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382 ◆KARsW3gC4M sage 2011/01/10(月) 23:01:40 ID:h1a2G8Bn




[ある二人の日常(5)]




「ま、軽くだ軽く、別に早起きなんかしてねぇよ、まあ…学校に持っていく弁当よりは力が入っているけどたいしたことない」
コインロッカーに預けたカバンを取って水族館脇のベンチに向かう途中、彼がそう言った。
「へぇ……昨日の晩御飯とどっちが豪華なの?」
ちょっと試すような口ぶりなのは計算したうえの事、会話のキャッチボールをするには重要だからね。
「今日の弁当の方が僅差で勝ちだな」
ほんの少し思案した後、彼は口端を上げてニヤリと笑う。
ちなみに昨日の晩御飯のおかずは鮭のムニエル、バターの風味とコショウがうまい感じにマッチしていた。
「ま、昨日は時間が無かったから手早く作れる物だし手抜きと言えば手抜きだ、でもその代わりに明日からはちょっと肉率が増す…牛だぞ牛」
そう、昨日の昼の3時から狩野屋で超特売があって竜児はしこたま食材を買い込んで来たの、その恩恵を私も受けるので樋口さんを一枚献上したのは言うまでもない。
「え〜牛は乳臭い〜鶏は? 鶏は買ってないの?」
「牛さんの悪口を言うな、鶏は……アレだインコちゃんが怒るから少しだけ買った、2パック以上はマズいんだ」
「あ、そうなの? なら仕方ないや」
インコちゃんも大事な『家族』だから竜児は機嫌を損ねたくないんだろうね、だからそれ以上は言及せずにテクテク歩いてベンチへ。
「ふふん♪ さっ早く食べてイルカ見よーイルカ♪」
お弁当を真ん中に私達はベンチに座ってまずはお茶を一口、食欲よりイルカな私は早くお弁当を広げろと催促してみたり…。
「おぅおぅ待てよ、イルカは逃げないし弁当も逃げないから」
竜児がカバンを漁りつつそう言い、三段重箱を恭しく取り出す。
なぁ〜にが『軽く』よ、気合い入りまくりじゃん? 可愛い亜美ちゃんのために頑張ったのかな愛しい竜児は?
「へぇ…竜児の"軽く"は重箱かぁ、じゃあ気合い入れたらどんな感じになるのよ?」
「いやいやぁこれは本当に"軽く"だぞー、ちなみに気合いを入れたら聖夜祭で作ったアレ、うんアレくらいにはなる」
かな〜りワザとらしい、あぁ…もう可愛いなぁマジで。
人目がなければちょっとギュッと抱き締めあげたくなるくらいキュンとする、たまに竜児は私の母性本能を暴走させようとするから困る。
「いただきます」
「いただきます」
と互いに口にしてまずはふわふわ卵焼きに箸を伸ばす、甘くなく辛くもないほんのり塩気の効いた味。


これさ実は亜美ちゃん好みに作ってくれてるんだよね、甘い卵焼きが苦手な私のために竜児が……とか自分が『特別』なのを噛み締める。
「はい竜児…ほら早くぅ」
続いて唐揚げに箸をつけたところで私はちょっとしてみたいことがあったのを思い出したのだ、いわゆる『あ〜ん』ってやつ。
こう見えてコレをやる機会に今まで巡り会えてなかったのだ、飴を口移しで舐め合ったり〜なんてバカップル丸出しな行為はしたことがあっても初歩を踏んでいない。
それに気づいたら即実行、ほら…やっぱり順序は大事だしぃ? 恋人同士として避けて通れないしぃ?
「お、おぅ…」
目をパチクリさせた彼が頬を赤く染めて人差し指で軽く掻く様は見ていて嬉しい、まだ口にすらしてないのに照れちゃってさ…。
パクッと一口で唐揚げを食べて咀嚼する竜児を横目で確認した後、私は俵に握ったおにぎりをモグモグ。
何の気なしを装っている私は心の中でデレッとしていた、食べさせてあげたのだから彼は当然私にも同様に返してくれるハズだと期待して待っているのだ。
竜児はアスパラのベーコン巻きと私をチラチラと交互に見やりタイミングを見計らっているようだ、私は今か今かと待ち受ける。
「亜美よぅ」
「んぅ?」
意を決したのか彼が私に呼びかけてくる、もちろん待ってましたと私は竜児へ顔を向ける。
「このアスパラは新鮮で程よい歯ごたえもあるが決して芯で堅くはないしベーコンはカリカリに焼いてある」
「うん、美味しそうじゃん」
と男女の駆け引き(?)を2人して行う、人目を気にしなければ『食べさせろ』おねだりしているだろう、だけど公衆の面前だからこそ彼には自発的に動いて欲しいわけで…。
「ついでにチーズも包んであってシンプルながら今日一番の自信作と言っても過言じゃねぇ、ああ…つまり、な……そのだなぁ」
ここで彼はまごまごしながらベーコン巻きを箸で摘む、そして私と視線を合わせて何かを言おうとしては閉じ、また開きを繰り返す。
「た、食べるか?」
「ん」
私は頷いて瞳を閉じて口を開く、ここまで来たらもう大丈夫。
親竜児から餌を貰う雛亜美ちゃんと言ったところだ、ちょっとドキドキしてきた。
やっぱりこういうのって……照れるよね、こうしろと仕向けたのが自分であっても……。
口の中にそっと忍ばされたベーコン巻きを噛み、心中では何を紡ごうかと巡らせて、口をついて出た言葉は……。
「竜児は亜美ちゃんに自信作を自慢したかったわけだ?」


