web上で拾ったテキストをこそっと見られるようにする俺得Wiki

 可愛さあまって、憎さ100倍。
そこまで憎くはないが、いや、全然憎くはないんだが・・・
でもなんとなく面白くない。
そんな事ってあるだろ?
子供っぽい感情だってのは承知さ。
でもな、そういう原始的な感情ってのは、理性で止まらないらしいんだよ。
少なくとも俺の場合は。
一応、誤解の無いように言っておかなくちゃいけない事がある。
俺にとって、いや、俺くらいの世代にとって、
本当に特別な存在だったんだ。
とにかく輝いてたんだよ。
いや、他のタレントの方がいいって奴も結構いたよ、確かに。
でも、誰一人としてスゲー美人だってのは否定しなかったさ。
とにかく、そんな存在だったんだよ。
―――『川嶋安奈』は。


   川嶋安奈の憂鬱 −番外編−


俺がこの業界に入った切欠ってのは、そんな不純な動機だった。
当時はさ、夢中になっちまってたんだろうな。
要するにガキだったって事なんだろうが、結局俺はこの業界でそれなりに成功してるんだから、
まぁ、運はいいんだろう。
だから、今でも間違った選択とは思ってない。
実際、今は念願叶って、スタジオとかの廊下で出会えば気軽に声を掛けることが出来るんだゼ。

「あっら〜、川嶋さん、元気〜。 なぁーんか、最近お疲れみたいだけどぉ」
「お気遣いありがと。 じゃ。」
「・・・・・・」

そっけねー。 笑える位にそっけねー。
いや、まぁ、俺が悪いんだけどよ・・・。

俺がこの業界に入って、まだ何の芽も出ねー頃だった。
アコガレのその女が結婚した。
男がいるなんて噂すら無かった。 まさに電撃結婚。
アコガレの女とは違う事務所にしか入れない、偶々現場で見かけても、当然近づく事も無理、
それどころか、じっくり見ることすらできねぇ。
そうこうするうち人の女になっちまった。
もちろん、そもそも俺がどうこうできる相手じゃねーんだが、それでもがっくりくるのが男心。
現実ってのはそういうもんだった。
その上、なんとかプロデューサー見習いになったと思ったら、出産休業中だった川嶋安奈の対抗馬を
売り出せ、と来たもんだ。
その後も、どういうわけか俺にはアコガレの人に敵対するような仕事ばっかり回ってきた。
そうして現在に至る。
俺はめでたくいっぱしのプロデューサーになった。
だが。
もう、なんていうかさ、犬猿の仲っていうか。
ずっと前の事だが、俺も若気の至りで、つい嫌味っぽい事を彼女に言っちまった。
互いの立場が敵同士だったんだから仕方ない。
当時の俺なんか、彼女に睨まれたら業界に居られないと思ったけど、彼女はそういう事をする人間では
無かったようで、ちょっと惚れなおしたんだが。
それっきりだ。 一発で嫌なやつ認定。 こっちもこっちでついイライラと来ちまって・・・
これまでに築き上げた軋轢はどうにもならない。
本当は嫌われたくなかった。 仲良く仕事してみたかったんだよ。
ある意味、夢だったんだろうな。
いや、俺だってちゃんと現実に目覚めて、嫁をもらったし、子供もできたさ。
それでも、心のどっかに引っ掛る女ってのは、やっぱいるもんなんだ。

