最終更新: text_filing 2009年09月22日(火) 02:14:10履歴
すみれ姉ちゃん◆..4WSlv9x6 sage 2009/09/22(火) 01:37:48 ID:xXFEC5pT
第二章
「お前、生徒会に入れ。」
ああ、これはあれか、入学式のとき言ってた「強制連行」ってやつか。でも何で俺が?
しかも俺の家の事情を知っている姉ちゃんが?
「なあ、分かっているとは思うが俺は泰子のために晩飯を作らなきゃならない。俺が帰るのが遅くなれば、
泰子の仕事に影響が出ちまう。だから俺は入れねぇ。」
「ああ、分かっているとも。十年間伊達にお前のそばにいたわけじゃない。」
じゃあ何故俺を連れてきたんだ。
「何、案ずることは無い。対策はちゃんと考えているつもりだ、それについては中で話そう。」
引き戸が開かれる。中には一人、男が座っていただけだ。
「おや、今日は遅かったね。ん?そっちの子は?」
男が尋ねる。この口ぶりからするに上級生のようだ。
「会長の待っていた新しい生徒会役員だ。」
ん?今、なんて言ったこの人。生徒会役員?誰が?俺が?まさかな、俺はまだ入るとは言っていないぞ。
「おい、ちょっと待ってくれ俺はまだ――」
「入るとは言ってない。だろ?」
「そうだけど・・・じゃあ何で生徒会役員だなんていうんだ?」
「お前の性格上入らなきゃいけなくなるからだ。」
まったくもって意味不明なことを言っている。しかも何かありげに笑っているのだ。
「えっ…つまり君は生徒会に入る気は無いのかい?残念だなぁ、ただでさえ人がいないのに。」
男は――いや、生徒会の会長は酷くがっかりした様子で訪ね、うなだれてしまった。
それでも言うべきことは言わなければいけない。悲しいけどこれ、現実なのよね。
「はい、僕は生徒会には――」
「はいストップ。そんなに答えを急ぐな、これを聞いてからでも遅くは無いぞ?」
また言葉を遮られる。そして耳にイヤホンがねじ込まれる。イヤホンの先にはMDプレイヤー、
その再生ボタンを姉ちゃんが押した
「今回、折り入った話がありましてお伺いしました。」
姉ちゃんだ、しかもいつもは使わない敬語だ、相手は一体誰だ?
「えー、どおしたのぉすみれちゃん?あ、まさか竜ちゃんとぉ結婚するとかぁ?キャ〜ッ。」
2つの意味で噴出しそうになった。一つは相手が泰子であること。二つ目は泰子のとっ拍子の無い発言。
大体なんだ結婚って、普通は付き合って、それでからだろう。
「そ、そんなんじゃありません!」
キッパリと言われた。それはそれで悲しいものだ。
「え〜っ違うのぉ、じゃあ何なのぉ?」
「ええ、実は竜児君を生徒会に入れようと思いまして、それの許可をと思いまして。」
「許可ぁ?なんでぇ?」
「竜児君を生徒会に入れてしまうと帰りが遅くなって、泰子さんの晩ご飯が作れなくなってしまうかも
しれないので、それで泰子さんの許可をもらおうと思いまして。」
「う〜ん、ねぇすみれちゃん。」
「はい」
「その、生徒会っていうのに竜ちゃんが入るのは、竜ちゃんのためになるんだよねぇ?」
何時に無く真剣な声だ。何時もはもっとぽえぽえふにゃ〜んな感じなのに。
こんな泰子の声を聞いたのは高校受験の時以来だ。
「えっ、まぁ、はい。」
「じゃあ、やっちゃんはいいよぉ、それが竜ちゃんのためになるなら。我慢するよ。」
正直言って予想外だった。泰子なら「竜ちゃんのご飯食べたいからぁ、だめぇ」
とか言いそうなのに、許可した。本当に意外だった。
「本当ですか、ありがとうございます。明日、本人に伝えます。あ、あとこのことは竜児君に伝えないでください。」
「うん、竜ちゃんにはぜ〜ったいに言わない。じゃあねぇすみれちゃん。」
ブツリ、とそこで録音は終わった。イヤホンを外す。少しばかり耳が痛い。
「な、対策はとってるだろう?」
「ああ、完璧なほどにな。」
これで俺の入らない理由は無くなった。しかし俺には入る気はさらさら無い。
「さあ、どうする?」
「泰子には悪いが俺は入らない。入る気は無い。」
さあ、これで話は終わりだ。俺は帰る。特売に間に合わなくなるんでな。
「そうか、これをやろうと思ったのに、残念だ。」
「そのカードは一体?」
「おまえもかのうやの常連なら、こいつの噂ぐらいは聞いたことがあるだろう?」
まさか、実在するとは思わなかった。
