web上で拾ったテキストをこそっと見られるようにする俺得Wiki


155 174 ◆TNwhNl8TZY sage 2010/02/19(金) 09:34:07 ID:FqxSh17Q




ある休日の昼前。
絶好の洗濯日和ないい陽気にも関わらず、日照権を侵害しているとしか思えない隣のマンションが建ってからというもの、
我が家の洗濯物はすこぶる乾きが悪い。
おかげで昼飯の支度もしなけりゃいけない時間だってのに、少しでも多くの洗濯物を太陽の恵みに当てようと試行錯誤していて、
未だに洗濯物を干しきることができないでいる。
飯の時間が遅れたら、遅れた分だけ腹を空かせた大河の機嫌が悪くなるっていうのに。
気まぐれな空模様と、頼りにならない天気予報のせいで溜め込まざるをえなかったのが恨めしい。
そんな時に限ってシルクだのコットンだの、面倒な衣類を出してくる大河は泰子と暢気にテレビを見ているだけで手伝う素振りすら見せない。
いつものこととは言え、少しは手伝ってくれてもいいんじゃないのかとも思うが、どこでドジるか気になって他の仕事が手につかなくなりそうだし、
その後の後始末に追われるくらいなら、今みたく大人しくしていてくれた方がまだ楽だ。
精神的な意味で。
 
(・・・ちゃっちゃと終わらして飯作ろう・・・今日はなにを・・・ああ、そうだ。飯が済んだら久々にインコちゃんのカゴでも掃除してあげよう)

頭の中で献立を作りながら、その傍らで空いた時間の使い方を考える。
そんな、なんてことない休日のはずだった。
だが、また一枚洗濯物をカゴから取り出したと同時に窓越しに大河の馬鹿でかい声が、

「お見合いぃ!? やっちゃん、それマジで言ってんの!?」

ビリィィィィッ!

聞こえた瞬間、シワを伸ばそうと引っ張っていた大河のシャツを引き千切っていた。



「見合い!」



お見合い・・・週末になると、担任が意気揚々と繰り出す───週明けの荒れっぷりを見れば、結果は概ね分かったけど───あれのことか?
まぁ、それしかないよな。
お見合いっていったら、普通は独身の男女が結婚相手を探すためにするあれのことだろう。
最近は婚活って言い方もされていて、ブームに乗ろうと月9でドラマもやってたし、そんなのは分かってる。
そうじゃなくて、誰がその見合いをするって?
泰子が? 嘘だろ。
何かの聞き間違いだろう。
聞き間違いに決まってるのに、大河の服を引き裂いちまうほど動揺するなんて俺もどうかしてる。
破いてしまったシャツを極力大河に見られないようにしながらカゴに戻して、別の衣類を手に取るついでに居間の方に目を向けてみると、
泰子はテーブルに頬杖をつきながら大河とクッチャベっている。
パッと見はいつもの泰子だ。
おかしなところも、変わったところもない。

(・・・やっぱりさっきのは俺の聞き間違いかなんかか・・・あぁバカバカしい、つかどうすんだよこのシャツ・・・今夜中に全力で縫おう)

だが、フッと俺の気が抜けたところを狙いすましたようにそれは耳に届いた。

「うん。どうしてもって言われちゃってぇ、じゃあ、そこまで言うならいいですよ〜って」

窓越しに俺が見ていることにも気付かずに、特に困った風でもなく、泰子は至って普通に言ってのけた。
暫しの間呆然としていると、なんだか妙な手触りを感じる。
見れば、今度は滅多に洗いに出てこない、大河のお気に入りのワンピースを真ん中から引き千切っていた。

「・・・・・・・・・」



どうやら、聞き間違いでも空耳でも幻聴でもないらしい。
泰子が見合いをするようだ。
それもわりと乗り気で・・・泰子自身はちゃんと分かってるのだろうか。
見合いをするってことは、結婚するかもしれないってことだろ。
そのために見合いをするんだから、可能性は0じゃない。

ビィィィィィィイッ!!

結婚か・・・泰子が結婚? ダメだ、全く想像できない。
飲み屋のママなんて仕事をそれなりに長くやっているのに、今までそういう「浮いた話」みたいなものを泰子から聞いたことも、
そんな空気を感じたなんてこともなかった。
それに言っちゃあなんだが、こんな女を誰が嫁に欲しがるんだとも思っていた。
飯は作れないことはないにしろ、何をするにしてもトロいし、掃除をすれば余計に散らかすし、
洗濯をしたらどういうわけだか服を全部脱色させちまったこともある。
俺が自炊を始める前は、コンビニが無くなったら餓死するような食生活だった時期もある。

ブチンブチブチブチ・・・

なにより二言目には「竜ちゃん、あれやって〜」や、「これお願いね、竜ちゃん」という、ズボラな面を見てきたせいもあるのかもしれない。
とにかく子供っぽくて、家事能力が低くて、母親らしさが見当たらない、「良妻賢母」なんて言葉を祖母ちゃんの腹の中に置いてきたような
そんな泰子が見合いなんて、にわかには信じられない。
ましてや結婚を?

