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みの☆ゴン101〜109 ◆9VH6xuHQDo 2009/11/30(月) 01:02:32 ID:qAfrixPR




「ねえ、タイガー。今日の放課後。ちょっといい?」

 と、昼休みに川嶋亜美からそう言われた逢坂大河は、夕暮れのファミレス、禁煙席のソファ
に、ちょこんとおとなしく座っていた。てっきり亜美がセメントマッチでも挑んできたのかと
思いきや、終始ニコニコしている亜美に、拍子抜けしてしまった大河。
 ここは櫛枝実乃梨のバイト先でもあって、さらに雨上がりの金曜日は客も疎らで、それをい
いことにウェイトレス姿の実乃梨を含めた3人娘は、客席でギャルトークを展開し始めたのだ。
 話題はもちろん……先日の、

「キスッ、キスッ?! キ〜スッ!!! 竜児とキスしたの? みのりん! ひゃー!」
「ぎゃー! ななに大声でいってんのよっ! 違う違う! キス、え〜アジ。そうだアジだよ!
 アジの開き!! い、いや〜、竜児くんのキス……じゃなくて、アジ美味しかったな〜。キ
 スの味じゃねえよ? 食べ物の味。もとい、アジの味っ! てか大河っ!! そんな事大声
 で叫ぶんじゃねえよ!! ここって私のバイト先なんだってばよ!! 壁に耳ありクロード
 チアリッ!!」
「テンパり過ぎだって実乃梨ちゃん。いいじゃな〜い、キッスぐら〜い? キッスの次は……
 ウフフ?よね〜、あははっ! いやーん、あーん、乙女のピンチ〜〜〜っ! たぁいへん!」

 いまさらカミングアウトして後悔する実乃梨。耳まで赤い。薔薇より赤い。しかし他のテー
ブルから『注文良いですかー』と声がかかって、バイト中である実乃梨は慌てて小走りでそち
らへ向っていくのであった。

「……あー、びっくらして、ばかちーの事、思わずブン殴るところだったわ……せっかくだか
 ら一発殴っとくか……」
「なんでそうなんのよ、ド暴れ性格ブス! この前は春田くんに犠牲になってもらったからい
 〜けど……まあ、そんな生意気なこと言えるのも今のうちなんだからね!……しかし、おっ
 そいわね。あのバカトリオ。もうここのおごり決定ね〜」

 実はこのファミレスの会合には他にも竜児、北村、春田の3人が呼ばれている。なんでも先
日のストーカー騒ぎで、解決に関わってくれた全員に、負け犬検死官・夕月玲子が、旅行に招
待してくれるというのだ。しかも沖縄。もちろん飛行機代も夕月玲子こと、川嶋安奈、つまり
は亜美の母親が負担してくれるというのである。
 遅れている3人に待ちくたびれた亜美が、退屈しのぎにケータイのスケジュール帳をチェッ
クしだした時、店内にチャイムが鳴り響く。するとむさ苦しい高校生3人が現れキョロキョロ
と辺りを見回し、大河と亜美を見つけるやいなや、駆け寄ってくるのだった。
「いやー、遅れてすまん! おっ、ずいぶんと待たせてしまったみたいだな。申し訳ない」
 空になった大河のグラスを見て、北村が頭を掻いた。「ううん、ヘーキ」っと、おとなしい
対処をする大河の代わりに亜美は北村に苦言を呈す。
「ちょっと、も〜佑作ぅ? ちびすけはいいとして、っこ〜んなに可愛い亜美ちゃん待たせる
 なんて、百万年早いっつ〜の! ドリンクバー代よろ〜」
「……いや、俺が仮装行列につかう衣装の素材にこだわっちまって……すまねえ」
 そう申し訳なさそうに頭を低くする竜児の背後にいる、箱やら紙袋で顔が見えない人物は、
どうやら春田らしい。
「ちょっとみんな〜!早く着席してくれよ〜!だいたい俺に荷物持たせすぎだって〜」
「お前がジャンケンに負けたんだろ? てか、荷物持ちの言い出しっぺは、お前じゃねえか春
 田。しょうがねえな、ほらっ、先に座れ」
 ふ〜助かった〜☆と、言ってさり気なく亜美の隣に座る春田。席を詰めてもらい竜児も同じ
ソファーに腰を降ろす。そんな訳で大河の隣に、北村が腰を降ろすのだが、その緊張を誤魔化
すためなのか、大河は竜児たちが買って来た紙袋をガサガサあさり、竜児に問い掛ける。
「っへ〜竜児。結構本格的じゃない。あんたそんなに優勝してバ会長んところの割引券が欲し
 い訳?」
 まあな、と竜児はうなずくが、今日集まったのはその話ではない。亜美はテーブルに身を
乗り出し、パチンと手を叩いた後、本題を切り出した。


