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心のオアシス




川嶋亜美の印象は、天使みたいに可愛らしくて性格良く、おまけにちょっと天然が入っている女の子、

というのが皆の見解だ。
確かに学校に居る亜美を見れば、その印象を抱くのは当然だ。
しかし、それは亜美が意図的に見せている姿だ。亜美の本質は、自己中で甘ったれで横暴、典型的なわ

がままお姫様だ。
そんな亜美が学校などで本性をさらけ出したら、どんな結果になるか容易に想像できるだろう。だから

亜美は、素の自分に完璧な仮面をつけながら生活している。
したがって、今学校の皆が接している亜美は、外面だけの亜美だ。親が一流の女優のためか、転校して

きてしばらく経つが、いまだに亜美の本性はバレていない。
例外を除いて。
その例外は、高須竜児、北村祐作、逢坂大河、櫛枝実乃梨の四人である。
この四人以外には、徹底的に素の自分を隠してきた。
しかし、この四人にも、自身の心の全てを曝け出しているわけではない。したがって、亜美には、学校

には心を許せる友人が一人も居ないのだ。
だが、ある事件がきっかけで、亜美にも心を許せる人物が現れる。自分の全てをさらし出してもいい、

自分の全てを知ってもらいたいと思える相手に。
そのきっかけになる事が、今大橋高校の体育館で行われている。



「……会長が!あなたが!好きだぁぁぁぁぁーーーーーーーっっっ!」


壇上に立つ男が、声の限りに叫んだ。心の限りに訴えた。彼女に比べて非力すぎる自分に出来る、精一

杯の力で。
そんな本気の本気の告白に、相手の女性は、

「……と、いうことらしい。
どうだ、あれがご存知、副会長の北村祐作だ。おもしろいだろう。あんなおもしろい奴が会長になった

ら、きっとこの学校はもっと面白くなるぞ。清き一票を、ぜひあのおもしろい奴に!」

という、面白おかしく話を纏めて返答を誤魔化した。
告白をした男は、相手の態度に肩を落としてうな垂れる。この瞬間、告白した男の想いは、砕け散った



全校生徒の目の前で、本気の気持ちをぶつけて、そして軽くあしらわれた。そんな哀れでかわいそうな

男が、亜美の本性を知っている数少ない友達にして、昔からの幼馴染、北村祐作だ。



生徒会長選挙の演説――北村の一方的な告白――が終わって、今は教室。2−Cの面々は、なんとかし

て北村を元気付けようと頑張っているが、たいした成果は得られていない。
好きな人にフラれたのだから、無理もない。しかもまともな返答すら貰えずにあしらわれたのだから尚

更だ。

「ね、ねえ亜美ちゃん、あたしに出来ること、何かないかな?」

クラスの皆と同じように北村の方を見ていた亜美に、とある女子が話しかけてきた。
その女子の名前は、木原麻耶。亜美の親しい友人の一人だ。
木原は、北村の方を心配そうな瞳で見つめている。北村に想いを寄せている木原は、何でもいいから北

村の力になりたかったのだ。
だが、自分ではどうしていいか分からない。
亜美は高校生ながら、モデルという仕事をしている。そのためか、他のクラスの生徒より考えが大人び

ている。そんな亜美ならどうしたらいいか分かるだろうと思い、木原は亜美に話しかけたのだ。

「無理だよ」

そんな木原に、亜美はきっぱりと言った。

「失恋した直後の人に何を言っても意味はないよ。どうしたって、最終的に立ち直るのは自分自身の心

の力なんだから。それに、祐作の場合は普通よりダメージが深い。あんな本気で告ったのに袖にされた

んだからね」

亜美はふざけている時等は、冗談や嘘を惜しげもなく使う。素の自分を隠し通す演技力で冗談や嘘を言

われたら、騙されない者はいない。だが、一度まじめな話になると、主観などを交えない的確な指示を

出す。
今まで何度もその亜美の意見に助けられてきたため、木原は今自分に出来ることはないと知った。

「でも、あ、あたし、まるおの所に行ってくる!」

しかし、想い人が涙を流しているのに何もしないなんて事は、木原はしたくなかった。何でもいいから

、どんなに小さくてもいいから、北村に煙たがられてもいいから、何か北村の力になりたかった。
そう思い、木原が北村の傍に行こうと思った瞬間、教室の扉が乱暴に開かれた。