そんな訳で、最近、川嶋安奈が気になって仕方が無い。
なんでかってーと、ついこの間、彼女の娘が突然仕事を辞めて、周辺が急にゴタゴタしたせいで、
やたらお疲れモードなのだ。
珍しくNG連発した話も聞こえてきた。
この女、普段気が強いせいか、こういう弱々しい所が垣間見えると、めちゃくちゃそそる。
マスコミに追っかけまわされて、ゴシップ記事載せられても、鉄壁を誇っていたんだが、今回の娘の
造反はよほど堪えたんだろう。
その娘は、亜美っていうんだが、ファッションモデルとしてはそれなりに有名だった。
母親の若い頃に瓜二つなもんだから、ルックス的にはほぼ最強だったし、親のコネもある。
しかも、最近の若者らしく日本人離れしたスタイルも併せ持っていた。
川嶋安奈としても、ファッションモデルで終わらせるつもりはさらさら無かった筈で、相当期待していたと
思われる。
ところが、なんの相談も無しに突然仕事を辞めたもんだから、色々立ち上がってた企画とか、撮影予定
とかが大幅に狂って、各方面、怒り心頭だったようだ。
そのうち一つは、亜美ちゃんのCMデビューで、大手化粧品メーカーとの年間契約って大物だった。
他の化粧品メーカーのCMには出れなくなるが、そもそもタレントを前面に押し出したCMの仕事なんか、
普通、新人にはこない。
CMは一番儲かる仕事だ。 契約料がバカ高い上、今回の場合、年間で商品、バージョン違いを
計16本も予定しており、その分出演料が上乗せされる。 
出演料の相場は一本あたり契約金の10%、つまりトータル収入は契約額の260%にもなる。
たった5〜6分のフィルムで馬鹿馬鹿しい程の金が動く。
なにより、1年間確定でCMが入るのは売り出し中のタレントには美味すぎるほどの仕事だ。 
うちはコイツを横取りした。 っていうか、棚ぼたか。
正直、俺は気が進まなかった。 今売り出そうとしてるタレントは、ぶっちゃけイマイチなのだ。
こいつにやらせるなら、中堅どころ使った方がまだいい。
顔の作りはまぁ、そこそこだが、川嶋亜美と比べちまったらどうにもならない。
胸はでかいが、体とのバランスは今ひとつ美しくない。 しかも、その両方が『改造済み』だという
訳だから、言っちゃ悪いが短期商品なのは見え見えだ。
川嶋安奈のあのCMは今でもよく覚えている。 いいCMになりそうなのに、こんな短期商品を売る
のに使うのはもったいないオバケが出るってもんだ。
まったく、プロデューサーなんて名ばかりだ。 大事なことは上のほうで勝手に決めやがる。
それでも、会社の方針なら従わない訳にもいかない。
俺が矢面に立って、広告代理店と交渉していたが、案の定、スポンサーがモデルのプロフィールを
見て大幅に金額を下げてきやがった。 実に川嶋亜美の4分の1、1000万ぽっきり。
というか、亜美ちゃんの値段がすげぇ。 スポンサーは『絶対来る』と思ったんだろう。
確かに、この企画を嗅ぎつけた時、俺も、やられた、と思ったもんだ。
それだけにスポンサー側の落胆も大きく、交渉は困難を極めた。
なんとか契約には漕ぎ付けたものの、相当無理を通したおかげで、あちこちに借りをつくっちまった。
・・・その上、川嶋安奈はこの態度だ。
前は嫌味交じりでも多少は会話になった。 それが最近の彼女の台詞は平均5秒って所だ。
なんとか纏めた俺の手腕を高く評価してもらわにゃ、やってられんと思っていた所に、会社からまた
トンデモな指令が舞い降りてきた。