ギギギ・・・ギィ・・・ブチィンッ!

だけど、落ち着いて考えてみれば、在りえない話でもないのかもしれない。

(・・・・・・大河にどう言おう、これ)

カゴ一杯にあった洗濯物がボロ切れの山と化した頃、ようやく冷静になった頭がその考えに至る。

息子の俺が言うのもなんだが、泰子だってまだ若い。
俺が成人しても三十半ばだ。
適齢期は大幅に過ぎてはいるが、手遅れってこともないだろう。
婚活に燃える誰かは、三十歳以降はグンと勝率が落ちるとそれはそれは悲観していたが、そんなのは人それぞれだと思う。
今の時代、三十前半なら結婚を考えるのに遅すぎるような歳でもないし、見た目なんて実年齢より更に若く見える。
どのくらい若いかっていうと・・・まだ高校に上がる前、泰子に連れてかれた映画館でこんなことがあった。
──────***──────
『なぁ、本当にあれ観るのか』
『だめぇ?』
『まぁ、なんでもいいけどよ・・・えっと、『僕は母に恋をする』のチケット二枚で。一枚は学わ』
『はい、当館では本日カップルデイ割引を実地しておりまして、そちらの方がお得になっておりますが』
『いや、俺まだ中が』
『じゃあカップル割で。はいお金』
『あっおい泰子、ちょっと待って』
『ほらぁ竜ちゃん早く行こ行こ、もう始まっちゃう』
──────***──────
たまたまやっていたカップルデイ割引だかをすんなり通れた。
泰子はわざわざ腕まで組んできたが、始めからその必要もなかったほどすんなりと。
いくら見た目が若いっていったって、歳の差が十五はあった俺と並んでも周りに何の違和感も与えなかったくらいだから、
相当なアンチエイジングっぷりだ。
実際は親子だっていうのに、傍目には完全にそう見られてたんだろうな。
鑑賞料金を安く済ますことができたから何も言えなかったけど。
ちなみにあの時一番ショックだったのは、受付の奴にいくら自分が中学生だって言っても信じてもらえなかったことよりも、
観終わった後になってから、その映画がR指定されていたことに気付いた事だった。
思春期という多感な時期に、母親と一緒に濡れ場だらけの映画を観るというのは拷問と言って差し支えないんじゃないのか?
それも妙に境遇に共感できるような設定が目に付いた映画だった。
親一人子一人の母子家庭とか、水商売で生計を立てる歳若い母親と、母親に代わって家庭を切り盛りする息子とか、
その息子は生まれる前に母親を捨てて蒸発した父親の面影を色濃く残していたりとか。


そこまでは、まぁありきたりの一言で済むが、そこから先が禁断の世界にまっしぐらで・・・掻い摘んで言うと、親子関係を超えて行く所まで行っていた。
結末では新しい命まで授かっていて、今思い出しても恥ずかしさと、それ以上にやるせなさが胸に淀んでいる気がする。
そういう映画だってあらかじめ知っていたら、頼まれたって観には行かなかった。
原作は少女マンガだそうだが、あんなに過激なもんを大河や櫛枝も見てるのだろうか。
川嶋辺りは、鼻で笑いながら顔色一つ変えずに読んでいそうだけど。
・・・泰子も読んでたのか? ・・・もしそうなら、内容を知っていて、どういうつもりで俺を連れてあの映画を観に行ったんだろう。
知りたい気もするが、知ったら知ったで後悔しそうな気がする。
当時もそのことが頭の中でグルグル回っていて、居心地の悪さと相まって、帰り道では俺は終始無言だった。
気を遣ってくれたのか、泰子から手を握ってきたのが少しは救われたけど。

