web上で拾ったテキストをこそっと見られるようにする俺得Wiki


またもや夢。妄想なのだが…なんとなく予想していたのだが、俺は体育館にいる。
 香椎……俺が悪かった。すまないが離れてくれ。その……バストが当たっている
 ……あら、高須くん、わたしだと役不足なのかな……嫌?……
柔軟体操は背中を手で押すのだが、奈々子は竜児の背中をバストで押している。間違いだ。
さっきから何度も、奈々子のバストがプニュプニュ止めどなく、竜児の背中で押しつぶされてる。
 そうじゃねえ。ここは俺の妄想なんだ、香椎。わかるだろう?お前の為に言ってるんだ
 ……わたしの為?うふふ。高須くんって、カワイイ。……ねえ暑くない?……
奈々子は竜児の正面に廻り、体育着を脱ぎ、ブラをあらわにする。幅の広いストラップが、
ボリュームある奈々子のバストを物語る。奈々子クスっと笑うと、柔肉がプルっと揺れる。
 ……高須くんも、体操着、脱ぐ?脱がしてあげる、バンザイして?……
 バ、バンザイ?いやっ無理だ。もう降参だっ!香椎、降参だ!お手上げだっ
バンザイもコウサンも同じ格好だ。竜児は簡単に上着を剥ぎ取られる。
 ……ふうん、高須くんって、意外にセクシーなんだ。テンション上がっちゃうな……
奈々子は自分の背中に手をまわし、ブラのホックを外す、大きいバストを支えるため、
ブラのホックの数が多い。ひとつ、ふたつ、外す度、奈々子の表情が魅惑的な匂艶になる。
 おうっ!それ以上脱ぐなっ!ふおおっ、デケェ!こぼれてるぞ!香椎っ早くしまうんだ!
 ……ほら、こうすると、もっとドキドキしているの、わかるでしょ?……
グウッ!竜児の十指が、特盛の奈々子のバストをハードタッチ、鷲掴み。正直……たまらん。
  だああっ!いけねえ!これ以上は、いけねえよ!櫛枝っ!櫛枝来てくれっ!
情欲に理性が打ち勝ち、奈々子から離れるが、正面に実乃梨が仁王立ちしていた……
 ……な〜に?竜児くん。呼んだ?香椎さんと、フフっ、楽しそうね……
実乃梨は笑いながら怒っている。見た感じ笑っているが、わかる。怒っている。
 おおぅ!櫛枝っ!俺は、お前が!ブホッ…
奈々子は竜児の顔面をバストに埋める。グニュングニュンされる。もう……弁解出来ない。
 ……竜児くんって、オッパイ星人だったんだね、とっとと星に帰れば?じゃあね…
 おい、櫛枝っ! 待ってくれ、櫛っ…


「うわあああああ、櫛枝ぁぁぁ━━━━っっっ!」

夢だ。今のは束の間の悪夢。夢でよかったが、しかしなんという……

「……だ、大丈夫?とりあえず、席に座りましょう、ね」
教室のど真ん中で突っ立ち、教壇の担任、恋ケ窪ゆり(29)と対峙している竜児。
他のクラスメート達は、ヤンキー高須の突然の絶叫に唖然としている。
「す……すいません!なんというか……ね、寝ぼけ、て……」
大慌てで着席する竜児。顔から火を噴くほど恥ずかしい。大恥だ。
竜児は2日連続の睡眠不足で、朝礼まで仮眠しようとした所までは覚えていた。
そしてホームルーム中に居眠りし、夢を見て、「櫛枝ー!」っと、
クラスメートの女子の名を絶叫しながら立ち上がったのだ。自分は。
こんなことがあっていいのだろうか。
「いいんです、いいんです、青春!って感じよねっ。しょうがないよね。うんうん」
うんうん……と一番前の席で、北村だけは、独身(29)の意見に同調していたのだが、
まだクラスの半分の生徒は、高須ヤンキー説肯定派。恐くて文句は勿論、からかいも出来ない。
もう半分の生徒は、やっちまった感全開の竜児に同情。あわれ過ぎて、突っ込む事も出来ない。
そして、思いっきり名前を叫ばれた実乃梨は……手で顔を隠してしまい、表情の確認が出来ない……

