大学東洋文化研究所「自動車交渉のこれまでの経緯」、外務省「日米自動車・同部品協議の最終決着及び全体像(pdf)」)
◆規制緩和・競争政策作業部会
日米包括経済協議「規制緩和及び競争力」のバスケットの下に「規制緩和・競争政策作業部会」が設置された。競争政策、流通、行政手続の透明性、規制緩和の問題が討議され、93年10月以来95年12月までに7回の作業部会を開催した。作業部会では米国から要望書(年次改革要望書)が初めて提出された。村山内閣は米国政府の要望を踏まえ、1091項目にわたる「規制緩和5カ年計画」を95年3月に策定し、95年4月にはこれを3カ年計画(規制緩和推進計画)として前倒し実施することを決定した。
強化されたイニシアティブ 1997~2001
◆強化されたイニシアティブの設置
1996年に日米包括経済協議は終了した。橋本首相とクリントン大統領は1997年4月のデンバーでの日米首脳会談で、パートナーシップの枠組みの下に再び協議の場を設けることに合意した。この協議は日米包括経済協議での規制緩和分野を強化し、「規制緩和および競争政策に関する強化されたイニシアティブ(Enhanced Initiative on Deregulation and Competition Policy)」と呼ばれる。この「強化されたイニシアティブ」(外務省の呼称では「日米規制緩和対話」)は6月19日の共同声明で設置された。
新たな協議の設置は、米国が要望したものであった。日本では1995年に開始された3ヵ年の「規制緩和推進計画」の終了が近付いており、米国は日本国内の規制緩和が停滞することを懸念たからである。設置に関する共同声明では、基本原則として1993年の共同声明でも示された競争の強化や市場アクセスの改善という目的に加え、「消費者利益への取り組み」という新しい目的が強調されている。
「強化されたイニシアティブ」は上級会合（次官級）と５つの専門家会合（課長級）から構成されている。専門家会合には、日米包括経済協議でも取り上げられた電気通信、医療機器・医薬品、金融サービスに加えて、住宅分野が追加された。その後エネルギー分野も追加された。各専門家会合の作業部会では、日米双方の要望書(年次改革要望書)に基いて議論される。
◆橋本構造改革
1997年の第1回「強化されたイニシアティブ」に基き、日本政府は建築基準法の改正、金融持株会社の解禁、外為法改正による内外資本取引の自由化、証券デリバティブの全面解禁、独占禁止法の適用除外制度の廃止、大規模小売店舗法の廃止と出店規制の緩和などの規制緩和を実施した(共同現状報告)。大店法の廃止は郊外の大型ショッピングセンターの林立を招き、商店街が衰退してシャッター街が発生した。これに乗じて参入した米国外資系企業はトイザらス、ウォルマートなど。
参考資料
佐和隆光『平成不況の政治経済学 成熟化社会への条件』中公新書.1994.
1996年に日米包括経済協議は終了した。橋本首相とクリントン大統領は1997年4月のデンバーでの日米首脳会談で、パートナーシップの枠組みの下に再び協議の場を設けることに合意した。この協議は日米包括経済協議での規制緩和分野を強化し、「規制緩和および競争政策に関する強化されたイニシアティブ(Enhanced Initiative on Deregulation and Competition Policy)」と呼ばれる。この「強化されたイニシアティブ」(外務省の呼称では「日米規制緩和対話」)は6月19日の共同声明で設置された。
新たな協議の設置は、米国が要望したものであった。日本では1995年に開始された3ヵ年の「規制緩和推進計画」の終了が近付いており、米国は日本国内の規制緩和が停滞することを懸念たからである。設置に関する共同声明では、基本原則として1993年の共同声明でも示された競争の強化や市場アクセスの改善という目的に加え、「消費者利益への取り組み」という新しい目的が強調されている。
「強化されたイニシアティブ」は上級会合（次官級）と５つの専門家会合（課長級）から構成されている。専門家会合には、日米包括経済協議でも取り上げられた電気通信、医療機器・医薬品、金融サービスに加えて、住宅分野が追加された。その後エネルギー分野も追加された。各専門家会合の作業部会では、日米双方の要望書(年次改革要望書)に基いて議論される。
◆橋本構造改革
1997年の第1回「強化されたイニシアティブ」に基き、日本政府は建築基準法の改正、金融持株会社の解禁、外為法改正による内外資本取引の自由化、証券デリバティブの全面解禁、独占禁止法の適用除外制度の廃止、大規模小売店舗法の廃止と出店規制の緩和などの規制緩和を実施した(共同現状報告)。大店法の廃止は郊外の大型ショッピングセンターの林立を招き、商店街が衰退してシャッター街が発生した。これに乗じて参入した米国外資系企業はトイザらス、ウォルマートなど。
こうした進展にもかかわらず、日本政府から本日の協議に提出された規制緩和案は、「強化されたイニシアチブ」の目標に対応し、かつ、クリントン大統領と橋本首相の確約を果たすための詳細で、時宣にかなった、意味のある、包括的な規制緩和措置をまとめたパッケージの主要部分を構成するものではなかった。こうした提案は、日本国内における現在の規制緩和への国民の支持を適切に反映したものではないし、また、外国の製品やサービスの提供者に日本の経済を開放せよとする貿易相手国からの呼びかけに応えるものでもない。
−リチャード・フィッシャー次席通商代表のプレス・ステートメント(1998年3月4日)
−リチャード・フィッシャー次席通商代表のプレス・ステートメント(1998年3月4日)
参考資料
佐和隆光『平成不況の政治経済学 成熟化社会への条件』中公新書.1994.
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