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◆KARsW3gC4M New! 2009/09/26(土) 12:39:03 ID:FpS5vfVX

[キミの瞳に恋してる(4)]

「く、くく櫛枝ぁっ!?」
ジョニーズの店内に入ってすぐ、能登が驚いた声でそう言った。
え…マジ? く、櫛枝?
足元を見ていた視線をゆっくり上げると、そこには確かに彼女が居た。
驚いた表情でポカンと口を開けて……私達を見ていた。
何故、櫛枝があっけに取られているのかは解る。
昨日まで私と能登は絶交状態だった、なのに今日になって二人一緒に仲良く手を繋いでいる、そして顔は真っ赤、照れまくり。
それの意味を理解出来ていないのだ、急過ぎて…。
「あ…う……あのあの…」
何か言おうとしても舌がもつれて言葉にならない、私はあたふたするしか出来ない。
ジェスチャーで伝えようとして、動いたのは能登と繋いだ右手、見せつけるように前面に突出してしまう。
ヤバい! そう思った時には、櫛枝の視線は私達の手に向けられていて…手遅れだった。
「あー…、あ! では、お席までご案内しますね!」
営業スマイルではない満面の笑みで櫛枝がニッコリ微笑み、私達の先を進む。
「ね、ねぇ櫛枝ぁ! これには深い訳があって…!」
我に帰った私は弁解を試みる、妙な噂をされたら……あ、それはそれで…。

「……麻耶ちゃんっ! 能登くんっ!」
私の呼掛けに櫛枝が止まり大きな声でそう言う、続いて振り返りグッと親指を立てて頷く。
『全部言わなくて良いさ、私は解ってる…おめでとう!』
と、櫛枝の表情は伝えてきた…、もう何を言っても聞かないんだろうなこの娘は…、今はバイトの邪魔しちゃ駄目だし。
…! うんうん! そうだ邪魔しちゃいけない、能登と"仲良さそうに"居るのを見られてクラスで噂されちゃったり?
うーん、仕方無いなぁ見られたしぃ? いちいち"弁解"してたらバイトの邪魔、仕方無い仕方無い。
私はこの事を既成事実として利用するという考えを思い付く。
『能登と木原は付き合ってる、この前のは痴話喧嘩か?』
事実と異なるが、こんな風に噂されれば私の追い風になる。
だって言えるじゃん能登に…
『じゃあ、私達…本当に付き合っちゃおうか?』
とか自然に言える、自分の勘定に入れて考えたらいけないだろうけど……私は本気だから。
本気だからこそなりふり構ってなんかいられない、朝からずっと…そうだもん。
能登に『木原麻耶』をアピールしてる、ほんの少し勇気を出して積極的に。

私の行動が能登から不自然に思われてるのは見るからに明らか、でも素直にならなきゃ…気付かれない。
これは私なりに考えた、ギリギリ…なるべく不自然にならないように、かつ、自分の気持ちを確実に伝える作戦。
「じゃっ御注文が決まりましたら、そちらのボタンを押してお呼びください…またねっ!」
名残惜しいけど彼から手を離し、案内された席に相対して座り、私は経過の再確認をする。

幸い強引なわりには引かれてはいない、思ってたよりアイツには嫌われてなかった、
むしろ好意すら抱いて貰えてるんじゃないか、と…思える場面もあった。
能登に『手を繋ぐのはイヤ?』って聞いたら
『ん、他のヤツは知らないけど、俺は……こういうの……嬉しい、よ。き、木原とだからか、な?』
なんて言われて…飛び上がるくらい嬉しかった。思わず握った手に力が入ってしまうくらい。
だけど希望的観測は捨てる、この場合は…。
いくら何でも能登が私の事を好きなわけない…まだ。好意というのは『女子』としてではなく『トモダチ』としてだと思うから。
『Like』を『Love』にさせるのは私の頑張りに掛かっている、ちょっぴりなら大胆な事をする覚悟もある。

