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エンドレスあーみん 2009/11/09(月) 00:12:56 ID:wT4AjmDA ◆YK6vcTw7wM





何かおかしい。
はじまりは、一本の電話からだった。
その時、あたしは自分の布団の中で、寝てるんだか、起きてるんだか…
よくわからないんだけど、何か、心地良い。そんなオフを一人寂しく満喫していた。
Tellll………
「………」
『亜美か?俺だ。俺だよ。』
「……なに?ゆーさく?」
『おお。久しぶりだと言うのに良く解ったな。
以前、電話を掛けた時は全く忘れ去られていたのに。
いやはや、亜美も成長したもんだ。偉いぞ。』
「はぁ?あんたなにいって…」
『もう、こっちへ来てるんだろう?
だから、転校してくる前に―――
この時のあたしは、あんまり眠かったもんだから、祐作の、訳の解らない話を最後まで聞かなかった。
だって、ホントに意味が解らなかったし…久しぶりとか言ってなかった?昨日、学校で会ったばっかじゃん?転校?はぁ?
何言ってるの?あたしに転校して欲しいってか?ふざけんな。何で祐作にそんな事言われ…
なーんて事を思った様な、思わなかった様な、とにかく、そんな感じの夢を見た。
筈だった。夢の筈だった。


その日、目が覚めたのは結局、昼過ぎで二度寝、三度寝上等の体たらく。いくらオフだからって、我ながらど〜かなと思う。
全然、動いて無いのにしっかりお腹だけは空いてて、それを理不尽だと感じながらも仕方ないから、
ストレートティーと魚肉ソーセージを胃の中に流しこんだ。
出すモノ出して、顔でも洗うかと、洗面台に立った辺りで、ようやく意識がはっきりしてきた。
意識がはっきりしても、寝過ぎた後の身体は信じられない位怠いので、もうしばらくは、居間でダラダラテレビでも観るのが正しいオフの過ごし方。
―なんだけど、ふと、さっきの夢の事が頭によぎった。夢にしては、断片的にくっきり残っている現実感…
何の新鮮味もない祐作の声、いつか聞いた様な内容。自分でも良く解らないが、無意識的に枕元置いてある携帯に手を伸ばし…

次の瞬間、あたしの背筋は体感で摂氏−178℃にまで冷えていた。



あるんだけどないもの
あるべきものがなくて、ないはずのものがある
このトンチか、禅問答みたいなモノの解答は、あたしの場合、「着信履歴」だった。
あたしが寝ていた筈の時間に残る「北村祐作」以下、昨日以降には、ずらりと仕事関係者。
あたしの記憶が確かなら、着信履歴トップは「香椎奈々子」の筈…
しかし、「香椎奈々子」なんて人からの電話もメールも無くて、アドレス帳に、さえ「香椎奈々子」は存在しなかった。
「木原麻耶」も 「櫛枝実乃梨」も「ちびとら」も、それから「高須竜児」も…
「北村祐作」を残して、あたしの大切なアドレスは皆、消えてしまっていた。
あたしは怖くなった。怖くて怖くて怖かった。
携帯のディスプレイに表示された今日の日付。その、表示された、狂った日付が自身の機能の正常さを語る。
真冬にしては、妙に薄いあたしの布団。あたしの部屋着。そして、思ったより、寒くない。
まるで、春か春と夏の間みたいだねぇ〜なんて、呑気な事を考えていた。

1.願い

あああああああああ〜〜〜〜〜〜
今、あたしの真っ白な頭の中では「あ」が数十行位に渡って、書き連ねられている。
うそ〜?マジで?うそ〜?みたいな、そんな感じ。
あたしの頭が残念な感じにお釈迦になったのでは無いなら、これは…
『全部チャラにしなよ。それで一から始めたらいいじゃん。あたしのことも、一から入れてよ。』
聞き入れられたのだろうか…叶えられたのだろうか…
あたしが、超絶に可愛いから。そして、あんまり可哀想だから。それで、神様が、あたしに同情して…贔屓してくれたんだろうか
もの凄く、楽観的で自己中心的な考えだけど、難しい事わかんないし、何より、自分の正気を疑いたくない。
実は、ホントのあたしは交通事故にあっていて、ベッドの上でこんな夢を見ている。とか、
実は、度重なるストレスに心が壊れちゃった。とか、あまつさえ、ヤバイ薬で幻覚を見ている。とか、
そんな可能性は考えたくない。だって、それじゃ、あたしがいくらなんでも、可哀想過ぎるもん。
なら、やっぱりコレは現実なんだ。あたしは、過去に居る。

