最終更新: text_filing 2010年05月23日(日) 04:05:44履歴
363 174 ◆TNwhNl8TZY sage 2010/05/16(日) 23:35:25 ID:CcODol3a
「×××ドラ! ─── ×××ドラ! × ?-s ───」
縞々の模様から商品情報を読み込んだスキャナーがピッと無機質な電子音を奏でる。
表示された価格を唱えつつ次の商品を手に取り、それを数度繰り返して、最後に合計金額を知らせる。
預かった紙幣をレジに収め、取り落としてしまわないよう両手でしっかりとお釣りを返し、最後に仰々しくならない程度にお辞儀。
「ありがとうございました、またお越しくださいね」
タイムセール目当てに夕飯の買出しをしに訪れたお客さんたちが成していた群れを相手にすること数十分、ようやく忙しい時間帯を切り抜けた。
ごった返していた店内はいくぶん落ち着きを取り戻し、窓から差す夕日も落ちかけ、浮かぶ月が顔を覗かせている。
そうなると、そろそろ私も上がる時間だ。
ほぼ丸一日の間立っていた狭い仕事場を簡単に片付けてから、他のパートの方に挨拶を交わしてレジから出る。
「お疲れさまです」
それを見計らったように背後から声をかけられた。私もお疲れさまと、重たい身体で店中を忙しなく駆け回っていた彼女を労う。
うーんと大きく伸びをするとただでさえ大きな胸がたわわに揺れ、殊更に強調されている。
最近はまた大きくなったらしく、サイズの合うブラがなく、仕方なく着けない日も多いそう。
今日もそうなんだろう、シャツ一枚の背中には線が見当たらない。
彼女からすれば悩みなのはわかってはいるし、しょうがないのもわかるけど、していないなら、男の人の目があるところでそういう無防備な仕草をするのはやめてほしい。
隣にいる私が、ちょっと、みじめだから。
今通り過ぎていった、どこかで見覚えのあるような長髪をした男性客がおもむろに振り返っていたのが見えていないのだろうか。
豊かな胸もそうだけど、お腹だってこんなに大きいのに、それでも人目、特に異性の目を惹きつける彼女。
動作一つ一つから香りたつ色気は年を重ねるごとに強く、濃くなっていくように思えてならない。
そのくせ自身はあんまり気にした風でもなく。
「今日も疲れましたね」
なんて、のほほんとしている。厭味でなく、下手にでているわけでなく、あくまで普通に。
こっちが勝手に劣等感を感じているみたいで、実際そうなんだからバカらしくなってしまう。
「でも、今日はまだ楽な方じゃない。お客さんも少なかったし」
「あはは、そうですね、ホントはそれじゃいけないんですけど」
それでもこのお店は繁盛している部類に入るだろう。
以前に一度大不振に陥ったことがあるらしいここかのう屋も、少なくとも私が働いているこの数年の間、経営状態が深刻な落ち込みを見せたことはない。
それどころか黒字さえ叩き出している。現在の経済状況からすれば幸運を通り越して奇跡じみてすらいる。
これには来店してくださるお客様の力添えもさることながら、ある一人の従業員の尽力というか、活躍というか。
とにかく関係はしていると、そう私は睨んでいる。
その従業員さんは特別何かしたというわけではなく、むしろ何もしないことの方が多い。というか、できない。
頻繁に入退院を繰り返していて、これだけだとリストラ対象の筆頭と言っても過言じゃない。なのにクビにはならない。
そしてもっと不思議なのは、その従業員さんに不幸が訪れるのと反比例するように業績が上がっていくこと。
「そういえば幸太くん、さっき在庫整理してたら積んでたビールの下敷きになっちゃったんです。しかもケースごと」
他人の不幸は、きっとおいしくないんだろう。中には極上の糖蜜のような甘露に感じる人もいるんだろうけど、私はそうは思わない。
だって彼は毎回毎回どんよりとした翳を絆創膏と包帯だらけの顔に貼り付けている。
この娘が無意識に色気に磨きをかけているなら、彼もまた、生まれながらの不幸っぷりに磨きをかけているんだろう。
今では身の回りに漂う、本来なら関係のない不幸すら持っていってしまっているからなのか、彼の回りにいると悪いことは起き難い。
逆に、彼そのものに降りかかる災難も尋常じゃないけれど。
「重たいのなんのって、もう大変だったんですよ、引っ張りだすの」
それでも大事にはならなかったみたいで安心した。これで大ケガでもされていたら、なんだかこっちも寝覚めが悪い。
「あ、そうだった」
突然何か思い出したよう。手をポンと叩き、先を歩いていた彼女がその場でくるりと向き直った。
膨らんだお腹がバランスを崩させたのか、足がもつれてちょっとわたつく。
ギョッとして手を貸すと、その手を掴んで体勢を立て直した彼女は興奮気味に口を開いた。