それの触りとして私は能登に、手を繋いで、とお願いした、買ったきりで開けていないミルクティーの缶も次段階の道具なのだ。
私が一晩掛けて考えた『Like』を『Love』にする方法…それは…………
「あ、と、とりあえずさメニューを決めよう、なっ? 櫛枝には俺から説明しとくから気にするなよ」
…と、再確認はここまで、今は能登との会話に集中しよう。
「うん、あのさ能登…やっぱり櫛枝って"誤解"しちゃったかなぁ…?」
私は能登の言葉を聞いて問い掛けてみる、これは現状での彼の反応を確認する為。
目付き、言動、仕草、それらの情報から彼が『誤解』をどう捉えているのかを読み取る。
「ん、誤解…されたよな、あの感じは。俺等の関係を誤解してる、絶対に」
僅かに目が泳いでいるのは、動揺しているから。
『誤解』と二回言ったのは強調したいから。
頬を人差し指で掻くのは照れているから。
私が見た感じでは、そんな所かな…絶対ではないけどね。
だが、肝心の真意はサッパリ解らない、読み取れない。
まあ顔をしかめたりしてないから悪い感じじゃない…かな?
「だよね、うん誤解されてる、私が説明しとくよ、私のせいだし」

説明…か、櫛枝は部活にバイトに『忙しい』からね。いつになるかは解らないけど。
私はメニュー表を取って机の上に広げる。
「能登は何も心配しなくていいから、ん…何にしようかなー」
そう言いながら私はメニューに目を向ける。
時間を掛けて想いを伝える、そしてもっとも近道で能登に私を『意識』させる、そのために必要なのは大胆な行動。
「うーん、ミックスサンドとサラダにしよう、能登は何にするか決めた?」
と…言っても、私は能登と視線を合わせたり、手に触れたり…それで照れるくらいシャイで…臆病で。
どこまで踏み込めば良いのか不安で、なかなか思うようには動けない。
だから能登に『協力』してと伝えて、了承して貰い…大義名文を得た。
『男の子の気持ちを知る為』なんて言い訳して能登に自分の魅力を最大限アピールするつもり、弱虫で不器用だから…。
ダウンジャケットを脱いで席の端に置き、メニューを選ぶ能登を見詰める。
「ミックスグリルのライスセット、あとドリバー、で良いかな」
そう能登が呟いて呼び出しボタンを押す。
お昼時より少し前なのでまだ他の客は少ない、だからか三十秒も掛からずに櫛枝が飛んで来た。

「…ミックスサンドとグリーンサラダ、ミックスグリルのライスセットにドリンクバーですね」
彼女は注文を聞き、少し思案顔になる…そして何かを思い付いたようでペコリとお辞儀して席を離れていった。
何だろう妙な胸騒ぎが…。
「そういえば、木原は手を繋いでみて何か解った? …参考になった?」
能登が私の顔をチラリチラリと伺いながら問い掛けてくる。
「あ…、えっと、男の子の手って……おっきくてポカポカしてる、な……って、む…胸がドキドキするっていうか…ありがとう」
私はさっきまでの暖かく包まれる手の感触を思い出して、赤面して『感想』を紡ぐ。
『能登の手は』と言えないのがもどかしい、言ってしまいたい、けど…我慢。
言うのは簡単、でも言い過ぎると…不自然。ここぞって時に言わないと…だよ。
「そ、そう? 役に立てたなら良かった…ははっ、ドリバー行ってくるわ」
能登の目が泳いで、パッと私から顔を背けて席を立つ…。
ちょっとだけ…胸がチクッとした、素っ気無い…もん。
『そんな意味で言ったんじゃない』
みたいな感じ…。あれかな……やっぱり急ぎ過ぎたのかなぁ…。

