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209 ローマの平日8  ◆/8XdRnPcqA sage 2010/04/22(木) 22:18:22 ID:l0izYW/w




この8月、亜美の二本目のハリウッド作品が公開された。
と言っても、限りなくB級に近い娯楽作品。
撮影期間もごく短い、軽い役だったらしいが、これまた大ヒットとなった。
役どころは、これまでとは一転して明るく快活な日本人留学生役で、みんなの人気者。
ただし、学園サスペンスホラー作品のため、中盤で犠牲者になってしまうのだが……。
つまり、映画のヒットと亜美の出演はぶっちゃけ関係ない。
亜美が語ってくれたことによると、安奈さん曰く。
ハリウッドでは、ぽっと出の若い女の子は、当たり役が出ると、どんどん似たような役ばかり出演させられて、使い捨てに
されることが多いらしい。
稼げるうちに、稼げるだけ稼げ、というわけだ。 逆に言えば、亜美クラスの女優は使い捨てに出来るだけ居るという事だ。
それでも生き残っていくのが後に大物女優となるのだが、亜美にはそれだけの実力も、魅力も無い。
だから、イメージを固定化せずにインパクトを保つ必要があるが、そのためにはオファーの集まる今のうちに、例え小さな役
でも、色々な役をやるべきなんだそうだ。
だが、今回の役も、『その他大勢』のくせに、妙に印象に残る役だった。
4ヶ月も休みがなくなったのは、編集の終わりごろになって、急に出演シーン追加の撮りが出たせいらしい。
それって、やっぱり亜美の魅力があるってことなんじゃないか、なんて俺は思ってしまうが、珍しく当の亜美は謙虚だ。
「要するに、あたしの演技が物足りなかったって事だと思うよ。 編集してるとそういうのはっきり見えちゃうから。」
なんて言っている。
素人の俺から見れば、贔屓目もあるだろうが、なかなかいい演技だったと思う。
もっとも、血まみれ映像は俺には衝撃的過ぎたが…
「すごいよねー、特殊メイクとCG。 血がドヴァーって。 KUROSAWAかと思っちゃったよ。」
「あのなぁ… あんな残酷シーンがあるんなら最初に教えてくれよ……。 トラウマになりかけたぞ。」


      ローマの平日 otto


そんな会話をしながら、俺達はティブルティーナ駅でレンタカー屋の準備待ちだ。
「もしかしてぇ〜 亜美ちゃんが死んじゃうシーン見て泣いちゃったりしたぁ?」
「しねーよ。」 
「ケッ、即答かよ。」
「泣いてはいねぇ。 が、叫びそうにはなった。」
「! へぇ〜 まじで?」
「大マジだ。 危なくとんだ小心者だと思われるところだった。」
「とんだ小心者じゃん。」
「…あ、あのなぁ… その毒舌、なんとかならねーのか? 一応俺達、恋人同士なんだよな?」
「そうだけど? それと竜児が小心者なのは関係ないじゃん。」
…うーむ。 どうやら亜美は自分の口が毒を吐いてる自覚がないらしい。
「ってか、それより何で叫びそうになったの? 血が怖かったとか?」
「違うわ! 自分の鼻血で血を見るのは慣れてる。」
「じゃ、なんで?」 いつもの意地悪顔。 
恐らく俺の答えをこいつは正確に予測している。 それでなお、俺に言わせる気なんだろう。
「そりゃ、お前が死ぬところなんか絶対見たくねーに決まってんだろ。 ってか、怪我するのだって嫌に決まってる。」
「うふ。 ふふふふ。 じゃ、竜児が守ってよね。 あたしが、傷つかないように。」
「お、おぅ。」
「くすっ……  ねぇ、それじゃ言ってみてよ。 『亜美は俺が守る』って。」
「!!」 くっ、やられた。 そう来たか…。
「ねぇ。」「くっ」 「ねーぇ。」「わ、わかったよ… あ、亜美は、お、俺が守…る」
「くすっ。 くすくすくす。」
こ、こいつ… 俺が照れるのを見て喜んでやがる…。
まったく、こまった奴だ。 とっとと話題を変えるしかねーな。 
「そ、それはそうと、お前の方から行きたい所があるなんて珍しいよな。 そろそろ場所を教えてくれよ。」
「ん〜そうねぇ、そろそろ発表しようかな。」
「どこなんだ?」
「…スカンノよ。」


