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120 みの☆ゴン126〜134 ◆9VH6xuHQDo sage 2009/12/20(日) 22:57:46 ID:bt6Y4WM5




「竜児くん、ゴメンよ! 今日はあーみんと約束あるんだ」
 木曜日の午後四時。そんな感じで彼女から放課後デートを断わられてしまった高須竜児が、
昇降口で若干凹みながら下駄箱から靴を取り出しているとき、背後から小さな影が忍び寄る。

「竜児。あんた今日ヒマでしょ? ちょっと付き合いなさいよ」
 腰の辺りをチョイチョイ突かれ振り返ると、口をへの字に曲げた手乗りタイガーこと、逢
坂大河が睨みつけていた。
「おう大河、いきなりなんだ? 付き合うって、いったいどこに?」
 説明するのがうざったそうに、大河は長い髪をかきあげ、
「駅ビル。明日のプールの授業で使う水着買うの……去年の水着、腐らしちゃったし、サボ
 ろうとしたけど北村くんに出たくない〜って言ったら、遊びみたいなモンだけど、授業は
 授業だからって叱られちゃって……仕方なくね……はあ、やだな……さ、いくわよ竜児」
 竜児の同意を得る前に、大河は校門の方へ歩き出してしまう。その小さな背中に竜児は、
「なんだよ大河。それなら北村誘えばいいじゃねえか。放課後デートも出来て、一石二鳥だ
 ろ?」
 というと、大河は歩きながら振り返り、竜児に射るような目線を突き刺すのだった。
「……そんなこと出来たんなら最初からあんたなんか誘わないわよ……。ぐたぐた言ってな
 いで、付いてこい、この鈍っ! ふぎゃ!!」
 びたん! と凄まじい音が大河のデコから発せられ、最強のはずの手乗りタイガーはデコ
を押さえて昇降口の床に片膝をついて悶絶。締まりかけた昇降口の鉄枠のガラス扉に激突し
てしまうのだ。
「だ、大丈夫か大河……しょうがねえなあ、ったく……じゃあ行くか。駅ビルに」
 内心逡巡していた竜児だったが、目の前でマンガのようなドジを目の当たりにして、親友
である北村のために、どうしようもなく危なっかしい手乗りタイガーと一緒に駅ビルへ行く
ことに決める。

***

 平日の夕方とはいえ、これでも街で一番のショッピングスポットである四階建での駅ビル。
しかしながらほとんど人気がなく、そんな閑散としたフロアの片隅、お嬢様チックな白いワ
ンピースを抱え、ローファーをパタパタ鳴らしながら試着室へ走っていく川嶋亜美の姿があ
った。

「ねえ、実乃梨ちゃん! これなんかどぉ〜お? スタイルいいから絶対似合うって!」
 亜美に呼ばれ、試着室のカーテンからピョコ、と顔だけを出すのは櫛枝実乃梨。さっき試
着したカジュアルでリゾートな感じの動きやすそうなハイビスカス柄のチュニックを着てい
たが、
「え? あーみんどれ?……ワッ、ワンピースゥ? こんなヒラヒラフワフワで、真っ白な
 の着たことねえっす……か、かわいいけど……すっごく似合わない自信あるんだけど……」
 瞠目し、戸惑う実乃梨だったが亜美はノリノリ。
「そんなことないってえ! 高須くんみたいな男子ってぇ、こういうの好きだと思うよ?
 ウブで、清楚で、お淑やかで、照れ屋で、清純系でさ。それにリゾートっぽくてパッチリ☆」
 そう言われ純白純情ワンピを受け取り、ジーっと刮目する実乃梨は萌え、いや燃えてきた
のか、
「そ、そそそ……そう? かな? かな?」
 いろいろと思案を巡らす。もう一息だ、亜美はダメ押し。
「そうだよー! 実乃梨ちゃん引き締まってるし、肩の辺りなんか筋肉も綺麗についてて、
 超いいかんじー! ほらほらいいから着てみちゃいなよ〜!」
 そ……そだね、と微妙に笑みつつ、実乃梨はワンピースを手に、カーテンをぴっちり閉じ
て、試着室の中に引き籠るのだった。
 実は亜美は、実乃梨から竜児に内緒で沖縄旅行へ着ていく洋服を、プロモデルとしてのア
ドバイスを相談されていたのである。そんな実乃梨の乙女心を汲み、元々コーディネート好
きな亜美は快く承諾したのだった。試着待ちの亜美もせっかくなので、自分の欲しいマスト
アイテムでも物色しようと辺りを見廻すと、偶然エスカレータの方に見なれた二人組を見つ
けちゃうのだ。


