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254 みの☆ゴン135〜147 ◆9VH6xuHQDo sage 2009/12/27(日) 21:30:34 ID:ZdDyZYXv






 この初恋は、実った。

 苦節17年。長い道のりであった。高須竜児との恋は順風満帆。
 これから櫛枝実乃梨は両想いの竜児との沖縄旅行。他にも約四名いるのだが、めくるめく
二泊三日のドキドキラブラブアバンチュールなのである。しかし実乃梨は当日の朝五時、自
宅の玄関でいきなり出鼻を挫かれるのであった。
「お姉ちゃん、いってらっしゃ〜い! 忘れ物ない? ガッツよ、気合いれてね! 対竜児
 用、悩殺ビキニちゃんと入れた?」
「そんなの持ってねえし、持ってたとしても持ってかねえよ! お母さん朝っぱらからエロ
 いこと言うの禁止!」
「竜児さんはいいひとだ。俺的には義理の弟として毎月教育費払いたいくらいだ!ガンバれ
 よバーニィ! 俺も甲子園からエールを送る!」
「変な電波送るんじゃねえよ、みどり! だいたいおめーはレギュラーじゃないじゃん!
 生意気なこといってんじゃねーよな!」
「竜児くんによろしくな。今日のお前は……とても綺麗だ。うぐっ」
「……ありがとうお父さん。……てか結婚式じゃないんだから、泣かないでおくれよ! も
 〜、みんななんなのさ? おわっ、もう行かなきゃ! じゃあね! アリーヴェデルチ!」

 実乃梨はお節介なファミリーに別れを告げ玄関のドアを開くと、まだひんやりと涼しさの
残る夏の朝の風が実乃梨のまぶたを冷やしてくれた。家の中にいてはわからなかったが、天
気は快晴。遠い空には早くも入道雲が湧きあがり、今日の暑さを予感させる。
 暑くなるころには、多分もう沖縄についているだろう。そんな想いを巡らすだけで口元が
緩むぐらいに楽しみだった実乃梨は、待ち合わせ場所の大橋駅へと急ぐ。まだ集合時間では
ないが、多分一番早く来るであろう竜児に、……『おうっ! 早いな実乃梨』『ううん竜児
くん、今来たとこ?』……が、やりたかったのだ。
 純白のワンピースを纏った実乃梨はその効果によりキャラが豹変、乙女全開になっている
のである。昨晩なんかも鏡の前で独りでファッションショーみたいにクルクル回ってみたり
していたのだ。その浮かれポンチな姿を家族に見られていたというのは、帰宅後に聞かされ
ることになるのだが。
 慣れないヒールに、ロングスカート。せっかくのおめかしもズッこけたら竜児との関係は
進展どころか破局だ。注意深く駆け足でなんとか駅まで辿りつき、思惑通り集合場所
にはまだ誰もいなかった。そこで気を緩めしてしまった実乃梨はヒールを階段で踏み外す。

「あっぶねえ!」 
 バランスを崩し、転びそうになるが、そこに実乃梨の王子さま、竜児が降臨し、腕をしっ
かり掴んでくれていた。
「おはよう実乃梨、怪我なかったか? 沖縄だからって、はりきって慣れねえヒールとか履
 いてくるからだろ……まあすっげえ、似合ってるけどな……おうっ! おまえ靴擦れして
 んじゃねえか……ほら、見せてみろ」
 実乃梨は竜児に肩を借りて駅の構内に設置されたベンチに座らされ、白いハイヒールを脱
がしてもらう。……こんなことを好きな男子にされちゃうと、フツウの女の子はデレてしま
うのだ。

「だってよ〜。ちっとでも竜児くんの前で可愛いくしたかったんだよ〜」
「……」
 竜児は実乃梨の指に絆創膏を貼ってくれているが、うつむいたまま、なぜか耳を赤くした
まま、返事はなくノーリアクション。実乃梨はなんとなくデレ損した感じになり、拗ねるの
であった。つまり竜児に甘えるのだ。


「も〜……それが好きな子にする態度〜? ……竜児くんのイケズゥ」
「おうっ! なんで急に機嫌悪くなるんだよ? そして足バタバタさせんな。うまく貼れね
 え……」
 竜児が足の甲を掴むと、大人しくなる実乃梨だった、が。
「おうっ!」
「なんだそれは……」
「おうっ!……竜児くんのマネ。おうっ!」
 いきなりモノマネされ、竜児は少し膨れっ面になり、よく見れば、顔全体が赤かった。
「……やめてくれ。ほら、絆創膏貼ったぞ。なんかお前こそなんか態度おかしくないか?
 なんだよ。俺のこと守るって言ったのは一体誰だよ」
 竜児は立ち上がり、実乃梨をジロリと見下ろす。背後には通勤する通行人が数人と通り過
ぎている。
「な! なによ、竜児くんだって……私のこと愛してるって言ったくせに……」
「ばっ!……駅のド真ん中で何言ってんだよ! 照れるじゃねえか!」
 竜児は真っ赤な顔を両手で挟み、身悶える。思いのほか声のボリュームが大きかっかよう
で振り返る通行人もいた。
「ふ〜んだ。駅の中心でも世界の中心でも、愛を叫んでくれなきゃいやだっ!」
「そんなところで叫ばなくても俺はおまえのこと愛してるって! いちいち言わせないでく
 れよな!」
 一般人ならデレデレ過ぎてとても目も当てられない。同じように待ち合わせしているグル
ープの数人が観客化し苦笑いしているのにも気付かない。そんな、どピンク空間を形成して
いるバカップルに語りかける猛者が現れた。

