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◆9VH6xuHQDo 2009/09/27(日) 21:07:38 ID:xCZhhHFD


……わたし……わたしは、竜児くんが……好きっ……
 おうっ……俺も好きだ。実乃梨……
真っ直ぐ見つめる竜児。視線を受け止める実乃梨の艶やかな笑顔。
……うれしいっ……竜児くん……でもさっ、これって竜児くんの夢なんでしょ? ……
 夢……たぶんそうなんだが……じゃあ実乃梨、寝ている俺を起こしてくれないか?
……え?起こす? どういう、んっ……
竜児は実乃梨を抱き寄せ、少々強引にキスをする。シャンプーの香りがくすぐったい。
唇で触れた実乃梨の唇。手を廻した実乃梨の腰。その柔らかい感触。
チュパッ
……んっっ……竜児、くん……こうすると、起きるの?……
 ああっ。そう、だな……もっと、したい……
囁きあうたび、唇が触れる距離。竜児は、軽いキスではとても満足できなくなり、
そのパッションに正直に、ねぶるようなキスをする。
……はあぁん……んっ! ……
息継ぎのため、一瞬開いた実乃梨の唇。その隙間に竜児は舌を侵入させた。
一瞬、実乃梨の体が震える。ヌメるような感触にびっくりするが、
拙いながらも舌を絡ませ、竜児の歯並びを確認するように動かしてきた。
チュ、チュ……唾液の混ざる小さな音が、抱き合うふたりには聴こえている。
……竜児、くん……
強烈なキスを終えた実乃梨の瞳は潤みを増し、竜児をぼんやりと見つめている。
ほんのり桜色に染まるその頬を、竜児は指先でその温かさを確かめ、
そして、その指先は、実乃梨の首筋、さらに乳房に降りてゆく。

……はぁっん……いや……ん、……
軽く抵抗する、かわいらしい声。しかし竜児は、その行為を止めない。
逆にエスカレートさせ、乳房を大きな手でもみしだく。そして問う。
 実乃梨、いや、なのか?
……そんなこと、ないんだけど……もぅっ……
いじわるな質問に実乃梨はうつむく。可愛い……竜児は単純にそう思う。
柔らかな弾力を悦しむ竜児の指は、実乃梨の衣服を剥がしにかかる。
着替えを手伝ってもらう子供のように、実乃梨は、竜児のなすがままに、白い肢体を晒していく。
引き締まっているが、女性らしいまるいラインを描いている。
竜児の視姦に感づき、実乃梨は両手で竜児の眼を隠す。
……竜児くん、エッチな顔してる……恥ずかしいぜっ……
 おうっ、わかった。俺も脱ぐから……
おもむろに衣服を脱ぐ。几帳面な竜児らしからぬ、乱雑な脱衣。
焦る竜児は、下着に足を引っ掛け、バランスを崩す。

……竜児くん危ないっ!……わああっ!……
竜児を支えようと抱き付いたが、その勢いに飲まれ、一緒に倒れてしまった。
その結果、裸の実乃梨は裸の竜児に、馬乗りの態勢になってしまう。
……だ、大丈夫?竜児くんっ……
竜児の後頭部をさすり、心配する実乃梨。
そんな心配をよそに竜児の視線は、さする度にプルプル揺れる乳房に釘付けだった。
……ひゃあぅ! ……あんっ……
竜児は、パン食い競争のように、乳房に食らいつく。目を閉じ、吸った。
実乃梨は、そのまま竜児の頭を抱え込み、乳白色の乳房に埋めてしまう。
その感触と、オンナ特有の臭いに、興奮する。
……あんっ……あはっ、もっと優しくっ、ん……
いつの間にか竜児は、実乃梨の桃尻を指が食い込むほど掴んでいた。
ムニュリとした尻が、どのくらい柔らかいのか、竜児は知りたかったからだ。