「あれ?タイガーじゃん……高須くんも?」
 亜美の目が、おもしろいものを見つけたみたいに楽しげに細められる。そして亜美は浮気
調査をする探偵のように竜虎の尾行を始めるのだった。
 しばらくして取り残された実乃梨は変身後、試着室から出てくる。

「うわぁ……着ちまったよ……なんか、大河っぽいなあコレ……ねえ、あーみん? あり
 ゃ? ……いねーし……」
 実乃梨は救いを求めるように落ち着きなくウロウロと歩き
回ったところで、ショップの店員さんに捕まり、さんざん営業トークを浴びてしまうのだが、
閑話休題、なんとか連れの行方を聞きだし、そのバカンスなワンピースの格好のまま、亜美
の後を追うようにしてエスカレータに向かっていってしまう。

***


「た、か、す、く〜ん! な〜にしてんのかな?」
「おうっ! 川嶋!」
 観葉植物の影に隠れていた竜児は、ただでさえ女性用水着売り場に迷い込んだ男子高校生
という立場で赤面を禁じえない状況だというのに、まさか知り合いに会ってしまうとは……
さらに重ねて連れが大河だ。浮気現場を発見された間男みたいに固体化する竜児は黙り込ん
でしまい、亜美との間にアロハの伸びきったBGMがむなしく流れていく……のだが、やや
あって亜美は、

「高須くん水着買うんだ? ああそっか、明日もうプール開きだ! 楽しみだねえ! でも
 ここ、レディース売り場だよ? 男子用はあの柱の向こうじゃん。高須くんこんなところ
 にいてなんか怪しくね?」
「べっ、別に怪しくねえよ! たっ……大河に頼まれてついてきただけだ」
「へ〜高須くんが? 実乃梨ちゃんや佑作を差し置いて? なんで? それこそ怪しさ炸裂
 なんですけどっ……てか、高須くんだめだよ、マネキンだからってそんなに激しく揉みし
 だいたら。ポロリしちゃうって」
 竜児は何気ない風を装っていたが、うっかりマネキンの胸部を鷲づかみにしてしまってい
た。変態だからではない。動揺し過ぎたのだ。
「おうっ! 俺としたことが……いや違う、だから川嶋! 俺もわからねえんだよ! なん
 で頼まれたのか俺が聞きてえくれえなんだって!……そ、そういや、大河は?」
 試着室に消えた大河が姿を現さないことに気がついた。試着室は四角いフロアのコーナー
四隅にそれぞれ、計四つあり、そのうちのひとつに,見覚えのあるサイズの小さなストラッ
プシューズが脱いであった。なんだ、ここで大河は試着しているのか、と竜児が思ったその
矢先、

「おーい竜児いるー?……ちょっとこっち来てよ……ちょっと、来〜い」 
 大河の声がした。すると竜児が返事をする前に試着室のカーテンがほんの数センチほどそ
っと開き、顔だけをにゅっと突き出した大河は、キョロキョロどこか不安げに眉を寄せてい
たが、半笑いの亜美の姿が目に飛び込んでくると、
「りゅ……てへ? ばかちー? ちょ、ちょ、ちょ! なな、なんであんたがいんのよ!」
「あっら〜? あんたこそなんで高須くんと水着売り場で一緒にいるのかしら〜?」
 亜美は大河をじー……っと見つめている。底意地の悪さを隠さない目で、まるでレントゲ
ン写真でも見ているような顔をして。大河は生首状態のままわめく。
「う……うるさいうるさいうるさいうるさぁ──いっ!! ばかちーには関係ないっ! な
 んだっていいでしょ? は! 分かった……あんた水着腐らせたのね。なら最初っから……」
「ばっかじゃねーの? 水着腐らせるなんて聞いたことねーし! 違うわよ! あたしは実
 乃梨ちゃんに相談……あっ」
 つい口が滑ってしまいそうになり突然口を噤む亜美だったがそこに……


