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けいとらっ!Dパート ◆v6MCRzPb66
「どりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅ!アチョー!」
「おはよう…櫛枝…このムシ暑いのに、テンション高いな…」
「おっはよー!高須くん!実はさっき、新しいドラミング技を開発したのだよ!
 名付けて…BPM200光速ドラムほとんど雑音スペシャル〜っ!アチョー!」
今日も馬鹿が付くほど晴天だが、太陽の申し子、実乃梨は、ガードレールを連打。絶好調だった。
大橋駅前、12時。ふたりは電車で、演奏曲の、『そばかす』のバンドスコアを買いにいく。
都内に行かないと、売ってないし、竜児は電子メトロノームが欲しかった。

「へっへーっ明日からソフト部の合宿があるでよ、ドラムの練習出来ないしね。気合い気合いっ」
改札を抜け、プラットホームへ。そこに見覚えのある人物がいた…

「あっれ〜?高っちゃ〜んっ、どったの〜?櫛枝も一緒じゃ〜ん」
春田浩次っ、ロングヘアーがなびくたび、アホをまき散らす、竜児の親友だ。
「おうっ、春田、偶然だなっ。実はまだ内緒だったんだが、今度の文化祭で櫛枝とかとバンド組むんで、
 いまから一緒に、バンドスコアとか買いにいくところだっ、お前こそっ…」
春田の背後から、ふわっと銀色の髪が覗いていた。
「春田くん…お友達?あっ、バレンタインの…たしか、高須くんね?こんにちはっ、お久しぶりっ」
「おうっ…どうもっ、ご無沙汰してます。あの時は、ありがとうございました」
美大生の濱田瀬奈は、春田のガールフレンド。彼女ではなく、ガールフレンドなのだそうだ。
「バンドか〜。うわあ、いいね〜。わたしは美術学部だけど、バンド組んでる知り合いもいるの。
 今度ふたりで、遊びにおいでよ…じゃあ、あなたが、竜児くんの恋人ね?ライオンちゃん?
 …だったかしら…」
「いかにもわたしは百獣の王っ!ライオンちゃん!!…うわーっ違いますっ!」
実乃梨は真っ赤になってバタバタする。
「なんか、ライオンって…イイかもっ!ちっがーう☆瀬奈すわ〜ん、高っちゃんの彼女は、タイガ〜ッ。
 櫛枝じゃないって〜」
春田は、涙目になってクネクネする。
「あらっ、いい感じだったから、てっきり恋人かと…ごめんなさいっ、でもお似合いねっ」
黙ってしまった竜児と実乃梨に、ウインクする瀬奈。ここで竜児はなんとか切り返す。
「えっそのっ…ありがっ…いやっ、今日は、春田とデートですか?」
「春田くんに、神保町の画材屋さんに付き合ってもらうの。そうだっ一緒にいかない?
 お茶の水近いし。楽器屋さんいっぱいあるし、わたし、詳しいの…それともお邪魔かな?」
再起動した実乃梨がニコッと微笑む
「いえいえいえっ、旅は道連れっ世は情けっ!頑張って行っきましょーっい!!」
彼女と間違われた実乃梨が、いつもより笑顔が100Wくらい明るく見える。

四人はスドバではなく、スターバックスコーヒーにいた。
「うわっ〜、ちょ〜そつっ!!」
ちょ〜そつ…超そっくり…という事なのだろう。実乃梨に理解がある、竜児だけには伝わった。
春田のガールフレンド自慢で、実乃梨の作曲ノートに、イラストを描いて貰っているのだ。
ふたりが初デートの時に描いたものと同じモノらしい。瀬奈は、無免許医師を描き上げ、
隣にかわいい少女を描き始める。印刷やコピーと違い、生描きの暖かみを感じた。

「好きなのよ、ブラックジャック…医者っていうより…アーティストっぽいところが…」
実乃梨は、幼い少女が、目の前で手品でも魅せて貰っているようなキラキラした顔になる。
「瀬奈さん、おねがい〜っ、となりに週刊秘密の記者も描いて!」
「ううっ、マニアック…解るわたしもどうなのっ…」
1分もかからず、瀬奈は、イラストを完成させる。流石だ。
「ありがとうっ!費用は一生かかっても、どんなことをしても払います!きっと払いますとも!」
「それを聞きたかった」
実乃梨と瀬奈は、今の会話で一気に親しくなったようだ。あの話いいよね〜っと手を取り合う。

