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けいとらっ!イントロダクション ◆v6MCRzPb66
 わたしは今…悩んでいる。相当悩んでいる。

ウチの娘、大河に恋人がいる事は知っている。たしか、高須竜児…、見た目はともかくとして、
まあ…好青年だ。若いのにちょっと、おばさ…大人びているのは、彼の家庭環境の影響なのだろう。
「ふう…どうやって別れさせようかねえ…」
近い将来、大河には望まない結婚をしてもらう事になる。
普通、結婚というやつは、一般の家庭では、個人と個人の縁組みで成就するもの。
でも、ウチは違う。竜児くんには申し訳ないが、社会的地位が違う。
ウチの結婚は、個人同士ではなく、会社同士の縁組みが重要になる。
会社が大きくなれば当然、とても個人の問題で片付かない。
政略結婚…は、会社を再建するため必要で、
わたしの家族の生活を守らなくれはいけない。さらには、社員、その家族もだ。

前夫の逢坂陸郎も、わたしとは政略結婚だった。しかし…夫婦関係は破綻し、離婚。
陸郎が愛人を作ったのだ。愛人を作ったくらいで離婚に合意した、わたしも悪かったのかもしれない。
男ってのは、そんなもんだ。バカだから。それくらい理解していたのに…
わたしは即、世間体を保つため、当時の部下と半年後の再婚を決めた。

離婚後、大河の親権は、陸郎に譲ったが、結局陸郎は、大河と同居もしないで、
さらにその後事業で失敗し、逃亡してしまう。最悪な男だ。
わたしの責任を果たしに、大河を引き取りに行った
…のだが、有ろう事か、すでに付き合っていた彼氏、高須竜児と家出しやがった…

「Like father,like daughter…」
この父にして、この娘あり…午前中、外国人との商談があったから、つい、英語でグチが漏れる。
それと、無意識に日本語で口に出す事をためらったのかもしれない。心が嫌悪感で満ちてしまうから。

浮気され、家出され…わたしって、そんなに…
…いや、間違っていない。夢や、愛でメシは食えない。
これだけの会社を担う者として、重厚な責任感、使命感がある。そしてそれがメシの種なのだ。
陸郎も行方不明だし、大河がわたしの判断に従わなくてはいけないのは、仕方ない事。
せっかく大河との関係に明るい兆しが…また嫌われるだろう。

もう一度、興信所からの資料に目を通す。
「よし…やっぱりこの娘ね…」

プーッ プーッ 
おっと、内線だ。
「わかった、今行くわ。大河は応接室に通して」
 女社長は、資料をデスクの引き出しに押し込み、社長室をでる。

机上に残ってしまった一枚の写真に、ソフトボールのユニホームを着た少女が写っていた。

「よっしゃ!いっくよ〜っ…ワン・ツー・サン・シッ!」
ダダダンッ!ドラムを叩く音が響くっ、しかし…誰も続かない…
ありゃ〜?みんなどしたどした?っと、ドラム担当櫛枝実乃梨は大きな瞳で周囲を見回す。
ここは公営図書館にある音楽スタジオ。今日は夏休みの初日だ。クーラーが効いているが、
さっきまでアップだというのに、激しいドラミングを披露した実乃梨は、汗ばんでいた。
スティックをクルクル廻し、太陽のような眩しい笑顔を振りまき、
曇りの無いクリアな声で、周囲を盛り上げる…そんな明るい活発少女なのだ。

「実乃梨ちゃんさ〜…最初のカウント、英語にするか日本語にするか、どっちかにしてくれない?
 なんか…亜美ちゃん、萎えるわ…」
ボーカルを担当しているのは、川嶋亜美。中高生では知らない女子はいない、人気高校生モデル。
サラッサラの綺麗な髪、小さい頭に整った顔、長い手足、豊満なバストに華奢なウエスト…
最近ではグラビアのオファーも来ているほど、パーフェクトガールなのだ。外見。外見だけは。

「いや俺はだな…まだ慣れてなくて、最初のタイミングが掴めないんだ…」
 ベースを担当している高須竜児のアンプから、ぼわわわわ〜んという間の抜けた音がする。
その悪魔のような眼差しは、ノーメイクだというのに、D・M・C!、D・M・C!という絶叫が
聞こえてそうだほど残忍。…なのだが天然クラウザー二世である竜児の怖いのは、顔だけだった。
もっと的確に指摘するなら、目だ。目だけが怖い。