反射的に、皆の目が扉に集まる。そこにいたのは、血相を変えながら肩で息をしている三年生だった。

「ヤンキー高須はどこだ!?早く来てくれ!なんとかしてくれ!」

逢坂大河が狩野すみれに殴りこみをかけてきた、どうにかしてくれ。と三年生に言われて、竜児はすぐ

さま教室を飛び出していった。
そんな竜児に続くように、北村に能登に春田に亜美に木原に香椎、2−Cの面々が次々と教室を出て行

く。
目指すは、大河が殴りこみをかけた三年の教室。誰も彼もが全力疾走で走っていった。



一番初めに件の教室にたどり着いた竜児が見た光景は阿鼻叫喚の地獄絵図、とまではいかないが、普通
の高校の教室としては、あまりにも悲惨な光景だった。
数多くのイスは倒れ、机は転がり、机に入っていた教科書やノート類は床に散乱している。どれもこれ
も、大河とすみれが暴れてこうなったのだ。
「はぁぁぁああぁあぁっ!!!」

大河の叫び声。そちらの方に顔を向けた竜児は、すみれに木刀を上から振り下ろす大河の姿を見た。
しかし、伊達に全校生徒の心の兄貴と呼ばれているすみれだ。大河の木刀を自身が持っていた竹刀で捌
いて、大河の手から木刀を放させる。
相手の武器が無くなり一気にたたみ掛けようとすみれが前に出るが、大河は武器が無くなっても関係が
無い。右の拳を固く握り、後ろに引いて、すみれの顔面を殴ろうと拳を突き出す。
が、

「やめろ大河!!!」

後ろに引いた腕を竜児に掴まれて、無理やりにすみれから距離をとらされる。同時に、すみれにも三年
の男子が二人近づき、羽交い絞めにされる。

「離せ!離せ離せ離せ離せーーーーー!!!あの臆病者で弱虫で最低な奴をあたしが懲らしめるんだっ
!!」

「離せバカ共!!あいつを、あいつを殴らねぇと気が収まらないんだよ!!さっさと離しやがれ!!」
二人とも、手が出なくなったら残っている口を使う。相手の事を徹底的に罵倒する。汚い言葉を、乱暴
な言葉を使って少しでも自分の怒りを相手にぶつける。

「北村君は、北村君の心の痛みはこんなものじゃない!!もっと、もっとひどい傷を負ったの!!この
臆病者のせいで!!自分の気持ちに向き合えない臆病者!!そのせいで北村君を傷付けた!!
言え!!返事をしないくらい何とも思ってないって事を北村君に言えーー!!あんたの素直な最低の気
持ちを北村君に言えーーーーー!!!!」

「黙れえええぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」

すみれが、今日一番の声を上げる。それと同時に、すみれの両目から大粒の涙が流れる。大河に殴られ
ても蹴られても涙を流さなかったすみれが、大河の罵倒に涙を流した。
その事態に、暴れていた大河も含めて、全員が静かになった。

「てめえに、てめえに何が分かる!?私の何を知ってる!?勝手に私の気持ちを理解してんじゃねえよ
っ!!」

静かになった教室に、すみれの声は良く響く。

「好きなんて言ったら、ついて来て欲しいって言ったらっ!あのバカは、そうするだろうが!!あたし
について来ようとするだろうが!!あの真っ直ぐなバカは、私のために色々なものを犠牲にしてまでつ
いて来るじゃねえか!!あいつの未来の全部を、あたしのために簡単に溝川に捨てるじゃねえか!!あ
いつはそういう奴だろうがっ!!
だから、だから私はっ……!!」


そこまで言うと、すみれは膝をついて床に手をつける。多くの涙を流しながら、肩を震わせて出てくる
嗚咽を必死で我慢する。
すみれの言葉には、色々なものが含まれていた。
北村への想いやそれを断る悔しさや悲しさ、そして、それらの気持ちを全否定された大河への怒り。
それら全ての感情が爆発して、あふれ出して、涙となってすみれの両目から流れ出る。

教室には、すみれが出す嗚咽や泣き声しかない。他の誰もが、言葉を失っていた。すみれの気持ちを全
部知って、その想いの強さを知って、言葉を失っていた。
誰も彼も、すみれにかける言葉を見つけることが出来なかった。
高々17,8年だけしか生きてきていない高校生に、すみれにかける言葉を見つけろという方が無理な
話だろう。

そんな雰囲気の中、皆より一歩前に出る影があった。
それは、亜美だった。

いつも皆に向けている天使の笑顔はなりを潜めて、今までに無い真剣な顔。その目の先には、涙を流す
すみれ。
そんな姿のすみれを見て、亜美はゆっくりと口を開く。


「あんまりですよ、狩野先輩」


開口第一声は、ゆみれを咎める言葉だった。

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