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拍手と爆笑に包まれた体育館。

一見すると全てが作られたように見える生徒会長選挙の影で必死に涙を堪える北村に気づいた人間は何人いるのだろう。
「北村・・・」
能登はかけてやれる言葉も見つからず、肩を組んでやることしか出来なかった。
なにも言わなくていい。泣いたっていいんだぞ。泣くなよ。
・・・今の北村を元気付けられる言葉は見つからない。
傷ついた友人を、ただ見ていることしかできないのがこんなにも辛いとは思わなかった。
そして
「やっぱり木原は・・・」
能登は見てしまった。北村が会長に告白した直後の木原の顔を。
本人は平静を装ってるつもりなのだろう。だが、内心の驚愕が顔に滲み出ていた。
あれは間違いなく・・・
北村の事はもちろん気になる。でも木原の事もすごく気になるのだ。
どうすればいい?俺はなにをすればいい?俺に何が出来る?
考え続けていたが結局答えは見つからなかった。

数日後
逢坂大河が停学処分を受け、狩野先輩は留学。北村は失恋大明神になり多くの生徒から慕われるようになった。
それ以外は全て元通り。みんなまた退屈な日々を歩みだしているように見える。
だが、違う。
「ん?どうした?俺の顔なんか見て」
「いや、・・・なんでもない。昼の放送頑張れよ」
「おう。ありがとう」
能登は感じ取っていた。北村はなにか悩んでいる。
多分、狩野先輩への未練で。
北村は・・・いや、北村だけじゃない。
「麻耶、大丈夫?最近顔色悪いよ?」
「・・・うん。大丈夫。ありがと。奈々子」
「気にしないで。相談があったらいつでもして。私に話すだけでも、気が楽になることもあるかもしれないし」
木原は<笑顔>をしなくなった。いや、まったく笑わないわけではない。
ただ、能登の気に入っているあの屈託の無い、明るい笑顔を彼女はしなくなった。
この2人はまだ歩み出せていないようだった。
「能登っち、どうしたの?早くいかないとパン売り切れちゃうよ?」
「・・・今日はいいや。なんか、気分じゃない」
「どうかした?最近顔色良くないけど」
「いや大丈夫だ。気にすんな」
友人との会話を終え、能登は普段はほとんど人がいない屋上へと向かう。
立ち止まっている友人をどうすることも出来ない現実から逃げたくなったのだ。
一人でゆったり、持ち込んでいるIPODでも聞いていればいい気分転換になるはず。

かし、逆に現実に引き戻される事になってしまう。
「き、木原?」
「能登?なんでこんなとこにいんの?タイミング悪」
普段は誰もいないはずのここに、よりにもよって一番会いたくない人がいてしまった。
「俺だって悪気が合ってこのタイミングで来たんじゃねえよ。ってかそっちもなんでこんなところにいるんだよ」
「・・・なんでもない。あんたには関係ないじゃん。さっさとどっかいってよ」
いきなりのケンカ腰。
だが悲しみも感じ取れる。それにこの表情・・・。
「お前の都合なんて知るかよ。俺はここにいたいんだ。・・・・・・やっぱ北村のことなのか?」
「ハ?なに勝手に妄想しちゃってんの?キモ」
言ってることは敵意剥き出しの怒りに満ちたものだったが口調はどこか弱々しかった。
ーーーーやっぱりそうか。
こんな姿見せられたら、見捨てられるわけないじゃないか。ーーーー
「俺に切れるのはいいけど、もっと考えるべきことがあるんじゃないか?」
「・・・うるさい」
木原の心に踏み込んでみる。
もしかしたら、嫌われるかもしれない。でも、
「まあいいけどさ。悩み事って誰かに相談すると結構楽になるもんだぞ?」
「なんであんたなんかに話さなきゃいけないわけ?」
今の木原を放っておくなんて出来なかった。
「別に話す相手が俺じゃなくてもいいんだって。ただ、さっき言ったことは事実。試しに話してみてもいいんじゃないか?」
「・・・・・・・・・・」
沈黙。
ーーーー結局俺なんかじゃ何もしてあげられないのか。
余計な口挟んだんだ。嫌われるよな・・・ーーーー
そんな思いから逃げ出しそうになってしまう。