「…ねえねえ、高っちゃん、さっき買ったの見せて〜」
「おうっ、楽譜と、メトロノームだな。見てくれ、このメトロノーム、カードサイズなんだぜっ」
「ほえ〜っ、小っさいね〜、ここから音出るんだ?よおおおっし、スイッチ☆オーーーッフ!!」
オフすんなよ。と、竜児が突っ込む。それを聞いた実乃梨も袋から取り出した。

「いや〜連られて、おいらも買っちまったよっ!店員にドラマーこそ必須って言われちまってね」
そう言って実乃梨も電子メトロノームをイジり出した。電池を入れて、おっ?すげえっ?っと、
細かい反応をしている。そんな実乃梨から、目を離せない竜児。見ていて楽しいのだ。
「すっげ〜!いいねっこれっ。買って良かったかも〜。…ねえねえ高須くんっ、突然だけど、
 BPM250光速ドラム完全に雑音スペシャル2が完成したよ!!!アチョチョー!!!!」
竜児の肩を、アイスの棒みたいなマドラーで、連打する。まったく痛くないが、視線が痛い。

どうみてもバカッ…カップルにしか見えない竜児と実乃梨に、瀬奈は素直に反応。
「ふたりで色違いでいいわね。お揃いでピンクとブルーか。うふっ、かーわいい」
たしかにかわいいメトロノームなんだが…それとも、お揃いが、かわいいってことか…
実乃梨も、デートみたいで楽しかったのだろうか、調子に乗っている自分の頭をコツンとする。

春田はピコーンっと、去年の文化祭を思い出す。瀬奈に説明を始めた。
「2年のときの文化祭はプロレスだったんだよね〜、しかもガチ☆クラス対抗でさ〜、
 気合い入って、チョー盛り上がったんだよね〜そーそーっ高っちゃんは、びびび洗脳光線、
 放射しちゃうしっ、櫛枝のリングの天使も、ハゲヅラの輝きが良かったっ……あれ? 
 これってっ、なにげに自業自得かもっ」
「自画自賛だろ?あっそういえば、瀬奈さん、画材買ってないですね、近いんですか?」
「そうねっ、通りの向こうの画材屋さんなの。あの大きい本屋さんの隣…」
ちょっと考えて、瀬奈は続ける
「…じゃあ今、ちょっと買いにいってくる。まだいるでしょ?春田くん、一緒に行こっ」
ボーイフレンドの春田は同意する。
「イエーーッス、ウィー、アーーー!!!byオバマ☆!」

春田のミステイクをスルーして、竜児と実乃梨は、店を出るふたりを見送る。
ゆっくり歩く瀬奈を、衛星のようにくるくる回りながら器用に歩く春田。笑顔だ。
ふたりは仲良く交差点を渡っている。竜児はふと、疑問におもう。
「あの二人も将来、結婚するのかな?」

「どうだろ…結婚と恋愛は違うっていうけど…でもさ…好きな人と結婚できたら…ねっ」
交差点を渡りきった春田と瀬奈が手を振った。実乃梨も合わせて手を振る。羨望…

「なあ櫛枝…昨日の事だけど、例の…男の人…いい人だよな」
「あー、あの…大河の…そうねっ、うん…敵に回したくない奴よのう…byオバマ…」
実乃梨は窓の外を見たまま返事をした。

「俺は、政略結婚とか良くないと思うけど、現実的に考えると…仕方ないよな」
「そんな事…わたしに聞かないでよ」
「大河はあの男の事、どう思ってるのかな…嫌ってないみたいだけど」
「知らない…」
「俺は大河に幸せになって欲しい、俺はどうすればいいんだ。どう思う?」
「分かんない!!分っかんねーよっ!!高須くん、これ以上わたしを悩ませないで!!!
 わたしだって!わたし…だって…もうっ…ふぇっ…くっ…帰る!!」
走り出した実乃梨は、呼び止める暇も竜児に与えてくれなかった。
テーブルの上のピノコに、涙が落ちた跡。竜児の心を責め立てる。…俺は馬鹿だ。