「な〜に朝から痴話喧嘩してるんだ……恥ずかし過ぎて、なんかのドラマの撮影かと思った
 ぞ……」
 北村佑作がお手上げ状態のように首を振っていた。その隣には自分の身体ほどのトランク
を引きずっているミントグリーンのワンピースをお人形さんのように着こなす大河の姿があ
った。
「みなさまおはようございます……ご機嫌うるわしゅう……」
 などと他人行儀なご挨拶。ごんぶと毒蛇を一本飲み下ししようとして喉に詰まらせた虎み
たいな瞳を泳がせ、実乃梨から目線を反らしていた。それを見て、はたと正気に戻る実乃梨
は大河に救命処置を施すのだった。
「た、大河おはよう! お見苦しいとこをお見せしちまった! 今見たことは忘れておくれ!」
 ガクガク大河の肩を揺さぶるが、本物の人形のように大河は微動たりともしなかった。あ
のみのりんが……大河的にはそんな感じなのであろう。すると実乃梨は竜児に振りかえり、
パシパシ竜児の肩を引っ叩き、八つ当たりするのであった。
 引き続き行なわれていくイチャイチャぶりに、やれやれと北村は諦めたように腹の底から
二酸化炭素を絞りだす。
「まあ……それはさておき、まだ集合時間よりだいぶ早いよな? 偉いぞ二人とも。俺は先
 にみんなの分の切符を買ってくるとしよう。逢坂一緒においで」
 ぎくしゃくと北村の号令に従うメカ大河。実乃梨も一緒に切符売り場へ向おうとベンチか
ら立ち上がるのだが、竜児はハッと思い出し、実乃梨の手をつかむ。
「なあ実乃梨。俺たちSuica持ってたよな? 川嶋のストーカー追跡したときのやつ。今日
 持ってきてるか?」
 進めた足をピタッと止め、実乃梨は回れ右。
「おおっ、そうだったね竜児くん。たしかお財布の中に……あれ? なんだこれ?」
 ポーチから取り出した財布の中に、実乃梨はなにやら見慣れない半透明のカラフルな色を
した正方形のパックを見つける。
「おうっ、なんだそりゃ? キャンディー? いや、輪ゴムか何かか?」
 竜児も覗き込み、その謎のパックを見つめる。それには実乃梨の母親の文字で、『ママよ
り』とサインペンで書いてある……しばし二人はシンキングタイムに突入するが、そこに割
り込む声がした。



「ちょっとちょっと実乃梨ちゃん! そんな恥ずかしいもん早くしまいなって! 早く!」
 たった今到着した亜美が、小さな顔を半分隠すようなサングラスをわずかにずらし、実乃
梨の手のひらの上に鎮座するゴム臭かもし出すパックを見るやいなや両手バタバタの大騒ぎ。
 それに動揺した実乃梨は訳もわからず大至急財布に戻すが、亜美は取り乱したまま、コッ
ソリ実乃梨に耳打ちする。
「ひえぇ、なになにあーみん、おはよう……え? これ? これが? マジで? うおおお!」
 実乃梨が財布の中から取り出したのは、半透明の袋に入った避妊具。つまりコンドームで
あった。ギャーギャー実乃梨も亜美と抱き合って騒ぎまくるが、実乃梨は放棄するつもりは
ないようで、キッチリ財布に閉まったままだ。
 そして、
「ぐっも〜に〜ん☆久しぶりじゃ〜ん! みんな元気だな〜! なに騒いでんの?」
 集合時間ぴったりに来たのに一番遅くなってしまった春田が改札口で回転していた。
「おうっ春田なんだその髪はっ! パツキンじゃねえか!」
「やや? 春田くん、あんたそりゃあ、超サイヤ人かね?」
 混乱状態から完全復帰した実乃梨は、クリリンのことかーっ!!! っとド金髪の春田に
定番のツッコミを入れるのだが、
「そーそー、世界ふしぎ発見! 俺も好きなんだよ〜☆ミステリーハンターin沖縄!」
「まてまて春田。違えよ。スーパーまでしか合ってねえぞ」
 いまだにコンドームの正体を知らない竜児だったが、なんとなく妖しげな空気を読み、話
題を変えるのに成功するのだった。

そんなこんなで、沖縄ツアー御一行は全員集合。仲良く空港へと向うのである。

***

「この鉄の塊が本当に空を飛ぶのか……ズバリ人類の叡智だな」
 空港に到着した六人は無事にチェックインを済ませ、機内に乗り込んでいた。ただ、座
席が三人づつに別れてしまい、こちらは男性陣。北村は窓ガラスにへばりつき暖気運転中
の飛行機のエンジンを興味気に見入っている。おおーっとか言いながら。
「……狩野先輩なんかは、いつかロケットに乗るんだろ? すげえよな……おまえは宇宙
 に行かなくていいのか?」
 ジロリと振り向く北村のおデコは、窓ガラスに張りついていたせいで赤くなっている。
「なんだ高須、意味深な発言だな。俺には逢坂がいてくれる。会長を応援しているがそれ以
 上はない。それより春田はどうなんだ? 俺の幼馴染と」
 前の座席についているディスプレイ画面を動かそうとコントローラーをグニグニしていた
春田は、飛ばないと動かないらしいという情報を北村にもらい、そのままニヤケ面を向ける。
「おりぇ? フヒヒ聞いてくれる〜? 昨日亜美たんから電話あったんだよ〜。で、『わー
 亜美ちゃんじゃーん、明日たのしみだね〜』って俺が言って、亜美たんが『うっふ〜ん、
 春田ちゃんはぁ〜、頼りになるよね〜』とか言って、そんでいきなり『旅行中、お荷物持
 って欲しいの〜、んでぇファンから守るボディーガードにもなってぇ〜ん。カチョイイ春
 田ちゃん、おんねがぁ〜い』って頼まれたからさ〜! もうラブラブって感じなんだよ〜☆」
 竜児はちょっと考えて、
「……なんかおまえの中の川嶋像には妙な補正がかかってんな……てか、川嶋にいいように
 使われているだけじゃねえか? ……まあいい。とりあえず朝飯でも食おうぜ。おにぎり
 持ってきたんだ」
 竜児はテキパキと荷物に詰めてきた風呂敷包みを開き、一人に二つずつほいほいと渡して
いく。


 一方、女性陣。
「おにぎり? やだ、感激かも! 朝から飲まず食わずだったんだあ!」
 と実乃梨からおにぎりを手渡されて目を輝かせる亜美は、目以外にもシンプルなタンクト
ップとデニムに包んだその八頭身のスタイルで、今日も凄まじく輝きまくっていた。いただ
きま〜す!と、おにぎりに喜んでかぶりつく。
「ふつうにおいしいじゃん! 実乃梨ちゃんってぇ〜。いいお嫁さん、捕まえたよね〜?」
 大きな瞳をくるん、と光らせ、亜美は実乃梨を揶揄するが、
「ばかちー馬鹿なの? 死ぬの? 竜児じゃなくて、みのりんがお嫁さんでしょ? あんた
 本当にどうしようもない馬鹿ね。どうしようもなく馬鹿ばかちーね」
 口をモグモグさせながら大河が、唇に海苔をくっつけたままのチワワに因縁をつける。
「冗談も通じないやつに馬鹿って言われたくないわね! フンッ!……それよりさ〜、実乃
 梨ちゃんさっきのア・レ・だけど。大胆よね〜、ヤル気まんまんね〜! あっは〜?」
 その瞬間、ブッ! と実乃梨の口からなにかが発射された。それはまるで弾丸のように、
真横の大河の額にコツーン! とブチ当たる。撃ち抜かれたでこを押さえて大河は呻き、顔
を伏せ、その股間にぽとりと落ちたのは種だ。実乃梨が噴きだした梅干の種。

