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64 きすして7(中) sage 2010/03/17(水) 23:37:29 ID:VIfzVF5c




 年が明け、受験勉強の追い込みに明け暮れ、そして今日、志望校の受験を終えた二人は
泰子の実家でくつろいでいた。

 二人が過ごしている部屋は二階の客間をつぶして造られた十二畳ほどの洋室だ。竜児は
こんなことになっているとは思いもよらなかったのだが、いつの間にやら元祖高須家はリ
フォームされていたのである。正確に言えば、十一月末から正月にかけて耐震補強と外壁
補修をしたという話は聞いていた。それは聞いていたのだが、二階の間取りがまるっきり
変わってしまっているとは思わなかったのだ。想定外の事態におろおろとする二人に、

「二人で暮らすには広すぎるし、二階建ては不便だから売ることも考えてたんだけどね、
竜児君と大河ちゃんが来てくれるなら賑やかになるしリフォームしたのよ」

 と満面の笑顔で園子は言ったのだった。
 
 そのあまりにも劇的すぎなビフォーアフターっぷりに、竜児も大河も喜ぶより先に青ざ
めた。高須家の二階部分は完璧に作り替えられていて、トイレは言うに及ばず、ユニット
バスやミニキッチンまで備えた『ほぼ二世帯住宅』と化していたのだ。そんな二人の様子
などまるでお構いなしに、園子は「ちいさいけどお風呂もあるのよ」とか「温水洗浄便座
もつけたのよ」とか、それはもう嬉しそうに説明し、「防音もバッチリだから、遠慮しな
いでね」と言って微笑んだ。

「う、うれしいよ。ばぁちゃん。な、なぁ、大河」
「う、うん。ホ、ホ、ホントにありがとう」
 笑顔を引き攣らせながら二人は思った。これで落ちたら洒落にならない…

「やるっきゃねぇよ」「だ、だよね」と二人は決意も新たに決戦に挑んだのである。

 ともあれ、そのプレッシャーで気持ちが引き締まったのか、とにかく二人とも試験の方
は十分な手応えを感じていた。もちろん試験の結果に対する不安が無いわけではないが、
やるだけのことはやりきったという実感もあって、今はとにかく開放感を満喫したい二人
だった。

 ベッドも机もない真新しい部屋にはとりあえずの小さな座卓と布団が二組、それに石油
ファンヒーターが一台あるだけだった。リフォームで断熱が改善されたお陰か、外はしん
しんと冷えているのにファンヒーターから吹き出す温風で部屋の中は随分と快適だった。
 パジャマ姿の竜児は布団にうつ伏せになって携帯電話を弄っている。自分と大河の受験
が問題無く済んだことを北村に伝えておこうと思ったのだ。大河は竜児の背中を枕にして
布団に寝転がり、竜児と同じように実乃梨宛てのメールを打っている。
 竜児は五行ほどの短いメールを送信して電話を閉じて、また開いた。受信ボックスを開
き、二日前に届いたメールを選んで返信ボタンを押して『こっちはうまくいった。香椎も
がんばれよ』と打ち込んで送信した。それと同時に北村からのメールが着信。たった一行
の返信をチェックして竜児は電話を畳んだ。背中から聞こえてくる大河の鼻歌に耳を傾け
つつ、携帯電話のサブディスプレイを見ると時刻は二十三時半。あと三十分もすれば、日
付は二月十四日。バレンタインデーである。
 大河はメールを打ち終えて実乃梨に送信。すぐに返信が来て、大河はそれを確認してか
ら電話を畳んだ。



「ねぇ、竜児」竜児の背中に頭を乗せたまま呼んだ。
「ん? どうした」背中に大河の頭を乗せたまま応えた。
「明日、バレンタインだね」
「そうだな」
「一年、経ったんだね」
「そうだな。ずいぶんいろいろ有ったけど、まあ、あっという間だったな」

 二人が本当の気持ちをぶつけ合ってから丸一年。駆け落ちにこそならなかったけれど、
雪の降りしきるバレンタインの夜に交わした言葉は現実になり、大河は竜児の嫁になった。
そして嫁になってからすでに三ヶ月が経っている。

「うん。ホントだね」
 そう言って大河は身体を起こし、布団の上にひざを抱えて座った。
 
「竜児。本当に今更なんだけどさ、ずっと言えないでいたことがあるのよ」
「んん? なんだよ」
 竜児も身体を起こし、大河の正面で胡座をかいた。

「実はね、ずっと前からあんたに謝らなきゃいけないって思ってたことが一つ残ってて、
一昨年の年末に、あんたインフルエンザやって入院したじゃない」
「ああ、櫛枝に撃破されたときだな」
 淡々と竜児は言った。もう、丸一年以上も前の事だ。すっかり消化している。
「そう、そのとき…」
 小さな声で大河は言った。
「お前、見舞いに来てくれてたもんな。あれは正直、助かった。いろんな意味で」
「うん。それでね…、竜児が、その…」
 大河は何かを話しかけて口ごもった。抱えた膝に口づけするように俯いて瞼を閉じた。
 竜児はそんな大河を黙って待つ。大河は小さく「うん」と言って、顔を上げた。