でも、記憶の引き継ぎってオマケは良いとして…こんなのまで…オマケしなくて良いのに…
今朝から微妙に重いあたしの身体。どうやら、寝過ぎだけが原因ではないみたい。
どうすんの?コレ………かつてのメタボリックなお腹。あたしの記憶が確かなら、早いうちに165cm45kgを取り戻さないと、結構、イヤな事になったハズだ。
ちくしょう。あたしが、どれだけ苦労して、コレを落としたと思ってんだ…
そして、さらに贅沢を言えば、もっと過去に飛ばして欲しかった。日付から考えて、もう「人間関係」出来あがってるんですけど…
このまま転校したって、相変わらず「異分子」なんですけど…記憶があるのはそういう事?
―状況は変わらないから、持ってる記憶で何とかしろ―
何だか、中途半端に願いが叶えられてしまった。あんまり、手放しで喜んでられないって事ね…
とりあえず、明日は祐作と祐作のおじさま、おばさまと会うんだっけ?
うわ…出だしじゃん。一番、大事な日じゃん…今日は夜更かししないで寝よう…
お風呂で念入りに綺麗にして、エクササイズしたら、即、寝よう。
これで、明日、目が覚めて、冬だったりしたら、笑うけど。

―翌日、風邪をひく事も無く、無事に朝を迎えたあたしは、指定の待ち合わせ場所で、非常にソワソワしながら、祐作を待っていた。
「お久しぶりです。おじさま。おばさま。」
「おかげさまで。母も元気でやっています。」
「あ、昨日もドラマに出演てましたね。」
「はい。自慢の母です。」
あたしの挨拶を、何か嫌なモノでも見るかの様な目でチラ見する祐作。
おにょれ。あたしだって、やりたくてやってるんじゃねぇやい。
あたしは、早くファミレスに行きたい。だから、あたしは、川嶋亜美は、機械の如く、忠実に過去を再現する必要があるのだ。
ここで、変なアドリブ入れて、ファミレスに行かないパターンに派生でもされたら目もあてらんない。
だから、今、この時は、女優になります。演じます。

そんな感じで、気分的には早送りでファミレスまで来た。
そして、この時、この瞬間こそが…リスタート。あたしの第二の人生の始まりなのね〜〜

2.初見殺し

「彼女、川嶋亜美。こう見えても俺とタメで、昔この辺りに住んでたんだ。
彼女が引っ越すまではお隣さんだったんだよ。いわゆる幼馴染って奴なんだ。」
「初めまして!夕月玲子の娘です。…なんてね。違うか。
初めまして!亜美です、よろしくね!」
あたしのボケに高須君、タイガーはもとより、祐作までもが、キョトンとしている。
でしょうね。この時期のあたしだったら、親の事を自分から言い出したり出来なかったろうからね。
でも、この2人は、あたしが川嶋安奈の娘だとか、そんな事、関係なしに接してくれるからね。別に良いの。
ふふん。参ったか、祐作め。さっきのお返しだ。
硬直する高須君に、あたしは、スッと…両手を差し出す。
「ね、握手。祐作の友達なら、あたしにとっても友達だよね。」
――手が溶けてしまいそう。手の平から、とろとろと。
高須君の手の感触を充分、堪能した後、あたしはタイガーの手にある雑誌をひょいと掠める。
「もしかして、これって…あ、ああ、あたしが載ってるやつだね。」
そうして、高須君の眼をじっと見つつ…
「高須君…だったよね?どう?もし、雑誌を見て、可愛いって思ってくれたなら…
あたしはモデルのお仕事をしていて、ホントに良かったと思います。」
うわ…やべ。やりすぎた。タイガーも祐作も当の高須君も、あっけにとられて…こころなしか、ちょっと引いてる。
「あ、あはははは。
な、なんてね。あっ、いっけない。
祐作。おじさまたち待ってるよ。席戻んなきゃ。」
「あ、ああ。悪いな。高須と逢坂はまだここにいるだろ?後でまた話そう。」
「お、おう。」
「また後でね!」
あたしは、2人に手を振って、逃げる様に踵を返した。
出来る事なら、食事中の、祐作の「どうしたんだ?お前」と言わんばかりの視線からも逃げたかった。
嫌な汗が止まらない。パスタの味が判らない。

