web上で拾ったテキストをこそっと見られるようにする俺得Wiki



「すみませ〜ん。宅急便で〜す。」
玄関から居間まで、良く通る声で鳴くのはペリカンさんか黒猫さんか…どっちにしても近所迷惑だなぁ〜と思う。
この家にインターホンなんてものは無いから、仕方ないと言えば仕方ないが。
そして、木の葉の舞うこの季節。我が家、唯一のホットスポットから出なきゃならない。さむ〜い、さむ〜い、玄関に出なきゃならない。
そういう意味では、自分にとっても迷惑な話だ。
左を見る。猫の様に目を細め、だらしなくテーブルに顎を載せて、溶けてる奴が一名。
下半身をすっぽり炬燵に突っ込み、カバーしきれない上半身には毛布をくるむ徹底ぶり。
猫は炬燵で丸くなると言うが、虎もそうらしい。まあ一応、猫科だし。
右を見る。必死に蜜柑と格闘している奴が一名。良い年齢して指先真っ黄色にして何をやってるんだか。
我が親の事ながら、ときどき心配になる。ま、身体さえ健康なら、何でもよかろう。
老け込むよりは幼い方がマシというものだ。最近は、そう思う事にしている。
そんな事より、右も左も動く気配がない。そもそも、来客に気づいてすらないんじゃないだろうか…
結局、いつも自分が寒い目に逢わなきゃならないのは理不尽だ。
−おい。大河。宅急便だ。取って来なさい。
と、どっしり構えて指示出来る立場に、今の自分はあると思うのだが、
そんな事、一度たりとも出来た試しは無く、やっぱりやっぱり今回も自分が寒い目に逢うのである。はぁ、しゃあねぇな。
斬れ過ぎ注意。クリムゾンハイスラッシュラインガードで研磨されたテグハよりも、鈍く、鋭く光る、両の眼。
まだ、18年しか生きていないというのに、彼、高須竜児の持つ邪眼は千年生きた邪竜ミラボレアス(G級)よりも禍々しい。
別に、この時だって、
−この俺がわざわざ出向くんだ、それなりのモンは用意して貰わねぇとなぁ。
不足分はあんちゃん、あんたの内臓で埋めて貰おうか。
なんて、考えてる訳では無いのだ。

本性は、タダで貰える物なら、ゴミでも貰う。リサイクルこそ人類の誇りだと、胸を張って宣言する。
そんなエコ野郎なのだ。
「はいはい。ちょっとお待ち下さいね。え〜と判子判子。おう。あったあった。」
ガラガラガラガラガラガラ
「あ、宅配便で……ヒィ。」
「あ〜寒いのに、ご苦労様です。判子は〜あ、はいはい。ここですか?ここに判子ね。はいはい。」
「あ、あ、ありがとうございました〜〜」
ペリカンのアルバイト君は業務を全うし、足早に去って行った。むしろ、全速力に見えた。
余程、急いでるのかな?師走という程だし、やっぱり忙しいのだろう。
悲しくなるから、深くは考えないでおこう。だって、幸せは手の中にあるから。
ペリカンさんが運んで来てくれたのは、中位の小包。重さは意外と軽い。
何だろう?食べ物じゃないのかな?何かな?何かな?
わくわくするな〜中身は何かな〜早く中に入って開けてみよう。
というか寒い。炬燵。炬燵炬燵。早く炬燵に戻って開けよう。そうしよう。

「何?食べ物?もしかしてハム?やったね。」
さっきまで、ピクリともしなかった癖に、食べ物の匂いを嗅ぎつけた虎は、目を爛々と輝かせていた。
よっこいせ。おっさん臭い台詞を吐きながら、炬燵に潜る。
「さあ。重さからして食べ物じゃない気がするけど。
大体、うちにハム贈って貰える様な付き合いは無いぞ?」
「ん〜。竜ちゃん宛てみたいだねぇ。」
泰子は顔だけ、此方を向けながら、手は未だに蜜柑を剥いていた。
皮は剥き終わったらしく、今度は白いトコを懸命に除けている。意外と器用な奴。
「竜児宛てぇ〜?あんた、まさか、通販で他人には言えない様なモンを?
ああ、ヤダヤダ。私と言うものがありながら…あんたは、余所の女にはぁはぁしたいんだ?」
「バカッ!!何言ってんだよお前。そんな訳無いだろ!?」
「どうだかねぇ〜?最近、ご無沙汰だしねぇ〜」
「バカ。泰子の前で変な事言うなよ!!恥ずかしいだろ!?」
全く。まだ、18なんだし、ましてや女の子なんだから、もう少し慎みをだな…
「えぇ〜別にぃ、恥ずかしがらなくてもイインダヨ〜
やっちゃんはぁ、そ〜ゆうの容認派だし、早く孫の顔みたいもん。
竜ちゃんと、大河ちゃんの子供だから、きっと可愛い子だと思うなぁ、ね〜、大河ちゃん♪」
「ね〜、やっちゃん♪」