「あのね、実はストーカー騒ぎに関わってくれたみんなに、ママが夏休みに沖縄旅行に招待し
 て御礼したいって提案してくれたの。まだ先の話なんだけど、みんな予定もあるだろうし、
 早めにと思って集まってもらったのよ。あたしは、そこまでする必要ないって言ったん……」
 だけど。っと、亜美が話が終わる前に北村が立ち上がる。
「行き先は沖縄か! ちなみに俺は初飛行機! 否が応でも高なる期待はもはやレッドゾーン!
 吹け! 琉球の風! もちろんみんな、行くんだよな?」
「もっちろ〜ん! 沖縄だろ? 沖縄! ハブっ! コトーっ! の沖縄だよー! 青空の下で
 亜美ちゃんのビキニだよー! タダでいけるんだ〜☆撃ちてえ〜、銃! バキュ〜ン☆」
「おまえは沖縄を根本的に勘違いしてないか? 俺は……実乃梨が行くなら行こうかな……。
 そこんとこどうなんだ?大河」
「ずいぶん主体性がないのね、竜児。みのりんは行くって言ってたわよ。沖縄……か……。ねえ
 北村くんっ、沖縄って、もしかして、泳ぐ……の?」
「そりゃあ逢坂、沖縄って言ったら泳ぐだろう。どうしたんだ?暗い顔して。いつもの逢坂ら
 しくないぞ! あっはっはっは!」
「ちょっとあんたたち最後まで話し聞きなさいよ! それにストーカー騒ぎに関係ない佑作は、
 タイガーのオマケなんだから勝手に話し進めないでくれる?」
 それぞれ言いたい事言い始めてしまい、騒がしくなるテーブルに、実乃梨が戻ってくる。
「やぁやぁ、皆の衆ぅ〜、ご注文は決まりましたかね?」
 オーダーを取りにきた実乃梨に、バタバタとメニューと睨めっこし始める五人。その時、亜
美は、実乃梨にチョイチョイと制服の裾を引っ張られる。
「……ん?何、実乃梨ちゃん?」
 何やら神妙な面持ちの実乃梨に、亜美の耳は周囲の雑音をシャットダウンする。
「後であーみんのメアド教えてくんないかな? ちょいと相談あるんだけど……」
「相談? いいけど、なあに?」
「なんでもねーっす、あひゃひゃひゃ〜!」
 別にからかうつもりはなかったのだが、実乃梨は何故か両手をバタつかせ焦り出す。そんな
ひそひそ話がなんとなく聞こえてしまった竜児は、気になってしまい、
「ちょっと、それやめてよ! ガタガタすんの! 貧乏ゆすりっ! 気が散ってメニュー決め
 られないじゃない!……みのりん私、いちごパフェがいい……」
「高っちゃん、貧乏な人を強請ったらダメじゃ〜ん! 俺、バニラアイス〜」
「違う。貧乏強請りじゃねえ。貧乏揺すりだ。まあ、気をつける……俺はドリンクバーにする」
「俺はコーラだ! よし! というわけで次はスケジュール決めな。終業式が7月18日だっ
 たな? まず俺はここが生徒会の合宿で、ここがソフト部の試合で、合宿で……よしっ、逢
 坂の予定はどうなんだ?」
 リーダーシップを発揮する北村は、楽しげに眼鏡を押し上け、ルーズリーフにフリーハンド
で線を引いただけのお手製カレンダーを作り、テーブルに広げる。
「私は特にないかな。家族旅行なんて死んでもいかないし、そもそもそんな予定はないわ」
「うむっ、櫛枝のスケジュールはどうだ?」
「お! どれどれ!? ええとねー、北村くんと一緒にここは部活、ここも部活で、この辺
 ずーっとバイトのシフト入れてるから、この辺がベストかなー」
「だな。春田はどうなんだ?」
「おりぇも部活あるけど〜……亜美タン最優先すっからいつでもイ〜ンダヨ〜☆」
「いや……春田は、補習あるんじゃねえか。定期考査落とすなよな? マジで。俺は特になに
 もねえな。もしかしたらちょこっと墓参りぐらいは行くかもしれねえけど、いくらでも予定
 はずらせるし」
「なるほどっ!ってことは、この週の……」
「ちょっ、ちょっ、ちょっと! 祐作! だから仕切らないでよね? なんで勝手に決めち
 ゃうのよー!」
 北村は心底嬉しそうに笑い、「亜美、この夏は楽しくなりそうだな」と小さく囁くが、亜美
は聞こえなかったのか聞こえないふりなのか、とにかく返事はしなかった。フフッと穏やかな
顔になる北村は、少し不貞腐れたような幼馴染みからカレンダーに目を移し、「よし! じゃ
あ旅行はこの日に決定!」