「・・・・・・・・・」

顔だって悪くはない・・・と、思う。
照れや贔屓目を抜きにしても、客観的に見ても。
目つきを始め親父にばっかり似てしまったとはいえ、俺が泰子から生まれたとは思えないほど顔の作りはいい。
その上見た目の若々しさと露出の激しい服のせいで、驚くほど男にウケがいい。
授業参観の度に切り取ったように変わらない若さで他の奥様方の輪から浮く泰子の異様さに驚かされる。
他の父母はキチンと老いていくのに、泰子だけは流れに逆らいながら泳ぐ鮭みたいに、老化という自然現象に反逆している気がしてならない。
それだけに留まらず、元々の顔だって悪くないものだから、
参観日は厚化粧と振りすぎな香水で武装してきた他の参観者が嫉妬と羨望の嘆息を漏らしまくるのが常だ。
クラス替えがあると、俺の家族だと分かるまでは「姉ちゃん連れてきた奴誰だよ? 金払うから紹介してくれ」という具合に、
男子が沸き立つのも恒例だった。
中には俺の家族だって知っていても泰子に話しかける奴もいた。
父兄や教師でさえもだ。
当然ながら軽くあしらわれていたけど。
単純な話、泰子はモテる。
この間も、毘沙門天国の買出しに付き合った先でこんなことがあった。
──────***──────
『・・・なにしてんだ?』
『あっ、竜ちゃ〜ん! この人たちがね、しつこくってぇ』
『んだテメ・・・ぇ・・・た、たたた、高須さん!? その人高須さんの彼女だったんスか!?』
『はぁ? ・・・何があったんだよ』
『そこでね、いいお店知ってるからって声かけられて・・・もう、やっちゃん子供がいるって言ってるのにぃ・・・』
『えぇっ!? 子供って・・・高須さん、その歳で・・・お、奥さん美人っスね』
『・・・・・・なんでもいいけど、用は済んだんだろ。もう帰るぞ』
『うん。ねぇねぇ、さっきの人、やっちゃんのこと奥さんだって。竜ちゃんの奥さん・・・あ、待ってぇあ・な・た』
──────***──────
向こうは俺を知っていたみたいだけど、こっちからは一切知らない男達からナンパされていた。
俺が知ってるだけでもそんな事があったのは一度や二度じゃないし、モロにお水な格好をしていない時でもそれなりに声をかけられるらしい。
俺が一緒の時はまだしも、一人で歩いている時はどうしているのか聞いたら、ケータイの待ち受け画面を見せているそうだ。
前に見せてもらったことがあるが、納得したと同時に少しげんなりとした。
俺と一緒に写っている写メを待ち受けにしていたら、誰だって泰子に手は出さないだろう。
おかげで待ち受けを別の画像にしろとも言えず、こっちとしてはかなり複雑だが。

「・・・・・・・・・」

結婚願望だって、「あの」担任の「それ」に比べたら小指の先程かもしれないが、人並みにはあったらしい。
以前自分で買ったのか、誰かから借りてきたのかは定かではないが、
大河がうちに持ち込んだ雑誌の中から見つけたブライダル情報誌を熱心に読んでいたこともあったりした。
──────***──────
『はぁー・・・いいなぁ・・・ねぇねぇ竜ちゃん、これってけっこうよくない? やっちゃん似合うかもって思うんだけど』
『いつものドレスよりはいいんじゃないか。ケバくも際どくもないし、裾が長すぎて接客には向かないだろうけどな』
『ウェディングドレスでお店に出たら、結婚してーってお客さんたちから言われそうでやだなぁ・・・稲毛さんとか本気でしつこそう』
『・・・そんなの、やっぱり着てみたかったりするのか』
『ん? ん〜・・・うん・・・着てみたかったりするなぁ、今でも』
──────***──────
あの時、少し寂しそうだった泰子の横顔を見た時は、胸が痛んだ。

俺さえいなければ、ひょっとしたら親父よりも真っ当な誰かと結婚した泰子が、祖父ちゃん達から反対もされず、周りからも祝福されて、
雑誌の中で微笑むモデルみたいに綺麗なドレスに身を包んで、本当に、幸せになれたんじゃないか・・・そんな考えが頭を過ぎった。
だけど、
──────***──────
『でも、ドレスだけ着ても嬉しくないなぁ・・・やっぱり旦那さまがいなくっちゃ・・・いつも傍にいてくれる、素敵な旦那さまが・・・』
『・・・それなら、なおさら・・・』
『だからね、ドレスなんか着れなくっても、もうやっちゃんは幸せなんだよ』
──────***──────
言いたいことはよく分からなかったが、伝わってくるものだって確かにあった。
寂しそうに見えた顔に、いつの間にか照れ笑いを浮かべていた泰子が何を考えてあんなことを言ったのかは俺には分からないままだけど、
不思議とその一言で、胸の痛みが引いていくのを感じた。
・・・まぁ、そうは言っていてもあの日から泰子の中の何かに火が点いたらしく、事ある毎にそういう類の雑誌やテレビを観ては、
大河とキャーキャー盛り上がっている姿を頻繁に見るようになった。
それと同じくらい、火花が飛んでるんじゃないかと思うほど睨み合う姿を見ることも多かったが・・・趣味の違いか何かか?
とにかく人並みだったはずの泰子の結婚願望は、いつしか相当な物にまで膨らんでしまったらしい。
『あのブランドの新作でね』や『あのデザイナーのなんだけど』という前置きの後、見せてくるドレスの感想を求められることもしばしばあり、
布地や繕い方について意見を述べたらおもいっきり場が白けたこともある。
それからは当たり障りのないことしか言った覚えがない。
女っていうのはいくつになってもああいう話をしょっちゅうしていて飽きないのかと、何が良いのか全く俺には理解できなかったが、
後日、古紙回収に出した古雑誌の中に、大河が持ってきたブライダル情報誌も混じっていたのもそれに拍車をかけた。
何故か持ち主の大河は元より、泰子もかなり落ち込んでしまったからだ。
訳を聞くと、相当思い入れがあったドレスが載っていたらしい。
大河も似たようなことを言っていた。
そんなことでそんなに気を落とすのかと言ったら、
──────***──────
『『 だって、竜ちゃん(竜児)が・・・ 』』
『俺? ・・・俺、何か言ったっけ』
『覚えてなぁい? ほら、あのページのドレスがね、やっちゃんに似合うってぇ』
『ちょっとやっちゃん? あれはね、私に似合うって竜児が』
『え〜、そかなぁ、大河ちゃんには似合わないと思うけどなぁ。ほら、胸元なんてスカスカになっちゃうしぃ』
『そんなのどうとでもなるもん。でもやっちゃんにはドレスなんて・・・ああ、イブニングの方なら要るわよね。式には必要だし』
──────***──────
それを合図にするように言い合いを始めてしまい、どんどんヒートアップしていって、終いには二人とも涙目になっていたが、
それでも「どっちが似合っているか」を譲らなかった。
埒が明かなかったから、街中の本屋を駆けずり回って捨ててしまった雑誌と同じ物を探して買ってきた。
二冊もだ。
一冊は大河に、もう一冊は泰子にやった。
生活費から出すわけにもいかないから一冊千円を軽く超える本を自腹で、しかも二冊もというのはさすがに懐が痛んだが、
あんな胃が痛みを訴えてくるような空気を後々まで引きずられたらこっちが堪ったもんじゃない。
泰子も大河も、聞いてるこっちが耳を塞ぎたくなるような、誰のどこの部分とは言わないが「ぺったんこ」だの「たれ」だのと、
色々と危ないことを大声で口にしていた。
いつ取っ組み合いになるかって、こっちとしては気が気じゃなかったほどだ。
幸いにも、その後や今の様子を見る限りだと、お互い特に気にしてはいないらしいが。