……竜児くんの……熱い……
極限まで膨張した竜児の本体が、接触している実乃梨のムッチリした太腿を焦がす。
竜児は、尻を揉みながら、本体を擦り付けていたのだ。乳房を吸う竜児は返事をしなかった。
……りゅ、竜児くん……その、当たってる……んあんっ! ……
竜児は、少しポジションをずらし、本体を実乃梨の股ぐらに通す。いわゆる素股だ。
お互い上下に腰を動かす。滴る実乃梨の粘液で、グッチュ、グッチュ、と、錬るような音が聴こえる。
快楽に、実乃梨は溜らず声をあげたかったのだが、激しくキスをする竜児の唇に蓋をされていた。
 実乃梨っ……好きだっ
抱き上げ、上体を入れ替え、今度は竜児が実乃梨に覆いかぶさる。
そして、両手、両指を絡ませ、実乃梨を大の字に押さえつけた。襲っているようにもみえる。
 実乃梨……お前が欲しい
……竜児くん……わたしを、あげる……
竜児の願いを汲んだ実乃梨。その表情から、大人の片鱗を垣間見え、竜児は胸がドキッとする。
それからふたりは、淫靡な息遣いだけでお互いを理解し始める。
竜児は、実乃梨のピンク色の割れ目に本体をあてがった。
ずぢゅ、と海綿が滑る音がして、ずぶずぶと本体を飲み込ませていく。
……はぅ……あ、竜児くんが……わかる……
 痛く、ないか?
……平気……ちょっと、んっ……大っき、けど……
竜児を受け入れる実乃梨。そんな彼女を、どうしようもなく愛しく想う。
……動いて、いいよ……
 おぅ……はくぁっ! 実乃梨っ……
軽く揺さぶるだけで、ぎゅんっと締め付ける膣壁。快感で感覚がビリビリした。
……ぁはっ、はあっん、んっ、あぁぁああっんっ……
ペースが上がり、弾かれたように実乃梨の口から甘い吐息が飛び出る。
未知の刺激に惑わされ、竜児も悦に入り、息が荒い。
 はあっ、はあっ、好きだっ、実乃梨。好っきだ、はあっ
……うんっ、うんっ、はあっん、うれしいっ、あんっ……
ギュウっと、実乃梨は強くしがみつく。その強さは竜児への愛しさに比例していた。
形の良い実乃梨の乳房は押しつぶされるが、竜児はその肉感を感じると同時に、
溢れる愛情も感じとる。実乃梨が竜児にキス。いたる所にキス。柔らかい唇で。
 実乃梨……このままっ……
熱を帯びた表情でコクッと頷き、実乃梨は竜児の胴体に脚を絡ませた。
実はその時には既に、竜児は放出を始めていた。痙攣のたび、どっくり大量に。
……竜児くん……好きっ……
 実乃梨……俺も……

……じゃあ、……起きてっ……

「おうっ……起きちまったっ」
竜児が起きたのは、幸いにも自室のベッドの上。
それにしてもリアルな夢を見た……思わず自分の手のひらを見る竜児。汚れている。
ここ数日で、実乃梨との距離が縮まり、想像する材料が増えたからじゃないか、
……と竜児は自己分析する。
しかし先日、告白寸前までいった校舎の裏の件があってから、なんとなくお互い、
変に気を遣うようになってしまった。ここ数日、頓挫したままの状態が続いていた。

竜児は立ち上がり、段ボールの中から、実乃梨への想いを書き記したノートを取り出した。
新しいページを開けて、しばらく考えてから、シャーペンを走らせる。
スタート地点の、確認。

……高須竜児は、櫛枝実乃梨を、愛しています。世界中の誰よりも……

『愛』という言葉。その意味を本当に理解するのはまだ早いのかもしれない。
ただ、今初めてその言葉を書き記すことに躊躇いがなかった事に気付く、竜児であった。


***


明日から、大型連休。いわゆるゴールデンウィークが始まる。
夕暮れの校舎の屋上。やさしい色に包まれている町並みが見えた。
 ━━そこに年甲斐もなく、パステルカラーのケータイと睨めっこしている女が独り……
「勝負よねっ。決戦のゴールデンウィークっ……」
恋ヶ窪ゆり(29)は、気合入っていた。
元彼と別れてはや七年。七年といったら産まれた赤子が小学校に上がってしまうほど永い年月。
二十代最後。最後っぽい弾を装填。明日に決戦が迫っている。撃ち損じる訳にいかない。
結婚。その最後のチャンス━━ 沈みゆく太陽に、カラスが数羽横切る。
その鳴き声が、バカァー、バカァーに聞こえてしまったゆり。
そうよ、カラスさん。わたしはバカ。仕事バカ。ワーカホリックなの……
聖職に就いてから、わたしは仕事に生きてきた。結果的にそうなった訳だが。
そんなわたしを、励ましてくれているのだろう……カラスさん達は。
ゆりはそう、理解する。都合のいいように。