 北村の声に同意の拍手がパラパラと上がるのだった。

***


「竜児くん、おまたせ〜っ! 帰ろうぜいっ」
 七時過ぎの街並みに吹く夜風は、実乃梨の髪を颯爽と揺らし、彼女のやわらかな香りを竜児
に運んでくる。薄いオレンジ色のウェイトレス姿もいいのだが、見なれた制服姿に着替えた実
乃梨もやはり可愛らしかった。そういえば6月になれば衣替えになり、薄着の夏服になる。非
常に楽しみ……なんて、不埒な妄想を展開し始めた竜児は、これから櫛枝家にて体育祭で仮装
する『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』のDVDを観賞する事になっている。
 さっきのファミレスで、その事をみんなに話すと……
『あっら〜?DVDとかいって、違うもの鑑賞しちゃうんじゃな〜い?……でも高須くんってぇ、
 そ〜ゆ〜のにガッついてないってか、淡白? もしくは、草食系、だよね? せぇっかく実
 乃梨ちゃんち行っても、結局何にもしなさそうなのよねぇ〜。実乃梨ちゃん、可哀想〜っ』
『たしかに竜児って、なんか本当に結婚するまで何もしなさそう……遺憾、でもないかっ、プ』
……そんな感じに、ひやかされたのかバカにされたのか、さんざん言われてしまった竜児なの
であったが、健康な男子高校生が、好きな女子とのホニャララな事に全く興味がないはずはなく、
いつも以上にグリグリと前髪をくゆらせているのである。

 そんな竜児の下心に実乃梨は気付く事なく、普段と変わらない屈託のない笑顔を振りまきな
がら、喋り続けてくるのだ。
「……ってな感じでさ〜。私、爆発しそうでカップラーメンの『かやく』にお湯注ぐときって、
 超〜っ緊張するんだよね〜……ありゃ? 竜児くん、聞いてる?」
「お、おうっ! そ、そうだな……え〜……犯人はヤス……だっけ?」
「あはは! そうそう! って、違っがぁ〜う!! もう竜児くん、ちゃんと聞いてよね〜!
 でもそれウケるかもっ!」
 そんな取り留めのない会話を交わしつつ、ふたりは無事に櫛枝家のある団地に到着する。
実乃梨はエレベータの中で4階のボタンを押し、ポケットから家の鍵を取りだす。チンっと、
到着の合図が響き、ふたりは玄関までの外廊下を通り玄関前に辿り着く、と。

「竜児くん、いらっしゃ〜〜い!! 元気そうねぇ!? ゆっくりしていってね!!!」
 二人を待ち伏せしていたかのように、実乃梨の母親は玄関の扉をフルオープン。娘に負けな
い100万ワットの笑顔で竜児たちを迎え入れる。実乃梨は鍵を用意したまま呆然。サングラ
スを持ち合わせていない竜児は、その笑顔の眩しさにおうっ! と、三白眼が焼け焦げたほど
圧倒されるのだが、
「おうっ! ……こんばん……わわっ! ……ええっと、あ、あなたは、この前の!」
「いらっしゃい。竜児くん。ちゃんと会うのは初めてだね……実乃梨の父です。改めてよろし
 く」
 そこには、実乃梨の父親もいた。竜児の驚きは、倍率ドンッ! さらに倍っ! てな感じだ。
「え? なんで? お父さん、竜児くん知ってんの? 何故上?」
 大きな瞳をパチクリさせる実乃梨に、ちょっとな、と実乃梨の父親は答えて、竜児にアイコ
ンタクト。竜児も素早く状況を理解し、恥ずかしそうに苦笑いした。
「ん〜……なんかわかんないけど、自己紹介の手間が掛からなくってよかったわよね、お姉ち
 ゃん。お母さんたちこれから駅前に用事あるから、2時間くらいお留守番ヨロシクね〜!」
 と、ウインクし、実乃梨の両親は竜児たちが歩いて来た外廊下に消えていった。