「昨日の夜、お姉ちゃんから電話があったんです」
こちらが夜なら、向こうはまだ朝も早い時間だろうに。あの人のことだから彼女の都合に合わせたのだろう。
用件も、大方の察しはつく。帰ってくる目処がたったのね。
「お姉ちゃん来月か、早ければ今月にも帰ってくるって」
ほらやっぱり、思ったとおり。
来月はともかくいくらなんでも今月はムリな話じゃないかしら、とは言わない。
その気になれば身一つと、あの人から生まれたとは信じられない純真無垢なあの子だけを連れて即日帰国を果たしたとしても私は驚かない。
そんなことをしないという理性や常識を持ち合わせているのは知ってるけれど、それを補って余りある男らしさと胆力を併せ持っている。
とはいえ、帰国の理由が出産を控えてるからとなれば無茶なことはしないだろう。
私と、私の手をまだ握っている彼女と同じで、そのお腹はぽっこりと見事な丸みを帯びているに違いない。
そういった理由から、前回みたいな大騒動に発展するとも考えにくい。けれどもゆめゆめ忘れてはならないこともある。
あの人は、会長なのだから。
何をしでかすか見当もつかないし、ついた後でもこちら側の予想を裏切る動きをすることは必定。それこそ前回の帰国がいい例。
妹である彼女は元より誰にも何の連絡もしないで唐突に帰ってきたと思ったらすぐさまあっちへと戻ってしまった。
それはまだいい。行動力と決断力の鋭さ素早さ逞しさは学生時代からして既に折り紙つきだった。
凡人の私には及びもつかない考えがあってか、それとも、そうせざるをえない止むに止まれぬ事情ができたか。
たぶん、何事もなければ、後日になってからそういうことがあったと、誰かから聞かされた私はきっと会長らしいと笑っていた。
実際のところは何事も大有りで、笑うどころか怒り心頭で、後日そういうことがあったと後になって誰かに話した私は私らしくないと呆れられていた。
それも無理ないかも、とは冷静になった今だからこそで、あのとき、少し落ち込んでいた、というよりも嫉妬していた私はそんな反応にひどく傷ついたりもした。
宵に繰り出す人々の波をあたかも戦艦さながらに割っていく会長は、誰が持ち出したのか拡声器によって増幅された大音声のちょっと乱暴な停止勧告に決して聞く耳を持たず、
たまにその大音声にも引けを取らない凛と澄んだ声でとても女性の口から出てくるとは思えないというよりも出しちゃいけない罵詈雑言を詠い、
十重二十重にも及ぶ追っ手を時に華麗に抜き去り、時に力ずくで突破し、これを渡りきられれば捜索は一段と困難を極めるという橋上で挟み撃ちされても動じず、
及ばずながらも律儀に馳せ参じた直後の北村くん達を肉の壁かはたまた囮に使うかと思わせといて彼ら諸共私たちを、という魂胆で平然と橋の上から北村くん達を蹴り飛ばし、
いち早くその身の毛もよだつほどに恐ろしい考えを察知していた川嶋さんと香椎さんの手引きで私たちが彼らを避けるのを見やるや、
現在進行形で落下中の北村くんに向かって改めて立ち塞がれ、堰きとめていろと無理難題をお仰せ付け、北村くんと、北村くんの巻き添えをくう形で一緒に落ちた、
軽佻浮薄という言葉でできたような長髪の男子を助けに行こうとしていた辛くも紐なしバンジーを免れたメガネの男子にそれまで繋ぎをしていろと命じ、
しかしその際僅かながらも作ってしまった隙を常に先頭に立ちつつ虎視眈々とその機会をひたすら狙っていたあの逢坂さんが見逃さず、
尋常ならざる高さから川面に飛び込んだというのにすぐさま橋脚をよじ登り息を切らせた濡れ鼠な北村くんが欄干に身を預けた頃には時既に遅く、
背後から忍び寄っていった彼女は会長を取り押さえることに成功していて、発覚から延べ三時間を越える大捕り物は日付を跨いだ後になってようやく終わりを迎えた。
一件落着というにはまだまだ時間がかかったのは言うまでもなく、即刻即時その場において開かれた事情聴取の体を借りた尋問は入水自殺の通報を受けて駆けつけたお巡りさんさえ退かせる迫力やら圧力やら理力やらの何やらに満ち満ちていて、
その中心に据えられてなお気丈で居丈高な態度を崩さない会長は極一部の血気滾る過激な物言いをする娘たちの神経を逆撫でに撫でて余計に焚きつけ、全員いっぺんに相手にすることすら辞さないという構えを貫くという、
客観的に言わせてもらうなら往生際の悪さを存分に見せ、だけど、極一部の血気滾る娘たちの存在のおかげで逆に一歩引いていた私にとってはそこまでするあの人の姿が、そのときは、笑えるくらい女らしく映った。
はたして私に同じことができるだろうか。
あの子と、自分より背も高くて体重もある男性を両脇に抱えながら全力疾走を続けしかも全員が一応は女性とはいえ二桁に届く追跡者を相手に優位に立ち回るという離れ業を、じゃあない。