寝坊した。

新学期が始まって3日目。やっぱり3日に1回は遅刻するのだ。わたしってヤツは。
「あ、エプロン忘れた……」
今日は家庭科の調理実習で、たしかクッキーを焼くんだった。
カラダを包んでいる栗色の髪をひるがえし、わたしは目前の学校に、背を向ける。
今頃ホームルームが始まった頃だろう。でも、少しづつ、カラダが学校から離れていく。
……ココロも、学校から後退りしているんだ。多分。

本当は、忘れ物など、どうでもよかった。いつもみたいに学校でエプロンは借りればいい。
わたしは、学校に行きたくないんだ。遠ざかって、そのまま逃げてしまいたいんだ。

一晩悩んだ。北村くんへの告白。
同じクラスになったし、少しづつ、距離を縮めて、理解してもらって、それから……
……でも、みのりんに、知られてしまった。北村くんへの恋心を。
みのりんの事だ。自分の事を棚に上げて、わたしの為に、昨日みたいに奔走するだろう。
ソフトボール。そして、好意を寄せている高須竜児とのことを、かなぐり捨てて……
みのりんには、幸せになって欲しい。みのりんの足手まといになりたくない。
大好きな、トモダチだから。……だから……

自然に引き返す足が止まった。そして再び、学校の方向に向き合う。
ゆっくり、歩き出す。地面に向いていた顔を、空に向けた。眩しい。
わたしが望むもの。普通に恋がしたい。普通に出合って、普通に仲良くなって、
お互い好きになって、一緒にいるだけで幸せ。……みたいな。そういう恋。
今まで、わたしは、手に入れたいと望んだモノは絶対に手に入らないって…思っていた。
望んだ瞬間に、本気で手を伸ばせばその瞬間に、魔法みたいにすべてが破滅するんだって。
馬鹿みたいだけど、本当にそう思っていた。そういう人生を、生きてきた。
北村くんを好きになった。優しそうとか、分ってくれそうとか、一緒だと楽しそうとか……
ただずーっと、見ていたかった。ずーっと、覚えていたくて。本当は見ているだけで、
心臓がドキドキしちゃうのに。近くにいたら、頭が爆発ボーンって真っ白になっちゃうのに。
やめようやめようとも思っていた。やめようと…目を逸らしたかった本当の理由は、
わたしは望みなんか持ってはいけないと思っていたから。わたしが望んだら、外され、弾かれ、
 ━━━━全部壊れる、から。

でも、決着を着けたい。変わりたい。幸せになりたい。 わたしは、諦めない。

「北、村くん……」
想い人の名を口にする……大丈夫。言える。
「北村くんっ! 」
足は、気付けば、走り出していた。グングン加速する!
「待ってろよ北村ぁっ!告白、してやるぞぅおらあああああぁぁぁぁ━━━━っっ!! 」
景色が溶ける、風は追い風、スピードが伸るっ!
いつもの見慣れた通学路が、凛とした銀色の風に彩られ、輝いて見えた。