───ともかく

結婚するのに遅いわけでもなく

好印象を与えられるような容姿をしていて

本人にも多少なりともその気があるんなら

だったら、見合いくらいしたって───

「・・・・・・・・・」

見合いをしただけで即結婚なんて事態にはならないだろうが、それで上手いこと話が決まったとしても、何も悪いことなんかないだろ。
今まで働き通しで、ろくに休みも取れなかった泰子もようやく落ち着いて暮らせるんなら、それは良い事だと思う。
それに老後って言ったら随分先の話に聞こえるけど、誰かが泰子の面倒を見ないといけない時が来たら・・・


今はまだ俺がいるからいい。
別段嫌ってわけじゃないし、基本的には今も大して変わらない。
だが、先の事を考えるとどうしても心配になる。
・・・前にも一度、泰子とそんな話をしたことがあった。
あの時は、
──────***──────
『・・・今日はエイプリルフールじゃないよぉ。どうしてそんなつまんない嘘吐くの、変な竜ちゃん』
『どうしてって、俺だっていつかはこの家から離れなくちゃならないかもしれないだろ』
『・・・嘘でもそんなこと言うのやめようよ・・・竜ちゃん、いなくなったりしないもん。そんな嘘にやっちゃん騙されてあげないんだからね?』
『嘘じゃなくて・・・お、おい・・・や、泰子? おいって、なぁ』
『嘘じゃ・・・ない・・・? ふぐっ・・・りゅうっちゃ・・・ひっ・・・いなく・・・やだぁ〜〜〜〜・・・なんで? ねぇなんでぇ?』
『な、泣くなって!? なにも今すぐにってんじゃなくて、もしかしたらそういう事もあるかもしれないっていう話をだな』
『やっちゃんなんにも悪いことしてないのにぃ・・・ひっぐ・・・なんでそんな酷い嘘言ったりするのっ! 竜ちゃんのばかああぁぁぁ・・・』
──────***──────
・・・ビービー泣く泰子を宥めるのに一晩中かかったんだった。
喚き散らすわ、手近にある物を手当たり次第に投げつけてくるわ。
投げる物がなくなったからって、インコちゃんのカゴに手をかけた時は冷や汗が出た。
インコちゃんも、滅多にない命の危機に瀕したせいか、「へ! へ! Help me 〜〜!!」なんて気味が悪いくらい流暢に鳴きながら盛大に泣いてたし。
さすがにシャレじゃ済まなくなってきたんで取り押さえようとしたら、どこにそんな力があったのか逆に床に押さえつけられた。
ハッキリとは聞き取れなかったが、抜け出そうともがく俺の上に乗っかって「・・・そうだ、いっそ・・・とか切っちゃえば・・・」と・・・
続いて「そうすればぁ、竜ちゃんももうどこにも・・・やっちゃんがいなくちゃトイレだって・・・自宅介護ってお金貰えるんだっけ・・・」
とか、不穏な事をブツブツ呟く泰子に、寒気を通り越して戦慄した。
虚ろな顔、いつもはのほほんと垂れていた目が半分以上据わっていたのも、泰子が本気だと思わせるに十分な迫力を持っていて、
正直生きた心地がしなかった。
情けない話だが、俺が上げた悲鳴を聞きつけて、文字通り自分の部屋からうちのベランダまで飛んできた大河が来てくれなかったら、
今頃どうなっていたか分からない。
何を勘違いしたのか、俺に覆い被さる泰子を見て顔を真っ赤にした大河に事情を説明するのはかなり骨が折れたけど、
あの危険な状況をぶっ壊してくれたのには心から感謝してる。
大河の乱入がなかったら、まさかとは思うが・・・やめとこう、俺を介護する泰子なんて想像するだけで恐ろしい。
俺が介護されるに至る経緯なんてもっと考えたくない。
それからもしばらくの間、しきりに泰子は「竜ちゃん、いなくなったり・・・しないよね・・・?」と・・・
その度に「だって『一生ここに置いてくれ』って、竜ちゃん言ってたもんね。やっちゃんずぅっと覚えてるよ」なんて、
自問自答に一喜一憂していた。
一々念書まで見せてきた事もある。
親父の影響か知らないが、血判なんてものドコで覚えてきたんだ。
ケータイのムービー機能で録画した『一生〜』の件を、毘沙門天国に来る客に頼んでDVDに焼いてきやがった時はさすがに目の前で叩き割った。
だが、荒い息をつきながら胸を撫で下ろす俺を前に珍しく不適に笑った泰子は、バッグからこれ見よがしに今叩き割った物とそっくりなDVDをチラつかせた。
呆然としている俺に、「まだまだた〜くさんあるから、欲しかったら言ってね、竜ちゃん」って微笑んでいた泰子に思い知らされた。
俺は生涯この家から独り立ちすることはないだろう、と。
自分の首に輪っかが嵌められた音まで聞こえた気がした。
常軌を逸した考え方といい、やり口のエゲツなさといい、あまりにも普段の泰子からかけ離れすぎている。
言い換えれば、一人になるのがそれほど我慢ならなかったのかもしれないが。
それならなおのこと、やっぱり必要になるんだろうな。
俺でも大河でもない、ちゃんとした人っていうのが、泰子には。