「ごっ……ごめん大河! ていうかさあ……あ〜みん!」
 大河に謝り、亜美を叱り、実乃梨の頬は一気に高潮していく。声もひっくり返っている。
「ごめんー」
 と言いつつ、亜美は肩をすくめるが、反省の色は全くない。
「ごめんじゃないよお? 恥ずかしいもん早くしまえっていったのあーみんじゃんよっ!」
「おねがいみのりん、落ち着いてっ……まずはこの種をなんとかして」
「おっと、櫛枝シードデスティニーが」
 大河は股間に落ちた梅干の種を実乃梨に手渡しで返しつつ、実乃梨に誠実な顔を向ける。
「ねえみのりんアレってなあに?なんか持ってきたの?」
「えっ! ……や……それ……は……そ、の……コッ、コッ、コッ……!!」
 実乃梨はニワトリ化し、卵を産み落としそうなほど真っ赤な踏ん張り顔になって、肘掛け
を乗り越え、亜美の膝の上に座り、じたばたと悶えている。尻の下で亜美が苦しそうに「重
い……」と呻くのにも構わず。

「コン……た、大河……な、なんくるないさ〜」
「やだぁ〜実乃梨ちゃんってばあ、タイガーだけ知らないの可哀想でしょ〜」
 にっこり、と微笑み、亜美は実乃梨を見つめたまま、大河に対して甘い声で耳打ちする。
「え? なにばかちー?……ふみゅっ! こ? 今度産む? コンドッ……ぶーっ!!」
 今度は大河の口から何かが発射された。しかし大河のおにぎりはコンブだったので、今度
の凶弾はゴマであった。ペンキで塗ったように赤くなって、むふーっ!っと鼻息一発噴出す
る大河の横には、ゴマのショットガンを食らった亜美が、ワナワナとおしぼりで顔を拭いて
いた。問答無用、斬捨御免。武力衝突寸前と思われたそのとき、不意に、
「おっ──」
 反対側に座っている北村が上げる声が聞こえた。
 窓の外が動きだし、窓際の亜美が、そして大河と実乃梨が顔を外に向けた。飛行機のエン
ジンが出力を上げ、唸りをあげた。テイクオフ。一気に景観をミニチュア化させていく。機
体を旋回して沖縄へと機首を向ける。
 そして実乃梨たちは一気に顔色を取り戻し、これからのバカンスに想いを馳せ、いつもの
ような目を輝かせる。
「う……っわーお! きたきたきましたー! まってろよー、沖縄〜!」
 六人を乗せた旅客機は海上に出て、青銀に輝く翼は太平洋の水平線と共に、きらきらと真
夏の太陽を浴びて輝いている。
 真夏の青空の下、ブルーに光る七月の窓景はどこまても遠く、眩く続く。

***


「ちょっとどういうこと? 支配人だして」

 空港から1時間。沖縄本島北部のリゾートホテルに送迎してもらった六人は、定員三名の
トリプルルームを2部屋で予約してあるのだが、ホテル側のミスでダブルブッキングされ、
フォースルーム一部屋しか空いてないとのことだった。慌ててフロントマネージャーが急遽
近くのビジネスホテルの二人用の部屋を確保したとのことなのだが、とても亜美的には納得
できるはずもない。せっかく沖縄くんだりまで来てビジネスホテルなんかに泊まれない。そ
んな感じで毅然とフロントマネージャーに突っかかっている。のだが、

「なあ仕方ねえだろ川嶋。フロントマンも代替のホテル探してくれたり頑張ってるし、こん
 なに謝ってるじゃねえか。仕方ねえ。そのビジネスホテルとやらに、俺が北村と一緒に泊
 まって……」
「あいわかった高須! 男同士、ふたりきりで朝まで語り明かそう! 全裸のおまえをガッ
 チリ俺が受け止めようじゃないか! バッチコイ!」
「……と思ったけど、やっぱり春田と……」
「ひゃ〜ん☆高っちぅぁ〜ん、やちゃちくちてぇ〜ん☆」
「……もとい、俺と実乃梨がそっちのホテルに泊まる。それでいいだろ? 実乃梨、行こう」
「おっ竜児くん、駆け落ちかい? かまわんよ、ボクは」
「マジで? ……高須くん実乃梨ちゃんゴメン。ママを通してホテル側にはそれなりの謝罪
 させるから。水着に着替えたらこっちのホテルのプラーベートビーチに戻ってきてね」
 そして竜児と実乃梨はホテルマンたちの最敬礼を受け、代わりのホテルへと向う。

***

「高須さま、櫛枝さま。ごゆっくりお寛ぎください」
 五分ほどで到着したホテルの門をくぐり抜け、レセプションハウスを通り過ぎ、アジアン
テイスト満天の、ただっ広いコテージの前に案内された竜児と実乃梨。
「ホテルっつーか、なんか普通に家……いや城に近いんだが……」
「わ、私たち、ここに泊まるの? 泊まっていいの? ほおおおお……竜児くんとりあえず
 部屋入ろうよ……チャービラサ〜イ……」
 恐る恐るコテージの重厚なドアを開けると、二人の視界に開放的な空間が飛び込んできた。
 室内にはオブジェや絵画が飾られており、上質な調度品がこれでもかとばかりに配置され
ている。前にテレビで芸能人が紹介していた海外高級リゾートのようなオリエンタルで温か
みのあるインテリアは、流れる時間がゆっくりと感じられた。そして正面の壁面は全面窓ガ
ラスになっており、そこから壮大な絵画のようなコバルトブルーの海が臨める。
 さらに庭へ出るオープンエアのテラスには、アカシアのデッキチェア、ガーデンテーブル、
10メートルほどのプライベートプールがあるのだった。

 ──つまりここは、超高級リゾートホテルの超スイートルームなのである。

「……最近の、ビジネスホテルってのは、こんなに豪華絢爛なのかよ……」
「すげー! 竜児くんすげーよ! 映画みたいじゃん! ……なんかの間違いなのかな?
 もしかしてドッキリ? 隠しカメラあったりして……」
 ただただ圧巻し、立ち尽くす場違いな高校生カップルは、さっきからドアをノックされて
いるのになかなか気がつかないでいた。先に気づいた実乃梨は幼な妻のように小走りでコテ
ージのドアへ向う。