そんな軽口、天邪鬼だから素直に喜びを現せずに言った後に少し後悔する。
この後に照れあっちゃったりしてみたりとかしたかったが照れ隠しの言動でどう転ぶかわからなくなった。
「亜美のために作ったんだから自慢したいに決まってるじゃねぇか、で…どうだ美味いか?」
でも意外と彼は素直に返し私の方がまごまご…、チラッと上目遣いで見てコクンと頷くのが精一杯。
自身を省みてみると『お約束』をしてみたい反面『意外性』を求めている、だからかなり舞い上がってしまう…表には出さないけどね。
じゃあ次は私の番とベーコン巻きをそっと彼の方へ……。
...
..
.
お昼ご飯は始終『あ〜ん』でしてしまい思った以上に時間を取ってしまった、もちろん気分は最高です。
食後にお茶を飲んでカバンは再びロッカーに封印、暖かい陽気と同様に私の気持ちも暖かい。
恋に恋する乙女なんかじゃないけど、私は記憶の引き出しにこの出来事をそっと仕舞って帰ってから楽しもうとニコニコと笑う。
ちなみに重箱の中身2/3を竜児に『あ〜ん』したのは内緒、さすがに半分を受け持つのは出来ないよぅ……肥るし、本音を言うなら食べれるけど。
腹八分目どころか六分目で抑えておいた方が色々と無難なの、竜児には悪いけど、さ…。
「おぉ……これはさすがに人気だな」
え? 亜美ちゃんのこと? ん〜まあ亜美ちゃんってばマジ天使だし?
てな意味ではない、イルカショーの記念フォトの抽選だ。
件の限定三組というアレ、但し書きによると抽選に当たるとフォトを撮ってくれる代わりに席が後方、外れると席が前列になるらしい。
どう転んでも美味しい思いは出来るようにという配慮みたい、ショーが始まる三十分前までに受け付けたカップルが対象で……とか何とか。
私達の前に十一組のカップルが居て時間は締め切りギリギリ、つまり十二組で三枠を取り合うということ。
「ま、それが売りみたいだしね」
私は彼と腕を絡めてピッタリ寄り添う、そしてこう聞いてみるのだ。
「抽選……当たるかな?」
「ん? 当たるようにお祈りするしかねぇな」
二言、三言…短い会話を残して二人は前を見据える。
列が進むにつれ抽選の方法が次第にわかってきた、どうもアミダクジらしい…ふむふむ彼氏が名前を書いて彼女が用紙に横棒を二本書き足して…と。
そうこうする内に私達に順番が回ってくる。


「よし書くか」
「うん…いっちゃって」
とは言っても一枠しか残ってないから選びようがない、つまり……私の……川嶋亜美の運が試されているわけだよね?
渡されたボールペンをクルッと指先で回してよく見定めたらまずは横棒を一本、二本目は……。
「ねぇ……あの娘ってモデルじゃない、ほら何って名前だっけえっとぉ…」
「は? マジ?」
とか外野から聞こえちゃってるんですけどぉ? あれれぇ?
今日はぁプライベートで大好きな彼氏とラブラブデート中だから困っちゃうなぁ〜んふ♪
そんな雑念を振り解くように二本目の横棒を書き足して係員にボールペンを返した。
「はい、ではこちらの方で抽選をして当選されたカップルをお呼びしますのでしばらくお待ちください」
そう言われた後、周囲を見渡して竜児が私に目配せをする。
『腕を離しといた方がいいんじゃないか?』
多分そんな意味合いで、職業上プライベートで目立ったらスキャンダルになるかもという配慮だろう。
でも私はそれを無視してより強く彼にしがみついて寄り添う。
『今更遅いよ…堂々としていよう?』
私はニコッと笑ってアイコンタクト、それが通じたかはわからない……けど竜児はどこか嬉しそうだ。
彼が嬉しいなら私はもっと嬉しい、こちらをチラ見するカップル達なんか無視して二人の世界へ…と思った矢先に係員が大声で抽選が終了したと伝えてきた。

