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事件と生理は忘れた頃訪れる。




亜美はその日もいつものように自販機の間に挟まっていた。
そこでそうしていると、大抵の者は空気を読んで近寄ってこない。
だから、足音が近づいてくる時は亜美の知り合いと決まっているのだが、とりわけその足音だけは聞き分けることができた。

「おう… まーた、挟まってるのかよ。 お前、ほんっとにそこ好きだよな。」
「だぁーって、ここは亜美ちゃんの隙間なんだもーん。」

高須竜児は基本的に真面目な生徒であるが、こと、この校則だけは頻繁に破り続けている。
その意味を、竜児も亜美も一度も考えた事は無い。
少なくとも今は、ここで二人はよく出会う、それだけの事実に過ぎなかった。

そして今日も、案の定二人は出会った訳である。
亜美は残り少なくなった紅茶が、缶の中でかすかに水音を立てるのを聞きながら、それっきり何も言わずコーヒーを購入して
飲み始めた竜児の足元を見ていた。
これといった話題が思いつかない亜美。 竜児のほうも同じなのか、時々亜美をちらりと見るが言葉は無い。
(あーあ… なんだかなぁ。 せっかく二人きりなのに、なんも思いつかねってか…)
スカートの端を気にしながら立ち上がる亜美。
何の気なしに、とりあえずいつも通り、からかい半分で撮影現場に誘う。
「そうだ、高須くん、今度の日曜、撮影あるんだけど、見に来ない?」
「日曜か…。 そうだな……。」
「そ、日曜。 今回は見学オッケーな撮影だから。」
「…そうか …うーん。  んじゃ、いってみるか…。」
「そう。」
亜美は、『まぁ、そう言うと思ったわ』的な顔と仕草の後、残った紅茶を一気に喉に流し込もうとして…
(…いってみるか…って ……へっ? ) 「――――!! ぶぐっ」
一気に気管支に流し込んでしまった。
「ぐおぶぉっ!! ぐほっ! ぐはぁっ! げふげぼ げふっ! げふっ!!」
「うおっ!! 大丈夫か! 川嶋!! うわっ!」
激しく咳き込む亜美の背中をさすりながら、亜美が吹きだした紅茶を顔面に受けつつ、一生懸命介抱する竜児。

その甲斐あって、まもなく亜美は復帰した。
「ぜはっ ぜはっ た、高須くん、今… いってみるって…。」
「おう。 っていうか、本当に大丈夫か? メチャクチャやばげに咳こんでたぞ。」
「ぜはっ ぜはっ へ、平気。 それより、本気なの?」
「お、おう。 今度の日曜は大河もなんか用事があるとかで、俺は暇だしな。 それとも……やっぱりからかっただけなのか?」
「ううん! そんなこと無い!」
「そうか。 んじゃ、行っていいか?」「うんっ♪」
いきなり満面の笑顔になった亜美。 そんな笑顔を見ると、ご奉仕体質の竜児もまた嬉しくなってしまうのだった。
「ところで、高須くん、顔になんかついてるけど…・・・ ふふふ。 なんか間抜け〜。」
「…これはなぁ… お前が吹いた紅茶だーーー!!」

******

亜美が立ち去ったあと、ハンカチで顔を拭い、のこったコーヒーを飲み干した竜児。
あまり見たことがないような、亜美の子供っぽい笑顔を思い出し、竜児は驚きと、胸の高鳴りを感じる。
その時ふと、なにかいい香りを感じて、その出所を探すと、己の左手だった。
そして、今更になって、亜美の背中をさすっていた事を思い出し、顔を赤らめる。
微かな香りは亜美の残り香。
左手の指にキラリと光を反射する細く長い髪。
亜美の美しいロングヘアーをかき分けながら、さすった背中の柔らかさや、暖かさを思い出し、今更ながら興奮する。
左手を顔の近くに運べば、亜美の甘い香りがふわりと舞って、思わず前かがみになりそうな竜児であった。




******

そして撮影当日。
川嶋亜美は大変な事実を失念していた。
撮影は数人のモデルと一緒に行われるのだが、亜美はその大人っぽい印象と完成されたプロポーションから、大抵の場合、
アダルト、セクシー、エレガント、これらのキーワードをフィーチャーした服があてがわれる。
そして、この日の衣装には水着が含まれていた。
女性向けといえど、一応背伸びしたい年頃の層がターゲットであるから、けっこうキワドイ水着も含まれているのだが、
それらの担当はことごとく亜美なのである。
写真を写している方向からはおとなしめに見えるポーズも、見学者の視点だと色々ヤバイ角度になる事はままあった。
去年の夏にそこそこエロイ水着姿を披露してはいたが、あの頃とは亜美の側の気持ちの持ちようが違う。
しかも撮影で様々なポーズを撮るとなれば、ついつい写真家よりも、竜児の視線が気になってしまうのも乙女心といえよう。
雑誌に載る時に、選別されて外される写真の中には、ぽっちんしてたり、食い込んじゃったりしたものもあるのだ。
つまり、撮影現場では、そういう事なのである。
そんな訳で…
この日の亜美はボロボロだった。
ひとりで怒られまくっている。 
亜美が上手く撮れずに、他のモデルにも迷惑が掛かっているのが、竜児の目にも明らかだった。
完全に調子が狂ってしまったのか、亜美はもう、けちょんけちょんにけなされて、竜児も見ているのが辛いほど。
竜児から見れば亜美はそんなにミスをしているようには見えないのに、存在を否定するかのような罵声が何度と無く浴びせ
られていて、酷く気分が悪い。
亜美に罵声が浴びせられる度、竜児は今すぐ亜美を連れて帰りたい衝動に駆られていた。

