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「いらっしゃいませー」
「大河ー、今日は毎週恒例・金曜カレーの日だったよねー。――――って、え、えっ、なんじゃこりゃあ〜?!」

今日もランチしに来てくれた彼女――櫛枝実乃梨デカ、来店早々殉職!……ということはなく、
いつも通りウェイトレス姿の親友、手乗りタイガーに声をかけたら、身長145センチの小さなお嬢さんが、165センチの大きなお姉さんに。

「た、大河が、成長した〜っ?! まさか、オトナになる青いキャンディー食べちゃったとか? くそう、私も……いや! せっかくだから、俺はこの赤いキャンディーを選ぶぜ!」
「いや櫛枝、今ちょっとヘルプで亜美に手伝ってもらってるんだ。逢坂、具合悪いみたいで」「え、えっ、川嶋さん?!」

今日は逢坂仕事をお休み、いつもの小さいウェイトレスさんのいない店。
――実のところ、スプーンやフォークを床に落とすだけでなく、逢坂まで椅子から転げ落とし、仕事休ませる必殺コンボを決めたのは、
「高須、お前も逢坂と一緒に暮らしてるんだろ? いつの間にそういう仲になってたんだよ、水臭いな」
「きき、北村くん、どこでそんな事」「……いや、泰子さんが言って」って天然・北村のトドメの一撃だけど。

そんなわけで今日は、こんな定食屋に(失礼な)不釣合いなエプロン美女、川嶋亜美。
モデルとか芸能人とか聞くと、高級レストランに高級外車で乗り付け、眩いほどのセレブドレスを着こなし、完璧なテーブルマナーで高級フレンチなぞ……なんて俗っぽい想像するのだけど、
実際はこうやって、バイクに北村と二人乗りで店に乗り付け、確かにさりげなくいいもの身に付けてるけど、高価なアクセサリーなんかチャラチャラさせず、そしてエプロン姿で、カレーライスの女。

「ぷ、プロポーズ! うおぉ……やっぱり、黄色い薔薇の花持って『お嬢さんを僕にください』とかー?!」
「ああ、おじさんおばさんの家にはもう挨拶しに行った。――祐作くん、ちょっとお義母さんって呼んでみてー、とか」
「って……確か川嶋安奈の娘、って言ってたよな? あのいつまでも若々しい女性を(昔から)おばさん呼ばわりしてるって、何と恐ろしい……」
「泰子さんだって若々しいじゃないか」
「いや、アレは若々しいとか童顔とかじゃなく『幼い』んだって……店では「23でーす☆」とか言ってるんだぞ、泰子マイナス4才の時の子かよ、俺」

……あれ、今日はえらい美人さんのウェイトレスさんだ! とか、何か女優の川嶋安奈の若い頃にそっくりだよねー、とか、
あら、いつものちっちゃい女の子はお休みなの? とか、あれー? 大河ちゃんいないの〜、やっちゃんさみしいよお〜とか、
最近逢坂のおかげで少し増えてきたお客さんのかける言葉には、竜児と北村、ええそうなんですよーとかうまく相槌打って。

「えへへ☆これって、新妻、って感じかなー?」

そんな事言いながら、少し頬染め、浮かれ気味で北村と一緒に働いてる亜美のエプロン姿は見ていても幸せそうで(「でも、昔働いてたファミレスのウェイトレス制服着てくれたら、もぉご飯3杯いけちゃう!」・櫛枝談)
きっとモデルの仕事で、何十万円もするような綺麗で高価な衣装をもう数え切れないほど着こなしてきただろう彼女だけど、
今日の1着千円しない竜児手製エプロンが、幸せドレスが、本当によく似合ってると思う。

でも、そのエプロンは、フラフラ……っと力なく、幽霊のような足どりでマンションに帰った、逢坂のしていたもの。

「えー? いつもの小さいウェイトレスさんは、辞めちゃったの?」

――逢坂、お前のことずいぶん心配してくれる常連のお客さんだって何人もいるんだぞ、
お前がいないと、また『ヤクザの店』に逆戻りだよ、お前に、一緒にいてもらえないと。

***

店のすぐ隣、徒歩数十秒の豪華マンション。高須家から眩い陽射しや天日干し洗濯物を奪ってきたこの建物に、毎朝のように逢坂を迎えに行き、毎朝のように、オートロックの暗証番号を押すようになって。
毎朝起こしに行って、店ではいつも一緒、毎晩のようにあいつは部屋に転がり込んできて、メシ食ったりごろ寝したり風呂入ったり、帰るの面倒でそのまま泊まってく事だって。
……2人とも妙齢の男女なのだ、泰子がバラさなくたって、確かに誤解されるのも無理はない。

北村の婚約の話、竜児は既に知っていた。……逢坂には黙ってたが、言えなかったが。
竜児だってガキじゃない、「幼馴染が、トランク抱えて部屋に転がり込んできた」って時点で既に、『ああ、一緒に暮らし始めたんだな』と薄々感づいてはいたのだ。
以前2人だけで酒交わしながら、そんな事も話したりしてたのだ、伊達に長く親友やってないのだ。