あんな風に、身を焦がす嫉妬を素直に曝け出せるのか。あんな風に、他人を蹴落としてまで誰かから誰かを奪おうとすることができるのか。あんな風に、今さらでも自分だけを選べと迫れるのか、懇願できるのか。
あんな、風に。
そんなことをして何になるっていうのよ。自分だけよかったらそれでいいの? 願うだけなら、そんなの、私にだって。そもそも比較対象からしておかしいじゃない。
する相手のいない言い訳はいくらでもできた。それなりの理由付けもできた。
相手のいない言い訳をすればするほど、理由を探せば探すほど、男らしさの頂で仁王立ちしていると豪語しても憚らないあの人に余計に女らしさを覚えた頃、いよいよ彼女は最後の武器を取り出していた。
それはとてもあざとくて、姑息で、いやらしい。誰にでもできて、選ばれた人にしかできない。
男らしさの頂で仁王立ちしていると豪語しても憚らないあの人には似つかわしくなくて、常の彼女をよく知っていればこそ、より効果を発揮する。
ときには、透き通るほどに透明な、まるで湖畔に芽ぐむ草葉に降る朝露のよう、という詩的な表現さえ与えられるその武器の名前はナミダ。
そんなことあるわけがない。少なくとも男の奪い合いで流される涙がそんなキレイなものでも高尚なものであるはずもない。
感情の発露にしては計算の入り込む余地だらけで、純粋と偽ったその実は不純まみれで、本来なら場違いなのに驚くほどタイミングを見計らって出てくる。
その上弱さを見せまいと背を向け、声を押し殺し、差し伸べられる手を力なく払った後に指先を指先で握り締め、絡ませ、結局は縋り。
卑怯だって、こんなのずるいって思った。憤った。歯噛みした。そこにいた、誰よりも女だった会長に。
そして私以外にも、おそらくは多かれ少なかれそういったものを感じ取ったんでしょうね。
散々好き勝手やっておいて悪びれもせず、それどころか最後の最後までやってくれる会長にもはやあるのかすら疑わしい堪忍袋そのものを腹ペコの野良わんこも遠慮しそうなズタズタの細切れにされた彼女たちは、情状酌量の余地なしという判決を満場一致で下した。
再三に渡る不服申し立ては当然棄却。
被告人と裁判長のみの法廷は夜もふけたというとってつけた理由で永久にその幕を閉じ、納得がいかず一人腹の虫のおさまらない様子でいた会長は、だけど、
彼となにか短く言葉を交わすとその場はすんなりと下がり、ご機嫌というわけでもないけど不機嫌でもない感じで、疲れて眠ってしまっていたあの子をおぶさり、おろおろしていた彼女を伴い実家へと帰っていき、
そうなるとそんな所に居残っているのも無意味で、続々と帰路につく娘たちと一緒に私も自宅へと歩みを進めた。
ちなみに彼はその日のおうち当番だった逢坂さんに揚々と首根っこを掴まれて引きずられていき、北村くん他は救急車に乗せられていずこかの病院へと搬送されていった。
いつしか一人きりになり、暗い道すがら、思い返すのはさっきのこと。振り払っても振り払っても、浮かんでは消える幻みたいに網膜に焼きついた光景が離れず、胸を妬く。
なんだか嫌になって別の景色に目を向ければ辺りは鬱蒼としていて、私の心象を切り取ったようで、それがもっと嫌で、そして気が付く。
ずいぶん遠くまで来ていた。
当たり前だ。あんなに長時間追いかけっこをしていて、入り組んだ路、途切れ途切れの街灯の下、どこを通ってきたかも覚えてない。
なにをやっているんだろう、こんな時間にポツンと突っ立って、空を仰いで。傾き始めた月にまでバカにされてる錯覚さえする。
甚だバカバカしすぎてバカになっちゃったのかもしれない。寒い事この上ない。お腹に障ったらどうしよう。早く帰ろう。
歩いているとお腹の底から幻聴がした。聞いたことがあるようなないような、実体のない声が鼓膜を叩く。
寂しいなら会いに行こうよ。むりよ。なんで? 順番があるの。今日は順番じゃない、けど、会った。それとこれは、べつ。
いけしゃあしゃあと痛いところを突く幻聴が私を嘲笑う。駆けても跳んでもべったり張り付いてくる。
こわいんだ。だから? だから何もしない。してるわ、だからこんな所を歩いてるんじゃない。うそつき。嘘なんて言ってない。
耳を塞いだ。三匹で一セットのお猿さんの、その一匹みたいに両手を耳に被せるポーズで早足をする私はアホ丸出しだけど、誰もいないからかまわない。誰かいてくれた方がよっぽどよかった。
羨ましいなら、悔しいなら、妬ましいなら、自分だってやればいいのに。できないよ、そんな、今さら。どうして。言いたくない。
血管に送るための酸素がついに尽きて、しゃにむに動かしていた足も止まり、我慢できなくなって堪らず大きく息を吸い込んだ。
いくじなしの、いじっぱり。