「大変お待たせしました結果が出ました! まずは一組目…」
告げられたのは別のカップル、まあまだ二枠ある大丈夫。
わっと沸き立つそのカップルを横目にドキドキしながら続きを待ちわびる。
二組目も残念ながら私達ではない、ちょうど一つ前にいたカップル達が当たった。
「では最後の三組目は………」
当たれっ!
「………さんカップルです♪」
…………読み上げられた名前は私達ではない、そう……抽選から見事に外れた。
ガクッと肩を落としたのは私ではなく竜児の方だったりする、私は………そりゃあ残念だけど……うん期待通りにいかないのが世の常、しかたないものはしかたない。
「すまん、あと五分早ければな」
「いいって、私が書いた位置のせいかも……だし」
「おぅ……いや亜美は悪くねぇよ」
「はいはいわかったわかった、ほら落ち込むヒマがあったら席につこうよ」
あえてサバサバ、何だかんだ言って実は悔しい…けどあえて見せたらあざとい、私はそういうのは竜児に見せたくない。
強い娘でいたい…。


ちょっぴり残念なのは確かだけど、いつまでもしょげてなんかいられない、待望のイルカショーを楽しまないとね。
彼に引かれるまま座ったのは最前列中央のやや右寄り、ほぼ真ん中と言ってもいい。
「真ん中じゃないとかありえないんですけどぉ?」
「贅沢を言うな、ほら見てみろちびっ子達は大人しくしているぞ、いいじゃねぇかほぼ中央だし」
と、数段後ろの子ども達を見つつそう諭される。
ワガママを言うのは彼に構って欲しいからに決まっている、私は頬を膨らませて手の甲を抓って嫌がらせとかしてみる。
「地味に痛ぇから止めろ」
竜児が人差し指で私の頬を押してくるのであっさり降参して一言。
「ま…亜美ちゃんは竜児とイルカが見れたらどこでもいいし? あ、話は変わるけど聞きたいことがあるんだよね…」
「おう?」
「これが終わってから行く場所……ほら何か私に辛い目にあってもらうとかどうとかってやつ、あれってどういう意味?」
朝からエロエロ妄想で脳内ピンク色の私が思い浮かべるのは……アレやらコレやらソレとか……だし。
もし違っていたら恥ずかしいじゃん? 竜児にその気がなかったら亜美ちゃんだけ浮かれて馬鹿を見るわけだしハッキリさせとかないと。
「どういう意味も何もそのまんまの意味だ、そうだな場所は山…いや丘?」
「は……山? 丘?」
ニヤリと意地の悪い笑みで返す竜児がどこか憎い、てか………山とか丘って野外ってことだよ、ね?
私の顔がみるみるうちに紅潮していく……ジワリと下着を汚してしまう感覚も同時に……。
つまり彼が言わんとしているのはあ、あお……か………ちょ……待ってよ!
それはダメ! ほ、ほらまだ肌寒いし? ちょっと早めに冬眠から醒めたカエルが居たら……居たら……居ないか、じ・ゃ・な・く・て!! あうあうああぁ……う。
「おぅ? どうしたんだよさっきから顔が真っ赤にして風邪でもひいたか?」
顔を俯かせてモジモジする私の頬を両手で支えた竜児がコツっと優しく額を重ねてくる。
「あ……」
暖かい彼の手は心地良く私を溶かし至近に迫った顔面と……大好きな竜児の匂い、トロンと蕩けてしまいそうで思わず洩れた声は甘く媚びた啼き声で……。
ただ額を重ねて体温を計ろうとしているだけ、なのに…唇を重ねる直前に似た状況で更に高揚していく。
求愛されて甘く啄まれる感触を思い出し熱く蕩ける感覚を無意識に求めてしまいそうになる。