自分も親友の幸せを手放しで喜べたら、どんなによかったことか。
――片想いしてる女の、頑張ってる女の事を知らなかったら、すぐ近くで、そいつをずっと見ていなかったら。

あの日、ラブレターを渡し間違えて、自分のドジさ加減に落ち込んで泣いてた(店で木刀を振り回しもしたが)手乗りタイガーを、何とかしてやりたいと。
……そこから始まった『ドラゴン食堂』ウェイトレスのアルバイト。だけど、いつしかこんな、すっかり馴れ合い共同生活関係に。

でもそれは、あくまでも北村の親友として、逢坂の片想いを応援してやる関係。
朝から晩までずっと一緒でも、合鍵を渡して朝ベッドまで起こしに、いや同じベッドで朝を迎えるような関係は、別の人と。
そこが2人の間に引かれていた『一線』なのだけど――――その前提条件が、壊れてしまったら。

北村のことが好きなのに――好きだからこそ、もう好きではいられない。もう想いを伝える事だって、できない。
だから恋心を傷心に封じ込めて、結婚するあいつを友人として祝福し、誰にもわからないように一人泣き、またぽろり涙を零すのか。
……そして『ドラゴン食堂』のウェイトレスとして働く理由も、店でも家でも、朝から晩までずっと竜児と一緒にいる理由も、なくなるのか。


エレベーターで二階フロアに上がり、玄関チャイムを鳴らすが、頑丈そうな扉に、鍵がかかっていない。
……あのドジはよく鍵をかけ忘れるのだけど、「私、実家と折り合い悪くて。この部屋に来るのなんか、竜児しかいないし」と言ったのだけど、
力なく帰った逢坂が鍵をかけるのも忘れたのか――または、きっと竜児が来ると判ってて、開けたままなのか。

「逢、坂……?」
「竜児……やっぱり。来ると思ってた」

確かに住んでいる住人がここにいるのに、まるでモデルルームのように全然生活感の感じられない、空疎で冷たい部屋。
その真ん中で、逢坂は、待っていた。目は真っ赤に充血し、頬には涙で濡れた痕。……きっと泣いてるかと思ったら、泣いてはいなかったけど。

「……どうしてだろう。ショックであんなに泣いてたのに、なのに、『営業時間が終わった、竜児、来てくれるかな』……って。
確証なんかなんにもないのに、本当に玄関のチャイムが鳴ってさ、わ、来てくれた! って嬉しくなって。――どうして、かな」
「……」
「ああそうだ、北村くんにちゃんとお祝い、言わなきゃ! はじめて見たけど、すごい綺麗なひとだよね!」
「逢坂。本当にそれで、いいのか?」
「……いいの! うん、もういいの」

逢坂は、健気にも、笑おうとしていた。こんな時にも関わらず、竜児の『北村の事は知ってたけど、逢坂には言えなかった』気持ちをちゃんと推し量って、
もうボロボロで、見ていて痛々しい微笑みだけど、もう泣かないと――――だって竜児が来てくれたのだから、私の側にいて優しくしてくれるのだから、こうやって包み込んでくれるのだから、もう泣かないと。

***

「どうだ、辛くないか?」
「うん、おいしい!」

閉店後の店で、2人だけのカレーライス。
お腹をすかせてるだろう手乗りタイガーのためにちゃんと一皿ぶん置いておいたカレーは、そこらへんの店が出す業務用ルー使った代物ではなく、
ちゃんと小麦粉と竜児オリジナルブレンドのカレースパイス炒めて混ぜるところから始める竜児の必殺カレー、週に1度しか出さないスペシャルメニュー。
……あのね、竜児のカレーライスが、世界で一番おいしいの! と、逢坂もお気に入りのメニューなのだ。

「本当――おいしい。あのね、私小さい頃から冷たいごはんばかりで、こうやって……あったかい、ごはんなんて……」

そう逢坂が呟くのは、もちろん、食事の温度とかレンジでチンとか、などという意味ではなくて。
たとえ一人で家事がこなせていろんな料理とか作れても、『暖かいごはん』は、家族団らんの食卓は作れない……だって、そんなのずっと知らなかったのだから、ここ『ドラゴン食堂』で、竜児のご飯で、はじめて知ったのだから。

「ウェイトレスのお仕事だってさ、最初、私絶対出来ないと思ってた。
でも、『美味しい』って喜んでくれるお客さんの顔見たら、あ、きっと私も同じ顔してるな……って思ったら、とっても嬉しくて。
私やみのりん、そしていつも来てくれるお客さんをそんな顔にすることのできる竜児って、本当に、凄いって思う」

そして、スプーン握りながらちいさく微笑んで、とても素直な言葉で、

「私、もっともっと竜児のご飯食べたいの! あと60年間1日3食食べるとして、6万5千食もあるんだよ!……これだけあったら、和食洋食中華にエスニック、世界制覇だってできるよね」
「……そうだな。逢坂、ずっと俺のメシ、食べてくれるか?」

――そう言ってから、これってまるでプロポーズの言葉だよね、しかも、どう見ても男女逆じゃん!……と、2人で笑い出しそうになったけど、

「あの時、お前を応援してやる……って、言ったよな」
「うん」
「もう、応援はできないけど――それでも、ずっと側にいて、いいか? 俺はお前と一緒にいたい、お前に一緒にいて欲しい、そう思ってる」
「私も……」


”大河、って呼んでいいか?”