ビーッ、ビーッ、ビーッ
「あら? 誰かしら」
メールが着信……なんとなく嫌な予感がする。
ゆりは、こういう予感の的中率が残念ながら、高い。
恐る恐るケータイのフリップを開ける。
「まあ、逢坂くん(仮)からだわ。ふぅ、よかったわ〜」
もし、デートのキャンセルメールだったら、自分の身体ごと転送してやろうかと思ったゆり。
……本気だった。

逢坂くん(仮)は、ゆりがまだ新人、ギャル先生(22)だったころの教え子。
雰囲気、神経質で美形なところが、今の教え子、逢坂大河に似ている。だから逢坂くん(仮)。
結婚してからも、ちょくちょくメールをくれる彼は、昔からメール魔だった。添付ファイル付き。
どうせまた、妊娠中の奥さんのラブラブ写真だろう……一応、チェックするゆり。画像が開く。

「!!!!っ!! いいやあぁぁぁああっ!! なななんですかぁあっ!!」
激しく驚き、ゆりはケータイを投げ飛ばしてしまった。顔面を真っ赤にしてパニックに陥ってしまう。
それは、その訳は、ゆりが久しく見てない『物体』が画面いっぱいに表示されたからだ。
パステルカラーのケータイは、予想以上の飛距離をみせ、ヒューッと、屋上の柵を乗り越え、
……校舎の裏庭に落ちていった。
「たっ、たいへん!! 誰かいたら怪我しちゃうっ!」
教師らしい、もっともな心配をして、地味なパンプスをパタパタさせ、階段を駆け降りるゆり。
しかし心配すべきは、そのわいせつ画像が、他人の目に触れてしまう事だろう。
ケータイは、校舎裏の高須農場に落ちた。

「うおーっ! 竜児くん、大丈夫だった?」
「危なかった! スゲーびびった!! なんだこの落下物は? ……ケータイ?」
実乃梨と、高須農場でシソを植えていた竜児。
ひさしぶりの実乃梨とのツーショットだったが、いい感じなトコロを邪魔された感じになった。
畑に深く突き刺さってしまった、ゆりのケータイを掘り起こす。
柔らかい土の上に落ちて、どうやら壊れていないようだ。
「誰だよ、こんな危険な事するアウトローは! ……おおうっ!!」
アウトローが誰なのか確認しようと、ケータイを開けてしまった竜児。
三白眼に飛び込んだわいせつ画像に驚愕。大至急ケータイを閉じる。見たくなかった。他人のモノは。

「ねえ、今のって、サツマイモ?」
「おおうっ! 実乃梨! 見たのか?」
「なあに? 竜児くん。チラっとだけ見えたけど、サツマイモじゃないの?」
目をまん丸にする実乃梨。竜児が焦っている理由がわからないようだ。
「そっそうだなっ、サツマイモだな! サツマイモと……ヤマイモの画像だった!」
危く無垢な実乃梨の瞳に、わいせつでグロテスクな画像が映ってしまうところだった……
こんなヴァカ画像をぶちまけたアウトローに、一言、物申したくなる竜児。

「まだ屋上にいるな。ケータイ返して注意してくる。実乃梨、ちょっと待っててくれ!」
竜児は珍しく、イラッとし、屋上へ向かう。
それには、ささやかな実乃梨との二人きりのコミュニケーションを妨害された事もあったのだろう。

