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220 174 ◆TNwhNl8TZY sage 2010/03/24(水) 04:42:08 ID:CFxcMhn4




「どうしてうちにはパパがいないの」

見慣れたむくれっつら。聞き飽きた疑問。
もう何度この言葉を耳にしたんだか。
一々そんなの数えてるわけないからわからない。わかったとしても、だから? の一言で終わるだけ。
本来ならとっても重苦しいはずのこの質問は、もはや他愛ない日常茶飯事的会話といっても差し支えなかった。

「いるじゃない、この前だって会ったばかりでしょ」

返す私も、何回おんなじこと言ってんだか。
こんなので納得するわけないって知ってて、実際納得してくれた例だってない。
そしてこの子は見慣れたむくれっつらをもっと膨らませてこう言うのだ。

「じゃあ、どうしてパパはずっとお家にいてくれないの」

やっぱりね。またそのセリフ。
あのブッサいインコよりもレパートリーが少ないんじゃないかって時たま心配にさせられる。
ことある毎にパパ、パパって。ことがなくったってパパ、パパ、パパ。
思えば初めて喋った言葉もママじゃなくてパパだったわね。ぱーぱーって。
顔を合わせれば抱っこをせがんで、あいつが座ってるのを見つけるとその膝をイス代わりにして。
あんまりパパっ子なものだからママとしてはちょっと妬けちゃう。
ホントに誰に似たんだか。

「それはパパに聞きなさい」

あいつに聞いたところで、困った顔でごめんなって謝られるのがオチなのはこの際置いといて。

「そのパパがいないからママに聞いてるんじゃない」

あー言えばこう言う。
それはまだ目を瞑ってられるけど、人を小ばかにした態度はどうにかさせたいものだわ。
でも、それだけこの子が自分を見て成長してるんだと思うと嬉しくもある。
反面教師にはなりたくないけどね。
せめて誇れるママでありたいっていうのは、いけないことじゃないでしょ。

「忙しいのよ、パパは」

ちょっと疲れたようにそう言った。実際あいつは忙しい。
帰ってきてもろくに休みもせずにまた出て行って、しばらく経ったらまた帰ってきての繰り返し。
それはしょうがないことだって、この子もわかってはいる。頭ではね。
けれど気持ちの方はそうはいかいのは大人も子供も変わらない。

「私がもっと良い子にしてたら、パパももっとここにいてくれるかな」

子供らしい単調な考え。だけど子供らしい分、混じり気のない切実な願い。
こういうの聞いちゃうと、内心けっこう傷ついたりする。その気持ちは誰よりもわかるから。
しかしこれに付き合うと長い。長い上に真剣になればなるほど、こっちもあっちもとにかくとことん落ち込む。
そんなのは目に見えているから、私はあえてどうでもいいという風を装う。

「それもパパに聞きなさい」

キリリと目尻が吊り上がっていく。
普段はあまり目立たないけど、怒ると、あいつのあの特徴的な目つきに似るのはやっぱ遺伝なのかしら。
同年代と比べても小柄な身長。それに加えて性格も。
全体的に私に似ているけれど、あいつから受け継いでいるものも確かにあって、それが私たち二人の子供なんだっていう証のよう。
だから私はこれでなかなかこのふて顔も気に入っている。
これ以上キツくなるのはちょっと勘弁してほしいけどね、女の子なんだから。

「ママがそんなだからパパが家に寄り付かないのよ。そっけない態度ばっかりとるから」

責任転嫁も勘違いも甚だしい。
あいつが家を開けがちなのはもっと別の理由があるから。
それがなかったらずっと一緒にいてくれるんだろうけど、現実は、中々ままならないようにできている。
あなたが生まれてくる前のことや、夢の中で楽しくパパと遊んでいる時にパパがママにどれだけ甘えてきてるのか教えてあげられれば話は早いんだけど、
いかんせんまだ話すには早いのよ、早すぎる。
変な方に曲がられるのも、ヤキモチ妬かれて拗ねられても困る。
しょうがなく、私はかつてあいつが私にしてくれたように、何も言わずにこの子の癇癪を一手に引き受けるしかない。
現実は、ままならないわね、ほんと。

「どうすんのよ、外にあいじん? とか囲ってたら。ぜったいママのせいよ」

この子は一体どこでそんな言葉覚えてくるのかしら。昨日だってシーツに大きな地図を作っちゃってたお子ちゃまが。
心当たりはいくつかあるけど、本命はばかちーのとこ。
ばかちー同様底意地の悪いばかちーの子はいたいけで純真なこの子をよくからかっては遊んでいる。
あれほど注意しろっつってんのに、たく。逆に率先してやらせてんじゃないの。今度顔見たら文句言ってやる。
それにこの子もこの子よ、そんないらない心配したりして。
あれだけ、それこそ磁石みたいに引っ付いててなんにもわかってないんだから。
あいつに愛人囲う甲斐性もなければ、そんな暇もない。
大体そんなことしてたらもっと家に寄り付かなくなってるわよ。
うちにも、ばかちーの家にもね。
あいつは私とこの子が住む家だけじゃなく、ほぼ日替わりで誰かの家に「帰って」いる。
根無し草同然と言えばそう。
違うのは、それぞれの家にしっかり家庭の根をはっている点。
曲がりなりにもちゃんと父親をやっているらしい。でなけりゃ今頃吊るし上げられてるところだわ。
うち? うちはそりゃ一番しっかりやってるわよ、だってあいつの本当の家は、私とこの子が待ってるここだけなんだから。
こないだみのりんにこれ言ったら真顔でいやいやそれはうちでしょ〜とか言い返されて、三時間ばかり話し込んだけどね。
とても有意義な時間だったわ。ええ、とても。
月日が経っても本音をぶつけ合える友達ってそういないじゃない、私は幸せ者だわ。

