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みの☆ゴン73〜82 ◆9VH6xuHQDo 2009/10/18(日) 21:29:30 ID:YrzEF7e9



 全宇宙にその名を轟かす強大な宇宙犯罪組織マクー 。
異次元虚空に存在する魔空城を本拠地に構え、数々の惑星を支配下においている。
━━そして次の標的、地球。
マクーは地球を植民地化する手始めに世界中に秘密基地を築きつつあった。

 その情報を傍受した銀河連邦警察より特命を受け、地球を目指しひとりの宇宙刑事が
銀河連邦警察の本拠地、バード星を飛び立った。宇宙刑事の名はギャバン。
そしてギャバンに好意を持ち、助手としてサポートするコム長官の娘が、
ペンダント型映像転換装置レーザービジョンを駆使し、インコに姿を変えた……

という話を、ストーカー追跡の帰りに竜児は実乃梨から電車の中で聞いたのだ。

***

「イ……インコちゃん……」
 高須インコは自分の名を唱えた。簡単な事だ。しかし、竜児。彼の前では、言わない。
言ってしまったら、毎晩、名前を言わそうとする彼との大切なコミュニケーション時間が、
無くなってしまうからだ。だから言わない。インコちゃんはその時間が好きだった。
大切な時間だった。そう、竜児が好きだった。生まれて6年。もう立派なオンナだった。

 午前2時。丑三つ時。、自室のベッドで眠っている竜児はうなされていて、どうやら悪
夢を見ているようだ。ここ最近、そんな夜が続いている。そんなこと今までなかったのに。
心配でインコちゃんは鳥カゴから抜け出した。竜児が眠りにつくと、彼の寝顔を拝むため、
ちょくちょく鳥カゴを抜け出すのだが、もちろんそれも、彼には内緒なのである。ベッド
で眠っている竜児は大量の汗をかいて胸を押さえている。インコちゃんの小さな胸も痛んだ。
「リュ、リュウ、」
 クチバシでは上手く話す事ができない。その、もどかしさが彼女、インコちゃんを悩ます。
インコちゃんは、決心した。苦しんでいる竜児を介抱したい、その名を呼びたい、その体内
に同化したペンダントの力を解放して……
「レーザービジョンッ!」
 ピキーン、ピキーン、ピキーン……掛け声と同時に鋭い金属音。インコちゃんは光に包ま
れ、その光が人の形に変わる。眩しいが一瞬。正確には0,05秒。竜児が気付く間もない。

 そしてインコちゃんのいた場所には、ひとりの美少女が片ヒザをつき、全裸で佇んでいた。

 ゆっくりと目蓋を開けると、サファイアのような瞳が輝き出す。小さいが、すっと通る鼻。
薄く、花びらのような唇が、真っ白な小顔の、一番美しい位置に配置されている。清純で、
透明感のある神秘的な体には、細く、華奢な手では隠しきれない豊かな胸の膨らみが存在し
ていた。彼女が呼吸するだけで、蕩けるように揺れ動くほど、柔らかい。そしてインコちゃ
んの面影を強く残す、エメラルドグリーンのふわっとした長髪が、体を包んでいた。

「竜児……」
 クチバシではなく、薄い紅色のクチビルから、彼の名を呼ぶ。もし竜児が変身後のイン
コちゃんに出合ってしまったら、目を疑うであろう。信じられないであろう。なぜなら、
こんなに美しい女性は実際には存在しないからだ。理想の美少女、いや理想を遥かに超え
た、超美少女。
ただ、彼女、インコちゃんには、その美貌の自覚は無いのだが。

