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宴会の開始時間より20分以上早く着いてしまった。
流石にまだ誰も来ていないかもしれない。
それならば一緒に店に入ってもいいのだが、そうでなければ時間差で店に入りたい。
変な勘違いをされたくないから。
そう、絶対にそれは勘違いなんだから――――。
わざわざ30分前に最寄り駅の出口に立って、道行く人々に求めた姿は『まるお』の姿。
だから、そいつの姿を見つけた瞬間、踵が浮いてしまったのは、あくまで立ち疲れたから。
『わたしも今着いたところ、偶然ねー』みたいに声を掛けたのは、知人を無視してはいけないっていう、人としての礼儀。
さっきから、顔が熱いのは夏だからに決まっている。
そして、さっきからイライラしているのは………ああ、もう無理。 認めてしまいたくなる。
でも、でも、それだけは…
その一言だけは、まだ言えない。 言うわけにいかない。
だって、それを言ってしまったら、あたしヘロヘロになっちゃう。 こんなうっぜー奴相手に。 そんなの嫌。
目的の店の入り口で、結局ずっとお留守だった右手を見つめて溜息を吐く。
大体、こんだけサイン送ってるんだから、手くらい握れよ……。
そんな、実に自分勝手に複雑な乙女心に揺れる美少女、それが木原麻耶だった。


     埋めネタ  〜麻耶たんのちょっぴり複雑な夏の夜〜


突然の奈々子からのお誘いに、これだけの面子が揃うのは驚きだった。
つまり、修学旅行時のグループのみんな。
北村、高須、能登、春田の男性陣。
麻耶、奈々子、タイガー、櫛枝、そして亜美の女性陣。
特に、櫛枝と亜美は都合を合わせるのが困難な筈なのに、二人とも参加というのは恐ろしいくらいの幸運だ。
麻耶が着いた時、部屋に居たのは奈々子、亜美、高須君に能登。
時間差工作をしておいて大正解だったと、麻耶は胸を撫で下ろす。
やがて、春田がほぼ時間ぴったりに着いて、それから5分くらい後に、まるおが迷子タイガーを捕獲して到着した。
宴会が始まって30分ほど経過して、櫛枝が来襲。 ようやく全員が揃って、改めて乾杯したところ。
席順は男性が、北村、春田、高須、能登の順。
対する女性陣は麻耶、奈々子、亜美、タイガー、そして能登とタイガーの間に櫛枝が座り込んだ。
あたしの真正面にはまるお。 願っても無い配置になっていた。
もともと仲がいいもの同士、たちまちのうちに盛り上がる。
正々堂々と飲酒が可能な年齢に達しているものは堂々と、そうでないものはそれなりに。
皆、陽気に楽しく、宴に望む。
相変わらず、タイガー周辺はひときわ騒がしく、どうやら亜美ちゃんがタイガーと櫛枝の集中攻撃に捕まったようだ。
そしてあたしは…
さっきからまるおと奈々子、三人でとりとめの無い話をしていた。
まるおは話題が豊富で、話も上手。
楽しい。 本当に楽しい。
…けれど、あたしはなんとなく落ち着けないでいた。
ちょっと前までなら、こんなシチュエーション、夢中になってまるおと話してたと思う。
ずっと好きだったんだから。
なのに、今日はすこしだけイライラする。

―――なんで、一番遠い所に座るんだろう。 あたしの事、好きなんじゃなかったの?

知らず知らずのうちにあたしは、何度も何度も ――― あいつの事を盗み見ていた。

やっぱり、女の子の恋愛の基本スタイルは『待ち』。
どんなに積極的な女の子でも、モーションかけて『好きになってもらう』ってのが一般的。
女の子からコクるのって、カッコいいけど実際は凄く勇気が居る。 たとえ相手が自分に気があるってわかってても。

二次会はカラオケだった。
櫛枝は寮の門限とかで、最初に何曲か歌いまくって、颯爽と帰っていった。
相変わらず嵐のような奴。
亜美ちゃんとタイガーは本当に二年ぶりなのかってくらい息の合ったデュエットを披露するわ、ちょっと酔っ払った亜美ちゃんが
高須君に迫って、タイガーが爆発するわで、もう大騒ぎ。
あたしもまるおとデュエットしたり、まるおの隣に座って、ちょっと体寄せたりして…。
それはそれで楽しいし、嬉しい事。
でも。
……それでも、あいつはあたしの傍に来ない。
ほとんど話しかけてもこない。
なんなの!
あたしのこと、好きだって言ったのは嘘なわけ?
それとも、心変わりしちゃったって? 
二年間も、毎月会ってるのは何のためなのよ!! 本当に原稿渡す為だけなの?
…もう、我慢できない。 あたしのこと…バカにして!

カラオケが終わっても、名残惜しさに近くの公園ですこしだべる。 もうすぐ終電って時間になってやっと解散になった。
みんながそれぞれの帰るところに向かって歩き出す。
「じゃあ、諸君、機会があったらまたこのメンバーで楽しもう。 さらばだ。 あっはっはっはっはっは。」
妙なテンションでまるおが帰る。
タイガーと亜美ちゃん、高須君はいつの間にか居なくなっていた。
「ちょっと、春田くん、手伝って欲しいことがあるんだけど、いいかしら?」
「え〜 なになにぃ〜 奈々子様ぁ〜〜。」
奈々子が春田を引き離してくれた。 
公園にぽつんとあたしと能登が残る。

「えっと、俺もそろそろ帰ろうかな。 電車なくなっちまうし…。」
「能登。 今日は楽しかった?」
「えっ? あ、ああ。 久しぶりでこのメンツがそろったからなぁ、楽しかったよ」
「あたしは………楽しくなかった。」
「なっ、なにいっちゃってんの、北村大先生といーっぱい話せてたじゃん。 ほとんどツーショットでさ。 最高だったろ?」
その言葉であたしはキレた。
「なによ、ソレ……。」
「?」
「なんなわけ? ばっかじゃないの! あんた、嘘ついたの? あたしのこと好きだって言ったじゃない! 嘘つき!!」
「そ、そんな、だって、木原は北村の事が好きなんだろ! だから、俺は!」
「ばか!ばか!ばか! そんな事、聞いてねーんだよ! 嘘ついたのかよ! あたしのこと、好きなんじゃなかったのかよ!」
「そ、それは」
「だったら、なんで話しかけてこないのよ! なんで手握ってくれないのよ! なんで、もう一度『好きだ』って……」
「言ってくれないんだよぉぉぉ!!」
言っちゃった……。 自分が無茶苦茶言ってるのは分ってた。 
答えは返ってこない。 …たぶん、もう嫌われた。 涙が溢れて止まらない。 
しばらくして、気配が動き出した。 一歩、二歩、三歩。 すぐ目の前で足を止める。
「木原。 好きだ。 ずっと前から、お前のことが、大好きだった。 何度でも言うよ。 好きだ。 大好きだ。」
驚いて顔を上げた。 こいつ、こんなにカッコよかったっけ? 
けれど、我侭なあたしは、もう一つだけ注文をつける。

「…麻耶って呼んでよ…。」

そうしてあたしは、ゆっくりと、――― 目を閉じた。

                                                                   おわり

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