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銘々の話題に花を咲かせている昼休みの教室。
そこに、いつもより多目の人数で机を囲み、とりどりの弁当を広げる一群が一際目立っていた。
もちろん、ただ人数が多いからではない。
そこには、

「ふーん。お腹に肉付いてるのにモデルってできるんだ、ばかちーって」

人形のように可愛らしい姿で人々を恐怖に陥れる、手乗りタイガーこと逢坂大河、

「もうねぇっつーの!ちびタイガーみたいな食うだけと違って、毎週スポーツクラブ通ってるし。
や〜ん、亜美ちゃんてマジ努力家☆最近可愛くっていうより、綺麗に近づいた気がするの〜!
ね、高須くんもそう思わない?」

女神と見紛うばかりの美しさを持つ、究極の猫被りモデル川嶋亜美、

「そこで何で俺に振るんだよ…。俺はそういうの、よくわかんねぇし、参考にもならねぇぞ」

外面ヤンキー、内面骨の髄まで主夫の高須竜児の有名処三人が一同に介していた。
さらに、

「あら、亜美ちゃんは『高須くんに』評価されたかったんじゃないかしら?うふふ」

「っ…?!あ、あたしは別に「何言ってんのよ奈々子。亜美ちゃんが高須くんからかうなんて、いつものことじゃない!」
……まー、ね」

奈々子や麻耶といった、2-Cの高レベル体も一緒にいることも起因した。
ちなみに、実乃梨と北村はそれぞれ部や生徒会の集まりで、昼休み早々に教室を出ている。

その割合、実に四対一。竜児は、かなり肩身の狭い思いをしていた。
周りから見れば、竜児が周りに侍らせているようにしか見えないのだが。

「あ、綺麗になったって言えばさー」

麻耶がサラダを掴んだ箸をそのまま、皆の方に顔を向ける。その時、小さなキャベツの千切りが、机に不時着。
刹那、竜児の眼が分からない程度に見開いた。
今すぐにでも取り除いて、机の上を拭きたい。しかし、麻耶と竜児の位置は対角線。
手を伸ばさないと届かないが、机の上に広がる弁当箱を避けつつ処理するのは至難の業だ。

(気付け、木原…!いや、隣にいる香椎でもいい!その取り零された憐れなキャベツを、一刻も早く!)

麻耶の話そっちのけで、竜児の意識はそこに集中

「ゆりちゃん、最近綺麗、ていうか、すごく可愛くなったよねー」

――することができなかった。

「あ、わたしもそれは思った。ゆり先生、前みたいに無闇に焦ってた感じがないわね。
なんて言うか、落ち着いた雰囲気っていうのかしら?」

「そうそう、ベージュの服も着なくなったし、だからと言って無理してるわけでもないし。
ゆりちゃん先生って、亜美ちゃんから見ても凄く元が良いから、勿体無いな〜って思ってたの」

奈々子と亜美が同調し、話題は担任であり、独身の恋ヶ窪ゆり(30)へと移った。
事実、ある日を境にゆりの評判は徐々に上がっていき、特に男子学生が騒いでいた。
春田や能登も例に漏れず、「可愛くなった」「大人の色気がむぉんむぉん」等、鼻息荒く語っていた。
最近は『ついに独身にも遅い春が来たのか?!』と噂がたった。
その噂から数日後の放課後、数人の生徒が職員室で呪詛を呟き項垂れているゆりを目撃した。
それ以降、誰も噂を口にすることはなかった。

そんな亜美逹の会話は、しかし竜児には聞こえておらず、頭に流れるのはこの前の鮮明な映像。
ゆりのシャツ一枚姿、ゆりの艶かしい太股、ゆりの口に含まれた指、そして。


『ありがとう』


(!…や、やべぇ!)