私の気持ちだけが空回りして焦ってるのかな…、能登を置いてきぼりにしてる?
でも、でも…私にはこうするしか無いんだもん。
「……ちゃん、麻……ん。おーい麻耶ちゃーん」
「へ?」
そんな考えを巡らせていたら耳に届く私を呼ぶ声、慌てて声のした方向に顔を向けると櫛枝の顔が。
「ちょっ! え、近っ! てかいつから居たの!?」
ビックリした、私の鼻先20センチ足らずの場所に彼女の顔があったから…。
「ん、ほんの少し前からだよん、にひひ……ところで麻耶ちゃんも隅に置けんのぉ?」
ニヤニヤ笑いつつ、小声で彼女がそう言う。
ちなみに私は結構、櫛枝とは仲が良い。修学旅行でガールズトークした時にウマが合って、
今では昼のお弁当をたまにだが一緒に食べるまで進展している。タイガーのオマケつきで…。
「は…、いやいや何がよ、てか櫛枝はバイト中じゃん! こんな所で話してていいの、怒られるよ?」
「ふっ…大丈夫、今は昼前の空白時間、二三分空けても問題ナッシング!
それよか、見せつけてくれるねぇ? 能登くんと仲直りしてイチャつきおってからにぃ…いつの間に?」
辺りをチラチラ伺いつつ、私の耳元で彼女が問う。

「イ、イチャついて…なんか! うぅ…な、仲直りしたのはマジですけど、私達はまだ…そんな…あぅ"一日目だしぃ"
じ、じゃなくてぇ!」
彼女の言った事に内心ガッツポーズしつつ、私は否定とも肯定ともいえない事を口走ってしまう。咄嗟に…。
羞恥と照れが私を支配し、勝手に頬を赤く染めさせて両手の人差し指をつつきあってみたりして…。
「初のう、初のう…ところでお嬢さん、凄くお困りの様子だ。この櫛枝実乃梨がアドバイスしてさしあげよう」
と言う彼女、アドバイス…って。
「能登くんは鈍感っぽいよね、だからさ…
ちゅーの一つや二つでもぶちゅっとしちゃいなよ。
それくらいしないとヤツは気付きませんぜ?」
囁かれた事が理解出来ず私は思考が停止してしまう。櫛枝の見当違い、それでいて鋭い言葉…それは私を混乱させるのに充分だった。
「ち、ちちちち、ちゅー!?」
『ちゅー』つまりは『キス』その単語を聞いて私は体温が一気に上昇する。心臓がドキドキ、いやバクバク…かな。
いくら何でもそれは早過ぎる! い、いや……そりゃあ能登がしたいなら私はしても……違う違う! 何でもうする事が前提なわけぇ!?

落ち着け私っ! したいけど、まだその段階じゃないし! まずは仲良くならないと…うぅ能登に誤解される!
「おうよおうよ。ちゅーですよ、へっへっへ……じょーだんだよ。軽くマイケルジョーダン。
ん…それくらいの覚悟がないと好きな人ってすぐに自分をすり抜けていくのさ、幽霊みたいに」
フッと自嘲気味な溜息をした後、彼女の声色が変わった。
「気付いた時には手遅れ、素直になりたくてもなれない、自棄になって誤魔化すと見て欲しくても見てくれなくなる。
ずっと見ててくれたのに……プイッてそっぽを向いちゃう」
辛そうで、泣き笑いみたいで、真剣に。そんな複雑な表情の彼女が続ける。
「お節介だ、私が口出しする事じゃないけど、麻耶ちゃんには後悔して欲しくないかな…って思って、ごめん」
「櫛枝…」
ペコリと頭を下げて、彼女は何かを堪えたように微笑む。ああ、もしかしたら…なんだけど、みんな気付いているのかな。
私が本当はアイツを好きな事…、奈々子も亜美ちゃんも櫛枝も……みんなの言う事って意味が全部同じだもん。
『素直になれ』
「好き勝手な事を言ったお詫びにコレをあげる、何かの役に立つかも…お店で使っちゃ駄目だけどね」