***

 竜児が通されたのはテレビがある櫛枝家のリビング。ラバーウッドのローテーブルに、寝っ
転がれそうなベージュのソファー。シンプルで機能性の高い、ツボを押さえた家具で統一され、
インテリア好きの竜児は密かに及第点をつけるのであった。

「竜〜児くん、なんか飲むけ?カフェ?オァ、ティー?」
 居心地悪そうにソファーに座っていた竜児が振り返ると、バイトとは違う、フランクな接待
をするウェイトレス実乃梨が、オーダーを取りにきた。制服のブレザーを脱いできた実乃梨の
ボディラインに視線をロックしてしまい、竜児は罪悪感に囚われる。何エロい事考えてんだ俺
……と。

「さっきファミレスで北村に付き合ってコーラすげえ飲んだし。そうだな、カフェ、プリーズ」
 ラジャー、ブラジャー! と、何かのパロディーなのであろう、微妙なフレーズを残し、実
乃梨は、キッチンへ消えていった。それを見送り、ふうっと竜児はため息をつき、反省する。
 竜児は、これから実乃梨とずっと一緒なのだ。そう誓ったのだ。大河や亜美に、あーだこー
だ言われたからといって、実乃梨とのホニャララな関係をなにもそう焦る必要はない……そう
いうのは、いつか自然にそうなるんだろう……そう、自分に言い聞かせる。
 コーヒーをガッツリ飲んで、カフェインのリラックス効果に期待しよう。と、ひとり納得す
る竜児であったが、コーヒーのアロマによる欲情効果に関しては、特に気にしなかったようだ。

***

「ジャジャ〜ン! これが例のDVDでござるよ」
 自慢気に実乃梨が突き出したのはもちろん仮装行列でやるDVDのソフトである。コーヒー
をテーブルに置き、テレビとプレーヤーの電源を入れ、ディスクをプレーヤーに吸い込ませた。
「おっと、茶請けがないね? 竜児くんがバイトしたアルプスのタルトタタンがあるでよ!」
 持ってくるねっ!っと、立ち上がった実乃梨は、テレビとプレーヤーのリモコンを二丁拳銃
のように構え、ピピッと操作。急いでキッチンへ戻る、その時だった。

「おうっ! こ、これはっ!!」
 テレビの前で突然エキサイトする竜児。実乃梨は怪訝に思い振り返る。
「え? 何? 竜児く……はあああっ!! なななんだぁこりゃぁぁぁぁっつ!! ストップ、
 ストッープ!!! うおおっ! ……見た? 竜児くん、今見ちゃいましたか?」
 松田優作ばりのなんだこりゃを披露した実乃梨と、氷像のように凍り固まる竜児。さっき一瞬、
テレビのモニターに浮かんだものは、ディズニーの人形劇とはほど遠い、素っ裸の男女が抱き合
っている、あられもない姿。しかも生々しい「あっは〜ん!」という艶かしい声もけっこうな音
量で再生されてしまったのであった。つまり簡単に言うと、こいつはアダルトDVDなのである。
「ひえぇ……なんでなんで〜? 竜児くんゴメン! ゴメンよっ!」
 慌てふためく実乃梨は、DVDを取り出し、ディスクのラベルを確認する。
「間違ったかな〜、え〜っと……ナ、ナ、ナイトメイト・ビフォア・クリスマス〜? 
 ナイトメイトって、なんなのさっ? 夜の仲間? 笑えねーっての!! そっか! ヤツかっ!
 みどりだな? く〜っ! あのドスケベニンゲンぐぁ〜!」
 顔を真っ赤なして、ジタンダを踏む実乃梨。負けずに真っ赤っ赤になっている竜児は氷解する。
「いや……みどりは悪くねえよ。こういうの興味持つのって普通……だと思うぞ。年頃だしな」
 もしかしたら義理の弟になるかもしれないみどりを懸命にフォロー。それに対し思わずエロ
DVDをへし折りそうになっていた実乃梨は、
「りゅ……竜児くんも?」
 と、問いただすのだが、聞いた後で後悔しているようだ。このタイミングでそんな事聞いて、
いったい竜児にどんな返事を期待するのであろう……気まずい。非常にまずい。
「ま、まあ、な……俺も年頃だし……」
 と、思わず本音を洩らす竜児にドキッと実乃梨が跳ねた。そしてモジモジし、シュンっと恥
ずかしそうに縮こまる。
「そ……そうなの?」
「実乃梨……」
 竜児に名を呼ばれた実乃梨の瞳は、心なしか潤んでいた。視線がぶつかると脳天から湯気が出
てしまうほど上気する。
「ふあ〜……わ、私DVD取り替えてくるねっ!! 竜児くん、しばし待たれよ!」
 ピンク色の空気に負けた実乃梨は、その場から逃げ出した。リビングに残された竜児は、急激
に干上がった喉にコーヒーを流し込むが、せっかくの味や匂いやらは全く感じることが出来なか
ったのだ。