「かわいそう……竜児」
 枕元にあったタオルで、インコちゃんは竜児の額に滴る汗を、そっと拭う。竜児は、
おうっ、ううっと、悪夢に魘されている。いったいどんな夢魔に襲われているのだろう。
 インコちゃんはバード星人特有のテレパシーで、竜児の思念に潜り込んだ……
「はああっ! 何? いまの……妖怪?」
 実際には恋ケ窪ゆり(29)独身だったのだが、インコちゃんは知る由もない。わたし
の夢も見てほしいな……せめて、夢で。竜児と。見つめるインコちゃんの穏やかな表情。
汗を拭ったタオルは、竜児の匂いがする。インコちゃんはタオルを鼻にあてがい、吸った。
「実乃梨……」
「!」
 オンナの名前。最近竜児がよく寝言で呟く名前だ。実乃梨。いったいどんなオンナだろう。
そのオンナが竜児を悩ましているのか? 許さない。そして、……悔しかった。
「わたしが……わたしが地球人だったら……竜児の事……」
 インコちゃんは竜児の手を握る。そして手の甲に『チュッ』っと、短いバードキス。
胸が熱くなる。キスしたクチビルが手の甲から離せない。秘めていた情熱が、押し寄せる。
「好き……竜児、好きなの……はあうっ!」
 そっと、軽く触れていたピンク色の先端。インコちゃんは無意識に刺激していたのだ。
燃える。手に取っていた竜児の指で、ピンクの先端の周囲を輪のようになぞってみた。ゾク
ゾクする。ギュンっと股を閉じる。恥ずかしい液体が、白い太ももをツーっと一筋、流れる。
「竜児、もっと、強く……」
 ふんわり、もっちりとした、やわらかな乳房を、竜児の手のひらに握らせた。竜児の指
の形に、真っ白な乳房がプニュリと歪む。体に電気が走る。竜児との情事を想像しながら、
インコちゃんは、そうやって慰めはじめた。カノジョの肌は、汗ばみ、桃色に染まる。
「んっ……んふっ……んんっ」
 起こさないように、声を押し殺していたのだが、快楽に甘く切ない声が漏れてしまった。
今度は立ちあがり、竜児の手を、下腹部へ。人差し指で、芽の部分を滑らせた。くちゅり。
「んくっ……」
 甘酸っぱい匂いが、微かに立ちこめはじめた竜児の部屋に、嬌声が小さく響く。まだ誰
のモノでもない、インコちゃんの秘部。すごく、白濁液でグショグショだ。竜児の指は、
インコちゃんの指にエスコートされ、芽の奥に潜む、秘部に挿入った。にゅるん。ぬぽ。
「あ、はぁあんっ」
 感覚がトロける、全身が痺れる。竜児の指は、生暖かい粘液にまみれた芽を強く擦り、
くちゅん、くちゅんと卑猥な調べを奏でる狭孔をまさぐるらされる。インコちゃんの膣壁
は、竜児の指にぬっぽり絡みつき、締めつけるが、溢れる天然ローションで往復運動は滑
らか。インコちゃんはその動きを早めた。快感に芽、乳首が痛いほど、ビンビン勃っている。
「あっ、あはぁっ……イ、イク……竜児っ、竜児っ……ああん」
 竜児の腕を取り、前後に動かす腰の動きは最高潮、歓喜の声。絶頂を迎える。
「くううっ……あはぁっ!」
 インコちゃんは、天に昇る。その姿は、まるで名画のように、美しく、神々しい……
しかし、オーガズムの瞬間、握っていた竜児の手を強く握ってしまった。

 眠っていた竜児の手に力がこもり、竜児が眼を覚ますのを、察知する。

「おうっ……インコちゃん? どうやって外に……」
 悪夢から覚めた竜児は、虚ろな中でも、手を握られた感触、一瞬まばゆい光を感じていた。
そして弾かれたように上体を起こすと、ベッドサイドにはインコちゃんが羽を休めていたのだ。
 何故かインコちゃんはまるで普通のインコのように、『チチチ』としか鳴かなかった。
竜児はインコちゃんを鳥カゴに戻し、布を掛け、自室のベッドに戻る。そして再び深い眠
りにつく。その竜児の指は、甘酸っぱい妖艶な匂いが染み付いていた、かもしれない。

 いったいどこまでが現実で、どこまでが虚構なのか……
もしかしたらあったかもしれないし、なかったかもしれない、初夏のファンタジー。

そして朝に、なる。

***

「おはよー竜児! 爽やかな曇り空ねっ!」
「おうっ、大河、ずいぶんご機嫌……えっ!」
 竜児は慄き、思わず仰け反った。大河に背後霊が取り憑いて……いるように見えたからだ。

「おはよう、高須くん……昨日はありがとう」
 そのスピリチュアルな人影は、亜美であった。いつものキラキラ無駄に輝いている彼女が、
まるで今日の曇天のように暗く、妙にげっそりと、疲れ果てたようにやつれて見えるのだ。
「川嶋……大河のマンションに泊まったのか……なんか……お疲れのようで……」
「……そう見える……? きっと、昨日の疲れが抜けなかったんだ」
 はあ、と彼女らしくない素の表情で情けない息をつき、憂鬱そうに眉間に皺を寄せ、トボ
トボと歩き出した。対照的に大河はプレゼントをもらった子供のように興奮気味で、上機嫌。

「昨日は、最高に盛り上がったわ! ね、ばかちー!」
「……あんたはいいわよ、いつの間にかグーグー寝てるし……外に放り出すって脅されて……
 真夜中まで……物まねメドレー・百五十連発……亜美ちゃん精神汚染で眠れなかったわ……」
「……惨い……!」
 やはり昨晩、大河のエンジェル振りに違和感を感じたことは正しかったのだ。現在進行中で
ご機嫌の大河を見て、竜児はゾクゾクと心が冷える。しかし大河は、亜美に言い返した。

「ばかちー、人のこと悪者にすんな! なんだかんだ言って百発目くらいから、あんたも一緒
にネタ考えたでしょーが! しかも、わたしが寝てるベッドの中に潜り込んできたじゃない。
朝起きた時驚いたわよ。ウザいったらありゃしない。ウザさを通り越して、殺そうとさえ思ったわ」
 売り言葉に買い言葉。大河を睨みつける亜美はブラック化していく。