「あれ?高っちゃんっ、櫛枝は?さっき走っていたのそ〜お?」
「あ…ああっ…先に図書館行くって」
瀬奈は過去に辛い恋愛をしている。熱愛中に、彼氏を…友人に奪われた。
自殺未遂もした…どういう状況かを、…竜児の嘘を…、見破る。

「ねえ、確認するけど、櫛枝さん。あの娘、高須くんの事好きよね。分ってるわよね?
 大好きな人だから怒るの、悩むの、泣くの。いますぐ追いかけて。はっきりしてあげて」
冷たい視線を向け、問いつめる瀬奈。竜児はその、アイスブルーの瞳に凍り付く。
クーラーはあまり効いていないのだが。

実乃梨は、図書館にはいなかった。
「そりゃあ…そうだよな…」
ただ、予約してあるし、ベースもあるし…せっかくだから…竜児は練習していく事にする。
本当は、実乃梨に会って、言うべき言葉を、今はまだ迷っていたからかも知れない。
携帯でダウンロードした『そばかす』を、AUX端子に繋いで聞いた。イントロが始まる

♪大キライだった、そばかすをチョット、ひとなでして溜息をひとつ…

バンドスコアを買う時に、実乃梨は言っていた。この曲のヒロインのイメージは、
キャンディという、昔のマンガのキャラクター。そばかすと鼻ペチャが特徴の、明るくて、
おてんばで、いつも前向きで、強い心を持っている少女。そして、丘の上の王子様という、
初恋の相手と結ばれる…らしいが。

♪思い出は、いつも綺麗だけど、それだけじゃお腹が空くの…

どうやら失恋ソングのようだ。実乃梨は、この曲を聞きながら、何を感じていたのだろうか…
ヘビー級の恋に敗れても、前向きなこの曲を聞いて、何を求めていたのだろうか…

あぐらをかいて座っていた竜児は、おもむろに立ち上がる。ベースをケースから出し、
少し長めにしてストラップを付ける。軽くペグを廻し、ハーモニクスで、チューニング。
シールドをジャックに押し込む。エフェクターをセットし、ゲインを右いっぱいに回す。
アンプのボリュームを全開に上げ、トグルスイッチを上に跳ね上げる。ダイアフラムがビクッとする。
そして…ポケットに入っていた10円玉をピックに、竜児は強烈にアタック。

ヴァヴァァァァァァァーーーーーーーーンン!!ヴァン!!!ッ!ッ!ーーッ

思ったより大きな音…鼓膜が悲鳴を上げる。竜児も、悲鳴を上げた。
「うおおおおおおおぉぉぉぉおっーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
俺はっ…本当に馬鹿だ。

ガチッ
防音扉が開いた。

「あれ!?竜児、みんなは?」
大河だった。そういえば大河は、今日は実乃梨とふたりで練習することを知らない。
しかし…竜児が、顔を腕で擦る仕草を見て、不慮な事態が起きた事を知る。
ベースアンプはまだ、残響音を漏らしていた。

「おぅ…実は、今日はリズム隊だけで練習する予定だったんだけど…櫛枝に…嫌われちまった…」
もっと、違う言い方もあっただろうが、竜児はあえて大河にそう答えてしまった。

「…あんた、みのりんに何か言ったの?」
大河は、竜児の眼を見る。睨むに近い。大河が心に侵入してくる、気がした。
「ああ…昨日の事だ。その…お前の婚約の話だ…俺は…どうすればいいか、聞いた…」
竜児は大河の取り調べに、完落ちする。

