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ガラス越しに見上げる空は、あの頃と何も変わっていない。
数日雨が続いた後の青空はとりわけ美しく見える。
カウンターから見える通りの景色は、幾つかの看板が姿を変えていて、それだけが時間の流れを感じさせた。
ゆるくウェーブのかかった柔らかそうな黒髪。
ダークブラウンのシンプルなワンピース姿の彼女は、氷が解けて薄くなったアイスコーヒーに差し込まれたストローを
軽く摘んでもてあそんでいた。
緩く伏せられた瞳はけだるげに、退屈そのものを絵にしたような表情で。
人待ち顔というなら、まさしくそれがそうだった。
しかし、そんな彼女を退屈から救ってくれる者が、ようやくコーヒーショップ、通称「スドバ」に転がり込んできた。
もっともその人物こそ、彼女を退屈にした張本人でもあったのだが。
「ごっめーん、奈々子、待った?」
奈々子は携帯に浮き出た数字を示しながら応じる。
「おそいよ、麻耶。 30分。 …せめて連絡くれてもいいのに…。」


     埋めネタ  〜奈々子様の何も無い昼下がり〜 98VM


「この間はごめんねー、奈々子。 急な連絡だったからさー。」
「うん、いいよ。 しかたないよね。」
「前から約束してたし、頭数あわせないと拙いしさぁ。 急に断れなかったんだよねー。」
「そうだよね。 かえってゴメンね。」
「いいよ〜、謝んなくてー。 それより、どうしたの? なんか、ちょっと様子がおかしかったみたいでさ、気になってたんだ。」
「うん、別になんでもない。 もう大丈夫だから。」
「本当に?」
「ええ。 実はね、あの日、亜美ちゃん呼びつけちゃった。」
「えーーー。 亜美ちゃん、来てくれたの? すっっごーい。」
「んふふふふ。」
「最近、CMとかドラマとか、いっぱい出てて忙しそうじゃん! あたし、半年近く会ってないよ〜。 あたしも会いたかったなー。
変わってなかった? 亜美ちゃん。」
「相変わらず、超綺麗だったよ。 あ、そうだ。 髪、ショートにしたみたい。」
「え!マジ! あんなに綺麗な髪の毛してたのに、なんで、なんで!」
「なんか、役作りって言ってたと思う。」
奈々子はあまり自信なさげに言う。 正直、酔っていて記憶があやふやだった。
「ふぇ〜 やっぱ女優って大変なんだー。 あんなに綺麗な髪の毛、バッサリやっちゃうなんて…。 あたしだったらヤだなー。」
「そうね。 あたしもちょっと嫌かな。」
「ショート、似合ってた?」
「そうね…。 ん〜。 亜美ちゃんクラスだと、もう髪型なんか関係無いって感じかなぁ…。」
「そうなんだー。 やっぱり、綺麗だよねー。 亜美ちゃん。」
奈々子とて女である。 いくら仲の良い友人といえど、嫉妬心が無いわけではなかった。 それは麻耶も同じで、亜美の美しさ
を認めていても、心のどこかでは少しチリチリしたものがあるのだろう。
だが。
今はもう、奈々子の心から嫉妬心など、跡形も無く消え去っていた。
それに代わって、別な感情が燻る。
―――それは怪しげで、背徳的な何か。

奈々子は思い出す。
その美しい亜美が自分の腕の中で力尽き、無防備に横たわる姿を。
桜色の唇から漏れる、その切なげな鳴き声を。

「どうしたの? 奈々子?」
不思議そうに覗き込む麻耶の大きな美しい目に我に返る。
そもそも麻耶も奈々子も、亜美を羨む必要などない。 彼女らは十分に美しいから。
ならば、奈々子には当然気になる話題があった。
突然湧いた劣情を誤魔化すのに丁度良い話題が。
「ん、なんでもない。 ねぇ、ところで、あたしを振ってまで出掛けた合コンの成果はどうだったの?」
麻耶も亜美ほどではないが、折り紙つきの美少女なのだ。 合コンでもてない筈が無い。
「えっ! あ、あはははは。 そんなのゼーンゼン。 まるで不作でさぁ。 ろくなの居ないの。 3人にくっつかれてもう、超ウザ
かったぁー。 もう最悪。 ほんっと、『まるお』みたいな男って居ないんだよね〜。」
まだ麻耶は『まるお』信者なのか、と奈々子は呆れる。
だが、その一方で麻耶が月に一、二度は能登と会っているのも奈々子は知っていた。
「うふふふ。 『まるお』みたいな男は居ないかもしれないけど… 『能登君』くらいの男ならけっこう居そうじゃない?」
「なっ、なんでそこで能登が出てくるのよー。 なんか、奈々子絶対勘違いしてる!」
自分が赤くなっているのに、麻耶はおそらく気が付いていない。
麻耶と能登の関係は、一番の親友である奈々子にとっても不可解極まりなかった。
能登の一方的な片思いのはずだったし、未だに麻耶は北村に未練がある。 いや、未練というより、麻耶は一途な性格なのだ
ろうと思う。 確かに麻耶の気持ちは北村に向いている筈なのだ。
だが、一方でこの反応。
案外、この麻耶と能登の関係のように、長い時間を掛けて、付かず離れずを続けた果てにあるものが理想的な男女の関係なの
かもしれないと奈々子は思い、つい最近終わった己の恋を振り返る。
麻耶を軽くからかいながら、思い出を辿る。
そして、麻耶がすこし大人びた顔になったのに気付く頃。
奈々子は麻耶をからかう話題が尽きたことと、自分の目が涙で潤んでいることを悟った。
そして、どうしても麻耶に会いたくなった理由も。
「…奈々子…。 やっぱり、あたし合コン断るんだった… ごめんね。」
やはり、麻耶は親友だった。
大切な、大切な、親友だった。
「ありがとう。 ―――うん、大丈夫。」
そう言って奈々子は微笑む。
麻耶の言葉の温かさが、ぎりぎりで奈々子の涙を止めた。
きっとこの傷は簡単には癒えないだろうと奈々子は思っていた。
しばらくは…
しばらくは男の人を好きになることは出来ないと、奈々子は思う。 
失うことの恐ろしさに身が竦んでしまったから。
人を愛する喜びよりも、裏切られる痛みの方が強いと、思ってしまったから ―――。

奈々子の気を晴らすために、バカ話を一生懸命になって連発する麻耶。
一緒になって笑いながら、少しづつ癒されていく自分の心に向き合うと、またしても淫靡な光景がフラッシュバックする。
奈々子は自分の心が壊れてしまったのかと、いぶかしむ。
いけない事だと思いながら…
しかし、その光景は瞼の裏に焼き付いて、消えない。
やがて、親友に別れを告げ、店を出た奈々子の口元が微かに嗤った。
「また、亜美ちゃんにメールしてみようかな…」
誰にとも無く放った言葉は、呟き声より小さく。
奈々子の妖艶な瞳は……
憐れなチワワを狙う、猛禽類の輝きを放っていた―――。

                                                                    おわり。

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