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幼馴染日和

「竜ちゃーん、おっはよぅサンサン!」

朝。慌しく玄関を出ると、幼馴染が笑顔で迎えてくれた。
それはもう、こちらの目が眩むくらいの太陽のごとき笑顔で。
「お、おう、実乃梨。おはよう。」
「おぉっ、制服すっげー似合ってんじゃん。こりゃーちょっとした鼻血もんですな、うん。」
実乃梨は視線を上へ下へと動かして、竜児の真新しい制服姿をまじまじと眺める。

――似合ってる、実乃梨が俺の制服姿を似合ってるって。
いきなりの不意打ちに竜児はニマァと口端を歪め、禍々しい笑みを浮かべる。
子供は泣き出し、大人も思わず三桁の通報番号を押してしまいたくなるような邪な笑顔。
「ねね、写メ撮っていい?」
が、幼馴染は竜児の犯罪面など意にも解せず、ケータイのカメラを竜児に向ける。
顔面超魔王とまで呼ばれた自分に親しくしてくれる実乃梨に竜児は改めて感動を覚える。
もし、この幼馴染と別の高校だったりしたら……と思うだけで、背筋が凍りついて、
そのままかち割られてしまうような、そんな感覚に陥る。

「み、実乃梨。」
「君の輝き、頂きさぁ!!――って、なになに?」
が。それよりも、ご機嫌にシャッターを押しまくる幼馴染に伝えねばならぬことがあって。
「いや、お、おお、お、お前も、その。」
それは何よりも最優先で伝えたい言葉。それなのになかなか上手く言えない。
実乃梨はケータイのシャッターボタンを押す手を止め、ん?と小首を傾げる。
そんな何気ない仕草でも竜児の脈拍はドクンと急加速。

――負けるな、俺。昨日、一晩中練習しただろ!
自らを鼓舞するも、やっぱり続きの言葉は喉元でつっかえて声になってはくれず。
そのまま、三白眼をギラつかせながら必死に口をパクパクさせる。
お間抜けながらも、それはそれでホラーな構図が続くこと数秒、
「に、似合ってるぞ、制服……」
やっとこさ一晩の特訓が報われる。

実乃梨は目を見開き、何度もパチクリと瞬きをして。
完全に予想外だと言わんばかりにえ?え?とアタフタと戸惑いの表情を浮かべ。
沸点に達した頬が真っ赤に変色する前に慌てて顔を下に向けて。
「そ、そりゃー、どうも……」
それからやっとポツリと一言。
竜児は竜児で恥ずかしくてマトモに実乃梨を見ることができない。
想像を遥かに上回る反応を目に焼き付ける余裕もなく、ただただ視線を右へ左へ泳がせる。

「あ、みのりぃんだぁ。おっは〜。」
数秒間の沈黙で気まずくなるかならないか。
そんな絶妙のタイミングで泰子が借家から顔を出す。
「やーん、制服姿ちょーイケてるぅ!かぁいいよ〜☆」
そして、実乃梨の制服姿にうっとりしたかと思えば、躊躇なく抱きつき頬ずりする。
「ちょ、やっちゃん。苦し……ってゆーか、かぁいいなんて照れるぞなもし!」
ぞなもしって。なんて竜児の言葉はスルーでワイワイキャッキャッと二人は盛り上がる。
傍から見れば仲良し姉妹のよう。実際は、片方は竜児の母親なのだが。
「みのりぃん。高校生になっても竜ちゃんのこと、よろしくねぇ〜」
「そ、そりゃあもう!えぇ、はい!えぇ!!」
泰子の言葉に幼馴染はビシっと背筋を伸ばして高速で首をカクカクカクと下に振る。
何でそこでムダに気合い120%なんだ、お前。なんて言葉も当然にスルーである。

まぁそれはそれとして。
泰子の言葉通り、実乃梨の制服姿はかなりイケてる(死語)。
それはもう、一夜をまたいで悶々と思い描いていた以上に。
制服全体の色合いが実乃梨の元気な笑顔とマッチしていて。
細身のブレザーが実乃梨のしなやかで健康的な体を引き立てて。
実乃梨がコミカルに動く度にふわりと舞い踊るスカートが視線を奪って。
爽やかな風が実乃梨のショートヘアーをなびかせて、それがもう……

……要するに。要するにだ。文句なしに、最高に似合っているのだ。
制服コンテストなんてものがあれば、審査員特別賞はカタイというくらいの勢いで。
実乃梨のためにあるような、そんなベタな表現がしっくり来るくらいのマッチっぷり。
ギンギラシルバーにさりげないくらい、ずっと前からこの制服を着ていたような自然さ。
中学の制服もご飯3杯は行ける程だったが……それ以上だ。5杯、いや6杯は行ける。
それくらい似合っていて、それはもう可愛いのだ。キュートでプリテーなのだ。
あぁ、今になって思えば「似合ってる」じゃなく「可愛い」と、そう言えば――