「ちょっと誤解されるような言い方しないでよ! あんな広いベッドだし、あんた隅っこに寝て
たじゃん? あ〜、わかった。あんた、わたしのこと誘ってたのね? 一緒に寝たかったんだ。
わかる。だって亜美ちゃん、こ〜んなに可愛いんだもん。あ〜わたしもわたしと、寝てみたいな〜」

「はぁ? ばばばかちー、いくらバカだからって何言っちゃてくれてんの? あんたこそわたし
が寝てる間、何もしなかったでしょうね? そういえば百二十発目くらいから、わたしの事、
とろ〜んとしたイヤラシい眼で……あれって乙女のピンチ? うっわー油断も隙もないっ。ゲーッ!」

「ゲーッは、こっちだっつーの! 朝起きた時に、抱きついていたのは誰よ? 叩いても寝ぼけ
てなかなか起きねーし、わたしから離れねーし! 初めてベッドで一緒に朝を迎えたのがあんた
だなんて、キモくて記憶からデリートしたんだから思い出させんなっつーの!!」

 何やら聞いちゃマズいような内容の言い争いになってきた。まるで痴話喧嘩のようだ。という
か、心無しか亜美が元気になってきたように見える。

「……お前たち、なに急に漫才始めてんだよ。そうとう恥ずかしいぞ……」
 そうツッコんだ途端、ふたりの冷たい視線を一身に集め、竜児は凍り付く。

「よく口が裂けないわね。人の事言えるの? あんた昨日、最っ高ーに、恥ずかしい状況で告白し
たんでしょうが。昨日、みのりんからメール着て、知ってんだからね……再確認するけど竜児。
もしみのりん泣かしたら、捻り潰して、家畜のエサにして、肥料にして、畑耕してやるわ」

「満員電車で告白? うわっ、はっずかし〜のっ! 超バカップルじゃん。有り得なくね? もしか
してそういうプレイなの? そういう娯楽? 拷問?……まっ亜美ちゃん、どーでもいいけどっ」

 竜児は30cm下方と、ほぼ真正面からの二方向から罵詈雑言を浴びてしまう。他人からどうの
こうの言われることに慣れていたはずの竜児だったが、毒舌女の奇跡のタッグ攻撃。竜児は更に凍りつく。

そして、竜児が凍死する寸前。3人はいつもの交差点に辿り着いた。そこには、竜児の愛しい彼女
さま、実乃梨が待っていた。竜児は一気に氷塊、ヒートアップ。死を免れる。

「やっほーい! 皆の衆お揃いで! 今日も元気に、オーハー!」
おはガール化した実乃梨は、胸元で作った2つのオッケーマークを、ピシッと開いて前に突き出す。
「おっはー! みのり〜ん! みのりんが、誰と付き合ったとしても、大っ好きだ〜」
「うおおっ、大河っ。みのりんも大河、大っっ好きだぜ〜」
大河は実乃梨にガバッと飛びつき、顔面をモフモフ擦り付ける。クンクンしている……。
「朝っぱらから暑っ苦しいな! 他所でやってくんない!? ちょっと高須くん。あんな風に、
 実乃梨ちゃんと人前で抱き合ったりしないでよね〜。ってか、変質者で警察に通報されるから」
「そ、そんなことしねえよ!……川嶋!……おまえって……黒いよな」
 からかわれる竜児。亜美には口喧嘩では太刀打ち出来ない。それが、精一杯の反撃だった。

「な〜にそれ〜? あんたたちが、このメンツで気を遣ってもしょうがねえって言ったんじゃない。
 教室に着いたらビシッと、カワイイ、良い娘の亜美ちゃんで決めるわよ。プロだもの。ヘマしな
 いわ。そうだ高須くん、教室で話し掛けてこないでね。同類と思われるちゃうから!」
 うなだれる竜児。ふっふーんっと完全復活した亜美。その傍らで大河と熱い抱擁を交わしてい
た実乃梨は、思い出したかのようにスチャッと、亜美に敬礼する。
「あーみん先生! 今日も可愛らしいでありますっ! オ〜モーレツ〜!!」
「あらぁ〜、実乃梨ちゃんったら、うふっ、正直ね〜っ!! そ〜だ、実乃梨ちゃん! 高須くん
 と、お付き合い始めたんだって? やったじゃん! おめでと〜! 亜美ちゃん、うらやまし〜」
「独り身で寂しいばかちー。あんたにプレゼントあんのよ。今日の放課後、町内掃除大会に参加
 させてやる。もうエントリーしてあるからね。ちなみに行かないとサボりとみなされて課外活
 動から減点になるから。お礼は結構よ」
「なにそれ! 聞いてねーし! 勝手に人のスケジュール決めてんじゃねえよ!」
「北村くんの提案よ。もしかしたら素敵なロマンスがあるかもしれないじゃない……ないけどプッ」