「川嶋安奈さまより、お届けものです」
 とバトラーから、巨大な花束を受け取った実乃梨は、リビングに戻ってさっそくクリスタ
ルの花瓶に生けようとするが、そこにメッセージカードが添えられているのを見つける。

『大当たり! 自らビンボークジを引いた良い子へのサプライズプレゼントです。楽しんでね』

 ……そんなことが記してあった。川嶋安奈の直筆で。その芸能人のサインだけでもプレミ
アものだというのに、本当に泊まっちゃっていいのだろうか。しかし娘同様、美人のくせに
意地悪くて、素直じゃなくて……金持ちの考えることはよくわからない。


 メッセージカードをテーブルに置き、竜児たちがテラスに出ると、見渡す限りオーシャビ
ューの絶景ロケーション。優雅な気分に胸がキラキラときめく。しかしこんなムーディーな
場所に恋人と閉じこめられて、平常心でいられるはずもない。こういうところは、日常から
脱するところなのだ。

 改めて竜児が見た実乃梨の姿は無邪気な天使のように幻想的で、美しかった。コテージに
吹く潮風になびく髪先。純白のワンピースに少し日焼けした柔肌。物憂げな長いまつ毛。採
れたての果実のような唇……太陽のように光り輝く彼女に内燃機関がソーラー発電の竜児は、
理性の針を振りきり、欲望がムラムラ湧き出してしまう……のは少しも変なことではない。
とっても自然なこと。などと自分に言い訳をしたりする。
 そんな恋人のエロッ気も知らずに盆踊りみたいに、わっせろ〜い! とはしゃぎだした実
乃梨を後ろから竜児はガバッと抱き留めてしまうのだった。キスしたい……そう囁き、その
ままスイッチを切ったかのようにフリーズした実乃梨の顎を、そっと竜児は自分の唇の方角
へ……すると、

「ん〜、だ〜めっ! だめだよ竜児くん。竜児くん一回キスしたら長いんだもんよ。とっと
 と水着に着替えてみんなのとこ戻ろ? ね?」
 と、竜児をなだめる。そして少し残念がる竜児に、「……あとで」と間髪入れずに照れな
がらもフォローを入れてあげるのだ。

 キスを窘められた竜児は素直に水着に着替えを始めるが、気分以上に盛り上がってしまっ
た身体の一部をなだめるのに、しばしの時間を要するのであった。

***

「おーい!高須ー! こっちだぞー!」
「みっのりーんっ! こっちこっちー! だっこー!」
 ピヨーンとジャンピングだっこでしがみつかれ、バランスを崩した実乃梨は失敗した雪崩
式スープレックスのように大河を抱えたまま真っ白な砂浜に転がる。
「おうーっふ! よーしよしよしよし! 大河〜! いい子にしてたか〜い?」
 その横で引き締まった肉体を競パン一丁で晒している北村は、沖縄の眩しい景観にいい感
じに溶け込んでいたが、世の中上には上がいるものである。
「待たせてすまねえな北村、春……おうっ春田! ずいぶん派手な水着だな! 布が少な
 いというか、なんというか……」
 裸族の称号を冠する北村を差し置いて、背後から躍り出た春田はハイレグV字ブーメラン。
「いえ〜す!亜美たんのビキニに対抗してブ〜メラ〜ン!あれ?そういえば亜美たんは?」
 辺りを見回すと、ビーチサイドに繁るヤシの実の下にちょっとした人だかりができていた。
そこで「本物だ〜っ」だの、「かわいいー!」とか、「写メとりた〜い」などと大騒ぎする
女子中高生たちに囲まれてしまっているのは亜美であり、亜美は写メは丁寧に断りつつ、
「え〜、よく気付いたねー? 応援してくれて、みんなありがとー?」とうるうるチワワモ
ード、愛想よく握手やサインに応じている。
「川嶋、本当に芸能人なんだな……」
「私も普通にばかちーのこと知ってたしね。本性を知らないって幸せなことよ」
 大人たちはその大騒ぎを不思議そうに首を傾げていたが、中高生にとって、川嶋亜美とい
えば、憧れのド真ん中そのものの存在なのだった。
「あああっ! そーだ俺っ、亜美ちゃん救出しなきゃあっ! ぼでぃ〜が〜ど☆」
 遅ればせながら亜美との約束をピコーンと思い出す春田。ビキニ姿に見蕩れている暇はな
い。緊急出動、春田はゴムひもで結わいたチョンマゲをゆんゆんさせながら亜美に駆け寄っ
ていく。
「ねー、亜美ちゅわ〜ん! 高っちゃんとかとパラセーリングしよ〜よ〜!」
 女子中高生の結構な人数に膨れ上がる人だかりを春田は強引に中央突破。変質者と間違わ
れ、「亜美ちゃんを守れ!」という少女たちに多少過激な歓迎を受けてしまうのだが、亜美
の腕が春田に腕を絡み付くと同時に一気に事態は沈静化し、
「ゴメンなさ〜い。今日はプライベートだし、お友だちと一緒なんだ! またね?」
 なんとか脱出に成功するのだが、春田は亜美にゴツンと叱られてしまう。
「春田くん! お・そ・いっ! ちゃんと約束通り私のガードしてくれるかな〜?……つか
 本当にパラセーリングすんの?」


***

「私泳げないし怖いからやだ。高い所が好きな者同士行ってくりゃいいじゃん」
「……なんか遠回しに悪口言われた気がするけど。タイガーは行かないのね? 実乃梨ちゃ
 んはどうする? 行く?パラセーリング」
「行く行くー! アイキャン、フラァーイ!」
 と実乃梨は大の字になってジャンプ。真夏の沖縄の太陽にも負けない眩しさで健康的な笑
顔を撒き散らし、竜児の心は一気に熱射病寸前に体温上昇、恍惚とさせてしまうのだった。
親友の実乃梨がパラセーリングに行ってしまうとのことで、しょんぼりする大河に北村は、
「なあ逢坂。よかったら俺とジェットスキーに乗らないか? 今回の旅行のために、おまえ
 と乗りたくて、特殊船舶の免許とったんだ。泳げなくても大丈夫だぞ。一緒に風になろう!」

