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音がするような空。
それはきっとこんな青空を言うのだろう。
何処までも抜けるような青空は、耳鳴りの音が聞こえてきそうなくらいに純粋だった。

晴れの日が続いたのは久しぶり。
もともとあまり物事を深刻に考える性質じゃない彼女は、いつも軽やかに歩いているのかもしれない。
けれど、それでも今日の彼女の足取りは一段と軽やかに見えた。
この時節にしてはやや乾いた風が、シャラの木の白い花を揺らす。
サラリと風に舞う亜麻色の髪は、高校時代から変わっていない。
レモンイエローのシャツにライトブラウンのゆるタイ。
くすんだオレンジ色のVネックカーディガン、チャコールグレーにエンジ色のチェックのミニプリーツ。
着こなしの難しいボーダー柄のレギンスも、そのほっそりとした足ならいい選択だった。
その髪の色も、服装も、いかにもギャル系の彼女―――
木原麻耶。
毎月きまって今頃、彼女はその坂を上る。
彼女は例月の約束事を守るべく、いつもの店に向かっていた。


      埋めネタ  〜麻耶たんの何も無い昼下がり〜


本当は、親友である香椎奈々子と同じ大学に行きたかった。
けれど、世の中そうそう上手くは行かないもので、麻耶だけが落ちた。
どうしてもその大学に行きたかった訳じゃない。
ただ、奈々子と同じ学校に行きたかっただけで、それだって、絶対という訳でもない。
結局、流されるまま私立の女子大に入ることになって、現在に至る。

でも、今になって少しだけ後悔している。
なぜなら、女子大という所は彼女のような娘にとっては、あまりにも退屈な場所だったから。
大橋高校2−Cの三人娘。 かつて彼女はその一角を占めた。
その一人に、人気美人女優の川嶋亜美が入っていた事でも窺い知れる。
彼女のルックスは水準を大きく上回る。
それは、女子大にあっては、合コン時の広告塔に最適である、という事を意味した。
お陰様で麻耶は、仲間内で合コンにひっぱりだこで、そして、それが麻耶の退屈を余計に助長することになっていた。
つまらない。
毎日、つまらない。
高校時代好きだった北村は国立の難関校に合格して、正直、麻耶の『ブランド』では気後れしてしまう相手になっていた。
届かない所へ行ってしまい、半端に理想化された男と比べれば、大抵の男は色あせる。
合コンは麻耶にとっては本当につまらない茶番であった。
彼女の友達が求めるような一夜の関係など、麻耶には到底許容できるものではなかったからだ。
それでも、友人たちの『遊び』の一つとしてそれがある限り、麻耶はそれに付き合うしかなかった。
もしかしたら、素敵な出会いがあって、退屈から救ってくれるかもしれない、そんな想いが全く無い、といえば嘘になる。
けれど、先日の合コンは大失敗だった。
親友の奈々子を見捨てて行くなんて、やっぱりバカな事だったと、今更ながらに思う。
「今度誘われたら、断ってみようかなぁ……」
声に出せば、決意になるような気がして呟いてみる。
「はぁあぁ… やっぱり女子大なんて、退屈。」
そう。 毎日、毎日、退屈な日々。
これから起きる事に、ほんのちょっとだけ心がウキウキしているのは、毎日が退屈すぎるから。
そう自分に言い聞かせる麻耶。
しかし……
いつもの丘の上のカフェテラス、久しぶりに並べられたウッドデッキのテーブル。
そこに居る人影が目に入ったとき、不覚にもほんの少しだけ胸が高鳴るのを……麻耶は感じていた。

黒縁メガネのキモい奴。
一言で言えばそんな男だ。
ファッションセンスは悪くない。 二流の私大に現役合格した頭はぎりぎり合格。
ルックスはまぁ、普通。 不細工ってほどではない。
でもやっぱウザイ奴。
それが、麻耶にとっての能登久光だった。
それが少し変わったのは、やっぱり卒業を前にしてコクられた時からだろう。
結局、その告白には麻耶はなんの答えも出さなかった。
いや、出せなかったというのが正確な所だ。
嫌いだった筈なのに、真剣極まりない顔でコクられて、正直ちょっと嬉しかったから。

卒業して2年。
能登は少し大人びて、高校の時とは少しだけ印象が変わったように思えた。
ウッドデッキで文庫本を読んでいる姿に、ほんのちょっぴり『男』を感じる。
「ごめん、ちょっと遅れた。」
本に集中していたのか、驚いたように能登が顔を上げる。
「あ、ああ。 おっ、俺も今来たところ。 待ってない、待ってない。 あはははは。」
でも、こうして見え透いた嘘をついてキョドっちゃう所はまだまだ子供。
テーブルに置かれたグラスは氷が溶けて水だけになっていた。 もう、何を飲んでいたのかすら判らない。
「木原、毎月悪いな。 これ、今月の原稿。」
「うん、まぁ、いいけど。 けっこうこれ人気あるし。」
匿名希望のライターによる連載小説。
それは麻耶の学校の文学サークルが出すフリーペーパーの人気コンテンツだった。
最初はこんな手まで繰り出してきた能登を心底キモイと思ったが、『木原に会うためなら、やれることは全部やる』
そう言い放たれて、心がグラグラ揺れた。 震度5強くらいに。
それからだ。
麻耶は毎月こうして原稿を手渡しで貰って、文学サークルにいる友人に渡していた。

駅からだいぶ離れた高台。
都心から少し離れたこの町で、ごみごみした家々を少し遠くまで見渡せる。
そこから見る景色は、いつの間にか麻耶の好きな場所になっていた。
能登はいつもこの丘の上のカフェテラスで、窓際の席に腰掛け、本を読みながら待っている。
それはほんの30分ほどの邂逅。
話題はいつも原稿の感想だけ。
言葉が尽きれば、それが別れの挨拶だった。 
いつも能登が先に席を立つ。 ……そして、今日も同じ。
「それじゃ、また来月な。 書きあがったらメールするよ。 じゃな。」
「う、う…ん。」
喉元がひっつくような感じがして、上手く言葉がつなげられなかった。
唾を飲み込んで、ぎゅっと拳を握る。
「ちょっと、待ってよ。 い、いつもあたし、忙しいのに呼び出されて、すごーく迷惑してるんだから…」
「えっ?」 能登の顔が曇る。
麻耶は焦って次の言葉を吐き出した。
「だ、だから、たまにはあたしに感謝して、買い物の荷物持ちとか、ご飯おごってくれたりとか!」
心臓がばっくんばっくんいっている。
「そ、そのくらい気利かせろって言ってんの! なに暗い顔してんのよ、ウゼーな、もう!」
思いがけない台詞に、きょとんと見つめる能登の視線の先。
ウッドデッキの脇に植えられたサルスベリの、咲き始めたばかりの花が、丘を吹き上がる風に手を振っている。

―――その花の色は、亜麻色の髪をなびかせる少女の頬の色だった。

                                                             おわり。

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