「あんた…最悪…みのりんは、あんたの事を好きなのよ?忘れたの?好きだけど、
 ソフトを選ぶって、それがわたしの幸せだって、言ってたけど…それはっ、そんなっ
 好きな相手から…竜児から、俺、フリーになるんだって言われたら…なんて答えれば良いのよ?
 あんたいったい、みのりんに何て言わせたかったの?じゃあ付き合おうかって?馬鹿ぁ?
 なんでそんな事聞くの?なんで自分で決めないの?ハチ公気取りなの?他力本願なの?」
竜児を一気に大河は攻めたてる、そうだ…その通りだ。だから俺は馬鹿なんだ。
「ああ…最悪、だよな…」
大河は我慢できず感情が、そのキレイな瞳から流出…する。

「わっ、わたしは決めたわ!あんたも自分の事!自分で決めろっ!みのりんが、わたしが、
 どう決めたとしてもっ…自分で…ほんっっと…ヒックッわ…グズッ…わたしだって…
 あんたの事、好きなんだから!!あんたの事大好きなのにぃっ…こぉんのぉ…馬っ鹿…
 竜っ児っ…つううっ!…わた…わたしだって辛いんだからぁ!!もうっ!死ねっ!!」
竜児に背中を向け、大河は走り去る。まただ…また過ちを犯した。あのクソ親父のように…

大河が出て行った半開きの防音扉から、亜美がヒョイっと顔を出した。
「…タイガー、扉開けっぱで、全部聞こえちゃったよ。今日…買い物行って来てさ、
 ラデュレのマカロン。差し入れなんだけど…なんか入りにくくて…さ」
亜美は紙袋を気まずそうに振る。

「お…う、川嶋か…」
「ふーん、タイガー婚約しちゃうんだ。なにその昼ドラ展開…キモ……
 つーか、高須くんタイガーの事、追いかけねーの?」
「俺は…そんな資格ねえ… 最悪な親父と…一緒だ、カエルの子は…やっぱカエルだな…」
「カエルの子って、おたまじゃくしでしょ?…キモいはずだわっ」
「そういえば嫌いだったな。おたま…」
「くっだらねえ事、憶えてんじゃねーよ、つーか、資格とか三角とか、どうでもいいんじゃね?
 高須くんっ、追いかけなよ。タイガーか、実乃梨ちゃん。…それとも…わたし?うふっ」
竜児は、何の反応もない。
「ケッ!…じゃー、いい事教えてあげる。祐作から聞いたんだけど、実乃梨ちゃん、
 体育大の、推薦貰ったらしいんだけどさ、推薦っても、あの大学、倍率超〜高いんだって。
 去年なんかは、出願者500人中、合格したの15人よっ、出願許可貰えたっていっても、
 実乃梨ちゃん、どんなに実力あっても、地区大会で負けてるし…間違いなく落ちるんだって。
 祐作には絶対言うなって言われたんだけどさっ」
「えっ?」
「なによその顔。ほれ、片付けておいてやるから行ってこい。キモいし」
「…わかった川嶋。悪いな…」
竜児は、スタジオを飛び出していった。ただ、片付けは、ちゃんとしてからだ。
そして…走りながら、竜児はすごく。すごく辛い結論を出した。

マカロンを亜美はパクッと一口。口の中に酸味が広がる。竜児の辛い結論は、亜美にはお見通しだった。
亜美は女優になる。そして女優の娘だ。馬鹿な高校生ぐらい騙せるほどの演技は、お手の物だ。
北村から推薦の話をメールで教えて貰ったのは本当。あとは全部嘘だ。

「わたしが体育大なんか、詳しい訳ねーし。…さ〜て、わたしはタイガーを追い掛けるか…」
嘘つき亜美は、iPhoneのサファリを起動、大河の母親の会社をググッた。

「あら、竜児くん、おかえり。ちょっと早いのね?」
家に戻ると、祖母の高須園子が、夕食の準備をしていた。昨夜、親父の大罪を聞き、泰子が
あまりに落胆していたので、祖母の園子に相談したら、夜中にタクシーで駆けつけてくれたのだ。
泊まりで、泰子を見守ってくれた。

「おうっ、祖母ちゃん、俺が…」
園子は首を振る。

「泰子ったら、竜児くん出掛けてからも、ずーっと寝っぱなし。
 竜児くんのお料理もおいしいけど…
 こういう時は、何か作ってあげたいの、母親として。
 世界中が敵になっても、わたしだけは、泰子の…味方…」
「祖母ちゃん…」
竜児は泰子の部屋に入る。子供みたいな寝顔だ。目元が腫れている。台所から声がする。