「わははははっ!平気だぞ高須っ!タイミングが掴めなかったのは、俺も一緒だぞっ!
 …それはそうと、逢坂遅いなっ…おっと、もう逢坂じゃなかったか…」
と言って、北村祐作は、1万円で購入した中古のフェルナンデスを構え直す。タイミングが掴めないと、
ビギナーの竜児に同意した北村だったが、実は、兄の影響で、ちょこ〜っとだけ、
ギターをかじった事があり、コードくらいは押さえられた。
竜児に気遣う、そんなナイスガイな北村は、大橋高校の生徒会長だ。

北村が名前を出した大河は、キーボード担当。今日の練習に遅れている。
その大河の容姿を一言で表現するなら、フランス人形…って見た事無いけど、多分そんな感じだ。
きめ細かい白い肌、エレガントな長い睫毛、薄いピンクの唇…そんな、小柄で可憐な美少女大河。
だがしかし、天は二物を与えず、そのキュートな外見とは裏腹に、大河はその、雄大な名前を凌駕する、
ハリケーンのような激しい気性の為、誰が呼んだか、手乗りタイガーの異名を持つのだった。

まだ2ヶ月くらい先の事だが、秋に大橋高校の文化祭がある。
その中でも、バンド演奏は人気もあり、集客の起爆剤になるのだが、
去年、ほとんどの部員が卒業してしまい、軽音楽部が廃部になっているのだ。
そこで文化祭を成功させたい生徒会長の北村は、元部員に土下座までして、なんとか頼み込み、
掻き集め、1組だけ再結成させたのだが、せめてもう1組。対抗バンドが欲しい。
校外からゲストを呼ぶ事も考えたが、どうせなら、ズバリ自分でやろう!!

…という訳で、北村は、竜児、実乃梨、亜美、あとまだ到着していない、逢坂(元)大河、
計5人で、即席バンドを結成したのだ。やはり持つべきモノは、なんとやらだ。

このスタジオは、3時間借りられるのだが、既に入館から1時間は過ぎている。
大河は、まだ来ない。母親に呼び出されたみたいなのだが…それにしても遅い。
「もーっ、せっかくの音合わせ初日なのにねえ。でも、大河はもともとピアノ弾けるし…
 やあやあ!野郎ども!気合いで練習して!早く大河に追いつこーぜ!」
ドドンッ!と実乃梨はバスドラを踏み込む。
実乃梨はドラムセットなんか持っていないし、ちゃんと演奏するのは今日が初めてだ。
追いつこーぜとか言っているが、これだけ叩ければ、充分な気がする竜児。
スポーツもリズム感が必要というから、センスは良いんだろう。
実乃梨は、太鼓の達人や、リズム天国で練習したと話していたが、竜児は知らなかった。

「そういえば実乃梨ちゃん、オリジナル作るんでしょ?出来たの?わたしは唄うだけだし、
 ぶっちゃけ、加藤ミリヤが唄えればなんでもいーわっ」
それを聞いた竜児が焦る。
「おうっ!?オリジナルだと!?加藤ミリヤも演るのか?俺は北村から1曲しか聞いてねえぞっ。
 いま音合わせしてるプラネタリウムだけだ。だいたいそれもまだ微妙だ…」
北村は釈明をする。ちなみに北村がその曲を選んだのは、通称『兄貴』が、宇宙好きだからだろう。
「いや、高須にはまだ言っていなかったな。すまん。亜美をバンドに誘う時、
 どうしても好きな曲歌いたいっていうから承諾したんだ。
 その事を櫛枝に話したら、それなら、やりたい曲を、1人1曲やろうって事になった。
 高須の希望曲は…まだ聞いてなかったな、ズバリ何にしようかっ、何でもこいっ!」
それを聞いた竜児はさらに焦る。いきものがかり1曲でも辛いのに5曲だと?
 …でも、…せっかくだから、せっかくなんだし…好きな曲を演奏してえ…竜児はノってきた。
「そう、だな…」
竜児は弦を、ベンベンッ♪っとチョッパー風に弾きながら、目を瞑り、悩み始める。

ベースの竜児が、自分の世界に入ってしまい練習が中断。
実乃梨はカバンから1冊のノートを取り出し、ウチワのように振りながら、打ち明ける。
「いや〜、オリジナルって言ったはいいんだけどさっ。 実はまだ出来てね〜のよ。
 コード進行は決めたんだけど、歌詞が…内容が、まだ、悩んじゃって…途中なんだよ」
「へえっ、ねえねえ実乃梨ちゃんっ、このノートに書いてあんの?ちょっと見せてよっ」
いつの間にか実乃梨の背後に回っていた亜美は、実乃梨からノートをスパッと取り上げる。
あわわっ!ちょっとっ!実乃梨は顔を真っ赤にして亜美を追いかけるが、亜美は逃げ足が速い。
実乃梨は、も〜っ!と、観念したが、仕返しにドラムスティックで、亜美の背中をパシパシ叩く。
「実乃梨ちゃん!痛てーって、それ!…ちょっとだけ。すぐ返すから…
 …どれどれ……眠れない夜には…ふんふん…らしくないなんてね…
 オレンジ…ほうほう…うわわわ〜〜、あはは〜〜っ、それはそれは〜っ」