何故だろう。泰子は自分の実母の筈だが……
たまに、自分が婿で、大河と泰子が実の親子なんじゃないかと錯覚する事さえある。
女同士、結託して、ナイスな連携で自分をいびる事が、稀に良くある。
まさか、実家でマスオさん気分を味わう事になろうとは、思わなかった。
恐るべし手乗りタイガー。しかも、どんなに辛くても、返品は不可だという。
まあ、辛くも無ければ、まして返品するつもりなど全く、毛ほども無いのだけれど。
この程度の苦労で、手乗りタイガーと共に、幸せ享受し、共有する事が出来るなら、幾らでも来い。どんと来い。
鱗や外殻を堅固にし、竜として虎に並び立つ、一生をかけて守り抜く。そういう対象が居る事は、竜児にとっても、大きな喜びだった。
「まあ、食べ物じゃなくてもさ、例えば、商品券とか。
何かの懸賞が当たったのかもしれないぞ?」
「商品券?」
「おう。お米券とかギフト券とか。ビール券だったら、ちょっと嫌だな。俺たちは飲めねぇし。」
「大丈夫だよ〜。バレなきゃイインダヨ〜
やっちゃんは、秘密にしてあげるし〜」
「バカ。どこに、未成年の飲酒を助長する親がどこにいんだよ。
ダメです。うちは絶対、断固、NOです。ダメゼッタイ!」
「そんな下らない事言ってないで、早く開けてみなよ。
何券かな?肉券?魚券?乳製品券?ワクワク。ワクワク。」
「いや、そんなピンポイントな券ねぇだろ。いや、あるか?
てか、まだギフト券だと決まった訳じゃ…
まあ、とにかく開けて見るか。」
とか、言ってる竜児も内心はワクワクで封を解く。
それを見ている2人はもっとワクワクで。家中、ワクワクがワクワクでワクワクだった。
「そ〜れご開帳〜♪」
「わ〜〜い。…って何コレ?」
「う〜ん、カレンダー?」
カレンダー。ワクワクの三乗積。その解はよりにもよってカレンダー(虎年)だった。
「えぇ〜カレンダぁー?期待して損した。
あ〜あ。何か、私、無駄に消費したからお腹減ったぁ〜。」
「さっき、晩飯喰ったばっかだろ?いつも通りに三杯。
しかも、何を消費したんだよ、寝てた癖に。」
「うるさい。減ったもんは減ったんだ。プリン食べたい。
そだ、あんたにも食べさせてあげるから取って来てよ。」
「いらねぇ。寒いから嫌だ。自分で取ってこい。」
「私を大切にしないとバチ当たるよ?
きっと、中身がカレンダーだったのも、竜児のせいだ。」