顔を上げたときにはそこは見知った自宅の目の前で、その言葉を最後に私の周りは静けさを取り戻した。
「───それで、これ、まだ誰にも言ってないんですけどっと、わわっ」
「きゃっ」
精彩を欠いた薄褐色の世界に色が戻ってくる。スピーカーから響くアナウンス、行き交う人々の足音、ざわつき。
埋没していた意識が引き上げられていく。急上昇するエレベーターみたいな不思議な浮遊感に一瞬地面がなくなったような感覚を味わった。
膝から力が抜けても床にへたりこまなかったのは、まだ、繋がっていたから。
「ごめんなさい、考え事してたら躓いちゃって」
「いいんですよ、そんな。お互いさまのおあいこです」
ぎゅっと握ってくる手。その手を握り返し、ありがとうと謝意を述べると、はい、と輝くような笑顔を見せる。
こういった彼女の持つ美徳というか、さりげない優しさなんかを誰かさんも持ってくれればいいのにと心の中で呟いたのは内緒。
ふんわりとした雰囲気を放つたおやかな女性像は、いくら想像しても当てはまらないし、雄渾で豪快にしてくれている方がやはり様になっている。
でも、女性らしさも兼ね備えてはいて。
「あれ、なんの話してたんだろ、あたし」
ど忘れしてしまったらしいので、直前の会話を掻い摘んで、というほど喋ってもいないけど、説明する。
「そうそう、お姉ちゃん、早く帰ってこないかな」
私はどうなのだろうか。会いたくないわけじゃないけれど、顔を合わせづらいとも感じている。そうなったらと考えると少し憂鬱。
どうすれば、いいんだろう。とりとめがなくて例えようのない感情に揺れていると、
「こないだのときだって何かしようとしたら、する前にさっさと逃げちゃって、もう。でも今度は目にもの見せてあげるんだから」
瞬間、唐突に放たれた言葉の、その言わんとするところを理解するために立ち止まった私に、彼女は変わらぬ笑みをたたえ、
「あのままやり逃げされたまんまじゃ、悔しいじゃないですか」
一部不適切な発言が見受けられたけれどそれには触れず、口にした本人である彼女はそんな細事なんて気にも留めない以前に気付きもせず、そして私の手を両手で包む。
「だから、そんなにヒドイことはたぶんやらないから、手伝ってください」
下克上、一揆、反逆、謀反、クーデター等々。脳裏を駆け巡る物騒な単語に、自分があの人にどんなイメージを抱いていたかが現れているようで無性に可笑しくなった。
彼女の言を信じるなら大それたことはしないだろう。いっても精々が他愛ないイタズラか、笑って許せる範囲での意趣返しか。
それでももし加担したことがバレれば後がこわい。何をされるかわかったものじゃない。ここは懸命な判断を下さないと。
一度深く肺に空気を取り込み、ゆっくりと吐き出すと、私は口を開いた。
「ええ、よろこんで」
ああ、私はいつからこんな悪女に。そんな自分がちょっぴり気持ちいいのはどうしてかしら。
わかってる。彼女は私を利用したいだけでありぶっちゃけたとこ手駒にできるのであればなんでもよくって、今頃ぺちゃんこになった体を休めてるであろうとある不幸な従業員さんも巻き込むことは想像に難くない。
狙ってやっているのかそうでないのかはこの際問題じゃない。だって、彼女は、会長の妹さんなんだから。
それに、会長の妹さんだから断りづらいし、パートとはいえ雇用主のお嬢さんというのも無下にできない要素ではある。
そしてそれが、万が一の事態に陥ったときの言い訳や交渉の材料にも使えるという計算を内心ではとっくに終わらせている。利用されてあげるからにはそれ相応の保険もかけておかないと。
こういうのは私らしくないと、また、呆れられるだろうか。
あなたはどう思う? やっぱり呆れちゃう、私らしくないって。
不意に湧き出た自問をお腹にぶつけてみても答えが出てくるはずがない、なのに、撫でて問うてみる。
トン、と。内壁が知覚した衝撃はただの気のせいかもしれない。
あまりにも微かだったし、こんなに狙いすましてする可能性なんて、でも、いいよって、行っちゃえって、そう背中を押してくれたように感じた。
「ふふ」
私のこぼしたそれをほくそ笑んでいると解釈したのか、お姉ちゃんに一泡ふかせてやりましょうねと奮起する彼女も負けず劣らずの悪女な笑みを、それは楽しそうに浮かべていた。
〜おわり〜
369 174 ◆TNwhNl8TZY sage 2010/05/16(日) 23:43:20 ID:CcODol3a
おしまい
書記女史ってどんな名前してるんだろう。
--
※ウィキペディア(Wikipedia)より
書記女史
声 - 後藤沙緒里
2年生。本名不明。生徒会書記。幸太に「書記女史」「書記先輩」などと呼ばれるなど、村瀬とともに名前を呼んでもらえていない。クリスマスパーティでは、大河や亜美らと共にステージで歌を歌った。