―――川嶋亜美をゲットせよ―――

いや、もう、考えたの誰だよ、と。
脳みそついてんのかよ、と。
っていうか、なんで担当俺なんだ。
普通スカウト担当の仕事だろが。
確かに、俺はけっこう亜美ちゃんとも話ししてっけどさ。 若い頃の安奈さんにそっくりだし・・・。
でもな。
こういっちゃなんだが、俺、亜美ちゃんにマジ嫌われてる自信満々なんだよ。
大体、進学するんで芸能界辞めたのに、スカウトに応じる可能性なんか絶対ねーって。
しかも、グラビアアイドルとしてってなー。
亜美ちゃん、グラビアには全然興味無いって公言してんだろーに。
こりゃきっとあれだな。
CM取った分をこのスカウト失敗で相殺して、俺の評価を据え置きにする策略だな。
もし本気で亜美ちゃんを採りたいと思ってんなら、上の連中の頭を疑うぜ。
それとも、例のCMでのスポンサーの評価の高さに、いまさら驚いたってのか?
俺が何度も『川嶋亜美は儲かる』って言ってたのには一顧だにしなかったくせによ。
クソ面白くねーから、川嶋亜美から仕事を奪ったってデマを流してやろうか。
自分とこのアイドルのイメージアップを図ろうとしてるように見せかけて、実際は笑い者になるって寸法さ。
人気ファッションモデルってのは単純なルックスに関しちゃ大概の奴が半端なアイドルなんか目じゃねー。 
誰が見たってイマイチちゃんと亜美ちゃんじゃ勝負にならねぇんだからな。
タレントの人気にゃ影響ねーが、業界内じゃ晒し者だぜ。 自爆攻撃だが事務所への嫌がらせにもなる。
こんな仕事、これくらいのお茶目がなかったらやってらんねーって。

あーもう本当、・・・頭いてぇ。




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それでも俺はサラリーマンなので、会社の言うことには従わざるを得ない。
担当タレントの予定が空いたときに、こうしてわざわざ亜美ちゃんの学校の近くまで来てる訳だ。
交友関係はある程度調べた。
まずは、幼馴染の北村祐作。
あとは二年の時に親しかった、木原麻耶と、香椎奈々子。
この三人は今でも親交が深いようだ。
とりあえず、亜美ちゃんがなんで急にモデル業を辞めたかってのがキーポイントだ。
これが掴めれば、あるいは攻略法が見えてくる可能性は、ある。
ゴビ砂漠に落とした星の砂一粒を見つけるくらいの可能性はたぶん、ある。
そりゃ、ゼロの漸近線じゃないかって? ・・・・・・そうとも言うな・・・・・・。
まぁ、それはともかくだ。 本人から理由を聞き出すのは流石に無理。 なんせ、俺嫌われてるし。
そしたら、友人から聞くしかない。
いきなり猛勉強を開始したってのは普通に不自然なんだから、その切欠ってのがある筈。
友人が知っているかどうかは定かでないが、実質、可能性があるアプローチは恐らくこれのみだ。

『須藤コーヒースタンドバー』
・・・俺ってさ、パチモン大好きなんだよ。 ここのオーナーとはマヂ気が合いそうだよ。
って、えーと。
よく訴えられねーな、と思わせるその店は、亜美ちゃんが通ってる大橋高校の子達の御用達の店らしい。
その店でとりあえず待ち伏せを始めて、今日で延べ7日目になる。
スケジュールの合間を縫ってなので、まとまった日数が取れない以上、延べ日数にたいして意味は無い。
ただ、ちゃんと努力はしてんだぞ、って主張したかっただけだ。
当の亜美ちゃんは学校が終わると毎日予備校通いで、ひたすら勉強しているとの情報。
だから俺のターゲットは・・・・・・
ついにそのチャンスがやって来たようだぜ。
女子高生が二人、窓際のカウンターに腰掛けた。
亜麻色の髪のやや釣り目の美少女が木原麻耶。
黒髪でおとなしそうな感じの美少女が香椎奈々子。
・・・・・・
おいおい、二人ともうちのイマイチちゃんより可愛くね?
何、類友なわけ? 美人の友達はやっぱカワイコちゃん?
俺が学生時代は美人の取り巻きは残念な子達って相場が決まってたんだけど、世の中変わった?
写真より全然可愛いじゃんよ。 ってか、ちっさいの拡大した写真だからか。
おかげでどうやって声掛けるか悩んでたのが無駄になったぜ。
これなら普通にスカウトでいーわ。 別に不自然じゃねぇ。
そうと決まったら早速突撃だ。