「……ふぅ。てゆーか、だな。」
遥か上空に打ち上げられていたヘブン状態の意識が唐突に竜児の元に返ってくる。
そして、妙に冴えわたった頭で冷静になって考えてみれば。
「時間、時間!入学早々、遅刻すんぞ!!」
「おわっち、そいつぁいかんざき!そいじゃ行くぞ、竜ちゃんちゃん!じゃあね、やっちゃん!!」
「じゃあねぇ、みのりん!いつでもウチに遊びにおいでねぇ〜。」
「おー、イエス!アイルビーバックだぜ、また会おうぞ!!」

雲ひとつない青空の下、二人は駆け出す。
新たな学び舎、大橋高校に向けて。

「――意外に余裕だったねぇ。」
「おう。走らなくても良かったかもな。ま、まぁけど、初日が肝心だしな。」
緩やかな坂道を隣り合って二人は歩く。この調子なら15分前には到着しそうだ。
周りを見れば、自分たちと同じく新調した制服を着た新入生たちで溢れていて。
糖分を見つけたアリんこの一団のごとくワラワラと一方向に校舎へ向かう。
ふと、その一団から恐怖半分、好奇半分といった眼差しが向けられていることに竜児は気付く。

まさか……カップル、なんて思われているのだろうか。
何とも素晴らしい誤解じゃないか、と口端が自然と上方向へ。
連続放火魔がガソリンをぶち巻き、そこにタバコを投げ込んだ直後に浮かべるような笑み。
その笑みに恐怖した者、もしくはその気にあてられた者から「ひっ」という悲鳴が上がる。
が、自分のすぐ隣に理解者のいる竜児はそんなことでは全くへこたれない。
「安心シタマエ、諸君。ただの幼馴染だ。」などと、テレパシーを送ろうと試みる余裕まである始末。

「ねね。竜ちゃん。」
竜児と新入生諸君との心の会話なぞ露知らず、実乃梨は竜児に声を掛ける。
瑞々しい素肌が太陽の光を浴びて、輝いているような錯覚に陥る。
そんな実乃梨の素肌をすぐ隣で拝める自分は銀河宇宙一の幸せ者に違いない。
っと、実乃梨が部活の朝練に参加するようになったら、なかなか一緒に登校は出来ないのだった。
ならば、今のうちに堪能しなきゃな……と、余計なことばかり考える。
「ねー、竜ちゃんってば。」
「おう。……つーか、おま。高校では竜ちゃんって呼ぶの止めろって。」
朝、会った時はバタバタしていて言い忘れていたのだが。
同級生の前でちゃん付けで呼ばれた時の恥ずかしさと言ったらないのだ。

「じゃあ……竜ちゃんのすけ。」
「あのなぁ。」
「だって竜ちゃんは竜ちゃんじゃーん。」
「せめて高校内とその周辺では『高須くん』にしてくれ。マジで恥ずかしいから。」
中学のときも周りの視線が痛かったしな。と過去の経験を振り返る。
そりゃー、中坊にもなってちゃん付けはないよなぁ。いわんや高校生をば……
と脳内で自分の意見に理由付けを重ねて、一人うんうんと頷く。
「えーー。でもさぁ、今さら名字で呼ぶなんてむず痒くて仕方ないと思うわけですよ。
竜ちゃんは私のことを今さら『櫛枝さん』などと呼べるのでしょうか?はい、どうぞ。」
「……く、櫛枝さん。」
「うっわ、チョーむず痒いっす。」
背中に手が届かん!そんな感じで実乃梨は大いにもがいて見せる。
一方の竜児も似たような心境だったりする。
物心ついた頃から何も考えずにずっと下の名前で呼び続けてきたのだ。
今になって、急に名字(しかも、さん付け)で呼ぶ方が何とも恥ずかしいじゃあないか。
「ま、まぁ君の頑張りに免じて努力はしようじゃないか。高須クン。」
「ぐはっ……」
トドメだった。違和感ありすぎ。うん、無理。というわけで。
結局、竜児のささやかな願いはあっさりと自ら取り下げる結果に終わった。

「……おほん。それでだ、竜ちゃん。ぼちぼち本題に入ってもいい?」
実乃梨はわざとらしく咳払いしてみせる。
それでやっと、実乃梨が自分に何か話そうとしていたことを思い出す。
「お、おう。何だ。」
「……何かアホアホなやり取りの後じゃあイマイチ締まりがないわけですが。」
「締まりがなくても構わんぞ、俺は。いつでも真剣に話を聞く準備はあるしな。」
んじゃあ……と、実乃梨は真剣な表情に切り替える。竜児もそれに従う。
その表情は脱獄して人質と共にコンビニに立てこもった殺人犯が交渉人と切羽詰まった駆け引きを展開しているかのようだが、もはやこれ以上は言及しまい。