***

 たぶん実乃梨の自室なのであろう、奥の方からガサゴソする音が止み、暫くして実乃梨がD
VDを、さっき運んでこれなかったタルトタタンと一緒に持ってきた。
「はいっ! 今度は間違いないっす〜! さっきのは忘れてくれぃ!!」
「おうっ! 忘れた忘れた! 仕切り直しだ! 早く観ようぜっ!」
 無理矢理さっきのピンク色の空気を一掃しようと、ふたりは取り繕うのであったが、そんな
簡単に忘れる事など出来るはずはないのだ。どことなくぎこちない会話が始まる。

「へえ、綺麗な映像だな……これってアニメじゃないのか? CG?」
「竜児くんストップモーションって知ってる? これって全部人形なんだぜ〜」
「そうなんだ、ってか今更なんだが、ハロウィン……って何する日だっけ?」
「いや〜、この監督、ティムバートンらしい個性的なキャラがいいよね〜!」
「しかしこの衣装上手く作れるかな。みんなの袖丈くらい採寸しないといけねえな」
「あはっ、気持ちわる〜っ! でもカワイ〜のぉ……おおっ! ジャックキタ───ッ!」

……と、だんだん話が噛み合わなくなってくるのだ。お互い、さっきの本番シーンが忘れられ
ず、心ここに有らず状態なのだ。そのことに気付き、ふたりはいつの間にかDVDなど上の空。
そして流し見状態の均衡を破るのは、さっきは逃げてしまった乙女、実乃梨であった。

「あのさ……竜児くん、やっぱ、気になるよね……その……さっきのDVD……年頃だもん、
 ね……」
「そ……そうだな……衝撃的だったからな……」
 竜児の三白眼が泳ぐ。ソファのすぐ隣に座っている実乃梨の顔を見ることが出来ない。しかし
視界ギリギリの実乃梨が竜児の方に振り向くのは分った。
「りゅ、竜児くんも、あんな事し、したい?……はあっ!? へぇっ、変な意味じゃなくてさ!
 あれ? えっと……どんな意味なんだ、まあ…その……何言ってんだ私……」
 竜児の体温が急上昇する。もしサーモグラフィーで計測したら、部屋中真っ白で何も映らな
いであろう。
「し、してえ。してえよ。してえけどよ……い、いつかは……な」
 乾いた唇を噛む。竜児は限界だった。
「そ、そう、だよね竜児くん……いつか……はぁっ!!」
 突然竜児は飛び込むように実乃梨に抱きつく。不意をつかれた実乃梨は、たじろぐのだが、
なんとか竜児に乞う。
「くっ、苦しいよ、竜児くん……私、逃げないから……ありゃ?」
 抱きついたはいいが、竜児は、その後のことを考えていなかったようで、シューシュー脳ミ
ソがオーバーヒート。なんとか生きているみたいだが、人間、慣れない事はするもんじゃない。

「うわはっ! 竜児くんが壊れた! お、お〜い……んもうっ! 竜児くん、そのまま動くで
 ないぞ……」
 そ〜っと抱きついて固まっている竜児を引きはがし、実乃梨は一度、距離をとる。しばらく
竜児を観察してから、チュッと、燃えるように熱い頬に、キッスした。しかし照れてしまった
のか、実乃梨は溶けた顔が見えないように、竜児のおデコに自分のおデコをコツンとくっつけ
るのだ。まるで熱を計るように。

「み、実乃、梨……」
 リブートした竜児。おデコがくっついているゼロの距離では、竜児が呟く度、その唇が実乃
梨の唇に軽く触れる。息をするほど、実乃梨のなんとも言えない体臭が、肺の中へ送り込まれ
る。……これがフェロモンというものだろうか……そんな考えが心臓へガソリンを送り込む。
 竜児は破裂しそうになる心臓の音が、実乃梨に聞こえてしまわないか、急に恥ずかしくなっ
てくる。実乃梨の肩を握る手が、小刻みに震えだす。情熱で窒息しそうになる。そして、