竜児は、誰にも見られないよう、咄嗟に俯いた。あの時のゆりの笑顔を思い出す度、鼓動が強く跳ねる。
訳も分からず一人照れて、口端は鋭角に吊り上がり、とても人様にお見せできない表情になる。

竜児自身、これが何か自覚している。まるで実乃梨と対峙している時のような、『あの』緊張。

「…ありえねぇ」

そう、ありえないのだ。自分の親とほぼ同年代の相手に、ましてやクラス担任に。
そもそも、自分は櫛枝のことが――そのはずなのだ。そのはずなのに、鼓動はなかなか治まらない。
もちろん、櫛枝が好きという気持ちに、嘘偽りは一寸もない。ずっと想い続けている相手なのだ。
あの太陽のような眩しい笑顔に、大袈裟にも見える身振りに、真っ直ぐすぎるほど純粋な姿に。
そんな櫛枝に、気が付けば心奪われていた。はずなのだ。はずなのに……

廊下ですれ違った瞬間、理由もなく横目で追い、少しだけ振り返ってしまう。
自分の机の隣を歩いていった時、香る匂いで意味もなく恥ずかしくなる。

もやもやとした気持ちの性で、眠れぬ夜を過ごした竜児だが、実乃梨とゆりに対する決定的な違いに気付いた。
周りがゆりの話題で盛り上がる度に、竜児の心は波風が立ったかのようにざわめいた。
それは、大河がミスコンで栄冠を勝ち取り、周りの大河を見る目が変わった時のように。

自分だけが知っていたものが、周りにも知られてしまった。それが、竜児にはあまり面白くなかった。
きっと、それだけなのだ。
あの時は少し非現実的な状況だったし、タイミング良く独身がイメチェンを始めた。
色々な要素が重なったために起きた、一時の気の迷いなのだ。
だから、竜児は一人呟く。「ありえねぇ」と。

「……ん?」

――ふと、隣から痛いほどの視線を感じた。背筋が無駄に伸びてしまうような、負のオーラが見えた気がした。
竜児はゆっくりと首を捻る。

「お、おぅっ」

大河の酷く疑うような眼差しと、真正面からぶつかった。

竜児を見上げる形になる大河の表情は、不機嫌には間違いなかった。
しかし、竜児は思わず息を飲んだ。怒っているような、疑っているような、咎めるような、泣いているような。
何度か、大河がこんな表情を見せたことはあった。
例えば、大河と亜美がいつものようにぶつかり合った際、竜児が稀に亜美を擁護したとき。
例えば、竜児の弁当を奈々子が称賛し、二人が料理の話題で盛り上がっているとき。

インコちゃんが捏造七割程の発言をしたあの日、大河には当たり障りない程度には話してある。
『独身と偶然会い、食材が余るのは勿体なく、また雨宿りも兼ねて夕飯に招待した』。

亜美のときの前例もあったので、明らかに納得していない不満げな大河に対し、それ以上突っ込むのを止めた。

当の大河は、危機感を覚えた。最近の竜児の態度が妙だというのが、分かってしまっているから。
気付いてしまった自分が恨めしいが、それ以上に遺憾なことがある。
今もそうだが、亜美のときも、奈々子のときも、まして実乃梨のときですら、苛立ってしまう自分がいること。
竜児と実乃梨、自分と北村が上手くいくように、お互い手を組んでいるはずだった。
それなのに、大河は思ってしまうのだ。『何で自分をもっと見てくれないのか』。
その度に、竜児は私に犬のように協力すると言ったから。と、自分に言い聞かせる。
それに、竜児が名前で呼ぶ唯一の異性が、実母である泰子を抜いて自分だけなのだ。
そんなことが、大河を堪らなく優越感に浸らせ、同時に情緒不安定にさせた。

――大河は、危機感を覚えていた。



「……ねぇ、高須くんも、ついでにちびタイガーも聞いてる?」

「…は?」

「……?なにがよ」

気付けば、亜美だけでなく、麻耶と奈々子も二人を見ていた。当然二人は話を聞いているわけもなく。
片や三白眼をギラつかせて、片や大きな眼球に凶暴な力を乗せて、亜美を睨み付けた。(のは大河だけである)

「げ、マジで聞いてなかったの?あーもう、また話すのめんどくせー…」

一般人なら、泣いて許しを乞うか、その場に卒倒するか。
そんな殺人的な二つの視線を、亜美は全く介する様子もなかった。
頬杖を付き、普段の猫被りはどこへやら、眉をハの時に歪め、不満たらたらを隠そうともしない。
ちなみに、その隣にいる奈々子は涼しい顔で微笑を浮かべており、その隣にいる麻耶は思い切り目を反らした。