「あーみん発見伝! 急にどこ……ぎゃーす! だめだめだめっ! 竜児くん、来ちゃダメ!
 見ちゃダメ! ててていうか、なんでここにいんのさー! うぎゃー!」
 そこには真っ白なワンピースに身を包む実乃梨がいたのであった。店員さんの計らいで、
純白のワンピースに、お揃いの白いヒール、ひまわりをかたどったブローチ……と完全最強
フル装備。まるで夏の朝に咲く百合の花のような清らかさで登場し、竜児の視線をロックオ
ンさせるのだ。見るなというのが無理な話なのである。しかし実乃梨は照れるみたいにして
ストローハットで真っ赤に染まる顔を隠してしまう。それをみてスタイリスト亜美は駆け寄り、
「えーやだやだ、実乃梨ちゃん超かわいいじゃーん! すっごい似合ってるし、もっとよく見
 てもらいなよっ! ほら〜、BANG☆BANG☆バカンスって感じ〜☆」
 大絶賛するのだった。実乃梨の声が聞こえた大河は、うわー、みのり〜んっ! すご〜い!
と試着室からチラ見し、声を漏らす。亜美の抱き着かれて、やっと実乃梨の顔が現れ、その
非日常な可憐な姿を改めて見た竜児は、ここが寂れた駅ビルなんてことなど一瞬にして忘れ、
輝くばかりの純白の少々少女っぽいワンピースから伸びる真っ白な長い足、ほっそりしなや
かな腕、しかし主張するバストライン、幻想のような儚い風情をかもし出す彼女のさまに、
心臓が止まるほど見惚れてしまうのだ。竜児は離れた場所から指をくわえてアブない視線を
輝かせるが、爽やかな夏少女を物陰から狙っているわけではない。思春期特有の自意識と恋
心の狭間で揺れているのだ。男心が。
「ま……まるで96年の映画、ロミオ+ジュリエットでクレア・デインズがまとっていたジ
 ュリエットドレスじゃねえか……ロマンチックの極み……エンパイアシルエット……か、
 か……かわっ……ゅぃ」
「ちょっとぉ高須くん! 声小さい! ちゃんと実乃梨ちゃん褒めてあげなって。あんた彼
 氏でしょ〜? ……で、それはそうとタイガーはなんでここにいるのよ?」

 と、いうわけで、話が元に戻る。

***

「あーはははははははははははー☆ お腹が、お腹がぁ! あははっ、あははは! 死ぬ!
 亜美ちゃん死んじゃう〜!」

 ──スドバで話しようよ、という亜美の誘いに全員乗り、そこでカミングアウトした大河
に目じりに涙まで溜め、両手を小さく叩きながら亜美は笑い続けてしまう。足をパタパタと
動かしてよほどツボに入ったようだ。対面に座っている大河は瞬間沸騰する。

「そんなに死にたかったら死にさらせ! 地獄に……落とおおぉぉぉ────っすっ!!」
 はじけたカンシャク玉みたいに跳ね上がろうとする大河を必死に竜児は背後から押さえ込む。
「落ち着け大河! ……てか、落ちる、じゃねえんだ……おまえが落とすのかよ!」
「るせえ! てか耳いいじゃん……とりあえずばかちぃ! ブっっっっ……殺すっ!!」
「これ! おやめ大河! あーみんも笑い過ぎだよっ!」
 実乃梨に鼻先をつままれる大河は意外なほどあっさりと戦闘解除。亜美もコツンと肩を叩か
れ、舌を出す。実乃梨は見事な仲裁を披露するが、大河はぶつぶつ言いながら竜児の隣にズボ
ーッと、シットダウン。半目で、恨めしそうにアイスミルクティーを飲む。そこで竜児。

「……そんな、気にすることかよ……乳の大きさ程度のこと」
「そうそう、おっぱいなんて飾りです。偉い人にはそれがわからんのですよ……でも大河、去
 年そんなこと言ってなかったじゃん。どうしたのさ? やっぱ北村くん対策?」
「違……くないけど、全部じゃないの。去年は悩んでいなかったというか、気づいていなかっ
 たの。自分が貧乳ってことに。中学のときは水泳の授業なかったし」