***

「おーい! みっのり〜ん! こっちこっち〜! うわわっ!」
「すまん逢坂! 波に乗り上げてしまった! 思ったより難しいぞ!」
 波を乗り超え、小さくジャンプするジェットスキー。北村にしっかり抱き着く大河。ふた
りは颯爽と海面を切り裂き、煌めくスプラッシュを撥ね上げるのだった。そいつは竜児たち
のパラセーリングのボートと並走しているのである。はしゃいでいる大河の亜麻色の髪が靡
く。

「うふふ、大河楽しそうだ。でも平気かな〜? ちょっち心配」
「北村がいれば安心だろ。それよりも心配なのは上だ……上」
 ボートから大河に手を振る実乃梨。もう片方の手は竜児と繋がっているのだがその頭上。
先にパラセーリングでテイクオフしている春田・亜美組が空中散歩中にパニック状態に陥っ
ていた。

「あーもー! 春田くんしっかり! 落ちないから大丈夫だって! てか狭い! そんなに
 くっつかない……あんっ!……いやあ! もうっ、へんなとこ触んな!」
「ひょえ〜亜美ちゃ〜ん! ワザとじゃないよ〜! 結構高けーよー! おわわっ! 揺れ
 る〜! お股がひゅうううんってなるう〜!!」
 輝く郡青の空と紺碧の海のコントラストを優雅に楽しむ……余裕なんてのは今の二人には
皆無。悪戯な強風が、今までになく強くパラシュートを傾かせ、座席を揺らしていた。もち
ろんラブラブな雰囲気なんかはもってのほかである。

「あんた橋から飛び降りてくれたでしょ? なんでビビってんのよ!」
「それはそれ! これはこれ! なんだって〜、うひー☆」
「暴れちゃダメだって! 春田くん本当に落ち……ちゃ……った」

 ズバアーン! と盛大な水柱を立て水面にノーロープバンジーを決めたアホは、ドザエモ
ん寸前で北村に救助されるのだった。

***


「ビーチクまっくろ高っちゃん?」
「違えよ。ビーチフラッグスだ。いろんな意味でひでえ間違いだな」
 そんな死に損ない春田のミラクルな間違いを竜児は受け流し、凶悪な三白眼をギラつかす。
南国のパラダイス気分に自堕落した愚民どもをキングシーサー竜児が地獄の番犬と化し灼熱
の太陽光をプリズムのように跳ね返し、燃えろ燃えろ!地獄の業火に焼かれるがいいわ──!
 っと思っているわけではない。三人はランチ後の運動に、なにかしようと相談していたと
ころなのだ。そんでもってとりあえずビーチフラッグスをやろうと決まったところなのだが。

「ただ争っても面白くないな。高須に春田。いくらか握るか?」
「マジでか?……1000円ぐらいだと燃えるな……」
 しかし、春田からまたもやビコ〜ンと、大変な発言が飛びたした。
「ねー☆俺、勝ったら亜美たんからチューして欲しい〜☆フヒヒ」

「え"? わだす?」
 所在なさげに突っ立っていた亜美だったが、あまりの急展開にチェリー色の唇から訛りが
ポロリ。鳩が豆鉄砲を直撃されると、きっとこんなおもしろい顔をするのだろう。
「ふむ、春田にしては面白い提案だな! よし、勝者には祝福のキッス! その指名権だ!」
 北村の気随で我田引水なリーダーシップに黙ってられない亜美は、慌てて口を挟む。
「ちょっとちょっと待ってよ! そんなこと男子で勝手に決めないでくれる? みんな困っ
 て……困ってないじゃん!」
 亜美の思惑とは裏腹に、同意を求めた実乃梨と大河は亜美の傍らで頬を赤らめつつもウン
ウン頷いていたのだった。ここは日本。民主主義の基本は多数決である。だが亜美は当然そ
んなことでは納得できないのだろう、
「やだやだ、もっと他にすることねえの? ったくよー」
しかし、
「……バスガイドするマイケルジャクソン……」
「ひっ!」
 ぼそ、と大河が呪文のようにそう呟くと、亜美は全面降伏。承諾するのだった。

 多少強引だったがめでたく賞品も決まり、小さい砂山に枝を立て、男子三人は熱い砂浜に
うつ伏せになる。女子三人はゴール地点の先に立ち、スターターを実乃梨が務める。位置に
ついて〜っと叫ぶ。
 緊張する男子たちは言葉で牽制しだすのだ。

「う〜ひょ〜勝つぞ〜☆つっぱりの屁はいらんですよ〜!」
「屁のつっぱりだろ? 俺も負けねえぞ、春田」
「言葉の意味はわからんがとにかくすごい自信だ……いくぞ!」

そして……
「よーい!……ドン! って言ったらスタートしてくれぃ!」
 実乃梨のフェイントに三人は見事に引っ掛かり、顔からズッこけ砂に埋まってしまう。当
然沸き上がるブーイングの嵐。

「すまねえすまねえ! 今度はマジだ。よーい……ズドン!」

 一斉に立ち上がり、ゴールである枝に向かって三人は一直線に猛烈ダッシュする。ズシャ、
ズシャ白い砂を蹴り上げ、スピードをグングン増していく。竜児も決して足は遅くはないの
だが、現役のスポーツマン二人の背中が少しずつ遠くなる。特にエロパワーでフルブースト
の春田は手に負えない。たしかに体育祭のときに、人間ひとつ位は取り柄があるんだな! 
そう言ったのは竜児だった。実際、賞品になってしまった亜美も薄々このレースの大本命は
誰か理解していた節もあった。
「は〜、やっぱり春田く……春田くん? は……春っ! 違っ……うぎゃあああっ!!」
 春田は何を勘違いしたのか、一番早くゴールしたにも関わらず、枝をスルーしてダイレク
トに亜美に突進し飛びついたのてしまう。しかもズシャーン!っと、がっぷり四つのまま押
し倒し、辺りは盛大に真っ白な砂ぼこりが立ち籠めるのであった。他の連中は茫然自失。結
局、ゴールの枝なんかそっちのけで、亜美からじゃん拳グーでブン殴られている春田の哀れ
な姿を見守るのだ。