「亜美ちゃんが、今週の土曜日に近くでモデルの仕事があるらしいの。それに来てみない?って話よ」

奈々子の言葉に、二人で首を傾げる。独身の話から、どういう経緯で亜美の仕事の話になったのか。
ただ、大河はあまり、というか全く興味ないらしく、不参加の意思を表明しようとした。

「ち、ちなみに、あたし逹も参加しちゃって良いんだって!行くよ!あたしは絶対行くよ!!
一度でいいから、今の内に着てみたかったんだぁ…」

やたらと気合いの入っている麻耶は、頬に両手を当ててうっとりとした目で中空を見上げる。
まさに、夢見る乙女そのものだった。そんな様子の麻耶を見た大河は、少なからず興味が沸いてきた。

「…ちなみに、何のモデルなのよ」

さも関心がないように、ぶっきらぼうに言い放つ。
そんな可愛らしい手乗りタイガーに、奈々子は口許に軽く手を当て、ふふっと小さく笑った。
キッと奈々子を睨むが、赤い顔では威力も半減。
固めを瞑り、舌をチロッと出して悪戯っ子のような顔で手刀(てがたな)を切られた。
大河は、より一層赤くなる。掴み所のない奈々子が、少し苦手だった。

「あれー?逢坂さん、さっきまで興味無さそうだったのに、ど・う・し・た・の・か・な〜?」

亜美がおちょくるように大河に顔を近づける。

「う、うるっさい!い、いい、いいから、早く教えろこのバカちにゃにゃ!」

どもりすぎてカミカミな大河に、奈々子はブフォッ、と思わず吹いた。手で口を隠し、プルプルと震えている。
大河は、小さく「タイガー、可愛すぎ」と聞こえたのは、気のせいということにした。

「しっかたないな〜。それじゃ、興味津々な逢坂さんに、教えてあげる★
ウェ「だって、ウェディングドレスだよ、タイガー!女の子の憧れじゃん!超興奮するって、マジで!」
、ウェ…ウェーイ」

まじうぜー。亜美の視線が如実に語っていた。

「…ウェディングドレス?て、あの結婚式とかで着るあれ?」

ああ、だから独身の話から繋がったのか。大河は納得した。

「今回は地域のパンフに使うくらいのもんだし、そんな固いもんじゃないの。
色んな子がいたほうが、ドレスの種類も写真も多く撮れるし、寧ろ参加してって感じ。
麻耶ちゃんも奈々子ちゃんも、ムカつくけどちびタイガーも十分可愛いから、喜ばれると思うけどなぁ」

亜美の態度が気に入らないが、大河はかなり惹かれていた。
純白のウェディングドレス…着てみたいに決まっている。狂暴な手乗りタイガーといえ、女の子なのだ、

――そう、真っ白なウェディングドレスを着て、隣には愛する人の手を取り、一緒に歩くの。
周りが祝福してくれる中、赤い絨毯の上をゆっくり歩いて神父の前に。
きっと、指輪を通すときには新郎の手は少し震えているだろう。私はそれを見て、幸せを噛み締める。
誓いの…き、キス、をする時、新郎は私のレースをゆっくりと持ち上げていく。
そして、私の大きな瞳と、新郎の鋭い三白眼が――


「…そんなに腹減ってたのか、お前」

「ふ、ふぅはいっ!!ほっひひんは!!」

突然弁当をがっつき始めた大河に、四人は呆気にとられた。

「あ、でもわたしは参加できないの」

「え、な、何で?!奈々子がウェディングドレス着たら、マジヤバイくらい似合うと思うよ!
高須くんだって、奈々子のウェディングドレス姿見たいよね!ね!!」

「え?あ、お、おぅ」

全く蚊帳の外だった竜児は、絶賛暴走中の麻耶の勢いに乗せられるかの如く、頷いてしまった。
途端、突き刺すような視線と、冷めたような視線を感じた。その相手は探す必要もなく、目の前と横にいた。
何故睨まれなければいけないのか、理不尽に思いつつも、藪を余計につついて大怪我はしたくない。
竜児は身の保身を図ることにし、気付かない振りで流すことにした。

