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気まぐれ ◆ZMl2jKQNg0m5 2009/10/17(土) 08:06:06 ID:RLtPtG18



これは春で起きた、ささやかな出来事。

数ヶ月前、高須竜児と逢坂大河は、共に現実からの逃避行を行った。
それは一般的な「駆け落ち」ともいえるモノであったが、結果的にはそうとは呼べない。なぜなら、二人は恋人同士に成らなかったのだ。
自分の家庭の問題から逃げ出そうとした二人は、改めて「家族」なる存在を求めるように、「恋愛関係」の斜め上へとその道をそらした。
二人は、お互いの間の「恋愛」と思い込んだモノに、破綻を見つけた。そうして、「成熟」へと長く長く続く階段を、やっとの力で一歩を進めた。
その一歩のお陰で、その逃避行も失敗で終わった。彼らは家の人間とある程度和解し、色んな人の努力と寛容のお陰で日常に戻ることを許された。
その後、竜児と大河は相変わらずなフランクでな関係を保つまま、それ以上の感情を示せず、その関係にも劣化する徴兆は見られない。

そして桜が満開する先月、彼らはその級友たちと共に三年生になった。二年から三年に上るのは、一線越えるだけのこと。
だが、それも二年生としての一年間の成長を清算する瞬間であって、「三年生」という肩書きを持ってようやく実感する変化もある。
それぞれの道に気付くことに。前に進めなければならないということに。あと一年で、何もかもが変わるということに。
その故、「恋」というものに分かつ時間こそ少ないものの、だからこそ恋に意識してしまう、という人も少なからず居る。

亜美もその一人である。

櫛枝みのりが一度身を引き、逢坂大河と竜児もお互いを恋愛対象から外した現在、川嶋亜美の存在は前より少し目立つことになった。
とはいえ、亜美と竜児の関係に重大な変化があったのではない。親友として認められるのも精一杯だった亜美にハードルが高かった。

「高須くぅん〜」
一時間目後の休み時間に、亜美が猫撫で声で竜児を呼びつけた。

「おう、川嶋。」
「午休のことだけどぉ、亜美ちゃんと一緒にご飯食べなぁい?ふ・た・り・で」
「ん…いいぞ。大河に弁当渡しとく。」
「えっ?」
亜美は戸惑いを隠せなかった。普段「からかうな」とその類の返事しか出さない竜児が、何故か素直に亜美の誘いを受けた。

「なんだ?もしかして、またからかうつもりだった?」
「ううん、じゃあ一緒に食べよう。ふーん。なんか機嫌良さそうね。」
竜児が亜美に優しくするのは、彼女自身を意識しているからではない、と亜美は察している。

「おう。分かるのか?いやー。
こないだな、間違いでちょっと高かった清潔剤をうっかり買ったんだが。今までMOTTAINAIって、
切り札としてとって置いてたんだ。昨日はいよいよ出番でな。なんか凄かったぞ。普段何回も
擦らなければならない油の跡は一振りだけあっさり解決するなんて。ウチは貧乏で高い物を使う
機会なかったから、びっくりした。でもあまりにも凶暴すぎるから、また封印してやったんだぜ。」

彼は舌滑りよく自分の好機嫌の原因を解説し、「ハンデをつけて素人に仕掛けたがる武術の達人の気持ちはよく分かったぜ」
というどうでもいい感想を、爽やか(?)な笑顔で発表した。工具に溺れず、常に魂を鍛え続けることを忘れるまいとかなんとか。
 
「それで今朝――――」
「そこで止めて、キモイ。もういい。午休、約束忘れないでね。」
亜美は竜児の熱弁を中断し、ぷいっと一転身してその場を後にした。
確か、オバサン男子のマニアックな話に面白みはなかったが、それが原因だというワケではない。
自分の悲観的な予想が正確に現実を捉えたため、腹立っているのだ。

「うん…おう。」
離れてゆく不機嫌な背影へ、空気読めるオトコなる竜児は、とりあえず最低限の返事をした。

…そして午休。
教室では他のクラスメートの目を引くからと、亜美は屋上で昼飯を提案した。
そして竜児も納得した。二人は屋上に行って、日当たりが割と強くないところに座る。