イタリアじゃ、日本の常識「お客様は神様です」は通用しない。
ぶっちゃけ店員のやる気次第で待ち時間が決まる。
恐らく、俺一人だったら余裕で2時間待ちだが、亜美が交渉すれば10分待ちで希望の車が準備される。
何度も言うようだが、イタリアでは「美しい」ということは正義なのだ。
レンタカー屋ではイタリア車に次いで、フランス車、ドイツ車が多い。
今回は信頼性と経済性重視でスマートフォーツーカブリオmhdをチョイスした。
若干乗り心地に劣るが、燃費が良いのと故障が少ないのは大きなメリットだろう。
オープントップに拘るのは、前回のフィレンツェ旅行で亜美がすっかりオープンカーの魅力に取りつかれてしまったからだ。
安奈さんもオープンカーが好きと言っていたし、やっぱり親子だなぁ、なんて思ってついニヤニヤしてしまい、亜美に怒られる
という構図はいつものこと。

見上げれば夏の強い日差しが降り注ぎ、ややもすれば景色が白茶けて見えるほどの好天。
よって、今日も亜美は入念に日焼け止めを施していて、やっぱりそれを塗るのは俺の仕事だった。
まぁ、俺もいつまでもからかわれてばかりではいられん、ということで、今朝はちょっと手を滑らせてみたのだが…

ローマから目的地であるスカンノまでは一時間ちょっとだ。
いまだ少しばかり痛む後頭部を時々撫でながらハンドルを握る。
「ごめん… ちょっと力入れすぎちゃった、かな?」
苦笑いの亜美。
「でも、竜児が悪いんだからね。 朝っぱらからあんなこと……。」
自分からからかうのはOKだが、俺に愛撫されるのはNGだったらしい。 流石は我侭姫様。
だが、イかせちまったのはたしかにやりすぎだったかもしれない。
「あー、いや、確かに俺が悪かったか…。 …ちょっと、こぶが出来た程度だから、気にすんな。」
「うん。 わかればよろしい。」
「ははは…… しかし、あれだな、アブルッツォ州とはまたマイナーな場所選んだもんだなぁ。」
「やっぱりそうなの? あたしも全然聞いたこと無かったから、地元じゃどうなんだろうって思ってたんだ。」
「イタリアでもやっぱりメジャーってわけじゃないな。」
「でもね、撮影で使った場所は確かにすっごい綺麗だったよ。」
「一応、イタリアでも有数の自然が美しい場所として知られてはいるんだが、いかんせん観光施設がなぁ…。 一体、どこで
撮ったんだ?」
「えっとね、何とかって山。 カルスト台地で、石灰岩がごろごろしてるんだけど、その岩の間から綺麗な花がいっぱい咲いて
いて、すごい素敵だった。 あとは遠くからスカンノ湖を眺めるとさ、ハート型に見えるの。 あの湖って、丁度イタリアの真ん中
あたりなんだって? それで、『イタリアの心臓』とかっていう謎掛けの答えになってるってシナリオなの。」
「なるほどなぁ。 それは俺も知らなかった。 スタッフになかなかのイタリア通が居るようだな。」
「うふふふ。 竜児も知らない場所に行くのって、すっげー楽しみ♪」
「おう。確かに、ちょっとわくわくするな。」 