「生徒の鏡であるべき先生ともあろうお方が、階段を駆け降りるなんて駄目じゃないですか!
 恋ケ窪先生は人気もありますから、ただでさえ目立つというのにっ! ここを見て下さいっ」
ビシッと指を指す先に、男らしい立派な筆文字で、『走るな。生徒会』という張り紙がある。
「ごめんなさいね、北村くん。これにはね……深い事情があるのです。気をつけるから、
 苦情は後で聞きますから、その……急いでいるので、今は、見逃してくれませんか?」
階段の踊り場で、副会長の北村に注意されてしまっているゆり。うあ〜んっ! 泣きそうだ。
竜児は、その横をすり抜け、屋上の扉に辿り着く。バタン、勢いよく開けた扉。
屋上に吹く風の中にたたずむ人物。その人物を確認し、竜児は絶句。
「たっ、高須くん!? ……なんでそんなに怖い顔して……わたし何もしてないんだけど……」

ビビりまくってる木原麻耶。仲良い香椎奈々子が、日直の仕事の後、雑用を頼まれたらしく、
終わったら一緒に帰ろうと待ち合わせしていたところへ乱入してきた鬼般若顔。寿命が縮まった。
「いや……木原……まあいい。気をつけろよな、これ、返すから……ちなみに俺は何も見てない。
 安心しろ。じゃあな」
竜児は、混乱してしまったのと、激しく恥ずかしくなってしまい、
無理矢理麻耶にケータイを預け、実乃梨の待つ校舎の裏に戻って行った。

「なななっ……なによっヤンキー高須っ! ……意味わかんない……」
渡されたケータイを胸に、立ち尽くす麻耶。返すっても、わたしのじゃないのに……。
仕方なく、初めて他人のケータイを開く麻耶。血管の浮き出る物体が液晶に展開される。
「何これ? ……内臓?」
むかし親に連れていかれたモツ煮込み屋さんで見た事ある、ような……
うさぎのニガヨモギ煮……だっけ?
とりあえず、この不審物を誰かに押し付けたい。
遅くなっている奈々子にメールして、待ち合わせ場所を変える麻耶。屋上から移動する。

「……それでね?先生、結婚式の二次会に行ったの。当時はまだ先生も若かったのね。
 そこで教えてもらった電話番号にかけてみたのです。あ、北村くん、電話番号はですね、
 ナマモノだから、教えてもらったら、その日にかけなきゃダメですよ?そしたらね……」
いつの間にか、失恋談議に花が咲いてしまったゆり。怒濤のように言葉を吐き続ける。
北村は、話しかけた手前、抜け出せなくなっていた。口を挟む隙もない。

「ああ!まるおっ!あと、ゆりちゃん先生っ!あたし落し物拾っちゃったんですけど!」
「よう!木原!いいところに来たな!俺が預かろう!ケータイか!」
「えっ?まだ話の途中なっ……なっ、なっ……きぃゃあぁぁぁあっ! 木原さぁぁんっ!!
 それわたしのケータイ! あわわわ!みた? 見ちゃいましたか? ぃぃやああぁぁっ!!」
この世の終わりに直面したように暴走するゆり。頭を抱えフリフリして、涙目になっている。
ゆりにドン引きする麻耶。暴れているワニに、エサを与えるように、慎重にゆりに歩みよる。
「こ、これ、ゆりちゃん先生のケータイ? うさぎのニガヨモギ煮……はい、どうぞっ」
「あありがとうございますっ、うさぎ? そ、そうですね、先生、うさぎ好きなんですっああっ」
今更ケータイを後ろ手に隠すゆり。手遅れだったが、ピュアな教え子は勘違いしてくれたようだ。
「よく分からないが、一件落着ですね、いやあ良かった! 失礼します。木原、行こう!」
上手い事、ゆりから離脱できた北村は、木原の手を取り、この場を去る。
「えっ? あっ、まるお……手」
ちょっぴり良い事があった麻耶だったが、照れる間もなく、一階まで降りた時点で解放される。

「助かったぞ、木原!! 明日からのゴールデンウィーク楽しんでな! じゃあな!!」
北村は、そそくさといなくなってしまった。わたし……まるおに利用されたの?
……麻耶は、その背中に叫んだ。う〜っ、
「もうっ!」

