web上で拾ったテキストをこそっと見られるようにする俺得Wiki

174 ◆TNwhNl8TZY 2009/10/09(金) 01:44:16 ID:PDN46/Q5



「・・・・・・なに見てんのよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

なんとなく気に入らない視線を送ってきてる気がする。
ホント、竜児の前とはえらい違い。
なんでこんなやつを家に上げてしまったんだろう。
竜児があんなに頼み込まなければ、こんなやつとっとと追い出してやるのに。

                    ※ ※ ※

あれは今日の放課後、竜児とスーパーで買い物をした帰り道。
電信柱の影に隠れながら、だけどそいつはしっかりと私を見据えていた・・・ように感じた。
気になったんで、歩みを止めて振り返った私の目に

「・・・・・・にゃー」

まだ生まれてから大して経ってないだろう両手に乗せられそうなほどの、とても小さな体。
背中と手足に横に。眉間に縦に。
三本ずつ入った虎縞の線は、そいつがそいつである事を主張しているみたい。
他には尻尾にも縞々の線が入っているのを除けば、どこにでもいるだろう茶色い毛並みをした、子猫。
そいつが物陰からじぃっと私の方を睨んでいる。
足は突っ張り、毛を逆立て、尾っぽに棒でも仕込んでそうなくらい垂直に伸ばした格好で、私を睨んでいる。
なにこいつ、ケンカ売ってんの? チビのくせして。

「で、そこで櫛枝がよ・・・あれ、大河?」

隣にいるものだと思っていた私が足を止めているのに気付いた竜児が、話を中断して振り返る。
見れば、何をしてるんだという言葉が伝わってきそうなマヌケ面でこっちを見ている竜児。

トットット

だけど、その顔はすぐにあの凶悪な目つきに似つかわしくないふやけ顔になった。
かなり似合ってない。
それだけならまだしも、横を通り過ぎていく通行人が走って逃げていくくらいだから、超をいくつ付けても足りないほど不気味。
竜児はその事に気付いてるのかしら・・・気付いてたら、とっくにふやけた顔を引き締めてるわよね。

「お、おぉ? なんだなんだ、お前どこん家の子だ」

近づいてきて、自分の周りをぐるぐると回って歩く子猫の存在に気付いた竜児が、手から提げている買い物袋を道路に着けないよう
気を付けながら腰を落とした。
そんなカッコでどこの家の子だ、だって。
猫が喋る訳ないのに、なっさけない声出して、なっさけない事聞いたりして、バカじゃないの。
どうせそいつに引っ掻かれるかなんかがオチよ。

「にゃぁ〜」

だけど、私の予想は即座に否定された。
私にあれだけ敵意を剥き出しにしていたあの子猫は、腰を落とした竜児に擦り寄って甘ったれた鳴き声を上げた。
それだけじゃない、頭を撫でようと出された竜児の手を、その小っこい舌でチロチロと舐めている。
竜児がくすぐったそうに指を引っ込めれば、猫はまだ満足していないのか、私の癇に障る間延びした声で鳴いた。
本物の猫なで声ってのは、きっとあんなのを言うんじゃないのかしら。
聞こえた瞬間高笑いをしているばかちーの憎たらしい顔が頭を過ぎったから、けっこう自信が持てる。
てかなによその態度の変わり様は。猫が猫被ってんじゃないわよ。

「おいおい、俺の指なんか舐めたって美味くないぞ? ハハッ、スゲェ人懐っこいなぁ、こいつ」

そんな訳ない、竜児の指はおいしそ・・・じゃなくって。
そいつが人懐っこいなんて嘘でしょ?
現にそいつは私には近づくそぶりもない。
それどころか、時折私にガンをつけてはこれ見よがしに舌なめずりまでしてくる。
しかも、まるで「こいつは私のもんだ」と言わんばかりに、何度も竜児の指をザラついた舌で───なんだか気に入らないわね。
その仕草を竜児に隠れながらしてるのも、一層気に入らない。