「クリスマスにさ、私のところに来てくれたでしょ」
「ああ。行ったな」
「すっごく嬉しかったんだけどね、私、あんたを送り出した後で気付いちゃったのよ。
 私は竜児が大好きなんだって。
 あんたがいないと生きていけないんじゃないかってぐらい、私はあんたの事が大好きに
なってたのよ。でも、気付いたときには手遅れで、私はあんたを引き留めようと思って追
いかけたんだけど間に合わなかったのよ」

「大河…」竜児は呟き、彼女を見つめた。

「一晩中ずっと泣いてた。もうね、本当にずっと、ずっと泣いてた。
 でも、竜児から『うまくいったよ』って言われたときには絶対に笑ってあげなきゃいけ
ないって思って、諦めなきゃ、諦めなきゃ、っておまじないみたいに何回も自分に言い聞
かせてた。明け方までそんな感じだったけど、いつの間にか寝ちゃってたのよね。
 そしたら、やっちゃんから電話がかかってきて、あんたが入院したって聞かされて…。
もう、大慌てで病院にぶっ飛んでいったら、やっちゃんはパニクっちゃってるし、どうし
てそんな事になってるのかワケわかんないし…」
「あれはすまんかった」
 それだけ言って、竜児はきまずそうに目をそらした。
「でも、よかったよね。ちゃんと治って」
 言いながら大河は竜児の頭を撫でた。
「ホント、そうだな」
 そう言って竜児が視線を大河に戻すと、今度は大河が小さく頷いて視線をそらした。
 僅かな沈黙のあと、大河はぽつぽつと話し始める。



「それでね、やっと話せるようになったあんたから『だめだった』って言われて……思っ
てもみなかったから、最初は訳がわかんなかった。けど、」

「けどさ…」
 大河は苦しげな表情を浮かべた。
 そして、そんな辛そうな表情のまま話を続ける。

「あのときマスクしてたからあんたは気付かなかっただろうけどさ、

 私、笑ったんだよ…。

 どうしてそんな事になったのか全然わかんなくて、信じられなかったけど、ああ、良かっ
た。これでまた竜児と一緒に居られるんだ、ってそう思ったら…嬉しくて嬉しくてたまら
なかったのよ。嬉しくて、ぶわぁって鳥肌が立って、身体が熱くなって、けど、さ、酷い
じゃない。好きな人が傷ついて泣いてるのに…竜児は辛くて泣いてるのに…さ、」

「私は、それを、喜んだんだよ」
 大河は大きな瞳を潤ませて、苦しげにそう言った。

「それに気付いたら、結局、自分の事しか考えてないんだって。酷く恥ずかしくて、惨め
で…。私には人を好きになる資格なんか全然無いんだって。竜児に優しくしてもらう資格
なんて無いんだって。
 もう、自分が嫌で嫌で堪らなくて、そんな自分を竜児に見られるのが嫌で、怖くてたま
らなくて、竜児の傍になんていられなかった。
 それで、竜児のこと、諦めよう、好きって気持ちも棄てよう、忘れようって。それで、
北村君を拝ませて貰ったりもしたんだけどね、まるっきりダメだった。もう、あんたが好
きって気持ちには歯止めがかかんないのに、そんな資格無いんだ!っていう気持ちもどん
どん強くなって、離れなきゃいけないって思って自立宣言してみたけど、どうにも、辛く
てね。辛くて、辛かった…
 そのころから、ポストに変な手紙とかが投げ込まれるようになって、お金がどんどん無
くなって。ああ、これは天罰なんだ。私があまりにもいっぱい求めた所為で全部壊れちゃ
うんだ。結局、私に居て良い場所なんて無いんだなって。
 もう、本当にボロボロでさ、スキー場でドジって滑り落ちて、必死に隠してた本心を
あんたに知られちゃったんだよね」
 大河は膝の上で組んだ腕に頬を乗せてため息をついた。そのまま潤んだ瞳を竜児に向け
て「まあ、結果的にはそれでよかったんだけどね」と言った。

「幻滅した? ごめんね、でも嫌いにならないで。勝手だけど」

 竜児の胸は大河の濡れた視線に締め付けられた。
 確かにそれは大河にとって重い罪だったのだろうけれど、それほどまでに彼女は自分を
好いてくれたのだ。欲しいと思ってくれたのだ。

「幻滅しねぇし、嫌いにもなんねぇよ」
「ありがと」
 潤んだ瞳のままで大河は微笑んだ。微笑む大河に竜児は小さく首を振った。


「俺の方こそすまなかったな。全然わかってやれなくて。それなのに、俺はお前のことは
あらかたわかってるつもりでいたんだ。俺がもっとお前をちゃんと見てれば、もっと早く
お前を救えたかもしれねぇのに」
「しょうがないよ。言わなかったもん。怖くて、言えなかったもん」
 そう言って大河は俯いた。