 欲望が理性を、超える。

「……お……俺……さ、触っ……りてえ」
 緊張し、血の色に染まる竜児の唇からは、それ以上の言葉は途切れ、荒い呼吸に変わる。そ
して意を決した竜児の右手は、ピクッと動くと同時に、震えながらも少しづつ実乃梨の肩から
下方へ降りていく。
「……」
 実乃梨は抵抗する事なく黙っていた。ただその息遣いは竜児同様、荒くなってくる。やがて
竜児の指先は、やわらかく、まるい実乃梨の乳房に埋まる。最初は躊躇いがちな竜児の指先だ
ったが、次第にやさしく撫でるように上下に動きだす。ブラウス越しとはいえ、伝わる感触、
熱、恥ずかしさがこみ上げる。ゴクッ……竜児は、唾を飲む。くっつけているおデコに汗が滴
る。実乃梨の乳房は、竜児の予想を、期待を遥かに超えるモノであった。が、

 無意識なのか本能なのか、竜児の指は、大胆にも実乃梨のブラウスのボタンを外しはじめた。
ひとつ、ふたつ……
 もっと、直接、触れたい。竜児のリビドーが膨れ上がる。

「やんっ!」
 実乃梨の唇から漏れたそのオンナっぽい声に、彼女自身、ハッと驚いたような表情になる。
竜児といえば、敏感に反応し、最後のボタンから素早く手を引くのだった。
「す、すまねえっ……俺……調子に乗っちまって……」
 竜児の手のひらには、ふくよかで弾力がある乳房の余韻が、罪悪感と一緒にジンジン残って
いる……思えば実乃梨は竜児にとって、付き合うだけでも夢のような高嶺の花。その実乃梨に
なんて事を……もしかしたら嫌われたかもしれない……そんな不安も頭の中をよぎるのだ。

「あっ……いやっ! 違うのだよ竜児くんっ。い、嫌じゃないんだ! 嫌じゃない、けど……
 で、でも……なんかっ、なんかさ…………私、怖……くて……さ」
 ゴメンよ……と、言ったきり実乃梨は両手で顔を覆ってしまう。よく見れば竜児と同じく、
肌はうっすら汗ばみ、震えていた。それを見た竜児は魔法が解けたかのように意識がクリアに
なる。
「俺こそ、悪かった……すまねえ。焦っちまって……いくらなんでも、まだ早いよな」
 実乃梨が怖がった訳が、それで正しいか竜児には分らなかった。しかし実乃梨は、しばらく
沈黙の後、外されたブラウスのボタンを嵌めつつ、ジーッと竜児の顔を見つめ……いつもの眩
しい笑顔を作る。

「えっへ〜、竜児くん! どっ……どうだった? 私のおパイの感触?」
 予想外の質問に言葉が詰まる竜児。しかし健気に和ませようとしているのであろう、そんな
実乃梨の想いを汲み取り、言葉を振り絞るように目一杯、明るく紡ぐ。
「おうっ!……きっ、緊張してよくわからなかったが……や、やわらかくて、むむ、ムニッと
 して……気持ちよかった」
 そうかいそうかい阿藤快! っと、実乃梨は何事もなかったかのように言葉を返し、

「んねえ、DVD。もいっかい最初から見ようよ」
 テーブルの上にあるDVDプレーヤーのリモコンを拾い、巻き戻しボタンを押す。テレビには
最初のシーンが映し出される。すると実乃梨は、ソファーの上で、あぐらをかいていた竜児の
股の間に、スットーンっと入ってきて、そのまま抱きかかえられるように座るのだった。
「おうっ! 実乃梨っ、なんでここに座るんだ? 俺は……嬉しいんだが」
「さっきは竜児くんのターンだったから、今度は私のターンよねっ。この体勢で見たいんだっ」
 実乃梨は竜児の胸を背もたれ代わりに体重を預けているが、彼女の後ろ髪が鼻先に触れ、く
すぐったい。竜児は実乃梨のやわらかい髪を掻きあげると、目の前に彼女の旋毛が現れた。
 思わず匂いをクンクン嗅いでしまう竜児であった。