 やっと相談っぽくなってきて、ふむふむと話に聞き入る。約一名笑いを必死に堪えていたが。
「去年は普通に、プールに入ったわ。でも、最後のプール授業の後で、あるモノを見つけてし
 まったの。……他のクラスの男どもが、私の水着姿の写真を盗み撮りして流通させてたのよ。
 で、これが、そのとき押収した写真よ。……うぅぅ……」
 ズイ、と裏返しのままて大河が突き出してきた写真を何の気なしに手に取った。表に返すと、
プールサイドに立っている大河が写っており、胸の部分にはわざわざ油性マジックで矢印が引
いてあり、ごく端的に一言、『哀れ乳』と。
「──おう! ひでえな!」
「大河……あんた……」
「ブー!」
 堪え切れず亜美は変な音を出し吹いてしまう。再び怒り狂う大河をなだめるのに、竜児と
実乃梨は、オーナーの須藤さんも交えて5分もの時間を浪費する。そして大反省した亜美は、
「ごめぇんタイガー! ごめぇ〜ん!……でもさー、タイガー。マジでアドバイスすると、
 ヌーブラ買えばいんじゃね? ただもし擬乳化してもさ、いつかは、佑作にバレちゃう訳
 だし。あいつだって、無乳を哀れむかもしれないけど、それで別れるとか、ないと思うけ
 どねえ」
「無乳じゃねえよ……貧乳だろ? 失言すんなよ川嶋」
「……なんかワザワザ言い直すのが微妙に腹立たしいけど、出入り禁止になると困るしね。ス
 ルーしとくけど、忘れないよ。永遠に。……てゆーかヌーブラなんてどこで売ってるか私
 知らないもん。……うう、いやあ〜……北村くんの前で、この哀れな姿を晒さないといけな
 いんだあ〜今何時? もう五時過ぎだあ〜……あと十六時間でプールだあ〜……いやだあ
 ……いやだよ〜……」
 大河は情けない泣き声を上げ、とうとうテーブルに顔を突っ伏してしまう。初めてみる塞ぎ
こむ大河に何も言えなくなる面々。竜児も両目を刃物のように研ぎ澄まして口をつぐんだ。学
校に忍び込んでプールにセメント流し込んでプール妨害計画を立てているわけではない。静か
に考えていたのだ。好きな人に少しでも良く見られたい。わかる気がする。実乃梨も共感する
ように大きく頷いている。そして、

「あーもー! わかった! 俺がなんとかする! 俺に秘策がある。水着を一晩預けろ、夜な
 べになるかもしれねえけど、なんとか胸張って北村の前に出られるようにしてやる」

 と、ほざいてしまうのだ。

***

「はあっ……竜児くんのほうはどう?」
「ああ、俺の方はもうすぐだ……いま飲み物持ってくから。ミルクでいいよな?」
 実乃梨は高須家の狭い2DKで卓袱台を囲み、大河の水着に装着する、その名も『偽乳パッ
ド』を作る為、竜児と手分けして針仕事をもくもくとこなしている。泰子の着なくなった服か
ら外したパッドを微妙に厚みがグラデーションするよう、ずらしながら切りそろえて重ね、
一針一針、慎重に丁寧に縫い合わせる骨の折れる作業だ。竜児一人だったら朝までかかってし
まうであろうが、『偽乳パッド』は、ほぼ完成の域に達していた。しかし共同作業ながらもす
でに時計の針は九時を回っており、竜児は一服しようとレンジで温めた牛乳に蜂蜜を少々垂ら
して持っていってやろうとしているところなのだ。

「そう。私ももう少しかな……ありゃ、大河寝ちゃったよ。……うほっ! 可愛いのお……
 ねえ竜児くんタオルケットある?」
 竜児は台所から戻りながら我が家を見回すと、さっきまで起きていた大河が船を漕いでいる
のが見えた。
「俺の部屋の押入れにあるから勝手に出してくれ。……なあ実乃梨。平気なのか? その、
 遅くなっちまってさ」
 竜児の部屋から戻ってきた実乃梨は、大河にタオルケットを掛けつつ、竜児にクルッと瞳だ
け向け、照れたように微笑む。
「おーよ! ちゃんと家に連絡しといたからヘーキだぜ。竜児くんと一緒だ〜って言ったら、
 頑張れよ〜! とか言われた。ったく何頑張るんだか……少しは娘のこと心配しろって感じ
 だよ」
 卓袱台に寝そべっている大河をゆっくり寝つかせて、実乃梨はミルクを一気に飲み干した。
「それだけ信用しているってことだろ? 頑張れってのが、意味不明だが……おしっ! こん
 なもんかな? どうだ実乃梨?」
 偽乳パッドを実乃梨に渡し、竜児も卓袱台の上のミルクを飲む。
「どれ?……おー……すごい。こりゃあまさしく乳だぜよ!……竜児くんいつの間にこんな技を」
 空のカップを卓袱台に置いて、偽乳パッドをプニプニ弄くる実乃梨。竜児は不意に接近した
実乃梨の頬の熱を感じる。あのなんとも言えない匂いも漂う。心臓の鼓動が高鳴る。
「……この前、実乃梨の……触らせてもらったからな……」

