最終更新: text_filing 2010年11月28日(日) 02:55:46履歴
256 アラサーの高須&櫛枝 sage 2010/11/06(土) 20:21:26 ID:lzCYBpoH
「おうっ?櫛枝!?」
残業明け。深夜のプラットフォーム。終電に乗りかかった鉛のように重い右脚を、俺は一歩後ろに引き摺り、乾いた唇を手で塞いだ。しかしそれは既に手遅れだったようだ。
「え?高っ、高須くんじゃんYO!」
思いの外、荒げてしまった声が、かき上げていた彼女の髪の下から覗く、小ぶりな耳に届いてしまったようだ。
マズイ。このタイミングで、一番出会ったらマズイ人物だった。しかし彼女は、そんな俺の胸中など知るよしもなく、屈託のない笑顔を咲かせ、振り向きざまに俺の方へ駆け寄ってくる。
そう、初めて恋した、あの頃と変わらない眩しい笑顔を。
「うおおっ高須くーん!ひっさしぶりではないかー!ぬははっ!一昨年の同窓会ぶりだよねえ?どうだい?お主は。元気にしてたかね?!」
パスっと、叩かれる肩。そして呆然としている俺の腕を、彼女は強引に引っ張る。
「おうわっ、ととっ!見ての通り、全然元気だって!だから、突然俺の腕を引っ張るんじゃねえよ!驚いちまうよ!」
動揺した。何故なら力強く引き寄せられた反動で、彼女の肩を思わず抱いてしまったからだ。鼻先にほんのり、フローラルの香りがした。
「おぅふっ!引っ張んなったって、高須く〜ん!危うく君、ドアに挟まれちまうトコだったって!挟まれたら痛えよ?危険が危ないってばよ!」
そう言って彼女は、俺のすぐアゴの下で、ピンク色の唇を震わす。そんな無邪気な表情に、邪気溢れる俺の心臓が締め付けられる。そして堪らず目を逸らした。
「そ、そうだな?助けてくれたのに文句言っちまって、すまねえ。でもまあ、お互い元気そうで何よりだよな?」
大急ぎで取り繕った、アルカイクスマイルは、目の前の彼女以外には、狂気の表情にしか見えなかったようだ。周囲の乗客達が、ザザッと後ずさりする中、彼女は安心したように鼻息をひとつ。
「そ☆だ☆ね!私もおかげさまで、ここんとこ忙しくて、みんなとマトモに連絡とってないから、丁度今、元気でやってっかな〜って考えてたトコなのだよ!っそーだ!ユアワイフ、大河はどうだい?仲良くしてるかね?」
彼女はそう訊いてきた。俺は自分の女房の名前を聴いた瞬間、眉を顰めてしまった。周囲の乗客は、さらに距離をとる。
「た、大河は。まあ、普通だ」
自分の唇に手を当て、そう呟くように動かした。ふと気付けば、アゴの下にある彼女の細い眉が、八の字に変わっていた。
「ヘーイ高須くん。キミは相変わらずウソが下手ですのう。思い切り顔に出ちまってるよ。ねえ。大河となんかあったの?」
本気の心配顔。それは俺のためか、女房のためか。
「あ、いや。今朝、ちょっとな。喧嘩したんだ。まあ、今朝だけの話じゃねえんだが」
そうだった。高校卒業して直ぐに結婚して、大学を出た後にガキが出来た。そして数年経ち、恋人から妻になった大河とは、まだ幼いガキの進路のことで、言い争いになった。教育ママというのは、遺伝するのか。
「へえ、そう。でもさっ!喧嘩するほど仲がイイって言うしね?長年付き添ってれば、そんなこともあらぁな!そだ!偶然にも再会したんだし、私、高須くんちに一緒に行くよ!明日休みでしょ?大河とも会いたいし!」
大きく手を広げ、彼女は願ってもない提案をしてくれた。変わらぬオーバーリアクションは、周囲の乗客が引いてくれていたおかげで、思う存分繰り広げられていた。そして俺は、心と裏腹、目を閉じ、首を横に振る。
「いや。俺も久しぶりに櫛枝との再会を祝って酒でも酌み交わしてえんだが、この時間ガキが寝てっからムリだ。大河に叱られちまう」
再び目を開けると、少し寂し気に揺れる、彼女のどんぐり眼が飛び込んできた。
「そっか〜、残念!でもそうだよね。私、結婚してないから、そういうの気が回らなくて。ゴメンなさい」
そう言って彼女は、瞬時に表情を明るく替えた。それを見て俺は、終電に乗る時に彼女を見つけ、ヤバいと感じた展開通りの妄想を口にしてしまう。
「いや、いいんだ。俺こそ、折角櫛枝の提案を断っちまって。すまねえ。そんなワケでウチはマズイんだ。だからさ」
一瞬悩んで口が止まる。だが、
「ん?なあに高須くん」
もう口が止まらない。その時は彼女、櫛枝実乃梨の手を俺、高須竜児は握っていた。
「次の駅で降りて、二人きりで呑まねえか?」
そこは大橋駅よりかなり手間の都内の駅。駅が近づき、電車が速度を緩める。居酒屋のネオンが車窓を流れる。そして、ラブホテルの看板が、目に映り込む。