 北村はズレた銀縁眼鏡を直しつつ、体育会系らしく潔く負けを認める。
「亜美。そんなに春田をボコボコに殴らないで賞品のキッスをしてあげてくれ。枝は取り損
 なったが、一番早くゴール地点についたのは確かだしな」
 そう打開案を提示するのだったが、
「やだ。だいたい春田くんゴールの枝取ってないじゃん。それに私今襲われたし、バラセー
 リングの時なんかもあり得ないところいっぱい触られたし……ずえ〜〜ったい無理! フ
 ンッ!」
 ノックアウトした春田は、自業自得だとはいえ、ズタボロ状態。すると静観していた大河は、
「やだよばかちー、素直じゃないね。とっととこのアホとキスして召還の儀式終わらせちゃ
 いなよ。意外にあんたたちお似合いよ」
 まるでメイジのようにゴールだった枝を掴み、砂浜に魔法陣を描く大河。……五つの力を
司るペンタゴン。運命に従いし使い魔を召還せよ……とか呟きながら。
「……すまん、実乃梨。大河は何やってんだ? 解説してくれ」
「竜児くんこればっかしはスルーだぜ。知っているけどおしえてあげない」
「ほらほらばかちー。ほらほらー」
 枝先をクルクル回す大河。なんとなく本物のメイジに見えなくもない。
「なっ、なんなのよっ……あんたなんでそんなに違和感ないのよ。しかもいやに説得力ある
 し……わかったわよ。空気読んで、キッスすりゃいいんでしょ? もうっ」
「い〜よ〜、亜美たん、俺、魔法使えないし〜」
 そんなチワワの使い魔に同情する北村は、さらなる打開案を提示するのであった。

「……よーし! 次は女子の部だな! おまえたちスタートラインにつけ!」
 何でだよ! と、北村以外の全員が異義を申し立てるが、結局その強引なプッシュに女子
陣が折れ、渋々やる事になってしまい、順当に実乃梨が優勝し、クソ暑い夏空の下、熱い竜
児の首すじに実乃梨は軽くキスをするのだった。

***

「ただいま〜! 私。おかえり〜! 私」
「おうっ、なんだそりゃ実乃梨……なんか寂しくねえか、それ」
 六人で夕食後、今日は朝早かったし、明日も早くからクルージングの予定をしているので
まだ七時過ぎだったが、コテージに戻ってきた竜児と実乃梨。あの後もビーチバレーやらバ
ナナボートやらのアクティビティを満喫。遊びまくったのだった。

「いや〜! 竜児くん日焼け焼したね〜。日焼け竜児。あ、今の三宅裕司と掛けたのね。肩
 とか真っ赤っ赤じゃん! あーみんからもらった日焼け止め塗らなかったの?」
 やたらと高級そうな日焼け止めを指で摘んでプラプラさせる実乃梨。竜児は、
「なんか女もんって、なんとなく塗るの抵抗あってだな。……おうっ、皮剥けた……日ごろ
 肌焼かねえから、ヒリヒリする」
 すると実乃梨はカバンをゴソゴソとまさぐり、
「マキロンあるぜよ! 塗る? 滲みるぜ〜! 超〜滲みるぜ〜!」
グイッと竜児に差し出した。
「え? 超? ……なんかいやだな……」
 滲みると言われて喜ぶはずもなく、竜児は躊躇するのだった。
「だめだよ塗らなきゃ。明日の朝絶対後悔するって。滲みるのイヤならこれは? やっぱ、
 あーみんからもらったんだけど、ロクシタンのローション塗りなよ。これなら滲みない
 ぜ? ほれほれ、塗ってやっから竜児くん上脱いで!」
 言われるがままに竜児はTシャツを脱ぐ。実乃梨は竜児の日に焼けた生肌を直視し、一瞬
 戸惑うようにピクッと引くが、ベッドに座る竜児の背中に優しく触れる……

***


 熱い。実乃梨はドキドキした。
「……竜児くんの背中、熱いよ……明日はちゃんと日焼け止め塗んなきゃね」

 そっと、やさしく竜児の背中にローションを塗る実乃梨に、新しい感情が芽生え始める。
……好き……愛しい……違う。もっと……モヤモヤしたもの……はあっ、はあっ……何故
か息が荒くなる……とっくんとっくん、そんな心臓の鼓動に目線もくらっと揺らぐ……

「広い背中……竜児くんってやっぱ……オトコっ……なんだよね」
「どうした実乃梨? おうっ……おまえ……」
 ギュウッと実乃梨は竜児を背後から抱きしめていた。そして、唇を熱い背中に寄せる。
「ちょっとでいいんだ、ちょっとで……このままでいさせて……ねえ……ダーリン」
 ポッと炎が灯る。竜児の匂いを嗅ぐ。世界で一番大好きな匂い。私の一番大切な竜児の。

 暫くその心地よい体温を感じていると、竜児がゆっくり口を開いた。
「なあ、実乃梨……つけるか?」
「へええ? つ、つけ? にっ、妊娠したら困るしっ!! つけてくだされ!」
 実乃梨は竜児の言葉に超反応し、後ろに飛び跳ねる。が、
「いや……テレビのことなんだが……」
 竜児は頭を掻き、体裁わるそうに答える。
「はうっ! テレ!……あ……そう……」
 かなり恥ずかしい早とちりをしてしまった……実乃梨は身体中が熱くなる。顔を両手で
隠すと、自分でもどんなに赤くなっているのか想像できた。
 ……するとダーリンはやさしく呟いたのだ。

「シャワー……浴びてこねえか?」
 それはそういうことなんだろう……実乃梨はコクンと頷いた。

***

 実乃梨は裸だった。バスルームだからあたり前といえばあたり前なのだが、ギリギリまで
水着で入ろうか迷っていたのだ。いくら彼氏とはいえ、扉の向こうにいるのだ。竜児が。な
んとなく気恥ずかしい。とっくに覚悟はしていたはずなのに。
「今日こそ……しちゃうんだろ〜な……私たち」
 頭の天辺から熱いお湯を注ぎ、それから首の周り、肩、胸へ移動、そして一気に股の間へ
ノズルを降ろし、実乃梨は洗った。丹念に、柔毛の下を。
「な、何してんの、私……」
 そう思うのは数秒。再び手を動かす。洗わなくては。女の部分を。実乃梨は思う……

 実乃梨は女に生まれた。その証にバスルームの鏡に映る、シャワーを浴びている自分のシ
ルエットは全体的に曲線を描き、胸の膨らみが性別を決定づけている。

 ──男に生まれたかった。……小さな頃から活発だった実乃梨はそう思っていた。
竜児と出合うまでは。
 ──自分の胸が嫌いだった。……運動するのに邪魔なのだ。腕を振る、廻す度に、
そう思っていた。竜児に触れられるまでは。