朝のホームルームが終わり、担任が教室を出て行くと、それぞれが、それぞれの事を始め、
たちまち2ーCは、椅子を引く音や、足音、笑い声が聞こえ喧騒に包まれる。 
竜児は実乃梨に、「櫛枝ー!」を弁解しようと席を立ち振り返るが、実乃梨の席は無人。
……と、視線の先、教室を飛び出していく実乃梨の背中が見えた。
とても教室にいられる心境じゃなかったのであろう。実乃梨に死ぬほど申し訳なく思う竜児。
どうやら周りのクラスメートは竜児に注目しないでいてくれているようで、ざわつく教室の、
竜児周囲1メートルは別世界のように静寂が保たれ、閑散としており、近寄る人影はない。
1限目が始まるまであと5分くらいだが、竜児は精神的ダメージで体内時計が狂ってしまい、
1秒が1分に感じる……ものすごく、永い。
「櫛枝……追わないとな、とりあえず」
竜児は席を離れる。そして通路に出た所で、出会い頭の事故に遭う。
「わっ!ちょっ……急に出てくるんじゃなぁぁいっ!! 」
「おぅ?おおおううっ!!! 」
ズガンッ!!と胸に衝撃。竜児はよろめき、尻餅をつく。天井が廻っている。
「この馬鹿、りゅ……高須くん。お早うございます。ご機嫌うるわしゅう……」
「いたたたっ、あっ逢坂……おはよう。すまん。大丈夫か?ワザとじゃねえぞ……
っていうか逢坂、遅刻じゃねえか。朝、何回も電話したんだぞ?起きなかっただろ?」
と言っている背後から、新しくクラスメートになった面々の、ヒソヒソ声が聞こえる。
『見たか?頂上決戦!一瞬でよく見えなかったが、壮絶なダブルノックアウトだったぜ……』
『最高のカードが間近で観戦出来るっ、うぉぉっ!このクラスで良かった〜……』
『真の番長決定戦は相撃ちか。実力は均衡ってトコだな、ゴクリ……』
クラスメート全員に竜児の誤解が解けるのは、もう少し先になりそうだ。
「ああ、バイブにしてたから電話、気付かなかったわ。それよりも高須くん、あっちに今、
 走っていったの、みのりんでしょ。どうかしたの?何かあったの?」
「櫛枝?ああ、そうだな。櫛枝は、俺の口からは……まあ言い辛いんだが、俺が寝ぼけて、
 ホームルーム中に櫛枝の名前を大声で叫んじまったんだ。……多分そのせいだ」
竜児は前髪をくゆらせながら答える。大河は立ち上がりスカートのホコリを払う。
「……多分じゃなくて、図星でしょ?ドリーム&クライ……ね。わたしも試そうかしら……」
「やめたほうが良い。ダメージが大きい割に、効果が薄い気がする。ソースは俺だ」
「やんないわよ。冗談。それより高須くん。いつまでも座ってないで、
 早くみのりん追いかけて。ちゃんとみのりんに謝んな」
「わかってるよ、逢……」
大河は会話を強制終了。竜児の横をすり抜け、そのまま、北村へと歩み寄ったのだった。
そして爪先立ち、北村にしか聞こえない声音で、なにかを、囁いた。
北村は一瞬不思議そうな顔をしたが、すぐにいつもどおり屈託のない笑顔で、
大河に頷いてみせた。大河の唇は、話したいことがあるから、放課後。と、
そんなふうに動いたように見えた。

***

「……おいゴルゴ……」
「……ゴルゴじゃねえよ……」
「……じゃあゴルゴは俺だ……俺の後ろに立つんじゃねえ……」
「……立ってねえよ……ゴル、じゃなくて櫛枝。さっきは悪かった。名前叫んじまって」
例の自販機の前に引き蘢っていた実乃梨は、竜児をジロリ。柔らかそうな桜色の唇が動く。
「名前言うなよ、ファ。櫛枝ってのがオレだって誰にでもわかってしまうだろ?」
「……ファでもねえよ……誰なんだそれ……」
どうやら、いつもの実乃梨に戻ったようだ。おデコをツンとされる。竜児はちょっと嬉しい。
「また〜、カマトトぶって、竜児くんはっ。さっきはビックリしたけど、怒ってないぜっ!」
「本当か?でもビックリさせてすまなかった。叫んだ俺もビックリしたけどな……
 そうだ、櫛枝、さっき遅刻だけど逢坂、登校してきたぞ。北村と例の事、話してた」
「北村くんと?……大河、やっぱ告白するんだね。すごいな……勇気あるよね。
 わたしには出来……ありゃっ、時間ない、授業始まっちゃうっ!戻ろっ、竜児くん」
携帯で時間を確かめる。永く感じた一秒間は、実乃梨といると千分の一秒に感じる。
「おうっマジだっ、戻ろう」
ふたりはせっかく、距離を置いて歩き出したのに、教室に入る時には何故か並んでしまい、
早めに教壇に立っていた教師に、一緒に注意されてしまった。

どこか緊張感あった2−Cの一日は終わり、帰りのホームルーム。
緊張感の主な原因は、半数のクラスメートが間違って認識している二大番長が押し黙り、
一日中、閉塞感、重圧感のあるダークな空気をプンプン吐き出していたからだった。

