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夏休みに 補完 sage 2009/09/26(土) 02:09:21 ID:EwLLC+N+


 赤い夕日が照りつける黄昏時、涼しくなったところで竜児は買い出しに出た。
 祖父という後ろ盾が出来たとはいえ、基本的に泰子と二人で暮らしてる事にはかわりなく、勉強の合間に食事や家事をこなしていた。
 河原の道で、春田とばったり出くわした。なにやら重そうな鞄を手に、家に帰る所のようだった。 
「おう、こんな時間に奇遇だな」
「竜児はあいかわらず。あ、そうだ、聞いてくれよ」
 春田は、挨拶だけで済まそうとした竜児を捉まえ、話しかけた。
「さっき、学校の図書室で勉強したたんだ」
「へえ、熱心だな。お盆だったのに。つーか良くあいてたな」
「それはいいんだってば。その図書館の窓から外を見たら、会長がいたんだよ、会長が」
「北村が? まあ、学校にはよく出てるから」
「ちがう、ちがう。狩野の兄貴のほうだって。もう、びっくりしてさ、思わず北村に電話しちまった」
「はあ……。謝っとけよ、北村に。それが本人なら辛いだろうし、未間違いだったらなおのことだぞ」
「あ、うん。あとで後悔した。話してる途中でブチッて切られてさ、怒らせちまったよ、きっと」
「ショウガネエなあ。謝っとけよ、マジで」
 竜児はそれだけ言うと、目的のスーパーへ急いだ。タイムセールまで時間が無い。

 一人の少年が街を駆け抜けて行く。そうとう鍛えているのか、夜でもクソ暑いこの季節だというのに、表情には余裕があった。
 駅前通りの過度を曲がり、かのうやへ向かう。
 その店から通り一本手前で、少女、いや大人のレディへの階段を上りつつある、黒髪の女性が待っていた。
「ふっ、本当に来やがったな」
「もちろんです」
「聞いたぞ、失恋大明神だってな」
「あなたのせいですよ」
「ちがいない」
 久々に顔を合わせた二人は、互いの成長ぶりをすぐに感じとったが、それはおくびにも出さない。それこそが、成長の証なのかもしれないが。
「えっと、せっかくですから、少し街を歩きましょう。あまり変わってはいませんが」
 祐作は行く先も考えずにゆっくり歩き出した。
 足が向いた先は、自然と学校の方。この先の公園を突っ切ると近道なのは、二人とも良く知っている。
「遅刻しそうだと、よくここを突っ切ったものさ」
 すみれは、公園の砂利道を踏みしめながら言った。
「あれ? 遅刻しそうになったことなんか、あるんですか」
「ははっ、余計なお世話だ。ところで北村」
 なにかに聞き耳を立てるようにして、すみれはふと立ち止まった。
「ひとり、ふたり……五人ってとこか」
 物陰から、ガラの悪そうな男たちがのっそりと現れた。
「金持ちそうな姉ちゃんだな。だまって置いて行きな」
「それより、僕らとあそばな〜い?」
 絵に描いたようなチンピラだった。
 すみれはめんどくさそうに「まあ、金持ちではあるが、貴様らにやるカネはないぞ」と苦笑してみせた。
「痛い目にあいてえか?」
 キラリ。正面の男が刃物を出す。
 祐作が「危ない!」と叫ぶのと、「なんだ、害虫か」というすみれのつぶやきが同時に出た。
 直後、瞬時に間を詰めたすみれの手が、ナイフ男の手首を掴んでいた。
「遊んでほしいのか?」
 悲鳴、そして一回転の後、背中から落下。さらに一歩踏み出し、取り落としたナイフを砂利の上から踏みつけ、くの字にひしゃげさせた。
「へぼナイフだな。良いナイフなら、折れるはずだ」
「クソ、なめやがって!」
 一斉に襲いかかる男たち。
 その隙間を軽くステップ二つで通り過ぎ、一人を当て身で転ばせたところで、ふいに左手が優しく掴まれた。
「だめっすよ、こんなところで」
「まあ、そうだな」
 同じくやすやすとチンピラの手をかいくぐった祐作が、そのまま手を引いて、公園の外に走った。通りを二つ曲がったところで、一度ふりむく。
「良かった、追ってこない。しかし驚いた、止めなきゃ警察ざたですよ、あれ」 
「あれから、少しは強くなったからな。二度と醜態はさらしたくない」 
「醜態なら、俺のが、ね。もう、だめですよ。あなたにはでっかい将来があるんですから」
「……すまない」
 二人はもう一度振り向き、学校に向かって歩き出した。
 通りは公園よりずっと明るい。今度は安心して歩けそうだ。