 亜美は、大河とビシビシ、ローキックの応酬を繰り広げる。まさか本当にロマンスが訪れるとは
知らずに。

***

 終礼直後の教室。北村と大河は並んで教壇に立ち、クラスメートに呼び掛ける。
「みんな! 本日これより、毎月恒例・生徒会主催ボランティア町内清掃大会が行われることは、
 ご存知かと思う! 実は今回、主力である三年生が明日校内模試を控えているため、参加者が
 非常に少ない! みなさん、お誘い合わせの上、ぜひぜひご参加いただきたい!」 
 大きく、クリアな北村の声に、帰り支度を始めた奴らがピタリと止まり、耳を傾けてくれたの
だが、すぐさま聞かなかったことにして帰り支度を再開させる。北村の隣にちょこんっと突っ立
ていた大河であったが、誰も参加しないのは仕方ないと思うつつも、あまりの見事なスルーぶり
に、一喝しようと息を吸ったその時だった。右手を高く挙げて、にっこり笑顔の天使が降臨する。

「あたしこれ、参加する! 転校してきたばっかりだし、学校の行事に早く慣れたくて!」
 あくまで自らの意志で参加したと主張する亜美。なんの得にもならない無料奉仕を買って出る
亜美の姿に、教室中から、わあっと感嘆の声が湧きだした。『亜美ちゃん偉〜いっ!なんでそん
なにいい娘なの?』『すっごぉぉいカワイイのに亜美ちゃんはいい娘すぎるよお〜!』『以下同
文〜!』亜美を中心に人の輪ができ、てへ♪と、恥じる亜美に「カワイ━━━ぃっ」と大合唱。

 そんな天使の笑顔に釣られたアホが、学ランの下に無理矢理着込んだフリースのパーカー揺ら
し、ピシーっと右手をまっすぐ挙げ、宣言した。
「んは〜〜いッ☆亜美タンがやるなら、俺もボ━━ランティアやる〜〜」
「え? 春田、もしかしてヤケになってないか? で、ボ━━って伸ばす必要なくね?」
 友達のあまりにストレートな行動に驚く能登。ちなみに能登と春田は昨日の一年生女子とのお
見合いで、散々おごらされた挙句、『ごちそうさまー!』の一言で結局メルアドさえも教えても
らえなかったと言う……亜美の色香に誘われた春田に、竜児はそんないいモンじゃないと、本気
のアドバイスしてやろうとしたその瞬間。チョチョイ、と学ランの背中をつつかれる。そこには
竜児の彼女1日目の実乃梨が立っていた。その手には鞄とジャージ。なんとなく申し訳なさそ
うに頭を掻いている。
「あのさ〜竜児くん、実は今回、女子ソフト部に強制参加の順番回ってきちゃってさ……部長の
私がやらされることになってさー。今日は一緒に帰れないかも……あのっ、そのっ、いやっ、わ
たしは、竜児くんと一緒に帰りたいんだけれども……ええっと、……いっかな?」
 実乃梨は竜児をキュン死させるつもりなのか? 竜児の心は実乃梨に燦々に照らされ体温上昇、
恍惚となる竜児は即答する。
「俺も、参加するかな……夕飯は昨日の鮭の残りがあるし、泰子にはメールしておけばいいか」
「え? 本当? そうなの? 嬉しい!! いやー、竜児くんは偉いよっ、感動した!」
 実乃梨は、真っ赤にのぼせてしまいそうな頬を向け、竜児を見つめている。可愛い。デレデレ
しているふたりを、教壇からニヤニヤ見下ろしている北村が、パシン! と手を叩き、

「よし、お前達待っているぞ。ジャージに着替えて校門前に集合だ! いやぁ、我が2ーCから
 は、俺含めて6人か! ズバリ素晴しいっ。じゃあ、逢坂、生徒会室に行こう」
「うんっ。じゃあ、みのり〜んっ、あとでね」
 大河は実乃梨に手を振り、北村の後を追い教室を出て生徒会室へ向う。
「んじゃ〜、あーみん、一緒に着替えにいこ! 迷わず行けよ、行けばわかるさ!」
「うん、実乃梨ちゃん。いこっ、高須くんと春田くんもっ、頑張ろうねっ!」
 るんるん♪っと実乃梨は亜美と一緒には女子更衣室へと向かっていく。亜美は本当は掃除なん
てイヤでイヤで堪らないだろうに。さすが女優の娘……そう変に感心しながら見送る竜児の隣に、
亜美に肩を叩かれただけで、ホワホワと鼻の下を伸ばしている盟友、春田がいた。苦笑する竜児。
「春田、マジでやんのか? まあ、もうやるしかねえんだが。わかりやすい奴……」
「イェッ! 高っちゃんっ! そーだ、なんだっけ? ボ━━は? 高っちゃん棒使うの?」
「高須棒だ。使わねえよ。てか、高っちゃん棒って変だろ。正直どっちでもいいがな……いくぞ」
 イエース☆バキュ〜ンと、ピストルを撃つマネをする春田。竜児は撃たれたこめかみを押える。