そんな空気を読み取る事が出来なかった担任、恋ケ窪ゆり(29独身)は、
春を意識した全身薄ピンク色で決めて、しょうもない話を始めてしまう。
「あら……教室に甘い匂いが……ああそうか、調理実習はクッキーだったよね。
 先生もクッキー作るの好きなの。うふふっ、懐かしいな……イギリスに、
 留学していた時には、ホストファミリーと一緒になって……」
「……チッ」
ビクッと震えた内股の担任(29独身)は、やっとダークな空気に気付く。
恐る恐る教壇より指導。かなりの勇気だったろう。無謀かも知れないが。
「……あ、逢坂さん?……せ、先生に舌打ちするのは、やめましょうね?」
「……チッ」
「……あ、あのね?女の子がそういうことするのは、ね?」
「……チッ」
「……ああっ、生徒の心に言葉が届かない……っ」
結局、己の力量を超えた行為だったのだ。両手で顔を覆い、泣き言を喚く羽目になる。
でも担任は独身なりに頑張った。29歳、善戦だった。
「先生!クラス委員の俺が、後を引き継ぎます。ご安心ください!」
クスン?敗者の担任(7年間恋人無し)は、何故引き継がれてしまうのか、首を傾げる。
「先生……北村くんの言っている事がよく……」
「明日は美術があるので各自忘れ物しないように!起立!礼!さよーなら!」
さよーならーと全員唱和。強引に、長くなりそうだった終礼を北村はターミネート。
担任は疑問を残しながらも素直に、ヒクッっと、小さくしゃくりあげながら教室を後にした。
教室はざわめき出す。それぞれが放課後の予定を消化しようと行動に移る。

今日一日、授業中や休み時間、竜児は大河の行動を、それとなく気にかけていた。
大河の顔の色は、赤や青、時には緑、最終的には真っ白に、めまぐるしく変わっていた。
竜児が心配しても仕方ない事なのだが、大丈夫なのだろうか?成就してくれるだろうか?
大体大河は、せっかくガッツみせて告白するのだから北村に、実習で作ったクッキーをあげたり、
可愛く笑顔を振る舞ったり、事前アピールして盛り上げたりしないのだろうか?竜児は思った。
しかし、実乃梨に告白する勇気がない竜児は、自問自答し、そんなガッツがない自分を再認識する。

その時、顔面蒼白な大河は、北村にアイコンタクト。
屋上……大河の唇から読み取る竜児。頷く北村。連れ立って教室から出ていく。
竜児はつい、ふたりの背を追ってしまう。
廊下に出ると、大河と北村は慌しく行き交う生徒達の中をすり抜けて行く。
「やっぱ、悪趣味だよな……やめた」

足を止める竜児。階段を上っていくふたりを見送り、逆に竜児は階段を下りた。

「竜児くん、見〜っけ!へぇ〜っ、校舎の裏に、こ〜んな大きな花壇なんてあったんだっ!
 知らなかったなあ……ねえ竜児くんっ、ここで何を栽培してるの?」
竜児がこの花壇を見つけたのは一年の時だった。忘れ去られ、放置され、朽ち果てていた。
「おうっ櫛枝。まだ耕している所だ。雑草を刈って、肥料を撒いている。夏にシソの葉、
 秋に、さつまいもでも収穫しようと思ってな。まあ、思い切り不法占拠なんだが……」
制服のまま、しゃがんで作業していた竜児。少し湿った軍手を外し、実乃梨に振り返る。

「へ〜っ、高須農場って訳だっ。すごいよね〜竜児くんってさ、生活力あるよねっ」
「そうか?それって褒めているのか?まあ、な。……その格好、これから部活なのか?」
ソフトのユニフォーム姿の実乃梨。サンバイザーが似合っている。ツバをクイッとする。

「うん、そう。もうすぐ大会だしねっ……大河……今頃北村くんに告白してるかな……」
「ああ……終礼後、屋上に呼び出してたな。あいつ、ドジだよな。聞こえちまっよ」
でも、大丈夫かな……立ち上がり屋上を見上げる竜児。実乃梨もつられて見上げる。

「おい高須。北村知らないか?いつもの時間に来なくてな。急用で探してるんだ」
校舎の影から、すみれが現れた。腰に手を当て、長く、艶のある黒髪がなびいている。
「狩野先輩っ……北村ですか?場所は知らないですけど、大事な用があるって言ってたので、
 結構遅れると思います……少し待ってやって下さい」
「そうか。もし見掛けたら、生徒会室ではなく、資料室に来るように伝えてくれ。宜しく頼む」
踵を返すすみれ。それを見送る竜児の口が、自然に動く。無意識だった。