しかし、このコンプレックスの塊のようなカラダを、竜児は求めてくれている。そして実乃
梨自身も、触れて欲しかった……うん……実乃梨は自分を納得させるように頷き、バスルー
ムから出て、竜児のいるベッドに向う。

***



 竜児の視線が向けられた箇所が熱を帯びる。焦げてしまいそう。もしかしたら彼のその鋭
い眼から何かビーム的なものでも出しているんじゃないか?
 ……っと冗談でも思い浮かべていないと、実乃梨はクラクラして気絶してしまいそうな気
がしていた。
 身体全体が心臓になったみたいにドキドキする中で、竜児は何を考えているんだろう? 
裸の私を見て、何を想ってくれているのだろう……そう想っていた。とてもえっちな事なの
かな……うん、きっとそう……今はでも、すごいえっちな事。いっぱい考えて欲しい。私……
私だけの事をもっと想って欲しい……そう考えると、胸の鼓動がさらに高まる……すると竜
児が、「キレイ」と実乃梨を褒めてくた。その言葉に喜んだ身体がひくんと、疼く。

 頭を優しく撫でてくれた。竜児の触れている箇所に、電気がピクッと走る。汗が分泌され
る。渇いていないのにコクンと喉が鳴る。
 やがて彼の手は、腕と肩をなぞるそうにすべらてきた。縦横無尽に動き回る彼の手は、実
乃梨をどんどん変えていく。さっきもそう。知らない感覚だった。なんか、頭の天辺から足
の先までオンナに染まっていくような、不思議な感覚。そっか……これか。実乃梨は思う。
これが、『欲しい』ってことか。そう思う。実乃梨は竜児が、彼を欲しかったのだ。

 そして彼の指は腰のくびれに移動する。ヘソの周りを撫でられ、腰のおにくを揉まれ、そ
して、彼の指先は、乳房へ向うのだ……無防備な乳房に視線が注がれ、そして大きな手で包
み込まれる。すると実乃梨の中でジュワッと沸き上がる。なにか……が。

「んくっ……竜児くん……」
「ああ……」
 彼はそれ以上なにも言わず、ピンク色の先端を執拗に弄くってきた。気持ちがふわふわする。
下の方がもぞもぞ感じる……なんか……人ごとのような、夢のような、私が、こんな……でも、
感じる。感覚が集中する。
 ──と、彼が吸い付いてきた。
「あんっ!」
 キュウウっと、ピンクの先端が縮こまる。意識が揺らぐ。もう一方の先端も彼のなすがまま
に弄ばれる。それが頂点に達したとき、
 きゅーん……
 と、胸が痛くなる。想いが、情熱が破裂しそうだ。だから、その想いを、私の唇が代弁する。
「竜児くん……好きっ」
 しかしそれは本心ではなかった。竜児を好き。それは間違いない。しかし全てではない。私
は彼と一つになりたかったのだ。でも、欲しい……とは言えなかった。
「実乃梨……好きだ。抱きてえ……」
 嬉しかった。どうしようもなく、嬉しかった。その感情に浸る間もなく、彼は強く抱き締め
てきた。強く、強烈にキスをしてきた。いままで何度も交わした熱いキス。それ以上に激しい
キスを。唇はもちろん舌を絡めるのもあたり前。鼻先がつぶれるのもいつも通り。彼はその裸
の身体の全てを駆使して、燃えるようなキスを実乃梨に捧げてきてくれた。それが本当に嬉し
い。しかし息が苦しくなる。でも実乃梨はもっとキスを欲しかった。このキスを、情熱を、彼
と交わしたかった。さっき彼の身体に塗ったローションが汗でヌルヌルする。脳が溶ける。そ
して無意識だったのだろう、実乃梨は彼の、竜児自身を掴んでいた。
「おうっ……」
 熱い息が実乃梨に降りそそぐ。それは硬く、やけどしそうなくらい熱かった。掌からどくど
くと鼓動が伝わってくる。
「ごめっ……触っちゃ、アフッ!」
 実乃梨の身体のいたるところをまさぐっていた彼の指先は、ついに脚の付け根に伸びて来た。
反射的に押さえようとするのを実乃梨はグッと堪えた。しかし嬌声を堪えることは出来なかっ
たのだ。
「あっ、あっ、あくっ!……あっ……ああっ」
 快感にココロが溺れる。ビクッと何度もカラダが跳ねる。

 そしてその、ココロもカラダも彼に預けたい……彼に全てを捧げたい。好……愛する人、
竜児に。

 そう想うのだ。


「実乃梨……愛してる」
「私も……お願い。もっと愛して」
彼に伝わったであろうか?それは、彼と繋がりたい。一つになりたい……という、実乃梨の願
いだった。彼は実乃梨に軽くキス。そして、彼の右手は、横たわる実乃梨の右ヒザを外側へ向
ける。ヌチャ……さざ波の音に淫美な音が交ざる。恥ずかしくなり、足を閉じようとするが、
彼は許してくれなかった。実乃梨は濡れているところを晒したまま、今度は左手で、実乃梨の
左ヒザは開かれていく。そして、両足は、実乃梨のたいせつな場所が、竜児の目の前に晒しさ
れるのである。
「……挿れ……るぞ」
 わかってる。彼の先端がその辺りをくすぐる。
「ん……ん、ん……こっち……」
 彼の先端を私の指で導く。そして、入ぐちに触れる。
「ああっ……ここっ、かっ……おうっ」
「!」
 ヌルッという感じ。彼の先端がゆっくり私の入ぐちを開く。痛っ……くない。
「はあっ、はあっ……ど、どうしたの?」
 彼は浅いところで止まっている。そして動かない。
「い、痛くしたくねえ……ゆっくり……」
「……うん……んんっ、くっ!」
「おうっ! み、実乃梨……」
 彼を抱きしめ、自ら私は彼を受け入れた。思いのほかなめらかに、彼の熱が私の胎内に飲み
こまれる。お腹の奥まで……でも動かすことができない。
「はあっん! ねぇっ、このまま……」
「だ、大丈夫だ。動かねえから。俺も……ヤバい」
 なにがヤバいかわからなかったが、挿れられた彼の熱は、時折、私のおなかの中で動く。た
だ挿れているだけだけど、むずむずしてきて……どうしても動かしたくなってくる……そして、
そうなってきて、ゆっくり、ゆっくり、浅めに、丁寧に、私は自分で、腰を浮かした。
「んっ!……んっ!……竜児くん」
「おうっ、おっ、ヤバっ、出っ……くっ! 実乃梨っ!」
 彼は私を強く抱き返し、そして、
「出っ……ちまった……すまねえ……」
 一瞬、力んだ彼が私に落ちてきて、ギュッと抱きとめる。汗臭いおデコにキスをすると、彼
は私の唇に吸いついた。私も吸いつく。
 かなりの時間、抱き合ったまま、挿れたまま、たくさんのキスをむさぼった。そして、チュ
パッと、唇が離れると、
「ありがとう」
 と、お礼を言われた。なんかへんな気分になる。
「やだ竜児くん……なんでお礼なんて言うの?……もっと違うこと言って?」
 そう伝え、下から彼を見つめる。
「お、おうっ、そうだな……実乃梨……大愛してる」
「え? なにそれ? 初めて聞いたよ、大? あはっ! うふふ……おかしいのっ!」
 笑ってしまった。ちょっと困ったような顔がかわいい。
「そ、そうかっ……よく大好きとかよく言うから、大愛してるって……おかしかったか?」
「ううん? 嬉しいよ。私も、竜児くん、大愛してるよ? でも……そうだなっジャイアント
 愛してるのほうがいいかな?」
 そういうと彼はイタズラっぽい微笑みをうかべて髪を撫でてくれた。
「おうっ、それいいな。ジャイアント愛してるぞ。実乃梨……」
「うん! 知ってる!」