「まさか、それは…」
「そうだ、かのうやの従業員専用のカードだ。」
かのうや従業員専用カード。それはその名の通り、かのうやの従業員だけに渡されるカード。
割引券と同じ2割引が何回だろうができるそんな夢のようなカードである。
「だがこいつも使い主がいないとなると捨てるしかないな。何せ、もうすでに高須竜児で登録してあるからな
他人が使うわけにも行くまい。」
や…やめろ…そんな…そんなっ
「まあ私だって無駄にゴミは出したくは無い。そこでもう一度聞く。入るか?入らないのか?」
そんなMOTTAINAIことできるかっ
「くっ、外道め……分かった、入るよ。」
「その言葉を待っていた。ほら、約束のカードだ。」
外道め、と言ったが内心ホクホクでたまらない。
生徒会に参加させられたのは不本意だが。
「話を聞いていれば分かると思うが、会長、こいつが新しい生徒会の役員だ。」
「うん聞いてた。買収はダメだよ。ま、何はともあれヨロシクね。」
屈託の無い笑顔が向けられた。久しぶりだった、そして驚いて反応できなかった。
何せ初めから何の偏見も持たずに接されたのは姉ちゃん以来だったから。
「おら、何ボサッとしてんだ、お前も挨拶しろ。」
後ろからどつかれ意識をより戻す。
「あ、すみません。高須竜児です。これからよろしくお願いします。」
「うん、よろしく高須君。じゃあ早速活動と行きたいけど今日は特に何も無いから二人とも帰って良いよ。」
「あ、そうですか。えと…では失礼しました。」
「では会長また明日。」
「うん二人ともまた明日ね。」
初日から軽く肩すかしを食らいながら退室する。さあ、早く「あれ」の効果を試さねば…
自然と足取りが軽やかになる。
「お前、どうせかのうやに行くんだろ?それなら一緒に帰ろう。」
「ん?まあいいけどよ。」
校舎を出ると空は赤く燃え上がっていた。グラウンドからはソフトボール部の掛け声が
あれはなんて言っているんだ?すえ〜ご〜ずえ〜!どぅら!うぉいっ!にしか聞こえない。
「どうした竜児、早く帰るぞ?」
「あ、ああ。そうだな早く帰ろう。」
あの掛け声、なんていってるかいつかソフトボール部の奴に聞いてみよう。
あ、気になることと言えば…
「なあ姉ちゃん、一つ聞いていいか?」
「なんだ、いきなり。まあ答えられる範疇であれば答えるぞ」
「何で、あの会長って人は俺を怖がらずに接してくれたんだ?」
本来なら普通のことだが、「俺」にとってはかなりの異常事態だった。
何故なのか気になった。姉ちゃんなら知ってるかもしれないから。だから聞いた。
「ん〜?なんだ、その…あの人は頭が良いからな。」
「は?何じゃそりゃ。」
今日は姉ちゃんが言ってることの意味が分からない。
「ん〜何て言うんだろうな、会長は人を噂や見た目なんかで判断するような馬鹿じゃないのさ。
それによく考えてみろ、制服をしっかりと着た奴がヤンキーに見えるか?私が拉致ったとはいえ
生徒会に入ろうとするヤンキーがいるか?」
「まあ、普通はそう見えねえよな。」
「そういうことだ。わかったか?」
なるほど、会長は姉ちゃんと同じように人の本質を見抜ける人なんだ。
誰彼構わず信頼するような人でも、噂で人を決め付ける人でもない。
色眼鏡を使わずちゃんと「俺」を見てくれる。「俺」を評価してくれる。
それがたまらないほど嬉しくなった。ちょっと泣きそうになった。
「ああ、わかった。」
「そうか。なら早く行こう。」
「……なあ、姉ちゃん。」
「…ん、なんだ。」
「…………」
少しの間があいてしまった。やっぱり言うのは少し恥ずかしい。
けど言わなきゃ。この思いを姉ちゃんに伝えなきゃいけない気がする。だから言う。
「姉ちゃん。生徒会に入れてくれてありがとな。」
「別に私は感謝されるようなことはしてないぞ?逆に迷惑だったんじゃないかと思っているくらいだ。」
自覚はしてたのかよ。まあいいやそんなことは。
「いいんだよ。こっちは感謝してんだ。素直に受け取ってくれ。」
「そうか?じゃあそう受け取っておく。」
「それでよし。さ、急ごうぜ、バーゲンが終わっちまう。」
「急がなくてもいいだろ。お前にはカードがあるじゃねぇか。」
少しばかり遅れたが、俺の本当の高校生活が今始まった。
続く
第二章
「お前、生徒会に入れ。」
ああ、これはあれか、入学式のとき言ってた「強制連行」ってやつか。でも何で俺が?