「はいはい。俺はカレンダーでもありがたい。タダなんだし。」
「ふんだ。イイもん。自分で取りに行くもん。ベーだ。」
唇尖らせながら、大河は、軽やかな足取りで台所へと駆けて行った。
「そんな動けるんなら、人を使おうとするんじゃねぇよ。」
そんな事言いつつも、やっぱり、プリン位取って来てやっても良かったかな?
とか、思っちゃう竜児はプリンより甘かった。
「まあ、せっかくだし、ちょっと中見てみるか。」
カレンダーを手に取ってとりあえず、一枚ペロッと捲って見る。絶句。
「ああ、寒い。寒い。台所寒過ぎ。寒くて死んじゃう。
プリン食べるの命掛けだよ、これじゃ。」
光の速さで炬燵にダイブする大河に、
「おい、これ。これ。」
竜児はカレンダーを広げて見せてやる。絶句。
「これって、大河ちゃん?」
泰子以外は絶句。
泰子の言う通り、カレンダー(虎年)の1ページ目を飾って居たのは大河だった。
その華奢な両腕に愛らしい仔猫を抱いて、ニッコリと慈愛に満ちた、エンジェル大河だった。
竜児は絶句。大河も絶句。しかし、プリンは食べる。
「何で、カレンダーに大河ちゃん?
あれ?箱に何かまだ入ってるよ?手紙?」
泰子が発見したのは、一枚の紙キレ。どうやら、カレンダーの下に入ってたらしい。
「え〜と。なになに、
『高須竜児様。この度は、ご応募まことにありがとう御座いました。
高須様に、ご応募頂いた、御写真が見事、佳作に入選されました。
つきましては、』
え〜と…え〜、やっちゃんムリ。読めない。」
写真?応募?
「あっーー!!思いだしたぁ〜アレだぁ。」
叫んだのは2頭、同時だった。


夏の事

「あぁ〜〜。暑いよぉ〜。りゅ〜じ〜。どっか遊びに行こ〜よ〜」
「こんな日は、家でゴロゴロしてんのが一番なんだよ。あ〜あちぃ。」
みーんみーんみーん。耳を済ませば聞こえる。オーケストラ。
こんな暑い日にどこに遊びに行こうというのか。家に居りゃいいじゃん。動かなきゃ、涼しいんだし。
「遊びに行くったって、どこにだよ?
外は暑いし、涼しいのは市民プールくらいのもんだが、お前、プール嫌だろ?」
「嫌。」
「だろ?だから、家で寝てようぜ。
夕方になったら、スーパー連れてってやるから。
今日は、卵がお一人様1パック79円だ。お前も来い。」
「えぇ〜〜。」
「帰りにアイス買ってやるぞ?」
「行く。」
「おう。」
みーんみーんみーん。しばらくして、
「ねぇねぇ、りゅ〜じ〜。」
また、大河が話しかけてきた。本当に、落ち着きの無い奴。
「なんだよ?」
「ファミレスいこ〜よ〜あそこなら涼しいよ。クーラー効いててさ。ね?行こうよ。」
「ファミレスって櫛枝がバイトしてるトコか?」
ファミリーレストラン・ジョニーズ。
櫛枝実乃梨は今や、一番の古株で、バイトリーダーの地位に居るらしい。
時給も30円上がったとかで、複数掛け持ちしていたバイトは、非効率的だから、とジョニーズに一本化したらしい。
おかげで、所得も上がってしまい、学生の身でありながら、お上に血税を納めているとか。
「うん。ね、久しぶりに行こうよ。きっと、みのりんも居るよ?」
確かに、バイトリーダーだし、多分、実乃梨は居るだろうが、
「でも、帰りはともかく、行きは暑いぞ?」
「それ位、我慢しなよ。それに、去年はあんなに行ったじゃんか。」
そりゃ、去年はな。と、竜児は思う。
確かに去年は実乃梨に会いたいがために、ムリヤリ大河を連れてジョニーズに通った。
けど、今年は、大河が居る。今、隣に大河が居る。竜児にはそれで十分だった。