「熱なんてないよ…」
でも理性が打ち勝って彼の胸を軽く両手で押し返して一回身体を震わせる。
「でも………」
その先は絶対に言わないもん……『何なのか』は後で確かめてみなよ、もう確定…竜児は私を山で………ごくり
あえて人目につく場所から少し離れた場所で……とか、誰も居ないからって見晴らしのいい場所とか……かなり罰当たりだけど神社の境内だったりして……。
やだ…やだけど竜児はしたいんだよね? 誰かに見られるかもしれない状況でしたいんだよね? 『こういう愛し方』をしたくて興味深々で妄想して実践したくて……。
亜美ちゃんは……私は……竜児の彼女だもん、今より仲良くなりたいと思ってるから………もっと大好きになって欲しいもん、だから……いいよ?
私は押し黙ったまま妄想して悶々となり両手を太ももでギュッと挟みもじもじ、私達の年頃はデートとエッチはセットなの…。
竜児は男の子だからそれしか頭にないよ多分、亜美ちゃんだってエッチは嫌いじゃないしむしろ好きだし、あ…もちろん竜児とするから好きなんだけど……あ、あおかん……は前々から興味があったと言えばあったし?
ちょっと暴走気味かな?
よくよく考えてみたら彼から言質は取れていない、山だか丘に行くのは言っていたけど何をするかまでは……でもでもデート=エッチの年頃だし。
やっぱりするよねそこへ行ったら竜児は竜になってカミツキガメを呼び覚ます、そして私を木にし、縛っ……。
「お〜い亜美どうした? 急にボーっとして」
その言葉にハッと気づいて脳内での葛藤は霧散し、気付かれないようにデニムの上から下着を軽く撫でてみると………さっきより濡れていてヌルヌルしてかなり居心地が悪い。
「え……な、ぁ、う………、あーっと………イルカ……うん! イルカって可愛いよね!」
「お、おぉ」
私は羞恥を誤魔化したくてあたふたしてしまう、何事かと怪訝な顔をして返す彼を見てみると喉元に目線がいく。
決して太くはないけど男の子らしい喉元についた赤い内出血の痕……それは昨夜に私が強く求愛した痕、愛情を言葉に載せて紡ぎながら強く刻んだマーキング。
普段見たらそう気にならないしかし今見てしまうと妙に艶めかしい、自身の身体にも同じ痕が何ヶ所にもそれこそ誰にも言えない恥ずかしい場所にも。
ああ……ダメダメ今は何をしてもエッチぃ事に直結して考えてしまう。


右手を額に当てて大きく溜息を吐く、挙動不審な様を彼がどう思っているか……言わずとも見ざるとも何となくわかる。
「イルカな、イルカと言えばショーもそろそろ始まるな、待ちわびてたんだろ?」
そして彼は目を泳がせて会話のキャッチボールをしようと試みる。
「ま、まぁね! 実はこの手のショーって見たことがないんだよね」
私はもちろん受けて立つ、どことなくギクシャクし始めた雰囲気を少しでも和らげたくて…。
「俺も初めてだ、昔から泰子は忙しくてなかなか連れて来られなかったらしくてよぅ」
と、彼が話した所でステージに司会者が現れてマイクを片手に開催を告げる、内容は簡単に言うなら二匹のイルカが芸をするということらしい。
通路状のステージより少し奥はプールになっていて調教師二人とイルカ二匹が脇から現れ、待ちに待った楽しい一時が始まる。
まずはイルカが名前を呼ばれて挨拶代わりに可愛くキューキューと鳴く、私はこの時に初めてイルカが鳴くと知った。
続いて調教師が二人で持った大きなフラフープを水面から飛び上がったイルカがくぐり抜けご褒美に餌を貰う。
芸の合間合間に司会者がイルカの生態なんかを掻い摘んで紹介してくれる。
放られたビーチボールを鼻先で受け返し、調教師を背に乗せて悠々とプール内を泳ぎ、その愛らしさに私は夢中になる。
テレビなんかで見るより実際に見てみると興奮する、だから司会者が教えてくれた蘊蓄も耳に右から入ってそのまま左へスルーしてしまったのだ。
時間にして一時間未満といった所か、全ての演目を終えて楽しいショーが終わりに近づいた頃にそれは起こった…。
調教師と共に方鰭を振ってバイバイした後、イルカ達はプールから去ろうとしていた。
一匹は大人しく調教師に連れられて行ったが残る一匹が私達の前でピタッと止まりこちらをジーッと見詰めてくる。
調教師が促しても動じずにジーッと見定めるように…だ、この姿に私と彼は微笑ましい気持ちになる。
だが起こってしまったのだ、とある出来事が……。
イルカが水面から少し背伸びをして右鰭をスッとゆっくり持ち上げた、つぶらな瞳は明らかに私達二人を照準に収めている。
そして……
バシャッ!と大きな水音がした……そう鰭で思いきり水面を叩いたのだ。
逃げる暇もなければ声をあげる暇もなく私達を含め周囲の観客に飛沫が……いや水の塊が降り注ぐ。