***

『ぅおーし野郎ども! 覚悟はできてるんだろうなあ! 今月も恒例の町内清掃活動を行う。
 サボる野郎がいたら承知しねえぞコノヤロー!根性据えて行くぞてめえらあ!』
 朝から一向に快方に向かわない曇天の下。薄暗い大橋高校校門前では、一段高いところでがな
りたてる生徒会長すみれをを見上げ、覇気の感じられない20人ほどの生徒が集合していた。
「今日も胸に染みるお言葉です。さすが会長!」
 副会長の北村はパチパチと拍手する。つられてか細い拍手をする数人……帰宅の途につく幸せ
な生徒たちはだらだらと歩きながら、またやってるよ、とおもしろそうにこちらを見ている。

「へえ……この人が、噂の生徒会長なんだ……」
「噂?」
「祐作が前にちょっと言ってたんだ。すばらしい先輩がいるから、生徒会に入ることにしたって」
 竜児の傍らで声を潜める亜美は、ギャップのすごすぎる兄貴の姿から目が離せないようだ。す
みれは、拡声器の音量を調整し直し、熱血スピーチを続ける。
『軍手ははめたかー! ゴミ袋は持ったかー! 清掃範囲の確認は済んだかー! 気合入れろぃ!』
漢、の一字を魂に刻む、統率力抜群の女将軍……いや、もっと端的に、兄貴か親方。
「うおおおおおお━━━━っ!」
『うるせ━━━━っ! ……というわけで、学校外の人々にだらしない姿見せるなよ。おめえら
 のボランティア精神を世間様に曝け出してやれ! これより一時間! 集合時間には絶対に遅   
 れるなよ! 全員揃うまでは解散せんからな! よし、逢坂! 笛!』
ピッ、ピッ、大河は上手く吹けない……見兼ねた北村がホイッスルを代わりに手に取りピーッと
吹く。その音と共に、二十数名の生徒たちがぞろぞろと校門から外の世界へ、ゴミを求めて繰り
出す。大河は暫く、北村が口を付けたホイッスルを見つめていた。

「手乗りタイガー……あの娘、やっぱ、まるおのこと……」
その姿を、遠巻きにガン見している瞑らな瞳が一人分。栗色の髪が風に揺れていた。
「あれー? 木原、何してんの?」
威嚇するネコのように、その栗色の髪が逆立つほどビックリする麻耶。振り向くと、眼鏡がキラリ。
「なんだ、能登かよ! ちょっと、ビ、ビビらせないでくれる?」
「な、なによそれ? 聞いただけじゃん。……ヒマならCD屋いかね? ったく、春田のやろー
 が約束してたのにブッチギられちゃってさ〜。ヒマなの?」
「あたしが春田くんの代わり? てか、なんで能登と、一緒に行かなきゃなんね〜のよ?」
「たまたま誘っただけじゃん!!  いーよ別に。ひとりで行くし。じゃ〜ねっ」

能登からプイッと首を振ると、麻耶の正面に大和撫子の姿をした日本男児がドンッと立っていた。
「なんだてめえらは。ヒマそうだなぁ……ここに軍手とゴミ袋がある。手伝わねえか?」
ズイッと、軍手、ゴミ袋、掃除範囲表と、掃除の三種の神器を突き出すすみれ。麻耶は全力で否定。
「え? 兄……狩野先輩! ヒヒヒマじゃないです! こいつとCD買いに行くんです! いくよ!」
「はあ? ちょっ、木原!! ひっぱるなよおっ! ひとりで歩けるってぇぇ!!」
そんなきっかけで、能登と木原の不思議な関係はスタートしたのだった。

***

「ノー!」
 学校の壁際に古雑誌を見つけ屈んだ竜児に叱咤。振り返ると、険しい顔で背後に立っているの
は実乃梨。チッチッチ、と人差し指を振って見せ、
「ノーよ、竜児くん。学校の周りは三年生の縄張りなの。私ら下級生は面倒なとこまで遠征する、
 それが伝統なんだよ。さあ、二年坊主はもうちょっと歩こ」
今度はクルリとにっこり笑顔を見せる。実乃梨の笑顔は太陽のよう、眩くて輝かしくてまっすぐ
で、竜児はうっとりと見入ってしまう。両頬のえくぼもちょっと陽に焼けた鼻の頭も、健康的で
本当に素敵だ。この明るさに惹かれているのだと、今、改めて竜児は思った。
 新緑の木立の下をゆったりした速度でそぞろ歩いている。前後にいる揃いのジャージの有象無
象を見なかったことにしてしまえば、完全にデートの光景だろう。