彼女が私に手渡してくれたのはビニールで包装された……これはストローだ。
ただし普通の形はしてない、二本のストローが中間で交差していて『ある形』を成している。
これって本当にあったんだ、てか何処で売ってるの…みたいな。
うん、これはどう見たって『ハート』の形になったストロー。
「ちょ…ねぇ、コレって、うーん…あはは…、マジ?」
何で櫛枝が持っているんだろう? 素朴な疑問だった。
「あーみんと高須くんが来たら、コレを使っちゃろうかなと思って、安心してあと二本あるから」
胸騒ぎの原因、それは…これだったのだろう。ちょっと拍子抜けした。
「で、でも…これ恥かしい、能登が嫌がるかも…」
率直な感想を言ったまで、流石にベタだろう、何より…いつ使えと? 使用するシチュ…なんて、まだ先だろうし。
「ヒント。使い方は色々…ってとこ。あ、それとコレを……」
周囲を警戒しつつ素早く彼女が私の手に紙切れを握らせる。見てみるとドリンクバーのタダ券が二枚。
「お水とお絞りを出すのが遅れたお詫びだ、他の客には内緒だぜぇ? こっそり使いな〜、注文はこっちでしとくから」

見てみると、テーブルの上には水の入ったコップとお絞りが二つ置かれていた。いつの間に…。
「あ、ありがとう。ぅ、私…私…頑張る!」
そう言ったのは事実上の肯定、恐らく私の気持ちは櫛枝にバレてる。
なら隠しても無駄、私は決意を秘めた瞳と共に頷き返す。
「おぅおぅ、よし…時は満ちたり、ここは今から戦場になる。アルバイト戦士は行かねばならんのだよ」
彼女はそう言うとトレイをヒラヒラ振り、踵を返して行ってしまう。
解った、うん…私、解ったよ櫛枝が言いたかった事。私は『詰む一歩手前』だと言いたいんだ。
巻き返せるのは今しか無い、手加減するな、って事。多少考えを改めよう、後悔しないように。
悠長な方法は止める。最短距離でアイツに私を意識させ想いを告げる、どんな方法を使っても……そういう事だよね櫛枝っ!!
彼女の言った意味を履き違えてるかも、私の思い込み、だの、誤解だの……躊躇するような『甘え』は捨てる。
私がそう信じて勇気を貰った…それでいい、それだけで充分!!

スカートをギュッと握り締めて目の前を睨む。
『最短距離』で『意識』させてやる、その方法は一つしかない。

それは大胆で、背伸びしてて、告白と同等…もしかしたら更に勇気と決意が無いと出来ない事。
今日、明日に出来るわけじゃない、来週…来週の週末に実行しよう。それまでに下地を作る、今この瞬間から…。
能登が戻って来た、オレンジジュースをストローで飲みつつ外を見ている。その横顔を私は盗み見る、一回、二回…。
放心したような、何かを考えているのか、何とも言えない表情だ…、そんな彼を見ていると全身が燃えるように熱くなる、羞恥で。
私が考えていた事、それを能登にしたら…どんな風に思われるだろう、軽蔑されるかな? それとも異性として見てくれるようになるかな?
…ギリギリの一線を半歩越えるような行為。『ソレ』をするのは私達の関係的には間違っている、重々に承知している。
『迷ってらんないから』
……それくらい『好き』だって解って欲しい、能登を引き寄せたいもん。
櫛枝の言っていた事より、もっと効果のある事をしてあげる。
「ん…どうしたの? そんなに見て、さ」
私が紅潮しながら見ている事に気付いた能登が、そう語りかける。
「べっ、別に! 私もドリバー!」
私は勢い良く席を立って、彼から顔を逸す。恥かしい…。