だが逃げ出す前に
「なにがなんだが自分でもわからないよ・・・」
彼女は口を開いた。
「いつから好きになったんだろ・・・気づいたら好きになってた。
 それで、まるおのこともっと知りたいって思ったし、知ろうとしてた。
 でも、今回の事で私は何も知らなかったんだって気づいたの」
「別に何も知らないわけじゃないだろ。あいつの鈍感なところとかちょっとずれてるところとか知ってるじゃ・・・」
「ううん。全然分かってないよ。まるおがグレた時、理由が全然わからなかった。
 振られたときだって一番辛いのはまるおなのに、自分のことで精一杯でタイガーみたいに会長を問い詰めたり出来なかった。
 まるおを慰めてあげることも。
 タイガーだって実質振られたばっかなのにね。私とは大違い・・・。
 私もそんな風にできるよう頑張ってるつもりなんだけど・・・全然駄目」
自分の言葉を遮る形でそういわれて思った。
木原は優しいんだ。
それに人の優しさにも気づける。だから自分より優しい人と比較して劣等感を抱いていしまう。
それでも努力できる、前に進もうと出来るのはすごいと思う。そう思うと自分はなんて情けないんだろう。
能登は北村に少し劣等感を抱いていた。
なぜ北村が眼鏡を外すとかっこいい、コンタクトにしたほうがいいと言われ自分は何も言われないんだ、とか。
自分でも気づいてはいるのだ。北村は自分よりも見た目、性格だけじゃない、様々な面で優れている事を。
後夜祭の時、理由はわからないがどこか悲しげなタイガーを、励ますように踊りに誘ったのを見て強くそう思った。
それでも劣等感を抱くことしか出来ない。北村のようになろうと努力できたことは・・・ほとんどない。
「こんなやつ、相手にされるわけ無いよね・・・」
だからこれからは北村に近づけるように・・・傷つき、立ち止まった友人を助けられるように努力してみようと思う。
北村が振られた時、自分は何もしてやれなかった。そのことを思い出して強く思う。
ーーーーもう、目の前で傷ついている友人を救えないなんて御免だ。ーーーー
「そんなこと無いって。木原がそうやって人のよさに気づけるところ、北村はちゃんと分かってるだろうし魅力あると思ってるって」
最大の勇気で言葉を紡ぎ出す。心は痛くなる一方だけど。
「あの鈍感なまるおがそんなこと気づけるとは思えないよ。てかさっさと気づけっっつーの!まるおのバカ!!」
木原から、少し暗い感情が抜けたような気がした。
そして、元気を取り戻そうとしているように見えた。だから
「そうだな。鈍感すぎるぞ!大先生!」
俺も加勢してやる。相手が分かるのを待つのもいいが自分から告白したほうがいいのでは?
など、いいたいこともあったが今はいい。
少しでも木原が元気になるなら。それで。

「ありがとう。な〜んか気が楽になったみたい」
「おう。よかった。じゃ、そろそろ教室戻るか。腹も減ったし」
どうやら、少しは役に立てたようだ。
もしかしたら好感度も上がったかもしれない。
などと、喜んでいた矢先
「やっぱりちゃんと想いを伝えてみるよ」
「・・・・・・・・・えっ?」
驚くべき発言を聞いてしまう。
ーーーー聞き間違いか?今、小声で告白するって・・・ーーーー
聞き間違えなんじゃないかというわずかな希望を胸に、木原の顔を見る。
木原は何事もなかったかのように歩いている。
安堵すると共に、ついつい頬が緩んでしまう。だから
「なにニヤニヤしてんの?キモいんだけど」
にやけた顔を見られてしまった。
「な、なんでもねーよ」
ーーーー最後の最後でやっちまった−−−−
半ばやけくそ気味に走り出す。
だから能登は見ることが出来なかった。木原の顔に<笑顔>が戻っていたことを。
「能登・・・。ありがとう。」

翌日の放課後、昇降口
帰りにCDショップでも寄っていこうかと思った時珍しい顔を見た。
「・・・大先生?めずらしいじゃん。今から帰り?」
「ん?お、能登か。今日はちょっと調子悪いんで今から帰宅だ。途中まで一緒に帰るか?」
「お、おう。そうしよう」
なんだろう。昼休みが終わってから北村はなにか違う。
端から見ればいつも通りなつもりかもしれないが、1年の頃からのクラスメートだからわかる。
あのこととは別に、また何か悩みがあるような、そんな感じがした。だから
「帰りにスドバ寄らね?調子悪いみたいだから無理にとは言わないけど」
「うーん。・・・わかった、行こう」