 ━━その日の夜。
ゆりのケータイに、逢坂くん(仮)から間違って画像を送ってしまった謝罪メールが届いた。
デコレーションバリバリ。本当に反省しているのだろうか。
「はああぁぁぁあ……明日は明るい日と書くのよね……明日、明日こそは!!」
決起するゆり。今日は不幸だった。しかしゆりの不幸は、これからが本番なのであった。


***


ゴールデンウィーク最初の2日間にあった、ソフトボールの関東大会予選。
大橋高校は女子は見事優勝。6月の関東大会にコマを進めた。

そして、今日はゴールデンウィーク最終日。時計はランチタイムを少し過ぎている。

「あーらよっ! 出前一丁!」
バニラアイス大増量のヨーグルトパフェが、大河の目の前にドンッ!と置かれる。
「もうちっとでバイト上がるからよっ。大河、これでも食べて待ってておくれっ!」
ここは実乃梨のバイト先のファミリーレストラン。ウェイトレス姿の実乃梨が、
艶めくショートヘアーを上手くポニーテールにして、細いうなじを眩くさらしている。
ウエストを絞り、バストを強調しているミニエプロンフリフリのプリティーな制服。
竜児の恋心フィルターを通さなくても、充分可憐で、健康的な色気を感じる。お持ち帰りしたい。
「ありがと、みのりん! これ、バニラアイス特盛りじゃないっ! 店長に叱られない?」
「すげえなこれっ……実乃梨、あんまり無理すんなよ」
実乃梨をねぎらう竜児。今日バイトが終わったら、3人でこのまま祝賀会をする予定になっている。
「これっくらい大丈夫大丈夫っ。毎日試合観に来てくれたんだもん。これくらいさせてよっ。
 そうだっ、竜児くんは? ポテトフライはどうかな? 盛るぜ〜〜、超盛るぜ〜〜」
実乃梨はこぶしを握りしめ、竜児にズズズイッと、乗り出してくる。
「いや、俺はいい。とりあえずコーヒーあるし。あとで一緒に選ぼう」
じゃあ竜児くんも待ってておくれっ!おうっ実乃梨っ!という会話を目の前で聞いていた、大河。

「……ねえ、あんたたち、本当に付き合ってないの?なんか普通に、カップルじゃん」
実乃梨の後ろ姿を見ながら、竜児に質問。竜児はムセそうになり、コーヒーカップを置く。
「ゴホッ……俺と大河は同じ穴の狢だろ? だから分かると思うけど、確かに進展はしている。
 だからって急進させて、失敗して破壊したくないんだ。その、大事にしたいんだよ、判るよな?」
「ふうん。考え過ぎじゃない? ……はぁーっ……わたしも北村くんと、進展したいわっ。
 わたしの恋路を応援してくれる、心優しい誰かが、この世のどこかにいないのかしら?」
「……ちゃんと、協力しただろ? 俺だって、北村に電話したんだぞ?実乃梨からの情報で、
 連休の後半、二日ほど休みがあるはずって、聞きだしてだな…… まあ結局、生徒会と、
 家の都合で、全部予定が埋まってて、遊びにいけねえって、言われたけどな……」
もちろん連休前半は、北村も女子ソフトの応援に来ていた。しかし大河は北村に保留……されている。
大勢の中で会話したりは出来たが、二人きりになるとか、一緒に帰るとか、親睦を深める機会はなかった。
「フンッ。その言い訳、何回も聞いたわよ……はあっ、これ以上、障害が増えない事を願うわ」
その願いは数分後、儚くも崩壊するのだが、その対価として大河の想い人、北村が現れた。

「あれ?高須に逢坂じゃないか、奇遇だなあ!! そういえば、櫛枝がここでバイトしていたな。
 そうだ逢坂、せっかくだから紹介するよ。あれ、うちの両親。高須は三者面談の時に会ってるよな?」
「はっはじめまして、逢坂と申します。ごごご機嫌うるわしゅう」
あら、かわいい〜っ、あなたが逢坂さんね〜っ? どうもぉ高須くん、お母様お元気? と、
離れた所から頭を下げてくれる北村のご両親。竜児はペコリと会釈するのだが、一方の大河は、
突然のミート・ザ・ペアレンツ。動揺のあまり、左右に全身をクネクネ捩ってしまっている。