ハリウッド作品に連続出演し、そのどちらも大ヒット作品となったお陰で、亜美の日本国内での格が大幅に上がった。
今は映画やCMの仕事をメインにしていて、TVドラマをやる時間は限られているので、出演を取り付けたい各局は『手土産』
持参で出演交渉してくるらしい。
それで今回、某テレビ局が用意した『手土産』は、『10日間のイタリアロケ』。
さらに、撮影の合間に3日間のオフがあるという、ある意味、あざといほどのものだったのだそうだ。
あまりのあざとさに印象は悪かったが、イタリアロケは確かに魅力的だったから受けることにしたらしい。
で、今日はその前半の撮影でいった場所に、早速二人で行ってみようと、そういう訳である。

コクッロで高速道路から降りると、コクッロ=アンヴェルサ県道に入る。
標高2000m級の峻険な岩山の間を削るサジタリオ渓谷沿いに20kmほど進むと、青く輝く湖が現れる。
標高約900mの高原に空の青を映して輝くエメラルドグリーンの湖水。
そこが、スカンノ湖であった。


湖沿いを進んでいくと、その一角に砂浜が現れる。
高原の湖は急激に深くなる湖が多く、砂浜がないものが多いが、ここスカンノ湖にはネコの額ほどではあったが、砂浜があった。
いや、正確には砂ではなく、礫であるが。
浜のすぐ傍に駐車場が整備されており、何台か分のスペースが空いていた。
亜美の計画では、ここでお昼くらいまで水遊びを楽しんで、それからシエスタの時間帯になったら、スカンノの町中を通り抜け高台
から湖を眺めて、最後にシエスタが終わる頃に町にもどって街中散策を楽しむのだという。
移動は非効率的だが、順番としては確かに亜美のプランは良さそうだ。
だが、一つだけ賛成しかねる要素がある。

「なぁ、亜美。 本当に泳ぐ気か?」
「あったりまえじゃん。 何のために下に水着着てきたと思ってんのよ。」
「いや、水冷たくないか? 大抵こういう湖は夏でも水が異様に冷たいと相場が決まってるんだが。」
「たぶん冷たいけど、こんなに暑いんだから、丁度いいって。 それに、ほら、泳いでる人いるじゃん。」
「いやな、ヨーロッパ人は皮膚の感覚がおかしい奴が多いと思うんだよ。 俺的には。」
「ちょっと水浴び程度だって。 ほら、ウダウダ言ってないで、いくよ!」
そういって俺の手を無理やり引っ張る亜美は既に水着姿に変身している。
そもそも、今日の亜美のファッションは黒のワンピース水着に白のショートシャツをフロントでちょっと結んだだけ。
下はデニムのゆるゆるショートパンツ。 足の付け根付近の隙間から、時折中のハイレグ水着のラインがチラつく。
水着自体はちょっとエレガントな感じさえするハイレグワンピースで、亜美にしてはややおとなしめのデザインだが、服の下からの
チラ見えがかえってエロかった。
むしろ完全な水着姿の今は爽やかな健康美という感じ。
だが目立っている。
湖岸にはいかにも避暑にきたリゾート客という連中が陣取っていたが、亜美のナイスバディは早くも彼らの視線を惹き付けていた。
こうなると亜美に引き摺られるのも格好悪いので、おとなしくついていくことにする。
俺が観念したのを悟ると、亜美は先行して湖岸に陣を敷きに向かった。
そんな姿を苦笑い交じりに眺める。
周囲の視線はいまだ俺達に向けられているが…
なるほど、人目を引くわけだ。 ポニーテールに結わえた黒髪が左右に揺れる後姿も、確かに美しい。
「ほらっ、早く!」
シートを目当ての場所に広げ、四つ角に石をのせながら、亜美が手招く。
「おう。」
持参した弁当箱その他を両手にもてるだけ持って亜美の広げたシートに向かう俺は、さながら召使にでも見えるだろう。
それだけ外見にはギャップのある俺達だったが、それでも此処は人が少ない分、好奇の視線も少なくてすむ。
まぁ、あまり周りを気にしすぎるのも良くない、ということで、俺は陣地設営に精を出すことにしたのだった。


「よし、これで完璧だ。」
「………竜児、神経質すぎ……。」
「な、なに言ってんだよ、これくらいは普通だろ。」
「もうっ 待っててあげたんだから、早く水辺にいこうよ。 亜美ちゃん、汗かいちゃったじゃん。」
「はいはい、わかったから、うおっ。 っと。 そんなに引っ張るなって!」