「よう。うちの親、帰っていったわ」
相変わらずユニクロ丸出しの祐作に伴って、あたしは高須君とタイガーの席へ移動した。
「お待たせ。」
何か、前回よりも、周りの注目を集めてる気がする。なんたって、今日は本気でおめかしして来てるからね。
今日のあたしは最強に可愛い。自分で言うのもなんだけど、絶対にタイガーよりも可愛い。
「……ご機嫌だねぇ……犬が尻尾振ってるみたいだねぇ……」
タイガーの冷たい言葉が突きささる。
くぅ…この娘ってこの頃はこんなムカつく娘だっけ?最近は、すっかり丸くなっていただけに、油断した。
あたしはこんなのと張り合う気でいたんだ…あの頃のあたしは何を考えていたのだろう?
丸くなったのはあたしも同じなのかな?あたしも他の人からはこんな感じに見えてたの?な〜んて事を考えていたせいで
「あたしは高須君の横に座るから、祐作は逢坂さんの隣に座りなよ」と言いそびれ、ごく自然に同性同士でソファに座る事になってしまった。
「亜美、時間はまだ平気だよな?なにか頼む?」
この、アホ作がッ!!さっきパスタ食ったばっかだろうが。
「ううん。さっきお腹いっぱい食べたから、いらない。……お2人は?」
あたしに話題を振られた高須君は、ビクリと跳ねた。タイガーは俯き気味にぷるぷる震えてる。
「え、ええと。俺たちは……どうだろう?どうだ大河。」
タイガーは俯いたまま、ふりふりと首を振った。話題終了。そろそろかな?
「あーあ、家族サービスして疲れたな。悪い、ちょっとトイレ」
あたしの記憶通りに祐作が席を立ち、
「あ、なんか俺も便所……ええと便所はどっちだっけ……」
間を置いて、高須君も席を立った。
さて、あたしとタイガーの一騎打ちはこれが最初だっけね…確か。はぁ…
ここは「あの頃」の亜美ちゃんに頑張って貰おう。ホント「あの頃」のあたしは強かったんだなぁ〜

「ねぇ。あの人、あんたの彼氏?」
「……」
「亜美ちゃん、奪っちゃっていーい?」
「……」
「言っとくけど、冗談じゃないからね。マジよ。」
「……」
「黙ってるって事は、良いって事なのかな?」
「……彼氏じゃ、ないから」
「ふぅん。」
「……初対面の男に発情?ホント、犬みたいな奴。バカじゃないの?勝手にすれば?」
「ああ。そういえば彼、どことなく犬っぽいね。従順そうじゃん?」
「従順ね…アンタ、オモチャが欲しいなら、他あたれば?
それだけのツラだもん。従順なオモチャなんて、よりどりみどりでしょ?」
「ツラしか見えない様な、つまんない奴なんてお断り。」
「ふん。アンタに何が解る。あんな奴の何が良いんだ。」
「これから、知るのよ。良いこと教えようか?……明日からあたしは…う〜ん、やっぱヤメ。」
「……もったいぶんな。言え。」
「〜♪」
「ふん。思わせぶりな事言って、ホントは何も無いんだろう。」
「ヒ・ミ・ツ♪」
「………ムカつくわね……この場で、八つ裂きにしてやろうか?」
「〜♪」
あたしの安い挑発にタイガー爆発寸前。このままじゃ…マジヤバイ気がする。
だって、ホントはこの場面で一発ぶたれてるし……
こんな修羅場でも、余裕たっぷり人を見下した感を全開に出せるあたしは、絶対、将来は母を超える大女優になれるに違いない。
…って。祐作と高須君はまだなの?確か、もうそろそろ、水入りに来る筈でしょ!?まさか…殴られなきゃダメなの?
「あーあーあーあー何してんだ。何で仲良く出来ないんだよお前は。」
もうダメだ。あたしは覚悟を決め、歯を食いしばった瞬間、危機一発。
「まったく。どうせ、お前が、逢坂に何か失礼をしたんだろ!?」
「ゆぅさくぅぅぅ〜〜〜っ!」
おせぇんだよ。しかもタイガー贔屓かよ!?と、言いたいトコをグッと堪え、
「あたし、もう帰りたい。」
と、言っておく。別に、帰りたくないけど、このまま居ても仕方ないし。