「×××ドラ! ─── ×××ドラ! × ?-s ───」
縞々の模様から商品情報を読み込んだスキャナーがピッと無機質な電子音を奏でる。
表示された価格を唱えつつ次の商品を手に取り、それを数度繰り返して、最後に合計金額を知らせる。
預かった紙幣をレジに収め、取り落としてしまわないよう両手でしっかりとお釣りを返し、最後に仰々しくならない程度にお辞儀。
「ありがとうございました、またお越しくださいね」
タイムセール目当てに夕飯の買出しをしに訪れたお客さんたちが成していた群れを相手にすること数十分、ようやく忙しい時間帯を切り抜けた。
ごった返していた店内はいくぶん落ち着きを取り戻し、窓から差す夕日も落ちかけ、浮かぶ月が顔を覗かせている。
そうなると、そろそろ私も上がる時間だ。
ほぼ丸一日の間立っていた狭い仕事場を簡単に片付けてから、他のパートの方に挨拶を交わしてレジから出る。
「お疲れさまです」
それを見計らったように背後から声をかけられた。私もお疲れさまと、重たい身体で店中を忙しなく駆け回っていた彼女を労う。
うーんと大きく伸びをするとただでさえ大きな胸がたわわに揺れ、殊更に強調されている。
最近はまた大きくなったらしく、サイズの合うブラがなく、仕方なく着けない日も多いそう。
今日もそうなんだろう、シャツ一枚の背中には線が見当たらない。
彼女からすれば悩みなのはわかってはいるし、しょうがないのもわかるけど、していないなら、男の人の目があるところでそういう無防備な仕草をするのはやめてほしい。
隣にいる私が、ちょっと、みじめだから。
今通り過ぎていった、どこかで見覚えのあるような長髪をした男性客がおもむろに振り返っていたのが見えていないのだろうか。
豊かな胸もそうだけど、お腹だってこんなに大きいのに、それでも人目、特に異性の目を惹きつける彼女。
動作一つ一つから香りたつ色気は年を重ねるごとに強く、濃くなっていくように思えてならない。
そのくせ自身はあんまり気にした風でもなく。
「今日も疲れましたね」
なんて、のほほんとしている。厭味でなく、下手にでているわけでなく、あくまで普通に。
こっちが勝手に劣等感を感じているみたいで、実際そうなんだからバカらしくなってしまう。
「でも、今日はまだ楽な方じゃない。お客さんも少なかったし」
「あはは、そうですね、ホントはそれじゃいけないんですけど」
それでもこのお店は繁盛している部類に入るだろう。
以前に一度大不振に陥ったことがあるらしいここかのう屋も、少なくとも私が働いているこの数年の間、経営状態が深刻な落ち込みを見せたことはない。
それどころか黒字さえ叩き出している。現在の経済状況からすれば幸運を通り越して奇跡じみてすらいる。
これには来店してくださるお客様の力添えもさることながら、ある一人の従業員の尽力というか、活躍というか。
とにかく関係はしていると、そう私は睨んでいる。
その従業員さんは特別何かしたというわけではなく、むしろ何もしないことの方が多い。というか、できない。
頻繁に入退院を繰り返していて、これだけだとリストラ対象の筆頭と言っても過言じゃない。なのにクビにはならない。
そしてもっと不思議なのは、その従業員さんに不幸が訪れるのと反比例するように業績が上がっていくこと。
「そういえば幸太くん、さっき在庫整理してたら積んでたビールの下敷きになっちゃったんです。しかもケースごと」
他人の不幸は、きっとおいしくないんだろう。中には極上の糖蜜のような甘露に感じる人もいるんだろうけど、私はそうは思わない。
だって彼は毎回毎回どんよりとした翳を絆創膏と包帯だらけの顔に貼り付けている。
この娘が無意識に色気に磨きをかけているなら、彼もまた、生まれながらの不幸っぷりに磨きをかけているんだろう。
今では身の回りに漂う、本来なら関係のない不幸すら持っていってしまっているからなのか、彼の回りにいると悪いことは起き難い。
逆に、彼そのものに降りかかる災難も尋常じゃないけれど。
「重たいのなんのって、もう大変だったんですよ、引っ張りだすの」
それでも大事にはならなかったみたいで安心した。これで大ケガでもされていたら、なんだかこっちも寝覚めが悪い。
「あ、そうだった」
突然何か思い出したよう。手をポンと叩き、先を歩いていた彼女がその場でくるりと向き直った。
膨らんだお腹がバランスを崩させたのか、足がもつれてちょっとわたつく。
ギョッとして手を貸すと、その手を掴んで体勢を立て直した彼女は興奮気味に口を開いた。
「昨日の夜、お姉ちゃんから電話があったんです」
こちらが夜なら、向こうはまだ朝も早い時間だろうに。あの人のことだから彼女の都合に合わせたのだろう。
用件も、大方の察しはつく。帰ってくる目処がたったのね。