「それでねぇ、あれ、竜ちゃん? もうお洗濯終わったの?」

「どうしたのよ竜児、そんな思いつめた顔して。なんかあったの」

ガラリと、閉じたままだった窓を開けると、居間へと入って泰子の目の前で止まる。
洗濯を中断して自分を見下ろす俺を、不思議そうに見上げる大河と泰子。
目が合うと、込み上げてくる物で胸が詰まる。

このまま何もしないで、何事もなく平穏なままでいたいと、首をもたげた弱気が囁く。
でも言わなきゃならないことがあって、なにを言えばいいかも分かってる。
考えるまでもないんだ。
たった一言でいい。
がんばれよって背中を押してやれ。
それができるのは俺だけで、してやんなくちゃいけないのも俺だけなんだから。

「・・・泰子」

小さくした深呼吸。
狭まっていく咽喉が呼吸を邪魔して痛いくらいだ。
しかし、それでも裏返りそうになる声をできるだけ低く、太くし、泰子に声をかける。

「うん」

小さくなったって、そう思う。
いつしか抜いた背も、大河ほどじゃないにしろ華奢な線も。
こんな小さな体でずっとムリしてきたんだ
幸せを願うなら、泰子に言うべきことは一つだろ。
俺はしっかりと泰子を見据え、痺れが走る口を開いた。

「断れよ」

肺から押し出すように吐露したそれは、考えていた事と間逆の言葉だった。

「ふぇー・・・なぁにそれ? 竜ちゃん、ほんとにどうしたの?」

いきなりのことに泰子が途惑っているが、それ以上に俺自身戸惑っていた。
そうじゃねぇだろ、断るように勧めてどうすんだ。
幸せを願うんだろうが。
だったら今すぐ訂正しろと、弱気とはまた違う何かが耳元で喚きたてる。
だが、ひとたび口にしてしまうと自分でも止めようがなかった。
ヤケクソに似た感情と勢いに任せて、俺は更に語調を強める。

「断れって言ったんだ。見合いなんてするなよ」

「お見合いって・・・あぁ、さっきのこと? ・・・だけど、もう相手の人とも約束しちゃっててぇ」

相手っていうのは、まさか見合い相手のことを言ってるのか?
よもやそんな所まで話が進んでいたのか。
俺に一言の相談も無しに。
冗談じゃねえ。

「関係ねぇよ、とにかく絶対断れ。なにを言われても断れ、必ずだ。しつこく言われるようなら俺から言ってやる」

文化祭の時みたいに前髪を上げて、サングラスでもして行けば十分だろう。
こっちの準備はその程度で済む。
なんなら大河から木刀を借りて持って行ったって、俺は一向に構わない。

むしろ持っていく。
使ったりはしない、ただ持ってるだけだ・・・多分な、多分。

それでも相手が諦めないようだったら、力の限り睨んでやればいい。
ある意味そっちの方が効果がある気がする。
自慢じゃないが、泰子に大河、学校でも極一部の連中を除けば、俺から目を逸らす人間は初対面で九割を超える。
逃げ出す奴だって相当数いるから、木刀なんかをチラつかせて脅すよりも手っ取り早そうだ。
そもそも、俺と目を合わせてもいられないような奴を家族に迎え入れるつもりなんかさらさら無い。