「竜児くん、親はね、いくつになっても子供が可愛いの…泰子が家出した時も、
 そりゃあ、いろいろあったけど、元気で生きてくれたらそれでいいの。
 間違いなんかないの。今は竜児くんがいてくれて、お祖母ちゃんは、すごい幸せ。
 竜児くん、迷っているのね?泰子から聞いたわ。泰子は母親だから…だから…
 これから、どんな決断を出したとしても、娘は…泰子は分かってくれるわ。
 味方になってくれる。しっかり考えたなら…その通りに、正直に生きなさい」

竜児は、涙を堪えるので精一杯だった。泰子の頭を撫で、居間に戻る。
「祖母ちゃん…これからもよろしくお願いします…」
深く頭を下げる竜児。そして自室に戻り、ベースを置き、押入れから、段ボールを出す。
そして、封印していたオレンジ色のヘアピンを箱の中から晒す。

「竜ちゃん…」
「泰子っ、大丈夫か?」
竜児は駆け寄る、園子は心配そうな顔を向けたが、竜児に、お願いね…っと頷く。
「大河ちゃんと…別れちゃうの?大河ちゃん、パパの宿敵のあの人と一緒になるの?」
「まだわからねえ。それを決着付けに行く。なあ泰子。もし…どんな結果になっても…
 見届けて欲しい…お前の肉体から生まれた俺を、見続けて欲しい…」
泰子は竜児のおでこにキスする。

「…うん」

「何?」
「おうっ、泣かした事…謝りたくて」
そう聞いて実乃梨は、家からニョロっと出て来て、扉を閉めた。神妙な面持ち…というのか、
竜児に対して、逃げたネコが振り返り、覗き見るような…そんな瞳を竜児に向ける。
「俺自身、どうすればいいか迷ってた。そんで、誰かに答えを聞きたかった。
 でも櫛枝には、聞くべきじゃなかった…本当に…悪かった。馬鹿だった」
竜児の顔をジロジロ観察しながら、実乃梨はしばらく間を作る。

「…いいよっ、もう。ううんっ高須くん、わたしこそ泣いてゴメン。親友なのに、
 悩んでいるのに、ゴメンなさい。今度は、次は、ちゃんと、答えるから…」
「違う。そういう事じゃねえんだ。俺は大河の事、櫛枝に聞いたらいけなかったんだ」
実乃梨はわずかに眉を動かす
「え?いいよっ、なんでも…だからこれからもっ」
「櫛枝に、大河の事を聞くべきじゃなかったんだ。それは…櫛枝はっ」
竜児は胸中を振り絞る。

「お前は、俺の事…好きっ…だからだっ」
なっ…実乃梨は目を瞬く。そんなっ、そんな事、自分で言う?……そう…だけど…
「だから俺は決めた…今からお前と、ジャイアントさらばをする」
「えっ?ジャイアントさらば?…を?」
うなづく竜児。その三白眼は、真っ直ぐ実乃梨を見据えている。実乃梨もかしこまる。
「そうだ。俺とお前の、友達としての関係をジャイアントさらば…する。そして、周りの事、
 大河の事、全部決着付けて、改めてお前の前に戻ってくる…戻れねぇかも知れねーけど…
 櫛枝…俺は決めたんだっ!おまえがどう思おうと!…それだけ伝えたかった」

実乃梨は、否定しなかった。竜児が決めた事だからだ。つまり、友人関係を絶縁する…と
「高須くん…それがあなたの答えなの?まだ答えは出てないけど…」
竜児はポケットから、ヘアピンを取り出す。
「そうだ。中途半端ですまねえ。もしっ、お前の前に俺が戻って来たら、その時はお前に…
 渡せなかったオレンジのヘアピンを渡すっ!ジャイアントこんにちはを…するっ!」
真剣に答える竜児だったが、意外なワード、ジャイアントこんにちはが、実乃梨のツボを直撃。