 そんな二人の様子を見てなにか感じたのか、春田は「ねえねえ」と亜美に問いかけてくる。
「亜美ちゃんさ〜、高っちゃんっと櫛枝って、けっこ〜、イ〜感じなんじゃないかな〜? 
 な〜んか見てると、幸せハッピー♪ ホルモンむんむ〜ん♪ って感じでさ〜☆ヒョ〜!」
 コントみたいな、よくわからない動きをする春田。自分を抱きしめたり、天に向かってキスし
たり。あまりのアホさに亜美は、あははっと笑い、ひそかに思う。本物だ。もちろん『天然』。
「どうなんだろ〜ねえ、春田くんっ。直接本人達に聞いてみたら?」
「亜美ちゃん、あったま良い〜!! おっほ〜い! 高っちゃわぁ! んむごぉぉっ!」
 脳ミソ直結の素直に過ぎる春田の行動を、亜美が慌てて手で口を塞いで制した。
「何だ春田呼んだか? あれ? 何絡み合ってるんだ、お前ら……」
「なんでもないわ! そうだ春田くん、土手の方行ってみようか。あそこも掃除の範囲だったし!」
 眩い天使の笑顔で春田を見上げ、しなやかな手で、春田の指を捉まえる。生まれて初めて女子、
しかも超美少女と手を繋いでもらい、カーっと春田の顔面が血色に染まる。
「うひょ〜っ! 亜美ちゃんとなら土手でも、トランシルバニアでも、水星でも、第3新東京市
 でもどこでもついて行く〜! れっつ☆ごー!」
身長の高い二人は、まるで映画のワンシーンのように、小走りで土手へ向うのであった。

***

 んっててれってれ〜!
 んっててれってれ〜!
 ♯は・は・はるたの大ハッピ〜! 亜美ちゃんといっしょにおそ〜じだ〜! とっても美人で
カワイイな! とって〜もドキドキしちゃうんだ! とって〜もドキドキし・ちゃ・う・ん・だ〜
っててれってれ〜! んててれってれ〜!(♯からループ)
「もう春田くんったら! おもしろ〜い! ねえ、今度はあっち行こうよ」
「は〜い! イクイクゥ〜!」
 ビシッと、Vサイン。ここは町の境を流れる一級河川。土手の上の遊歩道でゴミ探しをしてい
た春田と亜美だったが、めぼしいゴミがなかったので、向こう岸へ渡ろうと橋へ向った。
「くはーっ! でもキンチョーするっ! 女子とこうやって二人で歩くのって、初めてだし!
 しかも亜美ちゃんとだなんて、いいのかなーって……あれ? これって、死亡フラグ?」
「そうなんだ〜、でも春田くん、モテそうじゃない?」
「さすが亜美ちゃん見る目あるな〜! でもそれがさ〜、そうでもないんだよね〜……前にさ〜、
 お〜いって俺の方向いて叫ぶ女子がいてさ〜、え〜?ナニナニ〜って、その女子に近づいたら、
 俺じゃなくって、俺の後ろにいた奴呼んでて、超〜恥かいたりさ、あと、部活で校庭ランニン
 グしていたらさ、俺の方向いて、手を振っている女子がいるから、またまた何〜ってその女子
 に近づいたら、窓吹いてただけだったんだよね〜! ハルタの憂鬱って感じ〜☆」
「やだ〜っ、春田くんったら! おもしろ〜い! でもそれってぇ。もしかしたら長髪だからじ
 ゃないかな? ほら、一般的にロン毛って、軽薄そうに見えるじゃない? 春田くんなんで髪
 の毛伸ばしてるのかな?」
髪先をクルクル指に巻き付け、以外だが、的確な指摘にホエ〜っとする春田。
「だってさ〜、ロン毛って、クラスに1人くらい必要じゃん? キャラ的に? 成分的に? 
 ……んーっ、いや〜、本当はぁ、俺……男のくせに体毛が薄くってさ〜。頭髪くらい長くした
 いな〜、なん〜て、思ってたりして……あ、ねえ、毛って言えば、そういえば俺んちナイソー
 屋なんだけど、ペンキ塗るのにハケいるじゃん。漢字で刷毛。この前、剛毛と間違えてさ〜。
 ゴーモー☆親父に息子としてど〜よ? って怒られちゃったんだよね〜。アハハハハハ」
「……でも、あんまりモジャモジャよりいいんじゃないかな? お手入れ楽だし。おほほ……ほ!」
 亜美の笑い声が、唐突に止んだ。まるで魔法でもかけられたみたいに。硬化した亜美の視線は
春田を通り過ぎてその背後に向けられ、その表情はまさしく石像のようになっていく。