「ひょっとしたら食い物の臭いでも染み付いてんのかもな、なぁ大・・・が・・・」

「なによ」

気が済むまで指をしゃぶってもらってよかったわね、竜児。
さぞかしご満悦でしょ? なのになに引き攣った顔してんのよ。

「フーッ!」

・・・あんたもそろそろいい加減にしときなさいよね。
いくら私だって、挽肉になってようが猫のお肉なんて食べたくないんだから。
あんただってイヤでしょ? ・・・××××されて※※※で○○○にされるなんて・・・

「フー・・・みっ!? み、みいぃ!! ・・・みゃあぁ・・・」

勝った。
クソ生意気にもまたも私に向かって威嚇なんてしてきたチビが、私の睨みに恐れをなしたのか、
竜児から離れて元居た電信柱にすっ飛んでいくと、ガタガタ震えてか細い鳴き声を上げている。
動物のそういう行動は負けを認めたってことなんでしょ、多分。
だから、私は勝った。
なのに

「・・・おい、なにも追っ払うことはなかったんじゃねぇのか」

竜児の棘を含んだ一言で、一気に冷める・・・せっかく人が余韻に浸ってるのに、水を差すなんてどういうつもりよ。
それに追っ払うなんてやめてよ、私はなんにもしてないじゃない。
竜児だって見てたでしょ。
私はちょっとばかし睨んでやっただけ。
それだけであいつが勝手にどっか行ったんでしょ。
そうなのに、なに怒ってんのよ。

「見ろよ、あいつ。あんなに縮こまっちまって・・・なぁ、さっきっから何でそんなにピリピリしてんだよ、大河。
 晩飯だったら帰ったらすぐ作ってやるから、機嫌直せよ」

はぁ?

「なに言ってんのよ竜児。私は全っ然怒ってないじゃない」

見当違いにもほどがある。
怒ってんのはあんたで、私はこれっぽっちも怒ってない。
怒ってる風に見えるのは、怒ってないのに怒ってるって言われたら誰だってそうなるでしょ。
私はいつも通り。

「・・・そうかよ、そりゃあ悪かったな」

ほら、やっぱり怒ってるのは竜児じゃない。それもふて腐れたりして、カンジ悪。
立ち上がった竜児はさっきよりも更にトゲトゲしたセリフを吐くと、それ以上何も言わずに私に背を向けた。
けれどすぐには帰ろうとせずに、提げていた袋の中から今日の夕飯に出す予定の、あんまり美味しそうに思えない
シシャモが入ったパックを取り出した。
その場で包装してあるラップを破くと、外だっていうのにそこいら中が魚臭くなる。
やっぱり、あんまり美味しそうじゃない。
そんなもんこんな所で開けてどうしようってのよ。

「ほら、お前はこれで機嫌直してくれよー、美味いぞ」

何をするのかと思って見ていれば、竜児はその中では一番小振りなシシャモを摘んで、
電信柱に隠れてこっちの様子を窺っていた猫に分け与えてやった。
最初こそビクついていた猫は、屈んだ竜児が優しい言葉をかけてやると害はないと判断したのかしら。
すぐに飛び出してきて、目の前に置かれたシシャモに目もくれずにまた竜児の指を舐め始める。
その様は猫というよりも、どちらかといえば犬みたい。
誰にでも尻尾を振る犬。
ご機嫌な猫につられるように、竜児もふて腐れていた顔を引っ込めて柔らかい──つもりかしら──顔になっていく。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

むかつく。

「さっきは悪かったなぁ、あいつは腹を空かすといつもああなんだ。見境がなくなるっていうか」

余計なこと吹き込んでんじゃないわよ、それに猫に分かる訳ないって何べん言わせんのよ。
お腹が減ってるのは本当だけど、いつもって、見境がないってのはなによ。
失礼しちゃうわね。
・・・もう我慢の限界だわ。

「ねぇ、竜児」

ピク、ピクピク

私の声に反応して、あの猫が耳をピクピク動かした。
警戒してるのね。いいわよ、その方が野良っぽくて。
だけど私が用があるのは私に怯えるこいつじゃない。
大して気に留めないで、私は続けた。