『あんたなんかに、いわない気持ちなんて、死ぬほどあるんだからっ!』

 竜児はそんな事を真っ白いゲレンデで言われたことを思い出した。あの時は、その言葉
にそれほどの意味があるなんて思わなかった。売り言葉に買い言葉なんだと思っていたけ
ど、あれは大河が苦しくて堪らず吐露した本心だったのだ。
 あのクリスマスの夜に壊れ始めた大河の世界は、それからほんの数週間でガラガラと崩
れ去っていった。それがどれほどの痛みを、恐怖を彼女に与えたのか。どれほど傷つけ苦
しめたのか。
 なのに、そのことを大河は一言も言わなかった。
 そして、それに気づけなかった。一番近くで見ていたのに気づけなかった。竜児はその
事実が怖かった。

「言えよ。そういうことは。言ってくれなきゃ、わかんねぇよ」
 縋り付くような気持ちで竜児は言った。
「苦しいときは苦しい。痛い時は痛いって言ってくれ」
 そうしてくれなければ本当の事は分からないのだ。
「頼むから、俺にだけはちゃんと伝えてくれ。お願いだから」
 大河は「うん」と小さく言って、膝で立って竜児の背中に抱きついた。広い肩に細い腕
をショールでも掛けるみたいに柔らかく巻き付けて「今はそうしてる」と竜児の耳元で囁
いた。

「でも、それが言えないくらいさ、あの頃は弱かったんだよ。今だから言えるんだよ。
 あたしはこんな女なんだよ、って」
「だった、だろ」
「今だって、大差ないわよ。きっと」
 竜児は右手で肩に添えられている大河の左手を握った。
「けど、俺はそんなお前が好きなんだよ」
 言いながら小さく身体を前後に揺すった。まるで、背負った大河をあやすみたいにゆっ
くりと。
「なあ、大河」
「うん」
「俺だって自慢できるような男じゃない。結婚したってのに稼ぎもねぇし、夫婦でじい
ちゃんの家に居候だし。得意なことは家事と勉強ぐらいのもんだ。面白い話ができるわけ
でもねぇし、ツラにいたってはこの有様だ。けどよ、」
 ゆっくりと二度、三度と竜児の身体が揺れる。
「けど、なによ?」
 竜児は大河の手を取って、自分の肩を抱いている大河の腕をほどいた。胡座をほどいて
膝で立ち、大河の正面に向き直る。俯き加減の大河の頬に右手を添えると、大河の細い肩
が微かに揺れた。左手でやさしく顎を上げさせて、潤む瞳を見つめた。

「なに…よ…」
 大河のふっくらとした桜色の唇がふるえる。
 竜児は大河を見つめる。甘い痛みが胸に広がり、心がはち切れそうになる。
 唯々、抱きしめたい。けれど、その前に伝えたい。
 一つの事実を彼女に…


「俺は、お前を愛してる。誰よりも、ずっと」

 竜児は穏やかに抱きしめるように言った。 
 竜児を見つめる大河の目に涙があふれだし、それは光る粒になってぽろぽろとこぼれて
いく。粒は滑らかな頬を走り、滴りおちてパジャマの胸の部分を小さく濡らした。

「そんなの知ってるわよ。私だってあんたのこと、愛してる」

 ピンク色の可愛らしいくちびるが緩くひらき、白磁のような歯がのぞく。

「りゅーじ…。きす、して」呟いて、大河は瞼を閉じた。

 竜児はゆっくりとやさしく唇を触れ合わせた。
 確かめ合うように、長い長い口吻を、幾度も息を継ぎながら…
 いつしか大河の細い腕は竜児を身体を抱きしめていた。
 竜児がゆっくりと唇を離すと、大河はうっすらと瞼を開けて、
「もうちょっと…」と切なげに呟いた。
 大河はくちびるを緩くひらいて竜児をさそう。女の表情で『きて』と訴える。

 竜児は花びらのような唇の感触をもう一度自分の唇で確かめる。
 触れ合う部分から伝わる熱は、ほんのりとあまいスープのように互いの胸の内を暖めて
いく。胸を内側からくすぐるうずうずとした感覚は二人の鼓動をじわじわと加速させ、触
れ合うようなキスをはむようなキスへと変えていく。

 ん、ふ… 

 上唇を触れ合わせたままで息を継ぐ。濡れた大河の吐息が竜児の下唇をくすぐる。竜児
の唇が大河のふっくらとした下唇を啄む。緩く開いた唇を重ね合わせて、熱く湿る吐息を
混ぜ合わせる。
 竜児は少しだけ強く大河の華奢な身体を抱きしめた。それに応えるように、大河の細い
腕にも力がこもって竜児の身体をきゅっと抱く。
 
 ああ、ダメ… やばい。大河の理性が警告する。

 このままでは竜児を求めずにはいられなくなってしまう。なのに、もうちょっと、もう
ちょっとだけ、と女の部分が大河を誘惑し続ける。
 
「ダメ…」大河は竜児の胸を両手で突いて押し戻した。

「こんなキスしてたらしたくなっちゃう」
 俯いて言った大河の目はすっかり蕩けて潤んでいた。
「…したいんだけど」
 大河から目をそらして竜児はぼそっと呟いた。
「だって、無いでしょ。こんどーちゃん」
 結婚したとはいえ、自分達のことだけで精一杯なのだ。まだまだ『こんどーちゃん』の
お世話にならなければならない二人である。