「お姉ちゃん来月か、早ければ今月にも帰ってくるって」
ほらやっぱり、思ったとおり。
来月はともかくいくらなんでも今月はムリな話じゃないかしら、とは言わない。
その気になれば身一つと、あの人から生まれたとは信じられない純真無垢なあの子だけを連れて即日帰国を果たしたとしても私は驚かない。
そんなことをしないという理性や常識を持ち合わせているのは知ってるけれど、それを補って余りある男らしさと胆力を併せ持っている。
とはいえ、帰国の理由が出産を控えてるからとなれば無茶なことはしないだろう。
私と、私の手をまだ握っている彼女と同じで、そのお腹はぽっこりと見事な丸みを帯びているに違いない。
そういった理由から、前回みたいな大騒動に発展するとも考えにくい。けれどもゆめゆめ忘れてはならないこともある。
あの人は、会長なのだから。
何をしでかすか見当もつかないし、ついた後でもこちら側の予想を裏切る動きをすることは必定。それこそ前回の帰国がいい例。
妹である彼女は元より誰にも何の連絡もしないで唐突に帰ってきたと思ったらすぐさまあっちへと戻ってしまった。
それはまだいい。行動力と決断力の鋭さ素早さ逞しさは学生時代からして既に折り紙つきだった。
凡人の私には及びもつかない考えがあってか、それとも、そうせざるをえない止むに止まれぬ事情ができたか。
たぶん、何事もなければ、後日になってからそういうことがあったと、誰かから聞かされた私はきっと会長らしいと笑っていた。
実際のところは何事も大有りで、笑うどころか怒り心頭で、後日そういうことがあったと後になって誰かに話した私は私らしくないと呆れられていた。
それも無理ないかも、とは冷静になった今だからこそで、あのとき、少し落ち込んでいた、というよりも嫉妬していた私はそんな反応にひどく傷ついたりもした。
宵に繰り出す人々の波をあたかも戦艦さながらに割っていく会長は、誰が持ち出したのか拡声器によって増幅された大音声のちょっと乱暴な停止勧告に決して聞く耳を持たず、
たまにその大音声にも引けを取らない凛と澄んだ声でとても女性の口から出てくるとは思えないというよりも出しちゃいけない罵詈雑言を詠い、
十重二十重にも及ぶ追っ手を時に華麗に抜き去り、時に力ずくで突破し、これを渡りきられれば捜索は一段と困難を極めるという橋上で挟み撃ちされても動じず、
及ばずながらも律儀に馳せ参じた直後の北村くん達を肉の壁かはたまた囮に使うかと思わせといて彼ら諸共私たちを、という魂胆で平然と橋の上から北村くん達を蹴り飛ばし、
いち早くその身の毛もよだつほどに恐ろしい考えを察知していた川嶋さんと香椎さんの手引きで私たちが彼らを避けるのを見やるや、
現在進行形で落下中の北村くんに向かって改めて立ち塞がれ、堰きとめていろと無理難題をお仰せ付け、北村くんと、北村くんの巻き添えをくう形で一緒に落ちた、
軽佻浮薄という言葉でできたような長髪の男子を助けに行こうとしていた辛くも紐なしバンジーを免れたメガネの男子にそれまで繋ぎをしていろと命じ、
しかしその際僅かながらも作ってしまった隙を常に先頭に立ちつつ虎視眈々とその機会をひたすら狙っていたあの逢坂さんが見逃さず、
尋常ならざる高さから川面に飛び込んだというのにすぐさま橋脚をよじ登り息を切らせた濡れ鼠な北村くんが欄干に身を預けた頃には時既に遅く、
背後から忍び寄っていった彼女は会長を取り押さえることに成功していて、発覚から延べ三時間を越える大捕り物は日付を跨いだ後になってようやく終わりを迎えた。
一件落着というにはまだまだ時間がかかったのは言うまでもなく、即刻即時その場において開かれた事情聴取の体を借りた尋問は入水自殺の通報を受けて駆けつけたお巡りさんさえ退かせる迫力やら圧力やら理力やらの何やらに満ち満ちていて、
その中心に据えられてなお気丈で居丈高な態度を崩さない会長は極一部の血気滾る過激な物言いをする娘たちの神経を逆撫でに撫でて余計に焚きつけ、全員いっぺんに相手にすることすら辞さないという構えを貫くという、
客観的に言わせてもらうなら往生際の悪さを存分に見せ、だけど、極一部の血気滾る娘たちの存在のおかげで逆に一歩引いていた私にとってはそこまでするあの人の姿が、そのときは、笑えるくらい女らしく映った。
はたして私に同じことができるだろうか。
あの子と、自分より背も高くて体重もある男性を両脇に抱えながら全力疾走を続けしかも全員が一応は女性とはいえ二桁に届く追跡者を相手に優位に立ち回るという離れ業を、じゃあない。
あんな風に、身を焦がす嫉妬を素直に曝け出せるのか。あんな風に、他人を蹴落としてまで誰かから誰かを奪おうとすることができるのか。あんな風に、今さらでも自分だけを選べと迫れるのか、懇願できるのか。