 ガタッと、大河が跳ねる。確実に跳ねた。その証拠に大河の足が卓袱台の足にぶつかり、無
音の中、実乃梨が使った空のカップが畳に転がる。
「たたたっ大河? あんた起きてんの?」

 しかし返事はなく、代わりにグーグー……ワザとらしいイビキが、大河から発せられる。起
きてるだろ……確実に。二人は顔を見合わせる。

「ねえ竜児くん、本物のおパイはもっと柔らかいんだぜ? もう一度私の触ってみねーか?」
「グッ……グーグー……」
大河は寝返る。小さな身体が二回転する。
「おうっ!……い、いいのか実乃梨……触っちまっても?」
「大河のためなら、この不肖櫛枝! 乳のひとつやふたつ、差し上げる事をも厭わねえ!
 カモン!竜児!」
「そ、そうか、そんなに気合いれなくても……じゃあ、遠慮しねえよ。実乃梨……脱いでくれ」
「ググッ!……グーグー……」
「御意。好きなだけ揉んどくれい! さあさあさあ!」
「おうっ! いただきます!」
 すると、

「ウキャー!ダメダメダメ!みのりんダメー!」

 大河は飛び跳ねるように起き上がるが、竜児と実乃梨は、二人してもちろん制服を着たまま、
大河を覗き込んでいた。
「やっぱり大河、起きてたんじゃん。ダマしてゴメンよ? ほら、竜児くんの最高傑作『偽乳
 パッド』。完成したよ」
「ん〜! みのりんのいじわる〜! ビックリしたよ〜!」
 大河は実乃梨に抱きつく。そうして翌日の金曜。無事にプールの時間を迎えるのだった。
そのあまりにも超自然な『偽乳パッド』の出来栄えに、感動に頬を赤らめた大河曰く、嫁に行
くときは必ず持っていく……なのだそうだ。

 ちなみにその翌日の土曜日、は、女子ソフトボール関東大会が控えていた。


 そして時は流れ、夏休みになる。


***



 ──緊張していたのだ。

 自慢の右腕が、疲労で痙攣している。マウンドへ向う前にベンチでアイシングしたが、文字
通り焼け石に水。全く震えが治まらない。

 実乃梨は顎を上げ、蒸し暑い七月の夏空を見上げる。視界には突き抜けるような青が広がっ
ており、空の奥行きは無限に感じられた。その先に必ずあるはずの無数の星々と人工衛星の存
在が信じられないほどに。

「あと一人……」
 視線を正面に戻す。そして意識も現実に戻した。六月の関東大会を制した大橋高校女子ソフ
トボール部は、たった今、夏休み初日、インターハイの初戦を闘っている。試合は既にサドン
デスに入っており、控え投手のいない実乃梨の投球数は、既に三桁の大台を超えていた。
 砂ぼこりの匂いがする風は、熱い。

 シャーっ! と、気合いを入れる相手選手がバッターボックスへ向かう。
 ……負けるもんかっ、と、実乃梨も叫ぶ。
「いっっくぞぉ──────っっ!!」
 実乃梨は、投球態勢に入る。大きく振りかぶり、投げた。

 キンッ!

 鋭い打球を目で追う。ファール。ボールは三塁側の外野席まで飛んだ。一瞬、三塁ベースの
同点のランナーを見つめる。
「ふぅ……」
 あぶなかった。実乃梨は試合前に恋人から貰ったハンカチで汗を拭う。

 息を飲み込む。乾いた喉が痛かった。

***

「ね、ねえ、竜ちゃん! やっちゃん緊張する〜っ! おしっこしたくなっちゃった〜!」
「それぐらいガマンしろ。実乃梨の勝負どころだ」
 握る拳に感覚がなくなる竜児。観客席の竜児でさえ、インターハイの、全国レベルの空気に
呑まれる。実乃梨が、投げる。
「あ!……っぶない……またファール……みのりん……」
大河も緊張で、隣に座る北村の腕に絡めた手に、力が籠もる。