「えぇと、実はだな…」
「まさか、あんた持ってきてるの?」
 大河はジトッとした軽蔑の眼差しを向ける。
「…んなわけねーだろ」と、竜児は無実を訴える。
 いくらなんでも受験のお供に『こんどーちゃん』は有り得ない。
「そうよね。じゃあ、ダメ」
 大河はきっぱりと言った。大河がダメと言ったらダメなのである。

「いや、持って来ちゃいないんだが…」
 ぼそぼそと言いながら、竜児は園子が昼間のうちに洗っておいてくれた下着類を入れた
ビニール袋から小箱を取りだした。
「ばあちゃんが、こんなものを…」
「えっ」
 大河は竜児の手から小箱を取り上げて、
「こ、こんどーちゃん。六個入り」
 いつも竜児が買ってくるモノとはブランドが違っていた。大体、六個入りなんていう半
端な物は買ってこない。
「これ、おばあちゃんが?」
「たぶん」
 言いながら竜児は思った。さすが泰子の母だと。妙な感慨にふける竜児にお構いなしに、
大河は小箱を包むフィルムをピリピリとはがしていく。
「受けて立つわ…」
 大河は箱をじっと見つめて言った。
「なんだそりゃ?」
「ここまでされてしないで帰るわけにはいかないわ。
 これは、きっと、そうよ。おばあちゃんからのメッセージだわ。ここはあなた達の家なん
だから、この部屋でえっちしていいわよっていうメッセージなのよ。だったら、そのメッ
セージをちゃんと受け取ったっていう意味も込めて私達はここでしなきゃいけないんだわ」
「…素直にしたいって言えよ」
 
 ぼっ、と大河の頬が赤く染まった。

「あ、あんたがしたいって言うから付き合ってあげてんのよっ!」
 口を尖らせて大河は言った。それでも頬は染まったまま。
「…そうだったな。ありがとよ」
 言いながら竜児は大河の髪を撫でた。
「わ、わかればいいのよ」
 俯いてブツブツと言いながら、大河は小箱を竜児に渡した。竜児はそれを枕元に置いた。
「灯り…消して」

 竜児はゆっくり立ち上がって天井灯を消した。視界が暗闇につつまれるが、すぐに常夜
灯の薄明かりに目が慣れてくる。座卓の置かれているスタンドのスイッチを入れると部屋
全体が暖かみのある仄かな光で照らされた。竜児は掛け布団を畳んで、敷き布団の上にバ
スタオルを敷いた。こうしておかないとシーツや布団が大河の愛液で濡れてしまうのだ。

 床の準備を終えて、竜児は布団の側に立って様子を眺めていた大河の前に立った。
「おまたせ」
「ばか」と大河は呟いて、瞼を閉じて顎をくいと上げた。


 竜児はゆっくりと屈んで、微かにひらいて待ち構える唇に優しくキスした。柔らかい感
触が、リップクリームの甘い香りが竜児の胸をくすぐる。鼓動が徐々に早まり、そのまま
押し倒してしまいたい衝動にかられる。けれど、竜児は唇をゆっくりはなす。離れようと
する竜児の顔を大河の手が捕まえる。耳を掌で塞ぐように捕まえて竜児を引き戻してキス
をする。

 ちゅ… と湿った音がする。

 互いのくちびるをはむように、じゃれ合うようにキスを味わう。二人は互いの吐息を混
ぜ合わせながら、さらに鼓動を加速させる。

 竜児の舌が大河のくちびるに触れる。大河は口を緩くひらいて竜児を受け入れる。
 目を瞑り、つながり合い、絡み合っている部分に意識を集中させて互いの身体を味わう
行為に二人は没頭する。セックスの予行のようなその行為は二人の感度を上げていく。

 竜児は左腕で大河の身体を抱えるように抱きながら、右手で愛らしい耳朶を優しく撫で
る。触れるか触れないか、産毛を撫でるような繊細さで彼女のカタチをなぞるように愛撫
する。普段ならくすぐったいだけのその行為が、キスで高まった感度によって性的な行為
に変容する。

 ん、 ぁん…

 かくん、と崩れ落ちそうになる大河の身体を竜児は抱いて支えた。それでも大河は絡め
た舌を止めようとはしない。小さなやわらかな舌は竜児を誘うように淫靡にうごめく。竜
児は振りほどくように大河の中に押し込んでいた舌を引き抜き唇をゆっくりと離した。混
ざり合った唾液が一瞬だけ糸をひいてすっと消えた。

 大河は恨めしそうに蕩けた瞳で竜児を見上げている。

「大河、脱がしていいか?」
 竜児が聞くと大河はこくっと小さく頷いた。
 竜児は大河のパジャマのボタンを首の方から丁寧に一つずつボタンを外して大河の白い
肌を露わにしていく。竜児は全てのボタンを外し終えると、大河の首筋をなぞるようにパ
ジャマに手を差し込んでするりと脱がせた。淡いブルーのパジャマが布団の上にぱさりと
落ちて、大河の華奢な肩、そこへと走る鎖骨のライン、きれいにふくらんだ二つの乳房、
滑らかな線を描く腹部と綺麗な臍、そういった全てが露わになる。