あんな、風に。
そんなことをして何になるっていうのよ。自分だけよかったらそれでいいの? 願うだけなら、そんなの、私にだって。そもそも比較対象からしておかしいじゃない。
する相手のいない言い訳はいくらでもできた。それなりの理由付けもできた。
相手のいない言い訳をすればするほど、理由を探せば探すほど、男らしさの頂で仁王立ちしていると豪語しても憚らないあの人に余計に女らしさを覚えた頃、いよいよ彼女は最後の武器を取り出していた。
それはとてもあざとくて、姑息で、いやらしい。誰にでもできて、選ばれた人にしかできない。
男らしさの頂で仁王立ちしていると豪語しても憚らないあの人には似つかわしくなくて、常の彼女をよく知っていればこそ、より効果を発揮する。
ときには、透き通るほどに透明な、まるで湖畔に芽ぐむ草葉に降る朝露のよう、という詩的な表現さえ与えられるその武器の名前はナミダ。
そんなことあるわけがない。少なくとも男の奪い合いで流される涙がそんなキレイなものでも高尚なものであるはずもない。
感情の発露にしては計算の入り込む余地だらけで、純粋と偽ったその実は不純まみれで、本来なら場違いなのに驚くほどタイミングを見計らって出てくる。
その上弱さを見せまいと背を向け、声を押し殺し、差し伸べられる手を力なく払った後に指先を指先で握り締め、絡ませ、結局は縋り。
卑怯だって、こんなのずるいって思った。憤った。歯噛みした。そこにいた、誰よりも女だった会長に。
そして私以外にも、おそらくは多かれ少なかれそういったものを感じ取ったんでしょうね。
散々好き勝手やっておいて悪びれもせず、それどころか最後の最後までやってくれる会長にもはやあるのかすら疑わしい堪忍袋そのものを腹ペコの野良わんこも遠慮しそうなズタズタの細切れにされた彼女たちは、情状酌量の余地なしという判決を満場一致で下した。
再三に渡る不服申し立ては当然棄却。
被告人と裁判長のみの法廷は夜もふけたというとってつけた理由で永久にその幕を閉じ、納得がいかず一人腹の虫のおさまらない様子でいた会長は、だけど、
彼となにか短く言葉を交わすとその場はすんなりと下がり、ご機嫌というわけでもないけど不機嫌でもない感じで、疲れて眠ってしまっていたあの子をおぶさり、おろおろしていた彼女を伴い実家へと帰っていき、
そうなるとそんな所に居残っているのも無意味で、続々と帰路につく娘たちと一緒に私も自宅へと歩みを進めた。
ちなみに彼はその日のおうち当番だった逢坂さんに揚々と首根っこを掴まれて引きずられていき、北村くん他は救急車に乗せられていずこかの病院へと搬送されていった。
いつしか一人きりになり、暗い道すがら、思い返すのはさっきのこと。振り払っても振り払っても、浮かんでは消える幻みたいに網膜に焼きついた光景が離れず、胸を妬く。
なんだか嫌になって別の景色に目を向ければ辺りは鬱蒼としていて、私の心象を切り取ったようで、それがもっと嫌で、そして気が付く。
ずいぶん遠くまで来ていた。
当たり前だ。あんなに長時間追いかけっこをしていて、入り組んだ路、途切れ途切れの街灯の下、どこを通ってきたかも覚えてない。
なにをやっているんだろう、こんな時間にポツンと突っ立って、空を仰いで。傾き始めた月にまでバカにされてる錯覚さえする。
甚だバカバカしすぎてバカになっちゃったのかもしれない。寒い事この上ない。お腹に障ったらどうしよう。早く帰ろう。
歩いているとお腹の底から幻聴がした。聞いたことがあるようなないような、実体のない声が鼓膜を叩く。
寂しいなら会いに行こうよ。むりよ。なんで? 順番があるの。今日は順番じゃない、けど、会った。それとこれは、べつ。
いけしゃあしゃあと痛いところを突く幻聴が私を嘲笑う。駆けても跳んでもべったり張り付いてくる。
こわいんだ。だから? だから何もしない。してるわ、だからこんな所を歩いてるんじゃない。うそつき。嘘なんて言ってない。
耳を塞いだ。三匹で一セットのお猿さんの、その一匹みたいに両手を耳に被せるポーズで早足をする私はアホ丸出しだけど、誰もいないからかまわない。誰かいてくれた方がよっぽどよかった。
羨ましいなら、悔しいなら、妬ましいなら、自分だってやればいいのに。できないよ、そんな、今さら。どうして。言いたくない。
血管に送るための酸素がついに尽きて、しゃにむに動かしていた足も止まり、我慢できなくなって堪らず大きく息を吸い込んだ。
いくじなしの、いじっぱり。
顔を上げたときにはそこは見知った自宅の目の前で、その言葉を最後に私の周りは静けさを取り戻した。
「───それで、これ、まだ誰にも言ってないんですけどっと、わわっ」
「きゃっ」
精彩を欠いた薄褐色の世界に色が戻ってくる。スピーカーから響くアナウンス、行き交う人々の足音、ざわつき。