これはこれで、見ていて可愛らしい。和む。毒が無ければ普通に超美少女なのだ。大河は。

その時、店内のチャイムが鳴り、ウェイトレスに先導され、新しい客が入って来た。
子鹿の様なスラリとした細い身体、長い手脚。誰でも一発で分かる。『モデル』だ。
「おじ様、おば様おまたせっ。あれ?祐作は?」
その背後から聞こえた愛らしい声に北村が振り返る。この声の主を竜児は知っている。
「おお、亜美。ここだ。高須は一度会っているよな? 逢坂、紹介する。川嶋亜美。
 昔、俺んちと家が隣どうしだったんだ。亜美。この娘は逢坂大河。宜しくな」
「っ…はじめまして! 逢坂さんっ! それと高須くん、久しぶりっ。元気だった?
 この前抱きついちゃってゴメンね? あっ、余計な事言っちゃった? わたし天然で……」

一瞬、大河の事を値踏みした亜美。大河はその視線を見逃さなかった。
本当は内心、芸能人に会って浮かれていたが、一気に大河の機嫌が絶対零度まで醒める。
「川嶋さん初めまして。北村くんの幼馴染みなんですって?良かったわね。神様に感謝しなきゃね」
そう、謎のセリフを呟き、静かに大河は席に戻る。亜美は素っ気ない大河の態度に、
大河が自分に嫉妬したと判断する。嫉妬させようとしたのだが。
「亜美、戻ろう。なあ、高須と逢坂はまだここにいるだろ? 親父たち、
 メシだけ食ったら家に帰るって言っているから、その後でまた話そう」
「また後でね! 高須くんっ」

竜児は去っていくふたりを見送り、少々興奮気味に、大河に同意を求める。
「ほらっ大河! 本当に幼馴染みだっただろ? いやあ、芸能人なのに性格も良い。
 お前も少しは見習ったら……なんかお前、機嫌悪くないか?」
ゴクンと唾を飲み込む竜児。ご機嫌斜めの肉食獣は亜美に殺気を送っていたのだ。
姿が見えなくなり、牙を収める大河は、ソファの背もたれにドカッと体重を預けた。
「まあ……いいわ。相手にするのもくだらないか。あんた、Wだから教えてあげるわ。
 自分で自分の事、『天然』なんていう人間に、まともな奴なんかいないのよ」
得意げにそう言いながら、大河は髪をかきあげ、息をつく。
「なんだよWって……」
「Vが2つで、VV。だからW。本当にニブイわね。フン。もうどうでもいい」
「そんな、ナゾナゾみたいなの普通解らねえよ……あれ?北村どうした?」
一般高校生の北村が、光り輝く様なモデル美少女をともないUターンして戻ってきた。
「混んでいて、他の店に行こうとしたら、親父が友達来ているなら、こっちで食べてこいって」
「高須くんお待たせっ、一緒に食事しよ?」
北村の隣で、亜美は天使の微笑みを浮かべ、手を振っている。つい竜児も手を振り返してしまう。

「……ご機嫌だねえ……犬が尻尾を振っているみたいだねえ……」
大河の冷たい一言に、恥ずかしいモノを見られた気がして手を降ろす。

「ねえ、高須くんっ、隣座っていいかな? 詰めてっ、詰めてっ」
「ああ、別に……おうっ、まだ! おわっ!」
亜美は席を奥に詰めようとした竜児のヒザに座ってしまう。亜美の尻の感触がヒザに伝わる。
「あんっ、ごめんなさい!わたしったら、恥ずかしい……ホント……笑わないでね?」
「いいいやっ……全く問題ないです……問題ないですから……ヒザ。さすらなくても……」
「え〜、おもいっきり座っちゃったし……高須くぅん、重くなかった? 大丈夫?」
ここはキャバクラなのだろうか? と勘違いするほど竜児に密着する亜美。
亜美が、大河に嫌がらせする為にやっているのは明白で、大河も分かっていたのだが……