そういえばどうだ?昼の放送。なかなか盛り上がってるか?」
「好調な滑り出しだと思うぞ。ただゆりちゃん先生泣かせちゃったのはどうかと思う」
「まあまあ。先生ご本人がいいとおっしゃったんだからいいじゃないか」
ーーーやっぱり何かあるなーーー
たわいのない会話の中でも能登は違和感を感じ取っていた。
「・・・北村。何かあったのか?・・・・・・今日の昼」
「(!?)ん?どうしてそんな事聞くんだ?特に何もないが。」
一瞬の動揺を能登は見逃さなかった。
間違いない。北村はまた何か悩んでいる。
今度は嫌われてしまうかもしれない。だが、やっぱりなにかしてやりたい。
「嘘つくなって。わかるよ、それぐらい。話してみてくれないか?少しは力になれるかも知れない」
「・・・・・・・・・」
沈黙。
昼と同様の状況だがもう能登は逃げようとしない。
決めたのだ。なにが出来るはわからない。もしかしたら何もしてあげられなくて、辛くなるかもしれない。
でも、一番辛いのは相手なのだ。
そんな相手を放っておくことは、もうしない。
ただ真っ直ぐ北村を見る。
そんな思いが通じたのか北村も口を開いた。
「実は今日の昼、告白されたんだ」
「・・・ゲホッゲホッ」
思わず噴出す。
ーーーーまさか、木原が?やっぱり聞き間違いじゃなかったのか?ーーーー

「1年生なんだけどな。正直かわいい後輩だとは思っていたが付き合うつもりはなかった」
安堵してしまう自分がいる。
昼は告白するのを、内心勧めていたのに。
「それって大先・・・北村は悪くないんじゃないか?」
「振った事に対して心が痛まないでもないが、そうじゃないんだ・・・」
北村のトーンが下がる。きっとなにかあるんだろう。
北村が話せるようになるまでの能登は言葉を待った。
「そのとき、俺はその子と会長・・・は俺か。すみれ先輩と比べてしまったんだ。
 あの人への想いは、もう断ち切ったつもりだったんだがな。
 こんな姿見られたら、軽蔑されるだろうな・・・」
やっぱり、狩野先輩への想いに囚われていたか。
無理もないと思う。
お互い好きあっているのに、あんな形で別れたのだ。
最後の最後にお互いの想いを知ることが出来たとはいえ。
「比べるってことはさ、北村は狩野先輩とその子を同じ[好きになれる人]かどうかを比べたんだよな?」
「??ああ。そうだな」
無理に狩野先輩のことを忘れさせようとすれば傷ついてしまう。
だからといってこのままではずっと囚われたままになってしまい、前に進めない。
北村を傷つけず、その上で前に進ませる方法・・・。
能登にはひとつしか考え付かなかった。
「じゃあさ。今度からは好きになれる人かどうかじゃなくて一緒に進みたいと思える人かどうかを考えれば良いんじゃないか?」
「・・・え?」
「北村にとって好きな人は一緒に進んで行きたい人だったんだろ?
 でも北村はその好きな人、つまり狩野先輩には追いつけないって思ったんだよな?俺はそう思わないけど。
 ってことは今は憧れの対象で、目指すべき目標ってことだろ?
 なら、本来の好きな人・・・一緒に進みたい人かどうかを考えればもう比べなくても済むんじゃないか?」
「・・・・・・・・・」
自分でも無理なことを言ってるのは分かってる。
北村は今でも狩野先輩を一緒に進みたい人と思っているだろう。
だが今の北村を救うためにはこう考えるしかないと能登は思った。
「・・・・・・・・・そうだな。能登の言うとおりだ。
 よし、お礼に明日の放送にゲストとして出演できるようにしておこう」
北村は笑った。
力になってあげられたかどうかはわからない。
それに、まだ迷いがあるようにも見えた。
だが、前に進もうともしているのは確かだ。
ならそれでいい。
「ゲスト出演っていっても俺、失恋話とかないぞ」
傷ついたまま立ち止まっているよりは全然いい。

それから数日、木原は北村に積極的になっていった。
その後、クリスマスパーティにて。
「いやあ〜、アツアツですなお二人さん」
「よかったな北村。おめでとう」
「からかうなよ春田。高須、ありがとう」
「あらあら。随分嬉しそうね。麻耶、おめでとう」
「ありがとう、奈々子」
2人は付き合い始めた。
歩み始めたのだ。2人一緒に。
能登には2人が輝いて見える。
彼らの背中を押してあげられたことに対する、達成感もある。
本当によかった。本当に。本当に・・・。
「・・・え?」
気づくと能登は涙を流していた。
友人に見られたくなかったので、外に出る。
ーーーーなんでだ?あいつらはあんなに幸せそうだし、俺自身だってよく頑張れて、よかったと思う。
自分の想いなんて、どうでもいいじゃないか。ーーーー
いくら言い聞かせても絶えることの無い少年の涙は、冬空に消えていった。


3月下旬の終業式
能登だけは未だ、歩み出せていない・・・



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