埋没していた意識が引き上げられていく。急上昇するエレベーターみたいな不思議な浮遊感に一瞬地面がなくなったような感覚を味わった。
膝から力が抜けても床にへたりこまなかったのは、まだ、繋がっていたから。
「ごめんなさい、考え事してたら躓いちゃって」
「いいんですよ、そんな。お互いさまのおあいこです」
ぎゅっと握ってくる手。その手を握り返し、ありがとうと謝意を述べると、はい、と輝くような笑顔を見せる。
こういった彼女の持つ美徳というか、さりげない優しさなんかを誰かさんも持ってくれればいいのにと心の中で呟いたのは内緒。
ふんわりとした雰囲気を放つたおやかな女性像は、いくら想像しても当てはまらないし、雄渾で豪快にしてくれている方がやはり様になっている。
でも、女性らしさも兼ね備えてはいて。
「あれ、なんの話してたんだろ、あたし」
ど忘れしてしまったらしいので、直前の会話を掻い摘んで、というほど喋ってもいないけど、説明する。
「そうそう、お姉ちゃん、早く帰ってこないかな」
私はどうなのだろうか。会いたくないわけじゃないけれど、顔を合わせづらいとも感じている。そうなったらと考えると少し憂鬱。
どうすれば、いいんだろう。とりとめがなくて例えようのない感情に揺れていると、
「こないだのときだって何かしようとしたら、する前にさっさと逃げちゃって、もう。でも今度は目にもの見せてあげるんだから」
瞬間、唐突に放たれた言葉の、その言わんとするところを理解するために立ち止まった私に、彼女は変わらぬ笑みをたたえ、
「あのままやり逃げされたまんまじゃ、悔しいじゃないですか」
一部不適切な発言が見受けられたけれどそれには触れず、口にした本人である彼女はそんな細事なんて気にも留めない以前に気付きもせず、そして私の手を両手で包む。
「だから、そんなにヒドイことはたぶんやらないから、手伝ってください」
下克上、一揆、反逆、謀反、クーデター等々。脳裏を駆け巡る物騒な単語に、自分があの人にどんなイメージを抱いていたかが現れているようで無性に可笑しくなった。
彼女の言を信じるなら大それたことはしないだろう。いっても精々が他愛ないイタズラか、笑って許せる範囲での意趣返しか。
それでももし加担したことがバレれば後がこわい。何をされるかわかったものじゃない。ここは懸命な判断を下さないと。
一度深く肺に空気を取り込み、ゆっくりと吐き出すと、私は口を開いた。
「ええ、よろこんで」
ああ、私はいつからこんな悪女に。そんな自分がちょっぴり気持ちいいのはどうしてかしら。
わかってる。彼女は私を利用したいだけでありぶっちゃけたとこ手駒にできるのであればなんでもよくって、今頃ぺちゃんこになった体を休めてるであろうとある不幸な従業員さんも巻き込むことは想像に難くない。
狙ってやっているのかそうでないのかはこの際問題じゃない。だって、彼女は、会長の妹さんなんだから。
それに、会長の妹さんだから断りづらいし、パートとはいえ雇用主のお嬢さんというのも無下にできない要素ではある。
そしてそれが、万が一の事態に陥ったときの言い訳や交渉の材料にも使えるという計算を内心ではとっくに終わらせている。利用されてあげるからにはそれ相応の保険もかけておかないと。
こういうのは私らしくないと、また、呆れられるだろうか。
あなたはどう思う? やっぱり呆れちゃう、私らしくないって。
不意に湧き出た自問をお腹にぶつけてみても答えが出てくるはずがない、なのに、撫でて問うてみる。
トン、と。内壁が知覚した衝撃はただの気のせいかもしれない。
あまりにも微かだったし、こんなに狙いすましてする可能性なんて、でも、いいよって、行っちゃえって、そう背中を押してくれたように感じた。
「ふふ」
私のこぼしたそれをほくそ笑んでいると解釈したのか、お姉ちゃんに一泡ふかせてやりましょうねと奮起する彼女も負けず劣らずの悪女な笑みを、それは楽しそうに浮かべていた。
〜おわり〜
369 174 ◆TNwhNl8TZY sage 2010/05/16(日) 23:43:20 ID:CcODol3a
おしまい
書記女史ってどんな名前してるんだろう。
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※ウィキペディア(Wikipedia)より
書記女史
声 - 後藤沙緒里
2年生。本名不明。生徒会書記。幸太に「書記女史」「書記先輩」などと呼ばれるなど、村瀬とともに名前を呼んでもらえていない。クリスマスパーティでは、大河や亜美らと共にステージで歌を歌った。
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