「もう聞き飽きたかも知れねぇけど、やっぱ、お前は綺麗だよ」
「ありがと」俯いたままで大河は言った。
 
 竜児は膝立ちの姿勢になって、大河の背中から腰をなでるようにパジャマのパンツに指
を差し込んでするすると脱がせていった。大河は竜児の肩に手を添えてパンツから足を抜
き取った。もう、大河が身につけているのは淡いピンクのショーツだけ。それもはぎ取っ
てしまいたい衝動を抑えて、竜児はそそくさとパジャマを脱いだ。大河だけ裸にさせてお
くのはちょっと気が引けたのだ。
 竜児は背中の方から大河のショーツに指をすべりこませて、それをちいさなヒップから
剥がすようにして脱がせた。パジャマのときと同じように、大河は竜児の肩に手をかけて
ショーツから足を抜いた。竜児もトランクスを脱いで、完全に裸になった二人はもう一度
抱き合いキスをした。隔てる物は何もなく、互いの肌の感触や肉や骨の様子までが体温と
一緒に伝わるようだった。



 竜児は右腕で大河の背中を抱き、左手で大河の乳房に触れた。ふわふわとした柔らかい
肉に竜児の指が優しく沈む度、大河のくちびるから蕩けるような吐息が漏れる。竜児は繊
細に指を動かして乳房を可愛がりながら、ぷっくりとふくらみ始めた淡いピンクの乳首を
指先で優しく撫でる。

 んっ… ぁん… んふぅ… 大河の吐息は切ない喘ぎに変わり竜児の心をくすぐる。

 竜児は窮屈に身体をかがめて大河のくちびるを自分の唇でふさいで、舌を彼女の中へと
侵入させた。大河の狭い口腔で、二人の唾液は混じり合い、その中で二つの舌が互いを貪
るように絡み合う。その間も、竜児の指は大河の乳房と乳首を不規則に可愛がる。その不
規則に焦らすような愛撫と口の中で繰り返される咬合はじわじわと大河の理性を溶かして
ゆく。

 竜児の指が大河の乳首を撫で上げるたびに、大河の身体はかくんとその場に崩れ落ちそ
うになる。でも竜児は右腕で彼女をしっかりと抱きかかえてそれを許さない。裸身を密着
させるように二人は抱き合い、愛し合う。
 大河は自分の臍の近くに押し当てられている竜児のモノが少しずつ大きく固くなり始め
ていることを感じる。その感触だけで、もう、中に彼が入ってきているように錯覚する。
口の中で絡み合う舌が、その錯覚に強い現実感を与えてくる。

 それが、どうしようもないほどにもどかしかった。

 大河は竜児を抱く腕をほどいて竜児の胸に手を当てた。それは二人だけのサインで、意
味は『ちょっとまって』。幾度も身体を重ねるうちに出来上がったルールの一つだ。
 それに気付いた竜児は指の動きを止め、名残を惜しむように舌をゆっくりと引き抜いて
唇を離した。

「どうした? 痛かったとか」
 竜児は心配そうな表情を浮かべて大河に聞いた。
 大河はふるふると首をふり、
「そうじゃなくて、もっと、してほしいんだけど、もう立ってられないし…」
 大河は布団の上に敷いたバスタオルの上に、竜児に背を向けてぺたんと座った。
「ね、りゅーじ、抱いて」
 大河は小さく呟くように言ってから、首を捻って竜児に微笑んだ。
「おぅ」と竜児はいつもの様に応えて大河の背後に座り背中から彼女の肩を抱いた。大河
は竜児の胸に身体を預け、肩に添えられた竜児の手に自分の手を重ねて目を瞑った。

 竜児は大河の華奢な肩を抱きしめて自分の方へと引き寄せて、赤く染まった耳をはむよ
うなキスをした。

「ぁん…」と、大河は声を漏らして微かに肩を震わせる。
 
 竜児の唇は耳の縁を啄みながら耳朶へと降りていき、そこから赤みを増した首筋へと
進んでゆく。首筋をはむように、柔らかい彼女の肉を味わうように口づけを繰り返す。
 竜児は両手で大河の乳房を包むように触れた。やわらかいふくらみを包む滑らかな肌の
上で竜児の指が蠢く。なぞるように滑らせ、柔らかさを楽しむ様に指を沈める。
 竜児の人差し指がピンクの突起のまわりをすりすりと撫でまわすと大河のくちびるから
焦れた喘ぎが漏れだす。大河が昂ぶっていくのを楽しみながら、竜児はピンクの乳首を中
指と人差し指で軽く挟んだ。


「あぁんっ」大河の肩がぴくんとゆれる。

「痛かったか?」
「…ううん、きもちいい」
 頬を桜色に染めた大河は潤んだ瞳を竜児に向けた。ふわっと香るような色気に誘われる
ように、竜児は小さく頷き乳房に触れた。

 …んふ、

 大河は小さく喘いで自分の身体を挟んでいる竜児の太股をきゅっとつかんだ。
 竜児の掌が乳房を包み、指が軟らかい肉を揉みほぐしていく。ピンクの突起が撫で上げ
られ、微かに摘まれる度にちりちりとした快感が大河の首筋を灼いていく。昂ぶっていく
小さな身体は熱を帯び、その熱が竜児の胸を焦がしていく。