泰子の上っ面と体目当てに、あの隙だらけな性格に付け入るような奴なんてもっとお断りだ。
どうせそんな奴、泰子が子持ちだって言ったら同情混じりに「それでもいい、君の子供なら僕の子も同然さ」なんて甘い言葉でもかけて、
いざ俺が顔を出せば泡食って逃げ出すに決まってる。
期待させるだけさせておいて、ちょっとでも気に入らなかったら「今回はご縁がありませんでした」って言い残して・・・
それで傷つく泰子のことも放り出して・・・
──────***──────
『どぉおして私ぶぁ〜っかり即日お断りされんのよぉ・・・あのマザコン、見る目ないんじゃねぇ!? なんか童貞くさかったしぃ・・・
 つかいい歳ぶっこいて、見合いの席でアニメの話してんじゃねぇってぇ! そんなんだから童貞臭出てるんですぅ! 未だに独身なんですぅ!
 職業聞かれたから普通に教師っつったら『宇宙人ですか?』って、もう先生ついてけまっせ〜ん!! アーッハハハハハ・・・ハハ・・・・・・結婚してぇ・・・』
──────***──────
不意に、最早見慣れた担任の咽び嘆く姿が目に浮かんだ。
教室に入ってくるなり、暗黒物質でも生み出さんばかりの暗い何かを口から吐き出すと、その場に泣きながら崩れ落ちる先生。
頭の中で、その姿が自然と泰子のそれに重なる。

だめだ、絶対にだめだ。
見合いなんか絶対に許さん。
一体全体誰の許可取って見合いなんてもんやるってんだ、ちゃんと俺の許可取ったのか。
取ってねぇだろ? ふざけんな。

「う〜ん、でもぉ・・・やっぱり悪くないかなぁ、急に断ったりしたら・・・」

だが、いくら俺がまだ見ぬ見合い相手への効果的な対処や、泰子に訪れるかもしれない悲劇を回避させようと考えていても、
肝心の泰子は相手に気を遣ってるようで中々煮え切らない。
焦れったい、メチャクチャ焦れったい。
俺の知らない、それも親父になるかもしれない奴相手に気を遣う泰子を見てると、自分でも信じられないくらい苛々してきた。

「あぁ、ったく・・・! 気に入らねぇんだよ! どうして見合いなんかすんだ、今の暮らしに不満でもあるってのかよ!?
 それとも、俺が泰子一人の面倒も見れないって思ってんのか!?」

子供の癇癪とか、ワガママとか、それと同じ類のものだっていう自覚はあった。
分かってもらえないからっていう自己中心的な理由で当り散らして、そんなことしたって情けないだけだって頭では分かってるのに、
それでも言わずにいられなかったのは、俺もまだ子供なんだろう。
日頃から泰子のことを子供っぽいとか言っていたが、これじゃあもう人のことをどうこう言えないな。

「・・・え〜っと・・・竜児? ちょっといい?」

ふと、それまで黙っていた大河が突然横槍を入れてきた。
そういえば熱くなっていて忘れていたが、今この場には大河もいたんだった。
できれば、あまりこういう場面を見せたくはないな。

「・・・悪い、大河、少し外しててくれないか。俺は今泰子と」

「ねぇ、竜ちゃん」

言いつつ、大河に向き直ろうとする前に、今度は泰子が口を開いた。

「竜ちゃんはある? 今の暮らしに不満とか、やなこととか・・・竜ちゃんは、ある?」

無いと言えば、それは嘘になる。
もっと野菜室の広い冷蔵庫があればいいとか、いい加減くたびれてきた二層式の洗濯機をどうにかしたいとか、
通販に出ていた強力な洗剤も欲しいとか、あの狭っ苦しくて仕方ない浴槽もそうだ。
言ってしまえば、貸家から一軒家に、とか。
生活していれば、不満なんてゴロゴロ出てくる。
だけど、

「ねぇよ、不満なんて。俺は今のままでだって十分満足してる。泰子がいて、大河がいて、インコちゃんがいて・・・
 そりゃ、生活は苦しいときだってあるけど、でも、俺は今のままがいいんだ・・・泰子は、それじゃダメなのか?」

そんなちっぽけな不満よりも、もっと気に入らない事がある。
質問に質問で返してきた泰子に、俺は今の本心を伝えると共に、そうであってくれと願いながら同意を求めた。
すると何故か泰子は満足気に微笑み、今の言葉を反芻するように二度、三度と頷く。

「そんなことないよぉ、やっちゃんだってもう十分幸せだもん・・・それにぃ」

それに?