以上妄想です。すいませんでした。
「おうっ?櫛枝!?」
残業明け。深夜のプラットフォーム。終電に乗りかかった鉛のように重い右脚を、俺は一歩後ろに引き摺り、乾いた唇を手で塞いだ。しかしそれは既に手遅れだったようだ。
「え?高っ、高須くんじゃんYO!」
思いの外、荒げてしまった声が、かき上げていた彼女の髪の下から覗く、小ぶりな耳に届いてしまったようだ。
マズイ。このタイミングで、一番出会ったらマズイ人物だった。しかし彼女は、そんな俺の胸中など知るよしもなく、屈託のない笑顔を咲かせ、振り向きざまに俺の方へ駆け寄ってくる。
そう、初めて恋した、あの頃と変わらない眩しい笑顔を。
「うおおっ高須くーん!ひっさしぶりではないかー!ぬははっ!一昨年の同窓会ぶりだよねえ?どうだい?お主は。元気にしてたかね?!」
パスっと、叩かれる肩。そして呆然としている俺の腕を、彼女は強引に引っ張る。
「おうわっ、ととっ!見ての通り、全然元気だって!だから、突然俺の腕を引っ張るんじゃねえよ!驚いちまうよ!」
動揺した。何故なら力強く引き寄せられた反動で、彼女の肩を思わず抱いてしまったからだ。鼻先にほんのり、フローラルの香りがした。
「おぅふっ!引っ張んなったって、高須く〜ん!危うく君、ドアに挟まれちまうトコだったって!挟まれたら痛えよ?危険が危ないってばよ!」
そう言って彼女は、俺のすぐアゴの下で、ピンク色の唇を震わす。そんな無邪気な表情に、邪気溢れる俺の心臓が締め付けられる。そして堪らず目を逸らした。
「そ、そうだな?助けてくれたのに文句言っちまって、すまねえ。でもまあ、お互い元気そうで何よりだよな?」
大急ぎで取り繕った、アルカイクスマイルは、目の前の彼女以外には、狂気の表情にしか見えなかったようだ。周囲の乗客達が、ザザッと後ずさりする中、彼女は安心したように鼻息をひとつ。
「そ☆だ☆ね!私もおかげさまで、ここんとこ忙しくて、みんなとマトモに連絡とってないから、丁度今、元気でやってっかな〜って考えてたトコなのだよ!っそーだ!ユアワイフ、大河はどうだい?仲良くしてるかね?」
彼女はそう訊いてきた。俺は自分の女房の名前を聴いた瞬間、眉を顰めてしまった。周囲の乗客は、さらに距離をとる。
「た、大河は。まあ、普通だ」
自分の唇に手を当て、そう呟くように動かした。ふと気付けば、アゴの下にある彼女の細い眉が、八の字に変わっていた。
「ヘーイ高須くん。キミは相変わらずウソが下手ですのう。思い切り顔に出ちまってるよ。ねえ。大河となんかあったの?」
本気の心配顔。それは俺のためか、女房のためか。
「あ、いや。今朝、ちょっとな。喧嘩したんだ。まあ、今朝だけの話じゃねえんだが」
そうだった。高校卒業して直ぐに結婚して、大学を出た後にガキが出来た。そして数年経ち、恋人から妻になった大河とは、まだ幼いガキの進路のことで、言い争いになった。教育ママというのは、遺伝するのか。
「へえ、そう。でもさっ!喧嘩するほど仲がイイって言うしね?長年付き添ってれば、そんなこともあらぁな!そだ!偶然にも再会したんだし、私、高須くんちに一緒に行くよ!明日休みでしょ?大河とも会いたいし!」
大きく手を広げ、彼女は願ってもない提案をしてくれた。変わらぬオーバーリアクションは、周囲の乗客が引いてくれていたおかげで、思う存分繰り広げられていた。そして俺は、心と裏腹、目を閉じ、首を横に振る。
「いや。俺も久しぶりに櫛枝との再会を祝って酒でも酌み交わしてえんだが、この時間ガキが寝てっからムリだ。大河に叱られちまう」
再び目を開けると、少し寂し気に揺れる、彼女のどんぐり眼が飛び込んできた。
「そっか〜、残念!でもそうだよね。私、結婚してないから、そういうの気が回らなくて。ゴメンなさい」
そう言って彼女は、瞬時に表情を明るく替えた。それを見て俺は、終電に乗る時に彼女を見つけ、ヤバいと感じた展開通りの妄想を口にしてしまう。
「いや、いいんだ。俺こそ、折角櫛枝の提案を断っちまって。すまねえ。そんなワケでウチはマズイんだ。だからさ」
一瞬悩んで口が止まる。だが、
「ん?なあに高須くん」
もう口が止まらない。その時は彼女、櫛枝実乃梨の手を俺、高須竜児は握っていた。
「次の駅で降りて、二人きりで呑まねえか?」
そこは大橋駅よりかなり手間の都内の駅。駅が近づき、電車が速度を緩める。居酒屋のネオンが車窓を流れる。そして、ラブホテルの看板が、目に映り込む。
以上妄想です。すいませんでした。
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