...
..
.
「どうしようね、これから」
元気いっぱいな櫛枝の『ありがとうございましたーっ!』を背に受けて私達はジョニーズを後にする。
「そりゃあ、相談の続きがあるなら…、………また公園?」
「同じ場所もあれじゃねぇ? 河川敷は…どう?」
なんて提案してみる、それは次段階の為に。
近場に飲み物の自販機やコンビニが無い、その状況じゃないとダメなんだ。
「りょーかい、じゃあ止まってるのもなんだし行こうか」
今度は手を繋がない、出来ない。ご飯を食べている時に…思わず言っちゃったから。
『大体、どんな感じか解った』
なんて…。するとアイツが…
『そう? うん、ならもう大丈夫だよな』
と返して引っ込みがつかなくなった、頷いてしまった。
しまったと思ったけど、もう一回なんて言えない。
私のマヌケっぷりを嘆いていたら、何故か能登も頭を抱えてうなだれていた。
……アイツも実は手が繋ぎたかった? …………ないない、そんな私にとって都合の良い事は起こらない。
『木原も俺なんかと手を繋いだら恥かしいっしょ』
バカ能登……。
私はそっぽを向いて答えない、不機嫌なふりをして困らせてみた、ちょっと傷付いたし。
並んでテクテクと歩く私達の間には30センチの距離が開いている、まだ詰めれない短くて長い、近くて遠い…30センチ。
ジャケットのポケットに手を突っ込んで歩く彼と話す話題を探す、能登の事を知りたいから…。
ダウンジャケットのポケットの中には、ミルクティーの缶と櫛枝がくれたストロー、財布に携帯。
触ってみてもネタになる物は無い、辺りを見渡しても………あ、コレだ。
私と能登って背丈があまり変わらないんだ、でも、ほんの少し…気持ち…5センチくらい彼の方が高い。
だから見上げるなんてのは大袈裟で、本当は視線を合わせようとしたら…上目遣いになっちゃう。
でも座ると…その差が10センチになって、顔を上げないと…目が合わなくなる。
確か、去年の春先には立っている時の目線が同じだった。でも、気付いたら違っていた。
一年で身長が伸びたんだ…男の子はまだ成長期なのかな。私はすでに終わっているけど。
「能登って身長が伸びたよね」
手の平を彼の側頭部に並べて私は口を開く。
「……ほんの少しな、へっ…それでもまだ低いけど」
能登が自虐的な笑みを浮かべて返す、低い声で、……やってしまった。

地雷を踏んでしまったみたい。気にして、たのかな…。
あ、あああ…フ、フォローしないと! 取って付けた風じゃなくさり気なく!
「低く…なんてないじゃん、私からしたら高いんですけどぉ…ほら目線が合わないし」
どうだ? 自分的にはベストな返しだ。
「うぅ、北村はもっと高いぞ…」
ガクッと彼がうなだれてしまった。
私のバカ……どうすんのよ、追討ち掛けてどうすんの!?
な、ならこれなら!
「い、今まるおは関係無いじゃん…能登と私でなら、の…話なんだから」
よし! これなら大丈夫でしょ。
「あ、そういう事? 悪い、少し勘違いしてた」
とりあえずは納得してくれたみたい、僅かだけど表情が晴れた。
「あはは…私の言い方がマズかったから、ごめんね」
不用意な事を言うのは止めよう、またヘマしたら嫌だし。
口にチャックして黙々と歩く。…気まずい、嬉しいし楽しいけど…辛い。
前みたいに笑い話しながら歩けない、私が八つ当たりしたのが原因で…あれから何週間も経ったし仲直りもしたのに出来なくなっている。
能登も私も相手の出方を伺ってビクビクしている、ギクシャク、嫌だな、嫌だよ…。

胸がチクチク痛くて、鼻の奥がツン…と痺れる、涙が出そう。でも泣いたら駄目、彼が心配する。
..
.
「朝は寒かったけど、昼になったら暖かいな。歩いたら身体が熱くなるわ」
河川敷に着き、土手沿いの階段を数段下る。そして二人で端に腰掛けた。
通行の邪魔にならないように端っこ……間を空けようとする能登にジリジリ詰めて座ってみたりして。
彼の右隣にピタッとくっついてみる、仕方無さそうに装って…。
「詰めないと通行の邪魔になるし…」
言い訳を一息に言っても、ドキドキしてて…赤面してしまう、仕方無いじゃん能登と身体が近いし。
言葉を噛まないだけマシ、落ち着いているけど実は落ち着いていない、不思議な気持ち。
「で、ですよねー! 東屋もベンチも人が居るし! 不可抗力だ、ケホッ!」
能登も恥かしいんだ、私と同じく赤面して口走る。そして息が詰まったのか咳払いする。
チャンス! 今だ!
「喉痛いのかな………飲む?」
右のポケットからミルクティーを取り出し、能登の膝に載せる。
断れないようにポンッて…置いて、手を素早くポケットに突っ込む。
「良いの? 歩いたからかな、ちょうど喉も軽く渇いたんだ、サンキュー」