「ど〜したの亜美ちゃん!? ……ちょっと〜、お〜い!!」
 春田の声に答えもせず、亜美は橋へ向わず、突然土手から、川岸へと降りていく。亜美は止め
るのも聞かず、生い茂る草むらに身を隠すように身体を屈めて小走り、どんどん離れて行ってし
まう。わけがわからないが追いかけないわけにもいかず、
「待ってよ〜!亜美ちゃ〜ん、プリィ〜〜ズ」
 春田も川岸へ走り降りる。そして亜美が飛び込んだボロ駐輪スペースの中に駆け込む。一応ト
タンの屋根はついているが、ほとんど吹きさらしと変わらないうえに座るところもなく、傍らに
は錆びた自転車が雑然と積み上げられているありさまだ。
「亜美ちゃん、なんでこんなところに? どうせならもっとウヒヒなところに……」
「しっ!」
「ふがっ!」
 冷たい手が春田の首筋に伸びた。その冷たさと、至近距離の亜美の香りに春田は声も出ない、
息もできない。そのまま体重をかけるように、亜美は春田にしがみつくのだ。そして押し倒す
勢いで荒っぽく、その場にもつれ込むようにしゃがみ込まされてしまう。
「お……っ、ちょ……っ、……俺っ、勃っ」
「……しー、だってば!」
 ぴったり触れた身体は異様なほどむにゅむにゅと柔らかく、しかし儚いほどにほっそりとし
て、くっつきあった皮膚の部分からじわりと溶けて混ざっていってしまいそうなほどに亜美の
肌はなめらかだ。
「……しばらくここで、こうやって……隠れてて……」
 わずかにかすれた囁き声。そして亜美は身体を小さく丸めてしゃがみ、春田の身体を盾にす
るようにその胸の中にすっぽりと納まってしまう。
「な、な、な、……何事?……」
「……あそこ……」
 か細い声で囁いて、亜美は小さく指差して見せる。
「……え? 誰、なの?……」
 元いた橋の上に、無表情な男が辺りを見回している。学生風の一見普通な佇まいの男だった
が、手にしている重厚なデジタル一眼レフ。異様さを際立たせている。
「なんか、変態っぽい感じ?。なんで亜美ちゃんを追いかけ……ハッ!」
ピコ〜ン☆その男の生理的気持ちの悪さに、春田は状況を理解する。奇跡だ。亜美は、排泄物に例えた。
「……くそっ」
「あのさ〜、亜美ちゃん……あいつ、ストーカー……なんだよね? 多分」

「うん……結構ヤバい奴、なの……あいつ……学校で待ち伏せして、つけてきてたんだ……春
 田くん、私たちのことあいつが諦めて行っちゃうまで、ここに隠れてよ」
 男の春田でさえ不気味なのだから、ターゲットになっている亜美の恐怖は計り知れない。思
わず亜美を抱えた腕に力がこもり、名残り惜しいが、亜美の体から離れ、春田は立ち上がる。

「ねえ亜美ちゃん。俺、ストーカーくん、ぶっとばしてくる。俺、亜美ちゃん超LOVEだけど、
 困らせるなんて、ちょっと有り得ないってか、まあ、そういう訳で、春田緊急出動しま〜す」
「ええ? なっ……ちょっ……春田くん! 危ないよ! 止めて!」
突然降り始めたゲリラ雨。濡れた春田のアホ面が、一瞬キッと引き締まる。その顔を見た亜美の
胸が、認めたくないが、一度だけドキッと高鳴った。そして、
「違うよ、亜美ちゃ〜ん。危ないのは、ストーカーくんなんだよ〜☆」

橋の中央に移動したストーカーは、傘をさし、川原辺りをカメラでキョロキョロしていた。
「ど〜も〜、ストーカーく〜ん」
声を掛けられたストーカーは、ファインダーから目を離す。
「なんだお前? 亜美ちゃんの彼氏……な訳ないか、アホっぽいし……死にたくなかったら失せろ」
チャキンっと、鋭い抜刀音。ナイフだ。
「な〜にそれ? 危なくね?」
へら、と春田は笑ってみせる。女には弱いが、男には強気な春田は、ストーカーが構えているナイ
フの刃先が震えているのを見逃さない。ゆっくり、距離を詰めていく。
「ち、近づくな!! こ、怖いくせに」
「別っに〜? 俺、亜美ちゃんの為なら死ねるも〜ん!」
イーッだっ! と、ストーカーにイーッする春田。そこに雨の中飛び出して来た亜美。
「ちょっと何言って……キャッ、ナイフ! やめて春田くん! 危ないから相手にしないで!」
「死ねるだと? 嘘つけ! じゃあ、じゃあここから川に飛び込んでみろ! そしたら諦めてやる!」
「え? マジ? いーよ」
春田は橋の欄干を身軽にヒョイっと跳び越え、それくらい何ともない〜って感じで川へダイブした。

「うわあああっつ!! ちょっち後悔☆」
ガキのときはよく飛び込んでいたが、なんせ10年振り。思ったより長い滞空時間と、バランスを
崩し、頭が下向いてしまった。この川は浅いのだ。このまま着水すると非常に危険だ。で、