「失礼。 君たち、ちょっといいかな? 僕はこういうものなんだけど。」
彼女らの答えも聞かず、名刺を差し出す。
「え?」
「芸能プロダクション?」
「な、なに、これって・・・」
亜麻色の髪の少女が目を丸くする。
「君たちを見て、ちょっとお話しがしたくなったんだけど、今時間大丈夫かな?」
「あ、は、はい!」
「ちょっと、麻耶、名刺くらいで信じちゃだめだよ。」
わぉ、こっちのおっとり系は結構シビアなのね。 でも期待通り。
「はい。 IDカード。 これなら写真つきだから、信憑性あるんじゃないかな? それにスカウトって
訳でも無いんだ。 僕はプロデューサーだしね。 もっとも、最終的にはそういう話もあるかもしれない。 
ともあれ、場所を変えよう・・・・・・なんて言わないから安心して。」
二人ともじっとIDカードの写真と俺を見比べ、一応納得したかのような表情になった。
「だったら、なんの話がしたいんですか?」
こっちの茶髪はストレートな性格のようだ。 そうそう、ちょっと不審に思ってくれなきゃ困る。
本当にスカウトしようって訳じゃないんだから、簡単に話が収斂したら拙い。
「そうだねぇ、君達の事が知りたい。 今はね、見た目だけじゃスカウトってしないんだよ。」
黒髪の子が『やっぱり、ナンパなんじゃないの?』という目で俺を品定めする。
やべぇ、この子色気あるわ。 本気で使えるかもしんね。
おっとりしてるようで、実はシビア。 しかもワガママボディ。
「へー、それって、見た目だけなら合格って事?」
こっちの子もちょっと生意気そうな感じで、直球勝負。 今時は減ってきたキャラだ。
スタイルも少し絞ればスレンダー系でいける。 身長も十分だ。
「そうだね、そういう事になるかな。 少なくとも僕からみたら、ね。 もし、僕がスカウト担当だったら、
もう、君達のご両親の連絡先を聞きだした頃かもしれない。 はははは。」
ここは白い歯がキラリと光る所だ。 漫画だったらな。
実際はそんなことはないし、それ以前に俺の容姿は十人並みだ。
「おじさん、本物かどうかは知らないけど、見る目はあるじゃん。」
茶髪の子は世辞に気付きながらも、ちょっと嬉しそうに破顔する。
・・・いや、あんた普通に美少女だわ、と言い掛けてしまった。 おぢさん不覚すぎるぜ。
「もちろん、プロだからね。 そうだな、先ずは名前、聞いてもいいかな?」
「うーん、名前くらいならいいよね、奈々子。」
「うん、そうね。」
「えっと、私は木原麻耶。 で、こっちのちょっとエロいのが」
「な、なに言ってるのよ、エロくないよー。」
「香椎奈々子っていうの。」
「へー 麻耶ちゃんに奈々子ちゃんか。 可愛いね。 芸名いらなそうだ。」
いや、エロいです。 奈々子ちゃん。 とくに胸のあたりが。
「芸名!?って、やっぱなんだかんだ言ってマジスカウトなわけ?」
「でも、私達でも知ってるようなプロダクションなら、亜美ちゃんに聞いてからの方が。」
よっしゃ、キターーー。 待ってたぜ、その名が出るのをなぁ!