「あのっ!狩野先輩!待って下さい!聞きたい事があります。時間は取らせませんから!」
竜児の隣にいた実乃梨は驚き、三白眼を見上げる。気付けは竜児の裾を掴んでいた。
「なんだ高須、わたしは多忙なん……うむ、高須。いいだろう。手短かにな」
竜児の真剣な眼差しを見て、すみれは立ち止まる。腕を組んだ。

「狩野先輩は、今、好きな男や、付き合っている男……いますか?」
面食らった顔になるすみれ。すぐに細い眉を上げ、ふうっと溜息をつく。
「なんだ高須。急に神妙なツラしやがるから何かと思えば……くっだらねえ。……この菜園、
 園芸部に無断で使用してるな。見なかった事にしてやる。ちゃんと片付けとけよ。以上だ」
このまま引き下がらない。竜児は、さらにすみれに噛み付く。
「くだらなくないんです!スゲえ大事な事なんです!俺の親友……そして狩野先輩にも、
 親しいヤツの事なんです!お願いしますっ!答えて下さい!」
頭を下げる竜児。傍らの実乃梨も同じく頭を下げた。腕を解くすみれ。少し沈黙し……

「なるほど……解った。友達、思いなんだな。てめえは。結果から言うと、好きだとか、
 付き合っている野郎はいない。が、高須。その親友に伝えておけ。わたしは、悪いヘビだと。
 そして、そいつはもっと賢く、臨機応変に生きるべきだと。……時間切れだ、じゃあな」
「狩野先輩…」
まただ。またクイズだ。つくづくオンナって生き物は理解不能だ。悪いヘビって何だ?
歯を食いしばる竜児。 そして、竜児から遠ざかっていくすみれは、急に立ち止まった。

「最後にひとつ。……その親友に、生徒会に遅れる時は、事前に連絡よこすように言っとけ」
はっとする竜児。 実乃梨は、掴んでいた竜児の裾をさらに強く引いてしまう。

微風。誰もいない屋上で、大河は北村と向き合っていた。
グラウンドから聞こえる運動部の声が、ここの静けさを強調している。
茜色に染まる空。大河の小さなカラダを包む長い髪も、その色に変わっていた。
北村は、少しずり下がった眼鏡が気になっていたが、そのままジッと静止している。

「北村くんっ!私、北村くんが、…北村くんの、こと…っ…あのっ…そのっ…」
胸の内を、不器用だけど、大河なりに、想いを込め、言葉を紡ぐ。
北村は、その言葉の先を、一旦、区切った。
「ちょっと待った。なんとなく、だが話の流れが見える様な気がするぞ。
 しかし誤解をして恥をかくのもなんだから、お前の話を聞く前に、
 ひとつ確認しておく。俺は今からちょうど一年前、お前に告白したよな。
 お前は綺麗だし、その怒りを隠さないストレートな性格がいい!惚れた!
 …って。ちゃんと覚えてるか?」
北村は大河に一歩近づく。大河は堪えられず、横に目線を反らしてしまう。

「……覚えてる。忘れるわけ、ないじゃない。あんな変な告白して来たの、
 北村くんだけだもの。あれからうちのクラスやって来て、みのりんと、
 部活の話する度に、あっ、あのヒトだって……ちゃんと覚えていた」
つぼみのような唇に手をやる大河。恥じらう。しかし、ちゃんと会話出来ている。

「なんだ、完全に無視されてたから、告白の事さえ忘れられてると思ってた。
 あの時、お前を綺麗だと思って告白したけれど、逢坂。あの頃から俺は、
 お前に対する気持ちに変わりはない。最近見せる面白い顔をするお前も、
 本当に素敵な女子だと思う。今でも、そう思う。だから……」
我慢していた眼鏡のズレを直す。夕日がキラリと眼鏡に反射する。
「だから。ちゃんと整理するまでこの先の話は保留したい。……今は正直、返事出来ない。
 ただ俺に、逢坂の気持ちは、多分、ちゃんと正しく伝わったと思う。すまない」
……つまり、今は告白するな、という事か……整理するとは、その理由は、つまり、
「狩野……すみれ?」
「会長の事か?……そうだな逢坂。お前にはだけには正直に話そう。まあ、それもある。
 ただそれだけじゃあない。部活でな、部長に就任したしんだ。来週末から、公式戦で、
 今はそれに集中したいんだ。……そうだ逢坂、良かったら、その試合、観にこないか?
 逢坂が応援してくれたら、百人……いや、千人力だ。どうだろうか?」
どうやら嫌われてはいないようだ……大河はそう思う。保留。そうね、浪花節。