読み終わった亜美は、にや〜っとした顔を実乃梨に向ける。うふっ…何を言おうか考えているようだ。
「あーみん、どう?やっぱ時間ないしオリジナル止めよっか。
 そうしよっ!わたしアニソンが良い!GOD KNOWS…」
「この曲オレンジっていうんだね。いいじゃ〜ん、これって高須くんの事でしょ?」
ズバリ亜美は言い当てた。
耳からピーっと湯気が出そうな実乃梨。
竜児はハッと、顔を上げる。そして…
「俺…母親の…泰子の好きなクレイジーケンバンドに決めたっ!」

まったく周りの話を聞いていなかったようだ。

大河は車に乗っていた。母親の会社からの帰りだ。運転手は社長令嬢に気を使い、沈黙している。

「はあ…めんどくさっ」
溜息とともに本音が漏れる。…まあ仕方ないか…。大河はバンドの練習に出掛けようとしていたら、
ママから、大至急会社に来いって電話がかかって来たのだ。珍しい事なので、嫌な予感はしたけど、
やっぱりその通りで、ママの経営している会社の、吸収合併の準備の手伝いを頼まれてしまった。
 手伝いと言っても、TOBやら何やら、具体的に何かする訳ではなく、合併相手の企業から、
少しでも有利な条件を引き出す為、今後大河に、パーティに出席して欲しいとの事だった。

それで…いきなりだが、1回目のパーティは明日の夜。
ママから、自分である程度準備するなら、これ使いなさい…と、現金を1束渡された。
明日のパーティーは、都内のホテル。
準備するって言っても、パーティドレス、小物、美容院の予約、あとは…
考えると結構やる事があった…明日の午前中は忙しくなりそうだ。

もちろん、恋人の竜児にも報告しなければ。

しばらくして、車窓が見慣れた町並みを写し出した。
もうすぐだ。やる事を整理しながら、虎柄の手帳に、スケジュールを記入する大河。
そして車は練習場所の図書館に停車した。

「わたし、ジュディー&マリーがいい」
「へぇ〜、あんたが?意外っ」
亜美は大河が、とてもロリータなアーティストな名前を吐いたので、普通に驚いた。
バンドの練習後、夕刻を過ぎ、お腹がすいた5人は実乃梨のバイト先のファミレスにいた。
「中学の時にピアノで弾いた事あんの。練習しなくても弾けるの。だから。そんだけ」
「ジュディマリなら何でも良いの?じゃあ何に唄おっつかな?でもあんま詳しくないんだよねッ」
すると、
「そばかす…」
亜美が思案中に、実乃梨がつぶやく。実乃梨ちゃん…?みのりん…?視線が集中する。
「ありゃ?あっ、いい、いいっ。言ってみただけっ…タラリララ〜ン♪」
ちょっと亜美が思惑ありげな顔になったが、すぐニッコリ。
「…そうねっ、実乃梨ちゃん、それにしましょっ、そばかす…知らないけど…」
知らないのかよっ!っと実乃梨がブーイング。知っている大河は、実乃梨の左耳を確認する。

やっとバンドの演奏曲が全て決まったが、竜児は増えた曲数に、ちょっとゲンナリ。
しかし、さっき練習した図書館で提案した、クレケンの『タイガー&ドラゴン』は、
亜美が、そんなの、わたしが唄える訳ねぇーじゃん!!っと全否定されたので、
合計4曲だ。まあ、文化祭の本番まで、夏休み挟むし、まだ時間あるし…大丈夫か…。

気分転換に窓に目を向けると、見覚えのある黒いポルシェを発見。おうっ、あのポルシェは…
竜児は大河に確認させようとしたが、ポルシェは発進。竜児は大河には伝えなかった。

そして1時間ほど、あれが駄目だのこれが何だのと勝手な意見を言い合い、ミーティング終了。
「散っ!」
と、5人はそれぞれ家路に付く。…のだが、その5人の内1人に、黒いポルシェが尾行を開始。
そのポルシェは、ちょっと赤めの髪の毛から匂う、ピーチの香りを追いかけて行った。