この状況に唖然とする観客を見てイルカは
「くけけけ〜」
としてやったりな笑い声に似た鳴き声をあげた、司会者が言っていたじゃないか
『イルカは悪戯好き』
だと。
...
..
.
「……サイアクッ!」

「ま、まあ落ち着け! 仕方ねぇじゃねぇか、イルカのちょっとしたオチャメだろ、なっ?」
私は怒り心頭しながら靴を荒々しく踏み鳴らしながら水族館の出口へ向かって歩いていた、その背後には宥めようとする竜児。
そんな二人の手にはタオルが握られ、彼はカバンとポラロイド写真。
イルカがオチャメをしたお詫びにと特別に撮ってくれた写真と身体を拭けと渡されたタオルだ。
ちなみに写真にはもちろん悪戯イルカが写り込んでいて頭からびしょびしょの私達二人もまた微妙な表情で写っている。

私は彼の言葉を聞こえないフリして足早に進む、服が肌に貼り付いて不快だしちょっとクンカクンカしたら生乾き洗濯物フレーバー、気合いを入れた化粧は崩れまくりだしセットした髪も乱れた。
デートはこれでおしまいじゃないまだ昼よ? お日様は頭の上でさんさんと輝きこれから盛り上がるというところでテンションダウンされたのだ。
イルカめっ! イルカめっ! とか毒づいても可愛かったのは認めるしかなく、振り上げた手の落としどころもなく低く唸るしか出来ない。
「くしゅん!」
「ほらだからちゃんと拭けって言っただろ」
盛大にくしゃみしたのと同時に彼は私に追いつき左手を掴む、強く強く暖かくてちょっぴり嬉しい。
ワガママが過ぎて引っ込みがつかなくなっていた私を力強く引き寄せてくれる……それを亜美ちゃんは振りほどいたりしないもん。
「髪の毛……ぐしゃぐしゃになるんですけどぉ」
彼がタオルで私の頭を拭く、撫でるように優しく優しく…決して乱暴にではなくて壊れ物を扱うように。
機嫌が悪い様を演じているが内心デレデレしている私がいた、今日はずっとこんな按配だけどさ……ごめん言い直すね『昨夜仲直りしてから』だね。
ぷいっと顔を背けて黙々と私は道を進み彼は三歩後ろからついてくる、嬉しくて照れる私は何も言えなくなってこの喜びをどう表そうか思案する。
飾らない素で彼に『楽しいね』と紡いで甘えたい、人前だと諫められるから……誰も居ない場所へ。
そんな場所が近場にあるのか……うん実は目星はついているんだ、今回は大義名分もある。


「おい、そんなに急いでどうしたんだよ……道に迷うぞ」
と、竜児は水族館に行くバスから見つけた『アレ』の方へ誘導しているのに気づいてない様子、私から誘うべきか否か……。
だが迷っている時って自分の中ではもう答えが出ていたりする、後押しが欲しいだけだったりする。
私は立ち止まり後ろを振り返る。
言った方がいいよね? このままワガママを続けていたら竜児に嫌われる。
「亜美ちゃんも竜児も全身びしょ濡れじゃん頭からつま先まで、だから服を乾かせれる所に向かってんの」
一息にそう言った後、彼の方に歩み寄り強く右手を握る。
「仕事で移動中に"偶然"見つけてどこらへんにあったかは覚えてるし、風邪をひく前に……ほらこっち!」
もちろんこれは言い訳この街に来たのは今日が初めてだしモデルの撮影は大橋付近ではしない、有無を言わせずに握った右手を引いてグイグイと引っ張って早歩きしてみる。
「まさかコインランドリーじゃねぇよな? 着替えなんて持って来てないぞ」