「私さ、高校ソフトの頂点を極めるんだ。目指すは全国大会出場、そんで日本一。」
「ガキの頃からの夢だもんな。まぁ野球がソフトになっちまったけど。」
「野球は……どうしようもなかった。女だから。でも、だからこそ。だからこそ、ソフトは誰にも負けねぇ。絶対に。」
そう話す実乃梨は希望に溢れている。挫折にもめげず、夢に向かって一直線。
その瞳は竜児を捉えていながらも、ずっと先を見据えていて。キラキラと輝いていて……
実乃梨のどの表情も大好きな竜児だが、この夢と希望に溢れた笑顔が一番好きだ。
この笑顔に惚れたといっても過言ではない。と心の中でムダに胸を張る。
「おう、俺はお前を応援してる。実乃梨なら出来る、そう思うから。」
だから、竜児は応援する。自分に出来ることがそれしかないのは悲しいけど。
でも、実乃梨がソフトで誰にも負けたくないと思うのと同じで、竜児も実乃梨を応援する気持ちでは誰にも負けたくないのだ。

「……そうやってマトモに話聞いてくれるの竜ちゃんだけだよ。ホント。」
遠くを見る目で実乃梨は控えめに微笑む。竜児は中学時代のある出来事を思い出す。
忘れもしない。中学の担任に笑われた、と話した時の実乃梨の表情を。
忘れはしない。あの時、実乃梨の担任に抱いた殺意に近い怒りを――
もしも実乃梨に止められていなければ……と思うと、ゾッとする話ではあるが。
「心配すんな。泰子も応援してるぞ。」
「そだね、やっちゃんも応援してくれてるよね。」
実乃梨は嬉しそうに、はにかんだように微笑んでみせる。
そんな不器用な笑顔も好きだ、と胸の奥が温かくなる竜児の表情は見ずに実乃梨は続ける。

「それでね、私ね。高校で活躍して、実業団に入って。その……」
隣で話す幼馴染の声が急に小さくなっていく。竜児の耳にも届くか届かないか。
さっきまでの自信に満ちた声はどうした?と竜児は実乃梨の表情を覗き込む。
「それで、その……竜ちゃんのこと養えるように頑張るんだ。」
竜児の覗き込む視線に目を逸らしたまま小声で言い切る。自分の夢の終着点を。
顔を真っ赤にして、けれど、その横顔は真剣そのもので。
思わず竜児はたじろぐ。が、竜児も男だ。言いたいことは言わねばならない。

「い、いや?い、いくらウチが貧乏だからってそんな気を遣わなくて良いぞ?
俺だって将来的には働くんだし、少なくとも破産とかはしない程度にはなるはずだ。だから……そんな心配すんなって。」
実乃梨の気持ちはとてつもなく嬉しい。法律が許してくれるなら、今すぐにでも婿入りしたいくらい。
けど、周りの知り合いに、それも大事な大事な幼馴染に迷惑を掛けるわけには行かない。
確かに泰子がいつまで現役か分からないし、自分に実乃梨みたいな才能があるわけでもない。
それでも……いや、だからこそ、実乃梨には一直線で夢に向かって駆けて行って欲しい。
それが竜児の願いなのだ。その足かせとならぬよう、自分だって頑張る。
それくらいの覚悟はしているつもりだ。だから――

「はぁ〜〜……」
竜児の切実な願いを余所に、実乃梨はわざとらしく盛大にため息をついてみせる。
「ど、どうした?」
「……ちょいニブじゃね、お主。そーゆー意味じゃねぇよ。
まぁいーけどさ。ん、とりあえず頑張るよ、私。うん、そうする。」
「いや、いきなり自己完結すんなよ。意味わかんねぇぞ。」
「なんでもなーいもーん。さ、急ごうぜ。」
ちょっとだけご機嫌斜めな様子で歩を早める幼馴染を慌てて追いかける。
置いていかれないように隣に並びなおすと、実乃梨の顔が綻ぶ。
つられて竜児も何となく嬉しくなって。本日一番の笑みを浮かべる。
国家転覆を企てた外患誘致犯が実行行為に移る直前がごとく、おどろおどろしい笑みを。

柔らかい風が二人の間を通り抜ける。
太陽は眩しく、優しく街を照らしている。

「高校で竜ちゃんともっと仲良くなれますように。」
「ん?何か言ったか?」
「んーん。なーんにも。」

今日は見事な入学式日和。


おしまい
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