「餌付けなんてしたら付いてくるわよ、そいつ。飼う気がないんだったらそういうのやめなさいよ」

ピク・・・

今度は猫じゃなくて、竜児の肩が小さく動いた。

竜児の家にはもうあのインコがいる。
竜児が可愛い可愛いと言って甘えに甘やかした、気味が悪いほどレパートリーは豊富なくせに自分の名前は満足に言えない、
それどころか卑猥な単語に変換するブサイクなインコ。
あれくらいならともかく、竜児の住んでるアパートで動物が飼えるとは思えない。
餌代だの予防接種だの、必要になるだろう費用を工面する余裕も感じられない。
そういう事情を踏まえれば、私の言葉はあまり意味がない。
結局は飼えない事なんて、竜児が一番分かってるはずだから。

「だけどよ、ほっとけねぇだろ」

声色から伝わってくる、嘘偽りのない正直な気持ち。
背中を向けられていて分からないけれど、顔にも出ているはず。
竜児ならそう言うと思った。
見ないフリをするくらいなら、始めからこんな事はしない。
見ないフリができないから、だから竜児は・・・それは純粋な優しさから来る物で、竜児の良い所だって私は認めてる。
だけど気まぐれに手を差し伸べて・・・それで?
それでお終いになってしまったら、この猫はどうなるんだろう。
見たところ首輪もしていないから、多分野良猫。
かといって周りには親猫らしき猫は見当たらない。
その事を不憫に思った訳じゃないけど、幸せそうに竜児の指を舐め続けるこいつの、何にも考えていなさそうな顔を見て、
ちょっと考えてみただけ。
小さい内から親元を離れて暮らすなんて人間でもよくある事じゃない。
まして動物なら尚のこと、当たり前と言ったって過言じゃない。
自分の力で生きていくのは、遅いか早いかの違いはあれど、人間も動物も──私だってこいつだって一緒。
でも、半端でも優しさを受け取ってしまったら、この猫は必ず味を占める。
そうなったらまだ小さなこいつは、この先誰かが・・・竜児が傍にいなければ生きていけないかもしれない。
味を占めるって言うのは、極端な話、そういうこと。
それは猫がしたたかだからとか、それが悪いという訳ではない。
原因は竜児。
同情して、放っておけないからと手を差し伸べた竜児の優しさが、自分の力で生きることを止めさせてしまう。
・・・こいつを、ダメにしてしまう。

「そんなこと言っても面倒なんて見れないじゃない、あんたん家じゃ」

イライラする。

「・・・でもな、俺は・・・」

私はなんでこんなにもイラついているんだろう。
腰を落として、中途半端な高さに手を固定している竜児を見ていると、言いようのない苛立ちを感じる。
猫は遊んでもらっているつもりなのか、竜児の手に向かって跳びついてはしがみ付いたり、後ろ足だけでなんとか立ち上がっては
前足をチョイチョイと振っている。
遊んでもらってると思って、とても、とても嬉しそうな猫・・・やっぱり猫には人間の言葉も、心も分かる訳がない。
当然よね。人間だって猫の気持ちも、あるのかも分からない言葉も理解できないんだから。
察しろという方が無理な話だけれど、猫には竜児の表情からは何も察する事ができない。
私だって、竜児の考えている事なんて分からない。
それでも言わなければならない。

「いい加減にしなさいよ、竜児・・・子供じゃないのよ? ほっとけないって、それでどうにかできるもんじゃないって、竜児だって分かるでしょ」

間違った事を言ってるつもりはないけど、ひどい事を言っている自覚はある。
似たような経験を、いつか、私もしたから。

「・・・なぁ、こんな風に言ったら気ぃ悪くされそうだけどよ・・・なんだか大河みたいに思ったんだよ、こいつの事」

言いようのない苛立ちを感じている私に、そっと囁くように呟いた竜児。
その言葉が耳に届いた瞬間、体の奥の奥、お腹の底の方から抑えきれない怒りが込み上げてくる。
いつものがプチって音を立てているとしたら、今度のはブヂィッ! って太く大きな音を立てて、私の中から噴出していきそう。
けど、その怒りが表に出る事はなかった。
胸の真ん中から、それを上回る失望感と・・・多分、悲しかったんだと思う。
それらが寸での所で暴れだしたい衝動を抑え込んだ。
代わりに去来したのは、感じたこともないような空虚な感情。