「竜ちゃん、やっちゃんの面倒見てくれるって言ったよね、今」

そんなことを言ったのは確かだ。
熱くなっていたせいで細かいとこまで覚えちゃいないし、少し違う気もするが、それは別にいい。
いいんだが・・・何で泰子は今、それも顔を赤くしながらそれを持ち出すんだ。

「あれってぇ、ずっと、ずぅっと一緒にいてくれるって言ってくれたんだよね」

そう取ってもらっても、特に不都合があるってわけじゃないが・・・なんでだろう、なんか変な方向に話が行ってる気がする。
それに何故だか嫌な予感がしてきた。
とても、とてつもなく嫌な予感だ。
主に足元から地響きを立ててしてくる。
地震かと思ったが、周りを見渡しても震えている物はなく、しかし俺の膝だけはバカみたいに笑っていた。

「やっちゃん、今すっごく幸せ・・・竜ちゃんからこんな、プロポーズみたいなこと言ってもらえるなんて・・・」

ビキビキキィッ!!

「竜児・・・も う い い か し ら・・・」

手の中の湯飲みを、握力のみで砕いた大河が俺の不安を更に加速させる。
明らかに大河は怒っている。
そんなの一々見なくたって分かる。
だが、何でここまで怒っているのかが俺には分からない。
大河がいくら気が短いっていっても、こんな短い時間待たされた程度であそこまで怒る訳がない。
張り付くような、それでいて滝の如く溢れ出る汗を流し続ける俺は、首だけを大河の方へと巡らす。

「あんた、さっきからお見合いがどうとか言ってるみたいだけど・・・」

すっと大河は人差し指を突きつけた。
顔だけは俺に向けて固定したまま、その不気味な体勢でぐるりと腕だけ動かして、ピタリとある一点を指差すように止める。
その先には





「・・・・・・ぐ、ぐぇ? ・・・てゅ、てゅいまてん・・・・・・」





「まったく、呆れてものも言えないわ。ほんっとにバカなんじゃないの?
 よりにもよってブサインコの話をやっちゃんがお見合いするって、竜児、一回病院で診てもらった方がいいんじゃない、あたま」

あの後。
意識が飛ぶほど強烈な、大河曰く「躾」を加えられた後に受けた説明はこうだった。
毘沙門天国の、特に仲のいいお客に俺や家の写メを見せていたところ、たまたま写っていたインコちゃんが大ウケしたそうだ。
中々見る目があると思うが、なんとそのお客、自分の飼っている雄のインコとお見合いさせて、
うちのインコちゃんとその雄インコの愛の結晶を・・・という話を持ちかけてきたらしい。


何でもその雄インコ、驚く事にもう十年近くも生きているんだそうだが、最近やたらと気勢が激しいらしく
心配になった飼い主が病院に連れて行ったところ、単なる発情期ということが判明。
寿命や変な病気のせいじゃなかったと安心したそうだが、いくら経っても、何故かその雄インコの発情期が収まらず。
どうしたものかと悩んでいるところに、泰子が見せていた写メに写っていたインコちゃんに目を付けた。
と、そういう事らしい。
なんのことはない。
最初の大河の『お見合いぃ!? やっちゃん、それマジで言ってんの!?』というセリフは、
『(あのブッサイクが)お見合いぃ!? やっちゃん、それマジで言ってんの!?』という意味だったらしい。
俺は聞き間違えてはいなかったが、大河の一言だけでとんでもない勘違いをしていただけだった。

「・・・返す言葉もねぇよ」

脇腹に蹴りでも喰らったような衝撃を受けて目を覚ました俺に、仏頂面した大河が昼飯の催促をしてきた。
咽ながら時計を見たら、とうに昼を過ぎてしまっていた。
急かされ、抜け切らないダメージを押して昼飯を用意している間も、遅くはなったがこうしてやっと落ち着いて昼食をとっている間中も、
俺はひたすら終わりの兆しのない大河からの冷ややかな目と皮肉というよりか罵詈雑言を一身に受けていた。
おかげで身も心もズタズタのボロボロだ。
それでも、自分の分のおかずを貢いだり、口答えなどしたりせずただただ黙って頭を下げ続けていると、
大河もだんだんと食事の方へと集中しだす。
間違っても俺を許したわけじゃない、猛烈な勢いで箸を動かす大河は今もって怒気を撒き散らしている。

「大河ちゃん、竜ちゃんにバカとか言わないの。
 やっちゃんがお見合いしちゃうって勘違いして、あんなに必死になって止めさせようとしてたからってぇ」

下降線の一途を辿る大河の不機嫌さとは打って変わって、泰子は何故かさっきから上機嫌だ。
やたらとベタベタしてきて、その内溶けるんじゃないかと思うくらいふにゃふにゃにした顔で絶えずニコニコしている。
それに比例して大河が不機嫌になっていくのも何でなんだろうな。
おかげで、表面上だけでも落ち着きを取り戻した空気がまたギスギスしだす。

「な、ななななに言ってんのよやっちゃんてば・・・バカにバカって言って何が悪いのよ、ねえぇっ、そうでしょバカ犬! ・・・おかわり! 大盛り!」

「お、おぅ・・・・・・ッ!?!?」

突き出された茶碗を受け取ったと同時に背筋を冷たい物が流れていく。
茶碗には所々に罅が入っていた。
割ってないだけ我慢しているんだろうが、その我慢も時間の問題だろう。
そしてその時はすぐに訪れた。