「うん、北村くん……わかった。保留ね……ありがとう。試合、絶対観に行くね」
北村は大河に優しく微笑む。大河も笑顔で答える。瞳がキラキラ七色に輝く。綺麗だ。
この瞬間、1年前の告白の時とは、北村の大河への気持ちは良い意味で確実に変化した。
「よーしっ!逢坂!俺はお前の為に頑張るからな!じゃあ、また明日なっ!」
反転し、大河に背中を向ける北村。やるぞ━━━っ!と両手を天にかざしている。

だからその時の北村の正面、顔を、大河は見ることはできなかった。
北村の、覚悟に満ちた、真摯なその眼差しを。
そしてその時の北村の決心を、大河は計る事ができなかった。
北村に恋心を抱いてくれている大河のための、北村が考えたシナリオを。
小さく何か呟く。屋上の扉を開け、北村は屋上を去った。

「ふわあ……」
残された大河は緊張が解け、アクビが出てしまった。
ありったけの勇気を振り絞った、出し尽くした大河は、自分でも泣くかな?と思っていたが、
意外に平常心……不思議な感じだった。
告白は、結局うまくいかなかった。でもすっきりした。だから、でも。
「帰ろ……」
北村が去っていった屋上の扉に歩み寄る大河。
扉の先には、お節介な親友と、その親友が好きなお隣さんが今日の実習で作った、
クッキーを持って、お隣さんは大河が扉を開けるまで階段に座って待っていた。

翌週の4月中旬土曜日。公立球場に大橋高校男女ソフトボールチームが集結していた。
今日明日の二日間で、春季公式大会が開催される。トーナメント方式で三年生は、
負けたらもちろん最後の試合になる。
午前中あった男子の試合は、去年の優勝校と2回戦で当たってしまい、敗退。
これから大橋高校女子ソフトボールチームの初戦が始まる。主力選手には、
もちろん実乃梨の名もある。試合前、グラウンドでキャッチボールをしていた。

「ボールバックぅっ!!」
声をあげたキャッチャーに向かって、センターからレーザービームが放たれた。
ズドンッ!!
キャッチャーミットに吸い込まれた豪快な音。ミットを構えた所にストライク。
相手のベンチからも、その強肩っぷりに、おおおっ!という感嘆の声が漏れる。
その砲手は、右手を振りながら、えへへっと、太陽のような笑顔を見せている。

「うわ〜☆みのりんちゃんすごぉ〜い!もしかして勝っちゃったの?」
「まだ試合前だ。しかしいつ見ても櫛枝の肩はすごいな…今日は双眼鏡がいらなくていいな」
「あんた、いつも双眼鏡で、みのりんチェックしてた訳?まるでストーカーね……犯罪犬っ」
結構ちゃんとした球場だった。竜児は大河と泰子の3人で、ベンチ近くの席を確保していた。
今日はベスト8までしか決まらないので、観客はまばら。私服の姿がほとんどなく、
昇り竜のトレーナー、露出の多いキャミソール、ふわふわのフリルのワンピース……
は、ものすごく目立っていた。間違って紛れ込んだと言っても、誰も疑わないだろう。

「ねえ、竜ちゃんっ、やっちゃんチアガールの格好すればよかったかなぁ〜」
「いい訳ないだろ。そんな事していったい誰が得するんだよ。普通に応援しようぜ」
「竜児は、伝説の花の応援団長に見えなくないわね。ちょっと舌出してみてよ。とぐろ巻いてる舌」
「なんだそりゃ、どんな妖怪だよ俺は。だいたい、いつの間にか、また呼び捨てしてるし……
 逢坂も集中して、静かに応援するんだぞ。……おうっ、北村!お疲れ様っ!……惜しかったな」
泥まみれのユニフォーム姿の北村が来た。男子ソフト部の連中も引き連れてきた。
適当に仲が良い同士に着席する。北村は大河の横に座った。