 そうして私たちは、おでこをくっ付けて、笑い合った。

***

 コテージに用意されていたコットン地のパスローブは柔らかく、時折したたる汗も、きれ
いに吸い取ってくれる。二人は外に出て、コテージのテラスで夜風に当たりながら寄り添っ
ていた。
「星……キレイだな。たぶん手を伸ばせば届きそうな星空って、こういうことを言うんだな」
 そう呟く竜児は星空を見上げている。実乃梨はその横顔に見惚れ、考えていた。ベッドは
寝るところ。でも今日からは、愛を確認するところ、なのかなって……クスッと声が漏れる。
竜児には聞こえなかったみたいだ。
「だねっ。天の河キレイ。……ねえ知ってる? 沖縄ってもう少し時期が早いと、南十字星
 が見えるんだよ? 豆しばー!」
 実乃梨は軽く、豆を披露した。
「へえ。さすが南国だな……見てみてえな。いつか実乃梨と……」
 空から実乃梨に視線を戻した竜児はキスをせがんできて、実乃梨はそれに応えた。甘いキス。
「……うん、お願いしよっか。星に。たぶん見れるよ」
「おうっ、そうだな」
 ふたりの距離はゼロのまま、こんどは二人で星空を見上げる。本当にキラキラして綺麗だ
った。潮風のアロマと、波音の旋律が、カラダの余熱に再び炎を宿らせる。繰り返す呼吸と
心臓の音。とても彼を見れない。また……欲しくなってしまう。
「あっ」
 星が流れた。そして消えた。
「今見えたな、実乃梨。ちゃんとお願いしたか?」
 目が合ってしまう。自制心で、溶けそうな顔を保つ。もうどんな顔になっているかわから
ない。
「……う、うん。ばっちり」
 なんとか返事ができた。星にお願いもできた。きっと叶えてくれるだろう。流れる星は消
えてしまったが、この愛情はあの星たちのように輝き続けてくれるだろうか……なんてこと
を考えてみた。
「そういえば……つけなかったな……妊娠するかな……」
 突然竜児がそんなことを呟く。実乃梨は思った通りに返す。
「かもね〜……あのさ、私想像したことなるんだ。竜児くんとの赤ちゃんの名前」
 驚いたように竜児は、チャーミングな眼を向け、それを細めた。
「俺もある。実乃梨はなんて名前つけたんだ?」
 実乃梨もつられて笑う。いつものように。
「内緒。ってか、恥ずかしくて言えねーっすよ! 本当に赤ちゃんできたら話すってことで、
 乞うご期待!」
「そうだな。俺もそんとき話すよ」
 すると竜児は実乃梨を抱き、胸を触ってきた。ゆっくり、でも強く。実乃梨は胸の上の竜児
の手の甲を押さえ、首を横に振った。
「ん〜ん……竜児くん続きは明日……本当は私、明日初エッチしたかったんだからっ……でも
 前夜ってのもよかったかもね」
「明日? どうしてだ?」
 竜児は首を傾げる。実乃梨はその愛しい輪郭を撫でた。部屋から漏れる光を頼りに竜児を確
認する。愛するその存在を。

「だって明日はアレじゃん。eclipse……」
 竜児の瞳に映る、実乃梨の髪が夜風に揺れる。心も揺れる。実乃梨は吸い込まれそうになり
ながらもそれを伝えたのだ。奇跡を。
「エクリ……おうっ! そうか、明日はトータルエクリプス……皆既日蝕か」

 そう。竜児は自分を月に、そして実乃梨を太陽に例えてくれた……明日は七月二十二日。

 それは、太陽と月がぴったりと重なり合う……三百年に一度の奇跡の日なのである。


──To be continued……



268 ◆9VH6xuHQDo sage 2009/12/27(日) 21:46:08 ID:ZdDyZYXv

以上になります。

お読み頂いた方、有り難うございました。
次回、スレをお借りさせて頂くときは、最終回を投下させて頂きたいと存じております。
半年近くお邪魔させて頂きましたが、あと1投で終わらせて頂きます。
再来週、1月10日のこの時間帯くらいをお借りするかもしれません。
失礼致します。


253 ◆9VH6xuHQDo sage 2009/12/27(日) 21:29:23 ID:ZdDyZYXv
『みの☆ゴン』
>129からの続きを投下させていただきます。
13レス分(135〜147)です。

内容  竜×実です。その分、カップリングが原作と変わっています。
    虎×裸、亜×春 など。
時期  1年生のホワイトデー 〜 2年生の夏休みまでです。
    今回は夏休み7月21日という設定です。
エロ  本番あり。竜×実です。
補足  内容、文体が独特で、読みにくいかもしれません。
    ご不快になられましたら、スルーしてください。
    毎週お邪魔させて頂きましたが、来週は事情で投下できませんので次回は早く
    ても、再来週になります。そこでいつも推敲時になるべく短くまとめるように
    改善しているのですが、今回はあえてノーカットにしましたのでいつもより長
    くさせていただきました。
    また、続き物ですので、ここからお読み頂いきますと、ご不明な点が多いと思
    います。
    
宜しくお願い申し上げます。

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