しかも俺の家の事情を知っている姉ちゃんが?
「なあ、分かっているとは思うが俺は泰子のために晩飯を作らなきゃならない。俺が帰るのが遅くなれば、
泰子の仕事に影響が出ちまう。だから俺は入れねぇ。」
「ああ、分かっているとも。十年間伊達にお前のそばにいたわけじゃない。」
じゃあ何故俺を連れてきたんだ。
「何、案ずることは無い。対策はちゃんと考えているつもりだ、それについては中で話そう。」
引き戸が開かれる。中には一人、男が座っていただけだ。
「おや、今日は遅かったね。ん?そっちの子は?」
男が尋ねる。この口ぶりからするに上級生のようだ。
「会長の待っていた新しい生徒会役員だ。」
ん?今、なんて言ったこの人。生徒会役員?誰が?俺が?まさかな、俺はまだ入るとは言っていないぞ。
「おい、ちょっと待ってくれ俺はまだ――」
「入るとは言ってない。だろ?」
「そうだけど・・・じゃあ何で生徒会役員だなんていうんだ?」
「お前の性格上入らなきゃいけなくなるからだ。」
まったくもって意味不明なことを言っている。しかも何かありげに笑っているのだ。
「えっ…つまり君は生徒会に入る気は無いのかい?残念だなぁ、ただでさえ人がいないのに。」
男は――いや、生徒会の会長は酷くがっかりした様子で訪ね、うなだれてしまった。
それでも言うべきことは言わなければいけない。悲しいけどこれ、現実なのよね。
「はい、僕は生徒会には――」
「はいストップ。そんなに答えを急ぐな、これを聞いてからでも遅くは無いぞ?」
また言葉を遮られる。そして耳にイヤホンがねじ込まれる。イヤホンの先にはMDプレイヤー、
その再生ボタンを姉ちゃんが押した
「今回、折り入った話がありましてお伺いしました。」
姉ちゃんだ、しかもいつもは使わない敬語だ、相手は一体誰だ?
「えー、どおしたのぉすみれちゃん?あ、まさか竜ちゃんとぉ結婚するとかぁ?キャ〜ッ。」
2つの意味で噴出しそうになった。一つは相手が泰子であること。二つ目は泰子のとっ拍子の無い発言。
大体なんだ結婚って、普通は付き合って、それでからだろう。
「そ、そんなんじゃありません!」
キッパリと言われた。それはそれで悲しいものだ。
「え〜っ違うのぉ、じゃあ何なのぉ?」
「ええ、実は竜児君を生徒会に入れようと思いまして、それの許可をと思いまして。」
「許可ぁ?なんでぇ?」
「竜児君を生徒会に入れてしまうと帰りが遅くなって、泰子さんの晩ご飯が作れなくなってしまうかも
しれないので、それで泰子さんの許可をもらおうと思いまして。」
「う〜ん、ねぇすみれちゃん。」
「はい」
「その、生徒会っていうのに竜ちゃんが入るのは、竜ちゃんのためになるんだよねぇ?」
何時に無く真剣な声だ。何時もはもっとぽえぽえふにゃ〜んな感じなのに。
こんな泰子の声を聞いたのは高校受験の時以来だ。
「えっ、まぁ、はい。」
「じゃあ、やっちゃんはいいよぉ、それが竜ちゃんのためになるなら。我慢するよ。」
正直言って予想外だった。泰子なら「竜ちゃんのご飯食べたいからぁ、だめぇ」
とか言いそうなのに、許可した。本当に意外だった。
「本当ですか、ありがとうございます。明日、本人に伝えます。あ、あとこのことは竜児君に伝えないでください。」
「うん、竜ちゃんにはぜ〜ったいに言わない。じゃあねぇすみれちゃん。」
ブツリ、とそこで録音は終わった。イヤホンを外す。少しばかり耳が痛い。
「な、対策はとってるだろう?」
「ああ、完璧なほどにな。」
これで俺の入らない理由は無くなった。しかし俺には入る気はさらさら無い。
「さあ、どうする?」
「泰子には悪いが俺は入らない。入る気は無い。」
さあ、これで話は終わりだ。俺は帰る。特売に間に合わなくなるんでな。
「そうか、これをやろうと思ったのに、残念だ。」
「そのカードは一体?」
「おまえもかのうやの常連なら、こいつの噂ぐらいは聞いたことがあるだろう?」
まさか、実在するとは思わなかった。
「まさか、それは…」
「そうだ、かのうやの従業員専用のカードだ。」
かのうや従業員専用カード。それはその名の通り、かのうやの従業員だけに渡されるカード。