「まぁな〜。そりゃあ、去年は櫛枝に会いに通い詰めたけど、
今年は、別に良いや。大河がバイトしてるなら、俺は喜んで行くけどな。」
付き合い出した当初、実乃梨の話題はお互いに禁畏とされていた。
何で、俺だけ?大河も北村の事、禁畏だろ?
とか、思ったが、女は逞しいもので、過去を振り返らないものらしい。大河は北村と普通に友達やっていた。
そういえば、実乃梨も自分に対して、普通に友達として接して来たっけ?
でも、春先から夏へと時間は経ち、こうして、軽口を言えるまでになった。
時間を掛けて、傷は綺麗に塞がったのだ。
「竜児……」
「大河……」
お互いに熱い視線を送る。−そして…
暑い暑い言いながら何やってんだ、と言われるかもしれない。
でも、どんなに暑くても熱いのは我慢出来る。むしろ、大歓迎。
みーんみーんみーん。事後、しばらくして、
「ねぇ、ねぇ、りゅ〜じ〜」
再び、大河が話し掛けてきた。
何だよ、もう出ねぇぞ?ったく、そのうち、干からびるんじゃないだろうか…
「ん?」
「これ。」
大河が差し出してきたのは、一冊の雑誌。
竜児が疲れて寝てる間、大河は雑誌を読んでいたらしい。
あれだけやって、何故、女は平気なんだ?
これも、竜児が理不尽に感じざるを得ないトコロだった。女ってコワイ。
「え〜、写真応募?賞金10万円?」
「そうそう。何か、可愛い写真撮って応募したら、10万円貰えるんだってさ。」
「入賞すればだろ?」
「そうそう。10万円あったら、涼しいトコに旅行行けるよ?行こうよ。旅行。」
「だから、入賞したら、だろ?俺も旅行行きたいけど。」
「ふふふ。大丈夫。我に秘策有り。」
とか言って、大河はどこかに電話を掛けだした。
ま、大体、誰に掛けてるかは、予想出来る。ちょっと、向こうの声聞こえるし。
「来てくれたら、お礼にガリガリ君をやろう。」
いやいや、さすがにガリガリ君では釣れないだろう、と竜児は思う。
しかし、夏休みに入って、あいつにもしばらく会って無いな。
あいつは元気にやってるのかな?まあ、あいつに心配なんか無用か。
なにより、楽し気に電話を掛ける大河を見て、竜児の心も安らいだ。

「ふざけんじゃねぇ〜〜つの!!」
この暑いのに、ガリガリ君一本で、わざわざ友人宅に来さされた、スーパーモデルはご立腹だった。
「久しぶりに電話掛けてきて、困った事があった。どうしても力になって欲しい。
っていうから、忙しい身だってのに、わざわざ来てやったのに、
写真撮らせろだぁ!?あぁ!?
こっちゃプロなんだよ。これで飯食ってんの。
そんな素人のままごとみたいなコンテストに応募出来るかっつうのッ。
そんなもん、川嶋亜美の名に傷が付くわ。賞金10万だと?
誰が引き受けるかよ。ほとんど、ノーギャラじゃんそれ。」
川嶋亜美。大河、竜児の共通の友人。自他共に認める、現役高校生スーパーモデル。
きっと、実乃梨よりもいっぱい、税金を払っていて、確かに彼女なら、こんなコンテスト役者が不足しているどころの騒ぎでは無い。
オスカー女優が高校の文化祭の舞台で、お地蔵様の役を演じる位、勿体ない話である。
へぇ〜川嶋にとって10万ってノーギャラなんだ…すげぇな。
へぇ〜忙しいとか言って、すぐ来たじゃん…暇なんだ、やっぱり。
スーパーモデルを前にして、竜児も大河もそれぞれ、勝手な事を思っていた。
「とにかく、あんた、自分の写真撮って送りゃ良いじゃん。
あ、それと、高須君、ガリガリ君持って来て。」
「え?いるの?」
「当たり前だろうがッ!!こっちは、この暑い中、こんな熱い家に、アホみたいに下らない用事で来てやってんだよ。
さっさと、茶くらいだせよ。この穀潰しがッ。良いから持って来い。5秒で持って来い。いいな?はい、5〜4〜。」
「はいはい。」
「あ、竜児。私にも。」
「わかった。わかった。」
ハァ〜〜。去年に比べて、こいつもだいぶパワーアップしたよなぁ…
元々、超美人だったが、今は、枕に『絶世の』を付けねばならなくなった。
以前より、川嶋亜美らしさがハッキリしたというか……