「亜美、ちゃん? もしかして、川嶋亜美ちゃん?」
我ながら白々しい。
「あ、はい。 私達、同級生なんです。」
「へぇーーーー。 それは驚いたなぁ〜。 亜美ちゃんってこんな所に住んでたのか。」
「プロデューサーさんってけっこう立場偉いと思うんですけど、それでも知らなかったんですか?」
巨乳様が不審を漏らした。 賢い子だな。
「いや、彼女、ストーカー被害で引っ越したから、引越し先は業界内でも秘密だったんだよ。 そうか、
この街に住んでたのか。 亜美ちゃんを送りたいって奴は山ほど居たんだけど、彼女ガード固くてねぇ。
住んでる所は謎だったんだよ。 ま、今となっては、もう遅いんだけどね・・・。」
真っ赤な嘘だ。 巨乳様の言うとおり、プロデューサークラスは把握してないとおかしい。
「やっぱ、亜美って凄いんだね・・・。」「だね。 モデル辞めるのもったいないよね・・・。」
だが、この反応を得る為の言葉の罠だ。 まんまとはまってくれたゼ。 俺って天才?
「そうなんだよなぁ、なんで辞めちゃんだろうね。 君たちは亜美ちゃんと仲がいいのかな?」
「ええ。 っていうか、親友って感じかな?」
麻耶ちゃんがやや得意げに言う。
「へー、そうなんだ。 それは僕もついてるね。 めったに聞けない話が聞けそうだ。」
「週刊誌とかにゴシップ売るつもりじゃないですよね?」
奈々子ちゃん・・・・・・
「まさか。 はははは。 そんな訳ないじゃない。 僕は記者じゃないよ。 寧ろ彼らは僕達の敵さ。」
「まぁ、確かに言われて見れば・・・。」
「信じてくれた? ところで、学校での亜美ちゃんってどんな感じなのかな? 人気者だとは思うけど。」
「当然だけど、男子には凄い人気。 女子は複雑って感じ? 亜美って大人っぽくてカッコいいし、
みんなを喜ばせるのが上手いよね。 でも、やっぱ女の子同士だと、ちょっと嫉妬しちゃう所もある
じゃん? 私らは亜美も弱い所あるの知ってるから、そうは思わないけど、そういう人もいるかな。」
「うん。 亜美ちゃんって口は悪いけど、根は凄く優しいし、あれで結構デリケートだから。 そういう
 の解ってる人はみんな好きだと思うけど、遠くから上辺だけ見てると嫉妬しちゃうかもね。 完璧
 超人に見えて。」
「へー。 じゃ、たまに苛められちゃったりとかするのかな? ほら、彼女、なんていうの、二面性って
 いうか、そういうの学校ではどうなのかな?」
一瞬、二人が微妙な表情で向かい合った。 どうやら、学校ではバレてるようだ。 仕事場じゃ上手く
立ち回っていて、表の顔しか知らない奴が殆どだが、流石に学校では油断するってことか。
「その辺も、最近は変わってきたかなぁ。 最初はなんか排他的っていうのかな、なんか諦めてるって
いうか、そんなイメージあったけど・・・」
「なんか、『どうせ、あんたたちにはわかんないでしょ』って感じ。」
と、ジェスチャー付きで語る麻耶ちゃん。 やっぱいいキャラだぜ。
「そうそう、そんな感じ。 でも、今は違うよね。」
「だね。 相変わらず猫被ってるけど、時々黒くなっても、なんか毒が弱くなったっていうか。」
「で、たまに地が出ると凄く可愛かったり。」
「うんうん。 でも、男子って馬鹿だよね。 猫っかぶりに騙されてさ、本当に可愛い所に気がつかない
んだもんね。 あははは。」
・・・予想以上だぜ。 小娘と思って馬鹿にしてた俺が恥ずかしいってか。
きっちり人間見えてるじゃねーかよ。 今時の女子高生っていっても結構ちゃんとしてんだな。
っていうか、亜美ちゃん、いい友達もってんじゃんよ。
「じゃ、学校生活は至極順調ってことかー。 仕事のほうも大きい仕事入りそうで、僕の目から見たら
近いうちに大ブレイクしそうだったんだけどねぇ・・・。」
「大ブレイクって・・・。」 目を大きく見開いて麻耶ちゃんが喰いついて来る。
「ああ、もう一気に有名タレントになってたと思うんだよね。 全国ネットのTVCMだから。 あ、でも、
 麻耶ちゃん達にとっては、そうならなくて良かったかもね。 流石にそうなってたら、めったに会えなく
 なっちゃうかもしれないしね。 そもそも亜美ちゃんって、あのかわし・・・」
「あ、」
「あ。」
ん? なんだ? 
「へ〜〜。 大山さんって、普通に話せたんですねぇ・・・。」
え?
後ろを振り返る。 なんなのよ、このドリフみたいな展開は、なんて思いながら。