「くだらないこと言ってないで、ほら、支度は済んでるの?」

「もう行くの? お姉ちゃん家」

今度は私が目尻を上げる番だった。

「何度言ったらわかるのかしら。おばあちゃん家でしょう」

とは言っても相変わらず見た目は到底おばあちゃんなんて言えないんだけど。
私もなんかしっくりこなくて、お義母さんとも、子供じゃあるまいしママとも言えず、昔と変わらずにやっちゃんで通してるし。
だけどこの子からしたらやっちゃんはおばあちゃんなんだから、そう呼ばせるのは当たり前じゃない。
でもまぁ結局、今のところこの子もやっちゃんのことは、おばあちゃんって言うには変な感じを覚えるのか、やっちゃんって呼んでいる。
やっちゃんもそっちの方が嬉しいらしくて、この子を甘やかしてる。
それに唯一自分より誕生日の早いお姉ちゃんのことも大好きみたいで、決まっておばあちゃん家をお姉ちゃん家呼ばわり。
なんとかしたいところだけれど、

「だってお姉ちゃん家だもん。お姉ちゃんがいるからお姉ちゃん家だもん」

これだもの。なによ。パパの言うことだったら素直に聞くくせに、ママの言うことは聞かないんだから。

「はいはいわかったわよ。それで、支度はどうなの」

「した」

「見せてみなさい」

どうせ隣の古臭さが増した上に、壁に空けた大穴を継ぎ接ぎした後がみえみえの、よりぼっろくなったアパートに行くだけなんだけどね。
けどそれにしては荷物が多い。
おもちゃに絵本にゲームのソフト、これを抱いてなくっちゃ眠れないお気に入りのぬいぐるみ、それに着替えまでバッチリ。
まるでお泊りになるのを見越していたよう。

「やだ、いつわかったの」

「こないだね、パパが帰ってきた日から数えてみたの。そしたら今日お姉ちゃん家の番だ、って。パパがいるんなら泊まりたい」

指を折って次はあの家、その次はどの家だって数える仕草が可愛らしくて、思わずぎゅっと抱きしめた。
いつかの夜にあいつがそうしてくれたように、あらん限りの愛情を込めて。

「いい、今日はたまたまってことにするのよ」

「わかってるわよ、ばかちーのとことかにバレたらうるさいもん」

そんなところまでマネしなくってもいいんだけど、蛙の子は蛙、ばかちーの子はばかちー、それでいいじゃない。
この子にとっても大切な妹の一人なんだし、愛称みたいなもんよ。

「パパ、びっくりするかな」

「そうね。喜ぶわよ、きっと」

本当はあなたも驚かせてあげるつもりだったのだけれど、驚かされたのは私の方だった。
目を見張る成長ぶりだわ。
ついこないだ生まれてきたように思えるのに、でもそれからあっという間に時間が経ったようにも感じる。
一抹の寂しさ。だけど、それがなによりも尊くて、嬉しくて、まだ見ぬこの子の明日がいつも楽しみで仕方がない。
できればあいつにも一緒に見ていてほしかった。
ずっと、一緒に。

「ママ?」

くりくりした瞳はもうさっきまでの、あいつの面影を残してはいなかった。
だけど確かに、あいつを感じる。
優しいのは、はたしてどっち譲りなんだろう。
やっぱりあいつの方なのかしらね。
私は一際力を込めて抱きしめなおした。
胸の中で小さくしたうめき声。少しだけ力を緩める。

「ごめんね、なんでもないのよ」

言うと、そのまま腰を上げた。この子があいつと遊ぶつもりで用意した手提げも忘れずに。
日々、少しずつだけど大きくなる体に合わせて増えていく体重が負担をかけてくる。
今はまだいいけど、しんどくなるのも時間の問題ね、これじゃあ。