「もぉ、意地っぱりなんだからぁ。
 でもぉ大河ちゃんがヤキモチ焼いちゃうのもしょうがないよねぇ、だって竜ちゃんとやっちゃんはラブラブなんだも〜ん」

大河にしろ茶碗にしろ、なるべく刺激しないように注意しながら飯をよそっていたら、泰子が思いっきり刺激しやがった。
っていうかラブラブって古。
泰子は全然分かってない。うちじゃあ藪を突いたら虎が出るんだぞ。
それはもう凶暴な虎が、主に俺を的にするってのに、なんてことをしやがるんだ。

パキン・・・

て、手の中の茶碗が独りでに割れた・・・っ・・・も、もうダメだ。
逃げようと勝手に浮きそうになる腰を、今まで根性で下ろしていたが、これ以上は無理だ、限界だ。
どこだっていい、すぐに逃げよう。

「りゅぅぅぅぅうじぃぃぃぃぃいいいい!!」

いつの間に目の前に!?


「ちょっと待て大河!? 俺は何もしてないのに何でぶべらっ!!」

「あ! ん! た! がぁッ!! 変な勘違いしたせいだぁぁぁぁらああ!!」

最後に見たのは、真っ赤な顔に涙を浮かべた大河の、顔面目がけて振りぬかれた渾身の右拳だった。
遠のく意識の中、叱っているのか、泰子が大河に文句を言ってるのが聞こえる。
が、もう遅いし、大河も聞く耳持ってないだろうし、第一どうでもいい。
次に目を覚ました時は、きっと夕飯時で腹を空かせた大河に起こされるんだろう。
そんなのもいつものことだ、もう嫌になるほど分かりきってる。
どうせまた大河のご機嫌取りに、凝った物よりも量に比重を置いた献立になるんだ。
なんせ今日洗いに出されていたシャツとワンピースをダメにしたことも、まだ大河は知らないままだ。
機嫌なんて、いくら取りにいったって足りはしない。
そんなことをしても無駄かもしれないが、しないよりはマシになるだろう・・・2〜3発分ぐらいは。
それまでは、

「なぁ、インコちゃん」

「ぐぇぇえ?」

目の前にいるインコちゃん。
カゴから飛び出し、ゆったりと滑空してくると、器用に指先に止まった。

「お見合い・・・してみるか? せっかくだし、インコちゃんも女の子だから興味あるだろ」

「む、むむむ・・・む〜む〜・・・むリ、むり」

「うん? 無理って・・・どうして?」

「ぐぇ・・・だ、ん・・・だん、だん・・・だんなさっま、りゅうちゃ、だんっだん」

「ハハハ・・・そうか、インコちゃんはもう人妻だったのか。それじゃあお見合いはできないよな」

「そそそそ、そう・・・いぃ、いいぃい・・・いんごちゃん、りゅうちゃっん、すっき、すき、すき」

「・・・インコちゃんはいい子だなぁ・・・」

こんなに可愛らしい上に優しいインコちゃんなら、お婿さんも引く手数多だろう。
だけども、親バカかもしれないが、こんなに懐いてくれているのが嬉しくて、まだ暫くは嫁がせたくはない。
約束してしまったと言っていた泰子には悪いが、あの話は無かったことにしてもらおう。
こうまで言ってくれてるんだしな。

「ぐええぇ。すっき、しゅき」

頭を撫でると、くすぐったそうに、あのぱっちりとした大きなおめめを細めるインコちゃん。
体ごと摺り寄せて甘えてくる様は身悶えするくらい可愛くて天使そのものだ。
今やこの世に残された唯一の癒しとまで言いきれる。
まぁ、これ夢なんだろうけど、それでもインコちゃんが俺を癒してくれてることに間違いはない。

予想通り、俺は夕方になるまで寝ていた。
それも、まるで死んだように、身動ぎの一つもしなかったらしい。
そしてこれもまた予想通り空腹を訴える大河に無理やり起こされて、そのまますぐ飯の支度だけを手短に済ませると、
隠していてもいずれバレるだろうからと素直に洗濯カゴの中、繕い合わせればちょっといい感じの雑巾に生まれ変われることだけは保障できる、
ボロ切れの山となったあの衣類を大河の前に並べた。

結局その日、俺はほとんどを寝て過ごすこととなり、またもわざわざ夢に飛んできてくれた優しいインコちゃんにずっと慰めてもらっていた。

                              〜おわり〜


165 174 ◆TNwhNl8TZY sage 2010/02/19(金) 09:50:46 ID:FqxSh17Q
おしまい
そういえばインコってなんにでも発情するそうで、人間(特に甘やかす飼い主)相手にも発情するんだとか。
夢枕に立つ淫語ちゃんならぬインコちゃんも、きっと。

154 174 ◆TNwhNl8TZY sage 2010/02/19(金) 09:33:09 ID:FqxSh17Q
やっちゃんSS投下

「お見合い!」

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