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そらドラ hav6Call北村 会長 すみれ

「お昼のニュースです。今日未明、第三番地の幹線道路で事故が発生し…」
テレビから流れてくるニュースの声で目が覚める。
一瞬、寝坊したか!?と肝を冷やすが、今日は日曜日で、仕事も久々のオフだったことを思い出す。
大きめのダブルベッドの傍らでは、大河がすやすやと可愛らしい寝息を立てていた。
「ったく、風邪ひくぞ」
大河は半裸の下着姿で、夜半にかけたはずのタオルケットは足元でくしゃくしゃになっていた。
奇跡みたいに精緻なフランス人形の寝顔は、本当にただただ綺麗だった。
無機質とも感じられる真っ白なベッドルームにぴったりとはまった、まるで絵画か何かのようにも見える。
「今、何時だ?」
テレビからはお昼のニュースと聞こえていたが、寝ぼけ半分の竜児には時間の感覚ががまるでない。
「………腹、減ったな」
かけ直したタオルケットに包まれて眠る大河を横目に、竜児は朝昼兼食となる食事の準備にベッドを立った。

日曜日の繁華街は人で溢れていたが、皆がどこか行儀正しく、無秩序な混雑は見られなかった。
一重に理路整然と都市計画に沿って並んだショップと、行き交う人々の素性の良さがそうさせているのだろう。
月面都市ルナスペース。2年前に移住が開始された月の地に根をおろした人類初の地球外天体居住空間は、
欧米露日共同の宇宙開発事業の集大成だった。
高須竜児はメカニックとして第一期移住からこの都市に住んでいる。
休みの日は専ら大河と二人、ウィンドウショッピングに興じるのがここ最近の過ごし方だ。
「よう、高須に逢坂じゃないか」
聞き慣れた声に二人が振り返ると、そこには見慣れた北村祐作の姿があった。
「「北村」くん」
「おっと、もう逢坂じゃないんだったな」
「やめてってば…北村君は逢坂で良いわよ」
あっはっはと笑う北村にすかさず大河が突っ込む。
「まだ慣れないのか?なかなか良かったぞ、二人の月面宇宙婚」
3カ月前のことだ。竜児と大河は月にある巨大クレーターの中心で結婚式を挙げた。
宇宙空間での結婚式は珍しくない時代だったが、クレーターというのは人類初のシチュエーションで、
当日の式の様子は世界各国のマスコミが取り上げていた。主に大河ばかりが放映されたことは言うまでもない。
「そういう北村は?今日は狩野先輩と一緒じゃないのか?」
「そうなんだよ…ホントは今日までフリーの予定だったんだけどな〜」
「え、もう行ったのか?」
「あぁ…あの人もあれで気負ってるのかもな」
「行ったって、どこに?」
二人の会話に大河だけがついて行けない。
「隔離居住空間さ。乗務員(クルー)は出発の5日前からクリーンルームで過ごすことになってるんだ」
「へ〜大変なんだね」
「人類の希望を背負ってるからな。狩野先輩は」
竜児の言葉に北村が頷く。
狩野すみれ。月面都市ルナスペースの開拓者のひとりであり、屈指のミッションスペシャリスト。
6日後に控えたミッションでは、いよいよ前人未踏の天体、火星の有人探査に赴くことになっていた。
「ま、そんなこんなで一人で暇してたんだ。高須達はこの後何か予定でもあるのか?」
「「いいや」」
綺麗にハモった二人の返答に気を良くした北村が嬉しそうに宣言する。
「よし、今日は遊び倒そう!」
北村の声には、寂しさや不安の色合いはどこにもなかった。

「スミレ、テレメトリーの確認を」
「コンディションオールグリーン。異常ありません」
「イワノフ、電装チェック」
「問題無い」
狭い船内に3人の宇宙飛行士の声が響き渡る。有人火星探査船ホープのクルー達は出発前の最後の確認に余念が無い。
ホープはキャプテンマイケル、パイロットイワノフ、ミッションスペシャリストスミレの3人で運用される。
すみれは紅一点だったが、生粋の素質と素養、そしてそのスキルと性格によって、火星へ人類初の一歩を踏み出す栄誉を勝ち取っていた。
「こちらフライトコントロール。ホープ、応答せよ」
「こちらホープ。感度良好だ」
月面都市の外れにある管制局からの通信に、すみれは聞き慣れた優しい声を聞いた。
「OK。こちらも準備万端だ。予定どおり、1200にカウントダウンを開始する」
「了解」
キャプテンとフライトリーダーの通信を聞きながら、すみれは3年前のミッションを思い出していた。
建造途中だった月面都市ルナスペース建造のミッションだったが、当時のすみれはスペシャリストというよりも、
広告塔としての役割が大きかった。
あれから3年。すみれはついに夢だった誰も行ったことのないところへの切符を、実力で掴み取っていた。
「すみれ、緊張していないかい?」
唐突に話を振られ、すみれは一瞬出かけた声を飲み込んだ。そして努めて平静を装って応える。
「していないさ。私を誰だと思っている」
きりっとキツイ視線をカメラに向けたつもりだったが、サンバイザーのせいでその視線も表情も、
フライトコントロールにいる恋人には届くはずもなかった。
目前のディスプレイには、自分の傍らにいることを選択し、努力してくれた愛しい後輩の顔が映し出されていた。
「フライトリーダー…私情を挟むのはここだけにしてくださいよ」
キャプテンの呆れた声が通信に割って入る。
「あはは。気をつけるよ、マイケル」
「祐作、下のことは任せた」
「任せてくださいっ」
人類初の有人火星探査船、ホープの発射はもう間もなくに迫っていた。

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