「げぇ、 亜美ちゃん・・・。」
「なーに、亜美ちゃん、銅鑼でも鳴らせばいいのぉ?」
わかってるな〜。 って、予備校どうしたのよ、予備校は。 休みじゃ無いのは確認したのに。
「亜美、おっそーい」
「ごめん、麻耶、奈々子。」
「やっぱ、本物なんだぁ、亜美が知ってるって事は。」
「本物? なんだかわかんないけどぉ、この人はプロデューサーさん。 業界ではわりと有名なほう?」
「ふぇ〜〜〜。 本当だったんだー。」
「で、大山さん、あたしの友達と何話してたんですかぁ〜? 亜美ちゃん、ちょっと聞きたいかも。」
うっは、ヤベ。 流石親子だぜ。 この微妙に蔑むような視線、マジ最高。
「あーら、亜美ちゃん、奇遇じゃなーい。 別に特別なこと話してたわけじゃないのー。 ただ、この子
 達があんまり可愛いから、ちょっと下調べしちゃおうかな〜って。」
・・・・・・なんで俺は川嶋親子を前にすると、こうも極端にカマっぽくなるんだろうな。
いや、普段から仕事のときはおねぇ言葉を使っているんだが。
むしろさっきまでの普通の喋りが演技といってもいい。
「それって、大山さんの仕事じゃないですよね?」
「うーん。 そうかも?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
気まずい空気。 麻耶ちゃんと、奈々子ちゃんはオレの豹変ぶりにドン引きしてるぜ。
でもって、見る見るうちに亜美ちゃんの顔に疑念の表情が浮かんできた。
「もしかして、ママになんか言われて来たんですか?」
「え?」
これは純粋に予想外のアルゴリズム。 声も今までに無いくらい真剣な調子だ。
「な、なんでそうなるのぉ?」
「だって、大山さん、ママとしょっちゅう仲よさそうに話ししてるって。」
「はぁ? そ、そんな筈ないじゃなーい、あ、亜美ちゃんたら、な、な、なーに言ってるのぉ。」
超動揺しちまったぜ。 傍から見てると俺は川嶋安奈と仲がいいように見えるって事なのか?
だが、亜美ちゃんは、オレの動揺を別な意味に捉えたらしい。
あからさまに不機嫌な表情になっちまった。
「あたし、今は進学の事で精一杯ですから。 そう、ママに伝えて下さい。 それと、私の友達に
変なちょっかい出さないで下さい。」
「行こ。 麻耶、奈々子。」
「えっ。 あ、うん・・・。」「亜美ちゃん、どうしたの? なんか急に不機嫌になって・・・。」
全くだ。 奈々子ちゃんの言うとおりだぜ。 
「もー、亜美ちゃんったら、つれないなー。」
別れの言葉はいつもの定番だった。
二人を引き連れてずんずんと店を横切って手早く会計を済ませると、俺に鋭い一瞥をプレゼント。
返すは愛想笑いと、やっぱりいつものように小指から順に指を折ってバイバイの挨拶。

なーんてこったい。 せっかく上手くいきそうだったのに。
でも、ま、いいか。
なんとなーくだが、モデルを辞めた原因は、母親との確執にあるような気配だな。
やっぱ、ヤメだヤメ。
どう考えても、亜美ちゃんをうちで雇うってのは無理だ。
そもそも、川嶋安奈を亜美ちゃんに説得してもらわないと無理な計画なのに、その母親が仕事を
辞めた事に関わってるんじゃ、箸にも棒にも掛からねぇ。
さてさて。 帰って報告書でも作るか。
ま、文言は散々考えてある。 とっととこんな仕事終わらせよう。
ふんっ、それにしても、すっかり葉桜になっちまったってのに、今日はやけに寒いぜ・・・。