「んなわけないから、ま…行けばわかるよ」
『服を乾かせて体を温めれてかつ二人きりになれる』
そんなのラブホテルしかない、安直だけど朝からの目的も果たせて一石二鳥だ。
ちょっと前に竜児と入ろうとしたら制服なのを理由に断られたことがある、当たり前だけど…。
そのリベンジも兼ねている、どっちみち服を乾かさなきゃ交通機関を利用出来ないわけだから時間の有効利用。
『代わりの服を買えばいいんじゃないか』とツッコまれたとしても『MOTTAINAI』と返せばいい、それなら彼もそれ以上は言えない。
記憶と感を頼りに三十分程歩くと目的地が見えてくる、幹線道路沿いだから迷いはしない。
「もしかして…だが、目的地はアレか?」
信号待ちをしていると彼はようやく気づいて私に小声で訪ねてきた、私は言葉じゃなく握った手を恋人繋ぎに変えて指を絡ませて返事とした。
「おぅ…確かにドライヤーで服を乾かせるな」
と呟く彼の手の平が徐々に汗ばんでいくのを感じた、ガラにもなく緊張しているのかな?
信号が青になり横断歩道を渡ってラブホテルまではあと少しの距離、ここが大橋じゃなくてよかった。
学校の子に見られてしまったら話に尾鰭がついてしまう、私としては気にしないが先生に呼び出される可能性は無きにしも非ず。
ちなみに前回のチャレンジは大橋だけど街外れだったから入りやすかった、ただし今回は人目につくのが難点。


真っ昼間からカーテンを潜れば嫌でも見られちゃう、けど入ってしまえばこちらのものだ。
ホテルの目の前まで来てしまったらタイミングを計るだのは言ってられない、立ち止まろうとした彼を力いっぱい引っ張ってカーテンを潜り駐車場を抜けてロビーへ足早に進む。
私達二人の間に会話はない、童貞処女というわけではないけど緊張しまくりなのだ……夜なら終電が無くなったからとか言えるけど真っ昼間から………なんて。
ラブホテルに来る目的が『服を乾かしてシャワーを浴びたい』なんて誰にだって建前だとわかる、本音はエッチ以外にないじゃん普通、しかも私がノリノリで連れて来た。
てかまだ昼なのに他の客も居るんだね……。
駐車場には数台の車が止まっていた、目的は皆して同じなので別に恥ずかしくもない。
自動ドアを潜ってロビーに行くと客と店員が顔を合わせずに会計が出来るように配慮されていたりする。
私は初めてだから勝手がわからないけど、お金を払うのは帰る時みたい……まずはパネルから部屋を選んでボタンを押してカギを受け取ればいいのだろう。
知識で『休憩・宿泊』は知っていたがフリータイムというのもあるらしく、この時間帯は一律フリータイムらしい。
夕方までは誰にも邪魔はされないのならいつもよりいちゃいちゃ出来る!
いつもはやっちゃんが寝てるし激しくし過ぎるとインコちゃんが私の喘ぎ声を覚えて連呼しそうだからコソコソしていたし、私が世話になっている親戚宅はちょっと………ね? 叔母さんにバレたから一回しかしてない。
「どの部屋にしよっか?」
彼に部屋選びを促して私は全室の写真をチェックしてみる、うわ……SM系な部屋とかあるし……それに大理石調お風呂に滑り台?
「こ、これなんかどうだ?」
竜児の指さす写真は柔らかなベージュ色の内装の落ち着いた部屋、無難だね。
「えー亜美ちゃんはこっちとか気になるなぁ」
対して私は『和』な畳の部屋を指さす、ほら普段はベッドじゃん? 直に敷かれた布団と枕二つって……なんかエッチだよね。
ちょっと旅行で温泉に来ましたよーみたいな雰囲気が気に入った、枕元の行灯照明とかあったりするし……。
「ならここにしとくか」
と竜児は私の選んだ部屋のボタンを押してディスプレイ下に落ちてきたカギを受け取る、ああ…とうとうラブホテル初体験が始まる。
「うん……じゃあ行こっか」
私達は手を取り合ってエレベーターまで向かった……。



続く






392 ◆KARsW3gC4M sage 2011/01/10(月) 23:09:31 ID:h1a2G8Bn
以上です、続きが書けたらまた来ます。
では
ノシ
381 ◆KARsW3gC4M sage 2011/01/10(月) 23:00:48 ID:h1a2G8Bn
皆さんお久しぶりです。
[ある二人の日常]の続きを書いたので投下させていただきます。
前回の感想をくださった方々、まとめてくださった管理人さんありがとうございます。
私情で投下ペースが激遅で申し訳ありません。
今回もエロ無しでちわドラです、苦手な方はスルーしてやってください。
では次レスから投下します

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