バッシャン!!
「春田くん!」
欄干に飛びつき、川を覗き込む亜美。着水した春田は、犬神家の一族のように、水面から足が突き
出ている。非常に最悪なダイビングフォーム。間違いなく頭を強打している。
「ちょっと、あんた!! ケータイ持ってるなら救急車呼んで! 呼べって!」
ストーカーは震えながらも、ケータイで緊急事態の春田を撮影する。
「てんめぇぇぇっ! 何やってんだ! 死んじまうだろーがっ! 早く!!」
亜美はストーカーを突っぱね、ケータイを奪おうとする。ストーカーはケータイを離さなかったが。
「痛いっ! 親父にも殴られた事ないのにぃ……お、俺、関係ないから! 勝手に飛び込んだんだ!
 俺、悪くない、知らない! っていうか、あ亜美ちゃん怖え! 萎え萎えだよぉ! 性格悪すぎ
 るよおっ! 天使なんかじゃないっ! 嘘つきだ! 鬼だっ!……うわああああっー!」
 ストーカーは言いたい事を言って、一目散に逃げてしまった。酷え! と、吐き捨て、ストーカ
ー追跡を諦め、再び亜美は欄から川面を覗く。春田の状況は変わらない。まさか……死……
「春田くん! 待ってて!」
 亜美は、脚が絡まりそうになるくらい走り、橋の下、河原まで降り立つ。迷いはない。お世辞に
もキレイではない川に飛び込み、叫びながら、濁った水の中を飛沫を蹴上げて進んでいく。すぐに
スニーカーは靴下ごと泥に取られて、裸足になってしまう。バシャバシャ水柱を立て、春田の両
足に辿り着いた。
「このぉっ! ええいっ!」
 ズボッと川底から引っこ抜いた春田の口から、ピューっと噴水のように水が流れ出る。思いっき
りペシペシ頬を引っ叩いても反応がない。泳ぎに自信がある亜美だったが、着衣で人を抱えて泳ぐ
のは初めて。それでもなんとか岸辺まで漕ぎ付け、自分でも驚くほどの力で、陸の上に担ぎ上げた。
「ぐほおっ!」
 反応があった。春田は生きている。良かった。しかし息をしていない。顔に付着した泥を拭って
やり、亜美は、決断する。自分に言い聞かせる。
「……これはキスなんかじゃない。人工呼吸……人命救助」
 そう自分に言い聞かせるが、口が触れることには代わりはない。春田の体を横に向け、残りの水
を吐き出させ、鼻をつまみ、気道を確保させる。そして、亜美は、髪を掻き上げ、花びらのような
くちびるを、春田のくちびるに近付けていった。

「ありゃりゃりゃりゃん、大変、大変」
偶然、買い物に行く途中に、土手を歩いていた泰子が、亜美の春田救助現場を目撃する。

***

「うわ〜☆亜美ちゃんカワイ〜! さすがモデルさん、なんでも似合っちゃうんだ〜☆」
「泰子さん、ありがとうございます! 後でクリーニング出してお返ししますね?」
 高須家の風呂を借り、泰子の部屋で着替えた亜美。髪をアップして、泰子のラメ入りキ
ャミソールと、尻肉はみ出しそうな、す〜ぱ〜☆ホットパンツを装着。裸体よりエロい。
春田といえば、竜児のベッドで就寝中。ゲリラ雨は止んでいたが、タクシー呼んで、二人
掛かりで高須家に運びこんで、風呂場に直行。素っ裸にして、ゴシゴシ洗って、竜児のス
ウェットを着させて、ベッドに投げ込んだ。もちろん亜美は、お風呂は泰子に任せた。
「亜美ちゃ〜ん、やっちゃんお買い物の途中だったから、ちょっとだけお留守番い〜い?」
「わかりました、泰子さん! いってらっしゃい!」
 バタンっと、鉄製の重いドアの音が響き、その後に、高須家は静寂に包まれる。はあっと、
亜美は、畳に寝転んだ。さっきの事で、ストーカーは、もう付き纏うことはないだろう。ず
っと気になっていた不安が解消され、しばらく忘れていた安堵感が、心の中にじわり広がる。
「亜〜美〜たぁ〜ん……大丈夫くぁ〜?」
「はっ春田くん? 気がついた?」
 春田の声に飛び起き、竜児の部屋にいる春田に駆け寄る亜美。ベッドサイドに両膝を着く。
「ストーカーから、ぐか〜……おりぐわぁ〜、守りゅ〜……ぐかか〜☆」
 寝言かよ! しかも未だにストーカーから亜美を守ろうとしている。撃退できたことも知
らずに……いったい何処まで記憶があるんだろうか? 亜美はじ〜っと、春田の半開きの
くちびるを見た。ヨダレが垂れていて、見事にアホっぽい。残念ながら、亜美は、そこにく
ちびるを重ねたのだ。熱を測るように額に手をやる亜美。
「春田くんねえ……まあ、仕方ねーかっ」
 春田は、亜美の為に、ナイフを恐れず、体を張って川に飛び込んでくれた。死ぬかもし
れないのに、躊躇なく。結局亜美に助けられてしまうオチがついたが、おかげでストーカ
ーを撃退できた。マネージャーでも出来なかったことをしてくれた。そんなことされたら、

 普通の女の子は、そんなことされたら……

「それぐらいじゃあ、まだまだ……ねえ。でも、見直したよ、春田くんっ」
 亜美は、アホ面全開の春田の頬に、キスをした。

「大丈夫か、春田!って、おうっ!」
 よりによって、そのタイミングで、『春田くん死亡☆高須家』という説明不足甚だしいメ
ールを泰子から受信した竜児が、実乃梨を引き連れ帰宅してきてしまった……とっても気ま
ずい。見られるより見た方が恥ずかしい事もあるのだと、この時初めて知った竜児と実乃梨。
いったいどうすれば、何故こうなったんだ? コペルニクスにでも聞けば判るのだろうか……
「……見た?」
「見た……すまねえ……」
「亜美た〜ん、チュ〜……ぐか〜っ☆」
春田の寝言はそんな時でも絶好調だった。

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