「さぁ、それじゃあそろそろ行きましょうか」

「いいけど、でも早くない? まだお昼よ」

「だからよ。きっとなんの支度もせずに寝てるわよ、おばあちゃん」

やらなくちゃいけないことはいっぱいある。
部屋の飾りつけはこの際省くとして、掃除はしなくちゃならないだろうし、洗濯にお風呂の準備、あとできればお酒も用意しなくちゃ。
最優先事項は、ちょっと豪勢な夕食。これだけは絶対に外せない。
考えれば考えるほどやることは山のように浮かんできて、いくら隣で、とはいえ早めに始めておくに越したことはない。
そうでなくても竜児を抜かしたあの親子はとにかくやることがノロい。今も揃って寝ているに違いない。
私以外は全員子供だと思っていい。一番手がかかるのがそろそろ大台も見えてきたやっちゃんなのが、らしいと言うかなんと言うか。
それに私の目的は単にあいつの顔をみたいから、だけじゃない。
待っていてもあいつはそう遠くない内にここに帰ってくる。
あいつが来るのを知ってる上でわざわざやっちゃん家に出向き、手の込んだ料理を作って出迎えようというのにも、私なりの思惑がある。
少しでも早く会って、知らせたいことができた。
だからもう何年も守っていた順番を破ってまで、会いに行く。
ついでにやっちゃんにも知らせておかなきゃいけないしね。
なんだかんだ言ってもやっちゃんは私のママで、あそこはあいつの実家ってだけじゃなく、私の二つ目の実家でもあるんだから。

「今日はママ張り切るからね、楽しみにしててね」

「え〜ママがごはん作るの?」

そこはそんな風に嫌がるんじゃなくて喜んでくれると、ママだってやる気とかやりがいとか沸々とわいてきて、もっと張り切れるんだけど。
どちらかと言えばおもいっきり萎えたわ。痛めるのは胸じゃなくてお腹だけにしてちょうだい。

「なによその言い草。一体ママのご飯のなにがそんなに不満なのかしら」

若干の不機嫌さを滲ませた私に、けれどそんなの気にした風もなく。

「べつに。ただ、パパの作ったごはんの方がおいしいんだもん」

それはまぁ、確かに。
でも私だってあいつに及ばないまでも、それなりに勉強だってしてきたし、努力だってしてきたつもり。
あいつだってお墨付きをしてくれた。おいしいって言って、たくさん褒めてくれた。
なのにそんなイヤっそうにしちゃって。それを毎日食べてるのはどこの誰だと思ってんのよ。まったく、失礼しちゃう。
負けず嫌いな私は本当のこととはいえ、培ってきた自信に傷を付けられたこととあからさまな落胆ぶりに少しだけムカっ腹を立てた。

「好き嫌いする子はご飯抜きにするわよ」

よっぽどのこと、例えば妹たちを泣かせてくる、なんてことでもない限り、本当にそんなことしたりしない。
これは冗談半分のおどかし。聞きわけのない子を懲らしめるための、ちょっとしたおまじない。
しかし、そんなおどかしもなんのその。
あいつやばかちーに対してするものに比べたら剣幕とも呼べない剣幕。
とはいえジロリ、なんて睨めばそれなりに怖がるはずなんだけど、そんな臆した感情はおくびにも出したりしないで、
昔の私を鏡で映したような不敵なしたり顔を作ると、待ってましたと言わんばかりの弾んだ声でこう返された。

「いいもん。そうすればパパが作ってくれるもん」

その可能性は否定できないどころか大いにある。
どんな経緯があろうと、この子が一言お腹が空いたと言えば、たちまちあいつはこの子の好物を片っ端から作るわね、間違いなく。
逞しくて賢しい子。その歳でもうそんなことを見越した計算ができるなんて将来が安心だわ。
私はため息を一つ、戸締りをすませるとマンションを後にした。
短い道すがら、これで今夜はパパのごはんねとはしゃぐこの子に事情を説明する。

「今日はだめよ。パパだってたぶん疲れてるし、それにお祝いするんだから」

目を丸くしてキョトンとする、愛してやまない一人娘。
頭の中のカレンダーに覚えている範囲での誕生日を照らし合わせているのがわかる。
いくら探したって見つからないのは当たり前。
今日はパパのでもママのでも、もちろんあなたの誕生日でもない。
それだったら前もってちゃんと準備してる。
あいつだってそういう時だけは何があろうと来てくれる。
今までだって欠かしたことはなかった。この子のときも、私のときも。

「お祝いって、なんの?」

早くも諦めて答えを求める。ちょこんと首を傾げたそのポーズが反則的に愛らしい。
どんな宝石だってくすませそうな、好奇心に輝く瞳を前に、私はもう何度目かしれない「自分は甘やかしの親ばかだ」という事実を思い知らされた。
あいつが帰ってくるまで黙っていようとも思ったけど、もうだめ。
それにさっきはこっちが驚かされちゃったものね。なら、今度はママの番。
私はそっと口を近づけ、くすぐったそうに身をよじらせる、大切で、大切で、大切な───の耳元でそっと囁いた。

「あなたの家族が増えたお祝いよ」

                              〜おわり〜


224 174 ◆TNwhNl8TZY sage 2010/03/24(水) 04:45:38 ID:CFxcMhn4
おしまい
なんだか突発的に書きたくなって。
紆余曲折はそれなりにあったけど竜児一応は生きてるよ、シスプリみたいな感じだけど。


219 名無しさん@ピンキー sage 2010/03/24(水) 04:41:30 ID:CFxcMhn4
SS投下
「×××ドラ! ─── ×××ドラ! × t ───」

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