「なんか……安心するな。この体勢」
「……何だか竜児くんに包まれているような気分だよ……んふ〜っ……脱力しちゃ〜う」
 さらに体重を乗せてくる実乃梨。その重さ自体はたいした事なかったのだが、もっと重い、
実乃梨の想いがズッシリと預けられたように感じる竜児。心地よい重さだった。その
全てを預けて欲しいと願った。実乃梨がどうしようもなく愛おしくて堪らなくなった。
 やがて実乃梨は、独り言のように語り始める。
「……私、竜児くん大好き。……でもさ、今まで私って、ソフト馬鹿だったでしょ? ……ソ
 フト馬鹿からソフト取ったら只の馬鹿じゃない?……だから私、必死に頑張ってきたんだ」
 声は微かで震えていた。その声に竜児は無言で聞き入る。
「さっき、怖いって言ったのは……怖いのは、竜児くんがソフトより大切な存在になっちまっ
 て……それは、すっごい嬉しいんだけど……でも、なんか、怖くなっちまったんだ……」
 そんな実乃梨のいじらしい告白に、竜児は後ろからギュッと抱き竦めた。胸板に彼女の鼓動
が、熱がジンワリ伝わってくる。
「俺もお前のこと、何よりも大切だ。だから、上手く言えねえけど、幸せにしたい」
 嬉しい……と、返事をしたきり、実乃梨は黙り込んだ。背後からはその表情は伺え知れない
が、今はこの熱に浸るだけで充分だった。満たされた気分になった竜児の中では、既に実乃梨
への恋心は、愛情に変わっている。そしてこれは、絶対実乃梨には言えないことなのだが、求
めればきっと実乃梨は、その純潔を捧げてくれるのであろう……という確信を、竜児は得るの
だった。
 そう、だから今はこれで充分なのだ。

 そのまま、静かな部屋の中で時は過ぎ、テレビの中に、エンドロールが流れていく。

***

 ピンポ〜ン
 櫛枝家にチャイムの音が鳴り響く。実乃梨は竜児の匂いが残るリビングを離れ、板張りの廊
下をバタバタと足音を立て、玄関の端っこにあった適当なつっかけを履き、チェーンロックを
外した。
「お姉ちゃん、ただいま〜!竜児くん帰ったの?」
 実乃梨の両親がご帰還された。ドアの外にいる父親は、感傷深げに夜景を見下ろしている。
「おかえり。帰った。ついさっき」
 と、実乃梨は最低限の返事だけを残しリビングへ踵を返す。その娘の背中に靴を脱ぎながら、
母親は呟いた。

「お姉ちゃん……火遊びは、ホ・ド・ホ・ド・に・ね?」

 そう忠告し、母親は、実乃梨が着ているブラウスのボタンが掛け違えられていた事を見なか
った事にして、玄関の扉をゆっくり閉じる。

***

 翌週の体育祭前日。大橋高校のグラウンドでは、実乃梨が部長を務める女子ソフトボール部
が、シートノックの練習を行っていた。再来週の関東大会、平たく言うとインターハイの前
哨戦が開催される為、グラウンドでは、かなり激しい檄が飛んでいるのであった。
 女ソ部公認、伝説の応援団長である竜児は、バンカラなのはフェイスだけで、必死に実乃梨
の一挙手一投足にいちいちクネクネ反応しながら、憧れの先輩を覗きにきた乙女のように、フ
ェンスにへばりついているのである。
 その姿をチラ見し、ヒソヒソ話を始める部員が湧いたのだ。
「部長の彼氏さ〜、また来てるよ〜。もう風景化してるわよねぇ。あそこにいて普通って感じ」
「うっふ〜ん、ラブラブねえ……あのふたり、どこまでススんでるのかしら。あはっ?」
「どこまで……とな? どことは、いずこの事でござるか? 」
「やだよぉ、この子は。お天道さんが高いうちからお止しよ。ふぉ、ふぉ、ふ……ンギャア!」
 そんなニヤニヤしている部員の間を、シュン!と、白球が横切った。