***

 マウンド上の実乃梨は2ストライクと追い込んだが、精神的に追い込められたのは実乃梨。
バッターにコースが読まれている。投球癖を相手は知っているのであろう。
 さっきの一球は、ヒットになってもおかしくなかった。もうどこへ投げればいいのか、
……わからない。

 そこでキャッチャーが球審に声をかけた。
「ターイム!」
 マウンドに全メンバーが集まってきた。無理に作った笑顔が痛々しい。
「櫛枝部長!打たせていきましょう!私たちがバッチリ守りますから!もし同点になっても、
 必ず次の回に打ちまくりますから! なっ、みんな? よしっ! しまっていこー!」
 オーッ! 円陣が解かれ、それぞれがポジションに戻っていく。
「みんな……ありがとう……うん、みんなの、元気玉だねっ」
 尽き果てたはずの力が右腕にみなぎる。湧き出す。しかし実乃梨は分かっていた。

 次が、最後の一球……


 バラバラになりそうなカラダ。次の回は投げられない。

 渾身の力を、みんなの想いを込め、実乃梨は、ボールを放つ!しかし、


 ───その後の記憶がなかった。

***

「知らない天井……か」

 目を覚ました実乃梨は、白い天井、四角い蛍光灯を見て、今いる場所を理解するのだった。
見回せば、白いシーツ、白いカーテン、何もかもが白く、衛生、清潔という言葉を思い浮か
べてしまうほど、基調が統一されている。
 窓の外で哭く蝉の声をぼんやりと聞く。その音に、女性の声が混じる。

「櫛枝さん、目が覚めました?」
 優しい声のする方へ首を傾けると、若い看護士の女性が、点滴を外していた。もう大丈夫で
すよ、と言いながら。
「はい。あの……試合、どうなりましたか?」
「……負けちゃいましたよ。ここは球場近くの病院です。選手の皆さんは彼氏さんかな? に、
 気を使って、先に宿舎に戻られました。あ、彼氏さん、呼んできますね」

 しばらくして看護士に呼ばれ、竜児が不自然に鼻を弄りながら,病室に入ってきた。よう、
と一言。いますぐ抱きしめて欲しかったが、実乃梨は我慢した。

「ゴメンなさい、竜児くん。……ねえ、どうしたの? 鼻」
 竜児、はベッドサイドにあるスツールに腰掛ける。心配そうだった表情が緩む。
「ああ俺、消毒液の匂い。苦手なんだ。てか実乃梨。もう大丈夫なのか?」
 無意識だったのか、実乃梨に指摘され慌てたように鼻から手を離し、そのかわり髪を優しく
撫でてくれた。
「うん。竜児くん。全然大丈夫……ふぅん、竜児くんこの匂いダメなんだ。あー、でもわかる
 かも。なんかクサイよね?」
 竜児は首を振る。そういうのじゃなくて、という感じに。
「……俺が、ずっと小さい頃、大橋町に引っ越してくるずっと前、泰子が長い間病院に通って
 いたことあるんだ。どんな病気だったのかはいまだに知らねえけど、病院の、この空気を吸
 うと、なんか心臓が妙にドキドキしたり、喉元が熱くなったり、……不安になっちまうんだ。
 あの頃、不安で、怖くて、本当に昔からずっと、ずーっと、怖かった。泰子が死んじまった
 らどうしよう……って。それがすっげー恐怖だったって思い出すんだ……俺んち、母子家庭
 だし、泰子しかいなかったから、もし死んじまったら一人ぼっちだ。そんなふうに思えて、
 ずっと怖くて恐ろしくっ……おうっ! どうした実乃梨? 苦しいのか?」
「違うよ竜児くん!……泣いて、るんだよ……」
 ショックだった。実乃梨はいままで自分の夢のために頑張ってきた。それは竜児にも伝えた。
しかしそれは、自分の夢を笑った中学の担任、リトルリーグの監督、そして親、弟を見返すた
め、悪くいえば復讐のため、自分の意地、プライドのためだった。それに気付いたのだ。
 竜児と付き合ってから、ソフトボールでの成績が良くなった。応援してくれる竜児がいて、
嬉しくって、力が湧いて来て、インターハイ初出場も決めた、が、
 ──もしかしたら私は竜児を利用したのかもしれない。竜児のなんとなく曝け出した現実を、
告白をそう感じて、恥ずかしくなった。罪悪感にかられたのだ。