私は聞こえないフリして視線で彼の手を追う。
左手が缶を持ち、右手の人差し指がプルタブを持ち上げる様子を見守る。
缶が口元に運ばれるところは見ない、いや見れない。私がこれからする事に緊張して…。
見てしまったら意識してしまって能登のく、く唇がエロく見えるし、ね。
「わ、わた! 私もっ! 喉が渇いたかも! す、少しっ…ちょうだい!!」
彼が缶を降ろしたのを確認して私は作戦発動。狙いは……恥かしいな、か、かかか…かんせ……つ……きす!
「え! で、でも俺っ口を付けちゃったし!」
能登が慌てた様子で言い返してくる、多分…私がする事の意味を瞬時に察したのだ。
「気にしないっ! うん、ちゅ、中学生じゃないんだしぃ! う…能登は何考えてるのよ!?」
私は捲し立てる。自分の意図が相手にみえみえじゃん、だけどこれくらい強引じゃないと駄目なんだよ。
朝から決めていた事だし…でもちょっと変か、いやこれでいい。
櫛枝が言った事を免罪符にする、これなんて序の口…簡単に出来ないと気付いてはくれないんだもん、そうなんだよね?
彼の手から缶を奪うように取って、力強く握る。

一瞬躊躇したけど、何も考えずに一気に飲み干す。
ほら、何も変わらない。ただのミルクティー。買った時は熱かったソレも今は冷たく、食道を伝っていく。
そう、能登が口をつけたからって味は変わらない、けど…甘いミルクティーがより甘くなった気がする。
気持ち…心理的に甘くなるんだ、恋い焦がれている彼と一つの物を共有する事で至上の味に生まれ変わる。
大量生産で一つの例外無く同じ味の物が、彼に触れた後だと唯一の例外に変わる。
温度が冷えていても、飲むと身体が芯から暖まる、熱く…蕩けそうになる。能登の味だから…。

「…間接キスとかも能登は嫌? 男の子は嫌なのかな…」
『相談』を匂わすように掛けているのは、理由作りのため。まだ『理由』が無いと怖い。
「い、いや……そんなわけじゃない。ただ……言い難いんだけど」
そう前置きして、ポツリと彼が呟く。
「少し、いや、かなり…ドキドキする、な。あくまで俺はね…」
私達はそれ以上は何も言えなくなる、周囲の雑音が聞こえなくなるのは……心音が体内で高く響くから。
ジーンと耳鳴りもして、照れと緊張に身を縛られて身動き出来ない。

これくらいでドキドキしてたら、来週…アレを行動に進めると…ショック死するんじゃないの、ってくらい心の中は舞い上がる。
ああ…私は奥手なのかな、みんなしているからって気楽に構えてたけど、これマジヤバい。
全然違うし、予想よりも倍増しの恥かしさ。
「っ…それより次の相談なんですけどっ!!」
恥かしさを打ち消す為に私は大きな声で話し掛ける。
次の行動に移す為の布石を一つ、また一つ、私の『頑張り』は始まったばかりなのだ。
ここで止まるわけにはいかない、一つ出来たら、すぐに次へ。
遠回りした時間、周回遅れを取り戻したいから速く、確実に、こなす。
全力全開、私の本気でぶつかる。臆病な自分にサヨナラ。
見て貰いたいたった一人を得たいから私は諦めない!



続く

このページへのコメント

能登&木原の切なくて、もどかしい気持ちを存分に表した一人称視点は、感情移入しやすくていいですね
思わずにやけてしまいました

竜児を川嶋と結ばせる(正確に言えばみのりんと結ばせない)設定も上手く生かせててすごいです
GJ!

Posted by 読み手の一人 2010年02月21日(日) 09:30:17

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