波打ち際といっても、風が殆ど無いため湖はとても凪いでいて、波らしい波は無い。
亜美はまず、ちょん、と爪先を水に入れて、それからバシャバシャと水を跳ね上げた。
腰まで水に使って振り返る。
「つめたーい。 でも気持ちいい!!」
「ちゃんと準備体操しろよ。 危ない… うおおっ!」
いきなり亜美に水をかけられた。
「あははははは。」
「あ、あのなぁ、湖ってのはある意味、海より危険なんだぞ! いくら泳ぎが得意のお前でも…「湖には『躍層』といって、冷たい水
の塊の層がある。 そこが稀に水深が浅い位置にあると、立ち泳ぎをしたときに足がその層に入ってしまう。 そうすると急に冷た
い水に触れた足がつったりする。 さらには、『躍層』は対流しないが、その上の水の層は対流しているから、丁度足が掴まれた
状態になって、上半身だけが流され、水中に沈んでいく。 この現象が昔話で湖や沼の化物に引き摺り込まれる、という話の基に
なっている。」」
「……」
人差し指を立てて、物凄く得意そうな顔の亜美。 対する俺は…ああ…口をぱくぱくしてたかもしれん…。
「うふふふふふ。 竜児の薀蓄、撃破成功! どうよ? 亜美ちゃん凄ーい。」
「……わざわざ調べたのか?」
「うん。 ヤマ張って調べてきたけど大当たり〜。 あははは。 どう、気分は? 人から聞かされると薀蓄ってウザイでしょ?」
「…もしかして、他にもあるのか?」
「うんっ。 さーて、なーにかなぁ〜。」
まったく…… 本当にびっくり箱みたいな奴だ。
あの手この手で俺を驚かせたり、からかったり。 
尻にしかれると言うのとも違うような気がするが…こいつ相手にイニシアチブをとるのは至難の業だ…。
「でも、調べたおかげで、湖が危ないっていうのは良くわかったから、足が届かないところには行かないよ。」
「おう。 そうしてくれ。 あとな、俺を騙して溺れたふりをするのも無しな。 自慢じゃないが、120%取り乱す自信がある。」
「ぷっ 自分で言うなって。 あはは。 そうねぇ……正直さに免じて勘弁してあげる。」
「それっ!」 言い終わるや否や、水かけ攻撃を再開する亜美。
「おおぅ! おのれー。 これでどうだ!!」 掌で水面を斜めに叩くようにして水を飛ばす。 勢いも水量も亜美の数倍だ。
「わひゃ! …やったわねーーーー」
そうして先ずは水かけ合戦が始まったのだった。

それ以後はせいぜい膝くらいの深さの所で、文字通り『水遊び』に興じつつ時間が過ぎる。
付近にはプレジャーボートがぷかぷか浮かんでいて、それなりに賑わっているが、他の海岸に比べたら圧倒的に人は少ない。
きっとその辺りが亜美がここを選んだ理由なんだろう。
そして、亜美と戯れていると、時間が過ぎるのがあっという間だ。
何をしていたのかと聞かれると、特に何もしていないのだが、どういうわけか退屈しない。

今は二人でシートの上に寝転んでいたが、特に会話も無いのに楽しいのはどうした訳か?
ときどき亜美は俺の方を向いて、ちょん、と俺の腕やら胸やらをつつく。
だが、それだけ。
それが何度も続くので、お返しに俺もちょっとつついてみることにした。
胸の膨らみの裾野のほうを、ちょん、と。
亜美はちょっとだけ竦むと俺の方に笑顔で向き直り、また俺のおでこをつつく。
このなんともいえない甘い雰囲気に耐えかねて…
「えーと……そろそろ飯にしようぜ。」
こんな色気の無い台詞を口にしてしまう俺だった。