竜児は今なんて言ったんだろう。
その猫が私に───そう、そう言った。
確かにこの猫は見ようによっては私に見えるかもしれない。
虎縞の毛並みに、掬うように広げれば本当に手に乗れそうな小さな体。
まるで手乗りタイガーっていう私のあだ名を忠実に再現しているよう。

「私みたいって・・・どこが似てんのよ」

だからなのかもしれない。
私は一目見たときからこいつが気に入らなかった。
手乗りタイガー・・・それは私にとって嬉しい愛称でも、望んで呼ばれている物でもない。
単に背の低さと、なにかにつけては暴力を振るってしまう私の性格と、変な名前からもじって付けられただけ。
そのどれもが私を表しているけれど、私はそれがイヤで堪らなかった。
男の子にだって付けられないような名前も、いつまで経っても伸びない背も・・・その事でバカにされるのがイヤで、
バカにした奴等を叩きのめしたら、いつしか手乗りタイガーなんていうあだ名でバカにされるようになった。

イヤだった。

竜児に、遠回しにとはいえそう言われたような気がして、イヤだった。
こいつだけはその言葉を私に向かって言ったりしない、私をバカにしたりしない、私を・・・否定しない。
心のどこかでそう決めつけて、私が勝手に期待しただけなのに裏切られた気がした。
だけど

「どこがって言われても・・・よく分かんねぇよ、俺にも。大河とこいつは全然似てないのにな」

竜児は、そう言った。
なにそれ。

「大河はこんなに人懐っこくないしよ」

「にゃあ?」

ヒョイと抱き上げられた猫が、不思議そうに竜児を見上げている。
それも一瞬の事、竜児に顎の下を撫でられてゴロゴロと鳴けば、すぐに手なり胸なりに頬を擦り付けては甘えている。

「目の前に食い物が置いてあったら、迷わず食うだろうし」

シシャモは気に入らなかったか? と、制服に毛をくっ付けられるのも構わないでされるがままの竜児は、
道端に置きっぱなしだったシシャモを拾うと、猫の目の前まで持ってきてプラプラと揺らした。
右に左に揺れ動くシシャモには欠片も興味を感じないのか、相変わらずあの猫は竜児にベッタリだけど。

「でも、何でだろうな・・・俺にはこいつが大河みたいに思えてしょうがねぇんだよ。だから、ほっとけねぇ」

───私に思えて、それで放っておけない・・・・・・?

その言葉が、胸の中にスーッと溶け込んだように感じた。

それがどんな意味を持ってるのか、どんなつもりで口にしたのか、私には分からない。
ただ、竜児は嫌味のつもりで言ったんじゃなかった。
少なくとも私を丸め込もうとしてる気配は感じられないし、本当の事しか言ってないとも思う。
第一、そんな考えがあるんならこんなこと言ってないで機嫌を取ろうとするはず。
同情や、哀れみから来る物でもない。
毎日、それこそ学校でも外でも顔を突っつき合わせているから分かる。
誰よりも竜児を知っている・・・そんなつもりはない。
でも、私にしか分からない竜児だってあるから。
だから、信じてもいいと思う。
その言葉を、竜児を。

信じたいって、思った。

「なによそれ、全然理由になってないじゃない。ばっかじゃないの」

「おぅ、なんとでも言え」

棘を含んだ私の言葉を、竜児は軽く流す。
邪険な感じは、もうしない。
いつもと同じ、私がよく知っている、私だけが知っている竜児のそれ。

「・・・もういい、さっさと帰るわよ。お腹減ってるんだから」

「はいはい、分かったよ」

これじゃあ、私の方がばかみたい。
意固地になってふて腐れて、引っ込みがつかなくなって意地張って。
ばか、ばかばか、ばかばかばかばかばかばか。

「・・・・・・ばか」

                    ※ ※ ※

結局───
あの後、案の定っていうか、あの猫は竜児から離れようとはしなかった。
竜児と、隣を歩く私との間をチョコチョコと歩いて、最後はアパートにまで付いてきた。
困り顔の竜児を背にした私がいくら追っ払っても、すぐにまたアパートの階段を駆け上り、玄関の前から動こうとしない。
ドアを堅く閉じ、諦めてどっかへ行くのを待ってみても、石みたいに動かない。
それどころか寂しそうに鳴き声を上げて、ひたすら竜児を呼んでいた。
そして