 帰宅した竜児は、入浴し、練習曲をハミングしながら風呂から出て来た。
「あっれぇ〜?☆竜ちゃん、ごっきげ〜ん☆」
「おうっ、別にそういう訳じゃあねえけど…でも、結構楽器って楽しいなって思ってさ…
 そうだ、インコちゃ〜ん、ベース上手くなったら、インコちゃんだけに1曲ギグるゼ〜っ」
タオルで頭を拭きながら、インコちゃんに夜のコミュニケーション。その破顔フェイスは、
どうみても奇怪なのだが、竜児にとっては、癒しの愛しのペットなのだ。
「イッ…インッ…」
ギグるなんて…そんなカビの生えた言い方に、インコちゃんは反応。
ついに自分の名前を…という淡い期待は、すでに竜児には無いようだった。
「イングウェイ=マルムスティーン」
自分の名前の方が遥かに簡単だろうに。わざと間違えたとしか思えない。

竜児は自分の部屋に戻り、ベースを取り出した。さっそく運指の練習を始める。
「くっ、ううっ、おりゃっ…こうかっ…はあああっ、ムズいっ」
ムズいっと言いうが、ここ数日で、竜児はフレット移動がとてもスムースになった。
指先が堅くなり、痛くなくなってきたからだ。1曲弾き終わり、ふうっと休憩。
ちょっと満足げに微笑む竜児。どうみてもデス系バンドの黒ミサで、悪魔が降臨!
てめえらの内臓エグり出してやるっ!!…という風にしかみえないのだが、
もちろん違う。上達して単純にうれしいのだ。
北村の希望曲は上手く出来そうだ。大河の希望曲は、大河のiPodから聞かせて貰ったが、
シンプルでなんとかなりそう。亜美の希望曲は…大河がキーボードでフォローしてくれるらしい。

そして、実乃梨の希望曲は…

「…オレンジ」
実乃梨が作った曲だ。楽譜が読めない竜児は、ファミレスで、押さえる弦と、
フレットだけ書いてもらっていた。実乃梨はまだ出来ていないと言っていたが、
実は曲は完成していた。コードだけではなく、きちんと楽譜に落としてある。
なんでも、実乃梨は、歌詞の内容が納得出来ないというか、マズいというか、
…って言っていた。
ちょっと唄ってみる。

「…オレンジっ色は、あの日見た夕焼けを思い出っさせてくれるっ…
               2つの影が手を繋いでいるみたいだっ…た…」

すげえっ、竜児は驚く。櫛枝はなんでもスマートにこなすが、こういうのもセンスがある。
そういえば2年の秋頃に、ふたりで一緒に帰った事があった。たしか北村の家に行くときだ。
櫛枝が、この歌詞と同じ様な事を言ったのを思い出す…

……うおーっ、影なっげーっ!ほらっ高須くんっ、
    あれ?よくみると、なんか手ぇ繋いでいるみたいに見えない?…な〜んてっ……

 今の実乃梨とは、永遠の親友だぜっ…と誓ったのだが、当時の竜児は、実乃梨の事が好きだった。
ずっと片思いしていた。その時、竜児は、好きな人とのふたりきりの下校で、ドキドキしていた。
だから竜児は言ってやった。俺は、お前の事を分かりたいと。俺がおまえのことを見守ってやると。
そんな…『最後の救い』になりたいと。
竜児は、その時、心の中で確かに誓ったのだ。実乃梨には言えなかったが。
もし実乃梨がどんな奴でも、どんな事があっても、永遠に愛すると…確かに誓った。

「櫛枝……おうっ、俺っ…」
何分経ったのであろうか、どれくらい実乃梨の事を想ってしまったのであろうか…罪悪感。
竜児は大河に誓った。実乃梨の時とは違い、大橋の下で言葉に出して叫んだ。大河に誓った…
すくっと竜児は立ち上がり、決意する。押入れの奥から、少しくたびれた段ボールを取り出す。
「捨てちまおうっ…」
段ボールの中には、竜児が実乃梨を想って作ったポエム、プレイリスト、そして…
クリスマスイブに渡せなかった、オレンジ色のヘアピン…あれ?オレンジ?…
 大河には大切に保管しておきなさいっと言われているが、駄目だっ。想い出しちまう。
その…情熱が。実らなかった初恋が。実らなかったオレンジを…櫛枝実乃梨への恋心を…

ビーッビーッビーッ!

その時、竜児の携帯が振動ッた。

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