 感情が溢れて来た。感情が溢れると、……涙も溢れるのだ。


「なんで俺の話で実乃梨が泣く必要あるんだ? 俺のせいか? すまねえ、実乃梨、頼む、
 泣かないでくれ。おまえが泣くと、俺も辛い……」
 あくまでも優しい竜児。実乃梨は、決めた。決心した。いままでの17年。そして、これか
らのずっとを、私を、実乃梨のすべてを、竜児に捧げたいと。それは不遇な竜児への同情なの
かも知れない。でもいい。よかった。竜児と同じ情を感じたい。苦しみを、恐怖を分かち合い
たい。同じ場所に行きたい。同じ風景を見たい。ずっと、一緒に。私が、私でよければ、竜児
を愛したい……と。

「だって……いい。平気。もう、泣かない。大丈夫。泣いちゃってゴメンなさい……ねえ、
 竜児くん。グラウンドに行かない?ね、行こっ」

 実乃梨は手を差し伸べ、竜児はその手を握る。

***

 ふたりが戻って来たグラウンドは、すでに誰もいなかった。竜児と実乃梨はずっと手を繋い
だままだ。
「甲子園だと砂持って帰るんだけどなっ」
 そういう実乃梨は、砂を集める変わりに、瞳を閉じて、深く風を吸い込み、竜児も真似をす
る。竜児はただ傍にいるしか、今はできなかった。
「実乃梨」
 黄昏が眩しい。視界の中の実乃梨が、そのオレンジ色の光の中に溶けていくように見える。
「……」
 呼びかける実乃梨に反応がない。そうか……泣く……のか、な? そう思った竜児の唇は、
意思を持ったように自然に動く。
「俺は……お前を太陽みたいだと思っていた……いつも、明るくて、輝いていて……いつも
 前向きなおまえに憧れた。今もそう思うんだが、俺は実乃梨と付き合う、ずっと前から、
 一年の時から、おまえに片想いしていたんだ」
「……」
 やはり実乃梨は黙ったまま、竜児の言葉を待つ。
「バカみてえな話なんだが、俺は自分の事を月に例えたんだ。そう思っているんだ」

 ……だから……と継ぐ竜児。逆光で、実乃梨の表情は伺えしれない。
「だから、太陽が沈んじまっている時は、月が頑張んねえといけねえと思うんだ。お前が沈ん
 でいる時には、俺がお前を照らす月になる」
 口べたな竜児からの精一杯の魂を込めた言葉を受け、実乃梨は震えた。繋いだ手の指を絡める。
「竜児くん……私は大丈夫。私なんか……心配しないで。……私が太陽なら、私も、貴方を照ら
 してあげたい。ずっと……キラキラキラ……って。傲慢かもしれないけど……貴方を守って、
 あげたいの」