「ゴォルァ〜ッ、そこ〜〜!! よそ見すんな〜! 怪我すっぞ〜!」
 噂の部長、実乃梨がバットの先端を部員に向け、吠えるのであった。
「すっすいませ〜ん、部長!……あちゃ〜、聞こえたかなぁ……」
「……みのりんレーダーで捕捉されたかも。でも、平気っしょ? 悪い事じゃないし……よっ
 しゃあ〜〜!! バッチこ〜い!!」
 と、気合を入れ直し、練習を続ける実乃梨たちがいるグラウンドの脇を、ガタガタ通り過ぎ
る一台の軽トラックが現れる。
 その軽トラックは、体育館の入り口脇に横付けし、車内からスーパーかのう屋の店主、つま
りすみれの父親が降りてきたのだった。彼を待ち受けていたのは、2ーCの生徒たち。その先
頭にいた北村は、すみれの父親に頭を一度下げ、二言三言、挨拶を交わす。
 トラックに積まれて届けられたのは亜美が仕事のコネで手に入れたクリスマスツリーで、所
属事務所の倉庫から運んでくれる役を、すみれの父親が買って出てくれたのであった。

「会長のお父さま有り難うございます! ズバリ助かりました!」
「いや……学校についでの用事もあったし。全然かまわないよ。じゃあ後でね」
 そう言い残し、すみれの父親はそのまま校長室の方へ歩いていった。見送る北村の目の前に
積まれている季節外れのツリーは、2ーCの仮装行列『ナイトメアビフォアクリスマス』に使
う予定で、当日デコレーションしたリヤカーに乗せ、行列のメインを務めるのである。

「いよーし! 手分けして運ぶぞーっ!」
 北村の体育会系丸出しの大声に、お〜う! と、体育祭実行委員の春田をはじめ、男子数人
が拳を突き上げた。授業をこなした後の放課後だというのにハイテンション。トラックの荷台
によじ登り、荷紐を解いていく。バラされたこれらのパーツから想像する限り、完成後はおそ
らく2メートルほどの大きさだが、凝った造りになっているようで、めちゃくちゃゴージャス
になるであろうと容易に予想できた。

***


「……うーわ、結構でかっ!」
「マジすげー! 超〜いい感じじゃん!」
 2メートル以上はあるだろうか、人海戦術が功を奏し、ものの15分程度でクリスマスツリ
ーは出来上がった。ツヤのあるホワイトパールに輝くツリーは、オーナメントやリボン、ベル
が巻き付かれている。
「北村くーん! これ、家から持ってきたの! うちのツリーの! てっぺんにつけて!」
「あっ、こらこら! 投げるな投げるな! 取りに降りるから!」
 脚立の上にいた北村はするすると降りてきて、大河が手にしていたダンボールの中を覗き込
んだ。そして、
「……いいのか? こんな綺麗な……なんていうか、高価そうな……」
 と。目を丸くして上げた声に、大河は嬉しそうに頷いてみせる。
「いいの。私ね、クリスマス、大っっっっ……好き! 実家から持ってきたんだけど、まだ半
 年使わないし、それにちょっと大きすぎて、今のマンションのツリーには飾れないから」
 恭しい手つきで北村が取り出したのは、大河の顔よりもよほど大きな、硬質の光を帯びて透
き通る。複雑な立体をした星の飾りだった。わあ……! と、女子たちがその美しさに声を上
げる。わあ……! に北村もさりげなく混じり、女子と並んで眼鏡をギラつかせる。
「クリスタルでできてるんだ。私の、一番好きな飾り。使えないとかえってもったいないし、
 いいの。飾ってくれる?」
「……よし! 大切に飾らせてもらうからな! おまえの一番好きなこの星を、ツリーのてっ
 ぺんに!」
 再び脚立を上り、そしてしっかりと、北村は大河の星をツリーの頂点に据えつけた。安定し
たかを確かめるみたいにそっと両手を離し、ちょん、と指先で突いてみて、それで納得したの
か「……OK!」と眼鏡を押し上げて頷く。「へへ〜」と大河は照れたみたいに顔をくしゃく
しゃにしてみせる。嬉しげに身体もくねらせて。そりゃもうOKなのであろう。

***

「あー! しくった! ファ──────ッ!!!」
 一方グラウンドでは、女ソ部の部長が間抜けにも、すっぽ抜けの大ファールを打ち上げてし
まう。そのボールは大きく放物線を描き、ツリーが運び込まれた体育館の方へすっ飛んでいっ
たのだ。
「いーよ、実乃梨っ!! 俺が取りに行くから!  鶏肉、じゃねえ、取りに行くから!」
……と、分りにくいジョークが面白いかどうかは別にして、日々、笑いに精進する竜児。走っ
て落下地点と思われる体育館へ向っていく。

 そして体育館が近づくにつれ、なんとなく嫌な予感が沸々と湧いてくる竜児なのであった。



───To be Continued……

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