「珍しい。ここまで付いてくるなんて、何時も亜美ちゃんに意地悪しちゃう高須くんには見えないな。」
「まあ、たまにはそういうのもいいかなって。っていうか、お前のほうが俺に意地悪していた気がするけど。からかうとか。」
「亜美ちゃんは何時も本気だっつーの。あたしの極上の色気をマジスルーするなんて、ちょーありえねぇですけど。」

何時も気さくて自分との接近を拒み続けた竜児と、こうして二人でいるの時間はかなり貴重。
だが、そんな貴重なときにも、憎たれ口叩き合うのがデフォルト。これは二人なりの親切であり、二人の距離を示すことでもある。

「ヒルメシってその学食パンだけか?カロリーはともかく、栄養は足りないぞ。」
亜美は自分の昼飯を持ち出した。そして、竜児は余計なおせっかいをしながら、自分の弁当を開け、亜美に見せ付ける。
食材こそ豪華なものではないが、竜児は色んなものをバランスよく混ぜて並べて、その色香を限界まで引き出している。

亜美は竜児の弁当から目を逸らし、生唾を飲み、パンを口に放り込んだ。干魚の香りで米を食う貧乏人のような感性で。

「高須くんが弁当作ってくんないから。
 学校じゃあロクな物ないし、亜美ちゃんご飯なんか作らないよ。」
「俺のせいかよ。どうせ作ってやっても、怪しまれるからって怒るだろう。」
「…怒らないなら作ってくれる?」
「食費さえ出してくれれば、大丈夫だな。」

亜美の中に何かがはじけた。

「ちょっと味見させてくんない?」
「じゃあ、ちょっともってけ。」
「わーい。高須クンやさしー。あーん。」

「ああ?」
「高須くん、早くぅ。あーん。」

「お前なあ…」
「あーん。あーーん。」
亜美は戸惑う竜児に容赦しなかった。

「わかったわかった、お前の勝ちだ。えっと、この春巻きでいいな?ほれ」
「あむ。ん、美味しい。」
竜児は涼しい口調を保っているが、顔はすこし赤くなっている。それで亜美は満足した。
亜美はずっと、このような行為で、自分が女性として意識されていることを確認していた。

「おう。」
「でも手馴れてるー。流石バカトラの保護者。あたしも高須くんみたいな家政婦が欲しいな。」
「さり気なく酷いこと言ってるな。」
「まあ、これから弁当頼んでいい?食費は五百円ぐらいでオッケ?」
亜美の家は裕福で、食事なら軽く数千円以上まで使えるが、竜児自身は弁当にそんなに金を使わない。
だから、亜美は「五百円」という適当な低額を申しだした。さもなくば、竜児はきっと提案を受け取らない。

「いや、その半分ぐらいもねぇよ。」
「そう?じゃ、余るぐらいなら、もっとマトモな食材を買えばいいじゃん。この亜美ちゃんの美容をショボイもので壊したくないんでしょ。」
その為に特別なメニューを立たなければならないと、亜美は言えなかった。これは彼女のせめてもの謀り。

「おう。じゃあ、五百円にするか。」
そう言って、竜児はニヤっと微笑んだ。

「キモイ顔。」
亜美は竜児の笑顔に少し時めいたが、不機嫌そうに顔を背けた。無論、それは照れ隠しであった。

「ほっとけ。ってか感謝は?」
「…ありがと。弁当、楽しみにするよ。」
「おう。」

これで、亜美はまた一歩を進めた。
そして食事は続く。二人は黙りこんだまま、それを済ませた。
当然のように、昼飯を終えた今も、二人の間に沈黙しかない。

亜美は、今でも竜児に自分をさらけ出す勇気を持てない。
もし、亜美が前に一歩進めて「そういう関係」になれたら、心に詰めた本心と、その本心からしか出せない色々の話もできたのだろう。
竜児の話をしても、どこから始まるかも分からない。だが、自分の話では、仕事やおしゃれぐらいしか話題はない。
竜児はきっと聞いてくれるが、「ああ」や「そうか」しか答えられないだろう。普通なゴシップや世間話もできるが、なぜか今は他の人間の話をしたくない亜美だった。

