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夏休みに sage New! 2009/09/23(水) 22:39:19 ID:kJIZq9XL 

会長が去ったあの日から何ヶ月か――。
 再び巡って来た夏、祐作は受験勉強に追われていた。
 そんな彼は、気を紛らわすため、時折散歩に出る。
 街を歩けば、同じく気晴らしにでてきた高須や櫛枝とでくわすこともあった。
 高須は祖父の経済的後ろ盾を得て医学部を目指し、櫛枝は体育学部を目指している。何れも、実現は見えていた。川島だって、将来に夢が沢山広がってる。
 だが――。
 いまだ、目標が見つからずにいるのだ。
 既に、彼のにはどこの大学にも入れるだけの力はついている。だが、なぜかそれに満足する事ができなかった。
 晴れ渡る空の下、高須と大河がよく歩いていた河原をまわり、駅へ向かう。かなり暑いが、ソフト部の練習とくらべたら、どうってことはないと思う。
 そして駅前。ふと、かのうやの看板が目に入る。
「いるわけ、ないか」
 散歩に出ると、ついこの前を通ってしまう。
 いくら夏休みでも、あの人がいるわけが無いのに。

「墓参りじゃ仕方ないか」
 米国あたりではえらく目立つ姿の娘が、車から降りた。国産にこだわる父が運転する、冠マークがついた高級車だ。
 わざわざ、その米国から呼び出され、夏恒例の墓参りに親とつき合って来たところだ。
 そして他の家族も車から降りる。どうせ国産なら、大きなミニバンかなにかにすればいいのに、家族で乗ると狭いじゃないか。そう思うが、口に出さないくらいの分別はとっくの昔に身につけている。
「ちょっと、散歩に出てくる。久々に、街が見たい」
 すみれはそう言うと、ひとりで歩いて行った。
 親が経営する「かのうや」の脇を通り、駅の方へ。そして、見つかれば目立つころうけあいの、かつての母校の姿を見に行く。
「いるわけ、ないか」
 グランドで練習するソフト部が目に入った。

「おーす、息抜きか」
 祐作の背後から、声をかける男子。
「おお、春田か。受験勉強はどうだ?」
「まあまあ、かな。親の店をやることは決まってるんだけどよ、せめて短大か専門くらいは行けって、親父が五月蝿くてなあ」
「大学は行かないのか」
「ははっ、行けたら、な。いーけーたーらー。そんなわけで、親父のいない所で勉強なんぞしに行くところよ」
 春田はにたっと笑って答えた。
「で、生徒会長どのは、志望きまったの? よりどりみどりで、たーいへんかもしれないけど」
「まあな」
「あ、肯定しやがった。なんとも、羨ましいなやみじゃね?」
 肘で小突く春田の言葉に、祐作は黙って肩をすくめてみせた。
「でもよー、実際のとこ受かる自信ないんでないかい。本命は」
「えっ?」
「ははっ、まあ、図星ってとこだな。じゃ、勉強がんばれや」
 春田はそう言うと、その場を後にした。

 暫く学校の様子を眺めていたすみれは、誰も気がつかない事に安堵の気持ちと残念さをこめた溜息をつき、家路についた。
 私服じゃ気づかないのも仕方ない。帰り道でも、数人の生徒とすれ違ったが、だれも振り向いてはくれなかった。
「ちょっと、寂しいな」
 ぼそり、独語する。
 帰ったら、あっちに戻る前に店のみんなに挨拶だけはしておこう。
 彼等が働いてくれてるおかげで、自分は贅沢にも留学などしていられるのだ。感謝しないと。

 ……ぴぽぴぽ♪
 携帯が鳴る。画面には「はるた」の文字。
『おーい、会長。会長みたぞ、会長』
「意味分からないぞ、おちつけ」
『失恋大明神、会長ったら、あの会長だってば』
「!?」
 ぶち。祐作は友人の電話を一方的に切り、あの人の番号を探した。
 みつからない。そう、あの日、自分にけじめを付けるため、消したのだった。
 が、手は勝手に動いていた。悲しいかな、彼の記憶力は、あの番号を暗記するくらいの余力があったのだ。
『びー。オカケニナッタ番号ハ、ゲンザイ……』
「そう、だよな」
 いまだに、日本での携帯を持っているわけが無いのだ。

「そんな、出征するわけでもなしに」
 すみれの前にでてきた夕食は、無駄に豪華な懐石だった。
「店で売ってるようなもので良いのに」
「お姉ちゃん、たまにしか和食にありつけないんだからさ」
「そう、だが」
「だったらほら、いただきまーす」
 陽気な声をあげ、妹は料理を食べ始めた。久々の、一家そろっての夕食だ。もちろん、あっちではこれほどの和食は食べられない。いや、ないことないが、彼女にしてみても異様に高価なものとなった。
 食事が済み、久しぶりに店の屋上から日本の夜空を眺め、何れはあの星に近づくつもりだ、などと想いを馳せた。
「ねえ、お姉ちゃん」
 妹も屋上に来て、声をかけて来た。
「なんだ」
「いいの? すぐに帰っちゃうのに」
「何が、だ?」
「忘れられてないでしょ、会長さん」
「何を言ってるんだ、何を」
「電話してあげなよ」
「番号は、とっくに忘れた。携帯も解約した」
 空を見上げて答えるすみれ。けじめは付けたはずだ。
 だが、妹はポケットに手を入れて笑いかけた。
「はい、貸してあげる。北村会長、進路決まらなくて」
「あの、バカ……」
 すみれは妹の携帯を受け取ると、暫くその画面を黙って眺めた後、見慣れた番号を呼び出した。

 ……ぽっぺぽっぺぽー♪
 携帯が鳴る。生徒会関係用の着メロだ。画面には「さくら」の文字。
「何の用だろう」
 何気なく、通話ボタンを押す。
『くぉらーーー、きたむらぁーーーー!!』
「ははは、はい、会長……へ?」
 うっかり、さくらがすみれの妹なのをわすれていた。でもまさか、あっちからかけてくるとは。
『会長はてめーだろうが! まだ進路決まってねえのか、バカモノ、バカ、モ……ぐしゅ』
「あ、あの」
『す、すまない。取り乱した。わたしは明日、あっちに帰る、だからな……ぐしょ』
「あ、あ、あの、お時間ありますか」
『だから、ない』
「今、です」
『……わかった』


 二学期が始まると、竜児は久しぶりに見た祐作の顔に変化を見つけた。
「なにか、あったのか」
「まあ、な。俺、アメリカに行く事にした」
「マジかよ」
「だからな、まだ勉強が足りん。ははっ、まずはまともに英語が話せないとな!」
「ああ、がんばれよ」
 と、口では言っていたが、竜児にはなんとなくこの言葉が聞けると予想していた。買い物帰り、もと会長と彼が、スドバの店先でべったりとよりそってるのを見てしまったから。 
「ところで高須。ひとつ聞いて良いか?」
「なんだ。俺は留学なんて無理だぞ」
「そうじゃない、逢坂とは、一度くらいキスしたのか?」
「あ、ああ。一応」
 一度どころ、ではないが。
「そうか。なんか、離れてる気がしなくなるよな、うん」
 祐作はひとりで勝手に納得すると、「べんきょーべんきょー」と言いながら、教室に戻って行った。

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