 …っん、あ…、くふっ、ぁあっ… … …

 大河の腰が切なげに揺れる。綺麗な足が不規則に、小さく足踏みするように、膝をこす
り合わせるように動いて竜児に合図する。 

 さわって… と。

 竜児の指先が大河のなめらかな肌をなぞっていく。みぞおちから臍のすぐ側を通り、薄
い陰毛を撫でて柔らかな桃色のヒダに触れた。

 はあぁんっ… 大河は喘いで首をがくんと仰け反らせた。
 竜児は指先のぬめりでそこがすでに潤い、蜜をにじませていることを知る。
「ひざ、立てて」
 竜児が囁くと、大河はおずおずとひざを立て、わずかに足を広げた。
 竜児は右手の人差し指と薬指で柔らかなクレバスをわずかに開き、そこに中指をゆっく
りと沈めた。ぬちゅ、という微かな音に大河の喘ぎが重なる。竜児の指がクレバスの底を
撫でるたび、熱く蕩けた秘肉からくちゅくちゅと淫靡な音と愛液があふれ出す。

 あ… 竜児の指先が膣口から大河の体内へと滑り込む。 

 くふぅっ… うぁ… 
 
 竜児はそこをほぐすように指先を出し入れする。透明な蜜があふれ出して竜児の指先に
からみつく。竜児はたっぷりと濡れた指を膣口から抜き取ってクレバスの底を撫で上げい
く。左手の人差し指と中指で陰裂を広げ、たっぷりと濡れた右手の中指で露わになった陰
核に愛液を塗りつける。

 あ… ああっっ …はぅ… っっん… 
 
 大河は肩を震わせて息を荒げる、喘ぐ、仰け反る。
  
 あっ… あん、 ぁん…



 竜児の濡れた指が充血して紅くふくらんだ陰唇をぬるぬると撫でる。ぬぷりとクレバス
に沈み、ぬちぬちと膣口をまさぐり、クリトリスに優しく触れる。
 大河は激しく喘ぎ、苦しげに息を継ぐ。 

「…め、りゅ… じ、もぅ、…」

 竜児の太股に大河の指が食い込む。

「いいんだぞ。イッても」竜児は囁いて、左手の指で陰核の包皮をめくるように陰裂を開
いた。たっぷりと濡れた竜児の指がクリトリスに触れる寸前、大河の左手が竜児の右手を
押さえつけた。

「だめ…いかせないで」大河が呟き、竜児は指を止めた。

 息を荒げた大河は、ひくひくと身体を震わせながら竜児を横目で見た。
「指で、いきたくないの。
 今夜は、いけなくていいから、…なんて言えばいいのか、分かんないけど、愛して、も
らってるの、感じながら、抱かれていたいから…。りゅーじので、して」
 息を切らせながらそう言って大河は竜児の胸に身体をあずけて微笑んだ。
 竜児は一瞬だけ戸惑い、
「…おぅ。ちょっと待ってろ。準備すっから」と言った。
「うん」と大河は言って竜児の胸にあずけていた身体を起こした。

 竜児はすでにレディ状態になっていた自分のモノにラテックスのコーティングを施した。
いつも使っているゴムとは違うためか装着感がちょっと違う。だからどうしたという事も
ないのだが、ちょっとだけ新鮮だった。

「おまたせ」
 竜児は大河の隣に腰を下ろした。
 大河は「ううん」と静かに言い、顎をくいと上げて目を閉じた。竜児が軽く触れ合わせ
る様なキスをすると、大河はゆっくりと瞼を開けて、「きて」と呟き仰向けに寝た。
 竜児は大河のすらりと伸びた足の間に腰を下ろし大河のひざを持ち上げた。右手の人差
し指でクレバスに触れるとそこはまだたっぷりと潤っていた。竜児は愛液で指先をたっぷ
りと濡らして赤みを増した桃色の肉襞にそれを塗りつけた。

「入れるぞ」
 竜児は固く強ばったものを大河の小さな性器に押し当てた。
「うん」と大河は呟き目をつむる。

 竜児は入り口を探り当て僅かに押し込む。頭の部分が狭い入り口を押し広げて大河の中
へと侵入する。ぬるっとした感触に竜児の背筋はぞわぞわと粟立つ。

 んふぅ… 喘いで大河は肩を震わせた。先端の二センチほどが入っただけで大河の身体
はひくひくと震えだした。イク寸前まで昂ぶっていた大河の意識はあっという間に途切れ
そうになる。

  …はあ、 んっ… ぁん… 

 竜児はゆっくりと腰を沈めていく。大河の喘ぎ声を聞きながら、ぬるぬると蕩けて締め
付ける肉を竜児は押し広げ貫いていく。奥へ奥へと沈めていき、一番奥の部分に先端が触
れたところで動きを止めた。