湖岸で食事を楽しんだ後、俺達は当初予定通り、小さなスカンノの町を通り抜け、湖を見下ろす高台に向かった。
そこは町の外れから細い山道を辿って、最終的には歩いて長い坂道を登らなければならない。
その坂道を意気揚々と登る亜美は、大胆にも水着姿にパレオというか、巻きスカートを巻いただけ。
しかもスカートの生地が薄いので太ももやおしりが透けて見える。
そんな格好の亜美が坂道を先導して歩くという事は、視界的にかなり刺激が強い。
男としてはどうしてもその桃のようなお尻や、足の隙間で悩ましく変形する柔肉の膨らみなんかに目がいってしまう。
だから…
「着いたー!」
そう言って急に立ち止まった亜美に、思いきり追突してしまった。
「おぅ!」「きゃっ!」
「ちょ、ちょっと竜児、気をつけてよ!」
「お、おう、すまん。」
「もう。 ほらっ、見てよ、湖。」
「お、おおお。」
高台からは視界を遮るものは無く、スカンノ湖の全貌が見て取れる。 高原の湖は見事な青に輝いてすこぶる美しい。
そして…
「ね、ハート型に見えるでしょ?」
「本当だな。 たしかにそんな感じに見える。」
若干いびつだが、確かにハート型と言えばそう見えなくも無い。
「あのね、ここから湖に向かってカップルでお祈りすると、湖の精霊が二人を永遠に結びつけてくれるんだって。」
「へー。 そんな言い伝えがあるのか。」
「ないよ。」
「…はぁ?」
「今作ったの。 だから、お祈りしても大丈夫だよ。 ほら、一緒にお祈りしよっ!」
「な、なんだそりゃ… 意味がわからん。」
「いいの。 亜美ちゃんの中でだけ本当ならいいの。 だから、ね。 いっせーの、せ。 パンパン。」
「しかも神道かよ!」
「いいから、竜児もほらっ、一緒に。 パンパンって。」
「……なんだかなぁ…… ほれ、ぱんぱん、っと。」
俺が手を合わせるのを横目で確認した後、亜美は合掌し目を瞑る。
つられて俺も目を閉じ…そして目を開いた時、亜美はまだ手を合わせていた。
その横顔がとても真剣で…
…ああ。ダメだ。 俺はまだまだコイツの気持ちを掴みきれていねぇ…。
もう一度、俺は目を瞑る。 そして、今度は真剣に祈った。
いつまでも、亜美と一緒にいられるように、と。

…そして目を開いたら、目の前で亜美の大きな目が悪戯っぽい光を放つ。
「あはははははっ なーに、くそ真面目な顔して拝んでるんだっつーの!」
「あ、あのなぁ。 拝めって言ったのはお前だろーが!」
「うんうん。 竜児は信心深いねー。 いい心がけじゃん。 いっそのこと亜美ちゃん教でも作っちゃう?」

そう言って俺をからかう天邪鬼は、下りの坂道、心なし機嫌が良さそうにみえたのだった。


そして本日最後の予定は街中散策。
スカンノはイタリアの原風景とも言われるほど、古いイタリアの様子を今に伝える町だ。
山の斜面に張り付くように同じような形をした家々が立ち並ぶ。
石畳の街路はまるで迷路のようで、あちこちにある階段が何処に続くのか見当もつかない。
だが、迷う心配は無い。
少し歩けば、すぐに町の外に出てしまうからだ。
そんな小さな町の中、とくに当て所も無くふらふら散策する。
窓辺のプランターには真っ赤なゼラニウムやベゴニアが植えてあり、味気ない石壁に文字通り華を添える。