 竜児はタイムセールでほくほく顔になりながら、袋を抱えて帰り道を歩いていた。
「ここらは、最近物騒だっけな」
 といいつつ、公園に沿った道を歩いて行く。なんだかんだで、手頃なコースだ。
 その公園から「なめるなやがって!」と言う声と、どさっと地面に重いものが落ちる音が聞こえた。
「ヤベ。さっさと行っちまおう」
 すこし足を速める。
 そしてちょうど入り口のあたりで、何者かがぶつかって来た。
 ぐちゃ。
 ああ、せっかくのスイカが。
「何しやがる!!」
 竜児は思わず声を上げ、睨むようにふたりを見た。
「す、す、すんません!」
「ごご、ごめんなさいっ!」
 転げるように走り去る男たち。
 なんてこった、また怖がられてしまったじゃないか。

 日が暮れた時間、それもお盆だ。
 せっかくすみれと見に来た学校は、当然人気がない。門も、閉ざされてる。
「校舎の無事が確認出来ただけで、良しとするか」
 すみれは苦笑してみせた。
 その苦笑の中には、今日ここに来るのは二度目という事も入っていた。が、それは言わない事にして、自分の左手に目をやった。
「それに、満足したみたいだしな」
「へ?」
「貴様、ずっと手を握ったままだぞ」
 手を引いた公園から飛び出してから、ずっと握りっぱなしなのに、祐作は今更気がついた。
「あ、いや、すみませんっ!」
「バカ、謝るな。嫌だったら、とっくに捻り倒してるぞ」
「あ、あはは……そうだ、せっかくだから、生徒会室まで」
「不法侵入か? 悪くない」
「いや、そんな事はしませんって」
 おもむろに携帯を取り出し、どこかに繋ぐ。すぐに、当直の守衛が出て来て、門を開けてくれた。
「おっと、狩野さんじゃないですか。久しぶりに見て言ってください。ちゃんとみんなで手入れしてますよ」
 会長と元会長。
 極めつけの信用が服を着て現れたようなものだった。
「ありがとう。ちょっと見学して行くよ」

「お? 誰か忘れ物かな」
 ちょっとしたソフト部の活動を終えた実乃梨が振り向くと、人気がないはずの校舎に明かりが見えた。
「あの部屋は、たしか生徒会室。熱心だね」
 祐作が快調になってからは、いや、先代の狩野の頃からの生徒会は、凄まじいというべき活発さで動いていた。実乃梨としては、またまた頑張っちゃってる、と心の中で笑みを浮かべるだけだった。
 そして、歩くのを再開。
 駅の近くの公園前に、見慣れた人影を見つけた。
「高須君?」
「おお、櫛枝。今日もソフト部か。お盆なのに大変だな」
「なーに、好きでやってるからね。で、どした? 浮かない顔で」
「奮発して買ったスイカが、通りすがりの体当たりで、まっぷたつだ」
 竜児は、買ったばかりで食べられないスイカを、途方に暮れて眺めていた。
「ほらほら、眺めてたって、スイカはくっつかないぞ」
「そらそうだけどさ」
「人間だったら、別れ別れになってても、またくっつけるんだろうけどね」
「なんだ、急に」
「さっき、こんな時間なのに生徒会室に明かりがついてたんだ。さっきは思いつかなかったけど、まさかー」
「それは、ないだろ……ん?」
 携帯にメールの着信。開いてみると大河からだった。
「相変わらずだね。君たちの仲は、転んだくらいじゃ割れなさそうだ」
「ばらばら、だけどな」
「ちゃんとくっついてるよ、うんうん。それじゃ、また。諦めて、ちゃんと片付けるんだぞ」
「おう」
 竜児は仕方なく割れスイカのカケラを袋に集め、不本意ながら公園のゴミ箱にでも捨てる事にした。
「仕方ない、代わりにアイスでも買うか」