あの、女優、川嶋安奈が、今では川嶋亜美の母親とか言われる始末。
逆七光現象。川嶋安奈も嬉しいやら悔しいやら、胸中複雑だろうに違いない。
ただ、パワーアップしたのは、川嶋亜美だけではなかった。「亜美ちゃん」まで一緒にパワーアップしてしまったもんだから、周りは良い迷惑だ。
誰だか知らないが、こいつのマネージャーさんも気の毒にな…きっと、
「あたしが、何か頼もうと思ったら、既に買いに行って居ない位がベストよ。わかった?」
とか、言われてるんだろうな。
多分、それ程外れてないだろう。竜児には確信があった。自分が川嶋亜美、並びに亜美ちゃんをちゃんと理解していると。
「はい。」
「ありがとう。」
「私ソーダ味が良い。」
「もう、レモン味しか残ってねぇ。五本ずつ入ってんのに、先にソーダ味ばっか食うからだろ?」
「えぇ〜やだ。だって、レモン味すっぱいもん。」
「いやいや、そんな訳ないでしょ。
ガリガリ君なんて、色が違うだけで、味なんて一緒よ。一緒。」
「コンビニバカ舌のばかちーに何がわかる。」
「定番コンビニアイスでしょうが、ガリガリ君なんて。
ハーゲンダッツとかレディボーデンじゃないんだから。」
「それもコンビニにあるだろ。」
「また太れ。メタちー」
「あんたが太れ。メタイガー。
あたしは、今、デトックス半端ないから、安心だも〜ん。
最近、ストレスも無くて、絶好調だもんね。
多分、頭、ピストルで撃たれても死なないよ、今のあたし。」
「いやいや、無い無い。それは無い。」
「ばかちー。あんた、まさか、変な薬やってるんじゃ……」
「ちょ、ばか。マジシャレになんねぇからソレ。
うちは事務所しっかりしてるし、そんな事にはなりませ〜ん。」
「いや、個人の問題だろ、それは。」

久しぶりの友人との会話。弾みに弾み、笑い、ふざけ合い、それは楽しい時間だった。
元気そうでなにより。竜児は安心する。
「で、本題だけどさ、タイガーの写真を高須君が撮って応募しなよ。
あんた見た目だけは可愛いんだし、多分イケるよ。」
「お前が言うかよ…それ。」
「高須君はお口チャック。次、無駄口叩いたら死刑だから。
ぶっちゃけ、あたしの写真送っても、落選するよ、絶対。
だって、あたしの写真なんか絶対、本人が送る訳無いんだし、まず事務所に問い合わせ来るよ?
そしたら、事務所はNG出すから、落選決定。
だから、あんたの写真贈りなって。ポーズ位なら教えてやるから。」
「ホント?」
「うん。ホントホント。」
「わかった。じゃあ、やってみる。
竜児、カメラお願い。」
「お、おう。」
何だか、変な事になってきた。まあ、どうせ暇だから、良いんだが、
え〜と、写ルンですで良いのかな?これ。デジカメなんて無いし。
「はーい。笑って笑って。」
パシャパシャ
「表情硬いよ〜リラックスリラックス。」
パシャパシャ
「肩の力抜いて〜大きく深呼吸して〜」
パシャパシャ〜パシャパシャ〜パシャパシャ〜
「どう?」
「イマイチかなぁ〜」
「だよなイマイチだよなぁ〜」
一通り、撮り終えての感想。イマイチ。これに尽きる。
原因は明らかだった。亜美が大河に教えたポーズ。
これは、亜美がやるから映えるのであって、大河がやると、なんというか…哀れだ。しかも、表情が硬い。
まあ、それでも、やっぱり可愛いから、この写真は後で、アルバム−大河メモリーvol32に収録しておこう。
「あんた、貧相過ぎ。むしろ、哀れさえ感じるわ。」
「そ、そんな事ないもん。私も哀れだと思ってたけど、
竜児が、そうじゃないって言ってくれたもん。
私の胸は、肉質が柔らか過ぎて、服に押されてるだけで、
綺麗で形が良いって褒めてくれたもん。ね、竜児。」