--------------------------------------------------------------------------
「おっはよーうぅ」
「よっす、大山、最近大変らしいな」
無精ひげのやせぎすの男が、ゴミ置き場のようなデスクにふんぞり返りながら声をかけた。
「おぅ。 時田ちゃん、珍しいね〜、昼からいるなんて〜。」
「川嶋亜美かー、お前にうってつけの仕事だよなー。」
「あぁ〜、それね、失敗。 今上に報告してきたのー。」
「あ? おいおい、なんだよ、あっさりしてんな。 もっと粘ったってよかったんじゃね? 亜美ちゃん、
好みだろ? マジで似てるもんなぁ。 もうちょっと楽しんでも罰はあたんねーと思うぜ?」
「え、なんすか、それ。」
まだ二十代前半の男が鋭く反応し、椅子から立ち上がったが・・・
「田辺、アンタ、引っ込んでなさい。」「・・・サーセン。」
大山の一言で、椅子に戻る。
「あのねぇ、時田ちゃん、そんなの全然ないって。 第一、亜美ちゃんに失礼っしょ。」
「そーかぁ? でも、万一亜美ちゃんがうちに来たらよ、お前、絶対担当すんだろ?」
「だぁからぁ、そーんな事、ないってぇ。 まぁ・・・もっともぉ、あの子面白そうだし、今抱えてる子よりは
百倍売りやすいだろうから、担当しろって言われたら断らないけど。」
「はっはっはっは。 ところで亜美ちゃんとはちゃんと話せたのかよ?」
「ん。 ま、ね。」
「ふーん。 決心は固いってか。  もったいねーなぁ。」
「そうだけどね。 でも、本人が望んでないんなら、無理にやらせる訳には、ね。」
「・・・・・・ふーん、なるほどねぇ〜。 押しの大山がねぇ・・・。 くっくっくっ・・・。」
「・・・なによ。」
「いーや、なんでもね。」
「時田、あんたそういうの、いやらしいって・・・」
「お、大山プロデューサー!」
「なによ、田辺!」
「い、いや、あの、かっ、川嶋安奈から、電話・・・」
「はぁ?」
「なんか、むっちゃ怒ってますよぉー。 大山さん、なにしたんですか。」
「ちょ、マジ?」



「やっぱ、大山先輩すげーなぁ。 川嶋安奈っていったら、けっこう大物じゃないですか。 苦情と
いえど、直接電話かかって来るなんて・・・。」
「あいつは、昔から川嶋安奈とは因縁があってな。」
「因縁?」
「あいつな、会社入った頃はな、川嶋安奈の熱狂的ファンだったんだよ。 ・・・ってか、今もか。 
それがさ、どういう因果か、川嶋安奈を潰す作戦ばっかあいつに流れてな。」
「潰す・・・ですか。」
「ああ。 でも、向こうが常に一枚上手でな。 結局勝てなかった。 その過程で、あいつは彼女に
とって敵以外の何者でもなくなっちまって。 哀れなこった。」
「あちゃー。 気の毒な話ですねぇ。」
「ま、でも災い転じて福となすってな、逆にこうして直接対峙してもらえるってのも事実でよ。 
あいつは結局それを選んだんだろうなぁ。 いまでも会う度にチクチクやりあってるって訳だ。  
まー、なんだ、好きな子をついつい苛めちまう、アレににてるかもしれねーな。」
「そうなんですか。 大山さんも結構子供っぽい所あるんですね。」
「ばーか、田辺。 お前、そんなだから青二才って言われんだよ。」
「え、なんすか、時田さんまで。」
「あのな、心ってのは18のガキも、40過ぎたオヤジも大して変わんねーんだよ。 恋なんか正に
その典型だ。 ただ、歳をとると色々臆病になってな、折り合いをつけちまうんだ。 それだけさ。」
「ほれ。」
そういって時田は顎の先で、電話口の大山を指し示す。
「・・・大山さん、笑ってますね・・・」
楽しい事を話しているわけではない。 言葉は笑顔とは程遠い。
「たぶん、自分じゃ気がついてねーがな。」
しかし、確かに田辺には大山が楽しげに見えた。

川嶋安奈の怒りはどうやらすぐには治まりそうにも無い。

眠気を催す昼下がりのデスクで、嫌な汗を流しながら対応する同期を見ながら、

時田は誰にとも無く呟いた。

「―――みろよ、あの幸せそうな顔を、よ。」

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