店長と、ウェイトレス。竜児と、大河。ファーストキスは、一晩かけてじっくり煮込んだカレーの味がしたけれども、雰囲気台無しだとは思わない。
――他人に知られたら『失恋した女を男が慰めてたら、一線を越えてしまった』とか言われそうな、笑われそうな関係だけど、決してそんなのじゃない。

「大河……」
「んん……ふっ……ん」

2人の恋のレシピは、唇が感じる互いの柔らかで暖かな感触から始めて、
お互いの心も、金曜の夜一晩かけて、ゆっくりと重なり合わせることに。

***

「ウェディング・パイ贈呈? なにそれ」
「高校時代の友人連中がさ、『え! 北村のやつ、すごい美人と結婚するって?! よし、じゃあ思いっきり祝ってやろう!』って」
「……それで、結婚披露宴で北村くんに向かってお祝いのパイ投げをすんの?」
「新郎友人一同、祝福とやっかみも一緒にな。そのパイを、プロの料理人の俺が焼く事になってさ、思いっきり腕を振るってケーキのスポンジ焼いて、たっぷりホイップクリーム盛って」

竜児が運転する軽自動車、彼女とのドライブにかけるMDなんかついてない中古の白いサンバーバン(お店の営業車だ)だけど、
その助手席に座る大河は、今日は思いっきり豪華なひらひらふわふわ花柄模様ワンピース。たっぷりのレースやフリルがとても愛らしい、大河お気に入りの、普段着ないとっておきの勝負服。
今日はお店の定休日、大河のナビで竜児とドライブデート☆……の道中なのだ、ナビが道を間違えやしないか、多少不安だけど。

「昔そんな歌なかった? 別の女と結婚した男に教会で悪態つく女の歌。有名なウエディングソングだけど、結婚式では絶対歌えない曲」
「流石に教会でパイは投げなかったはずだぞ。……それで櫛枝も、『面白そー、私にもやらせて! うおぅ、元ソフトボーラーの右腕が唸るぜ〜、そのキレイな顔にフッ飛ばしてやる!』とか、えらく乗り気で」

さすがに何個もパイをぶつけて、新郎北村を白い正装ごとクリームで真っ白けにしたら披露宴ぶち壊しになるだろうけど、というか、そんな食べ物粗末にするような行為は、竜児のMOTTAINAI精神的にも許せないけど。
でも皆を代表して1個だけぶつけて、新郎その情けないパイ顔のまま、披露宴の各テーブルを新婦と回って皆にパイを食べてもらって、
最後にファースト・バイト、花嫁さんに顔のホイップクリーム舐め取ってもらう……ってサプライズはどうかな、お祝いだし、そういうのもいいよな……と、竜児は思ってる。

「私はいいかな、私の身長じゃ踏み台ないと北村くんの顔までパイ届きそうにないし。それに竜児のお手製パイでしょ、投げるより、食べたいし!」
「おう。大河のはちゃんと焼いてやるから、ちゃんとしたパイ。ミルフィーユだって、ピザパイだって、何だってな」「うん♪」

結婚するあいつを、2人で祝福してやろう……と、車内で目を細くして笑ってる2人、実はこいつらも、既に一緒に暮らし始めていたりして。
お前ら、前からそうしてたじゃないか……と言われたら確かにそうだけど、2人は朝も夜も一緒、ご飯もベッドも一緒。
大きいエプロンと小さいエプロン、毎日2人で店を開け、『ドラゴン食堂』も『タイガー&ドラゴン食堂』にしようか? とか、そんな話をしたり。

「それにさ、ブーケ・トスでウェディングブーケ受け取って、そのお返しに披露宴でパイ・トスってのは、ちょっとひどいよねーって」
「花嫁のブーケ受け取ったひとが、次の花嫁さん!――ってやつだろ。あれって後ろ向いて、誰に渡るか見えないようにして投げるんじゃなかったか?」
「それそれ、……ね、竜児も手伝って! 私背が低いから、でも、負けたくないから!」
「そうだな。よし、俺がお前を担いでやるから頑張れ、大河」「みのりんがね、すっごいトスキャッチの強敵なんだよ……」

来月には、恋人たちが生涯を共にしあう儀式、神の前で永遠の愛を誓い合う儀式。
……それはいつの世も、女の子がピュアに夢見てる、素敵なフェアリーテール。

次の花嫁向けにはブーケ・トスを、そして、次の花婿向けにはガーター・トスを。
新婦の脚につけていたリングガーターを、新郎が未婚の男性に投げるのだけど、ブーケ・トスで花束を受け取った女性の恋人や婚約者が会場にいたら、その人にちゃんとガーターが渡るよう投げるのがお約束。


――だって次の花嫁には、必ず、次の花婿がいるのだから。

<Fin>


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