そしてついに…
「こりゃ、表紙入れ換えますか…」 「―――!」
「仕方ないですね…」 「ま、待って下さい! ちゃんとやります! がんばりますからっ!!」
「いや、時間もあるし、川嶋さん、今日は調子悪そうだしねぇ…。」
現場の監督のような人物はそう言って、隅っこで待機していた、唯一亜美と並んでも遜色なさそうなモデルに向き直った。
「あ、わたし、水着着る準備してきてないので。 それと、亜美が表紙のほうが確実に売れると思いますけど。」
その彼女はすかさず亜美の援護射撃。 にべも無く断る構え。
彼女の性格を知っているのか、男は渋面を作ると、スタッフ同士で協議に入る。
この一連のやりとりは、竜児にとっては衝撃的なシビアさだった。
スタッフの言葉は軽い言い回しだが、『あんた、もう帰っていいよ』と言わんばかりの響きが含まれている。
正直、学校やアルバイトではちょっと見れない光景なのだ。

数分間の後、亜美に下された審判は、続投。
そしてその審判に使われた数分間は亜美にとっては天佑か。
協議の間ずっと目を瞑っていた亜美は、続投が告げられた時、別人のように落ち着きを取り戻していたのだった。




******

全ての撮影が終わったのは、予定よりも数時間遅れて夕刻だった。
帰りのタクシーの中、二人は一言も話さない。
亜美はすっかり落ち込んでいた。
(またやっちゃった… 最悪。 もう高須くんの前で、プロのモデルだなんて言えないよ……。 その上、途中からは高須くんのこと
忘れてほったらかしにしちゃったし……。 あたし、高須くんの前で失敗ばっかり………。)
ちらりと竜児の顔色を窺う亜美。 竜児はむずかしい顔をしてまっすぐ前を見ている。
(きっと高須くんのなかで、亜美ちゃんの株下がりまくりだよね……。 気まずくて何話していいのかわかんないって感じだもん…)
亜美はタクシーの窓にうっすらと映る自分の顔を見る。
(ははは… 何コレ。 …くっらい顔。)

そして、やがてタクシーは亜美の家の近くで停まった。
太陽が西の地平に足をかけ、東の空はもう夜の帳が下りかけている。 街灯の水銀灯は薄紫に輝き始めていた。
「高須くん、タクシー券の使い方わかる?」
「お、おう。 多分、大丈夫だ。」
「そか。 じゃ、あたしはここで降りるね。 今日はありがと。 でも、あんまり面白くなかったよね。ゴメン。 じゃぁね。」
竜児が口を挟む暇がないように、素早く言い切るとタクシーを降りる亜美。
最初の数歩は足早だったが、すぐに足が止まる。
深く溜息をつき、空を見上げた。
やがて背中にタクシーが走り去る音を聞きながら、亜美は空を見上げたままの姿勢でとぼとぼと歩き出す。
何故か竜児が絡むと格好良くいかない。
薄い雲がオレンジに光りながら流れていく空を見上げているのには訳があった。
こんな事では絶対に溢れ出させるわけにはいかないものがあるからだったが…
それが溢れ出す前に辿り着くには、家までの数十メートルがやけに遠く思える。
だが、そんな時―――。
「川嶋!」
思いがけず、背中から声が追ってきた。
「…高須くん…。」 (うそ、なんで?)
駆け寄ってくる高須竜児。
「いや、やっぱちゃんと言ったほうがいいかなと思って…」
「………なに?」
「その、今日は誘ってくれてありがとな。 見に行ってよかったよ。」
「どういう…こと?」 (なに?あたしの無様な姿が見れてよかったって言うの?)
「すぐ近くに、こんなすげぇ奴がいるんだって、気がついて… なんか、いろいろ感動した。」
「ふぇ? す、凄いって?」
「あんな厳しい世界で………。 お前さ、やっぱ凄い奴なんだなって、改めてわかったよ。」
「で、でも、あたし今日はぜんぜんダメダメで…。」
「ああ。前半はそうだったみたいだが、後半は違ったろ?」
「………」
「お前、めちゃくちゃカッコよかったぞ。 それに、その……。」
竜児の顔が色づいているのは夕日のせいなのかもしれないが、あるいは……。
「とんでもなく…き、綺麗…だった…。」
最後のほうはかなりごにょごにょしていたが、――― 亜美には確かにそう聞こえた ―――

******

自室の鏡の前で髪をいじくる美少女。
泣きかけたせいか、ほんの少し目尻が赤かったが………
タクシーの窓に映った顔は目の錯覚だったのかもしれない、そう思わせるほど、今の彼女は素敵な笑顔で。

「…うん。 よし!」
「亜美ちゃん、今日も可愛い♪♪」



            〜 亜美ちゃんの平凡な一日 3 〜                            どっとはらい。




98 名無しさん@ピンキー sage 2010/06/10(木) 22:22:10 ID:AU7F1UEA
いじょ。

またなにか思いついたら書いてみます〜
でわ。

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