「ふん、ふふ〜ん♪」

にもかかわらず、ただ竜児の隣に居るだけでこんなに心が温かくなるからと、当面は話題の問題も忘れられる亜美であった。
大事なひと時の中、微風に乗る時間の流れを肌で感じ、彼女は鼻歌しながら、パンのパッケージを弄っていた。
しかしやはり退屈だったか、暫くすると、亜美は竜児に適当なことで話掛ける。

「…昼ってあったかいな。」
「おう。」

次の会話まで、少し時間がかかっていた。

「もう直ぐ春が終わるよね。そしたら熱くなって、このちょうどいい温度でなくなるかな。」
「そうだろうな。」

数十秒の間。

「夏になったら、またあたしの別荘に行く?」
「おう。考えとく。」

また、数十秒の間。

「嬉しい。」

「………………」

「……ねえ、皆で行く?それとも、あたしと二人だけ…」

「………………」

何十秒たっても、竜児は亜美の問いに答えなかった。

「…高須くん?」

竜児の無言に、亜美が一瞬、恐怖を覚えた。
だが、振り向いたら、竜児が何時の間にかぐっすりと眠っていることを視認し、納得した。
竜児の家の家計は厳しいが、彼は進学を目指している。だから奨学金を確保するのは重要。
彼は奨学金のために、毎晩怠けず試験生として猛勉強していた。そうしながらも、毎日一人で家事もこなしていた。
そのゆえ疲れが溜まっていたのだろう。教室に居ればきっとこうして休めなかったと、亜美は彼を屋上に連れた功績を主張する気分だった。

「なんか、可愛くみえるな。」
ともかく、こんな無防備な竜児が、亜美には新鮮である。
彼女は竜児に寄り添って、呆然と竜児の横顔を眺めながら、これから一周間の仕事スケジュールを考える。

下校したら直ぐに撮影工作へ向かう毎日と、そして今後女優としてデビューするための準備。
現場で嫌味ばっかりする同期のモデル。何時もいやらしい目で見てくる、テレビドラマのプロデューサー。
漠然と「面倒くせぇー」という感想を呟く同時、こうして心も体も休める時間を頂けた幸運への感謝の言葉を心のなかで囁く。
その幸運はまた、竜児の気まぐれの結果であった。

亜美はふと思い直した。
後一年過ごすと、彼の傍に居られなくなる可能性がある。
ましてや、自分がその前に転校することもありえる。

亜美は手を伸ばし、竜児の腕に触れる。
恥ずかしげに躊躇いながらも、指を竜児の手の平に滑り込ませ、軽く彼の手を握る。
何時ものように振り払われたら傷つく、でもまったく反応されないのも虚しい、といった複雑な心境だが、
家事に荒られたであろう、ざらざらとした肌の硬さが心地よかった。
亜美はその硬さから、すこし強く手を握り締める勇気を得た。

そして亜美の顔は竜児の顔に迫る。
彼女は数センチ離れたところで、目を閉じて、ゆっくりと前進する。
普段の亜美にはあり得ない行動だが、これも、気まぐれである。

亜美は竜児の唇を盗んむ────その寸前、彼女の体が固まった。つい先味見していた、弁当の香りのせいで。

「…ご飯の匂い。こんなのでファーストキスを済ますって、ヤぁねー。」
彼女は観念して、とりあえず竜児の傍らにくっつけたまま、退屈そうに膝を抱え、顔を空に向かせた。

やがて、亜美も眠りに落ちる。

柔らかく吹き続ける風と、その薄い暑さの中に近づいてくる、初夏の足音。
その温和な雰囲気を浴び、竜児は気持ち良くゆっくり寝息している。
そんな竜児の肩に頭を預けた亜美は、近い未来に訪れるであろう幸せを夢見る。

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