割引券と同じ2割引が何回だろうができるそんな夢のようなカードである。
「だがこいつも使い主がいないとなると捨てるしかないな。何せ、もうすでに高須竜児で登録してあるからな
他人が使うわけにも行くまい。」
や…やめろ…そんな…そんなっ
「まあ私だって無駄にゴミは出したくは無い。そこでもう一度聞く。入るか?入らないのか?」
そんなMOTTAINAIことできるかっ
「くっ、外道め……分かった、入るよ。」
「その言葉を待っていた。ほら、約束のカードだ。」
外道め、と言ったが内心ホクホクでたまらない。
生徒会に参加させられたのは不本意だが。
「話を聞いていれば分かると思うが、会長、こいつが新しい生徒会の役員だ。」
「うん聞いてた。買収はダメだよ。ま、何はともあれヨロシクね。」
屈託の無い笑顔が向けられた。久しぶりだった、そして驚いて反応できなかった。
何せ初めから何の偏見も持たずに接されたのは姉ちゃん以来だったから。
「おら、何ボサッとしてんだ、お前も挨拶しろ。」
後ろからどつかれ意識をより戻す。
「あ、すみません。高須竜児です。これからよろしくお願いします。」
「うん、よろしく高須君。じゃあ早速活動と行きたいけど今日は特に何も無いから二人とも帰って良いよ。」
「あ、そうですか。えと…では失礼しました。」
「では会長また明日。」
「うん二人ともまた明日ね。」
初日から軽く肩すかしを食らいながら退室する。さあ、早く「あれ」の効果を試さねば…
自然と足取りが軽やかになる。
「お前、どうせかのうやに行くんだろ?それなら一緒に帰ろう。」
「ん?まあいいけどよ。」
校舎を出ると空は赤く燃え上がっていた。グラウンドからはソフトボール部の掛け声が
あれはなんて言っているんだ?すえ〜ご〜ずえ〜!どぅら!うぉいっ!にしか聞こえない。
「どうした竜児、早く帰るぞ?」
「あ、ああ。そうだな早く帰ろう。」
あの掛け声、なんていってるかいつかソフトボール部の奴に聞いてみよう。
あ、気になることと言えば…
「なあ姉ちゃん、一つ聞いていいか?」
「なんだ、いきなり。まあ答えられる範疇であれば答えるぞ」
「何で、あの会長って人は俺を怖がらずに接してくれたんだ?」
本来なら普通のことだが、「俺」にとってはかなりの異常事態だった。
何故なのか気になった。姉ちゃんなら知ってるかもしれないから。だから聞いた。
「ん〜?なんだ、その…あの人は頭が良いからな。」
「は?何じゃそりゃ。」
今日は姉ちゃんが言ってることの意味が分からない。
「ん〜何て言うんだろうな、会長は人を噂や見た目なんかで判断するような馬鹿じゃないのさ。
それによく考えてみろ、制服をしっかりと着た奴がヤンキーに見えるか?私が拉致ったとはいえ
生徒会に入ろうとするヤンキーがいるか?」
「まあ、普通はそう見えねえよな。」
「そういうことだ。わかったか?」
なるほど、会長は姉ちゃんと同じように人の本質を見抜ける人なんだ。
誰彼構わず信頼するような人でも、噂で人を決め付ける人でもない。
色眼鏡を使わずちゃんと「俺」を見てくれる。「俺」を評価してくれる。
それがたまらないほど嬉しくなった。ちょっと泣きそうになった。
「ああ、わかった。」
「そうか。なら早く行こう。」
「……なあ、姉ちゃん。」
「…ん、なんだ。」
「…………」
少しの間があいてしまった。やっぱり言うのは少し恥ずかしい。
けど言わなきゃ。この思いを姉ちゃんに伝えなきゃいけない気がする。だから言う。
「姉ちゃん。生徒会に入れてくれてありがとな。」
「別に私は感謝されるようなことはしてないぞ?逆に迷惑だったんじゃないかと思っているくらいだ。」
自覚はしてたのかよ。まあいいやそんなことは。
「いいんだよ。こっちは感謝してんだ。素直に受け取ってくれ。」
「そうか?じゃあそう受け取っておく。」
「それでよし。さ、急ごうぜ、バーゲンが終わっちまう。」
「急がなくてもいいだろ。お前にはカードがあるじゃねぇか。」
少しばかり遅れたが、俺の本当の高校生活が今始まった。
続く
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