「・・・はぁ・・・もういいわ、ったく・・・やっぱり、今からでも外に放り出そうかしら・・・」

困り果てた竜児が必死に、それはもう必死になって頼むものだから、仕方なく。
本当に仕方なく、今日のところは一先ず私が預かることにした。
だから餌付けなんてするなって、あれほど言ったのに・・・まぁ、晩ご飯にししゃもの代わりに特別にとんかつまで出してもらって、残さず平らげた
私に、もうその話をとやかくは言えないけど。

トットット

目を逸らすと向こうも私との睨めっこに飽きたのか、あいつは物珍しそうに家中を駆け回った後、何故か私の部屋の前から動かなくなった。
居たけりゃそこに居ればいいとリビングに引き返そうとすると、カリ・・・カリ・・・と、何か堅い物を引っ掻くような音が微かに聞こえた。
まさかと思って振り返れば、ようなじゃなくて、あいつが爪を立ててドアを引っ掻いている。
慌ててやめさせたけど、軽くとはいえドアには爪痕が残ってしまった。
知らず知らず、溜め息が漏れてしまう。
ドアに傷を付けられた・・・別にその事がショックなんじゃない。
この家を隅から隅までキレイにしている竜児にこれが見つかった時、文句を言われるかもしれないと思うと勝手に漏れていた。

「いいわね、今度こんなマネしてみなさい・・・締め出すだけじゃ済まさないわよ」

私の注意も素知らぬ顔で──言葉が分かるはずないって分かってるけれど、ムカつくものはムカつくわね──猫はジッと動こうとしない。
ジィッと、ただドアの向こうを見つめている。

「・・・はぁ・・・」

もう一度漏れた溜め息と共に、私はドアノブを回した。
遮っていたドアが開け放たれると、一目散に部屋の中へと走っていく猫。
なんとなく気になったんで、私も入ってみた。
すると、そこには

「にゃあ、にゃー・・・みゃあ・・・みゃおぉ」

窓に向かって、必死に声を張り上げる猫がいた。
明かりが差し込む窓に向かって、何度も、何度でも。
窓から差し込む光の中で佇む猫は、そこだけ切り取れば絵になるかもしれない。
でも、私はきっとその絵を飾らないと思う。

こいつは窓そのものに向かってじゃない。
窓を突き抜けて、その先にある、ある場所。

竜児の下に向かって、こいつは鳴いていた。

どうしてこいつはこんなにも竜児に懐いているんだろう。
初めて会った時もほとんど間を置かず、竜児にだけは全力で甘えていた。
私には今だって警戒を解いていないのに。
私が追い払っても、こいつは一旦離れはしても目に付く位置にはいた。
竜児が近寄れば、私が追い払った事も忘れて、何の不信も抱いてないように竜児に擦り寄っていった。
目の前に置かれた餌にも微塵も興味を示さなかった。
ただただこいつは、竜児に甘えていた。

どうしてこいつはそんなにも竜児がいいんだろう。
竜児を求めて、探して、来てもらいたくて。
こんなにも鳴いているんだろう。

どうしてそんなこいつに、私は自分を重ねて見ているんだろう。
純粋に甘えられるこの小さな猫を、羨ましく思っているんだろう。
こいつの隣に座って、竜児が顔を出すのをジッと待っているんだろう。

どうして。

「みいぃ、みゃお〜」

竜児の部屋から漏れていた明かりが消えるまで、こいつが鳴き止む事はなかったから

「・・・今夜だけよ・・・シーツ、汚さないでよね。竜児に怒られるの私なんだから」

私が寝られたのは、鳴き疲れて寝てしまった小さな居候を、起こしてしまわないようそっとベッドまで移してやってからだった。

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