おう。そうだぞ。しかしな、人前でそういう事言うのは止そうな。良い子だから。
「ふぅ〜ん。あそ。」
案の定、亜美のつめた〜い視線が竜児に突き刺さる。
大河が失言する度に、何故か竜児が、周りからこういう目で見られる。
ははは。まったく、良い清涼剤だぜ。あはははは。
「仕方ない、場所変えようか。ここじゃ、背景として殺風景過ぎるんだよ。
公園でも行ってみる?良い絵が撮れるかもよ?」
「え〜暑いからヤダ。ばかちーが行って来てよ。よろしくー」
「バカ。あんたが来ないでどうすんのよ。ほら、さっさと行くよ。
変態カメラマンさんも良いわよね?それで。」
うう…辛い。
それから、道中、竜児はひたすら亜美にチクチクチクチク、アタックされながら、何とか公園に着いた。
もうやめて。俺のライフはとっくに0よ。
−公園は犬の散歩のメッカらしく、大小様々な犬が居た。
可愛いのやら、怖いのやら。
「にゃーん」
にゃーん?何と、足下にはちっちゃい仔ネコが。可愛い、可愛い過ぎる。
「あ〜可愛いなぁ〜」
うん。可愛い、可愛い。亜美の言う通り。めちゃくちゃ可愛い。
思わず、腰を下ろして、仔ネコを撫でてやろうとした、その時。
ゾクッ…
背後から、得体の知れない、突き刺さす様な黒いオーラを感じた。
可哀想に仔ネコは一目散に逃げ出し。
「…この、浮気者。」
地獄から響く様な重低音。久しぶりに聞いたな〜大河のこの低い声。
って、そんな場合じゃねぇ、浮気者?何が?
「あの泥棒猫。竜児に色目使いやがって。地獄の果てまでも追い詰めて、八つ裂きにしてやる。」
えぇ〜〜〜〜!?
「ちょ、ちょっと待て大河。誤解だ。てか浮気ってなんだよ。そんな事無いから、な、落ち着けって。」
必死だった。
や〜ね〜あの子達修羅場って奴かしら?
男の方、悪そうな顔してるもの。
可愛いそうに、お嬢ちゃんの方、いったいどんな酷い事されたのかしら。
そんな奥様方のヒソヒソも、竜児にはどうでも良かった。
お願い。鎮まって下さい。大河様。今は、ただ、それを願い続ける。

「あはははははははははは。ひ〜〜ひ〜〜げほげほげほ!!ひ〜ひ〜。」
ちゃっかりと、一人、公園の隅に設置されたベンチに避難していた亜美は、笑い過ぎて、蒸せていた。
「死ぬ。亜美ちゃん、笑い過ぎで死んじゃう。苦しー。ひ〜〜ひ〜〜。」
「…笑い過ぎでしょ。」
「だって、だってだって、猫に嫉妬とか、ありえねぇ〜マジありえねぇ〜よ。
さすが、手乗りタイガー、あたしたちに出来ない事を平然とやってのける。
そこに憧れないけどマジ笑える〜〜」
なら、笑い死んでしまえ。竜児は思う。
こっちは笑い事じゃねぇんだ。大河を鎮めるのに、竜児が受けた精神的ダメージは計り知れない。
「だって、だって、猫でも、私以外の女に竜児があんな顔するのは許せないもんッ!!」
「ぶっ。女?ひ〜〜ひ〜〜ヤバイ。マジウケるんですけど〜〜
私以外の女に竜児があんな顔するのは許せないもんッ!!(キリッ
ぶふぅ〜〜ありえねぇ〜〜マジ最高。あの猫オスだったじゃん。」
「へ?」
「だって、付いてたじゃん、アレ。」
「オス?ホント?」
「え?俺は見てないけど。」
「マジだよ。オスだよ、オス。ば、ばかだ。猫ってだけでも笑えるのに、オスだし。
高須君、オス猫と浮気…ぶふぅ〜マジぱねぇ、マジぱねぇっすよ、タイガーさんマジぱねぇ。」
「その…竜児、ごめんね。私の勘違いだったみたい。」
いや、謝られても…。オス猫だったから謝る。素直に謝るのは良い事だ。
でも、もしメス猫だったらどうなってたの?
よもや、自分は生涯、メス猫を可愛いがってはならないのか?
いや、猫だけではない、全てのメスを愛でてはならないのか?
インコちゃんって性別どっちだっけ?
インコちゃん焼き鳥化の危機に竜児に戦慄が走る。
そして、その時、竜児達の横を小さな影とそれを追う3つの影も同時に走った。