「ジャイアント…こんにちは?ふえ?なんだそれ?クッ、、ごめん…可笑しいっ、あはははははっ」
実乃梨は笑っているのに、溢れるほど涙が出る。止まらない。
「なんだよっ、そんなに…可笑しい…か?」
耳が真っ赤になる竜児に、実乃梨は、微笑む。キラキラ輝き出す。頬が綺麗なピンクになる。
その笑顔に、涙に、竜児の胸が鼓動を打つ。そう、実乃梨には笑顔が似合う。

「ううん、ごめん、ごめんね高須くんっ、うふっ、あなた、本当に…本当に…好っ…素敵」
許されるのであろうか?心に秘めた、深くて…でも不確定な決意のまま…
実乃梨は竜児の手を取り、自分の胸に当てる。今はこれで精一杯だった。

「わたし高須くんが好きって言ったよね。なんで好きになったと思う?
 大河への横恋慕じゃないの、見た目とかじゃないの、家事が上手だからでも、
 ガサツなわたしに、好意を持ってくれたからでもないの…」
竜児は、実乃梨の言葉を一言も漏らさず聞き取る。心が動く。

「高須くん…あなたの、その…真っ直ぐなところ…正直で、逃げないで、困難にも、
 真剣に向いあってくれるところなの。わたしの恋人の理想なの…あなたが…」
実乃梨の告白を遮るように、竜児は一気に、捲し立てる。魂をぶつける。

「俺は、お前の見た目だけじゃない、明るいところだけでもなく、運動神経がいいところでもねえ、
 始めはそうだったけど…。そして大河に後押しされたからでもねえんだ。前から…
 今も、お前の、真っ直ぐなで、正直で、逃げないで、困難にも、真剣に向うところが、
 好きだっ!」
好きだと言った。ハッキリ。なんだ…同じじゃん…実乃梨は呟く。

大河は、男の会社の応接室にいた。窓から見える高速道路の流れをじっと、見つめていた。
「…おもちゃみたい」
止めどなく流れる車たちには、それぞれ生きた人間たちが乗っている。それぞれの人生を生きている。
「わたしの人生…」
僅か18年で、色んな事があった。辛い事、楽しい事、そして、恋。
「竜児…」
そう呟く大河。しかし決めたんだっ。…けど…
応接室をノックする音。男が入って来た。
「待たせてすまない、丁度いい。また忘れないように、先に返す」
男は、虎柄の手帳を手渡す。大河の目蓋に目が止まる。涙の跡…

「…何があった?…俺の事か?」
大河は暮れかかる日差しを浴び、まるで後光が射したように、神秘的に見える。

「あのさ…考えたの。いっぱい。やっぱり、わたし、竜児が好き。大好き。
 別れるなんて考えられない。もう一心同体なの。わたしと竜児。だから…
 だから、あんたと、結婚する、矛盾しているけど…あんたなら…意味。分かるでしょ?」

そういう決断。両虎は見つめ合う。同情でもない。愛情でもない。友情でもない。しかし魂が通じる。
インターフォンがなる
「客人が?…そうか…こっちに通してくれ」
しばらくして応接室の扉が開く

「あっ、はじめまして〜、川嶋亜美ですっ。亜美ちゃんって呼んでくださいね?あっ、ゴメンなさい…
 わたし馴れ馴れしく…あれっ?もしかして〜っ、わたしの事、今、天然〜って、思ったぐほぉ!」
大河のボディブローが突き刺さる。カバンにあたって傷は浅かった。

「天然バカチワワ、いい加減空気よめっ」
「痛ってーなっ!チビトラ!空気読んでっから、こうしてるんだろーが!ムカつくっ!」
「こっちのセリフだっ、ばかちーっ!!こうしてやるっ!」
大河は亜美に飛びかかり…ギュウウウっと、抱きしめた

「…ムカつくほど、いい奴なんだ、ばかちーは…」
「何?ちょっと…タイガー…、もう、気付くの遅せーよ…」
亜美は、大河を強く抱きしめる。大河の想いが、決意が、哀しみが、伝わってきた。

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