「いや〜、最後でミスってしまった。いくら相手は本命とはいえ、エラーしてしまった。
 折角応援しにきてくれたのに、格好悪いところ見せてしまったな、逢坂。すまん」
「きっ、北村くんは悪くないよ!あの相手のバッターが悪いのよ!あんなタマ捕れないし、
 だいたい北村くん相手に、本気でやる事ないのに!……後で脳天カチ割ってやる……」
襲撃を目論む大河。どうやら本気だ。堅くて長いモノを探し始める。
「逢坂、気持ちだけで充分だ。ありがとう!悔いは無い。一緒に女子を応援しようじゃないか!
 スタメンで、櫛枝も出るんだぞ?おっ、ホームベース前に整列していた。ズバリ始まるぞ」
球審が挨拶し、テンプレート通りの注意点を伝える。監督同士を握手させる。
「ん〜?大河ちゃん、急に抱きついて来てどうしたのぉ?可愛いねえ。よーしよーし……」
大河は、北村に褒められたと勘違いし、テンパったようだ。ポジティブシンキング。
照れてどうすればいいか対処に困り、泰子に絡まる。北村は微笑む。
グラウンドでは一番打者がバッターボックスに入る所だ。球審が右手を高く挙げる。

プレイボール!

初回から投手戦で、両校とも無失点で迎えた5回表。相手校が均衡を崩し1点先制。
さらに6回に追加点を許してしまう。
そして最終回の裏、逆転を狙う大橋高校は、勝利を焦る相手チームの投手に連打し、
念願の1点をもぎ取る。
無失点だった相手校の投手は動揺し大乱調。さらにワイルドピッチや、イリーガルピッチと、
大橋高校は走者を2人回し、同点に追いつく。しかし下位打線が続かず、延長戦に突入する。

┳━┳━┳━┳━┳━┳━┓
┃5┃6┃7┃8┃9┃計┃
╋━╋━╋━╋━╋━╋━┫
┃1┃2┃0┃0┃ ┃3┃ 
╋━╋━╋━╋━╋━╋━┫
┃0┃0┃3┃ ┃ ┃3┃ 
┻━┻━┻━┻━┻━┻━┛

そして8回裏、大橋高校の攻撃。タイブレーカーなので2塁に走者がいる。
最初のバッターはバントで走者を3塁に送り、1ダウン。そして次の打者はファールフライ。
サードにきっちりキャッチされてしまう。まだチャンスは続いている。
一点入ればゲームセットなのだ。手に汗握る展開。次のバッターは、実乃梨だ。
「花は桜木、女はみのりんっ!ほな、いくで〜っ!!」
バットを持てるだけ持って、ブンブン素振り。気合いが入っている。

一方、観客席。
大橋高校私設応援団の竜児たちは、叫びすぎて、声がガラガラだった
「ンガッ……ほら、竜児……ビノリン……よ!ゴホッ
「ゲホッ……ぐっ櫛枝ぁ…ぶおおっ、グジエダ〜」

「ぞ、ゴェ……ぞんだんじゃあ、ビドリンにぎごえないでじょっ!竜児っ、叫べ!」
竜児は、渾身の力を込めて、叫ぶ!

「櫛枝ぁ━━━っ!ガッ飛ばせ━━━っ!!!」

球場に響く、竜児の雄叫び。
間が悪く、一瞬球場が沈黙した瞬間に叫んだもんだから、
選手は無論、球場中の視線が竜児に集中する。

「ターイム!!」
竜児の、必至の形相を目の当たりにした、相手のピッチャーが、
倒れた。 ヤンキーに殺されるっ!と、思ったのだ。

……うわっ、不良。なんでここに……
……こええっ、皆殺しにされるっ……
……なんだ、あのチンピラ、あれは狂気の目だ……

ひそひそ、竜児のジャックナイフのような顔面に、騒めきが止まらない。
球審が竜児に恐る恐る駆け寄る。
「君。誠に申し訳……ありませんが……出てって頂けませんか……うわっ、暴力反対!」
何もしないで、突っ立っているだけの竜児。
「お騒がせして……すいませんでした。失礼します」
「え?何にもしてないじゃない!ちょっと竜児!何処行くのよっ」
「竜ちゃん……皆さんごめんなさい……ペコり。竜ちゃん!待って〜っ」

代わりのピッチャーがマウンドに上がり、試合再開。
伝説の応援団長を失った実乃梨は、生まれて初めて見逃し三振をした。

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