やがてメインストリートに小さなお土産屋さんを見つけて、木彫りの人形を購入する亜美。
最近亜美はイタリア語のヒアリングが大体出来るようになってきた。
話すほうはまだまだだが、この短期間であるから、聞き取りが出来るようになっただけでも大したものである。
「随分イタリア語覚えてきたな。」
「ん〜どうかな。 大体聞き取れるけど、でもまだまだ意味が不確かな言葉が多い気がする…。」
「いやいや、会話が成り立つんだから十分だろ。」
そういえば、たまにカルロ兄貴とひそひそ話しをしているのだが…。
「ところで、お前、このあいだカルロ兄貴となんか話してたみたいだったけど、何を話してたんだ?」
「カルロさんって超カッコいいし、ガールフレンド山ほどいるでしょ? だから、いろいろ聞いてたの。男の喜ぶツボとか。」
「…なんだよ、それ。」
ほんのちょっとだが、気分が悪い。 確かにカルロ兄貴は男の俺からみてもイケメンだが…
にやりと歪んだ口元はそんな俺の嫉妬心に気付いているのだろう。
「そんなの聞いてどうするんだよ。」
「どうって? そりゃ演技に役立てるとか?」
「なんの演技だよ…。」
「さぁ、なんだろうね。 うふっ。 なーんか、エッチなこと想像してない?」
「してねーよ。」
「ふーん。 じゃ、カルロさんに指南してもらおっかなー。 夜のテクニック…。」
「なっ!!」
あまりにもあまりな台詞に、マジでむっとした。
思わず抗議をしそうになったが、頬を膨らませる亜美の顔を見て思いとどまる。
そしてここ最近のセックスのことを思い出す。 
確かに昨晩も俺の圧勝だったし、今朝もついつい勢いでトドメまで……うーむ。
「なぁ、お前、そんなに悔しかったのかよ。」
そう言ってしまってから、逆撫でするような台詞だったことに気がつく。 
だが怒るかと思った亜美は、意外にも呆れたような表情で…
「判ってないなぁ… 竜児はエッチしてて一番嬉しい時って、どんな時?」
「そりゃ… そうだな… やっぱり、お前がイッた時か …あ。」
「そーゆーこと。」
つまり、亜美から見たら… いやいや、まてよ、それなら…
「だったら、いつも一緒にイけるようにすればいいんじゃねーか?」
「何すっとぼけた事いってんの? あたしはね、我侭で欲張りなの!」
はい?
「……えーと……」
「ちゃーんと理解してる? 悔しいわけじゃないの。 ここ、重要な所だからね!」
「おう… 何というか、ある意味すげー納得した。」
「なら、よし。 …あ、でもわざと手加減したら承知しないから。」
なら、俺は一体どうすればいいんだよ…とは聞けない。 恐ろしくて。
そこで俺は少し赤らんできた西の空に話題を振って、この針のむしろから脱出することにした。
「それはそうと、随分日も傾いてきたな。 さて、夕飯はどうする?」
「……またそうやって誤魔化すんだから…。」
「はは。 ははは…。」
「…ま、いいけど。 そうね、スカンノの町も十分堪能したし、スタッフの迎えの時間もあるし…」
「ローマに戻るか。」 「うん。」