 竜児も震え、鳥肌が立つ。

 グラウンドの男子と女子、二つの影は、一つに重なる。

***


「あの……もしかして竜児くんのお母さん、ですか?」
 グラウンドのド真ん中で抱き合う二人を指を咥えて見ていた泰子は、アラフォーと見受けら
れる女性に声をかけられ振り返る。
「ふえっ? そ、そうですけどぉ……え〜っとぉ、ん〜っとぉ……あのぉ……どっかで会いし
 ましたっけぇ?」
 困惑する泰子。すると女性は、太陽のような笑顔を見せ、
「いいええっ、初めましてなんですっ! やっぱりそうっ! ああっそう!……あの、わたく
 し、櫛枝実乃梨の母親です」
 自分の胸をグイグイ指さす実乃梨の母親。泰子は眉はハの字になり、自分のこめかみに指を
当てる。
「くし……み……あああっ! みのりんちゃんのお母さ〜ん! 初めまして〜っ! やっち
 ……泰子ですぅ」
 すぐに気付き、ペコリと何度もお辞儀する泰子なのだが、想定外の実乃梨の母親との遭遇で、
困惑する。とりあえず喉まで出かかった『やっちゃん』は、飲み込んだ。変な事言って、
 竜児に迷惑かけたくなかったのだろう。実乃梨の母親は語り続ける。
「いつもウチの実乃梨が仲良くして頂いてるようで有り難うございまっす〜!……あら、お姉
 ちゃんったら、なかなか竜児くんから離れないわね……」
「うちの竜ちゃんこそ、お世話になってますぅ〜……むぅ〜っ、いつまでチュ〜してんのかな、
 竜ちゃんたらっ……みのりんちゃんのお母さん、ごめんなさ〜いっ」
 抱擁中の二人から視線を戻し、実乃梨の母親は、泰子が吹っ飛ぶほど手を横に振る。
「と〜んでもないっ! うちの実乃梨は、ほ〜んっとに、今まで男っ気なくて。そっちのケが
 あるかと心配したくらいなんですけど、竜児くんのおかげで……やっぱり女の子だったのよ
 ねぇ」
「あの〜っ……あの子達、ず〜っとチューしてますけどぉ……それ以上はまだですよねぇ〜?
 ……ご存知ですかぁ?」
 泰子のストレートな質問に実乃梨の母親は、額に指を当て、
「っん〜、どうなんでしょうか……この前たしか、竜児くんがウチに来られたときはペッティ
 ングしてましたわ。ペッティング」
 そう言いながら、ワシワシと自分の肩を抱くみのママ。
「ペッティングぅ?」
 聞きなれない横文字に頭の上に、ハテナを浮かばせた泰子。するとみのママは鼻息を荒立たせ、
「やだわ泰子さんったら。ペッティングっていったら、Bのことですわ、Bっ!……Bとか20年
 振りに言ったかしら……」
 死語を口にしてしまい複雑な表情になるみのママ。泰子といえば、クネクネ身をよじり、
「え〜っ! てことは、え〜っと、えっと……次はE〜じゃな〜い! E〜気持ち〜☆きゃ〜ん
 竜ちゃ〜んってば……今度キッチリ『きょーいく』しなきゃあ」
「……あながち間違ってないですけど、泰子さん。Bの次はCですわ。C……大丈夫です。先日
 実乃梨の財布におゴムを入れときましたの。おゴム。ご安心くださいませ。おほほほ……それ
 より竜ちゃんっていい呼び方ですね。竜ちゃん……ですか」
 ふ〜む……と、唸るみのママに、泰子はニッコリスマイル。
「みのりんちゃんのお母さんもっ、ぜ〜ひっ、竜〜ちゃ〜んって、呼んであげてくださいよ〜!
 にゃはぁ☆」
「いっ、いいんですか?呼んじゃっても!」
 キラッと、目を輝かせるみのママ。そして、
「もっちろ〜んっ! じゃあ一緒に練習しましょ〜☆せぇのぉっ」
 そんなゆるい保護者たちは声を揃え、
「「竜〜ちゃ〜んっ!」」

 と、叫ぶ声に、答える声があった……

「なんだよ……ったく……」
「ちょっとちょっと!! いつからここにいたのさ!!」
 いつの間にか、二人に発見され慌てふためくママ軍団。盛り上がりすぎて全く気が付かなかっ
たのだ。ひゃー! とか、ふえ〜☆とか、奇声をあげる。
 そのママたちの髪には母の日に贈られたオレンジ色のヘアピンが、それぞれ光り輝きながら、
揺れていたのであった。



129 ◆9VH6xuHQDo sage 2009/12/20(日) 23:13:15 ID:bt6Y4WM5

以上になります。

お読み頂いた方、有り難うございました。
次回、スレをお借りさせて頂くときは、最終回(沖縄前編)を投下させて頂きたいと存じております。
半年近くお邪魔させて頂きましたが、あと2投で終わらせて頂きます。
またこの時間帯をお借りするかもしれません。
失礼致します。

119 ◆9VH6xuHQDo sage 2009/12/20(日) 22:56:47 ID:bt6Y4WM5

『みの☆ゴン』
前スレからの続きを投下させていただきます。9レス分(126〜134)です
スレが変わりましたので、再度注意書きをお読みください。

内容  竜×実です。その分、カップリングが原作と変わっています。虎×裸、亜×春 兄×元会長など。
時期  1年生のホワイトデー 〜 2年生の夏休みまでです。
    今回は6月上旬〜夏休み初日という設定です。
エロ  今回はありません。本番は、次の次回の最終回になります。
補足  内容、文体が独特で、読みにくいかもしれません。
    ご不快になられましたら、スルーしてください。
    また、続き物ですので、ここからお読み頂いきますと、ご不明な点が多いと思います。
    
宜しくお願い申し上げます。

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