「ふふっ、ありがと。でも、その日はお父さんと出掛ける用事があるの。
ホントに残念だし、申し訳ないんだけど…」

そういえば、と竜児は奈々子が片親なのを思い出す。
自分は父親が、奈々子は母親がいないので正確には違うのだが、似た境遇の奈々子の気持ちは理解できる。
自分だけのことよりも、たった一人の親とのことを大切にしたい。

「…仕方ねぇよ、木原。親との約束なんだから、優先するのはそっちだろ。香椎も気にするなよ」

竜児本人は気付いていない。普段より幾分か柔らかい表情であることを。
年相応に見えない、包み込んでくれるような大人の表情。

「高須くん…うん、ありがと」

そんな竜児だからこそ、と奈々子は思うのだ。タイガーが、櫛枝が、亜美ちゃんが。
一筋縄ではいかなそうな、でも全く違う魅力を持った女の子達が、一人の男の子を好きになっている。
それはきっと、高須竜児という人物を知ってしまったから。
彼の純粋さ、優しさ、強さ。それに触れてしまうと、白かったはずの心は瞬く間に染まってしまう。

(…あの三人に、敵うわけないけど)

苦笑をしてしまう自分は、脇役なのだ。気付かれないよう、ポーカーフェイスには自信がある。
――タイガーや櫛枝には悪いけど、わたしは亜美ちゃんを応援するからね。



「ところで、そんなとこに俺が行っていいのかよ。むしろ、男一人ってかなり居辛いんだが」

ウェディングドレスの撮影なら、男の参加者なんていらないだろう。
今もそうだが、せめてあと一人くらい同士が欲しい。

「あ!それなら、まるおは来るの?来るよね?来るんだよね?」

亜美に詰め寄る麻耶は、分かりやすい程に素直だった。
竜児自身、北村がいるかいないだけで心の持ちようが大分変わるのは確かだった。

「あー、祐作?祐作は……あ、確か生徒会の集まりだか何だかで、都合悪いとか言ってた。多分」

理由は違えど、目に見えて落胆した麻耶と竜児。しかし、竜児はハッと隣を見る。
北村が来れなくて落ち込む人物は、隣にもう一人居ることを思い出した。

(残念だったな、大河)

(……なによ)

突然小声で話しかけてきた竜児に、大河は気味悪そうに横目で見る。

(何って、北村が来れないことだよ。ここで一発、でかいアピールできるチャンスだったのにな)

大河を気にかけた竜児の言葉は、しかし大河にとって不愉快でしかなかった。

(……私は、別に)

(まぁ仕方ねぇよ。パンフが出来たら、それを見せればいいじゃねぇか)

(…………)

――大河の機嫌が悪いのは、北村にウェディングドレス姿を見せることができないからだろう。
話を聞かず喋り続ける竜児に、大河の怒りが有頂天。

(ほら、そんなに落ち込むなっでえぇぇぇ…っ!」

大河の足が、的確に弁慶の泣き所を貫いた。

「あら、食事の場所で叫ぶなんて、本当に躾のなっていない駄犬ね」

「お、お前なぁ…」

ふんっ、と大河は鼻息荒く竜児を睨む。訳のわからない竜児は、また大河の気紛れかとため息をつく。

「でも、困ったなぁ。
奈々子ちゃんも参加すると思ってたから、監督に女の子三人は連れて行くって言ったのに…」

「最初から連れていく気だったのかよっ」

亜美の中では、ウェディングドレスが似合いそうな三人を選ぶつもりだった。
実乃梨には申し訳ないが、ウェディングドレスがただのユニフォームになりそうで即却下。
他の女子も、イマイチパッとしない。ウェディングドレスが映えるモデルというのは、なかなかに難しいのだ。

「うーん……あ、それじゃあ」

奈々子がこれ名案と言わんばかりに、両手をポンと合わせた。
皆の視線が奈々子に向き、『敢えて』亜美が考えまいとした人物の名を挙げた。

「私の替わりに、ゆり先生、なんてどうかしら」

――竜児の瞳の色が変わる。それに気付いたのは、大河と……亜美だった。

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