こうして、スカンノへの小旅行は幕を閉じることとなった。

スカンノを出たのは午後6時ころであったが、こうしてローマに帰って食事を終えても、ようやく日が沈み始めるところだ。
綺麗な夕焼けに染まるトラステベレ駅の前で、亜美の迎えの車を待っている。
いつもながら、この時間が一番寂しい時だ。
次に合えるのはいつのことやら……。
会話が途切れて、亜美は爪先で石畳の隙間の小石をもてあそんでいる。
「ところで、どんなドラマなんだ?」
寂しくて、あえてどうでもいい話を話題に選んだ。
「お前、いつも損な役回りばっかりだからよ…また変な役なんじゃねーだろうな?」
「ううん、今回はちゃんと主役。」
「秋の改変の特番だってさ。 旅行教養番組とサスペンスの融合? ん〜。 よくわかんね。」
「なんか、謎解きしながら、イタリア各地の観光名所を巡っていくらしいよ。」
「おいおい、てきとうだな…。」
「仕事だから、本番はちゃんとやるよ?」
「でも、正直言うと、今度クランクインする映画に全力投球したいんだよね。 イギリス映画なんだけど、ヒロイン役なんだ。
もちろん、台詞は全部英語だし、クイーンズってちょっと発音とか言い回しが違うんだよね…前の映画で英語喋ってたから
普通に喋れると思われちゃってるみたいでさ。 ご丁寧に『貧しい日系二世の設定なんで、たどたどしくお願いします…』
なんて注文つきよ。 そもそも上手になんて喋れねーっつの。」
「おいおい。大丈夫なのか? っていうか、そういうのちゃんと調べないでオファーくんのかよ。」
「プロデューサーが『亜美ちゃ〜ん、英語話せるって書いといたから、よろしくねぇ』って… ありえねーよ、あのゲイ野朗。」
「だが、日常会話は話せてたようだったが…」
「それこそ片言だよ。 読み書きは全然ダメだし、台詞なんかは発音含めて丸暗記。 でもね、確かに凄いいい映画になり
そうなんだよね…。 これちゃんと演じられたら、すごい自信つくと思うんだ…。」
「そんな訳で、台本と格闘しながら毎日自主訓練。 もーいやんなっちゃうけど…でも、がんばんないとね。」
今までに無く亜美の瞳が輝いてる。 
勿論、そんな亜美を見て、俺が嬉しくない筈が無い。 そのせいか、浮かれてつい的外れな質問をしてしまった。
「へぇーすげーじゃねぇか。 だったら、なんでテレビドラマの仕事請けたんだ?」
「なんで? なんでって… どうしてそんな判りきった事聞くかなぁ…」
「最近休みどんどん減ってるし、こうでもしないと会えないじゃん…」
「あ… …すまん。 そうだよな… 本当は俺の方から会いにいければ良いんだが…」
「ううん、あたしこそ…。 あたしが普通の女の子だったらもっともっと一緒にいれるのに……。」
急にしんみりしてしまった。
訪れた短い沈黙。

「ねぇ… あんたは、本当にあたしなんかでいいの?」
ついうっかり声に出してしまったような、そんな顔。 それだけに、それが亜美の本心だと知れる。

…『なんか』… ねぇ…
ここはきっちり、その思い違いを正してやるべきだろう。

「そうだな。 もしもお前が、お前より美人で、お前よりスタイルが良くて、お前よりも意地悪で、お前よりも素直じゃなくて、
それでいて、お前よりも優しい女の子を紹介してくれるって言うんなら、考えなくもねぇ。」
「なっ…… な、なによ、それ…」
まぁ、無理だよな。 最初の二つの条件をクリアするのでさえ至難だ。
困惑したような表情。 頬も心なしか赤い。
言葉遊びで俺が勝つのは珍しい。 それで、つい調子に乗ってしまった。
「おう。 そんな奴、見つけられるもんなら、見つけてみろ。」
「…っ!!」
「ぐほぁっ!!」
神速の右フックを俺の鳩尾に食らわせた後、ぷいっと背を向けて呟いた声は、どうしようもないくらい可愛らしかった。

「竜児の…バカ…。」

それは……最高に幸せな、そんなローマの点描。


                                                                    おわり。



216 98VM  ◆/8XdRnPcqA sage 2010/04/22(木) 22:24:33 ID:l0izYW/w

お粗末さまでした。
時々難しい言葉があるかも知れません。 そんなときは検索してみてね。
例えば、前々回の「カラヴァッジオのメドゥーサ」とか、ビジュアルで判ると
文章の面白さも随分違ってくると思うので。
お手間取らせて申し訳ないですが、是非。


208 98VM  ◆/8XdRnPcqA sage 2010/04/22(木) 22:17:14 ID:l0izYW/w

こんばんは、こんにちは。 98VMです。

規制解除されたと思ったら、また規制に巻き込まれた。
アリエナーイ
やっと解除されますた。

で、今回ですが、だらだらしてます。 ぐだぐだというべきでしょうか。

前提: とらドラ!P 亜美ルート90%エンド、ローマの祝日シリーズ
題名: ローマの平日8
エロ: なし
登場人物: 竜児、亜美
ジャンル: 日常。
分量: 7レス

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