「今のって、あの猫だよな?」
「うん。なんか逃げてた?」
「てか、犬が3匹追いかけてた?」
何という、薄幸な猫なのだろう。コワーイ虎に凄まれ、逃げた先では、犬に追われ…
「私、ちょっと見てくる。」
そういって、大河は駆け出した。
「おい。ちょっと待てって。…って早ッ!!」
竜児の制止も聞かず大河は猛スピードで駆けていった。
「追うぞ、川嶋。」
「はぁ!?何で?」
「いいから。早く。」
「えぇ〜〜〜。」
大河は義理固い女だ。恐らく、さっきの仔猫を救出に向かったのだろう。
先ほどの己の不備を詫びる為に。仔猫を虐める不届きな犬共を追い払うつもりなのだ。
野犬でもあるまいし、飼い主の目を盗んで、ちょっとハメを外した飼い犬如き、
虎が後れを取る筈はない。ないが、やっぱり、大切な彼女。
竜児は、駆けずにはいられなかった。
そして、苦笑しつつも、結局、後を追う、亜美。お人好し癖は治ってない様だ。
その頃、現場は既に緊張状態だった。
大河の背には、怯える仔猫(♂)。前面には、犬3匹。大河は身をかがめ、威嚇体勢。
犬3匹も低く唸り、もはや、いつ殺し合いが始まってもおかしくない雰囲気。
先に動いた方が殺られる…
駆けつけた、竜児と亜美も、殺伐とした雰囲気に呑まれ、動けずにいた。
一瞬とも永遠とも、もはや時間の概念などない獣の世界。
均衡を破ったのは、…どこからか、聞こえる、他の犬の遠吠えだった。
−ワォ〜〜〜〜ン
ビクッ。犬達の様子がおかしい。
−ワォ〜〜〜〜ン
ビクッ。ビクッ。明らかに怯え、萎縮している。
ザサァッ!!奥の茂みから、黒い巨大な影が飛び出した。
それだけ、たったそれだけで、3匹の犬は蜘蛛の子を散らす様に、四散した。
−ワォ〜〜〜〜ン
威風堂々と、天高く、勝ち名乗りをあげる。
筋骨隆々、猛犬注意、真中にむっちむちのダブルコートの被毛も頼もしい巨大なハスキー犬。

「あ、あれはチーコちゃん!?」
「!?知ってるの?高須君。」
「ああ、横綱チーコ。奴は、大河にさえ力勝ちした、この公園の帝王だ。」
「ええ!?あのタイガーが負けた?」
「ああ。大河自身が負けを認めた。」
般若そっくりの容貌が、大河をじっと睨み付ける。
よう。久しぶりだな。その目が語る。あんた弱くなったな。ふん、まあ、女は幸せだけ求めりゃイイのさ。
そして、チラッと竜児に一瞥をくれ、チーコちゃんは、元居た茂みへと帰って行った。
「チーコは大変なものを盗んで行きました。それはタイガーの心です。」
「えっ!?嘘?」
「…何、間に受けてんのよ。正気?」
動物相手に嫉妬ってバカップルっレベルじゃね〜ぞ。
あ〜あ、休日返上して、何バカな事やってんだろ、あたし。やってらんねぇ〜〜と、亜美は愚痴る。
「いや、まあそりゃそうだ。何を焦ってんだ俺は。犬相手に。」
ふぅ。溜め息ついて、大河の方を見てみれば、それは素晴らしい絵があった。
怖かったね?大丈夫、大丈夫。もう大丈夫だよ。ヨシヨシ。
聖母の如く、仔猫を慈しむ大河の姿がそこにはあった。
(完)



583 ◆YK6vcTw7wM→◆Ye9TnXLFgwt6 sage 2009/11/28(土) 03:31:21 ID:2Dj5UwEw


何かトリップが大変な事に…今後、これでいきます。ご迷惑掛けて申し訳ないです。

(完)って付けたのこれが初めてじゃないかしら?
って読み切りは他に幾つか書いてますけどね、未完が多い事は反省してます。すみません。
貴重なアドバイスを頂きつつも、途中まで書いてる作品に反映させる事が難しく、心苦しく思っていた次第でして、
この短編に力の限り、反映させてみました。
原作っぽく書いたつもりですが、やはり地の文が目立っちゃってます。
ゆゆぽ先生マジぱねぇって感じです。これが、きっとプロと落書きの差なんでしょうね。
比較する事自体、おこがましいというか、何言ってんの?って感じですよね。
「エンドレスあーみん」も半分位、執筆中。では、また次回、宜しくです。

♯sami sage 2009/11/28(土) 03:12:59 ID:2Dj5UwEw
今回は、故あの先生を偲ぶをテーマに急遽、読み切りを作成しました。
今日のアニメを観た方には解るネタだと思います。
『クレヨン竜ちゃん』
埋めちゃったらごめんなさい。
規制掛かっちゃったら、支援お願い致しますです。

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