「川嶋亜美。竜児から離れろ。ライトNOW」
せっかく大好きな北村が隣に座っているというのに、大河は亜美に警告する。
大河は実乃梨が来る前に、ベタベタ発情女を竜児から引き離したいのだ。
亜美は、大物がヒットした釣り師のようにニヤリとする。
「え〜っ? 高須くん、いいよね〜っ! もしかしたら迷惑……なの?」
「亜美。高須はそう思っても言えない奴なんだ。なあ高須」
「……迷惑じゃねえけど……もう少し離れてくれ。その……近すぎる気がするんだが」
(この……クソガキっ)
北村の手前、唇だけ動かし、無言で亜美に侮蔑の言葉を吐く。竜児は読唇術で読み取る。
亜美も理解したが、一切無視。大河の隣を陣取る北村には分からなかったようだ。

「あーあ、家族サービスして疲れたな。悪い、ちょっとトイレ」
いつも通りにリラックスしている北村が、後の空気のことも考えずに席を立ってしまう。
「えっ、ちょっ……」
慌てて手を伸ばしかけるが、まさか行かないでくれ、とも言えなかった。
「おい、アホチワワ」
誰のことを言っているのか、竜児と亜美は、辺りをキョロキョロ見回す。
「チワワみたいに無駄にウルウルしてるあんたのことだ。誤解してるみたいだから教えてやる。
 こいつはわたしの彼氏じゃないし、あんたが暇つぶしに、くだらない遊びをしたいのはわかる。
 ただ、これ以上わたしの前で不愉快なことするな。竜児から撤退しろ。これは最後通牒だから。」
スプーンにとったバニラアイスを弾き飛ばす仕草をしながら、亜美に宣戦布告しようとする。
そんなかわいい攻撃だけで済む訳がない。大河の戦闘値を知らない亜美には、それは逆効果だった。
「きゃあっ、逢坂さん、こわ〜いっ。高須くぅ〜ん、助けて、お、ね、が、い」
さらに距離を詰める亜美。シャネルの匂いが理性を惑わす。もう無理だ。竜児も席を立つ。
「おうっ、なんか俺も便所っ、ええと便所はどっちだ?」
開戦直前のふたりを残して大丈夫だろうか、とはもちろん当然思うのだが……情けないことに、
亜美の妖力と、大河の圧力に、竜児の忍耐力が負けてしまった……
残した席の方を振り返えず、そそくさと男子便所へ向かう。戸口の前で北村は待ち伏せしていた。
「……よし。来たな。ちょっといいか。ちょっと……」
銀縁眼鏡を押し上げ、囁きかけてくる。そっと竜児を手招き、煙草の自販機の陰に隠れる。
「……おまえ、小便は?」
「出ない。まあまあ……とりあえず、屈め」
どうやら北村は本当に、竜児と話をするためだけにここにやってきたらしい。屈んだまま移動する。
「おい、どこに行くんだ。便所は? 席には戻らねえのかよ?」
「いいから。……黙ってろ」
トイレと逆方向、客席の方へ進んでいく。そして背を丸め、喫煙席と分ける壁に身を潜める。
その場所はちょうど大河と亜美が残された席の真後ろだ。二人の姿がばっちり見えている。
「……ちょっと、なに考えてんだおまえは、スケベな野郎だ」
北村が指を差したその先で、亜美はゆっくりと足を組み、腕をソファの背に放り出した。

「あんた……態度悪くない? あの目つきの悪い変なヤロー、本当に彼氏じゃねえの?
 そんなら亜美ちゃん、奪っちゃっていーい? あははははっ。全然いらねえけど」 
亜美は、甘ったるい声で口尻をわずかに歪め、命知らずにも、黙っている大河に尋ねる。
「……」
「てゆうかあの目つき、いまどきヤンキーなわけ? 彼氏じゃないにしても、
 よくあんなへッボいの、相手にできるよねえ〜。ちょっと尊敬しちゃう〜」
「……」
「ま、そうだよねえ〜、いまどきヤンキーって……ありえないにもほどがあるっていうか? 
 亜美ちゃん、あまりにもステージが違いすぎる相手にちょっと引いちゃうかもっていうか?」
亜美は小馬鹿にするように鼻を鳴らすと、大河に不躾な視線を向けた。
「ねえねえ、あんたって身長何センチ? 今気づいたんだけど、なんか縮尺おかしくない?」
「……」
「ふーん、そんなサイズの服、売ってる店あるんだあ。あ、子供服売り場?」