 大河は薄い陰毛の上に手を置いて「はいってる…」と紅くそまった頬をほころばせて嬉
しそうに呟いた。確かに、その手の下、大河の体内に竜児はいる。
「ああ、奥まで入ってる」
「きもちいい?」大河は聞く。
「ああ、すげぇよ」と竜児は答える。
「お前は?」と今度は竜児が聞く。
「うん、すごく」大河は答える。
 竜児は大河の頬に触れて、親指でふっくらとした下唇をなでた。

「いいか?」「うん」

 愛液でぬらっと光るモノが引き抜かれていく。その動きで透明な蜜が掻き出されてあふ
れ出す。先の部分だけ残して引き抜き、そしてまた押し込んでゆく。ゆっくりと、ゆっく
りと奥へと押し込んでゆく。長いストロークで蕩けた蜜で満たされた膣の中をかき混ぜる。

 引き抜いて …ぬちゅ… 押し込む …ぐちゅ…  
 …はぅ…んっ… 引き抜かれ …はぁあんっ… 押し込まれる
 …くちゅ…ふぁっ…じゅ…あんっ…ぷちゅ…あっ、ぁ…ちゅっ…んくっ…はんっ… 

 竜児はカリ首で膣口をくすぐるように、ぬちぬちと浅いストロークを繰り返す。濡れ光
る肉襞がこすられる度に大河は可愛らしく喘ぐ。掻き出された透明の愛液がつながってい
る部分から溢れて白いヒップへと垂れていく。

 竜児は大河のひざ裏に手をかけて持ち上げ腰を浮かせた。そのまま、ずぶずぶと大河の
中へと突き入れていく。

「っはぁああんん…っ」眉根をよせ、苦しげに喘いで小さな手でシーツを握りしめる。

 竜児はその深さを狙って膣の前側に先端をこすりつけるように突き上げる。細かく速い
ストロークで大河を攻め立てる。

 …あ、あ、ぁふ… 大河の口は大きく開いて酸素を貪る。
 奥歯を噛みしめて仰け反り、 …んあぁぁ… くぅっん… 喘いで、 …は、はぁ… 
息をつなぐ。

「たい…が…、大丈夫、か?」竜児は息を切らせながら聞く。
「…っ…ぅん… ぃ…じょう、ぶ…、も…っと」
 
 竜児を咥え込んでいる部分からぬちゃぬちゃという音と女の匂いが溢れる。つながり、
こすれあう性器から溢れ出す快楽が、生の、性の、悦びで理性を塗りつぶしていく。
 唯々、こうして愛し合っている事実を躯の全てで感じ悦びあう。

「…ぃ、ぃくっ…」びくん、と小さな身体がはぜる。仰け反り、のたうつ。

 シーツをつかんでいた手が中を泳ぎ彷徨う。小さな手は竜児の頭に触れ、髪の毛をつか
む。そして力任せに引っ張るように竜児の頭を自分の方へと引き寄せる。
 竜児は大河の胸に飛び込むようにして彼女の躯を押さえつけるように抱きしめる。暴れ
る身体に自分の身体を重ねる。



「ぅ、ぐぅっ… ぅはぁつっ、っんん …」小さな身体が爆ぜる。

 竜児は息を継ぎながら、ひくん、ひくんと震える身体を抱きしめる。小さな身体が震え
る度に竜児を包む柔肉もひくひくと蠢き果てさせようとする。竜児はそれに必死に、否、
力を抜いて耐える。深く呼吸して持ちこたえる。この甘い時間が過ぎていくことが惜しく
て惜しくて仕方がない。

「…ごめん、いっちゃった」
 ふっ、と竜児は小さく笑った。そして、「謝るこっちゃねぇだろ」と。

「もうちょっと大丈夫だよね?」
「ん、まあ、今のところ持ちこたえてるな」
「ふふっ。ねぇ、抱いて。いっつもしてくれるみたいに」
「おぅ。じゃあ、つかまれ」
 大河は竜児の首に腕をまわす。竜児は大河の背中を抱いて持ち上げた。つながったまま
竜児は胡座のような姿勢をとり腰の上に大河を乗せた。そして彼女の細い身体を抱きすく
めた。しっとりと汗ばんだ肌と肌がひたひたと貼り付き熱が伝わる。
 ずん、と下から突き上げられて、大河は熱い吐息を漏らす。

「きす、して…」竜児の耳元に囁く。竜児は抱きしめる腕をほどき、彼女を見つめる。

 桜色のくちびるが小さくゆれてねだる。
 竜児は… 苦しかった。愛おしすぎて。

 口づけを交わす。二度、三度と。ちゅっ、と音をさせて触れ合わせ、舌を絡める。

 …んふっ… 二人の吐息が混ざり合う。

 竜児は大河の腰に手を添えてグラインドさせる。つながっている部分から、ぬちゃっ、
ぬちゃっと音がして、愛液がしたたる。それは竜児の陰毛にまとわりつきぐしゅぐしゅと
音を立てる。
 奥を突き上げられ、蕩けた内蔵をかき混ぜられて、大河は喘ぐ。喘ぎながら、貪るよう
に腰を前後にスライドさせる。