「悪かったな、逢坂。高須も。俺、こいつ連れて帰るわ」
祐作は全身で申し訳無さを表現し、あたしを引きずって、店の外へ連れ出した。


「はぁ…遅ぇんだよ。助けに入るのが。
あの子のバカ力で殴られて…顔、腫れでもしたら、どうしてくれんのよ!?あぁん!?」
過去へ来て以来、あたしは初めて毒づいた。
「……お前な。どうせお前が悪いんだから、良いんじゃないのか?それで。」
「今回は、あたしは悪くないわよ。良いトコ、両成敗でしょ?」
「……今回は?どういう意味だ?」
しまったぁ〜〜勢いで、つい失言しちゃった…
「いや、あはは。え〜と」
「それに、何で逢坂がバカ力だって知ってるんだ?」
「え〜〜と…なぜでしょう?
何でかなぁ〜あたしぃ天然だから、わかんないなぁ〜てへ☆」
「………」
「イヤン。祐作のえっち♪顔ちか〜い☆きもーい★」
「………」
「イタイ!!イタタタタタ。千切れる千切れるって!!
マジ。やめ…やめて。亜美ちゃん、琵琶法師になる…なっちゃう。
わかった。わかったから。言う。言うから。ちゃんと話すから。話すから離して。」
解放された耳は、信じられない位の熱を持って今にも溶け落ちそうだった。


「冷やしとけ」
とか言って、祐作が缶ジュースを投げつけてきた。
「こんな高カロリーなもん飲めねぇよ。
どうせなら無糖ストレートティーでも奢ってくれりゃあ良いのに…
まったく気が利かないんだから。少しは、高須君を見習えば?」
長い話になるから…と、近くの公園にゆっくり腰を落とし、包み隠さずに全てを打ち明けた。
あたしが未来から来た事。高須君が好きな事。そして、今度こそ高須君の心を射止めるつもりでいる事。
「どう?話を聞いた感想は。当局に通報する?それとも入院?まぁ、尿検査位は受けるわよ。」
「にわか…には信じられん。」
「そりゃそうよね。」
「しかし、作り話にしては、出来過ぎている。」
「そう?あたしだったら絶対信じないけど。祐作ってバカ?」
「…お前。殴るぞ?」
「ィッタァ〜イ。さっきからなんなの!?その暴力癖は会長さんの影響?すっごい迷惑なんだけど……」
「!?」
「ふん。狩野すみれ、だっけ?冗談じゃねぇっつ〜の」
「……わかった。信じる。お前の言う事を全面的に信じよう。」

「はぁ?別に信じて貰わなくても結構なんですけどぉ〜」
「いや、困るだろ?色々。協力者が必要なんじゃないか?」
「別になんも困ってないんですけど…てかむしろ今、あんたに絡まれて困ってる。」
「いや、今は良くても、この先、困る事がある筈だ。
何故なら、それがこの手の話のお約束だからだ。」
「はぁ〜?」
「亜美。この話は誰にも言うな。言っちゃダメだ。これは、俺とお前だけの秘密に…」
うわ…何でいきなりテンション上がってんだよ?マジうぜぇ。祐作うぜぇ。
「キモイ。シネ。近い。
言われなくても、誰にも話したりしないわよ。
てか、転校先で「未来から来ました♪」なんて言えねぇし
いくら、亜美ちゃんでも、絶対イジメられるわ。」
「それが良いだろう。」
「てか、何でそんなに楽しそうなの?あんた。」
「いやいやいや。決して、楽しんでなどないぞ。
うむ。幼なじみとして、亜美を応援する所存だ。」
「なぁ〜にいってんだか。いつもタイガー贔屓な癖に。」
「それは、お前の世界の俺だろう。俺は亜美の味方をするぞ。
幼なじみだしな。お前の方が付き合いが長い。」
ホントかよ…
「いや、祐作に応援されて、事態が好転するとは思えないし…
出来れば、ご遠慮させて…」
「遠慮するなんて水くさいじゃないか。俺とお前の仲だろう?ハッハッハ。まぁ、任せておけ。
うむ。じゃあ、今日のところは、家に帰るとするかな。」
ハッハッハ。いやぁ、面白い事を聞いてしまったなぁ〜そうか、そうか
―などと大声で呟きながら、祐作は夕日へと消えて行った。
祐作に打ち明けたのは、どう考えても失敗の様な気がする…
まぁ、良いか。何か不都合があったら全て祐作のせいにしてしまおう。
祐作でもスケープゴート位の役には立つだろう。
あたしは、炭酸片手に沈みゆく夕日を眺めながら、いざとなったら祐作を切り捨てようと、深く心に誓った。

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