「━━というのが亜美の地の性格。甘ったれでわがままで横暴、典型的なわがままお姫様」
な訳なんだが……と言う親友の顔を見つめたまま、竜児はワナワナ震える。
「な、なんて性格が悪いんだ……こええよ! 悪魔が乗り移っているとしか思えねえ!」
「……だろ?」
これまでの人生で、あんな女子を見たことない。大河の性格の悪さが可愛く思える。
「亜美は……やや、人格に難があってなあ。どうでもいいって思う相手の前では、
 地の性格が出てしまう。まあ、そういう相手って、たいがいは同性なんだけど」
どうした手乗りタイガー。奴が北村の幼馴染だからって遠慮してるのか。そう納得しかけた瞬間。

パシンッ!!
ビンタと呼ばれる技を炸裂した。
「……っ」
頬をおさえて目を見開く亜美は、もはや言葉も出ないらしい。
「蚊、よ。蚊がいたの。あら、これ蝿だ」
瞬間的に牙を剥いた虎が薄く笑う。その口元から、ペロリと赤い舌が一瞬覗く。
「なっ、なっ、なんてことすんのよっ、あんた頭、どうかしてんじゃないの? 信じらんないっ、
 なによこれ最低、最低、最っっ低っっっ! だからこんなとこ、来たくなんかなかったのよっ!」
「チッ……っさいなあ……黙れ、アホチワワ」
鋭く吐き捨てられた侮蔑の言葉に、亜美の細い肩が、荒い呼吸に震え始める。
「……う、……うっ、うっ……」
ここまでだな……と呟いて立ち上がった北村に続き、竜児も席へ急ぎ足で戻った。そして、
「ゆ、ゆうさくぅぅぅ〜〜〜っ! ふえええ〜〜〜ん!」
泣きながら北村の胸に飛び込んだ。もう帰りたいと子供のように訴え、チワワ目で北村を見上げる。
「あーあーあーあー……なんで仲良くできないんだよおまえは。まったく……
 騒がしくして悪かったな、逢坂。高須も。俺、こいつ連れて帰るわ」
頭を下げ、北村は店中の注目をものともせず、そのまま亜美を引きずって退場。
「……嫌い、あの女!」
悔しげに呻く大河。大変なことになってしまった。が、その時竜児の耳に、福音が授けられる。
「あり? どしたの?大河、機嫌悪いじゃん。なにかあった?」
きょとん、と目を丸くしている実乃梨が現れた。
「……みのりんっ、違うの、なんでもないの! じゃあ、揃ったし、しゅる……祝賀会やろっ!
 みのりん、お昼食べるでしょ? わたし手洗ってくるから、先に竜児と決めててっ」
実乃梨は大河の背中を見送ってから、おもむろに竜児の方へ向き直る。
「竜児くん……あとで帰りに教えてくれる? あれは相当怒ってるねえ、おとなしい大河にしては」
「おっ、……おとなしい?」
少し大河への見解に誤差を感じる竜児だったが、祝賀会の後、家まで実乃梨を送迎出来る事が確定し、
素直に嬉しかった。

***

食事を終える頃には、実乃梨のミラクルトークのおかげで大河の機嫌は回復していた。
「じゃあここ以外に、しゃぶしゃぶ屋さんとカラオケ屋とコンビニでもバイトしてるの?
 十分働き過ぎだって。みのりん、そんなに稼いで、何か欲しいものでもあるの?」
「これでもセーブしているんだよ?時間あるもん、勤労しなきゃ」
「蘇る勤労……だな」
竜児が渾身のツッコミを入れる。実乃梨の目がキラリと光る。
「おおっ、松田優作……そうそう、勤労の夏、日本の夏なのだよ」
「……き、勤労怪奇ファイルだよな」
「王子できたかっ!うんうん、天使勤労区だよ。やるな竜児くんっ!」
「……竜児。あんたの言動、かなりみのりんに影響されてるわよ……」
と、そんな感じで、既に亜美の事は全く話題にならかったのだが、
次の日、第2ラウンドが始めるとは、北村以外誰も知る由もなかった……

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