「待ってくださーい」
 校舎に入るなり、すみれは祐作を置いてさっさと歩いて行った。行き先は、あのあ懐かしい生徒会室。
「何を言ってる。しっかりついてこい」
 明かりをつけ、窓を開ける。
 そして校庭を背にして、仁王立ちになった。
「ついてこれないなら、ここで終わりだ。帰れ」
 仁王立ちになりながらも、すみれの目線は正面は向いていなかった。
「か、会長!?」

「会長は貴様だろうが。現会長、進路に迷ってるそうだな」
「あ、はい……」
「なんだその言い草は。欲しいものは無いのか? 手に入れたいものは? わたしは、欲しければ自分の力で取り行くぞ」
 窓枠に座り、自分より背の高い祐作を、見下ろすように圧する。
「たとえ遠くても、欲しいものに向かって行く事はできるはずだ」
「でも、あなたのようには……」
「では、それまでだ。どうした、取りに来ないのか」
 すみれは、わざと「行かない」ではなく「来ない」という言葉を使った。祐作が何を悩んでいるのか、とっくに確信していたからだ。
「What's on earth are you doing here?」
「えっ??」
「いったいここで何をしてるんだ、と聞いたんだ。ありふれた言い回しだが、教科書には載ってないかもな。世界は広いぞ」
 首を回し、星を見上げる。すみれの心は、もうその星空にあるかのように。

「す、すみません」
「ああ。やはり、貴様にとってわたしは憧れでしかなかったのと思うと残念だ。もし、対等の関係になれれば、今度こそは本気で……いや、なんでもない」
 見上げながら、背中でかたるすみれ。その背中に、祐作はそっと手をかけた。
 息をのみ、なんとか一言だけ言葉を紡いで行く。
「I love you」
「I know」
 短い会話。
 旧い映画の中、星の彼方でかわされた言葉。
「てな、祐作。氷漬けは困る」
 この日、すみれははじめて祐作を名前で呼んだ。
「できれば、温めたいです」
 勇気を絞り、抱きしめる。空気は暑い。体は温かい。温め合って、暑くなって行く。
「好きに、していいぞ」
 すみれは、窓から降りて体を預けた。
「ほら、遠慮するな。欲しいものは、捉まえろ。捉まえたら、はなすな」
「……すみれ!」
 祐作は、この日はじめてすみれを名前で呼んだ。
「いい感じだ。これで、一応対等……んっ」
 何も言わず、すみれの口を自分の口で塞ぐ祐作。
 欲しいものが、その手の中にある。もうはなしたくない、はなさない。
 体が離れてても、繋がっていられるはずだ。そう、あの竜と虎のように。そう祐作は思う。
 そんな脳の活動とは別に、祐作の野生はすみれをさらに求めていた。
 気がつけば、二人だけ校舎の床に、すみれを押し倒していた。
 質素だが高価な服を慣れない手つきで半ば強引に脱がせ、愛撫する手でつけられた事が無い染みを下着に滲ませて行く。自分の「男」は、もうあり得ない大きさと硬さになっている気がした。
「……遠慮するな」
 すみれが腕の中で小さく言った。
 その口が、再び相手の口で塞がれる。
 鍛えられた両腕は、しっかりその体を抱え、そして……
「うぐっ」
 下半身に熱いモノを感じる。
 祐作は、お互い始めてという事など放置して、野生のまま動き、突いた。
(激痛? 苦痛? 否、快楽――なのか、これが)
 痛みと喜びが、すみれの心を溶かして行く。
「うっ、うあっ、あ、あっ、ああっ」
 苦悶に近い声が、だんだんオンナとしての喘ぎに。
 さらに堕ちて行く――。
 全てを、愛しいこのバカモノに預けて。


「すみれ、さん」
 街を歩きながら、祐作が言った。
 その右腕にぶら下がるように腕を組んだすみれが、すこしおかしな歩き方をしながら笑みを浮かべている。
「だから、すみれと呼べと。あっちじゃそれが普通だ」
「Yes、すみれ」
「うん、それでいい。しかし、今日は思わぬ醜態をさらしてしまったな」
「でも、おかげで心は決まりました」
「そうか、良かった」
 何が決まったのか。そんなことは言う必要が無かった。
「明日の飛行機で帰るから、祐作ともう少し、一緒にいたい」
「それじゃ、スドバでも。閉店まで、まだ暫くあるから」
「そうしよう」
 通りの先に、見慣れたコーヒースタンド。
 アイスの入ったかのうやの袋を持った、目つきの悪い男がすれ違ったことに、二人は気がつかなかった。 

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