 …ぅあっ、あんっ… 

 大河の愛液で濡れた肌と肌がぶつかりびちゃびちゃと音をたてる。泡立ち微かに白く濁っ
た液体が糸を引く。

「ぐぅっ…」竜児も限界に近づいていく。

 竜児はゆっくりと大河を布団に押し倒していく。すらりと伸びた大河の足を持ち上げて、
小さな身体を屈曲させる。竜児はねっとりと蜜がからみついたペニスをずぶずぶと濡れて
光るヴァギナに沈めていく。一番奥を叩かれて、大河は喘ぐ…歌うように、啼くように。

 竜児は呻き声を漏らしながら、それでも果ててしまわないように堪えながら抽挿を繰り
返す。抜けてしまう寸前まで引き、そこから一気に挿入する。


 ぐちゅぐちゅと濡れた肉がこすれる音。
 大河の切なげな喘ぎ。
 竜児の苦しげな呻き。
 淫靡な大河の愛液の匂い。 
 互いが互いにとって掛け替えのない存在であることを証明しあう悦び。
 そういった全てが二人の心を焦がしていく。

「…ぁん、 りゅー…んっ…じっ… りゅ…じ… ぁん…」
「たいが、…ぃが」
「…りゅーじ… ぃく…ぃ…ちゃう…」
「お…れも、いっちまう」
「うん… ぁん」 

 さらに数回のストローク。竜児は奥歯を噛みしめ、低く呻き、奥まで突き入れた。

 どくん…

 ねっとりと熱く絡みつく大河の中で竜児は脈打つ。どくどくと精液を迸らせながらびく
びくと跳ねる。その最後の動きが大河を追い込む。

「…ぅくっぅ…」 ぐんっ、と大河は身体を仰け反らせた。意識が…飛ぶ。

「…うっ、はんんっ、…ぃく…っ…ぃ……」

 ひくっひくっと脈打つように華奢な身体が震える。細い腕で竜児の身体を抱きしめ、白
い指をほとんど贅肉のない竜児の背中に食い込ませる。つながったまま、二人は抱き合う。
胸と胸を、頬と頬と合わせて、どれほどの熱量で愛し合ったのかを伝え合う。
  
「…んっ…ぁ…」余韻に大河の身体はひくんと震える。
 その小さな身体を竜児は抱きすくめる。

 やがて、大河の腕が緩み、二人は見つめ合う。
 竜児は大河のくちびるにやさしくキスして髪を撫でた。

「りゅーじ」「大河」

 二人は互いの名を呼びあう。
 それは互いの心に素敵に響く。
 そして二人は、今思っていることを、今伝えたいことを言葉にする。

 シンプルに、真っ直ぐに、「「あいしてる」」と。

***


 シャワーを浴びた竜児が部屋に戻ると、パジャマ姿の大河が窓から外を眺めていた。

「何やってんだよ? そんなところに突っ立ってたら風邪ひくぞ」
「あ、竜児」
 大河は『こっちこっち』と手で合図する。
 竜児が近づくと、大河はおもむろに窓を開けた。
 冷え切った外気が一気に部屋へとなだれ込む。

「うぉっ、さっみぃ。何すんだよ」
「いいから! 見て。ほら、」
 そう言って大河は窓から身を乗り出すように外を見た。

「ゆき!」 大河の言葉が白く煙った。
 
 竜児は大河のすぐ隣に立って外を見た。
 夜空から音もなく次々と白い結晶が舞い降りてくる。厚い雲に覆われて空は墨を流した
ような闇に包まれているのに、街はうすぼんやりと輝いている。家々の屋根を、街路を、
庭木を、静かに舞い降りる小さな氷の華が白く浄化してゆく。

 大河は窓から手をのばした。白い小さな掌にひとひらの雪が舞い降りて、すっと解けた。
もう一粒、少し大きな結晶が掌に降りてきて、すぅっと解けてしずくになる。二つのしず
くは引かれ合い、抱き合うようにして一つになった。
 その様子を大河は愛おしそうに眺めて、一つになった滴にふっと息を吹きかけて澄みわ
たる夜の大気へと送り出した。

 大河は竜児に微笑んで、ぶるっ、と肩を震わせた。
 そんな大河の肩を、竜児は無言でそっと抱き寄せる。
 大河は寄り添う竜児のぬくもりを感じながら、彼の胸に、すっと頭を預けた。

 なんて安らかなのだろう。大河は思う。
 この先の人生に何が控えているのかまるで分からない。絶望に打ちのめされてしまう時
が再び訪れるのかも知れない。でも、彼となら、竜児と一緒ならどんなことでも乗り越え
られる。そう信じてる。だからこんなにも心強く日々を生きられる。
 
「竜児」大河は竜児の顔を見上げた。
「ん?」
「きれいだね」大河は呟く。
「お前もな」窓の外を眺めながら、ぼそっと竜児は言う。
「ばか…」恥ずかしそうに言ってうつむく。

 ぱさりぱさりと雪は舞い降り、降り積もる。
 二人の息が白く煙る。

「大河、もういいだろ。風邪ひいちまうよ」
「もうちょっとだけ。ねぇ、竜児…」

 大河は竜児を見上げて優しく微笑んで、それからすっと瞼を閉じた。


(つづく)

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